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「「過ぎ去った日常」」(2021/07/26 (月) 11:11:45) の最新版変更点
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*「過ぎ去った日常」◆5VEHREaaO2
あの二人があの少女を探しに出て数十分が経った。
冷静に考えて、あんな乱暴そうな男と関わるよりもSOS団のメンバーを探すほうが先である。
自分がいなかった時のフォローは、なのはがするだろう。
そう考え、このエリアから逃げ出すことにし、何か役立つ物が無いかを探すことにした。
「ん、もう……大した物がないなぁ」
だが、見つかった物は家具を始めとした雑貨のみであり到底殺し合いに使えそうな物はない。
幸いにも巾着袋があったので血に濡れたデイバックの中身をそれに入れ替え、デイバックはゴミ箱に捨てる。
そして、ここから離れるために店を出ようとした。だが足を止める。
壊れた戸の向こうに街灯に照らされる人影が見えたからだ。
静かに入り口から離れ、カーテンの隙間から窓の外の様子を観察することにする。
鶴屋の目に入ったのは、この家に向かって真直ぐ歩いてくる銃を担いだ、自分と同程度の年齢と思われる女の姿。
裏口から逃げようと思ったが踏みとどまる。
あの女が殺し合いに乗っているのならSOS団のメンバーが危険である。
なら物陰に隠れ、相手が中に入ってきてから刺し殺せばいい。
幸いこの建物には、隠れられそうな場所ならいくらでもあり、自分と同じ年頃の女ならそれで何とかなる。
そう考え、身を隠し息を潜めながら期を窺う。
だが、僅かに想定外のことが起こった。
「……私は殺し合いに乗っていない」
外から凛とした落ち着いた女の声が聞こえてきた。
だが、黙ることにする。下手な対応をすれば死ぬ可能性は低くはない。
「できればそこから出てきて」
沈黙を保つ。
「分かったわ、武器は捨てる」
複数の何かを置く音がした。
「これで丸腰よ」
窓から外を見てみる。銃や荷物が女の周りに落ちていた。
とりあえず、会話をしても大丈夫そうではある。
向こうが殺し合いに乗っていたとしても、いくらなんでも映画みたいに散弾銃を蹴り上げて、
すぐさま射撃体勢に移るなどという行動は成功しないだろう。
「あ~、悪いねぇ。本当にそうならっさ、ゆっくりと体を回してくれないかな?」
向こうは少しばかり逡巡したものの、言われたとおり体を回転させる。常に此方に視線を絶やさなかったが、
見る限りでは、どうやら武器はこれ以上持っていないらしい。
僅かながらに御人好しそうな部分も相手から感じ取り、利用できるかと思い姿を現すことにする。
「あたしは鶴屋っさ、一緒に協力しないかい?」
そうして女を招き入れ、さきほどと同じように情報交換をしながら信用を得られるよう
談笑することにした。銃を持つ人間は利用価値があり、手元に置いてじっくりと信頼を得たい。
その際には先ほどの失態を犯さぬよう、血を隠すために袖を折って短くしておいた。
「でさぁ、そこでハルにゃんは代役を勤め上げたんだよ」
「へえ、そうなんだ」
「まあ、悪い子達じゃないっさ」
「なら、早く見つけてあげたいね」
会話を続け、向こうは興味深くこちらの話を聞いている。向こうは小夜という名前ということ以外は、
大して情報を得られなかったものの、何故か学校関係の話に関心があるようで、
主な話題をそれに集中させた。その結果、警戒心は大きく削がれたようだ。
そして、気になっていた話題に移ることにする。
「そういえば、小夜ってさ。どっちの方角から来たんだい?」
「何でそんなことを聞くの?」
「いやぁ…っさ、あたしは北から来たから、みくる達を探すのに別の方角に行こうかなって思ってっさ」
「そうなの、私はH-7からG-7を通ってここに来たんだけど…」
「ってことはその辺りには、みんながいないってことだね。めがっさありがとう」
それは、あの二人が先ほど自分が教えた西の方向に行かずに、かなみの死体を発見した可能性が高いということである。
ならば、一刻も早くここから離れたい。自分が殺し合いに乗ったと知られることでSOS団のメンバーに
危険が及ぶ可能性もあるが、男の支給品がもし銃ならば正面から挑まれればナイフではとうてい勝てはしない。
そう、銃ならば
「……オホ!ゴホ!ゴホ!ゴホ!」
「どうしたの?」
小夜はいきなり咳をした自分にに心配そうに声を掛けてくる。
「ゴホ!ゴホ!いや、ちょっと持病を患っていて……ゴホ!ゴホ!ゴホ!ゴホ!」
「大丈夫?」
「だ、ゴホ!ゴホ!ゴホ!だいじょゴホ!ゴホ!ゴホ!」
「ちょっと診せて」
小夜が武器や荷物から離れ、口に左手を当て咳を抑える自分の顔を覗き込んでくる。
ドス
そんな音と共に、右側にある巾着袋の中から抜き出されたナイフが小夜の左脇腹に突き刺さる。
もし、カズマやなのはと接触することになれば、そのときにナイフ一本では負ける可能性は
低くはない。だが、銃一丁でもあれば心強い。小夜を利用することも考えたが、逆にカズマが武器を
何一つ持っていない場合は銃を持った小夜を敵に廻してしまう可能性がある。
片方が生き残って自分がけしかけたと気づけば自分のみならず、SOS団も危険に晒してしまう。
それに、物事が思惑どうり運ばない現状では小夜にカズマを殺させるように状況を用意する余裕も無い。
ならば答えは単純、敵は自分の手で消せばいい。
そう判断し、小夜を殺し銃を奪い取ることを決意する。
方法としては古典的だが演技力には自信がある、うまく行けばもうけもの、隙がなければ彼女と共に一旦ここから
離れ再度チャンスを待てばいい。
その結果、ナイフは隙だらけの小夜に刺さった。
そうして刺したナイフに力を入れ、捻ろうとしたとき
右手を小夜の両手に握られた。
構わずに捻ろうとしたがまるで万力に掴まれたようにびくともせず、逆にナイフから手を離されてしまう。
「この!?」
「……どうして…」
哀れんでいるのか悲しんでいるのか、とてもナイフで刺されているとは思えない表情で問いかけてくる。
その表情に苛立ちながら、左手でボディブレードを掴み、それを小夜の両腕に叩きつける。
一瞬力が緩み、その隙に腕を振り払い散弾銃を掴み、店の外に逃げ出す。
そして、店からある程度離れ、追ってこようとしているのなら撃ち殺してやろうと思い、後ろを振りかえる。
僅か数メートルほど離れたところに、左手で腹を押さえ、右手にナイフを持った、紅い瞳の女がいた。
「……なんでさ」
明らかに常識を超える事態である。全力疾走の人間を相手にして
腹にナイフが刺された女が追いつけるはずが無い。インチキだ。
「こんなことはもう止めて、あなたは友達のことが大切なんでしょう!だから殺し合いなんか…」
瞳以外は先ほどと変わらぬ表情で、腹を押さえたまま女が諭してくる。
「大切だよ、だからあの子達が生き延びられるように、あの子達以外の全員を殺すのさ」
「無茶苦茶よ!あなたの友達だけでいったい何が……」
「うっさい!無茶苦茶なのはお前だ!化け物!!」
そのまま、感情に任せて引き金を引く。矛盾を打ち消すために、矛盾した存在でしかない女を排除するために。
だが、向こうは右に飛び、あっさりと無数の散弾を回避した。
反動に押されながらも立て続けに弾丸を放とうとする。だが、その瞬間に左胸が熱くなり
銃を取りこぼすのにもかまわずに胸を両手で押さえてしまった。
何が起こったのかと思い見ると、左胸にはナイフが、
先刻まで小夜が握っていたはずのかなみのハンティングナイフが、何時の間にか突き刺さっていた。
小夜が投げたであろう、それの刺さる瞬間が見えなかった。
「ふ…普通…こん…な…げ……かい……?」
そのまま、地面に倒れ、傷口や口から血を零す。
急速に意識が消えていくのを感じながら、何故か高校生活の思い出が脳裏に蘇える。
それはSOS団と関わった日々のこと、それらは朝比奈みくるに誘われた野球大会から始まり、
クリスマスイブの鍋パーティで終わった今までの日々。
(それをあたしは守りたかっただけなのに、なんでこんなことになっちゃったのさ?)
目の前に化け物がやってくる。だが、指一本動かすことができない。殺すことすらできない。
「……何か言い残すことは?」
その問いかけに弱々しくもはっきりとした声で答えてやった。
「SOS団の……ために…死んで……化け物……」
視界が真っ暗になる。
「……痛い……」
彼女を殺して一時間経った。
その間は傷の再生に努めることにしたが、眠りの日が近いためか再生が遅くその間は動けずにいた。
とりあえず、移動することにする。それぐらいには回復し、また遺体を隠したとしても、
この状況を説明する自信がなかったからだ。
殺すしかないと思ってしまったが、それでも彼女は普通の人でしかなかった。
そして、歩き出そうとしたところで遺体と目が合う。
『……化け物……』
彼女の言葉が脳裏に思い起こされる。
自分は化け物だ。だからこそ血の匂いを嗅ぎつけ、男の誰かを捜す声を無視し、そこで鶴屋を発見した。
だが、間違いであって欲しかった。彼女と会話しているときには、女子高生『音無小夜』に戻っていた。
自分の運命を忘れたわけではない、それでも彼女との会話は楽しかった。
だから、信じたかった。まるで友達のように接してくれる彼女を。
だが、刺されてしまった。心臓は外れていたので致命傷ではなかったが
それよりも、また裏切られたというショックの方が大きかった。
自分の人生は裏切りの連続であったから……
だが、それでも人を信じたい。翼手と知っていても、ディーヴァを倒すために
自分が死なせてしまった人達や支えてきてくれた人達のためにも。
再び目の前の彼女を見つめ、とある覚悟をする。これは既に血にまみれた自分が、やらなければいけないことだから。
そうして遺体に近寄り仰向けにし、首にナイフを当てる。
「……ごめんなさい」
その一言共にナイフを動かし、首を切り外す。
血を被ることは覚悟していたが、思っていたよりも血は吹き出なかった。
そして、取り外した首輪をじっくりと見る。
見た感じでは金属で出来た輪に見え、耳に当てると微かに機械音がする。
結論、自分ではどうしようもない。
だが、ジュリア・シルヴァスタインやルイスのような技術を持っている人物に渡せば
なんとかなるかもしれない。
――――――本当に?また騙されてしまうんじゃないの?
不吉な考えを押し出すために頭を振るう。
自分やハジの二人だけで戦っていく限界はすでに学んだ。ならば協力者の存在は必要である。
とりあえずは首輪をデイパックに入れてから、
遺体を店の中に運び毛布に包む。野晒しではあまりにも哀れだから。
「ごめん、もし貴女の友達に会ったら守ってあげるから」
そして謝ろう、自分がもう少し器用なら死は避けられただろうから。
とりあえずはここ以外の場所で休息したい、怪我を推して戦闘はしたくない。
そうしてナイフに付いた血を別の毛布で拭い、朝日を背に受けながらその場から移動する。
元の世界に返り、ディーヴァと共に滅びるために。
【G-8 初日 早朝】
【音無小夜@BLOOD+】
[状態]:左脇腹に刺し傷(再生中)、なんとか歩ける程度には回復
[装備]:ハンティングナイフ
[道具]:支給品一式、ウィンチェスターM1897の予備弾(30発分)
首輪、ウィンチェスターM1897(残弾数4/5)
[思考・状況]
1:この場から離れ、別の休めそうな場所を探す
2:首輪を解析できる人物の元に持って行く
3:まずはPKK(殺人者の討伐)を行う
4:SOS団のメンバーに謝りたい
5:元の世界に戻ってディーヴァを殺して自分も死ぬ
[備考]:鶴屋さんの遺体は毛布に包まれて店内に置かれています。
鶴屋さんの荷物やボディブレードは店内に置いてあります。
荷物が入った袋は巾着袋で、中身は支給品一式と予備の食料と水です。
&color(red){【鶴屋さん@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】}
&color(red){[残り61人]}
*時系列順で読む
Back:[[Is he a knight?]] Next:[[brave heart]]
*投下順で読む
Back:[[Is he a knight?]] Next:[[brave heart]]
|49:[[決意の言葉]]|音無小夜|120:[[影日向]]|
|53:[[approaching!]]|&color(red){鶴屋さん}||
*「過ぎ去った日常」◆5VEHREaaO2
あの二人があの少女を探しに出て数十分が経った。
冷静に考えて、あんな乱暴そうな男と関わるよりもSOS団のメンバーを探すほうが先である。
自分がいなかった時のフォローは、なのはがするだろう。
そう考え、このエリアから逃げ出すことにし、何か役立つ物が無いかを探すことにした。
「ん、もう……大した物がないなぁ」
だが、見つかった物は家具を始めとした雑貨のみであり到底殺し合いに使えそうな物はない。
幸いにも巾着袋があったので血に濡れたデイバックの中身をそれに入れ替え、デイバックはゴミ箱に捨てる。
そして、ここから離れるために店を出ようとした。だが足を止める。
壊れた戸の向こうに街灯に照らされる人影が見えたからだ。
静かに入り口から離れ、カーテンの隙間から窓の外の様子を観察することにする。
鶴屋の目に入ったのは、この家に向かって真直ぐ歩いてくる銃を担いだ、自分と同程度の年齢と思われる女の姿。
裏口から逃げようと思ったが踏みとどまる。
あの女が殺し合いに乗っているのならSOS団のメンバーが危険である。
なら物陰に隠れ、相手が中に入ってきてから刺し殺せばいい。
幸いこの建物には、隠れられそうな場所ならいくらでもあり、自分と同じ年頃の女ならそれで何とかなる。
そう考え、身を隠し息を潜めながら期を窺う。
だが、僅かに想定外のことが起こった。
「……私は殺し合いに乗っていない」
外から凛とした落ち着いた女の声が聞こえてきた。
だが、黙ることにする。下手な対応をすれば死ぬ可能性は低くはない。
「できればそこから出てきて」
沈黙を保つ。
「分かったわ、武器は捨てる」
複数の何かを置く音がした。
「これで丸腰よ」
窓から外を見てみる。銃や荷物が女の周りに落ちていた。
とりあえず、会話をしても大丈夫そうではある。
向こうが殺し合いに乗っていたとしても、いくらなんでも映画みたいに散弾銃を蹴り上げて、
すぐさま射撃体勢に移るなどという行動は成功しないだろう。
「あ~、悪いねぇ。本当にそうならっさ、ゆっくりと体を回してくれないかな?」
向こうは少しばかり逡巡したものの、言われたとおり体を回転させる。常に此方に視線を絶やさなかったが、
見る限りでは、どうやら武器はこれ以上持っていないらしい。
僅かながらに御人好しそうな部分も相手から感じ取り、利用できるかと思い姿を現すことにする。
「あたしは鶴屋っさ、一緒に協力しないかい?」
そうして女を招き入れ、さきほどと同じように情報交換をしながら信用を得られるよう
談笑することにした。銃を持つ人間は利用価値があり、手元に置いてじっくりと信頼を得たい。
その際には先ほどの失態を犯さぬよう、血を隠すために袖を折って短くしておいた。
「でさぁ、そこでハルにゃんは代役を勤め上げたんだよ」
「へえ、そうなんだ」
「まあ、悪い子達じゃないっさ」
「なら、早く見つけてあげたいね」
会話を続け、向こうは興味深くこちらの話を聞いている。向こうは小夜という名前ということ以外は、
大して情報を得られなかったものの、何故か学校関係の話に関心があるようで、
主な話題をそれに集中させた。その結果、警戒心は大きく削がれたようだ。
そして、気になっていた話題に移ることにする。
「そういえば、小夜ってさ。どっちの方角から来たんだい?」
「何でそんなことを聞くの?」
「いやぁ…っさ、あたしは北から来たから、みくる達を探すのに別の方角に行こうかなって思ってっさ」
「そうなの、私はH-7からG-7を通ってここに来たんだけど…」
「ってことはその辺りには、みんながいないってことだね。めがっさありがとう」
それは、あの二人が先ほど自分が教えた西の方向に行かずに、かなみの死体を発見した可能性が高いということである。
ならば、一刻も早くここから離れたい。自分が殺し合いに乗ったと知られることでSOS団のメンバーに
危険が及ぶ可能性もあるが、男の支給品がもし銃ならば正面から挑まれればナイフではとうてい勝てはしない。
そう、銃ならば
「……オホ!ゴホ!ゴホ!ゴホ!」
「どうしたの?」
小夜はいきなり咳をした自分に心配そうに声を掛けてくる。
「ゴホ!ゴホ!いや、ちょっと持病を患っていて……ゴホ!ゴホ!ゴホ!ゴホ!」
「大丈夫?」
「だ、ゴホ!ゴホ!ゴホ!だいじょゴホ!ゴホ!ゴホ!」
「ちょっと診せて」
小夜が武器や荷物から離れ、口に左手を当て咳を抑える自分の顔を覗き込んでくる。
ドス
そんな音と共に、右側にある巾着袋の中から抜き出されたナイフが小夜の左脇腹に突き刺さる。
もし、カズマやなのはと接触することになれば、そのときにナイフ一本では負ける可能性は低くはない。
だが、銃一丁でもあれば心強い。小夜を利用することも考えたが、
逆にカズマが武器を何一つ持っていない場合は銃を持った小夜を敵に廻してしまう可能性がある。
片方が生き残って自分がけしかけたと気づけば自分のみならず、SOS団も危険に晒してしまう。
それに、物事が思惑どおり運ばない現状では小夜にカズマを殺させるように状況を用意する余裕も無い。
ならば答えは単純、敵は自分の手で消せばいい。
そう判断し、小夜を殺し銃を奪い取ることを決意する。
方法としては古典的だが演技力には自信がある、うまく行けばもうけもの、
隙がなければ彼女と共に一旦ここから離れ再度チャンスを待てばいい。
その結果、ナイフは隙だらけの小夜に刺さった。
そうして刺したナイフに力を入れ、捻ろうとしたとき
右手を小夜の両手に握られた。
構わずに捻ろうとしたがまるで万力に掴まれたようにびくともせず、逆にナイフから手を離されてしまう。
「この!?」
「……どうして…」
哀れんでいるのか悲しんでいるのか、とてもナイフで刺されているとは思えない表情で問いかけてくる。
その表情に苛立ちながら、左手でボディブレードを掴み、それを小夜の両腕に叩きつける。
一瞬力が緩み、その隙に腕を振り払い散弾銃を掴み、店の外に逃げ出す。
そして、店からある程度離れ、追ってこようとしているのなら撃ち殺してやろうと思い、後ろを振りかえる。
僅か数メートルほど離れたところに、左手で腹を押さえ、右手にナイフを持った、紅い瞳の女がいた。
「……なんでさ」
明らかに常識を超える事態である。全力疾走の人間を相手にして
腹にナイフを刺された女が追いつけるはずが無い。インチキだ。
「こんなことはもう止めて、あなたは友達のことが大切なんでしょう!だから殺し合いなんか…」
瞳以外は先ほどと変わらぬ表情で、腹を押さえたまま女が諭してくる。
「大切だよ、だからあの子達が生き延びられるように、あの子達以外の全員を殺すのさ」
「無茶苦茶よ!あなたの友達だけでいったい何が……」
「うっさい!無茶苦茶なのはお前だ!化け物!!」
そのまま、感情に任せて引き金を引く。矛盾を打ち消すために、矛盾した存在でしかない女を排除するために。
だが、向こうは右に飛び、あっさりと無数の散弾を回避した。
反動に押されながらも立て続けに弾丸を放とうとする。
だが、その瞬間に左胸が熱くなり銃を取りこぼすのにもかまわずに胸を両手で押さえてしまった。
何が起こったのかと思い見ると、左胸にはナイフが、
先刻まで小夜が握っていたはずのかなみのハンティングナイフが、何時の間にか突き刺さっていた。
小夜が投げたであろう、それの刺さる瞬間が見えなかった。
「ふ…普通…こん…な…げ……かい……?」
そのまま、地面に倒れ、傷口や口から血を零す。
急速に意識が消えていくのを感じながら、何故か高校生活の思い出が脳裏に蘇える。
それはSOS団と関わった日々のこと、それらは朝比奈みくるに誘われた野球大会から始まり、
クリスマスイブの鍋パーティで終わった今までの日々。
(それをあたしは守りたかっただけなのに、なんでこんなことになっちゃったのさ?)
目の前に化け物がやってくる。だが、指一本動かすことができない。殺すことすらできない。
「……何か言い残すことは?」
その問いかけに弱々しくもはっきりとした声で答えてやった。
「SOS団の……ために…死んで……化け物……」
視界が真っ暗になる。
「……痛い……」
彼女を殺して一時間経った。
その間は傷の再生に努めることにしたが、眠りの日が近いためか再生が遅くその間は動けずにいた。
とりあえず、移動することにする。それぐらいには回復し、また遺体を隠したとしても、
この状況を説明する自信がなかったからだ。
殺すしかないと思ってしまったが、それでも彼女は普通の人でしかなかった。
そして、歩き出そうとしたところで遺体と目が合う。
『……化け物……』
彼女の言葉が脳裏に思い起こされる。
自分は化け物だ。だからこそ血の匂いを嗅ぎつけ、男の誰かを捜す声を無視し、そこで鶴屋を発見した。
だが、間違いであって欲しかった。彼女と会話しているときには、女子高生『音無小夜』に戻っていた。
自分の運命を忘れたわけではない、それでも彼女との会話は楽しかった。
だから、信じたかった。まるで友達のように接してくれる彼女を。
だが、刺されてしまった。心臓は外れていたので致命傷ではなかったが
それよりも、また裏切られたというショックの方が大きかった。
自分の人生は裏切りの連続であったから……
だが、それでも人を信じたい。翼手と知っていても、ディーヴァを倒すために
自分が死なせてしまった人達や支えてきてくれた人達のためにも。
再び目の前の彼女を見つめ、とある覚悟をする。これは既に血にまみれた自分が、やらなければいけないことだから。
そうして遺体に近寄り仰向けにし、首にナイフを当てる。
「……ごめんなさい」
その一言と共にナイフを動かし、首を切り外す。
血を被ることは覚悟していたが、思っていたよりも血は吹き出なかった。
そして、取り外した首輪をじっくりと見る。
見た感じでは金属で出来た輪に見え、耳に当てると微かに機械音がする。
結論、自分ではどうしようもない。
だが、ジュリア・シルヴァスタインやルイスのような技術を持っている人物に渡せば
なんとかなるかもしれない。
――――――本当に?また騙されてしまうんじゃないの?
不吉な考えを押し出すために頭を振るう。
自分やハジの二人だけで戦っていく限界はすでに学んだ。ならば協力者の存在は必要である。
とりあえずは首輪をデイパックに入れてから、
遺体を店の中に運び毛布に包む。野晒しではあまりにも哀れだから。
「ごめん、もし貴女の友達に会ったら守ってあげるから」
そして謝ろう、自分がもう少し器用なら死は避けられただろうから。
とりあえずはここ以外の場所で休息したい、怪我を押して戦闘はしたくない。
そうしてナイフに付いた血を別の毛布で拭い、朝日を背に受けながらその場から移動する。
元の世界に返り、ディーヴァと共に滅びるために。
【G-8 初日 早朝】
【音無小夜@BLOOD+】
[状態]:左脇腹に刺し傷(再生中)、なんとか歩ける程度には回復
[装備]:ハンティングナイフ
[道具]:支給品一式、ウィンチェスターM1897の予備弾(30発分)
首輪、ウィンチェスターM1897(残弾数4/5)
[思考・状況]
1:この場から離れ、別の休めそうな場所を探す
2:首輪を解析できる人物の元に持って行く
3:まずはPKK(殺人者の討伐)を行う
4:SOS団のメンバーに謝りたい
5:元の世界に戻ってディーヴァを殺して自分も死ぬ
[備考]:鶴屋さんの遺体は毛布に包まれて店内に置かれています。
鶴屋さんの荷物やボディブレードは店内に置いてあります。
荷物が入った袋は巾着袋で、中身は支給品一式と予備の食料と水です。
&color(red){【鶴屋さん@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】}
&color(red){[残り61人]}
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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|49:[[決意の言葉]]|音無小夜|120:[[影日向]]|
|53:[[approaching!]]|&color(red){鶴屋さん}||
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