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「くじけそうになったら涙を」(2021/08/07 (土) 01:12:10) の最新版変更点
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*くじけそうになったら涙を ◆C1.qFoQXNw
「ウミは――」
ゲインの返答を遮ったのはギガゾンビ立体映像と高邁な挨拶だった。
濡れた夜明けの空に浮かんだ巨大なそれは自身の安っぽい自己顕示欲と虚栄心の表れか。参加者たちを嘲笑し、侮蔑し、悪意に満ちたセリフを吐き続ける。
そして――発表される数多の死者の中に確かにあったのだ、龍咲海の名前が。
「…そういうことだ」
光に説明しづらかった海の死をギガゾンビが無神経に知らしめたのは腹立たしかった。
しかし自分ならもっとオブラートに包んだ言い方ができただろうか? 欺瞞だ、どう言い換えようと龍咲海が死亡した事実は変わらない。
衝撃の宣告を受け光はカッと目を見開き、そして膝から崩れ落ちる。
「この先の空き地で彼女の墓を発見した。誰かが不憫に思って埋葬したのだと思う」
放送が終わって光は膝をついたままだった。突然友人が死んだと宣告された女子中学生の反応としては無理もない。
こんな悲劇が各地で繰り広げられているのだろう。それも19人、約4分の一の人数だ。
幸運にもゲイナーの名は呼ばれなかった。だがギガゾンビの言う通り明日の太陽を自分もゲイナーも拝めるのか? 仮想ではない狂気のゲームの中で。嫌な想像をしていまいゲインは身震いする。
3分も経っただろうか、前触れもなく光は立ち上がり歩みだした。夢遊病のようにフラフラと海の墓があると知らされた方向に向かって。
「おい、ヘタにうろついちゃあぶないって」
「…嘘だ、海ちゃんが死んだなんて」
「?」
「わたしは信じない。死体を確認するまでは!」
そう叫ぶと光は急に走り出した。あっけにとられゲインは反応が数秒遅れる。
「お、おい待てよ!」
荷物も預かっているし放っておくわけにもいかずゲインは光を追うことにした。
ザクッ、ザクッ、ザクッ…
ゲインが歩いてきた道を引き返し墓のあった空き地までくると光は墓を掘り返していた。
墓標の代わりだったレイピアが転がっている。彼女のものと思しきディパックも近くに放置されていた。
「海ちゃん…嘘だよね? ここに埋まっている人は別人だよねぇ? ねえ答えてよ」
光の口からは意味不明の言葉が発されている。制服が泥だらけになるのも構わず発掘作業を続けていた。
「もういい、止めろ! 死者を冒涜するのは。仲間なんだろ、君の…ウッ!?」
頭部を銃火器の類で打ち抜かれ、恐怖に引きつり大脳を晒す死体が現れた。その光景はゲインにウッブスの悲劇を想像させるのに十分だった。
エクソダス請負人として人の死を見た経験もあり嘔吐こそしなかったが目をそらせるには十分である。
一方、光は掘り返した海の亡骸の肩を抱き必死に揺らせている。
「ねえ、何時まで寝てるんだ? ギガゾンビを倒していっしょに東京に帰えろう…」
肩を揺らすその度に頭部を支えきれなくなった首がグルグルと揺れ、脳漿がだらしなく垂れている。
「しかたない、私おんぶしてあげるよ。確か北にホテルがあったはずだ」
疲労しているにも関わらず光は海の亡骸を背負い歩み始めた。まるで海の死など意にかけないように。
死体を掘り出しあまつさえ背負っていくという異常な光景にゲインは唖然としばらく立ち尽くしていた。
「海ちゃん見て、ゲインの表情。そんなに珍しいのかな、女の子同士のおんぶが」
『フフ、妬いてんのよ。光と私があんまり仲良しだから』
「でも親友だもん、仲がいいのは当たり前じゃないか」
『バカね♪ 私たちの仲のよさは特別なの』
「ギガゾンビ打倒は始まったばかりだ。まだまだこれから…」
『あんまり見せつけると百合だと思われるわよ』
「いいじゃないか誤解されたって。私たちは魔法騎士なんだから」
突発的な災害で親しい人物を失った場合、その死を理解できず死体を生きているように扱う事象があるという。
ウッブスの悲劇の時だって似たような状況があっただろう。だが――
(違う、これは現実だ)
我に返って光を追うゲイン、二人の距離はそうそう離れていないのですぐ追いついた。
「もうよせ、仲間の死体をおぶって一体どういうつもりだッッ?」
ゲインに阻まれ光は歩みを止める。
「ゲイン…」
背負った海の目からは黒ずんだ血が涙のように溢れだしている。そして光の目からも。
「少しだけ…もう少しだけ続けさせて」
魔法騎士としてセフィーロに召還され、プレセアを看取りザガートとエメロードを自らの手で葬った。
あの時は唯、無力感とどうしようもなさに苛まれた。そして今度も――
「海ちゃん…海…ちゃん――うぉああぁあ――!!」
その名の如く獅子の咆哮を思わせる慟哭が響く。成り行きを見守っていたゲインだったが光の肩に手を置いた。
「もう気は済んだろう? 今度こそ彼女を安らか眠らせてやれ」
“安らか眠らせてやれ”
光だって理解していた。自分のやっている行為は所詮現実逃避に過ぎないのだと。ただ感情が追いつかなかったのだ。
海の亡骸を抱きかかえ空き地へ戻り墓穴へと横たえる。開いたままだった瞳を閉じさせて、両手を胸で結んで。
いつの間にか雨は止み、朝日が顔を出し始めてきた。陽光が二人の生者と一人に死者を照らす。これが希望の光になればいいのだが。
光とゲインの共同作業で海の再埋葬ははかどった。英語で書かれた“龍咲海、ここに眠る”の碑文と転がっていた西瓜を供える。
ディパックとともに墓標代わりだったレイピアはゲインが拾おうとしたが握った数秒後、刀身が液体と化して流れ落ち元の形をとる。
「その剣は海ちゃん専用の武器だ。他の人が手に取ると液化して使えないよ」
「だったらウミを埋葬してくれた人はどうやってコイツを突き立てた? それにディパックに入れるのだって」
「ウ~ン…そうだ、もしかして!」
近くに落ちていたもう一つのディバックを手袋代わりにしてレイピアを握ってみる。ゆっくりと十秒数えたが刀身に変化は無い。
「やっぱりそうだ。仕組みは分からないけどディバックを介入させることで液化を防げる!」
ヒュンヒュンと軽くレイピアを振ってみせる光。自分専用の長剣に比べれば使いにくいが友人の形見、大切に使わしてもらおう。
朝日に照らされた友の墓前に改めて誓う。ギガゾンビを必ず倒すと、風とそして海の魂と共に東京に帰ると。
「さてヒカル、こいつは返す」
ディバックが光に向かって放り投げられた。
「友の死を悲しむ人間なら信じられそうだからな。俺は君を信じるよ」
「アリガトウ。ところでゲインはこれからどうするんだ?」
「エクソダスのため信頼できる人間を探す。こんなふざけたゲームなんてゴメンだ」
「私も風ちゃんと合流しないと」
「なら俺と一緒に探さないか? 二人で行動すればゲームにのった連中も撃退しやすい。どうだ?」
「そうだね、うん…よろしくゲイン」
エクソダス請負人と魔法騎士――生きた時代も戦ってきた世界も違う二人が手を結んだ瞬間だった。ギガゾンビへの反攻を旗印として。
互いに右手を差し出し握手しようとして光は倒れかかった。とっさにゲインが支えたが疲労が思ったより激しいようだ。
(そういえば彼女をどこかで休ませるんだったな。たしか北にホテルがあったはずだ)
【E-5市街地 1日目 朝】
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:良好 ※雨で濡れています
[装備]:パチンコ(弾として小石を数個所持)、トンカチ
[道具]:支給品一式×2、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど)
[思考]
第一行動方針:海のことも含めて情報交換、まずは光を休ませたい
第二行動方針:市街地で信頼できる仲間を捜す
第三行動方針:ゲイナーとの合流
基本行動方針:ここからのエクソダス(脱出)
【獅堂光@魔法騎士レイアース】
[状態]:全身打撲(歩くことは可能)中度の疲労 ※雨で濡れています
[装備]:龍咲海の剣
[道具]:支給品一式×2、ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)、デンコーセッカ@ドラえもん(残り1本)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの
[思考・状況]
第一行動方針:まずは休憩
第二行動方針:風との合流
基本行動方針:ギガゾンビ打倒
※近くに放置されていたディパック×2は回収されました
*時系列順で読む
Back:[[最悪をも下回る]] Next:[[「永遠に(ネバー・ダイ)」]]
*投下順で読む
Back:[[最悪をも下回る]] Next:[[触らぬタチコマに祟り無し Flying tank]]
|87:[[雨は未だ止まず]]|ゲイン・ビジョウ|139:[[恋のミクル伝説(前編)]]|
|87:[[雨は未だ止まず]]|獅堂光|139:[[恋のミクル伝説(前編)]]|
*くじけそうになったら涙を ◆C1.qFoQXNw
「ウミは――」
ゲインの返答を遮ったのはギガゾンビ立体映像と高慢な挨拶だった。
濡れた夜明けの空に浮かんだ巨大なそれは自身の安っぽい自己顕示欲と虚栄心の表れか。参加者たちを嘲笑し、侮蔑し、悪意に満ちたセリフを吐き続ける。
そして――発表される数多の死者の中に確かにあったのだ、龍咲海の名前が。
「…そういうことだ」
光に説明しづらかった海の死をギガゾンビが無神経に知らしめたのは腹立たしかった。
しかし自分ならもっとオブラートに包んだ言い方ができただろうか? 欺瞞だ、どう言い換えようと龍咲海が死亡した事実は変わらない。
衝撃の宣告を受け光はカッと目を見開き、そして膝から崩れ落ちる。
「この先の空き地で彼女の墓を発見した。誰かが不憫に思って埋葬したのだと思う」
放送が終わって光は膝をついたままだった。突然友人が死んだと宣告された女子中学生の反応としては無理もない。
こんな悲劇が各地で繰り広げられているのだろう。それも19人、約4分の一の人数だ。
幸運にもゲイナーの名は呼ばれなかった。だがギガゾンビの言う通り明日の太陽を自分もゲイナーも拝めるのか? 仮想ではない狂気のゲームの中で。嫌な想像をしていまいゲインは身震いする。
3分も経っただろうか、前触れもなく光は立ち上がり歩みだした。夢遊病のようにフラフラと海の墓があると知らされた方向に向かって。
「おい、ヘタにうろついちゃあぶないって」
「…嘘だ、海ちゃんが死んだなんて」
「?」
「わたしは信じない。死体を確認するまでは!」
そう叫ぶと光は急に走り出した。あっけにとられゲインは反応が数秒遅れる。
「お、おい待てよ!」
荷物も預かっているし放っておくわけにもいかずゲインは光を追うことにした。
ザクッ、ザクッ、ザクッ…
ゲインが歩いてきた道を引き返し墓のあった空き地までくると光は墓を掘り返していた。
墓標の代わりだったレイピアが転がっている。彼女のものと思しきディパックも近くに放置されていた。
「海ちゃん…嘘だよね? ここに埋まっている人は別人だよねぇ? ねえ答えてよ」
光の口からは意味不明の言葉が発されている。制服が泥だらけになるのも構わず発掘作業を続けていた。
「もういい、止めろ! 死者を冒涜するのは。仲間なんだろ、君の…ウッ!?」
頭部を銃火器の類で撃ち抜かれ、恐怖に引きつり大脳を晒す死体が現れた。その光景はゲインにウッブスの悲劇を想像させるのに十分だった。
エクソダス請負人として人の死を見た経験もあり嘔吐こそしなかったが目をそらせるには十分である。
一方、光は掘り返した海の亡骸の肩を抱き必死に揺らしている。
「ねえ、何時まで寝てるんだ? ギガゾンビを倒していっしょに東京に帰ろう…」
肩を揺らすその度に頭部を支えきれなくなった首がグルグルと揺れ、脳漿がだらしなく垂れている。
「しかたない、私おんぶしてあげるよ。確か北にホテルがあったはずだ」
疲労しているにも関わらず光は海の亡骸を背負い歩み始めた。まるで海の死など意にかけないように。
死体を掘り出しあまつさえ背負っていくという異常な光景にゲインは唖然としばらく立ち尽くしていた。
「海ちゃん見て、ゲインの表情。そんなに珍しいのかな、女の子同士のおんぶが」
『フフ、妬いてんのよ。光と私があんまり仲良しだから』
「でも親友だもん、仲がいいのは当たり前じゃないか」
『バカね♪ 私たちの仲のよさは特別なの』
「ギガゾンビ打倒は始まったばかりだ。まだまだこれから…」
『あんまり見せつけると百合だと思われるわよ』
「いいじゃないか誤解されたって。私たちは魔法騎士なんだから」
突発的な災害で親しい人物を失った場合、その死を理解できず死体を生きているように扱う事象があるという。
ウッブスの悲劇の時だって似たような状況があっただろう。だが――
(違う、これは現実だ)
我に返って光を追うゲイン、二人の距離はそうそう離れていないのですぐ追いついた。
「もうよせ、仲間の死体をおぶって一体どういうつもりだッッ?」
ゲインに阻まれ光は歩みを止める。
「ゲイン…」
背負った海の目からは黒ずんだ血が涙のように溢れだしている。そして光の目からも。
「少しだけ…もう少しだけ続けさせて」
魔法騎士としてセフィーロに召喚され、プレセアを看取りザガートとエメロードを自らの手で葬った。
あの時は唯、無力感とどうしようもなさに苛まれた。そして今度も――
「海ちゃん…海…ちゃん――うぉああぁあ――!!」
その名の如く獅子の咆哮を思わせる慟哭が響く。成り行きを見守っていたゲインだったが光の肩に手を置いた。
「もう気は済んだろう? 今度こそ彼女を安らかに眠らせてやれ」
“安らかに眠らせてやれ”
光だって理解していた。自分のやっている行為は所詮現実逃避に過ぎないのだと。ただ感情が追いつかなかったのだ。
海の亡骸を抱きかかえ空き地へ戻り墓穴へと横たえる。開いたままだった瞳を閉じさせて、両手を胸で結んで。
いつの間にか雨は止み、朝日が顔を出し始めてきた。陽光が二人の生者と一人の死者を照らす。これが希望の光になればいいのだが。
光とゲインの共同作業で海の再埋葬ははかどった。英語で書かれた“龍咲海、ここに眠る”の碑文と転がっていた西瓜を供える。
ディパックとともに墓標代わりだったレイピアはゲインが拾おうとしたが握った数秒後、刀身が液体と化して流れ落ち元の形をとる。
「その剣は海ちゃん専用の武器だ。他の人が手に取ると液化して使えないよ」
「だったらウミを埋葬してくれた人はどうやってコイツを突き立てた? それにディパックに入れるのだって」
「ウ~ン…そうだ、もしかして!」
近くに落ちていたもう一つのディバックを手袋代わりにしてレイピアを握ってみる。ゆっくりと十秒数えたが刀身に変化は無い。
「やっぱりそうだ。仕組みは分からないけどディバックを介入させることで液化を防げる!」
ヒュンヒュンと軽くレイピアを振ってみせる光。自分専用の長剣に比べれば使いにくいが友人の形見、大切に使わせてもらおう。
朝日に照らされた友の墓前に改めて誓う。ギガゾンビを必ず倒すと、風とそして海の魂と共に東京に帰ると。
「さてヒカル、こいつは返す」
ディバックが光に向かって放り投げられた。
「友の死を悲しむ人間なら信じられそうだからな。俺は君を信じるよ」
「アリガトウ。ところでゲインはこれからどうするんだ?」
「エクソダスのため信頼できる人間を探す。こんなふざけたゲームなんてゴメンだ」
「私も風ちゃんと合流しないと」
「なら俺と一緒に探さないか? 二人で行動すればゲームにのった連中も撃退しやすい。どうだ?」
「そうだね、うん…よろしくゲイン」
エクソダス請負人と魔法騎士――生きた時代も戦ってきた世界も違う二人が手を結んだ瞬間だった。ギガゾンビへの反攻を旗印として。
互いに右手を差し出し握手しようとして光は倒れかかった。とっさにゲインが支えたが疲労が思ったより激しいようだ。
(そういえば彼女をどこかで休ませるんだったな。たしか北にホテルがあったはずだ)
【E-5市街地 1日目 朝】
【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー】
[状態]:良好 ※雨で濡れています
[装備]:パチンコ(弾として小石を数個所持)、トンカチ
[道具]:支給品一式×2、工具箱 (糸ノコ、スパナ、ドライバーなど)
[思考]
第一行動方針:海のことも含めて情報交換、まずは光を休ませたい
第二行動方針:市街地で信頼できる仲間を捜す
第三行動方針:ゲイナーとの合流
基本行動方針:ここからのエクソダス(脱出)
【獅堂光@魔法騎士レイアース】
[状態]:全身打撲(歩くことは可能)中度の疲労 ※雨で濡れています
[装備]:龍咲海の剣@魔法騎士レイアース
[道具]:支給品一式×2、ドラムセット(SONOR S-4522S TLA、クラッシュシンバル一つを解体)
デンコーセッカ@ドラえもん(残り1本)、クラッシュシンバルスタンドを解体したもの
[思考・状況]
第一行動方針:まずは休憩
第二行動方針:風との合流
基本行動方針:ギガゾンビ打倒
※近くに放置されていたディパック×2は回収されました
*時系列順で読む
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|87:[[雨は未だ止まず]]|ゲイン・ビジョウ|139:[[恋のミクル伝説(前編)]]|
|87:[[雨は未だ止まず]]|獅堂光|139:[[恋のミクル伝説(前編)]]|
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