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「うん、それ無理」 - (2022/06/05 (日) 22:12:13) のソース
**「うん、それ無理」 ◆LXe12sNRSs 開始早々、ルイズは朝倉涼子に襲われた。 「――きぃゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」 本当に、開始早々。すぐに。時間に直すと、ゲームがスタートして五分と四十四秒しか経っていない。 今、自分が立っている地点、、辺りの光景、荷物をざっと眺め、その時点で約五分。 まだ行動方針の「こ」の字も決めていない、どうしようかと思案もしだしていない内に、ルイズはセーラー服を着た女子高生に襲われたのだ。 「破損したデータがなんの前兆もなく唐突に修復することってあると思う? それも不完全な形で。 他の統合情報思念体とコンタクトが取れないのも、こんなゲームが行われることになったのも、私がここにいるのも。 全ては何者かが仕組んだ、重要な意味を持つことだと思うの。もちろんそれは、あの主催者を名乗っていた怪物じゃなくて、もっと大きな存在。 分かりやすく言うと神様みたいな、そういう絶対的な存在。涼宮ハルヒが参加していることが、何よりの証明だと思うのよね」 出会って、追われて、逃げて、ルイズは薄暗い林の中まで迷い込み、そして、 (なに言ってるのコイツ――――ワケワカンナイワケワカンナイワケワカンナイ) 今、追い詰められていた。 「い……や……嫌ぁ……助けて……たすけて……」 「それ無理。理由はまだ分からないし、いくつか捻り出したパターンはどれも空想の域を出ないけれど、やっぱり私がここにいるのには何か意味があると思うの。 殺し合いのゲームの中に、わざわざ消去された存在が呼び出された。何をしろって言ったら、やっぱり殺し合いだと思うのよね」 ワケワカンナイワケワカンナイワケワカンナイ。 言語は理解できるのに、その内容がまったく理解できない。 ここは何処なのか、この女は何者なのか、どうして死にそうな目を体験しているというのか、 「このゲームに涼宮ハルヒが関わっている可能性は、間違いなくゼロじゃない。だから私は、言われたとおり他の参加者を殺して涼宮ハルヒの出方を見る」 淡々と一人会話を進める朝倉の笑顔は、とても自然で楽しそうな……この「人を襲う境遇」を、楽しんでいる。そう思えるような笑顔。 涼宮ハルヒって誰? あなたは誰? そもそもアレはなんだったの? いきなり首が破裂して、え? え ?え? 混乱が収まらないルイズは、朝倉の不気味な佇まいに恐怖するばかりだった。 走って、走って、また走って。まるで猫に追いかけられる鼠の気持ちだった。 こんな屈辱、絶対に許せない。普段のルイズだったら、怒り狂って乱心するところだろう。 しかしそれが叶わないほどに、朝倉涼子は異常だった。 ちなみに、朝倉涼子が削除されたはずの自身の状況に気づき、このゲームの趣旨と考えられる主催者の目的と自分がいる意味を分析し、 支給物の確認、近辺の確認、これからの行動方針を思案し決断、真っ先に見つけたルイズを襲うまでに掛けた時間は――約五分。 ルイズが受け入れられない現実に混乱しているその五分で、朝倉涼子はこの殺人ゲームを「受け入れた」のだった。 (才人……さいと……サイト……) 逃げ続ける最中、ルイズの心中ではある平民の使い魔の名がひたすらにリピートされていた。 そのことに気づく余裕もないルイズは、不注意にも転がっていた石に躓き、転倒した。 普段なら、きっといつも傍にいるバカ犬が「ドジだなぁ」なんて言って笑い飛ばすのだろう。 だがそんな現実はとうに消失した。 この場には追う者――朝倉涼子と、逃げる者――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの二人しかいない。 暗い林の中で、二人ぼっち。 「あ……」 転んで起き上がろうとしたその動作の途中、頭上には既に朝倉涼子が立っていて。 ルイズは、絶望した。 「じゃあ、死んで」 ニッコリ。 微笑む朝倉の手には、刃が片方にしか付いていない刀剣(ルイズは日本刀というものを知らない)が握られ、その輝く切っ先をルイズに突きつける。 これが刺されば、死ぬ。この女は、間違いなくそれを実行する。 死んだら、終わりだ。それだけは嫌だ。こんなところで終わりたくない。 だがいったい自分に何が出来る。逃走? 逃亡? 撤退? 退却? ――駄目だ、「抵抗」という概念が頭から抹消されつつある。 本能では、既に死を受け入れ始めているのか。 「いや……才人……」 その名を、呼ぶ。 才人は、現れない。 「いや……いや、嫌、いや――」 「死ぬのっていや? 殺されたくない? わたしには有機生命体の死の概念がよく理解できないんだけど」 ――――ルイズは、絶望した。 「いやぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! たすけて、サイトぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 絶叫して、呼ぶ。 それなのに、使い魔は現れてくれない。 死を、覚悟した。 目を強く閉じて、襲い来る痛みに耐えようとする。 そしたら、 「やっぱり、やめた」 その言葉を耳にして、そっと目を開ける。 眼前にあった刃は、いつの間にか下げられていた。 「わたしが他の参加者を片っ端から殺していくって選択は正解だと思うし、いずれ涼宮ハルヒがなんらかのリアクションを起こすのは間違いないと確信しているの。 でもそれだけじゃ地道すぎっていうか、キョン君を殺す、っていう爆発的な反応は望めないと思うし、何よりこの世界って、わたしの能力がほとんど使えないのよね。 それはもちろん長門さんも同じだと思うけど、あの人が涼宮ハルヒや朝比奈みくる、キョン君の防衛に回ることは目に見えてる。 だとしたら、実力行使っていう手段はあんまり効率的じゃないと思う。確実性も薄いしね。だから、使える手段は多いに越したことはない」 相変わらず、何を言っているのか分からない。 でも、下げられた刃にはきっと、交戦回避の意味があるはずだ。 つまり、ルイズはもう殺さないと。 それだけは理解できた、「つもり」だった。 「……見逃して……助けて、くれるの?」 「うん、それ無理♪」 その時だった。 安心という「錯覚」をしてしまったルイズは僅かに口元を緩ませ、すぐに絶望の顔を作り直す。 朝倉涼子は空いた方の腕を伸ばし、一瞬でルイズの首を絞めかかったのだ。 「がっ……」 嗚咽を漏らすルイズ。また、混乱がやってくる。 朝倉涼子は、とても女子高生とは思えない腕力でルイズの首を掴み、片手でひょいっと持ち上げてみせる。 ルイズが歳不相応に小さすぎる、というのもあるかもしれない。いや、それにしても。 やはり朝倉涼子――この存在、危険すぎる。 「あなたの命、っていうより命運って言った方がいいかな? はここでもらう。でも、すぐには殺さない。 あなたには、私の手助けをしてもらいたいの。影ながらね。八十人っていう人数はやっぱり多いと思うし、私の能力も不完全だし。 だからあなたは、わたしのサポートのためにたくさんの人を殺して。約束してくれれば、ここでは殺さないであげる。 あ、でもキョン君と涼宮ハルヒ、朝比奈みくると一応鶴屋さんって人は、勝手に殺しちゃ駄目よ。 長門さんはあなたには無理だろうけど、厄介だから始末できたらして欲しいな。でもやっぱり無理かな。うん、無理。 まぁ一人でも二人でもいいから、できるだけ人数を減らしてね。ちょっとでも負担が軽くなればいいから。 そういえばあなた、人を殺したことはある? ないよね? でも大丈夫、これあげるから、役立てて。 日本刀にしては軽いし、切れ味だけはいいから。たぶんあなたでも簡単に人が殺せる。どう、この条件のむ?」 苦しみながら、必死に理解しようとした。 つまりこの女は、「他の参加者全員を殺すのは大変だから、人数減らすの手伝って」と要求しているのだ。 もちろん、ルイズに人殺しの意思など皆無。だが、もし承諾することで命が助かるというのであれば……たとえ偽りの返事でも。 「わ……か、った。やく……そく、する」 声を搾り出して、ルイズはやっと朝倉涼子の腕から解放された。 地に落とされ、咳き込む。その足元には日本刀なる武器が放られ、朝倉涼子は満面の笑みを作った。 「ありがとう。あなた運がいいわよ。あなたがたまたま一人目だったから、こういう手段を取ったにすぎないし。 協力者はそんなに多くはいらないし、足元を掬われる可能性がゼロとも言い切れないから。 実際、あの時わたしは長門さんを甘く見たせいで痛い目を見たんだから」 朝倉涼子が、また意味不明なことを喋る。 良かった。とりあえず、この場は凌げた。 始まって早々、とんだ不運に出会ったものだったが……この時ばかりは、本当に幸運を感じていた。 そう、この時ばかりは。 「でもね……もし、私との約束を破ったら……」 朝倉涼子が、ルイズの小さな左手に手を伸ばす。 ルイズは、それがなにを意味するのか理解できなかった。 朝倉涼子が、ルイズの小さな左手の中指に手を伸ばす。 ルイズは、それがなにを意味するのか理解できなかった。 朝倉涼子が、ルイズの小さな左手の中指の爪に手を伸ばす。 ルイズは、それがなにを意味するのか理解できなかった。 朝倉涼子が、ルイズの小さな左手の中指の爪を引き剥がす。 ルイズは、痛みと共に理解した。 ああ、なんだ。 やっぱりこの女、「異常」なんだ―― 「――――ぎぃぃやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」 爪を引き剥がされ――「毟り取られた」、という表現の方が適切かもしれない――ルイズ、痛みのあまりその場を転げまわる。 左の中指を見る。爪がない! それになんだか紅い! ヤバイ! これ絶対イタイ! 「痛い!……イタイ…………いたいよぉ……」 痛痛痛痛痛、ただひたすらに痛。 涙ぐみ、叫んで、それでも痛みの苦痛には打ち勝てなかった。 そんなルイズの状態を楽しそうに見守る朝倉涼子は、やはり笑顔。 「いい? この痛みをようく覚えておいて。もし約束を破って、あなたが人殺しをしていなかったとしたら……わたしが、すぐに飛んできてあなたを殺すから」 それは、遠まわしだが死刑宣告と同意のものだった。 殺されこそしないものの、朝倉涼子は確かに、ルイズの「命」を奪い取ったのだ。 「じゃあね。わたしはわたしでゲームを続けるから、あなたはあなたで頑張って」 それだけ言い残し、静かに去っていく。 その背中を恨めしく見つめながら、ルイズは、ただただ怯えていた。 『約束破ったら……嫌だよ?』 去り際、そんな空耳が聞こえてくるようだった。 ◇ ◇ ◇ 「さてと、これから何処へ行こうかな」 ルイズと別れた朝倉涼子は、次なる標的を探し、他地区への進行を開始していた。 日本刀はルイズに譲ったものの、支給された武器はまだ残っている。 四次元デイパックの中には、かなり旧式な作りだがしっかりしている弓矢が一組。 そしてさらにもう一つ、ある意味では因縁ともいえるアイテムが一つ、入っていた。 「これ見たら、キョン君はなんて反応をするかな?」 悪戯をする子供のように、無垢に笑って見せる朝倉涼子。 その見た目の美貌は、多くの参加者を騙し、恐怖に陥れるに違いない。 あの、ルイズのように。 「とりあえず、やっぱり最終的な獲物はキョン君よね。彼が死ねば、涼宮ハルヒは必ずなんらかのアクションを起こす。この世界にも、きっとなんらかの変化が訪れるはず」 その結果、自分がどうなるか、という心配は微塵もない。 朝倉涼子にとって、涼宮ハルヒという存在が世界にどう影響与えるか……それを観察することに意味があるのだ。 例えここで死んだとしても、それは所詮、自分が長門有希のバックアップに過ぎなかったということ。 だが、せっかく廻ってきたチャンス。 「どうせなら、ものにしたいよね♪」 キョンを殺して、涼宮ハルヒの出方を見る。 スキップを刻みながら進む朝倉の右腕には、『団長』と書かれた腕章が着けられていた。 ◇ ◇ ◇ 種を、植え付けられた。 開花すれば、人殺しになってしまう危険な種。 恐怖という、厄介な種を。 (大丈夫……このまま逃げちゃえば、あの女には分からない。分かりっこないんだ) ルイズが本当に人を殺すかどうか、朝倉涼子にその判別の方法はない。 なのに。 爪を剥がされた左中指が、無性に痛む。 『約束』 ――ゾッ、とした。 何かに取り付かれたように、周囲を確認する。 朝倉涼子の影はない。 ホッと安心したのも束の間、中指の痛みは治まらなくて。 まるで、終始朝倉涼子に、見張られているような――そんな気がしてならなかった。 「……才人」 使い魔の名を呼んでも、もはや何の意味もなかった。 『約束破ったら……嫌だよ?』 ルイズは、恐怖に支配されつつあった。 かといって、すぐには狂気を宿すことも出来ない。 後で確認した名簿の中に、平賀才人の名があったからなおさらだ。 その上、支給された道具の数々はどれも役にたたなそうなものばかり。 『水を貯え勢いよく発射する、銃に見せかけた子供のおもちゃ』 『誰でも簡単に穴を掘ることが出来る手袋』 『みくるちゃん専用のコスプレ衣装!』 ……ふざけているのだろうか。これで殺し合いをしろという方が、どうかしている。 ギガゾンビに対して文句を言いたくなったが、生憎ルイズの脳はそれほどまでに活性化していない。 蟠りのように佇んでいるのは、朝倉涼子への恐怖一色。 ルイズは恐れ、未だ決断できずにいた。 「約束破ったら……嫌だよ?」 「もし、約束を破ったら」 「すぐ。殺しにいくから」 【G-1/林/1日目/深夜】 【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】 [状態]:健康 [装備]:弓矢(矢の残数10本)@うたわれるもの、SOS団腕章『団長』@涼宮ハルヒの憂鬱 [道具]:荷物一式 [思考・状況]1、出会った参加者は躊躇なく殺していく。 2、キョンを殺して涼宮ハルヒの出方を見る。 3、人数を減らしていく上で、世界と涼宮ハルヒにどんな変化が起こるかを観察する。 4、3を実行するため、涼宮ハルヒの居場所だけでも特定したい。 【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】 [状態]:恐怖による錯乱状態、左手中指の爪が剥がれている [装備]:トウカの日本刀@うたわれるもの [道具]:荷物一式、水鉄砲@ひぐらしのなく頃に、もぐらてぶくろ@ドラえもん、バニーガールスーツ@涼宮ハルヒの憂鬱 [思考・状況]1、朝倉涼子から逃げるか、朝倉涼子との約束に従い人を殺すか、決断する。 2、朝倉涼子に対する恐怖。 3、才人に逢いたい……。 [備考]バニーガールスーツはみくる専用のものなので、ルイズではサイズが合わない(特に胸の部分が) *時系列順で読む Back:[[ドラえモンアドベンチャー 漂流? 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