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「罪悪感とノイズの交錯」(2021/07/26 (月) 11:40:17) の最新版変更点
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*罪悪感とノイズの交錯 ◆7jHdbD/oU2
暗闇に支配されていた森が、少しずつ明るさを得ていく。
殺し合いを強要されるフィールドの中、普段通りに朝が訪れようとしていた。
それでも、見通しの悪い森の中をトラックで走るには不安があった。
いつ何処から、何が飛び出してくるのか分からないのだ。
だから、石田ヤマトはヘッドライトを点けたまま、軍用トラックを進ませていた。
のんびりという形容が似合うほど、その速度は遅い。
まるで、車内に漂う重い空気が速度を奪っているようだった。
ヤマトもぶりぶりざえもんも、何一つ口を利いていなかった。
舗装されていない森を走るトラックは、座席へと振動を伝えてくる。
自家用車のような柔らかいシートを使っていないため、乗り心地がいいとは言えなかった。
不愉快な振動が体を揺さぶる。エンジンの駆動音がやけに耳につく。
それらを全て無視するようにして、ヤマトは前だけを見てトラックを走らせ続ける。
全神経を運転することに、全意識を前方の注意だけに傾けていた。
そうすることで、あらゆることを意識から追い出すように。
グレーテルを殺してしまった罪悪感や、ぶりぶりざえもんに対する不信感。
それらを意識するよりは、運転のストレスの方がいくらかマシだった。
「お、ぉぉぉ……」
不意に、エンジンの音に交じって呻き声が聞こえてきた。だがヤマトはそれを耳から追い出し、運転に集中する。
「おおおぉぉぉ……」
耳障りな声は次第に大きくなり、ヤマトの集中力を削いでいく。
後部座席から聞こえるその声を無視するため、できるならば耳を抑えたいくらいだった。
ヤマトは苛立ちを燻らせる。ともすれば、そのままアクセルを踏み込んでしまいそうなほどに。
「ヤマト、車を止めろ……! 降ろせ……!」
何が起きたかなど容易に想像がつく。
それでも、ヤマトはぶりぶりざえもんの要望には応じない。
どうやら、デジモンにも食中毒はあるらしい。自業自得だ。この身勝手なデジモンにはいい薬だろう。
そう思いながら、ヤマトは少しだけルームミラーに目を向けた。
そこに映る、もう動かないグレーテルに何度目かになる謝罪を胸中で投げかけてから、ぶりぶりざえもんを見る。
悶えながら口元に前足を当てるぶりぶりざえもんの顔は、青ざめていた。
「あぁん、もうダメ。で、出るぅ……」
喘ぎ、くねくねと艶かしい動きをしながら、ぶりぶりざえもんの口が開く。そこからぽたりと、一滴の涎が垂れ落ちた。
嫌な予感が、ヤマトの胸に去来する。
トラックが汚れるだけならまだしも、このままではグレーテルの遺体に何かがぶちまけられてしまう。
そう感じたヤマトはトラックを止め、急いで後部座席のぶりぶりざえもんを引っつかんで。
迷わず、窓から投げ捨てた。
ぶりぶりざえもんは、空中で吐瀉物を撒き散らしながら放物線を描く。
顔面から地面に突っ込んだぶりぶりざえもんは、朝の空気を汚すようにして吐き続けていた。
撒き散らされている、聞いているだけでも吐き気がしそうな声にヤマトは顔を顰める。溜息を吐いて、彼は窓を閉めた。
すると、車内が妙に広くなったような気がした。
ヤマトは、ぐるりと車内を見回す。
後ろにいる、もう動かないグレーテル。
置き去りにされた、ぶりぶりざえもんのデイバック。
ヤマトの手に、じわりと汗が滲む。そのままごくりと唾を飲み、窓を閉めたまま外を窺った。
そこでは、未だぶりぶりざえもんが地面を汚し続けている。痛々しい姿だったが、それに同情も憐憫も湧いてはこなかった。
その代わりとでもいうように、ヤマトの胸に別の考えが浮かんでくる。
こいつと一緒に行動することに、どれほど意味があるのかということだ。
自分勝手で、人の話もまともに聞かず、偉そうで、頼りになりそうもない。
むしろ、いざというときは後ろから撃たれるのではないかという気さえしてくる。
救いのヒーローと自称しているが、それらしい素振りを見せたことは一度たりともない。
一緒にいてもただ苛立ちが募るばかり。それなら、単独で行動した方がマシなんじゃないか。
今ならば、こいつを放っていける。少しアクセルを踏み込むだけで、こいつとは別れられる。
やるならば早くしなければ。勘付かれる前に。トラックに取り付かれる前に。
だが、とヤマトは思案する。
本当にそれでいいのか。確かに腹の立つ奴だが、こんなに苦しんでいるんだ。
放っておいて、本当にいいのか。
浮かんでくる考えを、ヤマトは大きく頭を振って振り払う。
それら全てを捨て置くように、ヤマトはブレーキから足を離してアクセルを踏む。
ぶりぶりざえもんのえずき声を残して、トラックは走り出す。
朝を迎え始めた森の中を、ゆっくりと走り出す。
◆◆
どれほど走ったかと尋ねられれば、それほどの距離を進んだわけではないし、時間も余り経過してはいない。
それなのに、ヤマトはかなりの時間、相当の距離を走ったような錯覚を感じていた。
随分体が重いのは、気分が重いせいだろうかとヤマトは思う。
もともと遅かったトラックの速度は更に落ち、今にも止まりそうだ。
ヤマトはずっと、グレーテルを轢いてしまった後は特に、集中して運転を続けていた。
だが現在、彼はぼんやりとハンドルを握っていた。前方を見てはいるものの、その情報がまともに頭には入ってこない。
意図的にぶりぶりざえもんの声を頭に入れないようにしていたときとは違う。
見ようとしているのに、頭に入ってこない。ヤマトの頭の中は、罪悪感でいっぱいだった。
ぶりぶりざえモンは無事だろうか。
苦しんでいるところを誰かに襲われてはいないだろうか。
浮かんでくるのは、血色の悪い豚の顔。脂汗が浮かぶ不細工な顔。
止め処なく思い出されるその顔を、ヤマトは頭を振って拭い取る。
あいつのことだ、吐けばすっきりしてピンピンしているだろう。
もし誰かに襲われたとしても上手く逃げ回りそうだし、あいつが死ぬところを想像できない。
だから、大丈夫。きっと、大丈夫。大丈夫、大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫。
「大丈夫だよな? ぶりぶりざえモン……」
ヤマトは呟いて、自分を落ち着けようとする。頭を大丈夫という言葉で埋め尽くし、心を安らげようとする。
そうしても。
どんなにそうしようとしても。
苦しむぶりぶりざえもんの顔は離れてくれなくて。
見捨てた罪悪感は消えてくれなくて。
直視するのを避けようとするヤマトの目を開くように、逃げようとするヤマトの逃げ道をなくそうとするかのように。
それらはヤマトを包囲していく。飲み込もうとしていく。
そう実感したとき、ヤマトは気付く。
自分が罪の意識から逃れようとしていたことに。
捨て置いた罪から目を背けようとしていたことに。
思わず、ヤマトはハンドルに思い切り拳を叩きつけた。
拳に伝わる痛みを、ヤマトは強く噛み締める。
最低だ。
苦しむぶりぶりざえモンを見捨てて、その罪から逃れようとして。
こんな自分はイヤだ。
こんな人間になりたくなんて、ない。
「……戻ろう」
許せないほどの最低な人間になる前に。
ぶりぶりざえモンに何かがある前に。
間に合わせなければならない。絶対に、間に合わせなければならない。
たとえ戻っても、置き去りにした事実と罪が消えるわけじゃない。
だとしても、まだ取り返しはつく。いや、取り返してみせる。
自分勝手で、人の話もまともに聞かず、偉そうで、頼りになりそうもない奴だけど。
それでもあいつは、ぶりぶりざえモンは。
オレがこの殺し合いの中で、初めて出会った仲間なんだから。
ヤマトはハンドルを切り、トラックを転進させる。
罪から目を背けないために。
自分自身を、救えないほど最低な人間にしないために。
そして何よりも、仲間のために。
「ぶりぶりざえモン……」
無事でいてくれと願いながら、ヤマトはアクセルを踏み込む。
あの憎らしい顔を早く見たかった。あの偉そうな言葉を早く聞きたかった。そして何より、早く謝りたかった。
だからヤマトは加速するのも構わない。力を入れれば入れるだけ、トラックは答えてくれる。
焦りに取り付かれながらも、ヤマトは前をじっと見据えていた。
景色が通り過ぎるスピードが速くなっていく。
そんな中、ヤマトは見つけた。
進行方向に佇む、セーラー服を着た人影を。
「!!」
ヤマトの頭に数分前の光景がフラッシュバックする。
グレーテルを轢き殺してしまったその瞬間が、瞼の裏に蘇る。
人影との距離は十分にある。しかし、人を轢いてしまった経験が、ヤマトを必要以上に動かした。
突き動かされたように、ヤマトは慌ててブレーキを踏む。足の裏で蹴り飛ばすように、ブレーキペダルを力の限り踏みつける。
急制動の衝撃がヤマトを襲う。だがそれに耐えながら、ヤマトはハンドルを力いっぱい切る。
巨大な揺れと慣性に振り回されても、彼は腕と足の力を抜かない。
そして、トラックが一際大きく揺れた。体が浮き、シートベルトが食い込む。
衝撃で上半身が曲がり、額がハンドルに打ち付けられた。
それを最後に、ジェットコースターに乗っているような感覚は終わる。
ようやくトラックは停止したのだ。
ハンドルに寄りかかっていたヤマトは、そっと顔を上げる。
ルームミラーに映ったその額からは、血が流れ出ていた。
額だけではなく、右腕も痛い。見ると、上腕に黒いアザができていた。どうやらぶつけたらしい。
痛みを堪え、ヤマトは後部座席を確認する。そこにあるグレーテルの遺体は、幸いなことに目立った傷は見られなかった。
そのことに安堵して、ヤマトはドアを開ける。
すると、タヌキのような耳と眼鏡を付けた少女の顔が、目の前にあった。
◆◆
涼宮ハルヒの痕跡を追っていた長門有希は、エンジン音とライトの明かりを捉えると足を止めた。
何処に敵が潜んでいるのか分からないこの状況で、ヘッドライトを灯して車を走らせるというのは自分の居場所を知らせながら移動しているようなものだ。
無鉄砲。
そんな言葉を当てはめるのが最も正しいような行動でしかない。
長門有希が追う人物は、そんな言葉を当てはめるのが最も正しいような人物だ。
今まで追ってきた足跡が、涼宮ハルヒと関連するものかどうかは定かではない。
手がかりだった整髪料の香りは、風によって流されていた。
分かることは、かつてこの周囲に涼宮ハルヒがいた可能性がある、ということだけだった。
足跡を追うべきか、車の調査を行うか。
長門は、後者を選択した。
もしも自動車に涼宮ハルヒが乗っているとすれば、今合流しておかなければ後の合流は困難であると判断したためだ。
普段のような情報操作を行える環境ではない。引き離されてしまえば追いつくのは難しい。
だから、長門は自動車のドライバーと接触しようとした。走る車の前に出て、相手を止めようとした。
もちろん突然目の前に飛び出したわけではないし、衝突する可能性があった場合回避するつもりだった。
それだけの余裕を、長門は見てとっていた。
それなのに、長門を発見したドライバーは不必要な急ブレーキと過剰な急ハンドルを行った。
結果、トラックは大きく横道に逸れ、そこにあった大岩に激突してようやく止まった。
長門は倒れたトラックに歩み寄る。中にいる人物を確かめるために。
少なくとも、危険な人物でないことは予想がつく。殺人者ならば、構うことなく長門を轢き殺していただろうから。
長門は一足でトラックに近づくと、運転席の窓から中を覗き込んだ。
そこにいたのは金髪の少年で、額から血を流している彼は後部座席を見て安堵の表情を浮かべていた。
彼と同じように後部座席を見ようとしたとき、ドアが開いて少年が姿を現した。
「ごめん……大丈夫、だった?」
尋ねると、長門は無表情に首を縦に振って答えた。
同じことを繰り返さずに済んで、ヤマトは心から安心する。
「よかった……」
思わずそう漏らしたが、長門は無反応だった。
どうしたのかと思い様子を窺うと、彼女は後部座席の中を見つめていた。
そこにいるのは、動かない人間。
自分が殺してしまった、人間。
そのことを他の誰かに知られてしまうことに、ヤマトは恐怖を感じる。
だが、隠すわけにはいかない。嘘をつくわけにはいかない。
そうやって罪から目を背けようとすることが嫌で、ヤマトはぶりぶりざえもんの元へ戻ろうとしているのだから。
そうだ。
こんな所で油を売っている場合ではない。
グレーテルをこのままにしておくわけにはいかないが、ぶりぶりざえもんを捜すのが先だ。
手遅れにならないうちに、急いで見つけないと。
「詳しくは後で必ず説明するから、少し待って――」
ヤマトが言いかけたとき、長門の視線が動く。
彼女の瞳は、ヤマトがトラックで目指していた先へと向けられていた。
つられてヤマトもそちらを見る。
そこには、動く小さな影があった。よろめくように歩いているそれは、とても弱々しい。
それは、衰弱したぶりぶりざえもんの姿だった。
「ぶりぶりざえモン!」
ヤマトは急いでぶりぶりざえもんへと駆け寄り、今にも倒れそうなその体を支える。
「ヤマト、キサマ……よくも私を置き去りにしてくれたな……」
相変わらず偉そうなぶりぶりざえもん。しかし、その声はか細くひ弱だった。
「ごめん……」
ヤマトはぶりぶりざえもんを抱きしめる。その体が、心なしか痩せ細っているような気がした。
ヤマトの視界が涙で滲む。ぶりぶりざえもんの言葉に反論などできはしない。
悪いのは、自分なのだから。
「ごめんな、ぶりぶりざえモン……」
額から垂れ落ちる血と涙が混ざり合い、ヤマトの頬を伝っていく。
ヤマトの腕の中、ぶりぶりざえもんは小さく鼻を鳴らす。その姿すら、力ない。
「ごめんで済めば警察はいらんのだ……慰謝料、百億万円を要求する。ローンも、可……」
毒づくぶりぶりざえもんの体を、ヤマトは必死で支えようとする。
どうすればいいのか分からず、ただ腕に力を込めた。
腕の怪我が痛んでも、ただ必死で力を込めた。
自分の力が、ぶりぶりざえもんに伝わることを願うようにして。
「やめろ、ヤマト……私には、そういう趣味は……」
喋り続けるぶりぶりざえもん。その姿が痛々しく、ヤマトには辛かった。
どうすればいい。どうしたら救われる。オレに何ができるんだ。
「車内に散乱した白米から、黄色ブドウ球菌が検出された」
自問するヤマトに、淡々とした声が投げかけられる。振り向けば、後ろには長門が佇んでいた。
「黄色ブドウ球菌による食中毒の治療は抗生物質投与といった化学療法が適切。
また、嘔吐によって失われた水分、栄養分を輸液によって摂取する必要がある」
「治せるのか!?」
思わず声を荒げたヤマト。それに対し、長門の声はあまりにも平坦だ。
「抗生物質および輸液製剤の調達ができれば治療、回復は可能。それらがある可能性が最も高いのは、西にある病院」
ヤマトの口元に笑みが生まれる。まだ手はある。救うことができる。
道さえ分かればあとは行くだけだ。
ヤマトは荒っぽく涙を拭くと、ぶりぶりざえもんを抱き上げて立ち上がる。
体力も気力もないのか、ぶりぶりざえもんが抵抗することも文句を言うこともなかった。
トラックへ向かいながら、ヤマトは長門を見上げる。
「オレ、病院へ行くよ。ありがとう」
グレーテルの埋葬は、申し訳ないが後回しだ。
ぶりぶりざえもんを治療することが、今のヤマトにとって最優先事項なのだから。
ヤマトはトラックの助手席にぶりぶりざえもんを乗せ、自分は運転席に座る。
「待ってろよ、ぶりぶりざえモン。すぐに病院へ連れてってやるからな」
呻くぶりぶりざえもんにヤマトは告げる。
必ず助けると、そう決意して。するとそのとき、助手席のドアがノックされた。
窓を開けて外を見ると、感情の読み取れない瞳と目が合う。
「わたしも行く」
届いてきた声。それからも、彼女の感情は掬い取れない。
だが、心強いと思う。
自分一人で病院に行ったところで、適切な処置ができる自信はないからだ。
「……助かるよ。ありがとう」
付き合わせるのは申し訳ないと思いながら、ヤマトは言う。
「いい。あなたが怪我をしたのはわたしにも責任がある。それに――」
長門は後部座席を一瞥して、続けた。
「まだ詳しい話を聞いていない」
ヤマトは身を強張らせながらも、首を縦に振る。
話さなければならないことだ。
それも、罪と向き合うために、逃げないために必要なのだから。
「そうだな。よろしく頼むよ」
頷く長門の、変わらない表情が、何故か頼もしく感じられた。
◆◆
石田ヤマトと共に病院へ向かうことは涼宮ハルヒから遠ざかる可能性が高い選択である。
涼宮ハルヒとの接触という目的を達成するためには、再度足跡の追跡を続行するのが最も合理的だ。
そのことを、長門有希は理解していた。だから、そうしようとした。
そうしようと、長門はトラックから遠ざかろうとした、その瞬間。
彼女の思考にノイズが生まれた。
バトルロワイアルの中、最初に発見した少女を見送ったときに感じたものと酷似したノイズ。
不愉快なそれは、無視することも処理することも、理解することさえもできないものだった。
ただ分かるのは、石田ヤマトを捨て置いて単独で行かせるということがノイズを生み出している原因だということだけ。
それゆえに、長門はヤマトに声をかけた。
そうすることが、正しいかどうかは分からない。
だが少なくとも、思考のノイズはなりを潜めていった。
だからきっと、間違ってはいないのだろうと長門は結論付ける。
そうして、長門がトラックに乗り込んだ、その直後。
空のスクリーンに、仮面の男の姿が映し出された。
【C-6とC-7の境界 1日目・早朝。放送直前】
【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人をはね殺したことに対する深い罪悪感、精神的疲労。右腕上腕打撲、額から出血
[装備]:クロスボウ、73式小型トラック(運転)
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー
RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)
デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
真紅のベヘリット@ベルセルク
[思考]
1:病院へ行ってぶりぶりざえもんの治療
2:移動しながら長門にグレーテルのことを説明。
3:街へ行って、どこかにグレーテルを埋葬してやる
4:八神太一との合流
基本:生き残る
[備考]:ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:黄色ブドウ球菌による食中毒。激しい嘔吐感
[装備]:照明弾、73式小型トラック(助手)
[道具]:支給品一式 (配給品0~2個:本人は確認済み)パン二つ消費
[思考]
1:吐きそう。すごく吐きそう。むしろ吐きたい。
2:強い者に付く
3:自己の命を最優先
基本:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する
[備考]:黄色ブドウ球菌で死ぬことはありません。
[共通思考]:市街地に向かい、グレーテルを埋葬するのに適当な場所を探す。
【長門有希】
[状態]:健康
[装備]:73式小型トラック(後部座席)
[道具]:デイバッグ/支給品一式/タヌ機/S&W M19(6/6)
[思考]
1:ヤマトたちに付き合い、ぶりぶりざえもんの治療
2:ハルヒを探す/朝倉涼子を探す/キョンを探す
[共同アイテム]:ミニミ軽機関銃、おにぎり弁当のゴミ(どちらも後部座席に置いてあります)
*時系列順で読む
Back:[[brave heart]] Next:[[「きゃっほう」/「禁則事項です」/「いってらっしゃい」]]
*投下順で読む
Back:[[brave heart]] Next:[[「きゃっほう」/「禁則事項です」/「いってらっしゃい」]]
|81:[[貪る豚]]|石田ヤマト|105:[[I wish]]|
|81:[[貪る豚]]|ぶりぶりざえもん|105:[[I wish]]|
|66:[[長門有希の報告]]|長門有希|105:[[I wish]]|
*罪悪感とノイズの交錯 ◆7jHdbD/oU2
暗闇に支配されていた森が、少しずつ明るさを得ていく。
殺し合いを強要されるフィールドの中、普段通りに朝が訪れようとしていた。
それでも、見通しの悪い森の中をトラックで走るには不安があった。
いつ何処から、何が飛び出してくるのか分からないのだ。
だから、石田ヤマトはヘッドライトを点けたまま、軍用トラックを進ませていた。
のんびりという形容が似合うほど、その速度は遅い。
まるで、車内に漂う重い空気が速度を奪っているようだった。
ヤマトもぶりぶりざえもんも、何一つ口を利いていなかった。
舗装されていない森を走るトラックは、座席へと振動を伝えてくる。
自家用車のような柔らかいシートを使っていないため、乗り心地がいいとは言えなかった。
不愉快な振動が体を揺さぶる。エンジンの駆動音がやけに耳につく。
それらを全て無視するようにして、ヤマトは前だけを見てトラックを走らせ続ける。
全神経を運転することに、全意識を前方の注意だけに傾けていた。
そうすることで、あらゆることを意識から追い出すように。
グレーテルを殺してしまった罪悪感や、ぶりぶりざえもんに対する不信感。
それらを意識するよりは、運転のストレスの方がいくらかマシだった。
「お、ぉぉぉ……」
不意に、エンジンの音に交じって呻き声が聞こえてきた。だがヤマトはそれを耳から追い出し、運転に集中する。
「おおおぉぉぉ……」
耳障りな声は次第に大きくなり、ヤマトの集中力を削いでいく。
後部座席から聞こえるその声を無視するため、できるならば耳を押さえたいくらいだった。
ヤマトは苛立ちを燻らせる。ともすれば、そのままアクセルを踏み込んでしまいそうなほどに。
「ヤマト、車を止めろ……!降ろせ……!」
何が起きたかなど容易に想像がつく。
それでも、ヤマトはぶりぶりざえもんの要望には応じない。
どうやら、デジモンにも食中毒はあるらしい。自業自得だ。この身勝手なデジモンにはいい薬だろう。
そう思いながら、ヤマトは少しだけルームミラーに目を向けた。
そこに映る、もう動かないグレーテルに何度目かになる謝罪を胸中で投げかけてから、ぶりぶりざえもんを見る。
悶えながら口元に前足を当てるぶりぶりざえもんの顔は、青ざめていた。
「あぁん、もうダメ。で、出るぅ……」
喘ぎ、くねくねと艶かしい動きをしながら、ぶりぶりざえもんの口が開く。そこからぽたりと、一滴の涎が垂れ落ちた。
嫌な予感が、ヤマトの胸に去来する。
トラックが汚れるだけならまだしも、このままではグレーテルの遺体に何かがぶちまけられてしまう。
そう感じたヤマトはトラックを止め、急いで後部座席のぶりぶりざえもんを引っつかんで。
迷わず、窓から投げ捨てた。
ぶりぶりざえもんは、空中で吐瀉物を撒き散らしながら放物線を描く。
顔面から地面に突っ込んだぶりぶりざえもんは、朝の空気を汚すようにして吐き続けていた。
撒き散らされている、聞いているだけでも吐き気がしそうな声にヤマトは顔を顰める。溜息を吐いて、彼は窓を閉めた。
すると、車内が妙に広くなったような気がした。
ヤマトは、ぐるりと車内を見回す。
後ろにいる、もう動かないグレーテル。
置き去りにされた、ぶりぶりざえもんのデイバック。
ヤマトの手に、じわりと汗が滲む。そのままごくりと唾を飲み、窓を閉めたまま外を窺った。
そこでは、未だぶりぶりざえもんが地面を汚し続けている。痛々しい姿だったが、それに同情も憐憫も湧いてはこなかった。
その代わりとでもいうように、ヤマトの胸に別の考えが浮かんでくる。
こいつと一緒に行動することに、どれほど意味があるのかということだ。
自分勝手で、人の話もまともに聞かず、偉そうで、頼りになりそうもない。
むしろ、いざというときは後ろから撃たれるのではないかという気さえしてくる。
救いのヒーローと自称しているが、それらしい素振りを見せたことは一度たりともない。
一緒にいてもただ苛立ちが募るばかり。それなら、単独で行動した方がマシなんじゃないか。
今ならば、こいつを放っていける。少しアクセルを踏み込むだけで、こいつとは別れられる。
やるならば早くしなければ。勘付かれる前に。トラックに取り付かれる前に。
だが、とヤマトは思案する。
本当にそれでいいのか。確かに腹の立つ奴だが、こんなに苦しんでいるんだ。
放っておいて、本当にいいのか。
浮かんでくる考えを、ヤマトは大きく頭を振って振り払う。
それら全てを捨て置くように、ヤマトはブレーキから足を離してアクセルを踏む。
ぶりぶりざえもんのえずき声を残して、トラックは走り出す。
朝を迎え始めた森の中を、ゆっくりと走り出す。
◆◆
どれほど走ったかと尋ねられれば、それほどの距離を進んだわけではないし、時間も余り経過してはいない。
それなのに、ヤマトはかなりの時間、相当の距離を走ったような錯覚を感じていた。
随分体が重いのは、気分が重いせいだろうかとヤマトは思う。
もともと遅かったトラックの速度は更に落ち、今にも止まりそうだ。
ヤマトはずっと、グレーテルを轢いてしまった後は特に、集中して運転を続けていた。
だが現在、彼はぼんやりとハンドルを握っていた。前方を見てはいるものの、その情報がまともに頭には入ってこない。
意図的にぶりぶりざえもんの声を頭に入れないようにしていたときとは違う。
見ようとしているのに、頭に入ってこない。ヤマトの頭の中は、罪悪感でいっぱいだった。
ぶりぶりざえモンは無事だろうか。
苦しんでいるところを誰かに襲われてはいないだろうか。
浮かんでくるのは、血色の悪い豚の顔。脂汗が浮かぶ不細工な顔。
止め処なく思い出されるその顔を、ヤマトは頭を振って拭い取る。
あいつのことだ、吐けばすっきりしてピンピンしているだろう。
もし誰かに襲われたとしても上手く逃げ回りそうだし、あいつが死ぬところを想像できない。
だから、大丈夫。きっと、大丈夫。大丈夫、大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫。
「大丈夫だよな? ぶりぶりざえモン……」
ヤマトは呟いて、自分を落ち着けようとする。頭を大丈夫という言葉で埋め尽くし、心を安らげようとする。
そうしても。
どんなにそうしようとしても。
苦しむぶりぶりざえもんの顔は離れてくれなくて。
見捨てた罪悪感は消えてくれなくて。
直視するのを避けようとするヤマトの目を開くように、逃げようとするヤマトの逃げ道をなくそうとするかのように。
それらはヤマトを包囲していく。飲み込もうとしていく。
そう実感したとき、ヤマトは気付く。
自分が罪の意識から逃れようとしていたことに。
捨て置いた罪から目を背けようとしていたことに。
思わず、ヤマトはハンドルに思い切り拳を叩きつけた。
拳に伝わる痛みを、ヤマトは強く噛み締める。
最低だ。
苦しむぶりぶりざえモンを見捨てて、その罪から逃れようとして。
こんな自分はイヤだ。
こんな人間になりたくなんて、ない。
「……戻ろう」
許せないほどの最低な人間になる前に。
ぶりぶりざえモンに何かがある前に。
間に合わせなければならない。絶対に、間に合わせなければならない。
たとえ戻っても、置き去りにした事実と罪が消えるわけじゃない。
だとしても、まだ取り返しはつく。いや、取り返してみせる。
自分勝手で、人の話もまともに聞かず、偉そうで、頼りになりそうもない奴だけど。
それでもあいつは、ぶりぶりざえモンは。
オレがこの殺し合いの中で、初めて出会った仲間なんだから。
ヤマトはハンドルを切り、トラックを転進させる。
罪から目を背けないために。
自分自身を、救えないほど最低な人間にしないために。
そして何よりも、仲間のために。
「ぶりぶりざえモン……」
無事でいてくれと願いながら、ヤマトはアクセルを踏み込む。
あの憎らしい顔を早く見たかった。あの偉そうな言葉を早く聞きたかった。そして何より、早く謝りたかった。
だからヤマトは加速するのも構わない。力を入れれば入れるだけ、トラックは答えてくれる。
焦りに取り付かれながらも、ヤマトは前をじっと見据えていた。
景色が通り過ぎるスピードが速くなっていく。
そんな中、ヤマトは見つけた。
進行方向に佇む、セーラー服を着た人影を。
「!!」
ヤマトの頭に数分前の光景がフラッシュバックする。
グレーテルを轢き殺してしまったその瞬間が、瞼の裏に蘇る。
人影との距離は十分にある。しかし、人を轢いてしまった経験が、ヤマトを必要以上に動かした。
突き動かされたように、ヤマトは慌ててブレーキを踏む。足の裏で蹴り飛ばすように、ブレーキペダルを力の限り踏みつける。
急制動の衝撃がヤマトを襲う。だがそれに耐えながら、ヤマトはハンドルを力いっぱい切る。
巨大な揺れと慣性に振り回されても、彼は腕と足の力を抜かない。
そして、トラックが一際大きく揺れた。体が浮き、シートベルトが食い込む。
衝撃で上半身が曲がり、額がハンドルに打ち付けられた。
それを最後に、ジェットコースターに乗っているような感覚は終わる。
ようやくトラックは停止したのだ。
ハンドルに寄りかかっていたヤマトは、そっと顔を上げる。
ルームミラーに映ったその額からは、血が流れ出ていた。
額だけではなく、右腕も痛い。見ると、上腕に黒いアザができていた。どうやらぶつけたらしい。
痛みを堪え、ヤマトは後部座席を確認する。そこにあるグレーテルの遺体は、幸いなことに目立った傷は見られなかった。
そのことに安堵して、ヤマトはドアを開ける。
すると、タヌキのような耳と眼鏡を付けた少女の顔が、目の前にあった。
◆◆
涼宮ハルヒの痕跡を追っていた長門有希は、エンジン音とライトの明かりを捉えると足を止めた。
何処に敵が潜んでいるのか分からないこの状況で、ヘッドライトを灯して車を走らせるというのは自分の居場所を知らせながら移動しているようなものだ。
無鉄砲。
そんな言葉を当てはめるのが最も正しいような行動でしかない。
長門有希が追う人物は、そんな言葉を当てはめるのが最も正しいような人物だ。
今まで追ってきた足跡が、涼宮ハルヒと関連するものかどうかは定かではない。
手がかりだった整髪料の香りは、風によって流されていた。
分かることは、かつてこの周囲に涼宮ハルヒがいた可能性がある、ということだけだった。
足跡を追うべきか、車の調査を行うか。
長門は、後者を選択した。
もしも自動車に涼宮ハルヒが乗っているとすれば、今合流しておかなければ後の合流は困難であると判断したためだ。
普段のような情報操作を行える環境ではない。引き離されてしまえば追いつくのは難しい。
だから、長門は自動車のドライバーと接触しようとした。走る車の前に出て、相手を止めようとした。
もちろん突然目の前に飛び出したわけではないし、衝突する可能性があった場合回避するつもりだった。
それだけの余裕を、長門は見てとっていた。
それなのに、長門を発見したドライバーは不必要な急ブレーキと過剰な急ハンドルを行った。
結果、トラックは大きく横道に逸れ、そこにあった大岩に激突してようやく止まった。
長門はトラックに歩み寄る。中にいる人物を確かめるために。
少なくとも、危険な人物でないことは予想がつく。殺人者ならば、構うことなく長門を轢き殺していただろうから。
長門は一足でトラックに近づくと、運転席の窓から中を覗き込んだ。
そこにいたのは金髪の少年で、額から血を流している彼は後部座席を見て安堵の表情を浮かべていた。
彼と同じように後部座席を見ようとしたとき、ドアが開いて少年が姿を現した。
「ごめん……大丈夫、だった?」
尋ねると、長門は無表情に首を縦に振って答えた。
同じことを繰り返さずに済んで、ヤマトは心から安心する。
「よかった……」
思わずそう漏らしたが、長門は無反応だった。
どうしたのかと思い様子を窺うと、彼女は後部座席の中を見つめていた。
そこにいるのは、動かない人間。
自分が殺してしまった、人間。
そのことを他の誰かに知られてしまうことに、ヤマトは恐怖を感じる。
だが、隠すわけにはいかない。嘘をつくわけにはいかない。
そうやって罪から目を背けようとすることが嫌で、ヤマトはぶりぶりざえもんの元へ戻ろうとしているのだから。
そうだ。
こんな所で油を売っている場合ではない。
グレーテルをこのままにしておくわけにはいかないが、ぶりぶりざえもんを捜すのが先だ。
手遅れにならないうちに、急いで見つけないと。
「詳しくは後で必ず説明するから、少し待って――」
ヤマトが言いかけたとき、長門の視線が動く。
彼女の瞳は、ヤマトがトラックで目指していた先へと向けられていた。
つられてヤマトもそちらを見る。
そこには、動く小さな影があった。よろめくように歩いているそれは、とても弱々しい。
それは、衰弱したぶりぶりざえもんの姿だった。
「ぶりぶりざえモン!」
ヤマトは急いでぶりぶりざえもんへと駆け寄り、今にも倒れそうなその体を支える。
「ヤマト、キサマ……よくも私を置き去りにしてくれたな……」
相変わらず偉そうなぶりぶりざえもん。しかし、その声はか細くひ弱だった。
「ごめん……」
ヤマトはぶりぶりざえもんを抱きしめる。その体が、心なしか痩せ細っているような気がした。
ヤマトの視界が涙で滲む。ぶりぶりざえもんの言葉に反論などできはしない。
悪いのは、自分なのだから。
「ごめんな、ぶりぶりざえモン……」
額から垂れ落ちる血と涙が混ざり合い、ヤマトの頬を伝っていく。
ヤマトの腕の中、ぶりぶりざえもんは小さく鼻を鳴らす。その姿すら、力ない。
「ごめんで済めば警察はいらんのだ……慰謝料、百億万円を要求する。ローンも、可……」
毒づくぶりぶりざえもんの体を、ヤマトは必死で支えようとする。
どうすればいいのか分からず、ただ腕に力を込めた。
腕の怪我が痛んでも、ただ必死で力を込めた。
自分の力が、ぶりぶりざえもんに伝わることを願うようにして。
「やめろ、ヤマト……私には、そういう趣味は……」
喋り続けるぶりぶりざえもん。その姿が痛々しく、ヤマトには辛かった。
どうすればいい。どうしたら救われる。オレに何ができるんだ。
「車内に散乱した白米から、黄色ブドウ球菌が検出された」
自問するヤマトに、淡々とした声が投げかけられる。振り向けば、後ろには長門が佇んでいた。
「黄色ブドウ球菌による食中毒の治療は抗生物質投与といった化学療法が適切。
また、嘔吐によって失われた水分、栄養分を輸液によって摂取する必要がある」
「治せるのか!?」
思わず声を荒げたヤマト。それに対し、長門の声はあまりにも平坦だ。
「抗生物質および輸液製剤の調達ができれば治療、回復は可能。それらがある可能性が最も高いのは、西にある病院」
ヤマトの口元に笑みが生まれる。まだ手はある。救うことができる。
道さえ分かればあとは行くだけだ。
ヤマトは荒っぽく涙を拭くと、ぶりぶりざえもんを抱き上げて立ち上がる。
体力も気力もないのか、ぶりぶりざえもんが抵抗することも文句を言うこともなかった。
トラックへ向かいながら、ヤマトは長門を見上げる。
「オレ、病院へ行くよ。ありがとう」
グレーテルの埋葬は、申し訳ないが後回しだ。
ぶりぶりざえもんを治療することが、今のヤマトにとって最優先事項なのだから。
ヤマトはトラックの助手席にぶりぶりざえもんを乗せ、自分は運転席に座る。
「待ってろよ、ぶりぶりざえモン。すぐに病院へ連れてってやるからな」
呻くぶりぶりざえもんにヤマトは告げる。
必ず助けると、そう決意して。するとそのとき、助手席のドアがノックされた。
窓を開けて外を見ると、感情の読み取れない瞳と目が合う。
「わたしも行く」
届いてきた声。それからも、彼女の感情は掬い取れない。
だが、心強いと思う。
自分一人で病院に行ったところで、適切な処置ができる自信はないからだ。
「……助かるよ。ありがとう」
付き合わせるのは申し訳ないと思いながら、ヤマトは言う。
「いい。あなたが怪我をしたのはわたしにも責任がある。それに――」
長門は後部座席を一瞥して、続けた。
「まだ詳しい話を聞いていない」
ヤマトは身を強張らせながらも、首を縦に振る。
話さなければならないことだ。
それも、罪と向き合うために、逃げないために必要なのだから。
「そうだな。よろしく頼むよ」
頷く長門の、変わらない表情が、何故か頼もしく感じられた。
◆◆
石田ヤマトと共に病院へ向かうことは涼宮ハルヒから遠ざかる可能性が高い選択である。
涼宮ハルヒとの接触という目的を達成するためには、再度足跡の追跡を続行するのが最も合理的だ。
そのことを、長門有希は理解していた。だから、そうしようとした。
そうしようと、長門はトラックから遠ざかろうとした、その瞬間。
彼女の思考にノイズが生まれた。
バトルロワイアルの中、最初に発見した少女を見送ったときに感じたものと酷似したノイズ。
不愉快なそれは、無視することも処理することも、理解することさえもできないものだった。
ただ分かるのは、石田ヤマトを捨て置いて単独で行かせるということがノイズを生み出している原因だということだけ。
それゆえに、長門はヤマトに声をかけた。
そうすることが、正しいかどうかは分からない。
だが少なくとも、思考のノイズはなりを潜めていった。
だからきっと、間違ってはいないのだろうと長門は結論付ける。
そうして、長門がトラックに乗り込んだ、その直後。
空のスクリーンに、仮面の男の姿が映し出された。
【C-6とC-7の境界 1日目・早朝。放送直前】
【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人をはね殺したことに対する深い罪悪感、精神的疲労。右腕上腕打撲、額から出血
[装備]:クロスボウ、73式小型トラック(運転)
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー
RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)
デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
真紅のベヘリット@ベルセルク
[思考]
1:病院へ行ってぶりぶりざえもんの治療
2:移動しながら長門にグレーテルのことを説明。
3:街へ行って、どこかにグレーテルを埋葬してやる
4:八神太一との合流
基本:生き残る
[備考]:ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:黄色ブドウ球菌による食中毒。激しい嘔吐感
[装備]:照明弾、73式小型トラック(助手)
[道具]:支給品一式 (配給品0~2個:本人は確認済み)パン二つ消費
[思考]
1:吐きそう。すごく吐きそう。むしろ吐きたい。
2:強い者に付く
3:自己の命を最優先
基本:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する
[備考]:黄色ブドウ球菌で死ぬことはありません。
[共通思考]:市街地に向かい、グレーテルを埋葬するのに適当な場所を探す。
【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:73式小型トラック(後部座席)
[道具]:支給品一式/タヌ機@ドラえもん/S&W M19(6/6)
[思考]
1:ヤマトたちに付き合い、ぶりぶりざえもんの治療
2:ハルヒを探す/朝倉涼子を探す/キョンを探す
[共同アイテム]:ミニミ軽機関銃、おにぎり弁当のゴミ(どちらも後部座席に置いてあります)
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