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自由のトビラ開いてく - (2022/01/09 (日) 08:50:14) のソース
*自由のトビラ開いてく ◆lbhhgwAtQE 『ギガ~。エフイチ行き列車の発車までもうしばらくかかるので、のんびりと待つギガ~』 イイロク駅のホームから停車していた列車に乗り込んだゲインを待っていたのは、そんなツチダマのアナウンスだった。 この地にて列車に乗るのは初めてであったが、中にツチダマがいることはモールダマからの情報により確認済み。 よって、いきなりのアナウンスにも全く驚きはしない。 『本列車は侵入禁止区域を通過する事があるギガが~本車両内に限り皆様の安全を約束するギガ~。 なお走行中の途中下車は大変危険なので止めるギガ~車内での殺し合いは一切責任負わないギガ~』 「そりゃご丁寧にどうも、っと」 ゲインは勝手に流れるアナウンスを他所に、そそくさと先頭車両に進むと運転席の扉を何のためらいもなく開く。 『ギガ~? お客さん、勝手に入られては困るギガ~』 「……なぁ、せっかく客が乗ってるんだ。発車時間を早めてくれてもいいんじゃないかい?」 『そうはいかないギガ~。列車の運行ダイヤはダイヤモンドの如く硬く守られなければいかないギガ~』 運転席のある位置にたたずむツチダマは、ゲインの方を振り返ることもせずに答えた。 「……ほう? ダイヤモンドねぇ」 『そうギガ~。ダイヤを守ることは鉄道マンとして当然の義務ギガ~。それを邪魔するって言うのなら――――』 ツチダマの鉄道トークはゲインの放った一発の銃弾によって強制終了させられた。 今、ゲインの目の前にあるのは頭部を失った哀れな土偶のみ。 「悪いが、鉄道の運行を邪魔するのはあっちの世界でもしていたことでね」 ゲインはそんなツチダマを見下ろしながら、放った分の銃弾を補充する。 すると、その時足元に二つの物体が落ちてきた。 それはゲインにも見覚えのある目玉と耳の形をした物体で……。 「なるほど。ツチダマが機能を停止するのと同時にこっちの制御も止まるってわけか」 その物体――スパイセット――を拾い上げながら、ゲインは納得したような表情をする。 「……さてと。監視役を潰したところで目的のブツでも捜すとするか」 ゲインは、そう言うと運転席を後にした。 そこに胴体だけの土偶と無数の破片を残して。 列車の内部は、極めて単純な構造となっていた。 一両目と三両目の先頭部に運転席が設置されている以外は、ボックス式の座席とつり革、それに網棚くらいしか存在せず、そこには他の乗客が乗った、乗っているという痕跡すら見当たらない。 「これじゃ装置を設置する場所なんてどこにもないよな……」 亜空間破壊装置とやらがモールで見つけたような大掛かりな機械であるのだとするならば、それが車内にあれば極めて異端な存在になるはず。 もし車内に設置してあったとすれば、列車に乗り込んだ誰もが気付くはず。 ――ならば、車内にうまく隠してあるのだろうか。 ゲインはそう考えると、座席のシートを剥がそうとしてみたり、運転席の内部を調べてみるが、やはり装置は見当たらない。 「おいおい電車の中にあるって言ってたのは嘘なのか……?」 一向に装置が見当たらないことに、モールダマの発言自体が嘘だったのではと疑い始めるゲイン。 ……だが、嘘をつく余裕があるのならば、ギガゾンビにでもスパイセットで映した映像を送信するなりのアクションがあり、とっくに自分は胴体と首がサヨナラをしてるはず。 ならば、やはりモールダマの発言は真実と捉えて支障のないものであり、電車に装置が設置されているのは確かなのだ。 「だがなぁ……車内にない以上、どこに装置が仕掛けて………………………………ん、車内? 待てよ……」 確かにモールダマは“電車”に隠されていると言った。 だが、その設置場所は車内に限定していなかった。……言っていたのは、あくまで“電車”のどこかに隠してあるということ。 ならば、車内に存在しない装置がある場所は…………。 「――ビンゴ、だな」 線路に降りたゲインは、そこにある見慣れた装置を見て思わず顔が綻ばせる。 装置の隠してある場所――それは、二両目の電車の下部、本来ならばモーターなどが設置されている部分であった。 「さてと。これで件の装置も見つかったわけだ」 そんなわけで、亜空間破壊装置を見つけたゲインは、その手に持つウィンチェスターの引き金を―――― 「――というわけにもいかないよな」 銃口を装置から逸らすと、ゲインは苦笑する。 ――確かに装置の設置場所を突き止めた以上、装置を破壊することは容易だ。 だが、つい2,3時間前にモールの装置を破壊してしまった以上、立て続けに装置を破壊してしまってはギガゾンビに怪しまれる可能性がある。 ここは、別の誰かに事故に見せかけて破壊してもらうのが最適なのだろう。 そう、これから見つけなければならない信頼できる仲間の誰かに。 幸い、装置が設置されている電車は移動する機能を持っており、たとえ駅が後に禁止エリア化されても、線路上で待ち伏せして破壊することが出来る。 今回はどこに装置があるのかを確認できただけでも御の字だろう。 ゲインは自らが書いたメモに、電車の亜空間破壊装置の位置を書き加えると、ホームへとよじ登った。 そして、ホームの掲示板に書かれた時刻表を見ると、0時30分から4時間置きに列車が運行しているのが分かる。 「……てことは次の発車は4時半か」 ……時間が来た時、運転士亡き列車はダイヤを守るのだろうか。 そんなことに興味を持ち、発車時間まで待ってみてみたい気もするゲインであったが―― 「……こんなところで時間を潰してる暇があったら、同志を探すべきだろうな、と」 時計を見やると、ゲインはホームを後にした……。 ――仲間を探す。 そうは言っても、たたでさえ参加者が少なくなっている現状、簡単に見つかるわけではない。 駅を出て、駅前の商店街を歩いていたゲインは、人の気配を探るべく細心の注意を払っていた。 「いきなりツジギリでバッサリ――なんてことになったら洒落にもならないしな……」 夜の街は、街灯も疎らでいつどこで何が飛び出てくるか分からない。 それが、仲間になりうる参加者ならば万々歳だが、殺戮を好む参加者ならば最悪の事態だ。 そのどちらの可能性も考えながら、ゲインは歩いていた。 そして、そうやって歩いていると彼は一つのこじんまりとした店の前でふと立ち止まる。 「……カフェか」 少し古いたたずまいのそれは、きっと女性とともに訪れれば、素敵なひと時が送れる事だろう。 ――当然、今のような状況ではそんな機会など得られる筈もないが。 彼はそんなことを考えつつ、そのドアを開く。 そのドアの向こうに仲間と呼べるようになりそうな参加者がいることを望みつつ。 すると、ドアに付いたベルがなる中で、彼が見たものは……。 「……おっと、これはこれは……」 店の奥、ゲインの立つ位置の丁度正面に金髪に黒衣を纏った幼き少女が立っていた。 その手には、なにやら黒光りする斧のようなものを構えたままで。 だが、相手は女性と分かったのなら話は早い。 どんな状況であれ、ゲイン・ビジョウが初めて会った女性にすることは唯一つだ。 「……やぁ、こんな夜更けにこんばんは。小さなご婦人」 ◆ フェイトの大親友である高町なのは。 その両親である士郎と桃子は、翠屋という地元でも評判の喫茶店を経営していた。 勿論フェイトも、その店になのはや学校の友人であるアリサやすずかとともに何度も訪れ、そしてその度に楽しい談笑をして時を過ごしていた。 そう、それは何者にも代えがたく、甘く、優しく、そしてもう二度と作ることの出来ない思い出…………。 ホテルから離れ南下し、イイロク駅方面に向かっていたフェイトはその甘美な思い出を思い出そうとしているかのごとく、喫茶店に吸い寄せられるように入っていた。 「なのは…………」 その彼女にとっては特別な意味を持つその名前を呼びながら、彼女は窓から零れる月明かりに照らされた店内のカウンターに触れる。 目を瞑ると浮かぶのは、自分という他とは異なる存在を優しく受け入れてくれたアリサやすずか、義母や義兄、そしてなのはの笑顔。 あの頃の自分がどれだけ幸せだったのかを改めて認識する。 そして、そのままカウンターのテーブルを撫でていると、彼女はふと何かの紙切れのようなものを触った。 「……何だろう」 その紙切れを拾ってみると、それにはどうやら伝言のようなものが書いてあるようだった。 ――朝比奈みくるは無事です。ここには戻りません 朝比奈みくる……その名前にフェイトはかすかに聞き覚えがあった。 その名前を聞いた場所。 それは、あのギガゾンビが行っている放送であり、ということはみくるという人物は既に―――― 「……………………」 メモを残した当時は“無事”だったのかもしれないが、結果としては彼女(彼?)もまた既にここにはいないということになる。 ……その人物が一体どんな風にしてここで行動を起こしてきたかどうかはフェイトの知る由ではない。 だが、彼女もまた、このバトルロワイアルという狂ったゲームに巻き込まれて死んでしまったことは確かだ。 そう、それはなのはやはやて、ヴィータ、カルラ、タチコマ、それに恨むべき敵であった桃色の髪の少女も勿論同じこと。 ならば、彼女がするべきことは唯一つしかない。 「……もう、これ以上ギガゾンビの好き勝手にはさせたくない……。あなたもそう思うでしょう?」 『Yes,sir』 黒き戦斧は、力強く答える。 そして、その戦斧は普段の寡黙さからは珍しく、間髪いれずにフェイトへ声を掛ける。 『Sir』 「どうしたの、バルディッシュ?」 『There are someone approachig here outside of this store(店の外にこちらに接近する何者かがいます)』 バルディッシュのエリアサーチによる結果の報告。 フェイトはそれを聞いて、立ち上がるとバルディッシュを入口に向けたままでそちらの方を見据える。 目を閉じて耳を澄ましてみると、確かにこちらに近づく足音が。 その足音は確実に大きくなっている。 さらに、足音は大きさがピークを迎えたところで――具体的には、喫茶店入口前でぴたりと止まる。 「……………………」 正面を見据えるフェイトの顔に一筋の汗が流れる。 一体、誰がここに入ろうとしているのだろうか。 助けを求める者か? 志を同じくする同志か? それとも殺戮を求める者なのか? しかし、どれにしてもフェイトがここで退く気は全くない。 相手が誰でどんなアクションを起こしてこようと、彼女にはそれを全力で受け止める覚悟は出来ていた。 その覚悟こそが、このゲームを止める為に必要な行動であると彼女は知ったから。 そして、ついにドアが開くと――――そこにはショットガンを手に持ったコート姿の褐色の肌の美丈夫が立っていた。 「……やぁ、こんな夜更けにこんばんは。小さなご婦人」 目の前の男は、肩にショットガンを抱えながらも、友好的な口調で自分に挨拶をしてきた。 今のところ、その銃を自分に向けようとする気配は無い。 それを確認すると、フェイトはバルディッシュを下げて返事をする。 「こんばんは。……えっと…………」 「ゲインだ。ゲイン・ビジョウ。以後お見知りおきを」 恭しく頭を下げながら、男は名乗る。 ――相手に名乗られた以上、自分も名乗らなくては無礼になる。 例えこのような場所であっても、そのかつて家庭教師だった女性に教わった礼儀作法を蔑ろにする訳にはいかない。 「こんばんは、ゲイン。私はフェイト・T・ハラオウンです」 「フェイト、か。いい名前だ」 「ありがとうございます」 2人は距離を置いたまま、そんな会話を続ける。 すると……。 「さて。そろそろ本題に入りたいのだが……」 と、ゲインの表情が不意に今までの穏やかなものから、険しい面持ちに変わる。 「フェイト、君に簡潔に尋ねる。……お前さんはここからエクソダスをする気はあるか?」 「エクソダス……ですか?」 その言葉は、どこかで聞いたことのあるものだった。 あれは確か、あの眼鏡の少年と出会って間もない時に…… ――平たく言えば、みんなでここを脱出してさっさと帰ろうってことかな。 そんなことを言っていたような気がした。 即ち、ゲインの言っていることの意味は―― 「つまり、ゲインはここから脱出しようとしているのですか?」 「あぁ、そうだ。俺はエクソダスの請負人として、それを成し遂げようとしているところだ」 そう言うゲインの目には確かに、なにやら確信じみたものが映っている。 まるで、既に脱出するための手立てを見つけたかのように。 すると、フェイトはメモを取り出し、そこにペンで文字を書くと、それをゲインに見せる。 『盗聴されている可能性があるので筆談で尋ねます。――脱出方法を知っているのですか?』 ゲインは頷くと、そのメモに自分のペンを使って返答を書いてゆく。 『脱出に繋がるかなり重要な情報を握っている。協力をして欲しい』 その答えを見て、フェイトは脱出への希望を見出し、綻んだ顔で思わずゲインを見やる。 すると、ゲインは力強く頷き、笑顔になる。 「――というわけなんだが……俺と一緒にエクソダス、するかい?」 彼の言うエクソダスが、フェイトの目指すものと同じである以上、断る理由はない。 答えは勿論、決まっている。 「はい、ゲイン。喜んで協力します」 ◆ フェイトという少女、見た目はまだアナ姫くらいの幼いものであったが、相当しっかりした性格のようだった。 最初から首輪に盗聴機能がついていると踏んで筆談を始めたのも、中々の機転であったし、その礼儀正しく落ち着いた口調は歳不相応のものだ。 そして、そこに加え更に…… 「なるほど、魔法ねぇ……」 フェイトに即興で作ってもらった脱出に関する考察メモを読んで、ゲインは改めて目の前の少女に感心していた。 「それじゃ、フェイトも魔術を使えるってことか」 「――えぇ。……とは言っても、大部分の魔法はこのバルディッシュのようなデバイス無しでは使えませんが」 「バルディッシュ……この斧のことか」 『Yes』 「――うおっ! 会話する機能があるのか、これ!?」 いきなり男の渋い声を発した斧に、ゲインは違う意味で驚く。 「……そういえば、今さっきフェイト“も”と言いましたが、ゲインは他に魔術を使う人を見たことがあるのですか?」 「ん? まぁ、あれが君の使う魔法と同列なのかどうかは分からないけど、一人そういう参加者と出会った。……いや、いたと言うべきなのかもな」 炎を弾丸にして発していた獅堂光は既にこの世に存在しない。 自分が意識を失っている間に、どこかで命を落としてしまったのだ。 「……すみません。何か悪いことを聞いてしまったみたいで……」 「いや、いいんだ。君が気にすることはない。悪いのはあのギガゾンビという男なんだからな。――それよりも、だ。俺のメモには目を通してもらえたかい?」 「――はい。全ての考察についてざっと読んでみましたけど…………」 そこで、フェイトは再びメモ用紙を使って、筆談を再開する。 『首輪の盗聴機能が、大きな音を関知することで故障するというのは確証のある話ですか?』 フェイトはそう書き終えるとゲインの顔を見やる。 すると、ゲインはペンを走らせて答えた。 『この話をツチダマから聞きだした俺が、今でもまだ無事に生かされていることが何よりの証拠だ』 もし、あの時のような自分にとって不都合な話が盗聴されていたとすれば、それこそギガゾンビは慎重を期してゲインを遠隔操作で爆殺するはずだ。 それなのに生かされているという事は…………。 『なら、きっと私の首輪の盗聴機能も故障しているはずです』 『何か大きな物音がする出来事にでも巻き込まれたのか?』 『はい。色々ありましたから』 ペンを走らせるフェイトの顔が暗くなるのを見て、ゲインも何があったのかを大体察する。 故に、あまり多くは聞かない。 そして彼はその話題を避けるように、次なる問いかけをフェイトにした。 『一度、駅に行かないか?』 『駅、ですか?』 『あっちなら俺が壊した列車のツチダマの監視範囲になってるだろうから、盗聴や監視の目から逃れられるはずだ』 『そこでなら、筆談をしなくても、脱出に関する会話が出来るということですか?』 『そういうことだ』 ペンでそう書くと、ゲインはフェイトを見て頷く。 すると、フェイトも黙ったまま首を縦に振って、それに同意を示す。 「……それじゃ、とりあえず移動だ」 「はい」 二人は立ち上がると、その暗き喫茶店を後にした。 ……残されたのは、今は亡き少女が遺していった書置きのみ。 そして、再びイイロクの駅舎内。 そこに足を踏み入れると、不意にゲインは何かを蹴っ飛ばしてしまった。 「……ん? これは――――」 拾い上げてみると、それは目と耳のような小さな機械――スパイセット――であった。 フェイトは興味あり気に、それを見やる。 「何ですか、それは?」 「こいつが俺達を監視する為の機械ってわけさ。……どうやら、駅には車内とは別に用意してあったみたいだな」 つまり、電車のツチダマが監視をしていたのは車内及び駅舎ということになる。 ならば、もしかしたらエフイチの駅舎の方にも機能しなくなったスパイセットがあるのでは――そう考えつつ、ゲインはそのスパイセットをデイパックにしまった。 そして彼らはそのまま駅舎を進み、プレートに“駅長室”と書かれたドアを開き、中に入る。 「さて、ここの監視も今は行われてないってことが分かったところで、本題に入るとするか」 「本題……エクソダスの事ですね?」 ゲインは頷く。 「そうだ。……そのために、ひとまず俺は亜空間破壊装置ってやつの破壊を考えてるわけだが、これについてはどう思う?」 「――はい。亜空間破壊装置についての情報が正しいのだとすれば、これはきっと脱出の鍵になると思います」 フェイトは確かな口ぶりで、言葉を進めてゆく。 「装置全てが破壊されて、この空間が外部と接することが出来るようになれば、そのタイムパトロールが介入したり、もしかしたら時空管理局も干渉する余地が出てくるかもしれません」 「時空管理局、だと?」 聞きなれない言葉に、ゲインは思わず問い返す。 すると、フェイトはそんな彼の問いに丁寧に答え始める。 「タイムパトロールが時間軸を管理する組織であるとすれば、時空管理局はこの世に並列して存在するあらゆる世界を管理する――いわば平面軸を管理する組織です」 ――平面軸を管理する。 その言葉はあまりに突拍子もないものであったが、自分の知るシベリアや、ヒカルの知るトーキョー、ミサエの知るカスカベ、フェイトの知るウミナリやミッドチルダがそれぞれ違う世界なのであるとすれば、その意味もおのずと分かってくる。 ゲインは頷くと、話を進める。 「なるほどな。……とにかく外部との接触が行えれば希望は見えてくると考えてよさそうだ」 「はい。それは間違いないと思います」 「……となると、次は首輪の事か……」 亜空間破壊装置を破壊したところで、問題はまだ山のようにある。 それが、やはりこの特殊な空間に並んで、自分達の脱出を拒む要因になっている首輪についての件だ。 ゲインは首輪の機能こそ知っているが、その機能の解除方法については未だ不明瞭なまま。 たとえ、亜空間破壊装置を全て壊してこの空間を外部に曝したとしても、自分達の命を首輪一つで操れる立場にあるギガゾンビの大きなアドバンテージは揺るがない。 エクソダスのためには、装置の破壊と同時に首輪の解除も必要不可欠なのだ。 そして、その解除に関して最も近い立場にいるであろう人物が、首輪に関する考察を書いたトグサという人物。 つまり、彼と接触することがエクソダス成功への近道になる。 「やっぱりトグサって奴に会ってみなくちゃ話は進まない……か」 「トグサ、さん……」 その名前を聞いて、フェイトも複雑な表情をする。 「……ん? どうした? まさかトグサと知り合いか?」 「ち、違います。……ただ、ここでタチコマからの信頼できる仕事仲間だったと聞いていたので……」 タチコマ――確か少し前の放送で死亡者として呼ばれた名前だ。 そして、そのタチコマを友達と呼ぶという事は……。 「……変な事を聞いて悪かった。やなことを思い出させたみたいだな」 「いいえ、あなたこそ気にしないでください。それに私もいずれそのトグサという方に会おうと思っていたので……」 「……そうか」 フェイトとタチコマの間で何があったかは分からない。 ただ分かるのは、目の前にいる少女も、仲間と悲しい別れをしたという事だ。 自分とヒカル、ミサエのように……。 そして彼は同時に思う。まだこの地のどこかにいるヤーパンの天井時代からのエクソダス仲間の事を。 「……それにしてもゲイナーの奴も今頃何してるのやら……」 すると、その半ば独り言のような言葉に、フェイトが反応する。 「ゲイナー……。あなた、ゲイナーの仲間なんですか?」 「……え? あぁ、そうだ。ゲイナーは俺と同じシベリアから来た…………って、何だって!? お前さん、ゲイナーの事知ってるのか!?」 ゲインは出会ったばかりの少女から出たその名前に、思わず身を乗り出していた。 ――フェイトとゲイナー、それにレヴィという女性は少し前まで行動を共にしていたが、今は一時的に別行動を取っている。 それが、フェイトの話してくれたゲイナーの現状だった。 「――なるほどな。それじゃ、朝6時にあの駅であいつとは合流するってわけか」 「はい。無理でも電話を入れることになっています」 ――ということは、つまり駅にいればどちらにせよゲイナーと接触することができるようだ。 ゲイナーがゲイン同様に脱出への手がかりを探している以上、彼とその仲間であるというレヴィは協力者になりうる人材だ。 ならば、ゲイナーとは是非接触を試みるべきであろう。 現在、時刻は4時を回ったところ。 6時にゲイナーと接触するために駅へ向かうとしても、まだ周囲を見て回る余裕は残っている。 時計を見ながら、そんなことを考えていると、フェイトが声を掛けてくる。 「あの……ゲイン。一つ聞きたいことがあるのですが、いいですか?」 「……ん? あぁ、勿論。ご婦人、しかも仲間の質問とあらば、趣味からスリーサイズまで何なりと……」 「いえ、そういうのではなくて……。あの、私の知り合いも、ここにいるんです。その人について知っているかどうか聞きたくて」 「君の知人か。……どんな人だい?」 「はい。名前はシグナムといって、ピンク色の髪をポニーテールにした凛々しい女の人で――」 ――剣を得意武器としていて、場合によっては甲冑のようなものを身に纏っている。 そこまで聞いて、ゲインは思い当たる節が一つだけあった。 ――……の、ぶたの……で……ひかっている……あれ、を……とってく……れ 髪はざんばらで、凛々しかったであろうその顔も酷く損壊、全身を血に濡らした亡者のような出で立ちであったが、ゲインには何となく分かった。 彼女こそが、フェイトの言う清廉な守護騎士シグナムなのであろう、と。 シグナムという女性に一体何があったのかはゲインに知る由はない。 知るのは、彼女が二人の参加者を無残な方法で殺害した事実のみ。 非情な言い方になるかもしれないが、これも現実なのだ。 「思い当たる節が一つだけある。……だが、それはお前さんにとって聞く覚悟が必要だ。それでも聞きたいか?」 ゲインの問いに、フェイトはただ黙って頷く。 「……そうか」 ゲインは彼女の意志の固さを確認すると、自分が知るその事実を語り始めた…………。 ◆ ――シグナムは参加者を殺害する側に立っており、ゲインの目の前で壮絶な最期を遂げた。 そんな話を聞いて、フェイトは驚き半分、納得半分といった思いだった。 自分の知る心優しいあのシグナムが、外道に堕ちたことは衝撃的であったが、それと同時に闇の書事件にてはやての命を救うために彼女が行ってきたことを思えば、ある種納得のいく行動だったのかもしれない。 きっと今回もはやての死を聞いて、彼女の中で何かが壊れてしまったのだろう。 思えば、ギガゾンビは優勝者には一つだけ願いをかなえてやるといった甘言を漏らしていた。 主を失った騎士はその言葉を信用して、藁をも掴む思いでがむしゃらに動いていた可能性がある。 しかし、これはあくまで憶測。 実際に彼女が何を考えていたかは、最早知る術もない。 今、彼女に判ることと言えば…… 「これで私一人、か…………」 なのは、はやて、ヴィータ、シグナム。 これで、元の世界での知人は自分以外に誰もいなくなってしまった。 ――それだけが、今彼女が手に入れた揺るがない事実だ。 「教えてくれてありがとうございます、ゲイン」 「……もう、大丈夫なのか?」 「完全に……とはいきませんが、大丈夫です」 ――とは言うものの、フェイトだってまだ少女なのだ。 元々の知人の全滅、という事実を知って、全く動揺しないわけがない。 だが、それでもここで立ち止まるわけにはいかない。 折角、ゲインが脱出の為の情報を持って、仲間になってくれたのだ。 この機を逃すわけにはいかない。 後ろを振り返る前に、前を――未来を見なくてはならないのだ。 バトルロワイヤルという闇を打ち砕く光を手に入れるために。 そして、そんなフェイトを見て、ゲインは感心したように声を掛ける。 「……強いな、フェイトは」 「私は強くならないといけませんから。……死んでいったカルラやタチコマ、はやてにヴィータ、シグナム……それになのはの為にも」 自分の為に死んでいった者達の為に、ゲームのシステムに無念にも殺されていった参加者達の為にも、自分は身も心も強くならなければならない。 強くなければ、今後の脱出など叶わないのだから。 「ゲイン……まだ、ここの装置は破壊していないんですよね……?」 「ん? あぁ、そうだ。俺が無闇矢鱈に壊して回ってたら、流石に奴さんも俺が何をしようか勘付きそうだしな」 「……なら、私にその装置の破壊、任せてもらえませんか?」 「……何?」 いきなりの提案にゲインはやや驚いたような顔になる。 「いきなりどうした? 装置の場所が分かってるんだ。別にそんなに慌てなくても――」 「私も……私も皆の為に何かがしたいんです。……だから、私にあの装置を壊させてください」 今までは誰かに守られっぱなしであった。 あの森の中での銃撃の時はカルラが、桃色の髪の魔法使いとの戦いの時は、なのはとタチコマが身を呈してくれた。 だから、今度は自分の番だ。 この手で、この悲しいゲームに終止符を打って、今まで助けてくれた皆に報いたかったのだ。 ゲインは、そんな彼女を見て、やや気持ちが走り気味だと思うものの、その何かを決めた瞳を見てしまっては、阻止する気にはなれなかった。 「…………本当にいいんだな? もしかしたら意図を勘付かれてドカンかもしれないんだぜ?」」 「そんなことで一々怯えていたら何も始まりません。それに、目の前にやるべき事があるのにそれから逃げるなんてこと、私には出来ない」 彼女の決意は固かった。 ならば、ゲインが下す決断も一つしかなかった……。 ◆ 「……これが亜空間破壊装置」 駅ホーム下。 線路に下りたフェイトは電車の底部を覗き込み、装置の存在を確認した。 その傍らにいるのはバルディッシュのみで、ゲインはいない。 ――それでは、装置を破壊するのでゲインは駅から離れていてください。 ――離れる、って……、ご婦人を一人にしていくなんてこと…… ――ここにゲインがいては、装置を破壊した時に、計画に勘付かれる可能性があるはずです。 ――いや、しかし…… ――私なら平気です。ですから……お願いします。 ――………ご婦人きっての願いとあらば仕方あるまい。分かった、俺はしばらくそこらを歩いて回ったら喫茶店に戻る。それでいいな? フェイトの提案によって、一時的に分かれたゲインは、今頃市街地を歩いているはずだ。 よって、今彼女の傍にいるのは愛用するデバイスのバルディッシュのみ。 「それじゃ、バルディッシュ。全力全開でいくよ」 『Yes,sir!』 掛け声と共に、カートリッジが一発ロードされ、金色の魔法陣がフェイトの足元に現れる。 そして、彼女が持つバルディッシュはその形状を斧から光の刃を持つ鎌のように変化させた。 『Haken Form』 それが、近接戦闘に特化したバルディッシュの姿、ハーケンフォーム。 「装置だけを壊しに来たと思われないように破壊するには一気に大きく破壊すること……」 今回の破壊において、必要なのは不自然さの隠滅。 それを行う為には、ピンポイントでの装置の破壊ではなく、もっと広範囲の破壊――それこそイライラが募ったからという理由で行ったような滅茶苦茶な破壊を行うことが一つの手として考えられるわけで―― 「なら、この車両ごと壊すのみ……!!」 そして、その鎌を構えたフェイトは、一呼吸置いて、それを一気に振り下ろした。 「はぁぁぁっ!!」 『Haken Slash』 大振りに振り下ろされたその鎌は、亜空間破壊装置を含む電車の2両目を熱した飴のように容易く縦断、それから少し遅れて列車は轟音を立てて、文字通り二つに“折れた”。 勿論、これによって、ここの亜空間破壊装置は完璧に破壊されたわけである。 「これで、脱出に一歩前進したんだよね…………」 フェイトは目の前で鉄塊と化した物体を見ながら、感慨深げに呟く。 ――残る亜空間破壊装置はあと2つ…………。 ◆ (まったく……ヒカルといいミサエといい、何でここにはこんなに強いご婦人が揃ってるんだ) ゲインは、駅の方から聞こえる轟音を背に、今まで出会った女性の事を思い返していた。 思えば、自分が出会った女性達はことごとく心が強い者ばかりだった。 それは、元々そういう人達が多く集められていた為なのか、このゲームの中で心が鍛え上げられていったのか、それとも自分の女性運のせいなのか。 その真相はわからないが、今自分が行おうとしていることを考えれば、それは好都合だ。 エクソダスには、勿論人員や技術、それに状況判断力などといったものが重要となってくるが、その根幹を支えるのは、エクソダスをする一人ひとりの気の持ちよう。 そう、心が強い者が集まれば、それだけ脱出への道も拓きやすくなるのだ。 (中々頼もしい、小さなご婦人を仲間にひき入れることが出来た。朝まで待てばゲイナーの奴とも話が出来る、か) 彼はひとまず、自分の中で今後の行動について大まかな予定を組み上げる。 以下が、その大まかなスケジュールだ。 ――まず、6時まではこの周囲を歩き回り、仲間を探したり、脱出に関する情報を手に入れたりする。 この際、途中で喫茶店に戻り、フェイトと合流を図る。 ――そして6時になったら、フェイトと共に駅に向かってゲイナー達と直接もしくは間接的に合流、可能であれば寺か温泉の装置の破壊を頼む。 ――その後は引き続きフェイトに同行、連絡を取るなり直接市街を歩くなりして、同志を増やしつつ、トグサを合流を図る。 (ま、予定通りに進むなんてこと、あるはずがないがな……) 自分に都合のいい予定を組み上げたことに、ゲインは思わず苦笑してしまう。 ……恐らく、こんなに上手くいくはずがない。 それは、ドームポリスからのエクソダスを行うのと同じ。 必ずどこかで邪魔が入るはずだ。 それは、何者かの襲撃かもしれないし、仲間内での疑心暗鬼かもしれないし、何かの天変地異かもしれない。 それに何よりエクソダスの為に必要であろう仲間が、まだ圧倒的に足りない。 このままでは、もしゲインが倒れた際に、全てが終わってしまう。 ……そうならないためにも、フェイトのように自分の意志をついでくれるような仲間をもっと探さなければならなかった。 (仲間…………。さて、どうやって集めたらいいものか……) 被害が拡大する前に一秒でも早く多くの仲間を見つけたいとすれば、どのような方法が有効なのだろうか。 それを考えた時、ふと彼の脳裏に思い浮かんだのは、先程シグナムに殺された男の亡骸の傍に落ちていたデイパックに入っていたとある道具の存在。 “アレ”があれば、遠くにいる相手にも声を届かせることが出来る。 相手に自分の声が届きさえすれば、仲間を増やすという目標も叶いやすくなるだろう。 ――だが、それは同時に優勝狙いの参加者にも自分の存在をアピールすることになる。 (希望と死が隣り合わせになった道具かもな、アレは……) ゲインはデイパックにしまったままの道具――拡声器について考えながらゲインは夜の街を歩いてゆく……。 【E-6・市街地/2日目・早朝】 【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】 [状態]:右手に火傷(小)、全身各所に軽傷(擦り傷・打撲)、腹部に重度の損傷(外傷は塞がった)、ギガゾンビへの怒り [装備]:ウィンチェスターM1897(残弾数5/5)、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に、『亜空間破壊装置』『監視』『首輪』に関するメモ [道具]:支給品一式×10(食料3食分消費)、鶴屋さんの首輪、サングラス(クーガーのもの) 9mmパラベラム弾(40発)、ワルサーP38の弾(24発)、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、ウィンチェスターM1897の予備弾(25発) 極細の鋼線@HELLSING、医療キット(×1)、マッチ一箱、ロウソク2本 ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの スパイセットの目玉と耳@ドラえもん(×3セット)、13mm爆裂鉄鋼弾(21発)@HELLSING、 デイバッグ(×4) レイピア、ハリセン、ボロボロの拡声器(使用可)、望遠鏡、双眼鏡 蒼星石の亡骸(首輪つき)、リボン、ナイフを背負う紐、ローザミスティカ(蒼)(翠) トグサの考察メモ、トラック組の知人宛てのメッセージを書いたメモ 、『亜空間破壊装置』『監視』『首輪』に関するメモ [思考・状況] 基本:ここからのエクソダス(脱出) 1:市街地を適当に探索後、喫茶店でフェイトと合流。 2:信頼できる仲間を捜す。 (トグサ、トラック組、トラック組の知人を優先し、この内の誰でもいいから接触し、得た知識を伝え、情報交換を行う) 3:しんのすけを見つけ出し、保護する。 4:エクソダスの計画が露見しないように行動する。 5:場合によっては協力者を募る為に拡声器の使用も……? 6:ギガゾンビを倒す。 ※その他、共通思考も参照。 [備考]:第三放送を聞き逃しました。 首輪の盗聴器は、ホテル倒壊の轟音によって故障しています。 モールダマから得た情報及び考察をメモに記しました。 メモに電車での装置の位置が追記されました。 【E-6・駅ホーム/2日目・早朝】 【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】 [状態]:全身に中程度の傷(初歩的な処置済み)、背中に打撲、魔力大消費、バリアジャケット装備 [装備]:バルディッシュ・アサルト(アサルトフォーム、残弾4/6)@魔法少女リリカルなのは、双眼鏡 [道具]:支給品一式、西瓜1個@スクライド、タチコマのメモリチップ [思考・状況] 基本:戦闘の中断及び抑制。協力者を募って脱出を目指す。 1:喫茶店でゲインと合流。 2:ゲームの脱出に役立つ参加者と接触する。 3:カルラの仲間やトグサ、桃色の髪の少女の仲間に会えたら謝る。 ※その他、共通思考も参照。 [備考]:襲撃者(グリフィス)については、髪の色や背丈などの外見的特徴しか捉えていません。素顔は未見。 首輪の盗聴器は、ルイズとの空中戦での轟音により故障しているようです。 亜空間破壊装置、首輪、監視システムについてのゲインのメモを読みました。 [共通思考] 基本:信頼できる仲間を探す 1:6時までに喫茶店で合流する。 2:6時になったら、ゲイナー・レヴィと合流、可能であれば装置(寺or温泉)及びツチダマの破壊を頼む。 3:ゲイナーらと別れた後は、二人で行動し、トグサやその知人達を探す。 &color(red){【運転士ダマ@ドラえもん 機能停止】} &color(red){【電車の亜空間破壊装置 機能停止】} ※列車運休のお知らせ 本日未明、フェイト・T・ハラオウンの襲撃を受け、車両が著しく破壊された影響で4時30分発の列車の運行が絶望的となりました。 運転再開時刻は不明の模様。 詳しくは、お近くのツチダマ係員に(ry ※監視システム一部ダウンのお知らせ ゲイン・ビジョウによる運転士ダマ襲撃に伴い、電車内及びイイロク駅のスパイセットが機能を停止、没収されました。 同ツチダマにより制御されていたエフイチ駅のスパイセットについては、詳細不明。 *時系列順で読む Back:[[ひめられたもの(4)]] Next:[[『転』]] *投下順で読む Back:[[道]] Next:[[人形裁判 ~ 人の形弄びし少女]] |244:[[のこされたもの(狂戦士)]]|ゲイン・ビジョウ|261:[[「ゲインとゲイナー」(前編)]]| |239:[[もう一度/もう二度と――なまえをよんで/なまえはよばない]]|フェイト・T・ハラオウン|261:[[「ゲインとゲイナー」(前編)]]|