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夜の始まり、旅の始まり -Fate- - (2022/05/20 (金) 23:35:31) のソース
*夜の始まり、旅の始まり -Fate- ◆2kGkudiwr6 &br() &br() &br() 私は――その時にはもう、覚悟は決めていたのです。 ■ 「フェイト、あのでかいのは?」 「多分、もうそろそろ私達に追いつくころだと思います」 「相手の暴走開始が予想より遅かったのは幸運……なのかしらね。 レイジングハート、魔力を流して強引に直したばっかりだけど……やれる?」 『No problem』 夜空には、月と星の瞬き。 川には、その写し身を遮る暗黒のドーム。 そしてそれに相対するのは、二人の魔術師と、一人の女神。 「――始まる」 背中を金色の星光に、顔を破壊の光に照らしながら、凛は相手を空から見下ろした。 光を生み出すのは、漆黒の火柱。破滅の予兆が、ドームに包まれた暗黒を開放していく。 「夜天の魔道書を、闇の書と呼ばせた呪われた魔術機構――闇の書の闇」 「ええ。 私が今まで戦った中では……きっと、一番危険な相手」 「それで、どうなの?」 そうして、凛は傍らにいるフェイトに言葉を投げかけた。 論点はただ一つ。 フェイトの経験が、そのまま通じるかどうか。 「その時と同じ? それとも、弱くなってるのか、まさか……」 「……分かりません。 弱くなっている可能性もありますし、強くなっている可能性もあります」 凛の言葉に、フェイトは首を振る。 正直、考え込めば込むほど分からない。不確定要素が多すぎる。 弱体化要素は、ギガゾンビの能力制限や空間操作。 強化要素は、これがリインの管制人格が切り離されていない、正真正銘の暴走であること。 そして、寄り代となる存在を体内に取り込んでいること。 前回の戦いは、管制人格とその主を脱出させた状態、言わば暴走プログラムだけを相手した戦いだった。 だが今回は――本当に暴走した闇の書そのものを相手にしなくてはならない。 「……それでもプラスはあります。 今回の私達の戦いは、周りの被害を気にしなくて済む。 私が倒せなくても、最悪――暴走する前に救援を呼ぶことさえできれば、 アルカンシェルで周辺ごと吹き飛ばせます」 「アルカンシェル?」 「あ、えっとですね……義母さんが乗ってる艦船に搭載された強力な火器です」 「…………」 フェイトの言葉に、凛は呆然として目を瞬かせて。 「……それって、魔法じゃない気がするんだけど」 「使われてる理論は魔法です」 なんとか出した言葉は、一瞬で返された。 凛からすればとんでもない理論だが、フェイトからすれば当然の理論だ。 愚痴の一つでも吐きたい凛だが、そんなことをしている場合ではない。 「ま、要するに。出たとこ勝負でいくしかないってコトね」 凛は、そう溜め息を吐いて、後ろに手を回して。 「Los――」 頭の部分を突起に変えた蛇のような触手を、神人が握りつぶしているのを確認した。 「……今撃つとこだったのに」 「凛さん、ぼやいている場合じゃないみたいです」 更に素人に叫ばれて頬を膨らませる凛の言葉は、あっさりとフェイトに流される始末。 実際、眼下では闇が咆哮を上げ始めている以上、そんなことをぼやいている場合ではないのだが。 再び溜め息を吐きながら、凛はもう片方の手をレイジングハートに添え。 『Buster mode』 「全く……鬱憤晴らしくらいさせてもらおうかしら」 魔術師としての表情を、表に出した。 紡がれるのは独語の詠唱。それから生み出されるのは桜色の光。 流星は夜空に輝いて、敵を討つ光と化す。 それに倣うように、フェイトが夜闇の中で雷の戦斧を敵へと向けた。 「行きましょう。きっと皆、無事に帰れるように!」 凛からの答えはない。 ただ、神人が反応したかのように、ゆらりと体を揺らした。 ■ ――予想はしていた。 もし私が『彼女』ならば、同じ選択をしただろう。 ■ 巨腕がなぎ払われる。 巨人はその名の通り、神の意志の下に敵を易々と粉砕する。 だが世界を創るものが神と呼称されるなら、世界を破壊するものもまた神だろう。 故に―― 「ハルヒさん危ない――プラズマランサー!」 「ディバインシューター!」 拮抗……いや、圧倒する。 なぎ払われるのと同時に生み出された禍々しい触手は、神人を絡み取る寸前に魔弾によって千切れ、吹き飛んだ。 そうして水面へと崩れ落ちる触手は――数秒後には、また失った先端を変異させて再生する。 「……ったく、これじゃいたちごっこじゃない!」 「それならそれでいいんですけど、攻撃がどんどん活発になってきてます!」 曲芸飛行並みの無茶な軌道で二人が飛んでいく合間にも、相手の手数は増えていく。 当たり前といえば当たり前だ。暴走する前までは、言わば休眠状態を取っていたようなもの。 眠りから覚めて行動し始めた以上……時間が経てば経つほど活発に活動するようになるのは当たり前。 そして偽物とは言え、ジュエルシードという機構を取り込んだ今の闇の書の闇に、魔力の限界など存在しない。 「この手の相手は本体を叩いてさっさと終わらせるのが定石なんでしょうけど…… ねえ、以前戦った時より防御力が上がってる可能性はあると思う?」 「いえ、増えている事はないと思います。最悪でも、同じくらいの強度だと……」 「で、その強度は?」 「私の全力攻撃と同じ攻撃を四つ使って、やっと全部のバリアが突破できる位です」 「……もしそうだったら、突破するのは諦めるしかないか」 そう呟いて凛とフェイトが左右に離れるのと、五本もの触手が突進してきたのはほぼ同時。 目標を見失い、勢いがついたまま直進する触手は二人によって容易く殲滅されるだけに終わるだけ。まるで相手にもなりはしない。 だが、所詮これは一部でしかない。生産量を増していく魔力は暴れて走り出し、更に闇を増していく。 そのまま――闇は、一つのラインを踏み越えて、内部からあるものを読み取った。 「……あれは?」 「砲撃用の触手です。以前はアルフ達が一気に全滅させてくれたんですけど……」 「人手不足の私達には無理ってわけね」 水中から現れた新たな異形に、フェイトはバルディッシュを強く握り締めるしかない。 以前の戦いにおいては、ひたすら攻撃を続けることにより相手の反撃を許さずに完封することで、こちら側への勝利へと繋げた。 前回の戦いにおいてはフェイト達の方に時間制限があったからだが…… つまり、それは闇の書の闇がどんな攻撃をしてくるかはあまり体験してはいないということだ。 要するに砲撃してくること自体は分かっても、それがどれくらいの強さかは分かってはいない。 今回の戦いがどちらかと言えば防衛を重視するものである以上、攻撃を重視した前回の戦いの経験はそれほど活かせないのだ。 そもそも、前回と今回では敵の強ささえ変わっている可能性があるのだから。 「……どの道、試さない限りは分からない、か」 「凛さん?」 「少し無茶な作戦があるけど、いいかしら?」 「?」 首を傾げたフェイトに、凛は周囲にディバインシューターを飛ばして牽制しながら説明した。 もっとも説明といっても簡潔明瞭、数秒で済む物だったが。 同時に、ハルヒへも念話を飛ばして同じ内容を同時に伝達する。 魔力さえ持っていれば、送信ならともかく受信だけなら念話は容易だ。 接近してきた触手を断ち切りながらも、フェイトはこくりと頷いた。 「私は賛成です。 確かに危険ですけど……このままあやふやなまま戦い続けるよりはましだと思います」 『じゃ、そっちもいい? 念話で話した通りに動いてちょうだい』 そう念話を送った後に神人がわざとらしく体を揺すったのは、肯定の意を示したからで間違いない。 それを確認とすると同時に、フェイトは魔杖に呼びかけながら一気に前方へと飛翔した。 もちろん何の障害もないはずはなく、獲物に食いつこうと次々に触手がその足を伸ばしていく。 何の回避運動も取ろうとしないフェイトに攻撃を当てることなど容易。まるで押しつぶすのように、全方位から異形が包み込んで。 「バルディッシュ!」 『Jacket Purge, Sonic form』 寸前で、全てが吹き飛ばされた。 爆発の中、煙を吹き飛ばしながら現れたのは、マントをなくしたスパッツだけのような形態――ソニックフォームのフェイト。 先端を失い無力化された触手に一瞥さえくれず、フェイトは前だけを見つめて進む。 向かう先には、本体の周辺に展開された十を越える数の触手。その数は更に増え続けていく。 いくら速くても、自分から相手に向けて突進する以上攻撃を無視することはできはしない。 「……邪魔ッ!」 迎撃のため伸びてきた触手の攻撃を敢えて寸前で回避し、蹴り飛ばして方向転換。 そのまま同時に放たれていた金色の砲撃を回避する。 後ろから触手が追撃してくることはない。その先端を両断されては、止まらざるを得ない。 ほんの百分の一秒にも満たない接触。蹴り飛ばした瞬間に、逆手に持ち替えた雷の鎌が触手を斬り飛ばしていた。 その後も同様に、次々に襲い掛かる相手を一瞬の接敵で避けながら切断していく。 五本目を切断した周辺で、桜色の砲撃を回避しながらフェイトは一旦離脱した。 『どうだった?』 『前戦った時と違うのは、私達の知らない砲撃じゃなくてリインフォースと同じように私達の魔法を使って攻撃してきたこと。 けれど、制御も甘いし狙いも甘いし、ただ考えなしに乱射しているだけです。 威力も、リインフォース自身が使った魔法の方が強かった!』 『要するに攻撃においては強くなってもいるし弱くもなっているってワケね。 それなら……』 『Load cartridge』 爪を伸ばしてきた触手を旋回飛行して回避しながら、凛は不屈の名を冠する杖をかざす。 小気味よい音と共に薬莢が排出され、同時に環状魔法陣が杖を覆うように展開。 ターゲットは言うまでもなく、凛や神人から意識を逸らし出した砲撃形の触手だ。 「同じ分家ならちゃんと使いこなした方が上だって、教えてあげるわよ!」 『Divine Buster Full Power』 撃ち出したのは、カートリッジを使用することにより強化された広範囲への砲撃。 ディバインバスター・エクステンションの長射程を犠牲に、広い攻撃範囲を得た魔砲だと思えばいい。 2,3本は凛へと向きを変え、砲撃で迎え撃ったのものの何の意味もない。 桜色の閃光は相殺どころか易々と押し勝ち、放たれた光を押し返して射手となった蛇のような生体砲台を貫通し…… 本体に直撃する寸前で、霧散した。 『……やっぱり』 『前と同じです。あの障壁を抜かない限り、攻撃は届かない……』 そう念話で会話する二人の表情には、内容ほど落ち込んだ様子は無い。 障壁があること自体は予測できたことだ。問題は、それがどれほどの硬さなのか。 それを調べるには、威力を変えながら攻撃していくしかない。だから。 『今です、ハルヒさん!』 二人が囮となって注意を引きつけた隙に接近した神人が、得物を障壁へと叩きつけた。 月光を映した水面がかき乱され、鈍い色の障壁が砕け散ったのがハルヒでも分かる。 だが……神人の鉄槌は本体にまで届いてはいない。 二枚目の障壁。それが、まるで電流を流したかのような色合いを見せながら攻撃を受け止めていた。 「一枚だけなんてことはないか……!」 『Zamber form』 離脱していたフェイトが、得物を大剣を変えて再び接近する。 相手の反応はあくまで本能的だ。近づいてくればそちらに気を逸らすし、派手なものには気を移しやすい。 巨大な神人はまさにこれ以上なく派手なものだろう。フェイトにとっては最高のチャンス。 もちろん、先ほど攻撃を仕掛けた神人は隙だらけだ。カバーをする必要がある。 しかし、神人のカバーを担うのはフェイトではない。 「させない! Verteidigen Sie(守れ)!』 『Sphere Protection』 赤い球状のバリアが、神人を覆う。 元々凛が持っている魔術の知識は、結界や強化などの魔術が多い。 つまり宝石抜きで考えると、ミッドチルダ式で言えばユーノとクロノの中間、アルフに近いタイプだ。 故に、アクセルシューターよりスフィアプロテクションを早く習得するのは至極当然なこと。 神人に巻きつこうとした触手は、尽くがバリアに弾かれ水面に落ちていく。 再び水面は乱されて――天からの光を、その表面に映し出した。 「撃ち抜け――雷神!」 『Jet Zamber』 金色の円形魔法陣の中心。そこに雷が落ち、今までさえ十分大きかった剣が更に伸張した。 神人ほど巨大な物体を覆うほどのバリアだ、術者にはそれ相応の負担と隙が生まれる。 だからこそ凛はハルヒのサポートに徹し――砲撃はフェイトが担当する! 以前戦った時に同じように行使した魔法。しかし、今回は同じ結果にはならなかった。 フェイトが百メートル近くまでに伸びた大剣を振り下ろす寸前、 神人に狙いを付けていた砲撃用の触手が突如向きを変えたのだ。その数、十本! 「しまっ……!」 既に開始された攻撃を止めるのは不可能。このまま振り下ろすしか手はない。 それでも、フェイト自身が砲撃を受けることはなかった。受けたのは、魔力によって具現化された雷剣。 ジェットザンバーを相殺するには乏しすぎる威力だが、障壁を抜けない程度にまで威力を軽減させるには十分すぎた。 「く……!」 『Haken form』 「早く下がりなさい!」 『Divine Shooter』 元の長さに雷剣を戻して離れようとするフェイトへと、容赦なく追撃が叩き込まれていく。 触手から放たれる砲撃の魔力光はそれこそ色々だ。桜色に金色、銀色の光が奔る様子は幻想的でさえある。 それでも、ディバインシューターの援護を受けながらフェイトは触手本体の突撃も砲撃も一つの例外さえなく回避する。 ……闇が、砕かれた障壁を再構築していく様子を見ながら。 歯を噛み締めつつ、フェイトは水面を滑るように飛んで念話を送った。しかし。 『障壁を突破するのは、相当難しいと思います。 障壁の数は少なくとも二枚。 相手の攻撃を無視して三人がかりで勝負を掛けたとしても、突破できるのは二枚が限界。 やっぱりここは攻撃を加えるのは諦めて、逃げ回るしか……』 『…………』 『……凛さん?』 凛に、反応はない。 フェイトは思わず、もう一度言葉を送って。 『フェイト……急いで、離脱して』 やっと凛から答えが返ってきたのと、第三者からの新たな砲撃が開始されたのは、同時だった。 思わずフェイトも驚いたが、凛からの言葉を聞いてすぐに納得した。 十分に、ありえたことだからだ。 『凛さんは自分の離脱を優先してください! 神人の離脱は済んでるんですよね?』 『う、うん、そうだけど……』 『私が闇の書の闇を機動力で撹乱して、上手く乱戦に持ち込ませます。 そうすれば、相手同士で同士討ちしてくれるかもしれませんから』 そう告げて、フェイトは再び闇へと向き直った。 ■ 「敵が接近してきてるって? どういうこと?」 『城に向かったメンバーととっくに戦闘に入ってるけど、いくらかがこっちにも向かってるわ。 最悪、病院にまで行きかねないから、神人を一旦撤退させてそっちの防衛に回して。 無駄な消費を抑えるためにグラーフアイゼンも待機。あんな大きさじゃいい的よ』 「ちょっと、もう少し詳しく! ……ダメか」 凛から送られた念話に、ハルヒは思わずそう聞き返したが……反応はない。 ハルヒにこれほどの距離で念話を送るほどの技術はまだない。 要するに彼女の念話は受信のみであり、疑問を伝えようにも伝えようがないのだ。 「……ん~」 それを分かっているから、ハルヒは行動を変えた。目を閉じて、意識を集中する。 どんな生物でも、同じコトを繰り返せば慣れる。 ハルヒも同じだ。無我夢中で何も分からないままだった最初とは違い、それなりに神人を自由に操れるようになっていた。 神人越しの視界を得る程度なら、できるほどに。 「あれが……ツチダマだっけ。こうして見ると強そうに見えないけど…… かなり、まずいかも」 そうして再び目を開けたハルヒの言葉は、重い。 凛が危機を抱いた物とはまさしく、ツチダマの軍団だ。 フェムトが派遣したツチダマ。大部分はレヴィ達の迎撃へと向かったものの、闇の書へも同様に軍を向けられている。 圧倒的な数で武器を運びながら移動してくれば、警戒するのが当然。 ましてや、相手が未知のものを操るなら尚更だ。 彼女には魔法の知識も銃器の知識もろくにないけれど。 視界いっぱいに広がるほどの数の暴力ぐらいは、理解できるつもりだ。 「とりあえず、神人は言うとおり下がらせるわよ。 ……ちょっとだけ、物探しにね」 ■ 凛の眼下で川岸を埋め尽くすツチダマの群れ。 水面に映っていた揺れる月は、無粋な闖入者によってその姿をかき消されている。 それらが放つ弾幕を、凛はなんとか防ぎきっていた。 「こいつら……!」 『Flash move』 地上から火線が奔る。夜を昼に変えるほどに。 幸いにして、闇の書の闇の注意は凛から逸れている。 重力に身を任せて急降下し、少し行った所で90°横へと移動方向を変更。 ほとんどの弾は狙いを絞りきれずに無駄弾となり、 いくらかは後ろで蠢いている触手とぶつかって花火を上げた。 ツチダマの主武装は重火器や未来の秘密道具。 銃弾にペンシルミサイルに空気砲に……闇の書の闇の作る弾幕とは違う方面でバラエティがある。 だが、それが人を害することができるのは変わりない。 こうして撃っているツチダマの数は少なくとも、軽く三桁には届いているだろう。 その各々が何かしらの武器を用意している。そして、何より最悪なのは…… 「全然闇の書の闇に近づこうとしない……!」 『恐らく、まず私達を最初に片付けようという事でしょう』 「短期決戦よりじわじわ追い込もう、ってワケね……」 闇の攻撃は無差別だ。だが、当然遠い敵よりは近い敵を狙うに決まっている。そして、その移動速度は極めて遅い。 ただでさえ凛達は戦闘中で接近していたのだ、距離を調節すれば挟撃することは簡単。 ある程度離れていた上防御手段にもそれなりに優れている凛や、護衛されて下がったばかりの神人はまだいい。 問題は、接近攻撃を行ったばかりのフェイト。 フェイトには、防御しながら強引に突破するという選択がない。というよりできない。 理由は単純、フェイトは防御が苦手だからだ。 現にツチダマからの追撃が加えられて闇の書の闇の射程範囲から離脱することもできず、 二方面からの攻撃を回避することしかできていない。 もっとも、これはツチダマ達の臆病さや士気の低さなどからくる、 できれば離れて戦おうという不真面目極まりない考えも原因なのだが。 「私がなんとかするしかない……レイジングハート、突っ込むわよ!」 『All right』 その言葉と同時に、凛は加速した。 スフィアプロテクションを展開しながら、敵陣のど真ん中へととんでもないスピードで突っ込んでいく。 無論、それをお迎えするのはツチダマからの盛大な花火だ。 星の光が地を照らすよりも明るい火線が、文字通り火花を上げていく。 いくら強固な魔術障壁でも、耐え切れるものではない。 衝撃のためか、凛の飛翔は止まり。球体状のバリアは、あっさりとひび割れ……そうして防御は破られた。 ■ 水を切りながら飛ぶ。 ただ、低く飛ぶことしか出来ない――上空は弾幕の制圧化にある。無謀に飛び上がれば、一瞬にして撃ち落とされるだけだ。 「――く!」 『Load cartridge, Defenser plus』 フェイトの左半身を半球状の膜が覆う。同時に、空気砲が四つほど連続して着弾していく。 だがそれに安堵している暇は無い。素早くフェイトは向きを変え、銀色の砲撃を回避した。 同じ砲撃でも、ディバインバスターとサンダースマッシャーでは微妙に差異がある。 それでも、一つずつ撃たれるなら余裕だ。理性のない攻撃に苦戦するほどフェイトは甘くない。 しかし砲撃を行う触手が十本以上あり――更に、川岸からも銃撃が加えられるとしたら? 『Haken Saber』 すぐ脇の水面に突き刺さった触手を切断し、その勢いで錐揉み回転して砲撃を回避。 更にそのままの勢いでバルディッシュ先端の刃を投擲し、砲台となっている触手の一部を両断する。 そのまま直進しようとして……フェイトはすぐに反転した。 目の前で違う爆発が起き、水を巻き上げる。砲撃によるものではない。ツチダマの運んできた無敵砲台によるものだ。 川岸に陣取ったツチダマ達が、その武器を片っ端からフェイトへと向けている。 「上陸させるなギガ! あいつを化け物に近づけて標的にさせるんだギガ! 口でクソたれる前にギガと言え!」 「ギガ、了解であります、ギガ!」 様々な秘密道具や銃火器が片っ端から放たれる。 熱線銃の熱線が次々に水面に直撃して水蒸気を吹き上げ、 それで途絶えた視界を縫って空気砲が沸き上がったばかりの蒸気を吹き飛ばしながら飛来し、 止めとばかりにバズーカ砲が連射される。 とっさに退いたフェイトだが……忘れてはならない。隻眼となった彼女の視界には、死角が存在することを。 気付いた時にはもう遅い。脇から触手が叩きつけられ……その体は、軽々と吹き飛ばされていた。 ■ *投下順に読む Back:[[終わりの始まり Border of Life ]]Next:[[きらめく涙は星に -Raising Heart-]] *時系列順に読む Back:[[陽が落ちる(5)]]Next:[[きらめく涙は星に -Raising Heart-]] |293:[[陽が落ちる(5)]]|遠坂凛|295:[[きらめく涙は星に -Raising Heart-]]| |293:[[陽が落ちる(5)]]|フェイト・T・ハラオウン|295:[[きらめく涙は星に -Raising Heart-]]| |293:[[陽が落ちる(5)]]|涼宮ハルヒ|295:[[きらめく涙は星に -Raising Heart-]]|