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舞台裏 - (2007/12/20 (木) 18:40:42) のソース
**舞台裏 ◆LXe12sNRSs そこは、幻像の街だった。 タイ国に置かれたその街に秩序と呼べるものはなく、街道を平然とマフィアが跋扈し、裏では浮浪者が雫を啜る。 あるのは、最低限の悪人のルールのみ。自由を徹底して尊重したその街は、タイから切り離された一つの“国”として機能していた。 「だが、僕らの知るタイにロアナプラなんて街は存在しない」 そう、ここは架空の街。 本当なら存在し得ない場所であり、少年にとって、ここが異世界であると知らしめる確固たる証拠でもあった。 「さて、次は『ロック』に『レヴィ』……この二人の所在を確かめなくちゃな」 少年は遥か上空から、荒くれ者の街――ロアナプラを見つめる。 ◇ ◇ ◇ 「収獲はどうだい、ダッチ?」 「駄目だな。ネズミの尻尾も見せやしねぇ」 ロアナプラに拠点を置く運び屋、ラグーン商会。 その小さな事務所を訪れたグラサン、スキンヘッドの黒人は、苦虫を踏み潰したような顔で待機していた相棒に悪態をついた。 不機嫌気味のボスに、やれやれと首を振るのは、白人の男性。 黒肌の大柄な男をダッチ、白肌の華奢な男をベニーという。 彼等二人は、人員たった四名で成り立っているラグーン商会の残存メンバーだった。 そして残りニ名の不在こそ、ダッチの不機嫌の理由であり、彼等が今まさに直面している厄介な問題だった。 数日前のことである。 贔屓にしてもらっている取引相手、ホテル・モスクワのバラライカから、ラグーン商会へ依頼が入った。 正確に言えば、ラグーン商会に身を置くロックという青年に。 日本人であり語学達者な彼の能力を見込み、日本遠征の際の通訳として同行して欲しいとのことだったのだが、この依頼を本人に通そうとした時には、既にことは起きていた。 消えたのだ。依頼を伝えるべき張本人のロックが、突如として消息不明になった。 ロックだけではない。ラグーン商会における荒事専門の看板であるレヴィもまた、ロックと同時期に姿を消していた。 当然バラライカの依頼もご破綻。突然の人員不足に襲われ、ラグーン商会は無期限休業の窮地に追いやられた。 そんな状況が早数日。ダッチとベニーは各々の情報網を使い二人の捜索に勤しんだが、進展は未だにない。 まるで神隠しにでもあったかのような、不可解な行方不明事件。それが、今も二人を悩ませている。 「当初は、愛の逃避行か何かと思って楽観してたんだがね。どうやら事件はかなりややこしいことになっているようだ」 「レヴィがジュリエットなんてタマかよ。もし駆け落ちなんてオチだとしたら、ロックが連れて行かれたのはどっかの紛争地域か?」 「案外、どっかのアンダーグラウンドでチャンプでも目指しているかもね」 「そいつは笑えねぇジョークだ。こちとら逃げ出した飼い猫を追ってばっかで仕事が溜まってる。帰ってきたら骨折してようがなんだろうが働いてもうらぜ」 ダッチの人望を活かした情報網と、ベニーのハッキング能力を駆使しても、二人の所在は掴めなかった。 ただの誘拐や失踪などではない。まさしく神隠しとしか取れない怪事件だった。 「――失礼するよ」 その時、ノックもなしに事務室の扉が開かれた。 客だ。二人は反射的に振り向き、視界に入ったその姿に思わず絶句する。 ラグーン商会を尋ねてくる人間、いや、そもそもロアナプラに住まう人間など、強面悪人面な輩がほとんどだ。 しかし今宵の来客は、まずロアナプラにはいない人種――見た目十代前半かそこらの、可愛らしい男の子だった。 それもかなり珍妙な格好をしている。厚手のコートのような服に、保温用とは到底思えぬ厳つい手甲、極めつけは手に持った杖だ。 玩具のような装飾の施されたそれが、ひたすらこの場にそぐわなく思える。 「こいつはまた……」 「珍しい客が来るもんだ。ボゥイ、アポは取ってあるのか?」 「なに、用件は極簡単なものだから、手間は取らせないよ」 珍客に驚いてはみるものの、ダッチとベニーは冷静な応対をこなしていく。 対する少年も、自分の何倍もある体躯にまったく動じる素振りを見せず、凛々しい顔つきで質問に臨んだ。 「用件は一つ。ロックとレヴィという名の二人を探している。ロックの方は本名を岡島緑郎というらしく、レヴィの方はレヴェッカが本名だ」 「その二人なら俺らも探している最中さ。ウチに所属していることは間違いないんだが、あいにく今は失踪中でな。まったくとんだ不良社員共だ」 「そうか……やはりこの二人も、奴に連れ去られたメンバーに入っていると見て間違いないか……」 一、二秒ほどその場で思案した後、少年は躊躇いもなく背中を向けた。 扉を開けてから二歩以上踏み出すことはなく、ラグーン商会の事務所から退室しようとする。 「待ちな」 それを押し止めたのが、ダッチの殺気の込められた言葉だった。 「邪魔をしたね。だがもう用件は済んだ。君たちは――」 「こっちはそういうわけにはいかないな。ボゥイ、さっきの口ぶりから察するに、おまえはレヴィとロックが失踪した原因を知っているな?」 「だとしたら?」 「帰すわけにはいかねぇな。ギブアンドテイク――こっちにもボゥイの知っている情報を提供してもらおうか」 背中を向けたままの少年に、ダッチがゆっくりと歩み寄る。右手は腰元に据え、すぐにでも銃が引き抜ける状態で。 子供とはいえ、ダッチは不審な来訪者を相手に躊躇したりするようなアマチャンではない。 仲間の所在を知っている可能性があるともなれば、黙って見逃すわけにもいかなかった。 ある意味、当然とも言える反応であり、故に対策をしておかなかったわけでもない。 ただ、できれば面倒事にはしたくなかった。少年は短く溜め息をつく。 「残念だけど、君たちにそれを教えることはできない。 そもそも、僕が君たちにコンタクトを取ったこと自体誉められた行為じゃないし、これは時間がないから仕方なく決行したにすぎないんだ。 対象の人間の所在が何時、如何なる状況で消えたかを知るには、その人間の身近にいる者に聞くのが一番手っ取り早いからね」 「どうにも話が見えないが、要するにノゥってことか? だがそんな虫のいい――」 ダッチの身がさらに一歩、少年に近づいた。 その、次の瞬間である。 「デュランダル」 『Chain Bind』 少年の持つ杖から機械的な音声が漏れると同時に、ダッチの身体が発光する鎖に締め付けられていく。 刹那の速度、抗う暇もなく雁字搦めにされ、ダッチの巨体はそれ以上前に進めなくなった。 「ダッチ!?」 「クッ、なんだこりゃあ! なんかの手品か!?」 「手品? ……違うよ。これは世間一般で言うところの『魔法』。種も仕掛けもない、正真正銘のね」 背中を向けていた少年が振り向き、即座に何かを呟く。 小声すぎて聞き取れなかったそれは、恐らく呪文か何かだったのだろう。 何しろ、少年の口が閉じた次の瞬間に起こった出来事もまた、魔法としか思えないものだったから。 ダッチとベニーの身体を埋め尽くす、実態を持たぬ無数の鎖。 消え失せていく意識。そして記憶。 何が起こったのかも分からず、何が起きていたのかも覚えておらず。 ラグーン商会の二人は、浅い眠りについた。 ……目を覚ましたのは、ほんの数分後。 その時には少年の姿はもうなく、身体を覆っていた鎖も、一本違わず消え失せていた。 後に残ったのは、「俺たちはいったい何をしていたんだ?」という疑問のみ。 少年の姿を視認し、それを覚えている者は、ロアナプラにはいなかった。 誰一人として。 ◇ ◇ ◇ 世界は、一つではない。 セフィーロ、ウィツァルネミティア、ハルケギニア、デジタルワールド、ミッドチルダ……それこそ未確認のものも含めれば、数え切れないほどの世界が存在している。 それらは隣り合った並列に位置しているものもあれば、異なった断層に位置しているものもある。 それら数種の次元世界を影ながら纏め、災害救助や文化管理に勤しんでいるのが、時空管理局と呼ばれる組織だ。 ミッドチルダの文明技術を主としたその組織は、次元空間を自在に航行する術を持ち、次元世界の崩壊を招きかねない事件を最優先で処理することを生業としてきた。 だが、時空管理局とて全ての次元世界、全ての次元犯罪を網羅しているわけではない。 それ故に、『次元だけではなく時をも飛び越えた世界が存在する』という事実すら、今の今まで知りえなかった。 例えば、21世紀初頭の神奈川県で起こった、原因不明の大規模隆起によるロストグラウンド誕生。 昭和58年、日本の雛見沢村で起こった、火山性ガスによる雛見沢大災害。 どちらも時空管理局の管理する世界の歴史には、刻まれることはなかった要項である。 オーバーマンや翼手の存在、聖杯戦争などの事実もまた、時空管理局の監察外であった。 数日前、時空管理局は嘱託魔導師である高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやて、その守護騎士を務めるヴィータとシグナム、以上五名の消息不明を確認した。 捜査を進めるも、いっこうに成果は挙がらず。 その事件の不可解さから、ロストロギア絡みの難件かとも思われたが、事件はある一人の女性の到来によって、思わぬ進展を見せる。 「クロノ・ハラオウン、ただいま戻りました」 時空管理局巡航L級8番艦・アースラの一室。 ロアナプラでの『例の一件』を済ませてきた少年――クロノ・ハラオウンは報告を終えるため、提督であるリンディ・ハラオウンの下へやって来た。 「お疲れ様、クロノ。どうでしたか?」 「ロックとレヴィ……やはり、両名とも所在不明になっていました。過去に調査した面々と、まったく同じ状況下でです」 「むむ……やはりそうですか。こうなってくるとやはりギガゾンビの目的は……複数人の人間を集めてのバトルロワイアル! これで決まりのようね」 厳格なイメージを漂わせる艦船の中に、あえて和風な茶室をあしらった艦長お気に入りの自室。 そこでクロノを出迎えたのは、提督であり実母であるリンディの他にもう一人。 珍妙なコスチュームに身を包んだ、二十代くらいのうら若い女性がいた。 彼女こそ、なのはたちの失踪事件に思わぬ進展を齎した人物。 名前をリング・スノー・ストーム。 なのはたちと縁のあるアースラスタッフの前にある日突然現れた彼女は、自分のことを30世紀の未来から来たタイムパトロール隊員だと紹介した。 もちろん、やすやすと信じられることではない。 他世界から来たというならともかく、9世紀も先の未来から来たなど、前例がなかったのだ。 すぐには信用を得られなかったが、事件の不可解さとリンディの計らいもあり、リングが無碍に扱われることはなかった。 そして、詳しい詳細を聞いていくうちに認めざるを得なくなったのだ。 未来世界の存在、時間航行の可能性、そして、事件の背後に23世紀の時間犯罪者が潜んでいるという事実を。 「管理局の皆さんと私が調査した結果を照らし合わせてみても、現段階で四十件以上の不可解な失踪事件が発覚しているわ」 「でもそれはただの失踪事件などではない。23世紀の時間犯罪者……ギガゾンビによる誘拐事件だということですね?」 「まったく、今聞いても本当に信じがたい話だよ」 深い溜め息をついた後、クロノはリンディの隣に腰を落ち着かせた。 管理局員二人の前に座る、未来からの来客。彼女が提示した情報は、良くて小学生が考えたサスペンスストーリー、悪くて知的障害者の妄想だった。 未来からやって来た時間犯罪者――過去で事件を起こし、歴史の改変などを目論む輩のことを指すらしい――が、 色々な次元世界及び時間断層を跨いで誘拐を行っているなど、眉唾物と呼ばずになんと呼べようか。 「ギガゾンビは数々の世界を渡り、複数名の人間を集めている。老若男女見境なく、その目的もまた不明。数は現調査段階で四十名以上。 当初は、過去ギガゾンビが起こした事件に関わった民間人5名に対する復讐かと思われたが、被害はフェイトたちのようなまったく面識を持たない人間にも及んでいる。 それでリングさん、あなたが推測するに、ギガゾンビは誘拐した人間たちでそのバトルロワイアル――つまり、殺し合いをさせていると?」 「そのとおりですクロノくん。23世紀、ギガゾンビが収容されていた牢獄に放置されていた一冊の書物、それがこの『バトルロワイアル』という本だったわ」 リングが取り出したのは、真っ黒な表紙におどろおどろしい字面のタイトルが施された、一冊の文庫本。 『BATTLE ROYALE』という名のその書物は、クロノたちが住まう21世紀に創作された小説であり、それ以上でもそれ以下でもない一般的なただの本だった。 ただ、問題なのは中身である。 このバトルロワイアルという小説の概要を簡単に説明すると、『中学生による殺し合い』。言葉はこれだけで足りる。 もちろんそこには厳格なルールが設定されており、サスペンスというよりはゲーム的な要素が強い。 それでも、所詮は一創作物。この本自体になんら警戒する要素はなく、囚役中、これをギガゾンビが愛読していたからといって、特に気にすることもなかった。 だが、ギガゾンビがこういったものに刺激を受け、そしてそれを時空規模で再現してしまおうなどと考えるキチガイとあっては話は別だ。 「恐らく、ギガゾンビはこの本で行われているような殺し合いを、どこかで再現しようとしているんだわ。 彼の逮捕に関与した5人の子供達を含める、様々な世界から誘拐した人間を使って」 「推理小説から得たトリックを使って犯罪に及ぶ者もいないことはないが、こういった普通では実現不可能な設定のものまで参考にしてしまうとは、恐れ入るね」 「リングさん、我々はギガゾンビという男のことをよく知りませんが、その男はそういったことを可能にする力を秘めいてるのですか?」 「ええ。23世紀の時点で時間遡行や次元航行の術は確立されていましたし、ギガゾンビはその時代でも有数の能力を持った技術者です。 異なる時代・世界を渡り歩き、何人かの人間を拉致することは不可能じゃありません。 問題は、拉致を終えた後……ギガゾンビはどこを根城にして、バトルロワイアルを開催しているかです」 原作では、沖木島という架空の孤島を舞台に殺し合いが行われていた。 だが実際問題、時間を飛び越えられるタイムパトロールや、次元間を移動できる時空管理局相手が相手では、孤島などという空間では隔離条件を満たさず、すぐに外部から発見されてしまう。 考えられたのは、双方が手をつけることの出来ない未確認次元世界。そこに閉じ篭っているとすれば、外部から発見される可能性はほぼ無になる。 しかし、管理局でも関与し得ない新たな世界の扉を開き、あまつさえその扉を閉めて内に閉じ篭るなど、いくら未来の技術者といえど容易にできることではない。 できることではないが、まったく方法がないというわけでもない。 なのはたちの失踪が確認されたほぼ同時期、ある世界において不自然な次元湾曲現象が発生した。 街一つをまるまる包み込んだその現象は、犯人不明、手段不明、目的不明のまま、該当世界から湾曲現象の中心となった地域を切り離した。 当初は未確認ロストロギアによる魔力の暴走か何かと思われたが、リングの齎した情報により、それはギガゾンビが研究していた『亜空間破壊装置』なるものの仕業ということが判明した。 「ギガゾンビが作り上げた亜空間破壊装置がどのようなものかは分かりませんが、もし完全なものならこちら側からの探知はほぼ不可能になります」 「でも、ギガゾンビは23世紀の技術者なのでしょう? ということは、彼が用いているのも23世紀の技術。 30世紀から来たリングさんでも手の及ばないものなのですか?」 「いえ、もちろん23世紀の時間犯罪なんて、私たち30世紀のタイムパトロールからしてみれば、お茶の子さいさいです。 ただ、おそらくギガゾンビは我々でも手を焼く要因を二つほど持っているはずです」 「それのせいで、ギガゾンビの犯罪は成立してしまっていると……それで、その二つの要因というのは?」 「一つは我々と同じ時代に住まう人間、30世紀の時間犯罪者の協力があったと考えられます。 その協力者とは、ヒエール・ジョコマン……彼もギガゾンビと同じく服役中の時間犯罪者で、数日前に脱獄が確認されています。 ギガゾンビに拉致されたメンバーの中には野原さん一家、過去にヒエール逮捕の協力をしてもらった家族も含まれていましたから、目的はやはり復讐でしょう」 「それじゃあ、この事件の首謀者は23世紀の時間犯罪者であるギガゾンビと、30世紀の時間犯罪者であるヒエール・ジョコマンの二人であると?」 「最初はそうだったんでしょうけど、現在事件の背後に潜んでいる人物は、おそらくギガゾンビ一人です。 何故なら、ヒエールは既に殺害されていましたから。 犯人はもしかしなくてもギガゾンビ、きっと計画が進むにつれて、利害の齟齬が生まれたんでしょう」 「利用するだけ利用して、不要になったら切り捨てるか。どの時代でも犯罪者の思考っていうのは変わらないな」 クロノの酷評が飛び、一堂は神妙な面持ちのままお茶をすすった。 ギガゾンビが完成させた亜空間破壊装置。 その名のとおり空間を破壊し、世界から切り離すことのできるそれは、30世紀のタイムパトロールや時空管理局の技術を持ってしても、一筋縄ではいかないものだった。 だが、事件の進捗具合に関わらず、時は進んでいる。 こうしている間にも、ギガゾンビ主催の殺し合いは着々と進行しているかもしれないのだ。 ただただ不甲斐なく思い、各々が拉致された者の安否を心配した。 「それで、もう一つの要因というのは?」 湯のみを膝元に置き、クロノが会話を促した。 「ロストロギアです」 リングから返って来たのは、クロノやリンディにとって因縁深い単語だった。 「ギガゾンビは管理局の皆さんでも関与し得ない未確認のロストロギアを用い、亜空間破壊装置を完成させたと思われます。 そうじゃなきゃ、例え30世紀技術の協力を得たとしても、我々の目を掻い潜ることなんて不可能ですから」 「30世紀の未来でも、ロストロギアの管理は行われているのですか?」 「残念ながら、それは禁則事項に当たるためお答えできません。 ですが、おそらくギガゾンビが用いたのは、この時代で発見されるはずだったロストロギアです」 「闇の書やジュエルシードの一件からして見ても、ロストロギアが保有する能力には僕らじゃ計り知れないものがある。 それに未来技術が加味されたとするならば、完璧な空間隔離も可能になるということか」 唸りを上げる三名の表情は、明らかに狼狽していた。 23世紀の時間犯罪者が、30世紀の技術とロストロギアを用いて実行した此度の事件。 過去にあったものとは比較にならないほどの難解ぶりを見せていた。 「何か、これといった打開策はないのですか?」 「現段階では地道な捜索活動を続ける他ありません。 そもそも、この事件の首謀者はギガゾンビなのですから、捜査は23世紀のタイムパトロールに一任するべきなのですが…… ヒエールやロストロギアが関わっているともなれば、黙っているわけにもいきません。 私個人の意見としましては、野原一家の皆さんに恩返しもしたいですしね」 歴史に無駄な痕跡を残さぬ目的もあり、リングは23世紀のタイムパトロールとは直接的な捜査提携を結んでいない。 が、ギガゾンビが脱獄した以上、彼等も独自に捜査を進めていることは間違いないだろう。 問題なのは23世紀のタイムパトロールの方針であり、彼等は規律を第一に考え、過去への干渉を著しく嫌う傾向がある。 故に、21世紀の時空管理局とコンタクトを取る、などといった柔軟な捜査を行うことが出来ず、今頃は捜査も滞っているに違いなかった。 「結局のところ、僕らにできるのは成果の挙がるかどうかも分からない捜索活動だけ。 ……それなら仕方がない。じたばた足掻かず、その地味な捜索活動を続けようじゃないか」 「ありゃま。随分と諦めが早いんですねクロノくん」 「諦めたわけじゃないさ。ただ、拉致された参加者の中にはなのはやフェイトがいる。 ギガゾンビがいくら優れた技術者といっても、所詮は人の子だ。神じゃない。 なら、殺し合いに巻き込まれた当事者たちに足元を掬われないとも限らないからね」 「う~ん……確かに、あの子たちが捕まったまま大人しくしているところは想像できないわね」 「そ、そんな楽観的な! 確かに私たちができることは限られていますけど、そんな、攫われた人たちが自力でどうにかするのを期待するなんて ……いや、でもしんちゃんなら、ひょっとしたらひょっとするかも……と、とにかく! 私たちはこのまま捜査を続けましょう!」 「それはもちろんですよ、リング・スノー・ストームさん。 こちら側だって、完全に手詰まりになったわけじゃない。頼りになる協力者は、まだまだいますから」 「あの子達は人望も厚かったからね。管理局全体を動かすことは無理だとしても、アースラの乗員は彼女達を見捨てたりはしません」 「ご協力感謝します! リンディ・ハラオウン提督、クロノ・ハラオウン執務官! この事件、絶対に解決させましょう!」 ――いかに観客が騒いだところで、試合を決めるのは当事者たる選手たちである。 事件が既に多くの悲劇を生んでいたとしても、彼等はそれを知ることはできない。 物事を解決し、平穏を掴み取ることができるのは――結局のところ、災難の中心にいる者たちだけなのだ。 それでも、努力はいつか実るもの。 生きたいと願う気持ちが希望を創り、綻びを作り上げる。 外と内、連絡の取りようがない間柄でありながらも、双方の努力は決して無になったりなどはしない。 そう、だからきっと――