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「brave heart」(2021/07/26 (月) 11:21:16) の最新版変更点
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*brave heart ◆KpW6w58KSs
ソファの前のテレビ。
いつも食事を採っていたテーブル。
母親が料理をするキッチン。
「……ここは……俺の、家か?」
目覚めると、──いつから意識を失っていたのか分からないが──そこは八神太一の自宅であった。
「俺……元の世界に戻ってきたのか?」
頭に鈍い痛みが走る。それでも、元の世界へ戻れたという希望から太一はすぐに家の中を走り始める。
しかし、何か様子がおかしい。 外を見る限り、現在は夜が空ける頃のはずだ。
この家だったら、現在はデジタルワールドへ行った太一を除けば家族全員が寝静まっているはず。
「ヒカリー! 母さん、父さーん!」
返事はない。寝ているのであれば当然だが。
しかし返事だけではないのだ。人の気配すらも感じられない。
二段ベッドのある子供部屋に行っても、ヒカリはいなかった。
両親の寝室に行っても、布団すらなかった。
「……外に行ったのか?」
まさか、こんな時間に。
それでも、どの道いるとすればそこしかない。
ひょっとしたら天気が悪いだけで、今は夕方なのかもしれない。
いつの間にか走っていた太一は、玄関に辿り着くやいなや、飛びつくようにドアを開けようとする。
「開かない……どうなってるんだ!?」
押しても引っ張っても、まったくドアが動く気配がない。
鍵がかかっているというよりは、ドアの置物に取っ手ついてるものを動かしている。そんな感覚だった。
第一、鍵はかかっていなかった。
「……一さん」
ふと、聞き覚えのある声がした。
このか細い声は……自分のよく知っている……
「ヒカリか!?」
焦り、躓きそうになりながらも、必死で体を声のする方に運ぶ。
やはり人の影はない。だが、先刻までの無人の気配はなかった。
「太一……さん」
声はテレビからのものだった。いつの間にか、砂嵐が映し出されている。
「ヒカリ……? ヒカリなのか?」
「私は……ヒカ……では……あ……せん」
ノイズに紛れて、妹に良く似た声が響いてくる。しかしハッキリと聞き取るができない。
「お前は何者だ? ヒカリに何をした!?」
「……落ち……いて下さ……太一さ……」
だんだんとノイズが少なくなってくる。それと同時に──
「うわぁ!? ……ゆ、床が!」
床が徐々に黒く染まっていく。まるで、何かに侵食されるかのように。
『それ』は床から、やがて壁へと走り、最終的にテレビ画面と太一を残して全てを侵食してしまった。
太一はそこに呆然と立ち尽くす。いや、立っているのかどうかすら分からない。……そもそも、何が起こっているのか。
いつしか、テレビの画面はだんだんと収縮していき、夜空の星のように輝くものと化していった。
「異次元の磁場により、長く留まることができません。手短に用件だけ済まそうと思います」
今度は声がハッキリと聞こえる。まるで、頭に響いてくるような声だ。
「お前は何々だ? ……いや、俺は一体……」
「私が何者かは、今は話すことができません。この声は貴方とコンタクトを取るために、
貴方に最も近い人の声を借りさせて頂きました」
右も左も、正面の光以外には何も見えない。だが、不思議と恐怖は感じられない。
こいつの言うことは、信用してもいいのだろうか。しかし、信用しないとして、どうしろって……
「貴方は今、精神だけの状態でここにいます。簡単に言うと、眠って夢を見ているのです」
夢を見ている……? ……眠って?
そこで、太一の顔が急に曇った。
……そうだ……俺は……
……デジタルワールドのことを……ゲームだって思って…………
人を……
殺したんだ。
……俺が。
死んでも大丈夫なんて思わなければ。
ドラえモンの言うことを、もっとちゃんと聞いていれば。
あの女の人を、もっと信用していれば。
……手榴弾なんて使わなければ。
でも、もう戻らない。
あの男の人は、もう死んでしまった。
傍で泣いていた女の子は俺をどう思うだろう。やっぱり恨んでいるのだろうか。
そうだよ。……俺はそれだけ酷いことをした。デビモンや、エテモンよりも悪いことを、した……
俺が………
「そのことで、あなたと会わせたい方がいます」
声とともに光がさらに収縮していき、いつしか見えなくなった。
しかし太一はそれを見ていなかった。……のだが……
「タイチ」
聞き覚えにある声だ。ヒカリとは違う。でも。
つい昨日まで、ずっと聞いていた気がする。……当然だ。ずっと一緒にいたんだ。
一緒に旅をしてきた……
「アグモン…………いや……コロモン……?」
桃色の、まるっこい体。頭から生える、ヒラヒラとした触覚。大きめの口に、ひっそりと除かせる小さいキバ。
見間違えようがない。アグモンに進化して、すっかり見なくなったけど。こいつは……
「コロモン……」
でも、顔が上がらない。目を合わせたくない。
こんなことをした俺に、コロモンとパートナーでいる資格なんて……
「ぷぅっ!」
「……痛ってぇっ!?」
頭に弾けるような痛み。……コロモンのはいた泡のようだ。
「何す……」
「ねぇタイチ。いつまで下を向いてるつもりなの?」
いつもの陽気とは違う。重さが入った、落ち着いたような声。
自然と顔が上がる。そして目が合う。
「ボク……そんな風に逃げてるタイチは知らないよ。ボクがついてきたのは、いつだって元気で、前に進んでいるタイチだった」
コロモンが、哀しそうな顔をしている。
「……でも、俺は」
「タイチは……取り返しのない間違いをしちゃった。それで、ショックで……後悔して……」
「それで、どうするの?」
「…………え?」
「人を殺しちゃって、ショックだから、このまま何もしないつもり? あの女の子に仇を取られるとか、そんなつもりなの?」
「それでタイチは本当にいいの? 元の世界に、デジタルワールドに、タイチの帰りを待つ人がいるのに」
「それでタイチは、あの人達が満足すると思うの?」
コロモンが、その大きな目で真摯に見つめてくる。
「違……でも、どうすりゃ……」
「立って何かをしようよ。すぐに立てとかは言わないよ。
出来ることをしよう。あの男の人のために。女の子のために。……みんなのために」
胸に、響いてくる。コロモンの言葉が。
「……なんて……ボク、偉そうに言っちゃったけど…………
でも、タイチはここで何もしないで……死んじゃうべきじゃないと思うんだ」
「そうだよ。ヤマトだって頑張ってるんだ。このゲームを終わらせるために」
「謝って済むことではないけれど、せめて行動で示しましょう。立ち止まっているだけでは始まらないわ」
「あんま上手いことは言えへんけど、罪を背負ってでも前に進むっちゅうのも大切なことなんやで」
「それでも今は泣いていいと思うけどね、オイラは。それで一杯泣いたらさ、やっぱりそのまま眠るんじゃなくてさぁ」
「生きるのよ。もうこれ以上の犠牲は増やしてはならないわ。転んで、倒れても起き上がり続けるの」
「ダイジョブだよ。キミなら出来る。勇気を持って、そして逃げないで……諦めないで」
「タイチ。ボクはずっと待ってるよ。タイチが戻ってくるのを。
頑張って。タイチならきっと……」
声が遠くなっていく。周りのデジモン達の姿が消え……そして、コロモンの姿も薄くなっていく。
「ま、待ってくれ! コロモン! おい、行くな! コロモーン!!」
誰もいなくなった空間に、罪を背負った少年が一人。
その目は何処を見つめるか──
いつの間にか、命を少女のために捧げた男の亡骸の傍で少年が一人、意識を失っている。
その少年の胸に、太陽を模った紋章が微かに輝き、やがて意識を取り戻すのは。
もう少し、先の話である。
【F-1駅前・1日目 早朝】
【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]:右手に銃創、精神的ダメージ大 気絶中(眠っている?)
[装備]:なし
[道具]: ヘルメット、支給品一式
[思考・状況]
1:気絶中(眠っている?)
2:夢で見たコロモン達の言葉を反芻、そして……
基本:ヤマトたちと合流
*時系列順で読む
Back:[[「過ぎ去った日常」]] Next:[[罪悪感とノイズの交錯]]
*投下順で読む
Back:[[「過ぎ去った日常」]] Next:[[罪悪感とノイズの交錯]]
|84:[[現実の定義 Virtual game]]|八神太一|119:[[幸運と不幸の定義 near death happiness]]|
*brave heart ◆KpW6w58KSs
ソファの前のテレビ。
いつも食事を採っていたテーブル。
母親が料理をするキッチン。
「……ここは……俺の、家か?」
目覚めると、──いつから意識を失っていたのか分からないが──そこは八神太一の自宅であった。
「俺……元の世界に戻ってきたのか?」
頭に鈍い痛みが走る。それでも、元の世界へ戻れたという希望から太一はすぐに家の中を走り始める。
しかし、何か様子がおかしい。外を見る限り、現在は夜が明ける頃のはずだ。
この家だったら、現在はデジタルワールドへ行った太一を除けば家族全員が寝静まっているはず。
「ヒカリー! 母さん、父さーん!」
返事はない。寝ているのであれば当然だが。
しかし返事だけではないのだ。人の気配すらも感じられない。
二段ベッドのある子供部屋に行っても、ヒカリはいなかった。
両親の寝室に行っても、布団すらなかった。
「……外に行ったのか?」
まさか、こんな時間に。
それでも、どの道いるとすればそこしかない。
ひょっとしたら天気が悪いだけで、今は夕方なのかもしれない。
いつの間にか走っていた太一は、玄関に辿り着くやいなや、飛びつくようにドアを開けようとする。
「開かない……どうなってるんだ!?」
押しても引っ張っても、まったくドアが動く気配がない。
鍵がかかっているというよりは、ドアの置物に取っ手がついてるものを動かしている。そんな感覚だった。
第一、鍵はかかっていなかった。
「……一さん」
ふと、聞き覚えのある声がした。
このか細い声は……自分のよく知っている……
「ヒカリか!?」
焦り、躓きそうになりながらも、必死で体を声のする方に運ぶ。
やはり人の影はない。だが、先刻までの無人の気配はなかった。
「太一……さん」
声はテレビからのものだった。いつの間にか、砂嵐が映し出されている。
「ヒカリ……? ヒカリなのか?」
「私は……ヒカ……では……あ……せん」
ノイズに紛れて、妹に良く似た声が響いてくる。しかしハッキリと聞き取るができない。
「お前は何者だ? ヒカリに何をした!?」
「……落ち……いて下さ……太一さ……」
だんだんとノイズが少なくなってくる。それと同時に──
「うわぁ!? ……ゆ、床が!」
床が徐々に黒く染まっていく。まるで、何かに侵食されるかのように。
『それ』は床から、やがて壁へと走り、最終的にテレビ画面と太一を残して全てを侵食してしまった。
太一はそこに呆然と立ち尽くす。いや、立っているのかどうかすら分からない。……そもそも、何が起こっているのか。
いつしか、テレビの画面はだんだんと収縮していき、夜空の星のように輝くものと化していった。
「異次元の磁場により、長く留まることができません。手短に用件だけ済まそうと思います」
今度は声がハッキリと聞こえる。まるで、頭に響いてくるような声だ。
「お前はなんなんだ? ……いや、俺は一体……」
「私が何者かは、今は話すことができません。この声は貴方とコンタクトを取るために、
貴方に最も近い人の声を借りさせて頂きました」
右も左も、正面の光以外には何も見えない。だが、不思議と恐怖は感じられない。
こいつの言うことは、信用してもいいのだろうか。しかし、信用しないとして、どうしろって……
「貴方は今、精神だけの状態でここにいます。簡単に言うと、眠って夢を見ているのです」
夢を見ている……? ……眠って?
そこで、太一の顔が急に曇った。
……そうだ……俺は……
……デジタルワールドのことを……ゲームだって思って…………
人を……
殺したんだ。
……俺が。
死んでも大丈夫なんて思わなければ。
ドラえモンの言うことを、もっとちゃんと聞いていれば。
あの女の人を、もっと信用していれば。
……手榴弾なんて使わなければ。
でも、もう戻らない。
あの男の人は、もう死んでしまった。
傍で泣いていた女の子は俺をどう思うだろう。やっぱり恨んでいるのだろうか。
そうだよ。……俺はそれだけ酷いことをした。デビモンや、エテモンよりも悪いことを、した……
俺が………
「そのことで、あなたと会わせたい方がいます」
声とともに光がさらに収縮していき、いつしか見えなくなった。
しかし太一はそれを見ていなかった。……のだが……
「タイチ」
聞き覚えにある声だ。ヒカリとは違う。でも。
つい昨日まで、ずっと聞いていた気がする。……当然だ。ずっと一緒にいたんだ。
一緒に旅をしてきた……
「アグモン…………いや……コロモン……?」
桃色の、まるっこい体。頭から生える、ヒラヒラとした触覚。大きめの口に、ひっそりと除かせる小さいキバ。
見間違えようがない。アグモンに進化して、すっかり見なくなったけど。こいつは……
「コロモン……」
でも、顔が上がらない。目を合わせたくない。
こんなことをした俺に、コロモンとパートナーでいる資格なんて……
「ぷぅっ!」
「……痛ってぇっ!?」
頭に弾けるような痛み。……コロモンのはいた泡のようだ。
「何す……」
「ねぇタイチ。いつまで下を向いてるつもりなの?」
いつもの陽気とは違う。重さが入った、落ち着いたような声。
自然と顔が上がる。そして目が合う。
「ボク……そんな風に逃げてるタイチは知らないよ。ボクがついてきたのは、いつだって元気で、前に進んでいるタイチだった」
コロモンが、哀しそうな顔をしている。
「……でも、俺は」
「タイチは……取り返しのない間違いをしちゃった。それで、ショックで……後悔して……」
「それで、どうするの?」
「…………え?」
「人を殺しちゃって、ショックだから、このまま何もしないつもり?あの女の子に仇を取られるとか、そんなつもりなの?」
「それでタイチは本当にいいの?元の世界に、デジタルワールドに、タイチの帰りを待つ人がいるのに」
「それでタイチは、あの人達が満足すると思うの?」
コロモンが、その大きな目で真摯に見つめてくる。
「違……でも、どうすりゃ……」
「立って何かをしようよ。すぐに立てとかは言わないよ。
出来ることをしよう。あの男の人のために。女の子のために。……みんなのために」
胸に、響いてくる。コロモンの言葉が。
「……なんて……ボク、偉そうに言っちゃったけど…………
でも、タイチはここで何もしないで……死んじゃうべきじゃないと思うんだ」
「そうだよ。ヤマトだって頑張ってるんだ。このゲームを終わらせるために」
「謝って済むことではないけれど、せめて行動で示しましょう。立ち止まっているだけでは始まらないわ」
「あんま上手いことは言えへんけど、罪を背負ってでも前に進むっちゅうのも大切なことなんやで」
「それでも今は泣いていいと思うけどね、オイラは。それでいっぱい泣いたらさ、やっぱりそのまま眠るんじゃなくてさぁ」
「生きるのよ。もうこれ以上の犠牲は増やしてはならないわ。転んで、倒れても起き上がり続けるの」
「ダイジョブだよ。キミなら出来る。勇気を持って、そして逃げないで……諦めないで」
「タイチ。ボクはずっと待ってるよ。タイチが戻ってくるのを。
頑張って。タイチならきっと……」
声が遠くなっていく。周りのデジモン達の姿が消え……そして、コロモンの姿も薄くなっていく。
「ま、待ってくれ!コロモン!おい、行くな!コロモーン!!」
誰もいなくなった空間に、罪を背負った少年が一人。
その目は何処を見つめるか──
いつの間にか、命を少女のために捧げた男の亡骸の傍で少年が一人、意識を失っている。
その少年の胸に、太陽を模った紋章が微かに輝き、やがて意識を取り戻すのは。
もう少し、先の話である。
【F-1駅前・1日目 早朝】
【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]:右手に銃創、精神的ダメージ大 気絶中(眠っている?)
[装備]:なし
[道具]: ヘルメット、支給品一式
[思考・状況]
1:気絶中(眠っている?)
2:夢で見たコロモン達の言葉を反芻、そして……
基本:ヤマトたちと合流
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