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SUPER GENERATION(前編) - (2022/03/20 (日) 13:28:02) のソース
**SUPER GENERATION(前編) ◆LXe12sNRSs 「ええい、いったいどうしたと言うのだ!」 バトルロワイアルの運営を司る精霊王の居城にて、主催責任者であるギガゾンビの怒声が飛ぶ。 対象となったのは、殺し合いの実況風景が映し出されているモニター前で、ひたすらにコンソールを弄くっているツチダマたちだ。 六回目の定時放送を終えてすぐのこと。 病院周辺にて、もはや唯一と言っていい積極派マーダーのセイバーと、脱出派のトウカ、涼宮ハルヒ、キョン、野原しんのすけの四名が対峙した。 物語も終盤、クライマックスを飾る激戦が予想されたが――開戦寸前で、主催側に思わぬトラブルが発生した。 監視モニターが突如、昭和の旧型テレビを思わせる雨を降らし始めたのである。 期待していたイベントが突然映らなくなり、ギガゾンビは当然お冠だ。 監視役のツチダマたちに原因を究明させるが、いずれも「故障ギガ~」「ツイてないギガ~」の一点張り。 ツチダマたちの様子がおかしい。ギガゾンビは配下共の挙動を不審に感じつつ、映像の復旧を待った。 (凡骨な木偶共め。何やらこの私に反骨精神を抱き始めているらしいが、貴様等の王が誰だか分かっているのか? しかし気になる。放送の直前、トウカたちの前に現れたセイバーが持っていた剣……不可視の力を発動する前のあの姿は、 確か鳳凰寺風の剣ではなかったか? あれは確か、先のホテル戦で放置されていたはず。それが何故セイバーの下に渡っている? 峰不二子の時の様に、またグリフィスが独断で動いたのか? ならば制裁が必要だが……) 物語は大詰め、当初の計画では盛り上がりを見せるクライマックスを前に、1世紀もののワイン片手に揚々と観戦していたはずのものを、反抗的な部下のおかげで要らぬ考察をするハメになっている。 それと言うのも、全てはグリフィスの余計な言動のせい……理に適った戦略と称し、ギガゾンビの意向を妨げる、まこと厄介な俗物の配下。 当初はいいように使ってやろうとほくそ笑んでいたが、もはやあの男の勝手な行動は手に余る。 従順な狗のままならば良いが、利口すぎるあまりに主人の手に噛み付くようでは、たとえ首輪という名の手綱を引いていたとしても安心できない。 (とにかくだ。彼奴をこのままにしておくわけにはいかん。もしまた不審な行動を取るようであれば、今度こそ――) この時、ギガゾンビは本能でグリフィスを警戒しつつあった。 それは現にグリフィスと対峙した時に味わった威圧感の名残がそうさせているのであり、今一歩制裁に踏み出せていないのは、同様にグリフィスを本能で恐れているからでもある。 いかな大国の将とて、孤軍奮闘の身に置かれれば、大群を前にして怖気慄くもの。それはたとえグリフィスであったとしても変わらない。 そういった時、気持ちの支えとなってくれるのは仲間の存在だ。ギガゾンビの場合、その仲間にはツチダマが当てはまる。 だが、彼の配下であるはずのツチダマたちは、既にギガゾンビを見限り、グリフィスの下に走ってしまっている。 ギガゾンビは未だその事実には気づいていないものの、雰囲気で悟り始めていた。 己の存在が、孤立し始めていることに。 最上の地位に就きながら、ギガゾンビは孤独になりつつあったのだ。 周りはグリフィスに寝返った裏切り者ばかり。そんな環境の中で、傲岸に踏ん反り返られるほど、ギガゾンビも鈍感ではない。 たとえ真実を知らずとも、人間の危機感知能力というものは機能する。 また、その危機感知能力というものは、臆病な人間ほど鋭く発揮されるものでもある。 ギガゾンビは怯えていたのだ。グリフィスにではなく、得体の知らぬ孤独感に。 『……ギガゾンビ様』 ただ高いだけの玉座に座るギガゾンビの背後から、不意にか細い呼び声がした。 聞き逃しそうになるくらい小さな機械音声は、どこかションボリした様子のギガゾンビに語りかける。 「……む? おまえはホテル近辺の監視を担当していたツチダマか? 私に何か用か?」 『お静かにお願いしますギガ……。実は折り入ってお話があるのですが、他の奴等に聞かれるとマズイですギガ。 無礼は承知ですが、どうか席を外していただけないでしょうかギガ~』 ひそひそと耳打ちしてくるツチダマに、ギガゾンビはどこか親近感を感じた。 普段の彼なら下僕の無作法に怒りを表すところだが、本能が孤立感を味わっている今となっては、これを無碍に扱う気にもなれない。 が、同時に警戒もした。現在のギガゾンビの警戒心が告知する、最もな警戒対象……グリフィスの影が、どこに潜んでいるとも限らないからだ。 呼び出しと称して、グリフィスに闇討ちされるようなことがあってはたまらない。 ギガゾンビは手元にあったコンソールキーを操作し、一つの計器を取り出す。 1から82の数字と、それぞれの番号に対応したボタンが取り付けられたその装置は、首輪の遠隔爆破装置である。 いざという時はリモコン状にして持ち出せる仕様になっているそれは、振り翳すだけで参加者への脅しに使える。無論、反乱の抑制にもだ。 精密機械ゆえ、今までは大事に保管していたが……携帯しておいて損はあるまい。そう考えて、ギガゾンビはそれを持ち出した。 もちろんこれは、全て本能が呼び起こした警戒だ。頭で考えての行動ではない。 つまりは、彼の気質が臆病なだけ。しかしだからこそ、背後を狙う者にチャンスを与えにくい。 「いいだろう。貴様の話とやらを聞いてやろうじゃないか。 …………オイ、監視役のツチダマ共! 私はしばし席を外す。それまでにモニターの不具合を直しておけよ!」 『アイアイサ~、ギガ~』 監視ダマたちのテキトーな了解に送られて、ギガゾンビはその場から退室した。 狂いは、ここから始まった。 彼が臆病者であるがゆえに。 ◇ ◇ ◇ 「……………………」 絶句。 あまりにも凄惨な光景が視界を支配し、言葉を失わせた。 同時に、強烈な吐き気の波濤にも襲われる。 数々の血と死を見てきたロアナプラ滞在者である、ロックすらも絶句させるほどに。 その少女、アルルゥの死に様は凄惨すぎた。 「あの、ロックさん……」 「……君たちは見るな。これは、とても女の子たちに見せられた光景じゃない」 「そういうわけにはいかないわ。……あの子がやったことですもの。私がそっぽ向くわけにはいかない」 「それでも駄目だ。見るな」 一人、青ざめた顔でダストシュートを覗き込むロックは、凄みを利かせた声で、同行者の二人を制した。 ――水銀燈が殺害した少女、アルルゥの遺体を埋葬したいと言い出したのは、遠坂凛だった。 事の顛末を知るリインフォースによれば、アルルゥは手術室で水銀燈にメッタ刺しにされたあと、病院裏のダストシュートに破棄されたという。 その処理をするのには、相当の覚悟が必要だと――これは、アルルゥ殺害に立ち会ったリインフォースからの忠告である。 凛一人では大変だろうと思い、アルルゥの遺体回収に同行したロックとフェイトだったが、蓋を開けてみればリインの忠言は正に的確。 先行して遺体を確認したロックが、思わず伏せてしまうほどの有様が、そこに吐き捨てられていた。 「…………ッ」 ロックの『見るな』という言葉の意味は分かる。それだけ目に毒ということなのだろう。 だが、今の凛に過去の罪から逃れる意思はない。水銀燈が犯した悪事の全ては、己の甘さによる失態が招いたものだ。 アルルゥという少女が死んだのも。過去の交錯で、彼女と姉を引き離したのも。彼女の姉を守りきれなかったのも。 水銀燈の不始末は、自分がケリをつけなければならない。たった一日だけのことではあったけれど――彼女の契約者として、姉として。 意を決して、凛はダストシュートの中を覗き込む。そして、直視した。 ……吐き気が押し寄せてくる。 それを強引に飲み込む。 食道に、気色の悪い余韻が残った。 やたらとベトベトした汗が流れてきた。 拭わない。根性で止める。 廃棄物に混じった血の臭いが、鼻を刺激する。 息を止めようとは思わなかった。 目で、喉で、皮膚で、鼻で、全身で、凛はアルルゥの死を、水銀燈の殺人を受け止めた。 「……二人とも、ここまでついて来てもらってなんだけど、この子の埋葬はやっぱり私にやらせて」 『私からもお願いします』 その決意ある声に、反対する者はいなかった。 これは事務的な始末などではない。凛という少女の、優しさとプライドが両天秤にかけられた行いだ。 凛とレイジングハートに懇願されて、ロックとフェイトの二人はその場から静かに立ち去った。 (馬鹿よ馬鹿。みんな馬鹿。勝手に死んでいった士郎やアーチャーも馬鹿なら、今も殺し合いに乗ってるセイバーはもっと馬鹿。 たくさんの人を死に至らしめた水銀燈は大馬鹿だし、それを止められなかった私は…………ウルトラ馬鹿) 同じく病院裏、色とりどりの植物が栽培されている花壇の上で、凛は一人必死に穴掘りを進めていた。 小柄なアルルゥの身体を埋めるのに、そう大きな穴はいらなかった。大した時間もかからずに、彼女を埋没する準備は整った。 傷だらけの華奢な身体を抱きかかえ、土の中に埋めていく。 閉じられた瞼から視線を逸らさず、最後まで、アルルゥがこの世に存在していた事実を確認するかのように。 掘り返した土をアルルゥの遺体に被せていき、その姿が見えなくなるまで埋めていく。 やがて、小さな盛り土が一つ出来上がり、凛は墓の象徴として、アルルゥが後生大事に持っていた鉄扇を突き刺した。 墓石とするにはあまりに不恰好で仰々しいが、それでも彼女にとっては、おとーさんが残してくれた掛け替えのない宝物だ。 きっと、喜んでくれる。 「終わったわよ」 埋葬作業を終え、凛はロックたちを呼び戻した。 三人揃ったところで、改めて黙祷を捧げる。 ロックにとっては懐かしき故郷の、フェイトにとってはなのはと出会った国、日本の形式で。 手を合わせて、心中で静かに追悼の句を読み上げた。 「……はい! 辛気臭いのはこれでおしまい。お別れが済んだらさっさと戻るわよ。私たちには、このあと大事な用があるんだから」 最高潮になりつつあった士気を下げぬように、凛は気持ちを入れ替えて墓に背を向けた。 エクソダス計画は既に動き始めている。 全員が集合し、セイバーという不安要素を除去し、キョンのPCを経由してトグサがギガゾンビのサーバーにダイブ。 首輪に送られている電波を特定して、擬似電波発信装置を作成し、内部の計測器を一時的に麻痺させ、首輪を解除する。 同時進行で、ギガゾンビの所在を確かめるべく映画館のフィルムを検証。そこから主催側のアジトを推理する。 敵の居場所の目処がついたら、逃走の隙を与えぬために、即座に亜空間破壊装置を潰す。 これら、上記の行動をほぼ同時に達成しなければならない。 ギガゾンビに反乱の意を悟られ、首輪を爆破されないため。相手がこちらの思惑に気づき、逃げ出さないため。 一網打尽にするタイミングは、極僅かな時間しかない。 そのためのエクソダス計画。どれかが先走っても駄目。どれかが遅れても駄目。チームワークが鍵を握る、高難度の作戦である。 (……できるのかしら。本当に) 光明はハッキリと見えた。だが、心配事はまだある。 それは、時間だ。 首輪を解除するための電波の特定と、擬似電波発信装置作成。トグサとドラえもんによれば、これはさほど時間が掛からないという。 キモは、どれだけ早くキョンたちと合流し、ノートパソコンに手をつけられるか。これは既にレヴィたち移送班が動いているので、特に問題ではない。 問題なのは先に述べたとおり、それに至るまでの時間なのだ。 現状、ゲーム内で外敵といえる存在はセイバーただ一人。いかに強大な戦闘能力を誇るサーヴァントとはいえ、たった一人ならば対処も容易い。 たった一人のマーダー。そして他の13人は全員仲間。この構図がマズイのだ。 当然のことだが、人数が減ればそれだけ主催側の監視もしやすくなる。 もし無事にキョンたちと合流できれば、それこそ見張るべきはセイバーとエクソダス計画チームの二つのみとなってしまう。 そんな中で、殺し合いもせずコソコソ作業をしていたら、いくらスパイセットの目を掻い潜ったとしても、警戒はされてしまう。 同時進行で亜空間破壊装置の破壊とギガゾンビの居場所を特定するというが、そちらの方は明らかに時間がかかる。 たとえ首輪の解除を遅らせたとしても、三つの作業を同時に進行した場合、ギガゾンビに『警戒する隙』を与えてしまうのだ。 (かといって、先にギガゾンビの居場所を調査するわけにはいかない……もし重要なところまで踏み込んでしまったら、首輪が爆破されるのは目に見えているから。 亜空間破壊装置の破壊についても同様。先にあのメガネ……ゲイナーが懸念していたように、ギガゾンビに警戒する隙を与えてしまう) このエクソダス計画、紙面で語るほど簡単ではない。 セイバーの動向にもよるが、全てをパーフェクトにこなせる確率は、多く見積もっても10パーセントといったところだろう。 最悪誰かの首が弾け飛ぶか、譲歩してギガゾンビに逃げられるか……全員生存の上でギガゾンビ討伐などという目標は、絵空事でしかない。 おそらくは、トグサやゲインなどのエクソダス計画考案に携わった人間も、この不安要素に気づいているはずだ。 ロックとて堅実なリアリストだ。ギガゾンビを倒すなどと言ったのは皆の士気を高めるための建前で、全員の生存を第一に考えているのは間違いない。 (どれだけチームワークが良くたって、この計画書どおりに事を運ぶのは不可能だわ。ギガゾンビがよっぽどのマヌケじゃない限りね。 10パーセントの確率を上げるには、さらに別の要因が必要。当てがないわけじゃないけど……) 凛の言う『当て』とは、未だ検証していない二つの事項。 一つは、ギガゾンビが精通していないであろう魔術を用いての外部通信。 六つ存在していたという亜空間破壊装置は既に四つが破壊され、残りは二つ。この空間を隔離する外膜にも、いくらか綻びが生じているはずだ。 加えてフェイトという高ランク魔導師と、レイジングハート、バルディッシュ、クラールヴィント、グラーフアイゼン、リインフォース等デバイスの助力があれば、懸案していた魔力周波でのSOSが可能になるかもしれない。 そして、もう一つの当てというのは――ドラえもんが持っているディスク、"THE DAY OF SAGITTARIUS III" 一般高校のコンピュータ研究会が製作したらしいそのゲームディスクは、ノートパソコンのゴミ箱に残されていた謎のテキストファイル、『射手座の日を越えていけ』というメッセージに唯一該当しうるアイテムだった。 楽観的な推察ではあるが、ひょっとしたらこのゲームをクリアすることが、10パーセントを100パーセントに跳ね上げる方法では……上記の面倒くさい作業を、一遍に解決に導いてくれるのではないだろうか。 詰まっているデータがあるとすれば、ギガゾンビの居場所の詳細か、管理者HPへのパスワードか、外部連絡の手段か、それとも―― (まぁ、どうせ全部の心配ごとを片付けのは、そのキョンって奴のノーパソを手に入れてからよね。そっちは他のみんなに任せるとして、私が一番考えるべきは、やっぱりセイバ……だっ!?) 考え事をしながら道を歩いていると、ふと前方の何かにぶつかって鼻を打つ。 赤くなった鼻を摩りつつ前を確認すると、そこには並んで歩いていたはずのロックが、あっけらかんとした表情で突っ立っていた。 「ちょっと、いきなり立ち止まってどうしたのよ?」 「いや、あれ……」 フェイトも同様に足を止め、凛はロックが指差した方向に目を向ける。 ちょうど三人の進行方向、そこに立っていた『物体』は―― ◇ ◇ ◇ 『どうか我らの王になってくださいませ! グリフィス様!!』 『あなたは、我らの仲間のために、涙を流してくださった!!』 『――私の部下、諸君らの同胞、コンラッドは死んだ。何故だ?』 『わが身捧げるに値せぬ主の支配の糸を断ち切ろうとする意思途絶えぬなら、オレに――ついて来い!!』 『グリフィス!! グリフィス!! グリフィス!! グリフィス!!! グリフィス!! 万歳!! 万歳!! 万歳!! 万歳!! 万歳!! 万歳!! 万歳!! 万歳!!』 ――感想など、怒りしかなかった。 ホテル担当のツチダマに連れてこられ、入った一室。 そこに配備された巨大モニターに映されたのは、どこぞの独裁国家に見受けられるようなベタな演説風景。 先導者はグリフィス。賛同し咆哮を上げているのが、ギガゾンビの忠実な下僕であるはずのツチダマ。 「……なんなのだ、この茶番劇は!」 仮面に覆われた顔を湯気が立ち上るほどに染め上がらせ、ギガゾンビは発狂した。 それというのも、今初めて露見したツチダマたちの背信、そしてグリフィスの謀略が原因だ。 こちらに付け入る隙を窺っていたのは分かっていたが、あれほど多くのツチダマが裏切りに加担していたのは予想外だった。 「あの若造めぇ……私に隠れ、あのような真似をぉぉ…………ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」 普段から高血圧な(推定)身体の健康を損ねかねないほど、ギガゾンビの感情は怒りに沸騰していた。 しかし、これで全ての合点がいった。 不自然な映像の不具合、ツチダマのいい加減な態度、セイバーの手に鳳凰寺風の剣が渡っていたわけ。 全て、グリフィスがツチダマたちに指示した上でのことなのだろう。 やはり、あの魔犬は首輪などで飼い慣らせる存在ではなかった。 主人にたてつくというのであれば、しかるべき処罰を与えねばならない――もちろん、反逆者共もまとめて。 「しかし、分からんのは貴様だ」 『ギガ?』 ギガゾンビは不快な映像を流すモニターから視線を外し、この情報をリークしたグリフィス側の裏切り者――ホテルダマに目を向けた。 「このまま隠し通そうとしたとて、いずれ私にことがバレるのは確実。 それを見越してこのことを進言したというのであれば、それは実に利口な判断だ。 ……だが、貴様等ツチダマにそこまでの知恵が働くとも思えん。 言え! いったいなんの目的があって私にこのことを告げた!? グリフィスの命令か!? 裏切ったと見せかけて、実は私を謀ろうとしているのではあるまいな!?」 鬼気迫る表情で肉薄してくるギガゾンビにたじろぐホテルダマ。が、さすが他のツチダマたちの目を掻い潜って告げ口しただけのことはある。 勇敢にもホテルダマは、力強い言葉で否定の意を示し、モニター前のコンソールキーを弄り出した。 『これを見て欲しいですギガ!』 そうして映し出されたのは、例のホテル倒壊シーンだった。 今にも崩れ落ちようとしている巨大ビル、その渦中から、一組の男女が疾走してくる。 「なんだこれは? ゲイン・ビジョウと野原みさえがホテルを脱出する瞬間の映像ではないか」 映像の中の時は進み、やがて野原みさえは、振ってきた瓦礫に襲われ命を落とした。 これはギガゾンビもなかなかに好きなシーンである。 死に物狂いの殺し合いもいいが、こういった思い半ばで潰える姿というのも、滑稽でステキだ。 だが、それがグリフィス反逆の件にどう関係しているというのか。 ギガゾンビは鋭い眼光を持って、ホテルダマに答えを求める。 『ギガは……この野原みさえの最後の姿を見て、親子の素晴らしさを痛感したんだギガ!』 「な、なに?」 『死が間際に迫っているというのに、彼女は最後まで我が子の身を気にかけていたギガ。 親は子を大切に思うもの……すなわち親子愛! 前々からデータで知ってはいたものの、それを身近に感じられたのは感激ギガ!』 「は、はぁ……」 ホテルダマの思わぬ返答に、ギガゾンビは拍子抜けしてしまう。 高度な演算能力と情報処理能力、それらを得る際の副産物として付いてきたのが、個々の性格。 グリフィスのカリスマに惹かれるツチダマがいるように、他の参加者の行動に感銘を受ける者がいてもおかしくはないが……これは予想外だった。 『他のみんなは、ギガゾンビ様は酷い奴だ、グリフィスこそ新たな王だ、って言うけど、ギガはそうは思わないギガ。 だって、ギガたちを作ってくれたのは他でもないギガゾンビ様だギガ。言うなれば、ギガたちツチダマの親はギガゾンビ様だギガ。 ギガゾンビ様がいなかったら、ギガたちは存在しなかった……なのに、それを裏切るなんて絶対間違ってるギガ! 親子は愛し合うものだって、親は子を慈しむものだって、ギガはそれを野原一家のみんなに教わったギガ! だから……だからギガだけは、ギガゾンビ様を裏切ったりしないギガ!』 「…………」 先ほどのギガゾンビに負けず劣らずの迫力で激論するホテルダマによって、室内の空気はシンと静まり返った。 正直、「何を言っているのだコイツは」というのが、ギガゾンビの感想である。 だが、分からなくもない。確かにあの親子の行動には涙ぐましいものがあり、見る者に感動を与えるには十分だ――もっともギガゾンビにとっては、滑稽な笑いの対象でしかないが。 ここに、野原家の生き様に感動し親子愛を知った、馬鹿なツチダマが一体いる。 それを利用しない手は、ない。 「おぉ! 嬉しい……嬉しいぞホテルダマよ! 私はてっきり、丹精込めて作り上げた我が子らに見放されたとばかり思っていたのに、まだお前のような親思いの子が残っていてくれたとは!」 『ギ、ギガゾンビ様~』 ひしっと抱き合い、感動を演出する両者。ギガゾンビが仮面の下でベロを出してる事実など、ホテルダマは知るよしもなく。 「そうだ、おまえにも名前をつけてやろう。 実を言うと、私が以前から考えに考え、ここぞという時につけようと思って温めておいた名前だ。この名は、おまえにこそ相応しい」 『ギガに名前を? ……か、感激ギガ! しがないホテルダマのギガが、名前を持てるギガか!?』 「ああ、そうだとも。いいか、一回しか言わんからよく聞くのだぞ? おまえの名は――フェムト。 これからはホテルダマではなく、そう名乗るがよい」 「分かったギガ!」 下手な性能の向上が、ギガゾンビに不運を招いた。 性格などというものを持ってしまったがために、主人に反抗的な態度を取る者が現れ始めたのが第一の不運。 そんな奴らが反逆を起こし、グリフィスなどという紛い物の王に寝返ったのが第二の不運。 しかしここにきて――ギガゾンビは幸運を掴み取った。 不運を招くばかりかと思われた性格は、土壇場で創造主であるギガゾンビに味方したのだった。 人の性格が多種多様に存在するのは世の理。それは機械仕掛けの土偶とて変わらない。 そして、ホテルダマに親を敬愛する性格を与えてくれた要因にも、感謝をしなければなるまい。 (――今一度礼を言うぞ、ヒエール・ジョコマン。野原家などという、実に親子愛に溢れた家庭を紹介してくれたことをなぁ~。 ゲハッ、ゲハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ~!!!) ギガゾンビは、胸の奥底で呵呵大笑した。 さぁ、悪事は露見した。 ならばやるべきことは何か? 愚問。 反逆者の断罪。 これのみだ。 狂った歯車は加速する。 くるくるくる来る繰る刳るクルと―― ◇ ◇ ◇ *時系列順で読む Back:[[I have no regrets. 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