「従わされるもの」(2021/07/10 (土) 10:34:18) の最新版変更点
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**従わされるもの ◆lbhhgwAtQE
「ようやくここまで辿り着いたか、っと」
俺は背負っていた少女を下ろし、横たわらせると自分もその場に座り込んだ。
そりゃ、ずっと女の子一人を背負って歩いてりゃ流石の俺だって疲れるさ。
で、休憩がてら、とりあえず俺は地図を広げた。現在地を確認するためにな。
「……っと、確か最初C7って位置にいて、南西に進んできたんだから……今はD6あたりってことかぁ?」
最短で山を下りれそうだったルート。それを進んだ結果が、南西方向への下山だった。
何せ、女の子一人背負ってるんだ。出来るだけ近道を使いたいってのが道理だろ?
……で、俺の視界には山の麓にそびえるホテルらしき建造物の姿が映っているわけだが。
「なぁるほど。あっちの方角に、こいつが見えるって事はぁ……大体ここらへんかぁ」
目の距離感覚を信じて俺は大方の目星をつけた。
現在位置が、D6ブロックの中央北寄りあたりである、ってな。
そうと分かれば話は早い。
俺は嬢ちゃんを連れて、とっととそのホテルを目指すことにした。
……何、別にやましいことなんざ、考えちゃいない。この嬢ちゃんには野宿をさせたくないだけだ。
ホテルなら、屋根もベッドもあるしな。
ま、そういうわけで俺は休憩を終わりにして、嬢ちゃんを背負おうとしたんだが……その時俺は耳にしたんだ。
背後から何かが近づいてくる音をな。
……やれやれと思ったさ。どうしてこうも、俺は背後から誰かと会うんだろうな、ってな。
だが、もし相手がやる気だったら、このまま殺されちまう。
そんなのまっぴら御免だ。
だから、俺は後ろを振り返った。マテバを構えてな。
――すると、草むらの向こうに見えたのは……
梨花から逃げてどれくらい時間がたったのであろうか。
アルルゥは走っていた。
その小さな身体でひたすら山道を。
途中何度も石や蔦につまずき転び、身体にいくつもの傷が出来ても。
例え、それが本当に山を下りる道なのか分からなくても。
しかし、その手に持つ鉄扇だけは放さぬように。
アルルゥはひたすら走った。
――そして、彼女が草むらをかき分けて飛び出そうとした先には……
「…………!!」
そこには人がいた。
赤いジャケットを羽織った長身の男。
そして、その横で眠っている少女。
それを見たアルルゥは、無意識のうちに手近にあった木の後ろへと隠れた。
先ほどと違い、もう投げるものはない。
あるものは、父と慕う男の大事な武器だけ。
これを投げるわけにはいかない。
どうすればいいんだろう……アルルゥは困りながらも鉄扇を握り締めて、じっと木の裏に隠れていた。
すると、そんな彼女の耳に、男のものらしき声が。
「はぁい、そこにいる方はどなたですか?」
いやはや驚いたぜ。
草むらから飛び出してきたのは、ちっちゃいお嬢ちゃんだったんだから。
歳は大体、あのギガゾンビに殺された女の子と同じくらいなんだろうけど、その格好がこれまた珍しかった。
服装は、日本の北海道にいるアイヌ民族の服装をアレンジしたっぽい感じで、しかも犬みたいな耳の形をした飾りをつけていたときた。
こりゃあ、一体どこの宗教なんだ、と思ったんだか、それも束の間、その子は目にも留まらぬ速さで180度ターンすると木の後ろに隠れちまった。
……俺ってそんな隠れられるほど悪人面してっかなぁ? いや、確かに悪人なんだがな。
……だが、どうやらあの様子だとやる気ってわけじゃなさそうだな。
となると、ただ怯えているだけってことだが……そんな怯えている女の子を放って置いたとなれば男が廃る。
ひとまず、あの子をなんとかこっちに呼び出してやろうか、っと。
――まずは、優しく声を掛けて……
「はぁい、そこにいる方はどなたですか?」
「……! …………」
「こっちは君を取って喰おうだなんて考えちゃいないぜ。だから、出ておいで」
「………………」
……あらら、やっぱりダメか。
こっちをちらちらと見てはいるけど、来る気配はないねぇ。
だったら、直接――とは思うものの、そんなことしたら余計に警戒されそうだ。
ここは一つ、何かあの子をこっちに来させる方法を――っと。これなんかどうだ。
俺は、今まで役に立ちそうにないだろうなと思っていたそれを取り出した。
アルルゥは木の後ろから、じっと向こうの男の様子を見ていた。
男は彼女に声を掛けたりもしたが、それでも動かず、ただじっと彼女は様子を伺っていた。
だが。
「ほら、こっちに来たら、これをあげちゃおう。……ほーら、おいで」
男の手に載せられていたふわふわしたもの。
それを見ると、アルルゥは耳をぴこーんと立てた。
「ほら、おいしそうだぞ。中には……ほら! アンコの他にチーズまで入ってるんだぜ。こいつぁたまらないぜぇ?」
どうやら、それは食べ物であるらしい。
アルルゥはそう判断するや否や、目をギュピーンと効果音が出そうなほど輝かせる。
……だが、それでも人見知りな性分ゆえに今一歩が踏み出せなかった。
だがその一歩も――
「お嬢ちゃんがこないなっら、お~れが食べちゃおっかなぁ~――っと、おぅわっ!!」
その一歩も、食べ物の力により簡単に踏み出せてしまった。
アルルゥ――人見知りを食べ物で解決できる少女であった……。
いやはや驚いたぜ。
まさか、ドラ焼き一つで、ここまで食いつかれたとは。
しかも、あのドラ焼きを奪い取った速さ……俺よりも速いんじゃないのか?
……とまあ、それはさておき、飛び出てきた女の子は今、実に美味そうにドラ焼きを食べている。
その食べっぷりを見ていると、こっちまで腹が空いてきそうだぜ。
「よぉ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんは一体今までずっと一人だったのかい?」
「……はぐっ、むぐっ…………ん!」
「ここに来たときも一人だったのか? 仲間とか知り合いとかは……」
「むぐっ……んぐっ……んー、おとーさんとおねーちゃんとカルラおねーちゃんとトウカおねーちゃんがいる」
最後の一個を食べきったお嬢ちゃんが手についたアンコやチーズを舐めながら答える。
お父さんにお姉さん……この子は家族を皆連れてこられたってのか。
あのギガゾンビって野郎め……胸糞悪い事しやがるぜ。
「って、こたぁ、お嬢ちゃんは今、その家族を探しているのかい?」
「……ん。アルルゥ、おとーさん探してる」
アルルゥ――それが、この子の名前か。
……それにしても、この子、よく見れば鉄で出来た扇……鉄扇以外は何も持ってないじゃないか。
しかも、服も汚れてるし、顔にも擦り傷が……よっぽどな事があったのかねぇ。
俺はそのつらかったであろう今までの出来事と想像すると、無意識のうちにその子の頭を撫でていた。
「……んう?」
「そうか……。お嬢ちゃんも色々あったんだなぁ」
「……んふ~」
すると、アルルゥは気持ちよさそうな声を出して俺に擦り寄ってきた。
……おいおいおい、俺は流石にそういった趣味はないぜぇ。
確かにあと十何年かしたら、いい女になりそうだけどよ。
でもま、別に害は無いからかまわないか。
「……何やってんのよ、このロリコン男ぉぉぉ!!」
「どっひゃあ~~!!」
ま、そんな風に思っていたのも、もう一人のお嬢ちゃんが目覚めるまでだったわけだけどな。
涼宮ハルヒは起きて早々ご立腹だった。
それもそのはずで、目を覚ましてみれば自分が仕留め損ねた男が、小さい女の子に手を出していたのだ。
最初見た時から怪しいとは思っていた。
だけど、まさか幼女に手を出すとは……ハルヒの怒りは意識がはっきりすると同時に爆発した。
「……何やってんのよ、このロリコン男ぉぉぉ!!」
「どっひゃあ~~!!」
ハルヒの握り拳は、ルパンの顔をすれすれで通過する。
「よけんじゃないわよ、この未成年略取男!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ――うへ!」
ハルヒの拳は意外と素早く、ルパンも驚きつつ避けていった。
「んもう!避けてたら当たらないでしょ! じっとしてなさい!」
「んな、ムチャクチャな」
「問答無用! 食らいなさ――って、え?」
すると、ハルヒとルパンの間に一人の少女が割って入った。――アルルゥだった。
「ちょっと、どきなさい。私はこの男を殴らないといけないんだから!」
「や」
「嫌、じゃないの。とっととどきなさい。でないと……」
「おじさん、お菓子くれた。だからいい人。だからぶっちゃだめ」
「お菓子くれたからって……そんな事で信用しちゃって……」
「おいおい、酷い言われようだなぁ。俺は少なくともレディには優しいぜぇ」
「……んー」
ハルヒはルパンとアルルゥの顔を交互に見やると、
「分かったわ。この子に免じて信じてあげる」
頬を膨らませたままだったが、ハルヒはとりあえずルパンを信じることにしたようだった。
……いざとなればどうにでもなる状況のはずなのに、何故かルパンはそれを聞いて心から安堵していた。
とりあえずお嬢ちゃんが落ち着いたところで、俺達は互いに自己紹介も兼ねて情報を交換することにした。
……とりあえず初っ端に俺が、世紀の大怪盗の孫だって事を言ってみたものの、お嬢ちゃん――ハルヒには本の読みすぎって言われ、アルルゥにいたっては知らない、って言われるとはね……少し切なくなったね。ここだけの話。
んで、本題に入ると、ハルヒも俺やアルルゥ同様に仲間や同級生と一緒にここに連れてこられたことがまず分かった。
要するに、ここにいる連中は、最低でも一人は知り合いがいるようなことになりそうだ。
……知り合い同士を集めて殺し合いたぁ、ますます胸糞悪い。
「……な~るほどねぇ、つまりお嬢さんはそのSOS団のメンバーを探している、と」
「そうよ! 古泉君はいないけど、あたしたちが集まればどんな困難だって乗り越えられるんだから!」
話を聞く限りじゃ、そのSOS団ってのは高校の部活動レベルの団体っぽいが、ハルヒの強気な言い方を聞くと、どうも本当にそんな気になっちまうなぁ。
……ここはダメ元で聞いてみるとするか。
「……そんじゃあよ、SOS団の中に、こいつを解体できそうな奴ってーのはいたりするかい? いたら頼もしいんだけどなぁ。なぁ~んて」
俺は首につけられた首輪を指差しながら尋ねる。
ま、そんなこと高校生に任せるようじゃ、俺も地に堕ちたようなもんだけどな――
「勿論、いるわよ!」
「うんうん、まぁそれは仕方がな――って、えぇ!? それホント?」
「あたしが嘘をつくはずないじゃない。本当よ!」
「で、それって……」
「それは勿論、私達よ!」
……は? この嬢ちゃんは一体何を……。
「あたし達SOS団はね、野球大会では常連のチームに勝ったし、パソコンゲームではコンピ研に勝ったし、殺人事件も解決したし、映画だって作ったのよ。そんな私達に掛かれば首輪なんてイチコロよ!」
そこまで言い切るたぁ、余程自信があるのかねぇ。
俺は素直に感心した。このハルヒって嬢ちゃん、仲間をそれだけ信頼してるってことだもんな。
……と、感心してると今度はアルルゥに袖をつかまれたぞ。
「どうした、アルルゥ?」
「おとーさんも頭いい。あと強い。トウカおねえちゃんもカルラおねえちゃんも強いし、おねーちゃんもちょっと怖いけど……」
どーやら、仲間の……いや家族の信頼具合はこっちも同じようだ。
……とかいう俺も、次元や五ェ門、不二子ちゃんにとっつあんなら、やってくれるって信じてるぜ。
やっぱ、仲間ってのは、これくらい信じあえないとな。
「分かった。そんじゃ、さっそく行くとしますか」
「行くって……どこに?」
「街の方にさ。そっちに行けば、誰かに会う確率だって高くなるだろ?」
会うのは知り合いだけじゃなさそうだがな。
「……そ、そうね! あたしも同じことを考えていたのよ、えぇ!」
やれやれ、口の減らない嬢ちゃんだことで。
「……さて、と。そうと決まれば早速――」
「――ちょっと待った!!」
俺が腰を上げようとすると、ハルヒがまた声を張り上げた。
あんまり大声を出して欲しくはないんだけどなぁ。
「……どうしたんだい、嬢ちゃん」
「決めたわ! あなた達をSOS団特別団員に任命してあげる!」
…………何だって?
涼宮ハルヒはいつも唐突だ。
唐突に企画を立ち上げ、団員達(主にキョンとみくるだが)を振り回す。
それも、慣れさえすれば、多少は楽なのだろうが、ここにいるルパンとアルルゥがそれに慣れているはずもなく。
「SOS団の特別団員?」
ルパンが鸚鵡返しに尋ねると、ハルヒは頷く。
「えぇ、特別団員! 本当は北高の部活動だから、あなた達を入れることは出来ないの。だから特別!」
「いや、特別団員って言ってもねぇ、嬢ちゃん――」
「本当なら、団長であるあたし自ら団員を入れることなんか無いんだから感謝しなさいよ!」
ルパンの言葉をハルヒは聞こうとしない。
「……んで、今回のSOS団の活動内容は勿論、こんな下らないゲームを止めて、皆でここを出ること! 分かった?」
ハルヒの勢いに気圧されルパンは喋れなくなるが、ハルヒの言うことには全面的に賛成だった。
だから、あえてルパンは止めようとしなかった。
「あぁ、それにしても…こんっな萌え萌えな子がこの世にいたなんてね~、やっぱり世界は広いわ!」
そして、ハルヒはそんなルパンをそっちのけで、アルルゥを抱きかかえると頬擦りをする。
「犬風の耳と尻尾に、和風をイメージした衣装、そして何よりロリっ子! 完璧だわ! みくるちゃんと同等……いやそれ以上かもしれないわ!」
「……んふー」
アルルゥは何を言われているかわからなかったが、それでも抱きかかえられ頬擦りされて満足げだった。
やれやれ、俺はとんでもない奴と会っちまったんじゃないか、って今更思い始めてきたぜ。
こんなに気が強くて物怖じしない女、そうお目にかかれないはずだ。
……だが、それだけにこの子の目は本当に決意に満ち溢れている。
俺は、そういう意味では気に入ったね、この嬢ちゃんを。
……って、あれ? 何か嬢ちゃんが近づいてきたぞ?
しかもデイバッグを二つ持って……?
「……そんなわけだから、あなたが荷物持ちね!」
何がそんなわけなんだ、と思う暇も無く。
「だって、あなたしか男がいないんだから仕方ないでしょ! はい、持って!」
押し付けられる荷物を俺はただ、受け取るしか出来なかった。
――って、ちゃっかり日本刀は自分で持ってるわけね…
「それじゃ、さっそくしゅっぱーつ!!」
「お~!」
……こりゃこれからも大変なことになりそうだぜ。
【D-6 1日目 黎明】
【ルパン三世@ルパン三世】
[状態]:健康 やれやれ SOS団特別団員認定
[装備]:マテバ2008M@攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(弾数5/6)
[道具]:支給品一式 エロ凡パンチ・'75年4月号@ゼロの使い魔
[思考]:1、とりあえずハルヒに従いつつ行動
2、他の面子との合流
3、協力者の確保(美人なら無条件?)
4、首輪の解除及び首輪の解除に役立つ道具と参加者の捜索
5、主催者打倒
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康 やる気十分
[装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+
[道具]:支給品一式(本人は中身確認済)
[思考]:1、SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:健康 満腹 SOS団特別団員認定
[装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの
[道具]:無し
[思考]:1:ハルヒ達に同行しつつハクオロ等の捜索
2:ハクオロに鉄扇を渡す
※一行はこれから市街地方向へ移動の予定
※ルパンのホテルへ行区という当初の予定はハルヒが目覚めたために保留扱いに
&color(red){【カマンベールチーズ入りドラ焼き 全滅】}
*時系列順で読む
Back:[[approaching!]] Next:[[ムーンマーガレット]]
*投下順で読む
Back:[[approaching!]] Next:[[ムーンマーガレット]]
|6:[[ルパン三世の憂鬱]]|ルパン三世|99:[[「きゃっほう」/「禁則事項です」/「いってらっしゃい」]]|
|6:[[ルパン三世の憂鬱]]|涼宮ハルヒ|99:[[「きゃっほう」/「禁則事項です」/「いってらっしゃい」]]|
|29:[[少女の幸運と少女の不幸]]|アルルゥ|99:[[「きゃっほう」/「禁則事項です」/「いってらっしゃい」]]|
**従わされるもの ◆lbhhgwAtQE
「ようやくここまで辿り着いたか、っと」
俺は背負っていた少女を下ろし、横たわらせると自分もその場に座り込んだ。
そりゃ、ずっと女の子一人を背負って歩いてりゃ流石の俺だって疲れるさ。
で、休憩がてら、とりあえず俺は地図を広げた。現在地を確認するためにな。
「……っと、確か最初C7って位置にいて、南西に進んできたんだから……今はD6あたりってことかぁ?」
最短で山を下りれそうだったルート。それを進んだ結果が、南西方向への下山だった。
何せ、女の子一人背負ってるんだ。出来るだけ近道を使いたいってのが道理だろ?
……で、俺の視界には山の麓にそびえるホテルらしき建造物の姿が映っているわけだが。
「なぁるほど。あっちの方角に、こいつが見えるって事はぁ……大体ここらへんかぁ」
目の距離感覚を信じて俺は大方の目星をつけた。
現在位置が、D6ブロックの中央北寄りあたりである、ってな。
そうと分かれば話は早い。
俺は嬢ちゃんを連れて、とっととそのホテルを目指すことにした。
……何、別にやましいことなんざ、考えちゃいない。この嬢ちゃんには野宿をさせたくないだけだ。
ホテルなら、屋根もベッドもあるしな。
ま、そういうわけで俺は休憩を終わりにして、嬢ちゃんを背負おうとしたんだが……その時俺は耳にしたんだ。
背後から何かが近づいてくる音をな。
……やれやれと思ったさ。どうしてこうも、俺は背後から誰かと会うんだろうな、ってな。
だが、もし相手がやる気だったら、このまま殺されちまう。
そんなのまっぴら御免だ。
だから、俺は後ろを振り返った。マテバを構えてな。
――すると、草むらの向こうに見えたのは……
梨花から逃げてどれくらい時間がたったのであろうか。
アルルゥは走っていた。
その小さな身体でひたすら山道を。
途中何度も石や蔦につまずき転び、身体にいくつもの傷が出来ても。
例え、それが本当に山を下りる道なのか分からなくても。
しかし、その手に持つ鉄扇だけは放さぬように。
アルルゥはひたすら走った。
――そして、彼女が草むらをかき分けて飛び出そうとした先には……
「…………!!」
そこには人がいた。
赤いジャケットを羽織った長身の男。
そして、その横で眠っている少女。
それを見たアルルゥは、無意識のうちに手近にあった木の後ろへと隠れた。
先ほどと違い、もう投げるものはない。
あるものは、父と慕う男の大事な武器だけ。
これを投げるわけにはいかない。
どうすればいいんだろう……アルルゥは困りながらも鉄扇を握り締めて、じっと木の裏に隠れていた。
すると、そんな彼女の耳に、男のものらしき声が。
「はぁい、そこにいる方はどなたですか?」
いやはや驚いたぜ。
草むらから飛び出してきたのは、ちっちゃいお嬢ちゃんだったんだから。
歳は大体、あのギガゾンビに殺された女の子と同じくらいなんだろうけど、その格好がこれまた珍しかった。
服装は、日本の北海道にいるアイヌ民族の服装をアレンジしたっぽい感じで、しかも犬みたいな耳の形をした飾りをつけていたときた。
こりゃあ、一体どこの宗教なんだ、と思ったんだか、それも束の間、その子は目にも留まらぬ速さで180度ターンすると木の後ろに隠れちまった。
……俺ってそんな隠れられるほど悪人面してっかなぁ? いや、確かに悪人なんだがな。
……だが、どうやらあの様子だとやる気ってわけじゃなさそうだな。
となると、ただ怯えているだけってことだが……そんな怯えている女の子を放っておいたとなれば男が廃る。
ひとまず、あの子をなんとかこっちに呼び出してやろうか、っと。
――まずは、優しく声を掛けて……
「はぁい、そこにいる方はどなたですか?」
「……! …………」
「こっちは君を取って喰おうだなんて考えちゃいないぜ。だから、出ておいで」
「………………」
……あらら、やっぱりダメか。
こっちをちらちらと見てはいるけど、来る気配はないねぇ。
だったら、直接――とは思うものの、そんなことしたら余計に警戒されそうだ。
ここは一つ、何かあの子をこっちに来させる方法を――っと。これなんかどうだ。
俺は、今まで役に立ちそうにないだろうなと思っていたそれを取り出した。
アルルゥは木の後ろから、じっと向こうの男の様子を見ていた。
男は彼女に声を掛けたりもしたが、それでも動かず、ただじっと彼女は様子を窺っていた。
だが。
「ほら、こっちに来たら、これをあげちゃおう。……ほーら、おいで」
男の手に乗せられていたふわふわしたもの。
それを見ると、アルルゥは耳をぴこーんと立てた。
「ほら、おいしそうだぞ。中には……ほら! アンコの他にチーズまで入ってるんだぜ。こいつぁたまらないぜぇ?」
どうやら、それは食べ物であるらしい。
アルルゥはそう判断するや否や、目をギュピーンと効果音が出そうなほど輝かせる。
……だが、それでも人見知りな性分ゆえに今一歩が踏み出せなかった。
だがその一歩も――
「お嬢ちゃんがこないなっら、お~れが食べちゃおっかなぁ~――っと、おぅわっ!!」
その一歩も、食べ物の力により簡単に踏み出せてしまった。
アルルゥ――人見知りを食べ物で解決できる少女であった……。
いやはや驚いたぜ。
まさか、ドラ焼き一つで、ここまで食いつかれたとは。
しかも、あのドラ焼きを奪い取った速さ……俺よりも速いんじゃないのか?
……とまあ、それはさておき、飛び出てきた女の子は今、実に美味そうにドラ焼きを食べている。
その食べっぷりを見ていると、こっちまで腹が空いてきそうだぜ。
「よぉ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんは一体今までずっと一人だったのかい?」
「……はぐっ、むぐっ…………ん!」
「ここに来たときも一人だったのか? 仲間とか知り合いとかは……」
「むぐっ……んぐっ……んー、おとーさんとおねーちゃんとカルラおねーちゃんとトウカおねーちゃんがいる」
最後の一個を食べきったお嬢ちゃんが手についたアンコやチーズを舐めながら答える。
お父さんにお姉さん……この子は家族を皆連れてこられたってのか。
あのギガゾンビって野郎め……胸糞悪い事しやがるぜ。
「って、こたぁ、お嬢ちゃんは今、その家族を探しているのかい?」
「……ん。アルルゥ、おとーさん探してる」
アルルゥ――それが、この子の名前か。
……それにしても、この子、よく見れば鉄で出来た扇……鉄扇以外は何も持ってないじゃないか。
しかも、服も汚れてるし、顔にも擦り傷が……よっぽどな事があったのかねぇ。
俺はそのつらかったであろう今までの出来事と想像すると、無意識のうちにその子の頭を撫でていた。
「……んう?」
「そうか……。お嬢ちゃんも色々あったんだなぁ」
「……んふ~」
すると、アルルゥは気持ちよさそうな声を出して俺に擦り寄ってきた。
……おいおいおい、俺は流石にそういった趣味はないぜぇ。
確かにあと十何年かしたら、いい女になりそうだけどよ。
でもま、別に害は無いからかまわないか。
「……何やってんのよ、このロリコン男ぉぉぉ!!」
「どっひゃあ~~!!」
ま、そんな風に思っていたのも、もう一人のお嬢ちゃんが目覚めるまでだったわけだけどな。
涼宮ハルヒは起きて早々ご立腹だった。
それもそのはずで、目を覚ましてみれば自分が仕留め損ねた男が、小さい女の子に手を出していたのだ。
最初見た時から怪しいとは思っていた。
だけど、まさか幼女に手を出すとは……ハルヒの怒りは意識がはっきりすると同時に爆発した。
「……何やってんのよ、このロリコン男ぉぉぉ!!」
「どっひゃあ~~!!」
ハルヒの握り拳は、ルパンの顔をすれすれで通過する。
「よけんじゃないわよ、この未成年略取男!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ――うへ!」
ハルヒの拳は意外と素早く、ルパンも驚きつつ避けていった。
「んもう!避けてたら当たらないでしょ! じっとしてなさい!」
「んな、ムチャクチャな」
「問答無用! 食らいなさ――って、え?」
すると、ハルヒとルパンの間に一人の少女が割って入った。――アルルゥだった。
「ちょっと、どきなさい。私はこの男を殴らないといけないんだから!」
「や」
「嫌、じゃないの。とっととどきなさい。でないと……」
「おじさん、お菓子くれた。だからいい人。だからぶっちゃだめ」
「お菓子くれたからって……そんな事で信用しちゃって……」
「おいおい、酷い言われようだなぁ。俺は少なくともレディには優しいぜぇ」
「……んー」
ハルヒはルパンとアルルゥの顔を交互に見やると、
「分かったわ。この子に免じて信じてあげる」
頬を膨らませたままだったが、ハルヒはとりあえずルパンを信じることにしたようだった。
……いざとなればどうにでもなる状況のはずなのに、何故かルパンはそれを聞いて心から安堵していた。
とりあえずお嬢ちゃんが落ち着いたところで、俺達は互いに自己紹介も兼ねて情報を交換することにした。
……とりあえず初っ端に俺が、世紀の大怪盗の孫だって事を言ってみたものの、お嬢ちゃん――ハルヒには本の読みすぎって言われ、アルルゥにいたっては知らない、って言われるとはね……少し切なくなったね。ここだけの話。
んで、本題に入ると、ハルヒも俺やアルルゥ同様に仲間や同級生と一緒にここに連れてこられたことがまず分かった。
要するに、ここにいる連中は、最低でも一人は知り合いがいるようなことになりそうだ。
……知り合い同士を集めて殺し合いたぁ、ますます胸糞悪い。
「……な~るほどねぇ、つまりお嬢さんはそのSOS団のメンバーを探している、と」
「そうよ! 古泉君はいないけど、あたしたちが集まればどんな困難だって乗り越えられるんだから!」
話を聞く限りじゃ、そのSOS団ってのは高校の部活動レベルの団体っぽいが、ハルヒの強気な言い方を聞くと、どうも本当にそんな気になっちまうなぁ。
……ここはダメ元で聞いてみるとするか。
「……そんじゃあよ、SOS団の中に、こいつを解体できそうな奴ってーのはいたりするかい? いたら頼もしいんだけどなぁ。なぁ~んて」
俺は首につけられた首輪を指差しながら尋ねる。
ま、そんなこと高校生に任せるようじゃ、俺も地に堕ちたようなもんだけどな――
「勿論、いるわよ!」
「うんうん、まぁそれは仕方がな――って、えぇ!? それホント?」
「あたしが嘘をつくはずないじゃない。本当よ!」
「で、それって……」
「それは勿論、私達よ!」
……は? この嬢ちゃんは一体何を……。
「あたし達SOS団はね、野球大会では常連のチームに勝ったし、パソコンゲームではコンピ研に勝ったし、殺人事件も解決したし、映画だって作ったのよ。そんな私達に掛かれば首輪なんてイチコロよ!」
そこまで言い切るたぁ、余程自信があるのかねぇ。
俺は素直に感心した。このハルヒって嬢ちゃん、仲間をそれだけ信頼してるってことだもんな。
……と、感心してると今度はアルルゥに袖をつかまれたぞ。
「どうした、アルルゥ?」
「おとーさんも頭いい。あと強い。トウカおねえちゃんもカルラおねえちゃんも強いし、おねーちゃんもちょっと怖いけど……」
どーやら、仲間の……いや家族の信頼具合はこっちも同じようだ。
……とかいう俺も、次元や五ェ門、不二子ちゃんにとっつあんなら、やってくれるって信じてるぜ。
やっぱ、仲間ってのは、これくらい信じあえないとな。
「分かった。そんじゃ、さっそく行くとしますか」
「行くって……どこに?」
「街の方にさ。そっちに行けば、誰かに会う確率だって高くなるだろ?」
会うのは知り合いだけじゃなさそうだがな。
「……そ、そうね! あたしも同じことを考えていたのよ、えぇ!」
やれやれ、口の減らない嬢ちゃんだことで。
「……さて、と。そうと決まれば早速――」
「――ちょっと待った!!」
俺が腰を上げようとすると、ハルヒがまた声を張り上げた。
あんまり大声を出して欲しくはないんだけどなぁ。
「……どうしたんだい、嬢ちゃん」
「決めたわ! あなた達をSOS団特別団員に任命してあげる!」
…………何だって?
涼宮ハルヒはいつも唐突だ。
唐突に企画を立ち上げ、団員達(主にキョンとみくるだが)を振り回す。
それも、慣れさえすれば、多少は楽なのだろうが、ここにいるルパンとアルルゥがそれに慣れているはずもなく。
「SOS団の特別団員?」
ルパンが鸚鵡返しに尋ねると、ハルヒは頷く。
「えぇ、特別団員! 本当は北高の部活動だから、あなた達を入れることは出来ないの。だから特別!」
「いや、特別団員って言ってもねぇ、嬢ちゃん――」
「本当なら、団長であるあたし自ら団員を入れることなんか無いんだから感謝しなさいよ!」
ルパンの言葉をハルヒは聞こうとしない。
「……んで、今回のSOS団の活動内容は勿論、こんな下らないゲームを止めて、皆でここを出ること! 分かった?」
ハルヒの勢いに気圧されルパンは喋れなくなるが、ハルヒの言うことには全面的に賛成だった。
だから、あえてルパンは止めようとしなかった。
「あぁ、それにしても…こんっな萌え萌えな子がこの世にいたなんてね~、やっぱり世界は広いわ!」
そして、ハルヒはそんなルパンをそっちのけで、アルルゥを抱きかかえると頬擦りをする。
「犬風の耳と尻尾に、和風をイメージした衣装、そして何よりロリっ子! 完璧だわ! みくるちゃんと同等……いやそれ以上かもしれないわ!」
「……んふー」
アルルゥは何を言われているかわからなかったが、それでも抱きかかえられ頬擦りされて満足げだった。
やれやれ、俺はとんでもない奴と会っちまったんじゃないか、って今更思い始めてきたぜ。
こんなに気が強くて物怖じしない女、そうお目にかかれないはずだ。
……だが、それだけにこの子の目は本当に決意に満ち溢れている。
俺は、そういう意味では気に入ったね、この嬢ちゃんを。
……って、あれ? 何か嬢ちゃんが近づいてきたぞ?
しかもデイバッグを二つ持って……?
「……そんなわけだから、あなたが荷物持ちね!」
何がそんなわけなんだ、と思う暇も無く。
「だって、あなたしか男がいないんだから仕方ないでしょ! はい、持って!」
押し付けられる荷物を俺はただ、受け取るしか出来なかった。
――って、ちゃっかり日本刀は自分で持ってるわけね…
「それじゃ、さっそくしゅっぱーつ!!」
「お~!」
……こりゃこれからも大変なことになりそうだぜ。
【D-6 1日目 黎明】
【ルパン三世@ルパン三世】
[状態]:健康 やれやれ SOS団特別団員認定
[装備]:マテバ2008M@攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(弾数5/6)
[道具]:支給品一式 エロ凡パンチ・'75年4月号@ゼロの使い魔
[思考]:1、とりあえずハルヒに従いつつ行動
2、他の面子との合流
3、協力者の確保(美人なら無条件?)
4、首輪の解除及び首輪の解除に役立つ道具と参加者の捜索
5、主催者打倒
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康 やる気十分
[装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+
[道具]:支給品一式(本人は中身確認済)
[思考]:1、SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:健康 満腹 SOS団特別団員認定
[装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの
[道具]:無し
[思考]:1:ハルヒ達に同行しつつハクオロ等の捜索
2:ハクオロに鉄扇を渡す
※一行はこれから市街地方向へ移動の予定
※ルパンのホテルへ行区という当初の予定はハルヒが目覚めたために保留扱いに
&color(red){【カマンベールチーズ入りドラ焼き 全滅】}
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|6:[[ルパン三世の憂鬱]]|ルパン三世|99:[[「きゃっほう」/「禁則事項です」/「いってらっしゃい」]]|
|6:[[ルパン三世の憂鬱]]|涼宮ハルヒ|99:[[「きゃっほう」/「禁則事項です」/「いってらっしゃい」]]|
|29:[[少女の幸運と少女の不幸]]|アルルゥ|99:[[「きゃっほう」/「禁則事項です」/「いってらっしゃい」]]|
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