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攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX - (2022/05/22 (日) 14:04:59) のソース
*攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX ◆B0yhIEaBOI 20世紀末に相次いだ、世界国家間での軍事的衝突。 無論、その影響を日本だけが逃れることなど不可能であった。 度重なる騒乱に、揺らぐ国際関係。 そして、1999年。日本旧首都圏である関東地方に、核が打ち込まれることとなる。 戦火の中で物理的、精神的両面から日本が負った傷は深く、そしてその治癒は同時に、深刻な社会的不安定をもたらすことになった。 増加する一途の凶悪犯罪。混迷する社会。 それら事態の収拾の為に、事件を未然に防ぐことを目的に結成された、攻性の公安組織。 表向きは八つしかない警察組織における、第九番目の公安課。 それが、公安九課――通称、攻殻機動隊である。 神戸沖合いに浮かぶ新浜ニューポートシティ。 それは、戦災で傷ついた日本における、復興と再生のシンボルとも言える。 乱立するコンクリート製の林。その中の一つが、九課が本部を構えるビルである。 そして、この重厚なドアの向こうに、その九課を束ねる男――荒巻大輔が居た。 「トグサです。入ります」 そう断り、トグサは課長室内に入った。 だが、それを横目に、荒巻は渋い表情で手元の紙束を睨んでいる。 それは、トグサが前日に提出した始末書であった。 「で……だ」 机を挟んで立つトグサを前に、荒巻がもったいぶるように言葉を選ぶ。 その顔には、明らかな不快感がありありと浮かんでいた。 「トグサ。お前は今の自分の状況をどの程度把握している?」 唐突な質問。 だが、トグサはそれをある程度予想していたように、答えを返す。 「そう……ですね。本来なら、『電脳硬化症及びその類似疾患疑い』の名目で、 病院――それも精神性疾患専門の病院に叩き込まれる寸前の猶予期間中――といったところですか」 「ふむ。病識はあるようだな」 荒巻はそう言いながら、皺の寄った己の眉間を指で揉む。 荒巻がここまで露骨に感情を表に出すのは、極めて異例なことである。 つまり、事態がそれだけ『異例』のことなのだ。 前触れなく生じた、九課メンバーの失踪。 そして、再び前触れ無く帰還した隊員による、同メンバーの死亡報告。 更には、それらの原因を「魔法」だの「未来科学」だので説明する事後レポート。 これら『有り得ない』事態の集積が、荒巻の神経を酷く苛んでいた。 「では、お前は自分で書いたこのレポートがどんな意味を持つのか、理解できているのか? これを要約すれば――少佐とバトーという貴重な人材の損失の原因を、フィクションそのものに求めるということだぞ。 更には、そのフィクションの存在証明は、この世界への影響を考慮して差し控える、だと? 内閣広報部でももう少しマシな言い訳をするぞ。 それとも、公安を辞めて小説家にでもなるつもりなのか? それならば馴染みの出版社を紹介してやらんこともない――」 「課長」 珍しく感情的に叱責する荒巻を、トグサが遮る。 そして、荒巻の非難が再開するまでの間隙を縫い、ささやかな弁明を紡ぎだす。 しっかりとした声で。明確な意思の力を込めて。 「確かに、そのレポートの内容は荒唐無稽で根拠薄弱もいいところです。 ですが信じてください。それは紛れも無い事実なんです。 事実として、少佐とバトーは死に、俺は生き残った。 だから、生き残った俺には、それを課長に正確に報告する義務があると考えています。 まあ、信じろって言っても、この内容じゃあ信じられないのも仕方が無いかもしれませんが…… でも、どうか……あいつらの最後ぐらいは、課長は知ってやってください。お願いします」 荒巻を見るトグサの目には、一点の曇りも無い。 その目を見た荒巻が出来ることと言えば、ただ一度、深いため息を付くことだけだった。 重苦しい空気の中、荒巻が再びその重い口を開く。 「……言っておくが、今回の失踪事件に関して、儂の独自ルートで関連の疑いのあった背後関係を徹底的に洗ってある。 そのせいで、痛くも無い腹を探られた者共からの圧力が増していてな。 それを躱すにしては、このレポートではいささか共感性が乏しいな」 「課長、それでしたら後日俺から辻褄のあうレポートを改めて……」 「いや、事態はお前が思っている以上にデリケートだ。 臆気もなくこんなレポートを出すような男に、その繊細なバランスが取れるとは期待していない。 それよりもお前にはやって貰う事がある」 そう言って、荒巻は一冊のファイルをトグサに投げ渡した。 それは、ラボによるタチコマのニューロチップ分析結果の途中報告レポートだった。 「お前が持ち帰ったタチコマのニューロチップ……その中に、未知のプログラムの痕跡が含まれていることが判明した。 現在ラボにてそのデータの解析作業中だが、実際にそのプログラムを使用したというお前なら解析の手助けにもなるだろう。 今すぐラボに行き、その解析作業に協力しろ」 「――課長! それって、俺のレポートの裏付けになる証拠じゃないですか! それを知ってるんなら、最初から俺のレポートを信じてくれても……!」 「勘違いするな。お前のレポートが現実味に乏しいことと、タチコマのチップに未解析データが含まれることは、全く別の事象だ。 それらを安易に関連付けるべきでは無い。が―― 現状では、それらを限定的にでも関連付けることが、最も可能性を拡張できると判断したまでだ。 人的損失を少しでも補填できる可能性があるのなら、今はそれを無視する訳にもいくまい。 そもそも、お前の電脳汚染の疑いがある中で、お前を第一線の捜査に戻すのにはリスクが高すぎる。 その是非を測るテストとリハビリを兼ねている、とでも思っておけ」 荒巻の一方的な命令は、つまりは――トグサの、現場復帰許可と同意である。 「言っておくが『辞意を持って今回の責任を取る』などという甘ったれた考えを持っているのなら、さっさと捨ててしまうことだな。 唯でさえ人員不足な上での欠員だ。貴様には辞職などする権利は無いと思え。 せいぜいこき使ってやるから、己の働きで持って責務を果たすのだな。 さあ、さっさと仕事に戻れ! 自分の精神疾患疑いなど、医師の手を煩わせずに自分の行動で晴らして見せろ!」 つい先ほどまでの、退職勧告とも取れる叱責からの一転。 この、周到なまでの事前工作と情報掌握力。 そして、有無を言わさぬ政治的手腕。 これが、九課を纏め上げ維持していく上での、荒巻の持つ武装である。 ――全く、この狸オヤジが。 「ん? 何か言ったか?」 「いえ。それでは、俺は仕事に戻ります。失礼しました」 だが、課長室を出るトグサの耳には、恐らくこの言葉は届かなかっただろう。 「……よく、生きて戻ったな。それだけは褒めてやろう」 ・ ・・ ・・・ ・・・・ ・・・・・ ――サ君、トグサ君! 「……ん、ああ、タチコマか。どうした?」 電脳からの通信がいつの間にかオープンになっていた。 即座に思考を現実世界に呼び戻す。 「どうしたじゃないよトグサ君! 作戦開始時刻まであと10分切ってるよ! そんなぼさっとしてて良いのかな? かな?」 「おいおいトグサ、また例の魔法世界の空想に浸ってたんじゃあないだろうな?」 イシカワの冷やかしが耳に痛い。 だが、その皮肉を黙殺し、改めて現場の状況を再確認する。 状況は相も変わらず、極めてシビアだ。 だが、その不可能を可能にする。それが我々――攻殻機動隊なのだ。 「状況を再度確認する。制圧対象は誘拐犯グループ、保護対象は財務省副長官及び次官2名。 制圧対象は重火器にて武装している。複数の思考戦車の存在も確認。 尚、当案件は非公式事例であり、マスコミなどへの暴露を最小限に抑えるためにも、作戦遂行は極めて短時間に行わなければならない。 作戦開始時間は1900、1930までに制圧対象を鎮圧、無力化し保護対象を救出、現場から撤収する。 俺とボーマ、パズ、は現場施設内への突入、サイトーは遠距離からの行動支援、 イシカワは現場のネットワークに侵入、撹乱を計れ。タチコマ各機は思考戦車の足止めだ。戦闘は最大限小規模に抑えろ。 連絡は以上だ。各員、配置に付け!」 「へえ、少しはそれっぽくなってきたじゃねえか。まだまだ青臭いがな」 「もう勘弁してくれよ。小言なら仕事の後に聞かせてくれ。今は目の前の任務に集中する」 「了~解。しっかりやってくれよ? 頼りにしてるぜ、隊長さん!」 人は、時の流れに逆行することは出来ない。 過去は、情報として記憶、蓄積されるだけだ。 死は、不可逆で、覆らない。 だが、死した人間の価値を決めるのは、今生きている人間だ。 そして、その価値は、生きている人間が絶えず証明し続けなければならない。 それが、死んだ者を、彼らが残した“情報”を、生かし続けるということなのだ。 それが……生き残った人間の―― そう、それが、俺の責務だ。 18:59:58 18:59:59 19:00:00――――作戦、開始。 アニメキャラ・バトルロワイアル 攻殻機動隊 END *投下順に読む Back:[[After1 -Engel- ]]Next:[[答えはいつも私の胸に]] *時系列順に読む Back:[[After1 -Engel- ]]Next:[[答えはいつも私の胸に]] |298:[[GAMEOVER(5)]]|トグサ|