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「エクソダス、しようぜ!」(後編) - (2021/12/12 (日) 23:59:53) のソース
*「エクソダス、しようぜ!」(後編) ◆LXe12sNRSs ◇ ◇ ◇ ゲインが地図を眺めていて気づいたのは、マップの端ばかりに禁止エリアが指定されているということ。 これは前述のとおり、参加者を中央に燻り出して闘争させる狙いが一つと、マップの外周エリアが『亜空間破壊装置によって破壊された空間』であることを悟られぬため、だと思っていた。 だが、その考え自体が間違っていたとしたら。 端ばかりを禁止エリアに指定する理由――それが、『端に何かある』と思わせるための『陽動』だったとしたら。 ゲインは、まんまとギガゾンビの策に嵌ってしまっていたのだ。 (必要なのは、柔軟な発想だった。禁止エリア云々について考えるより先に、この地図本来が持っている不可解さに気づくべきだったんだ) その不可解さとは、『施設の名称』である。 地図に記述された文字列を挙げるだけでも、高校、映画館、図書館、病院、レジャービル、ホテル、駅×2、温泉、山頂、寺、モール、遊園地、防波堤の14箇所。 これらの施設は皆特徴的ではあるが、何故わざわざ名前つきで地図に載っているのか。 (それは、これらの施設が皆重要な役割を秘めているからさ――『亜空間破壊装置の隠し場所』っていうな!) それは、まったくのひらめきが成せる発想だった。 現段階では根拠も何もない。小さな可能性だけを信じて確かめに向かったのだ。 『装置』というものは、当然機動するだけではなく、『維持』することが必要となってくる。 此度の亜空間破壊――ただ空間を破壊するだけなら、別に『装置』でなくても、『爆弾』か何かで事足りる。 しかし、ギガゾンビが用いたのは『装置』だという。 爆弾ではなく装置にこだわった理由……それは技術的な問題なのかもしれないが、最大のメリットは装置であるが故、いつでも解除、再起動ができるということだ。 優勝者には願いを叶えてやる――元の世界に帰れるという名目もある以上、この会場を永遠に隔離しておくわけにはいかない。 ただでさえ世界から隔離された空間だ。それだけでいつかはタイムパトロールに違和感を感じ取られ、足がついてしまう恐れがある。 だからギガゾンビは、『亜空間破壊爆弾』などではなく、いつでも解除が可能な『亜空間破壊装置』を造ったのだ。 (下手にオーバーマンに当てはめて考えちまったが、それが失敗だった。 亜空間破壊装置はあくまでも『装置』であり、常時パイロットが必要なオーバーマンとは違う。 一度機動させちまえばそれっきり。あとは維持するだけで、パイロットはお役御免だ) つまり、ギガゾンビが常に亜空間破壊装置を操作している必要性はなくなるのだ。 ギガゾンビはゲーム観戦のために外にいる=亜空間破壊装置も会場の外にある、と考えてしまったのが運のツキ。 こういった空間隔離のために機械を動かすのなら、そのコントロールは内部からやった方が確実である。 亜空間破壊装置の所在と維持は、全て会場内にて! 全てが推測の域であり、願望でもあった。 しかし時として、推測は希望を掴み、願う者に光明を授けることがある。 そう、今のゲイン・ビジョウのように。 「これがギガゾンビの言っていた、『亜空間破壊装置』か」 『あぁ! お客さん、なんで亜空間破壊のことに気づいたギガか~!?』 ゲイン・ビジョウがショッピングモールの大型倉庫で見つけた、大掛かりな機械。 それこそが商品と呼ぶにはあまりにも不適切な品で、異質と分かりきった代物……この会場を世界から隔離している大元、『亜空間破壊装置』だった。 『これがここにあることは、ギガゾンビ様曰く、絶対分かりっこないって……あんた天才ギガか!?』 「天才か……そんなことはないさ。俺はただ、『エクソダス』という一点にのみ焦点を絞って行動したまでだ」 謙遜などではない。 実際、ゲインは脱出ルートに関しては足がかりを掴んだものの、首輪解除の方に関してはまったくの放任主義でいくことを決めている。 脱出ルートと首輪、双方をどうにかしてこそ真の天才と言えるのだ。 ゲインはただ、エクソダスのエキスパートして活動したに過ぎない。 「さて、どうしてここが隠し場所であることに気づいたか、だったな。気になるなら種明かしをしてやろう」 ゲインは握り締めていた地図をモールダマに示し、説明を開始する。 「このマップ、どうにも端のエリアばかりが禁止エリアに指定されている。それは何故か? 普通なら、どんどん封鎖されていくマップ端に何かあるものだと思うだろう。実際俺もそうだった。 だがそれはブラフ。マップ端ばかりを禁止エリアにする『真の狙い』は、俺たち参加者の注意をマップ端に向けるための陽動だったのさ」 『だ、だからって、このショッピングモールに亜空間破壊装置があるとは限らないギガ~。なのにどうしてここが分かったんだギガ?』 「そのとおりだ。だが俺は、この地図が持つある特徴に気がついたのさ。 その特徴とは、病院やホテルなんかの重要施設の場所は、名前付きで明記されているってところだ。 そしてそれらの重要施設があるエリアは、これまで一度も禁止エリアに指定されていない。 病院やホテルなんかの建物は、弱者が立て篭もるには格好の逃げ場なのにだ。果たしてこれは偶然か?」 マップ端の禁止エリアが陽動であるというのなら、逆に『意図的に禁止エリア』から外されている地図明記施設に何かあると睨んだのだ。 結果として、亜空間破壊装置はモール内に隠されていた。 もちろん、今回のゲインのように、参加者に亜空間破壊装置が発見されてしまうというケースも十分にある。 それを防ぐためには重要施設を禁止エリア指定してしまうのが手っ取り早いが、ギガゾンビはそれを実行しない。 奴の作戦としては、あくまでもマップ端を中心に封鎖していって参加者の目を背き、施設に脱出の鍵があると思わせないようにするつもりなのだろう。 ギガゾンビなる男……小者の臭いがするかと思ったが、なかなかどうして、策略家である。 もし亜空間破壊装置の隠し場所が禁止エリアに指定されてしまったとしても、最悪首輪を解除してしまえばそこへの侵入も可能になる。 逆に、無事亜空間破壊装置を破壊できたとしても、首輪がついたままでは脱出することはできない。 エクソダスと首輪の解除。両立してこその完全勝利だった。 「亜空間破壊装置は、『地図に明記された施設』のどこかにある。 確率としては1パーセントくらいの小さな希望だったが……ビンゴだったようだな」 もちろん、この行動が危険極まりないものであることは確かだ。 ギガゾンビによる監視がほぼ間違いない現状、不用意に舞台の裏側まで足を踏み入れることは、主催側の警戒心を強めることに繋がる。 亜空間破壊装置の機密を知れば、首輪の遠隔爆破も覚悟しなくてはならないだろう。 (俺は、ミサエからエクソダスの依頼を受けた。そんな俺が、不用意に命を投げ出すことは出来ない。 だがな、それは単なる『逃げ』だ。『首輪を爆破される恐れがある』、『ギガゾンビが監視している可能性があるから』。 そんな確証のない不安に手を拱いていて、現状を打破できるのか? ――答えは、否だ。 ミサエは自らの命を投げ出してまで、俺に全てを託したんだ。ただでさえ死者は半数を切ろうとしている。 迷ったり考えたりしている時間はもうない。多少の危険を冒してでも、踏み込まなくちゃいけない。 逆に言えば、そんな馬鹿が許されるのは――死に掛けの俺だけだ) 前述で述べたとおり、これは大きな賭けである。 賭けとは、それ相応のチップを積まなければ大勝できない。 ここまで踏み入ったのはゲインの請負人としての誇りであり、焦りであり、覚悟だった。 そして肝心の結果だが――現状でも生き永らえているゲインは、立派な勝利者と言えた。 前半戦を乗り切ったことを確信したゲインは、ウィンチェスターM1897の銃口を装置に向ける。 これさえ破壊すれば、会場となっているこの空間――厳密に言えば、『会場を覆っている周囲の空間』の破壊が修復、元通りとなり、この世界は元の鞘に収まる。 そうなれば、タイムパトロールやらなにやらが異変に気づき、救援に駆けつけくれるはずだ。 『そんなことは……させないギガ~……』 引き金を引こうとしたゲインの背後から、幽霊のようなおどろおどろしい声が聞こえてきた。 ここジィハチショッピングモールの店主にして番人、ギガゾンビが使役する土偶型ロボット、モールダマである。 『それを破壊されたら、タイムパトロールに感づかれてしまうギガ~。会場内のツチダマはそれを防ぐための番人……気づかれた以上、生かして帰すことはできないギガ――!?』 戦闘体勢を取り、ゲインに襲い掛かろうとするモールダマ――が、それを見越していたゲインは、先制してモールダマの鼻先に銃口を突きつけた。 『ギガ!?』 「番人、つまりお前らみたいな人形は、ギガゾンビが亜空間破壊装置を守らせるために配置した、ガードロボットってことか」 ギラついた眼光は、正に極寒の地を生きる銀狼のそれだった。 人と人が殺し合うことなど馬鹿げている。だが人が土偶を破壊することに、なんの罪意識があるだろうか。 きっと、ゲインは躊躇なく引き金を引く。それを本能的に悟ったモールダマは恐怖に駆られ、戦意を失っていた。 「機械にも破壊される恐れというのはあるか。だがな、この殺し合いではお前以上に怯え、死んでいった参加者が大勢いる。 少しはピープルの痛みというものを学習してみたらどうだ。指導は俺がしてやろう」 殺し合いを強制しそれを観察して楽しむギガゾンビは、食料や資源の配給を牛耳り実質的にドームポリスを支配している、シベ鉄以上に許せぬ輩だ。 凶弾に倒れ死後を友人に弔われたウミ・リューザキ。褐色肌の女剣士に切り捨てられたアサヒナ・ミクル。そして、請負人に息子を託して逝ってしまったミサエ……。 犠牲者は多すぎるほどに出た。制裁が必要だった。仇討ちが必要だった。逆襲が必要だった。 情けはいらない。ゲインの怒りはとっくのとうに沸点を越えていたのだから。 『わぁ~! 待って、待って欲しいギガ~まだ死にたくないギガ~!』 「機械が命乞いとはな。だがまぁ……慈悲をやらないこともない。俺のする質問に正直に答えたら、この場は見逃してやろう」 『ほ、本当ギガ!? ありがたいギガ~なんでも答えるギガ~』 モールダマは感情味溢れる態度で生き永らえたことを喜び、あっさりと要求に応じた。 それがギガゾンビへの背信行為となることを理解しているのかいないのか、どちらにせよ都合がいいので言及はしない。 「まず一つ。このゲームは、ギガゾンビによって監視がされているはずだ。その方法とやらを教えてもらおうか」 『それはこれを使ってたギガ~』 モールダマが回答として示したのは、宙を浮かぶ謎の目玉と耳。 切り取られた人体パーツに嫌悪感を表したゲインだったが、この目玉と耳は、どうやら機械でできた作り物らしい。 「これが監視道具か?」 『名前は「スパイセット」というギガ~。目玉が捉えた映像と、耳が傍受した音声を、ギガゾンビ様がいるところにあるモニターまで送信する道具ギガ~』 「なるほど。これが会場内のいたるところに設置されているってわけか。なら、今俺がこうやってお前を尋問にかけていることも、ギガゾンビにはバレバレってわけか?」 ゲインは銃柄を握る力を強め、モールダマの鼻先に銃口を捻じ込ませた。 増幅する恐怖に『ヒィ!』っと声を漏らすモールダマは、さらに情報を暴露する。 『あ、亜空間破壊装置のある周辺は、担当のツチダマたちが直接送信を行っているギガ~。 だから今のこの状況は、こちら側から送信しない限りギガゾンビ様に知れ渡ることはないギガ~~~!』 泣きそうな声で、モールダマはそう白状した。 ゲインがエクソダスに対してどこまで踏み込んだか、それがギガゾンビの耳に届くか否かは、全てモールダマの采配しだいということになる。 少なくとも銃を突きつけられ恐怖に身を竦ませている現状では、モールダマも監視映像を送信しようとはしないだろう。 (この映像がギガゾンビに送られれば、『亜空間破壊装置の秘密を知った者』として俺は消されるだろうな……。 ま、その問題に関しては後々手を打てばいい。今は、搾り出せるだけの情報を搾り出すとするか) ゲインは、自分が命の瀬戸際に立たされていることを自覚してなお、モールダマへの尋問をやめない。 「次の質問だ。亜空間破壊装置の隠し場所だが……お前の先ほどの口ぶりから窺うに、『ここだけじゃない』な? 会場内の他の施設、おそらくは地図に名前つきで明記された場所で、そして尚且つお前のような『番人のいる場所』に、他の亜空間破壊装置があるはずだ」 『ギ、ギガ!?』 「世界から空間を切り離すような力だ。こんな倉庫に収まるような小さな装置一つで賄えるとは思えない。 『複数個で維持している』と考えるのが当たり前だろう。その隠し場所、全て吐いてもらおうか」 強大な力を維持するには、それに見合うだけのコストが必要になってくる。 会場内に設置された亜空間破壊装置は、それを数で補っているのだろう。 複数個の装置を同時稼働させることで現状を維持し、その全てを破壊しなければ現状が崩れることもない。 万が一、あの忌まわしいホテル倒壊のような事態が起これば、施設内の装置が偶発的に破壊されることもある。 なので一つが事故で破壊されても現状維持が間に合うように、複数個による維持は、保険としての役割も秘めているのだろう。 『あ、亜空間破壊装置は全部で6つあるギガ~。 その隠し場所は、お客さんの言うとおり『ツチダマが番人として守っている施設』ギガ~。 具体的に言うと、『図書館』と『遊園地』、『寺』と『温泉』、『モール』と『電車』の中ギガ~。 でも図書館は全焼してしまったし、遊園地は劉鳳っていう奴に破壊された時に、亜空間破壊装置も巻き込まれてしまったギガ~』 「つまり、今動いている亜空間破壊装置はこのモール内のも含めてあと四つってわけか。 それらを全て破壊すれば、この会場は世界から隔離された状態から回復し、外部との連絡も可能になる」 図書館と遊園地の装置が既に機能を失っていると言うのであれば、残りは『寺』、『温泉』、『モール』、『電車』に隠された四つのみ。 光明は今、確かなカタチとしてゲインの進む道を差し照らし始めた。 「それじゃあ最後の質問だ。この『首輪』について、お前が知っている情報を洗い浚い吐いてもらおうか」 監視と盗聴、そして肝心要の亜空間破壊装置の隠し場所は分かった。 あとはオマケとして、首輪をどうにかできる参加者と会った時のために、出来る限りの情報を押さえておく。 『く、首輪には全部での五つの機能が搭載されてるギガ~。 それは、「爆弾」、「収音と送信」、「禁止エリアの電波受信」、「遠隔爆破の電波受信」、そして「戦闘データの計測及び送信」ギガ~』 「ちょっと待て、『収音機能』だと? お前はさっき、盗聴はスパイセットの耳とやらで行われていると言ったばかりだろう。まさか嘘をついたのか?」 グリッと突きつける銃口が、モールダマの恐怖を駆り立て、自白を促進させる。 『う、嘘じゃないギガ~! 実を言うと、盗聴だけは「スパイセットと首輪」の二段構えになっているギガ~』 「二段構え? なんでそんな必要がある」 『スパイセットと言えど、会場の全域をカバーできているわけじゃないギガ~。 トイレとかの狭い個室空間までは監視の目が行き届かないし、小さな声なんかは拾えないギガ~。 だから、参加者たちの秘密の内緒話なんかも押さえられるよう、スパイセットとは別に首輪にも盗聴器を仕掛けたんだギガ~』 盗聴は、スパイセットと首輪の二段構え。 だがメインはあくまでもスパイセットの方であり、首輪はスパイセットでカバーできないような、閉所での小声なども拾えるための処置といったところだろうか。 「なるほどな。ようは、スパイセットは『ギガゾンビが殺し合いを楽しむためのモニター用』で、 首輪の盗聴器は、『参加者が陰で悪さをしないか見張る、本当の意味での監視道具』だったってわけか」 首輪に付いてる盗聴器は、サブ的な意味しか持たない。 大作映画を鑑賞するなら、大きなモニターで、高音質なスピーカーで楽しみたい。 でもゲームを成り立たせるなら細部に渡るところまで監視が必要なわけで……ギガゾンビはそんな心情から、盗聴に二段構えの策を施したのだろう。 「盗聴については大体分かったが、『戦闘データの計測』ってのはなんだ?」 『首輪には装着者の体温、心拍数、受ける振動や掛かる運動エネルギーなんかを元に、参加者の戦闘能力値を計測する機械が取り込まれているギガ~。 計測した戦闘データは継続的に送信して、誰が強豪参加者かを見極めているんだギガ~』 「不可解だな……ギガゾンビは俺たちが殺し合いをしているところを見て楽しみたいだけだろう。なんでそんなシチメンドーくさいことをする?」 『万が一という時のための予防策ギガ~。もし、送られてきたデータを元に強豪と判断した参加者が首輪を解除して、ギガゾンビ様に反抗しようとした場合、すぐにトンズラこける用の対策ギガ~』 「……マジか」 『大マジギガ~。ギガゾンビ様は過去にも、子供ばかりだったアオダヌキの一味に痛い目を見せられてるギガ~。 だから今回はヘマをしてもすぐに逃げ出せるよう、予め要注意参加者はチェックしておくことにしたんだギガ~』 思わず唖然としてしまうような理由だった。 『戦闘データの計測』、その目的が、自分の安全を阻害する恐れのある参加者を事前に知っておくためだったとは。 バトルロワイアル主催責任者ギガゾンビ……策士なのか小心者なのか、イマイチ判断に困る人物である。 ――ゲインは知るよしもないことだが、別の場所でレイジングハートが察知した『音の変化以外の何らかのデータ』というのが、これに当てはまる。 「しかし参ったな……お前の話が本当だとすれば、首輪が拾った音声はお前のに関係なく、ギガゾンビ側に送信されているということになる。 これまでの会話が全部筒抜けだとしたら、俺はギガゾンビに首輪を爆破されてオダブツだ」 『で、でもお客さんまだ生きてるギガ~』 「そう。不可解なのはそこだ。どうして首輪は爆発しない? 俺の喋ったことは、ギガゾンビにとっちゃマズイことばかりだろう? 見逃しておく理由が分からん」 亜空間破壊装置の破壊など無駄だと高を括っているのか、はたまた別の意図があるのか。 どちらにせよ、戦闘データの件から小心者な性格であると分かるギガゾンビが黙ったままでいるのはおかしい。 生き延びている現状に疑問を浮かべるゲインに、モールダマはある簡単な答えを指し示した。 『……お客さん、ひょっとしてこれまでに大規模な戦闘か何かに巻き込まれていないギガか?』 「大規模な戦闘……? 確かに一、二回は経験させてもらったが、それがなんだって言うんだ?」 『だとしたら、お客さんの首輪に仕掛けられた盗聴器は、「故障している」可能性があるギガ~』 「なにぃー!?」 思いもしなかった事態に、ゲインは声を上げて仰天してしまった。 『その首輪は、本来は高性能爆弾を搭載するだけでも容量がいっぱいいっぱいだったんだギガ~。 それをギガゾンビ様が、強引に戦闘データ計測のための機械も入れちゃったから……盗聴器は酷くデリケートでお粗末なものしか積み込めなかったんだギガ~』 「だからって、そんな簡単に壊れるもんなのか? そのお粗末な盗聴器ってのは」 『盗聴器は、「大きな音」に弱いギガ~。元々小さな音を拾うため用のものだったし、近くであんまり大きな音がすると、パンクして壊れちゃうんだギガ~』 モールダマの情報を元に、ゲインは考える。首輪の盗聴器は、本当に壊れているのだろうか……? ゲインが経験した戦闘といえば、キャスカとの二回のみ。 共にホテル内で行われたものだが、その中身は格闘戦だ。別に大砲をぶっ放したわけでもない。 盗聴器の許容範囲をオーバーするほどの轟音が、果たしてあっただろうか…… (待てよ、キャスカと戦った『場所』といえば………………そうか、『ホテルの倒壊』か!) 二度目のキャスカとの交戦時、ゲインが戦いの場となったのは、崩れゆくホテルの中だった。 戦闘後もミサエと一緒に崩壊の瞬間に立ち会っている。あの轟音なら、首輪の盗聴器を故障させるのにも十分かもしれない。 なんてことだ。ゲインの中では悲劇でしかなかったホテルでの大事件が、思わぬ恩恵を生んでいたとは。 大多数を死に至らしめたあの惨事を受け入れることはできないが、一時の感謝くらいはしてもいい気分だった。 「ご協力感謝する。このままギガゾンビに俺のことを報告しないと約束してくれるなら、お前の安全は保障しよう」 『本当ギガ? 信じていいギガ? やったギガ~!』 必要な情報だけを搾り出したゲインはモールダマに突きつけていた銃口を外し、店の方に戻ろうとするモールダマの背中を見送る。 ギガゾンビという悪に使われる哀れな機械人形……悪いのは主人だ。ツチダマ自身に罪はない。だが、 「どうもありがとう。そしてさようならだ」 ゲインは逃げていくモールダマの背中に、ウェインチェスターの銃弾を叩き込んだ。 沈黙し、動かなくなるモールダマ。彼の機能停止により、モール内での出来事をギガゾンビに送信する者はいなくなった。 保険であった首輪の盗聴器も故障した今、ゲインの行動は闇の中に消え、ギガゾンビに警戒されて首輪を遠隔爆破される心配もなくなる。 もっとも、背を向けて逃げる相手を撃たないというルールは、ゲインの掲げる信条でもあった。 そのルールを犯させるほどに、ゲインのギガゾンビへ対する怒りは滾りを見せていたのだ。 「さて、お前の野望を担う一端……壊させてもらうぜギガゾンビ」 ゲインは亜空間破壊装置へと銃を構え直し、怒りの弾丸を発射した。 ◇ ◇ ◇ 時刻は午前零時に差し掛かり、定例どおり空中にギガゾンビの映像が映し出された。 それを外から眺めるゲイン・ビジョウは、亜空間破壊装置を破壊しつくすため北へ駆ける。 今は馬鹿笑いをさせておけばいい。ゲインの反逆はもう始まっており、ギガゾンビは未だそれに気づかぬ愚かな王なのだ。 (首輪は俺にはどうにもできない。だが、エクソダスに関しては確実な方法を掴み取った。 ミサエ……あなたの御子息は必ず俺が守り通そう。エクソダス請負人、ゲイン・ビジョウの名に懸けて) 高笑いするギガゾンビ。 滑稽なお山の大将は、最後までゲインの反抗に気づかぬままか、それとも―― 「――さぁ野郎共及びご婦人の皆様方! ギガゾンビに反旗を翻すチャンスはもう間もなく訪れる! 願い、そして賛同する者は俺について来い――――エクソダス、しようぜ!」 【G-8/1日目/真夜中(放送開始)】 【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】 [状態]:疲労大、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)、ギガゾンビへの怒り [装備]:ウィンチェスターM1897(残弾数5/5)、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に [道具]:支給品一式×6(食料一食分消費)、鶴屋さんの首輪 9mmパラベラム弾(40発)、ワルサーP38の弾(24発)、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、ウィンチェスターM1897の予備弾(26発) 極細の鋼線@HELLSING、医療キット(×1)、病院の食材、マッチ一箱、ロウソク2本 ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの スパイセットの目玉と耳@ドラえもん、『亜空間破壊装置』『監視』『首輪』に関するメモ [思考・状況] 基本:ここからのエクソダス(脱出) 1:電車、寺、温泉を廻り、残り三つの亜空間破壊装置を破壊する。 2:ギガゾンビにバレるのを防ぐため、施設内のツチダマは必ず破壊する。可能ならスパイセットも没収。 3:信頼できる仲間を捜す。 4:しんのすけを見つけ出し、保護する。 5:ゲイナーとの合流。 6:首輪をどうにかできる協力者を見つける。 7:ギガゾンビを倒す。 [備考]:第三放送を聞き逃しました。 首輪の盗聴器は、ホテル倒壊の轟音によって故障しています。 モールダマから得た情報及び考察をメモに記しました。 &color(red){【モールダマ@ドラえもん 機能停止】 } &color(red){【モールの亜空間破壊装置 機能停止】 } ・監視道具『スパイセット』について 監視はひみつ道具『スパイセット』によって行われており、会場のいたるところに宙を浮かぶ目玉(映像を送信)と耳(音声を送信)が配置されています。 それらから送信された映像と音声は、会場外部にいるツチダマがモニター越しに受信→ギガゾンビに提供という流れです。 特例として、亜空間破壊装置が設置された施設の監視映像及び音声は、担当のツチダマが送信しない限りギガゾンビには伝わりません。 よって、現在モール周辺は担当であるモールダマの機能停止、スパイセットの稼働不能により、ギガゾンビの監視が行き届いていない状態です。 ・亜空間破壊装置について 会場内に計六つ設置(図書館、遊園地、寺、温泉、電車内、モール)された亜空間破壊装置は、この会場を世界から隔離するためのものです。 これら全てを破壊、機能停止させることで隔離状態は解かれ、外部との連絡が可能になります。 亜空間破壊装置のある施設は原則としてツチダマが番人を務め、それぞれ監視映像の送信、亜空間破壊装置の警備に回っています。 また、図書館に設置されていた装置はロベルタの放火、遊園地に設置されていた装置は劉鳳の破壊活動の被害を受け、既に機能を停止しています。 よって、残る装置は寺、温泉、電車内(それぞれ住職ダマ、番頭ダマ、車掌ダマが担当)の計三つです。 ・首輪について 首輪には『爆弾』、『収音と送信』、『禁止エリアの電波受信』、『遠隔爆破の電波受信』、そして『戦闘データの計測及び送信』の五つの機能があります。 音声と戦闘データ計測値は常時ギガゾンビ側へと送信されており、ツチダマが要注意参加者をチェック。必要があればギガゾンビへ報告しています。 盗聴器は性能が低く、スパイセットの補助的な役割しか持ちません。また、大きな音によって故障する恐れがあります。 *時系列順で読む Back:[[「エクソダス、しようぜ!」(前編)]] Next:[[第四回放送]] *投下順で読む Back:[[「エクソダス、しようぜ!」(前編)]] Next:[[第四回放送]] |237:[[「エクソダス、しようぜ!」(前編)]]|ゲイン・ビジョウ|244:[[のこされたもの(相棒)]]|