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「幕間 - 『花鳥風月~VSアサシン0』」(2021/08/20 (金) 04:32:45) の最新版変更点
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*幕間 - 『花鳥風月~VSアサシン0』 ◆QEUQfdPtTM
映画館の内部、灯りも付かないロビー。
その一室で、セイバーはソファーに寝転んでいた。
傷付いている今、無用な戦いは避けるべきだし……
何よりも、この様子ならば焦る必要も無いからだ。
六時間で19人。どうやらよほど好戦的な者が集まっているらしい。
なら、セイバーは傷を癒すのに専念していても、参加者は勝手に減っていってくれる。
――やがてか弱い女子供はその者達に駆逐され、私はそういった者を手にかけずに済む。
「……堕ちたな、私も」
弱気な考えに、セイバーは頭を振っていた。
殺されていくのを知って止めずに傍観するのならば、それは同罪だ。
――いや、もう堕ちていたか。
国のため、撤退するために、勝つために何人も騎士も民も見殺しにした。
そしてついに見限られて、国そのものを滅ぼした。
そんな自分を許せなくて……彼女は願うのだから。
考えるのも嫌になってくる。だから呼吸を整えることに専念した。
セイバーは血を巡らせ呼吸をするだけで魔力を生成する、言わば魔術炉心とも言える能力がある。
ただ、この能力は万全な状態でなければ行使することはできない。
サーヴァントの身で万全な状態と言えば、魔力がしっかりと供給されている状態だ。
最低限単体で活動できる魔力しか供給されていないこの状態では、どうしても魔力の生成量は少なくなってしまう。
それでもゆっくり深呼吸し、魔力を呼び起こしてそれを傷の回復に当てていく。
挙げられた死亡者の名に感慨を抱くことは無い。今の彼女が知っている人間など居はしない。
衛宮士郎が死んでも、彼女が知ったことではない。
衛宮という名字さえ、無視した。日本にはそれなりにいる名字なのだろう、で終わった。
あの衛宮切嗣の子ならば……聖杯戦争を思わせるこの戦いでこうも早く死ぬはずが無いと判断して。
「彼の息子なら、周りの人間を盾にしてでも勝ち残るでしょう」
実際には盾になって死んだことなど、やはり知る由もない。
それを最後に、セイバーはあっさりと記憶と思考から衛宮士郎と言う名を消した。
――剣は鞘を捨て命を断つ。
~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~
「……雅に欠ける」
佐々木小次郎は、ギガゾンビをこのように評した。
つまらぬ術に奢り高ぶり勝ち誇り、自分は何もしない。
斬れば刀が腐りそうな下郎。
「あの女狐の方がよほど美しいものだ。あれは捻くれているようで、存外純真故に」
手当ては既に済んだ。
かつて仕えた主を思いながら、山を降りる。
もっとも、主催者が気に入らぬからといってこの絶好の機会を逃すかといえば断じて否。
燕を斬り騎士王に届きかけた魔剣、戦えと言うならば例え神でも相手取る。
「強者と死合えるのならばどこでも構わぬ。
煉獄に呼ばれたならば、そこに住む鬼を斬れば済む話――」
不敵な笑みさえも雅に浮かべ、彼は歩く。
彼の目的はただ一つ。
生涯をかけて編み出した魔剣、その強さを証明することのみ。
――剣の存在意義は切り裂くことのみ。
~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~
サーヴァントに睡眠は必要ない。
したがって、セイバーも寝転がりこそすれ眠るつもりはない。
起きていたからこそ……治癒の進み方がおかしいことに気付いた。
「鎧より、肉体の回復の方が遅い……?」
いつもの場合、鎧の修復に要する魔力の方がセイバー自身の傷の治療に要するそれよりも大きい。
だが今回は違う。鎧はもう修復されたのに、肉体は未だに完治していなかった。
放送から約三時間。それだけあれば両肩の傷以外は癒せるはずだ。
それなのに、全身の所々に付けられた傷さえ完治していない。
表面的には塞がっているが、それでもまだ軽く痛みが走る。
十分に耐えられる程度の痛みだが……どちらかと言えば浅かった傷でさえこれなのだ、
深く抉られた両肩の方は言うまでも無い。
だが、本来なら在りえない状況に疑問を抱いている暇は無かった。
かつり、と音がしている。
「誰か……来る!」
映画館内に足音が響く。
全く自分の存在を隠そうとしていないか、そう思えるほどの大きさで。
ただの素人か……あるいは、そんな様子でなお生き残れるだけの実力がある者か。
「……ち」
舌打ちをしながら、セイバーは柱の影に隠れた。
気付かずに近寄ってきたところを一気に断つのが狙い。
だが足音の発生源が余程の実力者ならば、気配遮断の心得などないセイバーの位置などすぐに気付くだろう。
彼女はそう予想していたし、実際にそうだった。
飄々とした言葉が、入り口から紡がれる。セイバーへ向けて。
「出てくるがいい、騎士王。
闇討ちなどそなたには似合わぬ」
「なっ……!?」
セイバーは、思わず絶句していた。
入ってきた者は、セイバーの真名を軽々と当ててしまっている。
まるで、始めから知っていたかのように。
(まさか……我が騎士の一人か?)
思わず、セイバーは顔を出して相手を確認していた。しかし、予想は掠りもしていない。
そこにいたのは袴を着た男。雅と言う言葉が似合う、不敵な笑みを浮かべた侍。
それがかつて彼女に仕えた騎士であるはずがない。
「何者だ、貴方は」
「ほお……二度も死合ったというのに忘れてしまったか。
アサシンのサーヴァント――佐々木小次郎だと名乗ったはずだが」
「な、名乗る!? そんな馬鹿なことを……」
男――小次郎が柳眉を上げる。怒りからではなく、疑問により。
セイバーの言葉に嘘はないと彼もすぐに分かる。こんな嘘を吐く意味がないからだ。
困惑するセイバーを余所に、小次郎は言葉を返した。
「ふむ……私とそなたで何か、召還の際に何か食い違いがあるようだな」
「……食い違い?」
「さよう。どのような物かは分からぬが、な」
食い違い。
その言葉は、ここに呼ばれた時にセイバーの心に最初の一瞬だけ……
ほんの一瞬だけ引っかかっていた答えが再び浮上させる。
しかし、浮上させた張本人である小次郎はそれを、少しも表情を変えないままで。
「もっとも――剣で語る我らには関係ないことか」
「ッ!」
無駄な物だと、切り捨てた。
その言葉を聞いた瞬間、セイバーは素早くカリバーンを構え直す。
明らかな宣戦布告に気を引き締めないのは自殺願望がある人間だけだ。
いくらセイバーと言えど、この状態でサーヴァントに勝てるかどうかは疑わしい。
それでも彼女は負ける訳にはいかない。再戦の誓いと、民のために。
だが、あっさり小次郎は臨戦態勢のセイバーに背を向けた。
「なっ!?」
「止めだ」
つまらそうに小次郎は呟いた。
明らかに隙だらけ。背中から斬りかかることも可能だろう。
それが逆に罠のようにも見えるし――事実セイバーの直感は、攻撃を仕掛けても防がれると告げている。
だから、セイバーは問う。臨戦態勢を解かないまま。
「何のつもりです」
言った言葉は簡潔。しかし、込められた殺気は本物。
少しでも虚偽を言うならばたちどころに見破ろう……そんなセイバーの意志が込められた言葉。
だが、あっさりとそれはいなされた。
「そうだな……一言で言えば、つまらぬ」
「は?」
返ってきたのは、そんな返事。
完全に呆気に取られたセイバーを尻目に、アサシンは流れるような仕草で言葉を紡いでいく。
「再戦をするならばもう少し対等な条件で行いたいものだ。
ただでさえ私はそなたの剣を知っているのに、そなたは私の剣を知らぬという不公平。
その上、全身が傷ついた状態のそなたと死合うところで何の楽しみもあるまい」
あっさりと小次郎は言う。なんでもない、当然のことかのように。
その目は表面的には塞がっていた傷の存在をも、あっさりと見抜いていた。
だからだろうか。心さえもまた、見抜けるのは。
「何より、そなたの剣気はあの時ほど澄んではいない」
小次郎の言葉に、セイバーの眉がつり上がる。
こちらは先ほどの小次郎の反応とは違い、怒りが混じっていた。
しかしそれさえ、まるで流水かのように受け流して小次郎は告げる。
「そなた自身が分かっておろう。ゆめゆめ失望させるな、セイバー。
次に会うときは傷を癒し、迷いを消せ。
例え鬼と成ろうと仏に成ろうと私は気にも留めぬ……強ければ、な」
まるでセイバーの心を見透かしているかのような台詞に、彼女は絶句するしかない。
そう。まるで、未来のセイバーに会ったことがあるかのような言葉――
セイバーは、思わず唇を噛んでいた。これ以上、自分について話されたくなかった。
「一つだけ聞かせてもらいます。
なぜ、貴方は万全な私を望む。どんな基準で動いているのです。
願いを叶える気は無いのですか?」
だから、話題を変えた。
もっとも、本心でもある。セイバーにとって、小次郎の価値観は全く分からないもの。
サーヴァントであるならば聖杯で叶えたい望みを持つのが自然。
しかし、望みがあるならばセイバーの回復を待つという彼の態度は明らかにおかしい。
そう思ったのだ。
この問いもなお、小次郎は飄々と答えていく。
「ふ、願いなど死合うことそのものだし……これ以上無く単純な基準も無いと思うがな?
私にとっていつの時代、どこの人間か――いや、人間でなくともよい。
礫であろうと種子島であろうと、何を扱おうと構わん。
私にとっての基準とはただ一つ」
そしてにやり、と笑って小次郎が紡いだ言葉に。
セイバーは、思わず寒気を覚えていた。
「――斬って達成感があるかどうかのみ」
……老若男女善悪さえ問わない。強ければよい。
例えそれによりどれほどの被害が出ようと彼は気にしない。どれほどの悲しみが生まれようと気にしない。
なぜなら、強者を斬れさえすればいいのだから。
彼が言ったのはこういうことだ。
剣の英霊どころの話ではない。怨霊とさえ呼べない。
彼は剣そのものが霊となった存在と呼んでも差し支えない。
剣を振るうことだけが願いなのだから。
――願いのために剣を振るうセイバーとは、根本的に違う。
「……納得しました。あなたはよほど、私よりセイバーと呼ばれるにふさわしい。
正真正銘の剣の霊だ」
セイバーの言葉に少しだけ笑いを浮かべながら、
小次郎は入ってきた入り口へと歩いていき……
ふと、足を止めた。
「そうだ……言い忘れていたが。
そなたの聖剣を持っていた者と出会った」
「私の? その者はどこへ行ったのです」
「それは言えぬな。せっかくの相手を渡してしまうのは惜しい」
「……なら最初から言わないでくれると助かるのですが」
「なに、一応言っておきたかっただけだ」
いい加減セイバーは頭痛がしてきていた。彼と話していると調子が狂う。
例えるなら柳。セイバーが力押しにする剛なら、彼は受け流す柔。
なんとなく、扱う剣技もまたそうなのだろうとセイバーは思い浮かべていた。
「ではな騎士王。別段ここで私を待つ必要は要らぬ。
また再会できたのも巡り合わせならば、再戦できずに終わるのも巡り合わせ故に」
それを最後に、小次郎は映画館を出て行った。
同時に、はあ、と息を吐いてセイバーは座り込んでしまっていた。正直、疲れた。精神的に。
どれだけ殺気を放っても意に介せず、完全にあちらのペースで話すのだから。
「とりあえず、体の傷の回復を待ちましょう」
体も疲れているし、無理に動く必要は無い。
それに……彼女にはふと考えたいこともある。
「エクスカリバーがあるとすれば、私の鞘も……どこかにあるのでしょうか?」
――剣は、鞘が潰えたことに気付かず。
【B-4 映画館内部 初日 午前】
【セイバー@Fate/ Stay night】
[状態]:全身に裂傷とやけど(表面的には治癒)、両肩を負傷、少し疲労(精神的にも)。
[装備]:カリバーン
[道具]:支給品一式、なぐられうさぎ@クレヨンしんちゃん
[思考・状況]
1:傷を治す
2:優勝し、王の選定をやり直させてもらう
3:エヴェンクルガのトウカに、見逃された借りとうさぎを返し、預けた勝負を果たす。
4:調子が狂うのであまり会いたくないが、小次郎に再戦を望まれれば応える
※うさぎは頭が湿っており、かつ眉間を割られています。
【B-4 映画館周辺 初日 午前】
【佐々木小次郎@Fate/stay night】
[状態]:右臀部に刺し傷(手当て済み)。
[装備]:竜殺し@ベルセルク
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1.兵(つわもの)と死合たい。基本的には小者は無視。
2.セイバーが治癒し終わるのを待ち、再戦。それまで違う者を相手にして暇を潰す。
3.竜殺しの所持者を見つけ、戦う。
4.物干し竿を見つける。
*時系列順で読む
Back:[[「サイトと一緒」]] Next:[[歩みの果てには]]
*投下順で読む
Back:[[トグサくんのミス]] Next:[[歩みの果てには]]
|100:[[王様の剣]]|セイバー|142:[[食卓の騎士]]|
|83:[[ある接触]]|佐々木小次郎|161:[[「あはははは!」]]|
*幕間 - 『花鳥風月~VSアサシン0』 ◆QEUQfdPtTM
映画館の内部、灯りも付かないロビー。
その一室で、セイバーはソファーに寝転んでいた。
傷付いている今、無用な戦いは避けるべきだし……
何よりも、この様子ならば焦る必要も無いからだ。
六時間で19人。どうやらよほど好戦的な者が集まっているらしい。
なら、セイバーは傷を癒すのに専念していても、参加者は勝手に減っていってくれる。
――やがてか弱い女子供はその者達に駆逐され、私はそういった者を手にかけずに済む。
「……堕ちたな、私も」
弱気な考えに、セイバーは頭を振っていた。
殺されていくのを知って止めずに傍観するのならば、それは同罪だ。
――いや、もう堕ちていたか。
国のため、撤退するために、勝つために何人も騎士も民も見殺しにした。
そしてついに見限られて、国そのものを滅ぼした。
そんな自分を許せなくて……彼女は願うのだから。
考えるのも嫌になってくる。だから呼吸を整えることに専念した。
セイバーは血を巡らせ呼吸をするだけで魔力を生成する、言わば魔術炉心とも言える能力がある。
ただ、この能力は万全な状態でなければ行使することはできない。
サーヴァントの身で万全な状態と言えば、魔力がしっかりと供給されている状態だ。
最低限単体で活動できる魔力しか供給されていないこの状態では、どうしても魔力の生成量は少なくなってしまう。
それでもゆっくり深呼吸し、魔力を呼び起こしてそれを傷の回復に当てていく。
挙げられた死亡者の名に感慨を抱くことは無い。今の彼女が知っている人間など居はしない。
衛宮士郎が死んでも、彼女が知ったことではない。
衛宮という名字さえ、無視した。日本にはそれなりにいる名字なのだろう、で終わった。
あの衛宮切嗣の子ならば……聖杯戦争を思わせるこの戦いでこうも早く死ぬはずが無いと判断して。
「彼の息子なら、周りの人間を盾にしてでも勝ち残るでしょう」
実際には盾になって死んだことなど、やはり知る由もない。
それを最後に、セイバーはあっさりと記憶と思考から衛宮士郎という名を消した。
――剣は鞘を捨て命を断つ。
~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~
「……雅に欠ける」
佐々木小次郎は、ギガゾンビをこのように評した。
つまらぬ術に驕り高ぶり勝ち誇り、自分は何もしない。
斬れば刀が腐りそうな下郎。
「あの女狐の方がよほど美しいものだ。あれは捻くれているようで、存外純真故に」
手当ては既に済んだ。
かつて仕えた主を思いながら、山を降りる。
もっとも、主催者が気に入らぬからといってこの絶好の機会を逃すかといえば断じて否。
燕を斬り騎士王に届きかけた魔剣、戦えと言うならば例え神でも相手取る。
「強者と死合えるのならばどこでも構わぬ。
煉獄に呼ばれたならば、そこに住む鬼を斬れば済む話――」
不敵な笑みさえも雅に浮かべ、彼は歩く。
彼の目的はただ一つ。
生涯をかけて編み出した魔剣、その強さを証明することのみ。
――剣の存在意義は切り裂くことのみ。
~~~ ~~~~ ~~~~ ~~~
サーヴァントに睡眠は必要ない。
したがって、セイバーも寝転がりこそすれ眠るつもりはない。
起きていたからこそ……治癒の進み方がおかしいことに気付いた。
「鎧より、肉体の回復の方が遅い……?」
いつもの場合、鎧の修復に要する魔力の方がセイバー自身の傷の治療に要するそれよりも大きい。
だが今回は違う。鎧はもう修復されたのに、肉体は未だに完治していなかった。
放送から約三時間。それだけあれば両肩の傷以外は癒せるはずだ。
それなのに、全身の所々に付けられた傷さえ完治していない。
表面的には塞がっているが、それでもまだ軽く痛みが走る。
十分に耐えられる程度の痛みだが……どちらかと言えば浅かった傷でさえこれなのだ、
深く抉られた両肩の方は言うまでも無い。
だが、本来なら在りえない状況に疑問を抱いている暇は無かった。
かつり、と音がしている。
「誰か……来る!」
映画館内に足音が響く。
全く自分の存在を隠そうとしていないか、そう思えるほどの大きさで。
ただの素人か……あるいは、そんな様子でなお生き残れるだけの実力がある者か。
「……ち」
舌打ちをしながら、セイバーは柱の影に隠れた。
気付かずに近寄ってきたところを一気に断つのが狙い。
だが足音の発生源が余程の実力者ならば、気配遮断の心得などないセイバーの位置などすぐに気付くだろう。
彼女はそう予想していたし、実際にそうだった。
飄々とした言葉が、入り口から紡がれる。セイバーへ向けて。
「出てくるがいい、騎士王。
闇討ちなどそなたには似合わぬ」
「なっ……!?」
セイバーは、思わず絶句していた。
入ってきた者は、セイバーの真名を軽々と当ててしまっている。
まるで、始めから知っていたかのように。
(まさか……我が騎士の一人か?)
思わず、セイバーは顔を出して相手を確認していた。しかし、予想は掠りもしていない。
そこにいたのは袴を着た男。雅という言葉が似合う、不敵な笑みを浮かべた侍。
それがかつて彼女に仕えた騎士であるはずがない。
「何者だ、貴方は」
「ほお……二度も死合ったというのに忘れてしまったか。
アサシンのサーヴァント――佐々木小次郎だと名乗ったはずだが」
「な、名乗る!? そんな馬鹿なことを……」
男――小次郎が柳眉を上げる。怒りからではなく、疑問により。
セイバーの言葉に嘘はないと彼もすぐに分かる。こんな嘘を吐く意味がないからだ。
困惑するセイバーを余所に、小次郎は言葉を返した。
「ふむ……私とそなたで何か、召喚の際に何か食い違いがあるようだな」
「……食い違い?」
「さよう。どのような物かは分からぬが、な」
食い違い。
その言葉は、ここに呼ばれた時にセイバーの心に最初の一瞬だけ……
ほんの一瞬だけ引っかかっていた答えが再び浮上させる。
しかし、浮上させた張本人である小次郎はそれを、少しも表情を変えないままで。
「もっとも――剣で語る我らには関係ないことか」
「ッ!」
無駄な物だと、切り捨てた。
その言葉を聞いた瞬間、セイバーは素早くカリバーンを構え直す。
明らかな宣戦布告に気を引き締めないのは自殺願望がある人間だけだ。
いくらセイバーと言えど、この状態でサーヴァントに勝てるかどうかは疑わしい。
それでも彼女は負ける訳にはいかない。再戦の誓いと、民のために。
だが、あっさり小次郎は臨戦態勢のセイバーに背を向けた。
「なっ!?」
「止めだ」
つまらそうに小次郎は呟いた。
明らかに隙だらけ。背中から斬りかかることも可能だろう。
それが逆に罠のようにも見えるし――事実セイバーの直感は、攻撃を仕掛けても防がれると告げている。
だから、セイバーは問う。臨戦態勢を解かないまま。
「何のつもりです」
言った言葉は簡潔。しかし、込められた殺気は本物。
少しでも虚偽を言うならばたちどころに見破ろう……そんなセイバーの意志が込められた言葉。
だが、あっさりとそれはいなされた。
「そうだな……一言で言えば、つまらぬ」
「は?」
返ってきたのは、そんな返事。
完全に呆気に取られたセイバーを尻目に、アサシンは流れるような仕草で言葉を紡いでいく。
「再戦をするならばもう少し対等な条件で行いたいものだ。
ただでさえ私はそなたの剣を知っているのに、そなたは私の剣を知らぬという不公平。
その上、全身が傷ついた状態のそなたと死合うところで何の楽しみもあるまい」
あっさりと小次郎は言う。なんでもない、当然のことかのように。
その目は表面的には塞がっていた傷の存在をも、あっさりと見抜いていた。
だからだろうか。心さえもまた、見抜けるのは。
「何より、そなたの剣気はあの時ほど澄んではいない」
小次郎の言葉に、セイバーの眉がつり上がる。
こちらは先ほどの小次郎の反応とは違い、怒りが混じっていた。
しかしそれさえ、まるで流水かのように受け流して小次郎は告げる。
「そなた自身が分かっておろう。ゆめゆめ失望させるな、セイバー。
次に会うときは傷を癒し、迷いを消せ。
例え鬼と成ろうと仏に成ろうと私は気にも留めぬ……強ければ、な」
まるでセイバーの心を見透かしているかのような台詞に、彼女は絶句するしかない。
そう。まるで、未来のセイバーに会ったことがあるかのような言葉――
セイバーは、思わず唇を噛んでいた。これ以上、自分について話されたくなかった。
「一つだけ聞かせてもらいます。
なぜ、貴方は万全な私を望む。どんな基準で動いているのです。
願いを叶える気は無いのですか?」
だから、話題を変えた。
もっとも、本心でもある。セイバーにとって、小次郎の価値観は全く分からないもの。
サーヴァントであるならば聖杯で叶えたい望みを持つのが自然。
しかし、望みがあるならばセイバーの回復を待つという彼の態度は明らかにおかしい。
そう思ったのだ。
この問いもなお、小次郎は飄々と答えていく。
「ふ、願いなど死合うことそのものだし……これ以上無く単純な基準も無いと思うがな?
私にとっていつの時代、どこの人間か――いや、人間でなくともよい。
礫であろうと種子島であろうと、何を扱おうと構わん。
私にとっての基準とはただ一つ」
そしてにやり、と笑って小次郎が紡いだ言葉に。
セイバーは、思わず寒気を覚えていた。
「――斬って達成感があるかどうかのみ」
……老若男女善悪さえ問わない。強ければよい。
例えそれによりどれほどの被害が出ようと彼は気にしない。どれほどの悲しみが生まれようと気にしない。
なぜなら、強者を斬れさえすればいいのだから。
彼が言ったのはこういうことだ。
剣の英霊どころの話ではない。怨霊とさえ呼べない。
彼は剣そのものが霊となった存在と呼んでも差し支えない。
剣を振るうことだけが願いなのだから。
――願いのために剣を振るうセイバーとは、根本的に違う。
「……納得しました。あなたはよほど、私よりセイバーと呼ばれるにふさわしい。
正真正銘の剣の霊だ」
セイバーの言葉に少しだけ笑いを浮かべながら、
小次郎は入ってきた入り口へと歩いていき……
ふと、足を止めた。
「そうだ……言い忘れていたが。
そなたの聖剣を持っていた者と出会った」
「私の? その者はどこへ行ったのです」
「それは言えぬな。せっかくの相手を渡してしまうのは惜しい」
「……なら最初から言わないでくれると助かるのですが」
「なに、一応言っておきたかっただけだ」
いい加減セイバーは頭痛がしてきていた。彼と話していると調子が狂う。
例えるなら柳。セイバーが力押しにする剛なら、彼は受け流す柔。
なんとなく、扱う剣技もまたそうなのだろうとセイバーは思い浮かべていた。
「ではな騎士王。別段ここで私を待つ必要は要らぬ。
また再会できたのも巡り合わせならば、再戦できずに終わるのも巡り合わせ故に」
それを最後に、小次郎は映画館を出て行った。
同時に、はあ、と息を吐いてセイバーは座り込んでしまっていた。正直、疲れた。精神的に。
どれだけ殺気を放っても意に介せず、完全にあちらのペースで話すのだから。
「とりあえず、体の傷の回復を待ちましょう」
体も疲れているし、無理に動く必要は無い。
それに……彼女にはふと考えたいこともある。
「エクスカリバーがあるとすれば、私の鞘も……どこかにあるのでしょうか?」
――剣は、鞘が潰えたことに気付かず。
【B-4 映画館内部 一日目 午前】
【セイバー@Fate/stay night】
[状態]:全身に裂傷とやけど(表面的には治癒)、両肩を負傷、少し疲労(精神的にも)。
[装備]:カリバーン@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、なぐられうさぎ@クレヨンしんちゃん
[思考・状況]
1:傷を治す
2:優勝し、王の選定をやり直させてもらう
3:エヴェンクルガのトウカに、見逃された借りとうさぎを返し、預けた勝負を果たす。
4:調子が狂うのであまり会いたくないが、小次郎に再戦を望まれれば応える
※うさぎは頭が湿っており、かつ眉間を割られています。
【B-4 映画館周辺 一日目 午前】
【佐々木小次郎@Fate/stay night】
[状態]:右臀部に刺し傷(手当て済み)。
[装備]:竜殺し@ベルセルク
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1.兵(つわもの)と死合いたい。基本的には小者は無視。
2.セイバーが治癒し終わるのを待ち、再戦。それまで違う者を相手にして暇を潰す。
3.竜殺しの所持者を見つけ、戦う。
4.物干し竿を見つける。
*時系列順で読む
Back:[[「サイトと一緒」]] Next:[[歩みの果てには]]
*投下順で読む
Back:[[トグサくんのミス]] Next:[[歩みの果てには]]
|100:[[王様の剣]]|セイバー|142:[[食卓の騎士]]|
|83:[[ある接触]]|佐々木小次郎|161:[[「あはははは!」]]|
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