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「ハードボイルド・ハードラック」(2022/01/09 (日) 06:28:18) の最新版変更点
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*ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI.
水底からふっと浮き上がるように、みさえは目を覚ました。
「……わたし……」
目に映るのが見慣れた天井ではなく、緑の木々と青空であることに違和感を覚える。
さわやかな風が頬を、額を撫でてゆく。
気持ちのいい朝。
いや、太陽はもうかなり高くにのぼっているようだから、既に昼近くか。
わたし、どうしてこんなところにいるんだっけ。
「目を覚ましたか」
突然降って来た渋い声に、驚いて跳ね起きる。
ゴツい強面の男が、木に寄りかかってこちらを見ていた。
「え、えっ? あなた誰……」
言いかけて、唐突にみさえはすべてを思い出した。
――ギガゾンビの放送の内容ともども。
+ + +
放送を聞いた後、みさえはまずショックを受け、そして泣いた。
あの人が死んだなんて嘘よ、と側にいたガッツに当たり散らして、また泣いて、当たり散らして、泣いて――
――それを繰り返すうちに、疲労の限界か何かで気を失うように眠ってしまった。
自分のおぼろげな記憶とガッツの言葉を足して考えると、そんな感じだったらしい。
深夜に訳も分からず連れてこられて、それ以来ろくな休息もとっていなかったため、
そこに夫を亡くしたというショックの追い討ちがかかれば無理からぬことではあった。
放送で告げられた、自分の夫の名前。
それが何を意味するのか、みさえは分かろうとしなかった。
分かりたくなかった。
しかし、分かってしまった。
若いころ、ふたり一緒に歩いた桜並木。
病院の一室、二人でかわるがわる抱きしめた幼い命。
赤い屋根のマイホーム。
一家でテレビを見ながら囲む食卓。
―――幸せな家族の団欒は、もう二度と戻ってこない。
家族のアルバムに、もう父親の写真は増えることがないのだ。
あの人はもういない。
そう認めてしまってからは、ひろしの良かった所、優しかった所ばかりが思い出された。
どうしてもっと優しくしてあげられなかったんだろう。
ひろしの思い出と並んで思い出されるのは、自分のこれまでに対する後悔だった。
毎日、家族のために仕事を頑張って疲れていたあの人に、もっと優しくしてあげればよかった。
できることはいっぱいあったはずだったのに。
わたし、あの人に何をしてあげられたかしら? 邪険に扱ったり、怒ってばかりじゃなかった?
こうなるんだったら、もっと妻として色々してあげればよかった。優しくしてあげればよかった。
あの人は、わたしなんかと一緒になって本当に幸せだったかしら?
あんなに優しい人だったのに、どうしてこんなことに。
こんな場所に似合わないくらい、普通のサラリーマンだったのに、どうして。
「ひろし……」
あらためて、みさえは泣きたかった。
しかし泣けなかった。
目覚めたばかりの現実感のなさと、さんざん泣きつかれた疲労から、もう涙もでなかった。
泣きたくても泣けないこと、それが何より悲しかった。
一度立ち上がりかけたみさえは、また項垂れてうずくまろうとする。
「もう嫌……なんでこんなことになっちゃったのよ……」
夢なら、どうやったら覚めるだろう。
頬をつねってみた。痛い。
叩いてみた。やっぱり痛い。
近くの木を殴ってみた。痛い――
夢でも痛みを感じることってあるのかしら。
悪夢を終わらせるにはどうしたらいいのかしら。
痛みでも目を覚ませないなら、どうしたらいいのかしら。
のろのろとした動きで、みさえは半ば無意識にデイパックからナイフを取り出す。
おぼつかない手つきでナイフを握り、どこに当てたらいいか迷って、首筋にした。
手首だと血が目に見えてしまいそうで怖かった。
握ったナイフを通して、自分自身の命の脈動を感じる。
赤い命の流れ。
この上を、さっと一掻き――刃の舟を走らせれよい。
流れの向こうには、あの人がいる。
川の対岸は夢の終わり。そこに苦しみはない。
できなかった。
「しんのすけ……。ひまわり……」
もう出ないと思っていた涙が、ひとしずくこぼれた。
そうだ、まだ死ねない。
みさえには、しんのすけとひまわりがいる。
ひろしはもういない。
その現実をまだ認めたくはなかったが、認める認めないに関わらず、みさえにはやるべきことがあったのを思い出した。
しんのすけを、守らなければならない。
名簿には、しんのすけの名前も一緒にあった。
先程の放送で名前が呼ばれなかったということは、まだ無事なのだろう。
だが、この先も無事であるとは限らない。
大の大人のひろしさえも殺されてしまうようなこのバトルロワイアルで、まだ5歳の息子が生き抜けるとは到底思えなかった。
みさえは、今度こそ立ち上がった。
足はふらついていたが、全身には確かな意志の芯が通っていた。
ひろしの忘れ形見でもある幼い命を、みさえは何としても守らなければならない。
母親としての使命を、みさえは今一度思い出していた。
「これ、返しとくわ」
みさえはもう一本のナイフも取り出し、ガッツに渡そうとする。
こんなものが側にあると、またおかしなことを考えてしまいそうだった。
しかし、ガッツは受け取ろうとしない。
「持っとけ。自分の身を守るのにないと困るだろ」
返すのいらねえだので押し問答の末、しんのすけを守るのに必要かもとみさえが思いなおしたことで
結局ナイフ二本は再びみさえのデイパックに収められた。
ナイフをしまいながら、みさえは気になったことを聞いてみる。
「……そういえば、どうして止めなかったの?」
薄情な男ね、とでも言いたげなみさえの視線にガッツは首を振った。
「無理だと思ったからな」
「え?」
「あんた、刃じゃない方を首筋に当ててたぜ」
みさえは思わず目を丸くする。
「……ホント?」
もし本当だとしたら、実際に刃を引いたところでミミズ腫れしかできなかったであろう。
みさえの肩から力が抜け、思わず情けない笑みがこぼれた。
「……ばかね。わたしって、本当にばか……」
「行くぞ」
そしてなんの前振りもなく、唐突にガッツは歩き出した。
「あ、ちょっと、勝手にどこ行くのよ!」
今度は、みさえがガッツを追いかける格好になる。
「寺だ」
「へ?」
「さっき、お前が言っていたことを確かめに行く」
+ + +
木々のトンネルを抜けると、そこは墓地だった。
「うわぁ、気味悪いわね」
広さのわりに墓石のまばらな墓場を歩きながら、みさえは夜中にここに気付かなくてよかったと心底から思う。
今が昼日中だからマシなものの、夜には絶対近づきたくない場所である。
寺の裏手の墓場を抜け、そのまま「椎七寺」のぐるりを歩いて人影を探すが、あにはからんや誰一人見つかる様子がない。
山寺につきものの動物の類にさえ遭遇しない。
みさえとガッツがもう少し早くに来ていれば、空を飛ぶ機械を目撃もしくは魅音に遭遇したのだろうが、
今となっては寺周辺は人が来たことも窺わせないような静謐な佇まいのみ。
「ねえ、やっぱりもう移動しちゃったんじゃない?」
「だな」
「だな、って……それじゃ結局無駄足じゃない」
げんなりしたように呟くみさえに、ガッツは確認するように聞く。
「ここで本当に、俺の剣を持ったヤツに会ったんだな?」
「本当よ! あんな剣を持った人なんてそうそういるはずないわよ!」
+ + +
放送を聞く前、みさえがひょんな事から口走ったひと言。
「やっぱり、ここでじっとしているより移動した方がいいんじゃないの?
わたし見たのよ、ついさっき、こーんなバカでかい剣を持ったのがこのあたりをウロウロしてて!」
みさえが身振り手振りを交えて示した剣は、曖昧ではあったがガッツの武器に近いものか、
もしかしたらガッツの武器そのものかと思われた。
みさえを問いただした所、馬鹿でかい剣に目がいってしまい、それの持ち主はよく覚えていないという。
「男だったような気がする」「コスプレのような変わった服装をしていたような気がする」
みさえの覚えていた事はその程度であった。
その人物を捜そうにも情報が「変わった服装の男」だけでは特定もクソもなかったが、
自分たちと同じく、この近辺で夜が明けるまで休憩しつつ様子を窺っている可能性を考えて
目撃場所に来てみたのだが、この様子だと完全に無駄足らしかった。
ひとまず寺の内部に入り、二人は畳の上で休息をとっていた。
実際は無数の土偶に見つめられながらなのであまり落ち着いた気はしないのだが。
黙々と遅めの食事を噛み締めながら、みさえは同じく黙々と食事をしているガッツの様子を窺う。
さっきから考え続けていた事を切り出そうと、意を決して口を開きかけた時。
「きゃっ!」
突然甲高い少女の悲鳴が聞こえたかと思うと、みさえとガッツの間に沙都子が転がり出てきた。
しかも、なぜか元のサイズに戻ってしまっている。
「沙都子ちゃん、どうして出てきちゃったの?」
みさえが助け起こしながら聞くと、沙都子も戸惑ったように首を振った。
「わ……わかりませんわ。突然吐き出されたんですもの……」
「多分、勝手に元の大きさに戻っちまったから袋に入らなくなったんだろうさ」
そういえば、スモールライトの説明書にそんなことが書いてあったような気がするようなしないような。
今いる場所が森の中ではないのに気付き、警戒するように沙都子は周囲を見つめる。
「ここは……どこですの?」
「お寺よ。ほら、地図の右上にあったでしょう?」
すぐ側で睨んでいるガッツに怯える沙都子をかばうように引き寄せ、みさえは今度こそ言わんとしていたことを切り出す。
「わたし、しんのすけを捜しに行きたいんだけど!」
「俺はついていかねえぞ。いいのか?」
当然ガッツもついてきてくれるものと期待していたみさえは怯むが、すぐに強気にうなずいてみせた。
「い、いいわよ、構わないんだから! わたし一人でも行くわよ!」
やけっぱちのタンカを切ってから、みさえは目を伏せた。
「……でも、もしできれば……ほんと、できたらでいいから――しんのすけを見つけたら守ってあげて。
わたしもあなたの知り合いを見つけたら、できるだけ守るから」
なら勝手にしやがれと、言う感じでガッツは頷き返した。
「分かった。で、そいつはどうするんだ?」
指差され、何か考え込んでいた沙都子が顔を上げる。
「一緒に連れて行くしかないでしょう? あなたと一緒にしておくのも危ないし」
みさえはガッツからスモールライトを借り、沙都子を振り返る。
「じゃあ沙都子ちゃん、もう一度小さくなってもら……」
みさえの言葉を遮り、沙都子は首を振った。
「いいえ、その必要はありませんわ。
――私、ここに残ります」
「沙都子ちゃん!?
ダメよ、あなたケガしてるのに一人でいたら、どんな危ない目に遭うか――」
沙都子はもう一度首を振る。
「もう一度小さくしてもらっても、それでまた元の大きさに戻ってしまえば
足手まといになってしまいますわ。
……それなら、みさえさん一人で、行ったほうがいいと思いますの。こんな寂れたお寺、
きっと人なんてあまり来ませんから、私一人くらい、隠れていればきっと平気ですわ」
沙都子は健気に言い切って、みさえを見つめる。
「でも、そんな……」
「みさえさん!」
煮え切らないみさえに、沙都子が叱咤の声を飛ばした。
「――子供は、きっと母親を待っていると思いますですわ。
それがこんな怖い場所なら、なおさらのこと」
「……」
みさえは迷う。
重傷を負った沙都子のことが気にかかる。できれば、連れて行ってあげたい。
しかし、沙都子を担いだまま移動というのは、みさえの身では体力的に無理がある。
できるだけ早く、しんのすけの無事を確かめたい。そのためには足手まといの沙都子は正直邪魔なのだ。
「……ごめんね、沙都子ちゃん」
子を想う母親の切な心情が、みさえに非情な選択をさせた。
済まなそうに首を横に振り、沙都子から離れる。
その小さな手にナイフを一本握らせてやったのは、せめてもの罪滅しだった。
沙都子のデイパックを畳の上に置くと、みさえは椎七寺の戸口に立った。
「沙都子ちゃん……もし、しんのすけを無事に見つけたら戻ってくるから。
絶対に戻ってくるから、待っててね!」
そう言い残し、みさえは振り返りもせずに椎七寺を飛び出した。
急くあまり、ガッツから借りたスモールライトを返すのを忘れたまま。
みさえが去ったあとの寺には、ガッツと沙都子が残された。
キャスカを保護する時のためにと思っていたスモールライトをドサクサで持っていかれてしまったのにガッツは気付くが、
絶対に必要というほどのものでもないので諦めた。
沙都子が、ガッツのマントの裾を引っ張る。
「……ガッツさんも、行ってくださいませ」
「何?」
「私、こんな足ではきっともう殺されて死ぬしかありませんですわ。
誰かの足手まといになるのもご免ですし、ここに置いて行ってくださいませ」
「……」
先程から急に物分り良く健気になった沙都子の豹変を疑うように、ガッツは沙都子を睨みつける。
沙都子はやや怯えたように身を引くが、それでも覚悟したような表情は変わらない。
「あなた、探している人がいらっしゃるのでしょう? だったら、私なんか構わずに行くべきですわ」
睨み合いはしばらく続いたが、やがてガッツが立ち上がった。
「……いいんだな、それで」
「ええ」
沙都子は気丈にうなずいた。
トン……。
寺の木戸が閉められるやけに軽い音を最後に、寺の中には再び静寂が戻った。
薄暗闇の中、沙都子は安堵のため息と笑みを同時に浮かべた。
+ + +
椎七寺を後にしてしばらく歩いたのち、ガッツは奇妙なものを目にする。
盛り上げられた土饅頭の上に、砲弾ほどの丸い野菜が置かれている。
近づいてみると、野菜の傍らに置かれている一枚の紙きれが目にとまった。
「カルラ……か」
分かったのは此処に眠る者の名前のみ。
こうやってきちんと埋葬されているということは、その死を悲しんでくれる者が側にいたのであろう。誰かにその死を悲しまれるに足る人間だったのであろう。
カルラの墓前で、ガッツは周囲をぐるりと見渡す。
――いまだ人っ子ひとり見つからないとは、どういうことか。
地図を見る限り、そう広い土地ではない。
そこに80人以上、死者を差し引いても60人近くの人間が押し込まれているのなら、
少し歩き回ればすぐに誰かと遭遇しそうなものだが。
(どこかに、人の集中している場所があるのか)
そこに、キャスカはいるだろうか。
グリフィスはいるだろうか。
先程の放送では、どちらの名も呼ばれなかった。
放送で死者の名が読み上げられ始めた時、ガッツは内心キャスカの死を覚悟していた。
だが、放送を信じる限り彼女は無事らしい。
おそらく誰かに保護されているのだろう。
誰か?
「――グリフィスの野郎か」
怨嗟の一語では表せぬ、重い呪詛に満ちた言葉を吐く。
自分の剣を持った奴と遭遇するのが先か、グリフィスとキャスカに遭遇するのが先か。
――どちらでも構わねえ。
俺は戦うだけだ。小難しいことなど何もない。
黒衣の剣士はマントを翻し、幸運な死者の墓所を後にした。
【D-7、カルラの墓前/1日目 昼】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:全身打撲(治療、時間経過などにより残存ダメージはやや軽減)
[装備]:バルディッシュ@魔法少女リリカルなのは、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に、ボロボロになった黒い鎧
[道具]:スペツナズナイフ×3、銃火器の予備弾セット(各160発ずつ) 、支給品一式
[思考]
第一行動方針:キャスカを保護する
第ニ行動方針:自分の剣、もしくはそれに近いもの? を持っている奴を探す
第三行動方針:オレの邪魔する奴はぶっ殺す、ひぐらしメンバーに警戒心
第四行動方針:首輪の強度を検証する
第五行動方針:みさえや沙都子の事がやや気にかかる、しんのすけを見つけたら(余裕があれば)保護し、みさえの事を教える
基本行動方針:グリフィス、及び剣を含む未知の道具の捜索、情報収集
最終行動方針:グリフィスを探し出して殺す
+ + +
みさえは走る。
走りながら、息子の姿を探す。
しんのすけ、どこにいるの。
ここが殺し合いの舞台であり、ただの非力な専業主婦でしかない自分が一人きりで動くということの
危険さもわかっている。わかってはいるが、それよりも子への想いが勝る。
しんのすけ、無事でいて。
走り続けて、とうとう森を抜けた。
目の前に市街が見えてくる。
あそこに、しんのすけはいるかしら。
いなかったらどうしよう。
みさえは迷いを捨てるように首を振った。
しんのすけが見つからなくても、いい。
もし再び会うことができないまま私が誰かに殺されてしまっても、しんのすけが無事であってさえくれればいい。それだけでいい。
無常に青い空を見上げてから、みさえは市街へと走り出す。
――――あなた、どうかしんのすけを守ってあげて。
【D-6、市街地の端/1日目 昼】
【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:無我夢中
[装備]:スペツナズナイフ×1
[道具]:スモールライト@ドラえもん(残り1回分)、エルルゥの傷薬(使いかけ)@うたわれるもの 、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、基本支給品一式
[思考]
第一行動方針:しんのすけを見つけ、保護する
第二行動方針:しんのすけを守るためなら、なんでもやる
第三行動方針:しんのすけを見つけたら、沙都子の所に戻る。キャスカを見つけたら保護、グリフィス(危険人物?)と会ったらとりあえず警戒する
基本行動方針:しんのすけ、無事でいて!
+ + +
人気のない山中、寺の中。
畳の上を這いずり回り、埃にまみれながら、沙都子は「準備」をしていた。
恐怖はない。悲しみもない。
あるのは、覚悟と冷静な自信のみ。
沙都子は自分の内に芯が通ってゆくのを覚える。
その芯は硬く、まっすぐで、人を殺すことも厭わない冷たい凶器の姿をしていた。
沙都子を支えるその芯は、にーにーのバット。
今は手元になくとも、最初の奇蹟はいまだ沙都子を支え続けている。
(私には、にーにーがついている)
その確信が、沙都子を強くする。
片足を潰された自分がここから動くことは、もうできそうにない。
この状態で一人さまよった所で、誰かにあっさり殺されてしまうであろう。
致命的なハンデを負った身で、それでも生き残ろうとするなら。
答えは簡単だ。
――動けないなら、ここから動かなければいいのですわ。
沙都子は、己の得意とするものを思い出す。
(……罠を張るのですわ)
今からこの寺にできる限りの罠を仕掛ける。
そうして、不運にもここに立ち寄ってしまった者を、片っ端から仕留めるのだ。
これなら、「生き残るだけ」はできる。
罠を仕掛けるなら、ガッツとみさえを追い払った今しかない。
頭の中で仕掛ける罠の概要を組み立てつつ、沙都子は畳の上をいざり回る。
砕かれた足がひどく痛み、額や背中を脂汗が滝のように流れる。
でも、やらなくてはならない。
できる限りのことをするのだ。
生き残るために。
【C-7、寺/1日目 昼】
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:右足粉砕(一応処置済み)、軽度の疲労
[装備]:スペツナズナイフ×1
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
第一行動方針:生き残ってにーにーに会う
第二行動方針:寺の内外に罠を張り巡らせ、ここに来る者を仕留める
(ガッツやみさえでも構わず仕留めるつもり)
第三行動方針:部活メンバーとは会いたくない
※沙都子のサイズは、自然な時間経過により元に戻りました。
※ガッツとみさえはバルディッシュの使い方を理解しています。
※沙都子はバルディッシュの使い方と首輪の話については知りません。
※沙都子のみ第一放送を聞いていません。
※彼ら三人はそれぞれの知人(参加者)についての情報を共有してます。
*時系列順で読む
Back:[[親友を失った悲しみと、愛する人を失った悲しみ]] Next:[[恋のミクル伝説(前編)]]
*投下順で読む
Back:[[正義の味方]] Next:[[恋のミクル伝説(前編)]]
|69:[[何だってんだ]]|ガッツ|149:[[約束された勝利/その結果]]|
|69:[[何だってんだ]]|野原みさえ|150:[[暴走、そして再会なの!]]|
|69:[[何だってんだ]]|北条沙都子|165:[[Boys don't cry]]|
*ハードボイルド・ハードラック ◆tC/hi58lI.
水底からふっと浮き上がるように、みさえは目を覚ました。
「……わたし……」
目に映るのが見慣れた天井ではなく、緑の木々と青空であることに違和感を覚える。
さわやかな風が頬を、額を撫でてゆく。
気持ちのいい朝。
いや、太陽はもうかなり高くにのぼっているようだから、既に昼近くか。
わたし、どうしてこんなところにいるんだっけ。
「目を覚ましたか」
突然降って来た渋い声に、驚いて跳ね起きる。
ゴツい強面の男が、木に寄りかかってこちらを見ていた。
「え、えっ? あなた誰……」
言いかけて、唐突にみさえはすべてを思い出した。
――ギガゾンビの放送の内容ともども。
+ + +
放送を聞いた後、みさえはまずショックを受け、そして泣いた。
あの人が死んだなんて嘘よ、と側にいたガッツに当たり散らして、また泣いて、当たり散らして、泣いて――
――それを繰り返すうちに、疲労の限界か何かで気を失うように眠ってしまった。
自分のおぼろげな記憶とガッツの言葉を足して考えると、そんな感じだったらしい。
深夜に訳も分からず連れてこられて、それ以来ろくな休息もとっていなかったため、
そこに夫を亡くしたというショックの追い討ちがかかれば無理からぬことではあった。
放送で告げられた、自分の夫の名前。
それが何を意味するのか、みさえは分かろうとしなかった。
分かりたくなかった。
しかし、分かってしまった。
若いころ、ふたり一緒に歩いた桜並木。
病院の一室、二人でかわるがわる抱きしめた幼い命。
赤い屋根のマイホーム。
一家でテレビを見ながら囲む食卓。
―――幸せな家族の団欒は、もう二度と戻ってこない。
家族のアルバムに、もう父親の写真は増えることがないのだ。
あの人はもういない。
そう認めてしまってからは、ひろしの良かった所、優しかった所ばかりが思い出された。
どうしてもっと優しくしてあげられなかったんだろう。
ひろしの思い出と並んで思い出されるのは、自分のこれまでに対する後悔だった。
毎日、家族のために仕事を頑張って疲れていたあの人に、もっと優しくしてあげればよかった。
できることはいっぱいあったはずだったのに。
わたし、あの人に何をしてあげられたかしら? 邪険に扱ったり、怒ってばかりじゃなかった?
こうなるんだったら、もっと妻として色々してあげればよかった。優しくしてあげればよかった。
あの人は、わたしなんかと一緒になって本当に幸せだったかしら?
あんなに優しい人だったのに、どうしてこんなことに。
こんな場所に似合わないくらい、普通のサラリーマンだったのに、どうして。
「ひろし……」
あらためて、みさえは泣きたかった。
しかし泣けなかった。
目覚めたばかりの現実感のなさと、さんざん泣きつかれた疲労から、もう涙もでなかった。
泣きたくても泣けないこと、それが何より悲しかった。
一度立ち上がりかけたみさえは、また項垂れてうずくまろうとする。
「もう嫌……なんでこんなことになっちゃったのよ……」
夢なら、どうやったら覚めるだろう。
頬をつねってみた。痛い。
叩いてみた。やっぱり痛い。
近くの木を殴ってみた。痛い――
夢でも痛みを感じることってあるのかしら。
悪夢を終わらせるにはどうしたらいいのかしら。
痛みでも目を覚ませないなら、どうしたらいいのかしら。
のろのろとした動きで、みさえは半ば無意識にデイパックからナイフを取り出す。
おぼつかない手つきでナイフを握り、どこに当てたらいいか迷って、首筋にした。
手首だと血が目に見えてしまいそうで怖かった。
握ったナイフを通して、自分自身の命の脈動を感じる。
赤い命の流れ。
この上を、さっと一掻き――刃の舟を走らせれよい。
流れの向こうには、あの人がいる。
川の対岸は夢の終わり。そこに苦しみはない。
できなかった。
「しんのすけ……。ひまわり……」
もう出ないと思っていた涙が、ひとしずくこぼれた。
そうだ、まだ死ねない。
みさえには、しんのすけとひまわりがいる。
ひろしはもういない。
その現実をまだ認めたくはなかったが、認める認めないに関わらず、みさえにはやるべきことがあったのを思い出した。
しんのすけを、守らなければならない。
名簿には、しんのすけの名前も一緒にあった。
先程の放送で名前が呼ばれなかったということは、まだ無事なのだろう。
だが、この先も無事であるとは限らない。
大の大人のひろしさえも殺されてしまうようなこのバトルロワイアルで、まだ5歳の息子が生き抜けるとは到底思えなかった。
みさえは、今度こそ立ち上がった。
足はふらついていたが、全身には確かな意志の芯が通っていた。
ひろしの忘れ形見でもある幼い命を、みさえは何としても守らなければならない。
母親としての使命を、みさえは今一度思い出していた。
「これ、返しとくわ」
みさえはもう一本のナイフも取り出し、ガッツに渡そうとする。
こんなものが側にあると、またおかしなことを考えてしまいそうだった。
しかし、ガッツは受け取ろうとしない。
「持っとけ。自分の身を守るのにないと困るだろ」
返すのいらねえだので押し問答の末、しんのすけを守るのに必要かもとみさえが思いなおしたことで
結局ナイフ二本は再びみさえのデイパックに収められた。
ナイフをしまいながら、みさえは気になったことを聞いてみる。
「……そういえば、どうして止めなかったの?」
薄情な男ね、とでも言いたげなみさえの視線にガッツは首を振った。
「無理だと思ったからな」
「え?」
「あんた、刃じゃない方を首筋に当ててたぜ」
みさえは思わず目を丸くする。
「……ホント?」
もし本当だとしたら、実際に刃を引いたところでミミズ腫れしかできなかったであろう。
みさえの肩から力が抜け、思わず情けない笑みがこぼれた。
「……ばかね。わたしって、本当にばか……」
「行くぞ」
そしてなんの前振りもなく、唐突にガッツは歩き出した。
「あ、ちょっと、勝手にどこ行くのよ!」
今度は、みさえがガッツを追いかける格好になる。
「寺だ」
「へ?」
「さっき、お前が言っていたことを確かめに行く」
+ + +
木々のトンネルを抜けると、そこは墓地だった。
「うわぁ、気味悪いわね」
広さのわりに墓石のまばらな墓場を歩きながら、みさえは夜中にここに気付かなくてよかったと心底から思う。
今が昼日中だからマシなものの、夜には絶対近づきたくない場所である。
寺の裏手の墓場を抜け、そのまま「椎七寺」のぐるりを歩いて人影を探すが、あにはからんや誰一人見つかる様子がない。
山寺につきものの動物の類にさえ遭遇しない。
みさえとガッツがもう少し早くに来ていれば、空を飛ぶ機械を目撃もしくは魅音に遭遇したのだろうが、
今となっては寺周辺は人が来たことも窺わせないような静謐な佇まいのみ。
「ねえ、やっぱりもう移動しちゃったんじゃない?」
「だな」
「だな、って……それじゃ結局無駄足じゃない」
げんなりしたように呟くみさえに、ガッツは確認するように聞く。
「ここで本当に、俺の剣を持ったヤツに会ったんだな?」
「本当よ! あんな剣を持った人なんてそうそういるはずないわよ!」
+ + +
放送を聞く前、みさえがひょんな事から口走ったひと言。
「やっぱり、ここでじっとしているより移動した方がいいんじゃないの?
わたし見たのよ、ついさっき、こーんなバカでかい剣を持ったのがこのあたりをウロウロしてて!」
みさえが身振り手振りを交えて示した剣は、曖昧ではあったがガッツの武器に近いものか、
もしかしたらガッツの武器そのものかと思われた。
みさえを問いただした所、馬鹿でかい剣に目がいってしまい、それの持ち主はよく覚えていないという。
「男だったような気がする」「コスプレのような変わった服装をしていたような気がする」
みさえの覚えていた事はその程度であった。
その人物を捜そうにも情報が「変わった服装の男」だけでは特定もクソもなかったが、
自分たちと同じく、この近辺で夜が明けるまで休憩しつつ様子を窺っている可能性を考えて
目撃場所に来てみたのだが、この様子だと完全に無駄足らしかった。
ひとまず寺の内部に入り、二人は畳の上で休息をとっていた。
実際は無数の土偶に見つめられながらなのであまり落ち着いた気はしないのだが。
黙々と遅めの食事を噛み締めながら、みさえは同じく黙々と食事をしているガッツの様子を窺う。
さっきから考え続けていた事を切り出そうと、意を決して口を開きかけた時。
「きゃっ!」
突然甲高い少女の悲鳴が聞こえたかと思うと、みさえとガッツの間に沙都子が転がり出てきた。
しかも、なぜか元のサイズに戻ってしまっている。
「沙都子ちゃん、どうして出てきちゃったの?」
みさえが助け起こしながら聞くと、沙都子も戸惑ったように首を振った。
「わ……わかりませんわ。突然吐き出されたんですもの……」
「多分、勝手に元の大きさに戻っちまったから袋に入らなくなったんだろうさ」
そういえば、スモールライトの説明書にそんなことが書いてあったような気がするようなしないような。
今いる場所が森の中ではないのに気付き、警戒するように沙都子は周囲を見つめる。
「ここは……どこですの?」
「お寺よ。ほら、地図の右上にあったでしょう?」
すぐ側で睨んでいるガッツに怯える沙都子をかばうように引き寄せ、みさえは今度こそ言わんとしていたことを切り出す。
「わたし、しんのすけを捜しに行きたいんだけど!」
「俺はついていかねえぞ。いいのか?」
当然ガッツもついてきてくれるものと期待していたみさえは怯むが、すぐに強気にうなずいてみせた。
「い、いいわよ、構わないんだから! わたし一人でも行くわよ!」
やけっぱちのタンカを切ってから、みさえは目を伏せた。
「……でも、もしできれば……ほんと、できたらでいいから――しんのすけを見つけたら守ってあげて。
わたしもあなたの知り合いを見つけたら、できるだけ守るから」
なら勝手にしやがれと、言う感じでガッツは頷き返した。
「分かった。で、そいつはどうするんだ?」
指差され、何か考え込んでいた沙都子が顔を上げる。
「一緒に連れて行くしかないでしょう? あなたと一緒にしておくのも危ないし」
みさえはガッツからスモールライトを借り、沙都子を振り返る。
「じゃあ沙都子ちゃん、もう一度小さくなってもら……」
みさえの言葉を遮り、沙都子は首を振った。
「いいえ、その必要はありませんわ。
――私、ここに残ります」
「沙都子ちゃん!?
ダメよ、あなたケガしてるのに一人でいたら、どんな危ない目に遭うか――」
沙都子はもう一度首を振る。
「もう一度小さくしてもらっても、それでまた元の大きさに戻ってしまえば
足手まといになってしまいますわ。
……それなら、みさえさん一人で、行ったほうがいいと思いますの。こんな寂れたお寺、
きっと人なんてあまり来ませんから、私一人くらい、隠れていればきっと平気ですわ」
沙都子は健気に言い切って、みさえを見つめる。
「でも、そんな……」
「みさえさん!」
煮え切らないみさえに、沙都子が叱咤の声を飛ばした。
「――子供は、きっと母親を待っていると思いますですわ。
それがこんな怖い場所なら、なおさらのこと」
「……」
みさえは迷う。
重傷を負った沙都子のことが気にかかる。できれば、連れて行ってあげたい。
しかし、沙都子を担いだまま移動というのは、みさえの身では体力的に無理がある。
できるだけ早く、しんのすけの無事を確かめたい。そのためには足手まといの沙都子は正直邪魔なのだ。
「……ごめんね、沙都子ちゃん」
子を想う母親の切な心情が、みさえに非情な選択をさせた。
済まなそうに首を横に振り、沙都子から離れる。
その小さな手にナイフを一本握らせてやったのは、せめてもの罪滅しだった。
沙都子のデイパックを畳の上に置くと、みさえは椎七寺の戸口に立った。
「沙都子ちゃん……もし、しんのすけを無事に見つけたら戻ってくるから。
絶対に戻ってくるから、待っててね!」
そう言い残し、みさえは振り返りもせずに椎七寺を飛び出した。
急くあまり、ガッツから借りたスモールライトを返すのを忘れたまま。
みさえが去ったあとの寺には、ガッツと沙都子が残された。
キャスカを保護する時のためにと思っていたスモールライトをドサクサで持っていかれてしまったのにガッツは気付くが、
絶対に必要というほどのものでもないので諦めた。
沙都子が、ガッツのマントの裾を引っ張る。
「……ガッツさんも、行ってくださいませ」
「何?」
「私、こんな足ではきっともう殺されて死ぬしかありませんですわ。
誰かの足手まといになるのもご免ですし、ここに置いて行ってくださいませ」
「……」
先程から急に物分り良く健気になった沙都子の豹変を疑うように、ガッツは沙都子を睨みつける。
沙都子はやや怯えたように身を引くが、それでも覚悟したような表情は変わらない。
「あなた、探している人がいらっしゃるのでしょう? だったら、私なんか構わずに行くべきですわ」
睨み合いはしばらく続いたが、やがてガッツが立ち上がった。
「……いいんだな、それで」
「ええ」
沙都子は気丈にうなずいた。
トン……。
寺の木戸が閉められるやけに軽い音を最後に、寺の中には再び静寂が戻った。
薄暗闇の中、沙都子は安堵のため息と笑みを同時に浮かべた。
+ + +
椎七寺を後にしてしばらく歩いたのち、ガッツは奇妙なものを目にする。
盛り上げられた土饅頭の上に、砲弾ほどの丸い野菜が置かれている。
近づいてみると、野菜の傍らに置かれている一枚の紙きれが目にとまった。
「カルラ……か」
分かったのは此処に眠る者の名前のみ。
こうやってきちんと埋葬されているということは、その死を悲しんでくれる者が側にいたのであろう。誰かにその死を悲しまれるに足る人間だったのであろう。
カルラの墓前で、ガッツは周囲をぐるりと見渡す。
――いまだ人っ子ひとり見つからないとは、どういうことか。
地図を見る限り、そう広い土地ではない。
そこに80人以上、死者を差し引いても60人近くの人間が押し込まれているのなら、
少し歩き回ればすぐに誰かと遭遇しそうなものだが。
(どこかに、人の集中している場所があるのか)
そこに、キャスカはいるだろうか。
グリフィスはいるだろうか。
先程の放送では、どちらの名も呼ばれなかった。
放送で死者の名が読み上げられ始めた時、ガッツは内心キャスカの死を覚悟していた。
だが、放送を信じる限り彼女は無事らしい。
おそらく誰かに保護されているのだろう。
誰か?
「――グリフィスの野郎か」
怨嗟の一語では表せぬ、重い呪詛に満ちた言葉を吐く。
自分の剣を持った奴と遭遇するのが先か、グリフィスとキャスカに遭遇するのが先か。
――どちらでも構わねえ。
俺は戦うだけだ。小難しいことなど何もない。
黒衣の剣士はマントを翻し、幸運な死者の墓所を後にした。
【D-7、カルラの墓前/1日目 昼】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:全身打撲(治療、時間経過などにより残存ダメージはやや軽減)
[装備]:バルディッシュ@魔法少女リリカルなのは、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に、ボロボロになった黒い鎧
[道具]:スペツナズナイフ×3、銃火器の予備弾セット(各160発ずつ) 、支給品一式
[思考]
第一行動方針:キャスカを保護する
第ニ行動方針:自分の剣、もしくはそれに近いもの? を持っている奴を探す
第三行動方針:オレの邪魔する奴はぶっ殺す、ひぐらしメンバーに警戒心
第四行動方針:首輪の強度を検証する
第五行動方針:みさえや沙都子の事がやや気にかかる、しんのすけを見つけたら(余裕があれば)保護し、みさえの事を教える
基本行動方針:グリフィス、及び剣を含む未知の道具の捜索、情報収集
最終行動方針:グリフィスを探し出して殺す
+ + +
みさえは走る。
走りながら、息子の姿を探す。
しんのすけ、どこにいるの。
ここが殺し合いの舞台であり、ただの非力な専業主婦でしかない自分が一人きりで動くということの危険さもわかっている。
わかってはいるが、それよりも子への想いが勝る。
しんのすけ、無事でいて。
走り続けて、とうとう森を抜けた。
目の前に市街が見えてくる。
あそこに、しんのすけはいるかしら。
いなかったらどうしよう。
みさえは迷いを捨てるように首を振った。
しんのすけが見つからなくても、いい。
もし再び会うことができないまま私が誰かに殺されてしまっても、しんのすけが無事であってさえくれればいい。それだけでいい。
無情に青い空を見上げてから、みさえは市街へと走り出す。
――――あなた、どうかしんのすけを守ってあげて。
【D-6、市街地の端/1日目 昼】
【野原みさえ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:無我夢中
[装備]:スペツナズナイフ×1
[道具]:スモールライト@ドラえもん(残り1回分)、エルルゥの傷薬(使いかけ)@うたわれるもの 、銃火器の予備弾セット(各40発ずつ)、基本支給品一式
[思考]
第一行動方針:しんのすけを見つけ、保護する
第二行動方針:しんのすけを守るためなら、なんでもやる
第三行動方針:しんのすけを見つけたら、沙都子の所に戻る。キャスカを見つけたら保護、グリフィス(危険人物?)と会ったらとりあえず警戒する
基本行動方針:しんのすけ、無事でいて!
+ + +
人気のない山中、寺の中。
畳の上を這いずり回り、埃にまみれながら、沙都子は「準備」をしていた。
恐怖はない。悲しみもない。
あるのは、覚悟と冷静な自信のみ。
沙都子は自分の内に芯が通ってゆくのを覚える。
その芯は硬く、まっすぐで、人を殺すことも厭わない冷たい凶器の姿をしていた。
沙都子を支えるその芯は、にーにーのバット。
今は手元になくとも、最初の奇蹟はいまだ沙都子を支え続けている。
(私には、にーにーがついている)
その確信が、沙都子を強くする。
片足を潰された自分がここから動くことは、もうできそうにない。
この状態で一人さまよった所で、誰かにあっさり殺されてしまうであろう。
致命的なハンデを負った身で、それでも生き残ろうとするなら。
答えは簡単だ。
――動けないなら、ここから動かなければいいのですわ。
沙都子は、己の得意とするものを思い出す。
(……罠を張るのですわ)
今からこの寺にできる限りの罠を仕掛ける。
そうして、不運にもここに立ち寄ってしまった者を、片っ端から仕留めるのだ。
これなら、「生き残るだけ」はできる。
罠を仕掛けるなら、ガッツとみさえを追い払った今しかない。
頭の中で仕掛ける罠の概要を組み立てつつ、沙都子は畳の上をいざり回る。
砕かれた足がひどく痛み、額や背中を脂汗が滝のように流れる。
でも、やらなくてはならない。
できる限りのことをするのだ。
生き残るために。
【C-7、寺/1日目 昼】
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:右足粉砕(一応処置済み)、軽度の疲労
[装備]:スペツナズナイフ×1
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
第一行動方針:生き残ってにーにーに会う
第二行動方針:寺の内外に罠を張り巡らせ、ここに来る者を仕留める
(ガッツやみさえでも構わず仕留めるつもり)
第三行動方針:部活メンバーとは会いたくない
※沙都子のサイズは、自然な時間経過により元に戻りました。
※ガッツとみさえはバルディッシュの使い方を理解しています。
※沙都子はバルディッシュの使い方と首輪の話については知りません。
※沙都子のみ第一放送を聞いていません。
※彼ら三人はそれぞれの知人(参加者)についての情報を共有してます。
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