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「約束された勝利/その結果」(2021/09/05 (日) 08:43:42) の最新版変更点
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*約束された勝利/その結果 ◆TIZOS1Jprc
『朝比奈みくるは無事です。ここには戻りません』
音無小夜はそう書かれた書き置きを、そっとテーブルの上に戻す。
朝比奈みくる――――鶴屋さんはSOS団のメンバーの一人だと言っていた。
彼女の親友であるとも。
「そっか……。無事なんだ……」
この殺し合いの場で、普通の女子高生であるらしい朝比奈みくるが、少なくともこれを書いた時点では、五体満足で居たことは歓迎すべき事だ。
思わずこぼれた安堵の微笑を小夜は引き締める。
彼女には会って謝らねばならない。
鶴屋さんを殺してしまった事を。
その為にも彼女の足取りを追う必要がある。
『彼女はここには戻らないと書いてある……。つまり明確な目的地があったと言うこと?』
彼女も聞いたのだろうか?イーロク駅に残されていた留守電メッセージを。
先ほど訪れた駅で自分が聞いたのと同じ物を。
D-5エリアのホテルに脱出を目指す参加者を集めていると言うことを。
『彼女がこのゲームに乗っていないなら、そこへ向かった可能性は高い。いや、例えそこに居なかったとしても、私はそこに行きたい! 電話の声の主を信じたい!』
元々駅の周りを一通り見て回ったら、まっすぐホテルに向かうつもりだった。
SOS団員の所在の可能性がそこと重なった今、躊躇する理由は何処にもない。
「無事でいて……」
まだ見ぬ朝比奈みくる他SOS団のメンバーの無事を祈りつつ小夜は喫茶店の扉を開いた。
人間ですらない自分でも、願うだけなら許されるはずだから、などと考えながら。
◇ ◇ ◇
「あれが……」
小夜が見上げた先には、周りと比べて一際高いビルディングがそびえ立っていた。
左手に見えるレジャービルの方が少し高いものの、目立つことには変わりない。
小夜は目的地のホテルの数百メートル手前まで来ていた。
「?」
建物に微妙な違和感を覚える。
目を凝らして見ても、外装が剥がれていたり、窓ガラスが割れていたりはしないのだが……。
『何か……危うげで……今にも崩れてしまいそうな』
罠の可能性が頭をかすめたその時、小夜の優れた聴覚が何者かの足音を捕らえた。
とっさに物陰に身を潜める。
そっと音がした方を見ると時代錯誤な甲冑を纏った褐色の肌の女が、駆け足でホテルとは逆の方向へ向かっていた。
『真逆ホテルで何かが……!』
声を掛けなければ。
女からホテルでの状況を聞かなければ。
だが、先程鶴屋に騙され、不意を付かれて腹を刺された苦い思い出が、僅かに小夜を躊躇させた。
結果的に、その躊躇が小夜に女を観察する時間を与える。
その短い時間の中で小夜は気付いてしまった。
女の持つ剣が、刃こぼれ一つしていないものの、何かの血と油でてかてかと光っていることを。
そして嗅ぎ慣れた匂いが小夜の鼻まで到達する。
瞬間、小夜は物陰から飛び出していた。
まるで弾丸のようなスピードで、一気に女に肉薄する。
「――ッ!」
小夜の接近に気付いた女がとっさに剣を構えるが、連戦による疲労の為一瞬遅れる。
その一瞬の間に、小夜の右拳が女の持つ剣を弾き飛ばしていた。
そのままの勢いで足を引っかけ、一気に女を仰向けに押し倒す。
即座に女が起き上がろうとするが、すでにその首筋にナイフが突き付けられていた。
「く……!」
「答えなさい……貴女はあのホテルで一体何をしていたの」
その女、キャスカは後悔していた。
いましがたまでの戦闘の高揚を引きずったまま、周囲への警戒を忘れていた。
傭兵にとって本陣に戻るまでは決して油断などできないのは常識であるのに。
強くあろうと心に誓ったその直後にもうこんな失態をしてしまった。
つくずく自分を呪い殺したくなる。
「…………」
「答えろ――――ッ!」
目の前の少女は激昂している。
キャスカが少しでも余計な動きを見せたら即座にナイフを突き立て兼ねない。
駄目だ。
こんなところで諦めてたまるものか。
そんなことではグリフィスに……ガッツに追い付くことなどできはしない。
キャスカは口を開くと、そのまま少女の持つナイフに囓り付いた。
「!」
単純な力の差を比べるならば、キャスカは翼主の女王たる小夜には全く及ばないだろう。
しかし、小夜は躊躇した。
ここで口蓋に刃を押し込めば、間違いなく相手は絶命する。
それに剣が血に塗れているからと言って、目の前の女は正当防衛で斬らざるを得なかったのかも知れないし、たまたま剣を拾った可能性だってある。
その一方、キャスカは自分の命など惜しまなかった。
死ぬことを恐れれば、その恐怖が自分の足を引っ張り、臆病が太刀筋を歪める。
その覚悟の差が、キャスカを窮地から救った。
キャスカはナイフを咥えたまま立ち上がり、即座に飛び退くと黄金の剣を拾い上げた。
一方的な展開が一転、勝負は振り出しに戻る。
「答えなさい、貴女はあそこで何をしたの」
小夜が再び問う。
「知れた事……数人この剣の錆にしてやったまでさ。お前と同じようにッ!」
キャスカが一息で間合いに踏み込み、一閃。素早く、そして確実だ。
とっさにバックステップで避けつつ、小夜はキャスカの技量に驚嘆した。
今まで自分よりも力やスピードで勝る相手と何度も相対してきた。
人数や装備の面で自分達が劣っていた事もしょっちゅうだった。
しかし、これ程までに技能の面で優れた相手と戦う事態はそうはなかった。
ならば自分はパワーと素早さで攻めるしかない。
この時点で、小夜から迷いは消えていた。
この人物を捨て置けば、争う意志のない人まで次々と手に掛けて行くだろう。
『私が……やらなきゃ!』
今度は小夜が先制。
地面を蹴り一気に加速すると、残像を残しながら一瞬でキャスカの背後につく。
キャスカは敵を見失っても狼狽することもなく、今まで戦場で培ってきた勘に従い前方に倒れ込む。
甲冑をナイフの先端がかすめて火花が散った。
後一瞬遅れていたらキャスカの頚椎が真っ二つになっていただろう。
本来、ナイフは刺して攻撃するもの。斬るのには向いていない。
それでもこの斬撃は容易く甲冑を破り、人体を両断し得るだろう(同時にナイフも御釈迦だろうが)。
それほどの勢いだった。ガッツとタメを張れるかもしれない。
『『強い!』』
相対する両者は双方の実力を理解した。
なればこそ、双方とも引く訳には行かない。
一方はこれ以上罪無き犠牲者を増やさない為。
もう一方は崇敬する者に一歩でも近付く為。
それぞれの願いを胸に、両者は同時に踏み出した。
視界から小夜が掻き消える。
キャスカは走りながら必死で敵の気配を手繰った。
相手が自分の間合いに入る、その瞬間を狙って。
『……左!』
そこから袈裟掛けを仕掛けるつもりか。
呆れる程単純で、かつ荒事していることを匂わせる選択。
先程はその人間離れしたスピードに驚いて遅れをとったが、一度手の内を見た後はそうは行かない。
キャスカは小夜の方を振り向かず、エクスカリバーを必勝のタイミングで左方へ振り切り――
剣は、空を切った。
「な……に……」
左脚にナイフが刺さっている。
左側を向くと、エクスカリバーのリーチのギリギリ手前で、小夜がナイフを投げつけた格好のまま後ろに倒れ込んでいた。
信じ難いことに、ナイフは大腿骨を砕き、大腿動脈を掠めている。
正に人間離れした所業だった。
キャスカは左脚の支えを失って倒れ込んだ。
だくだくと血が流れ出していく。
『負けた……のか……』
ゆらり、と幽鬼の様に小夜が立ち上がる。
止めを刺すべきか、捨て置くべきか、助けるべきか、小夜は葛藤しながらショットガンを取り出すために離れた所に置いてある自分のデイバッグに向かった。
『死ぬ……のか?』
死ぬ訳には行かない。自分はまだ、たった一人しか屠っていない。
こんな中途半端な相手に殺されてしまう様では、グリフィスの剣になれはしない。
この程度の傷で諦めていては、ガッツを殺すことなど出来る訳が無い。
まだだ。
まだこの剣がある。剣は、地べたに這いつくばる惨めな自分を見放してはいない。
ならば。
『ならば……必勝の名を冠す黄金の剣よ! 私に今一度力を!』
キャスカは激痛と足が砕ける恐怖に耐え、立ち上がった。
こちらを注意していた小夜は、特に慌てるでもなくショットガンを向ける。
キャスカにはどんな武器かは判らなかったが、それが離れた位置から自分に致命傷を与え得るものであることは理解できた。
小夜との距離は4、5歩程。間合いを詰めるまでにキャスカは攻撃されるだろう。
それでも
『構わない! ここで終わる前に、一太刀でも与えられるなら!』
その瞬間。
閃光が弾けた。
キャスカはその手にある剣の真の名を理解した。
そしてその剣の持つ力の断片が自分と継った事を感じ取った。
『これは――?』
戸惑いは一瞬。
自分が為すべき事も、その結果も手に取るように判った。
それを実行するだけだ。
エクス
「――――約束された」
キャスカの掲げ持つ剣が眩い光を発し始める。
小夜はその脅威を肌で感じ取り、先手を打つべく引き金を引く。
それと同時にキャスカは剣の真名を開放した。
カリバー
「勝利の剣――――!!!」
そして――――
空間が断裂し、全てが閃光に飲み込まれた。
◇ ◇ ◇
市街地の一角。
一直線に3軒程の民家が倒壊していた。
その惨状はまるで局地的に怪獣が行進し炎をまき散らした跡の様だ。
支柱はことごとく焼け落ち、壁面はあらかた崩壊し、原型を留めている物は殆どない。
その惨状の始点、怪獣が空から舞い降りた場所から、キャスカは這いずりながら移動していた。
その足は完全に折れ曲がり、今なお傷口から血が滴り流れ出ている。
それでも、キャスカは笑っていた。
『やった! 私は……力を手に入れた! この剣があれば……グリフィスは私を見てくれる! グリフィスの剣になれる! ガッツの…………』
どこかの民家の影に身を潜めると、そのままキャスカの意識はぷっつりと途絶えた。
◇ ◇ ◇
D-6エリアの中程。
ガッツはやっと山道から開放され市街地に入った。
「やれやれ、怪我を押しての強行軍には慣れっことは言え、キツイのは変わりないぜ」
一人ぼやきながら街中に入り、辺りを見回す。
奇妙な街だった。
木造の壁に瓦を張った屋根の家もあるが、大半の建造物は何か石のような材質で出来ていて、継目が全く無い。
地面もそれと似た材質の何かで舗装されている。
所々に立っている細長い石柱には黒い縄が渡されている。罪人を吊るし上げるのにでも使うのだろうか?
「真逆、ここは幽界(かくりよ)のどっかだって言うつもりじゃねえだろうな」
しかし、先程まで同行していたみさえと沙都子の話を聞く限り、彼女らが居た元の国、ニホンでは自分の知らない様々な設備、文化が根付いているらしい。
今まで出会った自分を含めて三人の内、ニホン出身が二人。
つまりこの場では、自分の方が異邦人と言う訳か。
これがニホン独特の都市景観と言うならば納得できる。
兎に角、先程聞こえた爆発音、木々のせいで反響して厳密な方向は掴めなかったが、まずはそこに向かうことにしよう。
「ん?」
よろよろと、黒髪をショートカットにした少女が西の方からこっちに向かって来た。
怪我人を装った罠かと思い、油断なくバットを構え、周囲を警戒する。
と、ガッツまで10メートル程の所で、少女はばたりと崩れ落ちた。
その衝撃で傷口が開いたせいか、血溜りが広がり始める。
抱え起こすと左半身に酷い火傷と裂傷を負っていた。
再生を始めているようだが追い付いていない。
どう見ても致命傷だった。
「おい、生きているのか? 誰にやられた?」
「……女、褐色の肌で……鎧を着てて、剣を……」
褐色の肌……キャスカの姿が脳裏に浮かんだがすぐに打ち消した。
あいつは今、そんなことが出来る状態じゃない。
「足を怪我してる……私の他に何人も……彼女を……止めて」
「傭兵にタダで物を頼む気か?」
「私の……支給品を……」
死人の持ち物などあの世に持って行ける訳でもない。
交渉材料としてはお笑い種にしかならないが、そんなことを指摘しても面倒になるだけだ。
「判った。で、そいつは今どこに居る」
「…………」
「おい」
その少女、小夜にはもうガッツの声が聞こえていなかった。
彼女の耳にはチェロの音色が聞こえていた。
優しい、ゆるやかな、チェロの独奏が。
小夜は、ゆっくりと瞼を閉じた。
「…………」
ガッツは少女の心拍が止まった事を確認すると、そっとその身を抱え上げた。
野晒しにするのは忍びないので、埋葬するか、ベッドに横たえるかさせてやろう。
名前も知らない、会ったばかりの少女にそこまでする義理なんて無いのにな、と静かに自嘲する。
まあ良い、支給品を貰うついでだ。サービスしてやろう。
「脚を怪我してるんだったな。そいつが遠くに行かねえ内に済ませちまうか」
ふと見上げると、あの仮面の男の姿が再び浮かび上がってきた。
二回目の放送が始まるようだ。
おそらくこの少女の名前も呼ばれるのだろうな、と何とはなしにガッツは思った。
【D-6中央部/1日目/昼(放送直前)】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:全身打撲(治療、時間経過などにより残存ダメージはやや軽減)
[装備]:バルディッシュ@リリカルなのは、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に、ボロボロになった黒い鎧
[道具]:スペツナズナイフ×3、銃火器の予備弾セット(各160発ずつ)
首輪、ウィンチェスターM1897(残弾数3/5)
ウィンチェスターM1897の予備弾(30発分)、支給品一式、デイパック2人分
[思考]
1:小夜の死体を手早く処理
2:キャスカを保護する
3:褐色の肌で鎧と剣を装備して脚に怪我をしている女を殺す
4:自分の剣、もしくはそれに近いもの? を持っている奴を探す
5:オレの邪魔する奴はぶっ殺す、ひぐらしメンバーに警戒心
6:首輪の強度を検証する
7:みさえや沙都子の事がやや気にかかる 、しんのすけを見つけたら(余裕があれば)保護し、みさえの事を教える
基本行動方針:グリフィス、及び剣を含む未知の道具の捜索、情報収集
最終行動方針:グリフィスを探し出して殺す
【D-6南西部】
【キャスカ@ベルセルク】
[状態]:気絶、左脚複雑骨折+裂傷、魔力(=体力?)消費甚大
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、ハンティングナイフ(脚に刺さったまま)
[道具]:支給品一式(一食分消費)、カルラの剣@うたわれるもの(持ち運べないので鞄に収納)
[思考・状況]
1:エクスカリバーを使いこなせた歓喜。
2:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。
3:グリフィスと合流する。
4:セラス・ヴィクトリア、獅堂光と再戦を果たし、倒す。
&color(red){【音無小夜@BLOOD+ 死亡】}
&color(red){[残り53人]}
*時系列順で読む
Back:[[Standin'by your side!]] Next:[[暴走、そして再会なの!]]
*投下順で読む
Back:[[Standin'by your side!]] Next:[[暴走、そして再会なの!]]
|138:[[ハードボイルド・ハードラック]]|ガッツ|172:[[契約しよう]]|
|139:[[恋のミクル伝説(後編)]]|キャスカ|172:[[契約しよう]]|
|120:[[影日向]]|&color(red){音無小夜}||
*約束された勝利/その結果 ◆TIZOS1Jprc
『朝比奈みくるは無事です。ここには戻りません』
音無小夜はそう書かれた書き置きを、そっとテーブルの上に戻す。
朝比奈みくる――――鶴屋さんはSOS団のメンバーの一人だと言っていた。
彼女の親友であるとも。
「そっか……。無事なんだ……」
この殺し合いの場で、普通の女子高生であるらしい朝比奈みくるが、少なくともこれを書いた時点では、五体満足で居たことは歓迎すべき事だ。
思わずこぼれた安堵の微笑を小夜は引き締める。
彼女には会って謝らねばならない。
鶴屋さんを殺してしまった事を。
その為にも彼女の足取りを追う必要がある。
『彼女はここには戻らないと書いてある……。つまり明確な目的地があったと言うこと?』
彼女も聞いたのだろうか?イーロク駅に残されていた留守電メッセージを。
先ほど訪れた駅で自分が聞いたのと同じ物を。
D-5エリアのホテルに脱出を目指す参加者を集めていると言うことを。
『彼女がこのゲームに乗っていないなら、そこへ向かった可能性は高い。いや、例えそこに居なかったとしても、私はそこに行きたい! 電話の声の主を信じたい!』
元々駅の周りを一通り見て回ったら、まっすぐホテルに向かうつもりだった。
SOS団員の所在の可能性がそこと重なった今、躊躇する理由は何処にもない。
「無事でいて……」
まだ見ぬ朝比奈みくる他SOS団のメンバーの無事を祈りつつ小夜は喫茶店の扉を開いた。
人間ですらない自分でも、願うだけなら許されるはずだから、などと考えながら。
◇ ◇ ◇
「あれが……」
小夜が見上げた先には、周りと比べて一際高いビルディングがそびえ立っていた。
左手に見えるレジャービルの方が少し高いものの、目立つことには変わりない。
小夜は目的地のホテルの数百メートル手前まで来ていた。
「?」
建物に微妙な違和感を覚える。
目を凝らして見ても、外装が剥がれていたり、窓ガラスが割れていたりはしないのだが……。
『何か……危うげで……今にも崩れてしまいそうな』
罠の可能性が頭をかすめたその時、小夜の優れた聴覚が何者かの足音を捉えた。
とっさに物陰に身を潜める。
そっと音がした方を見ると時代錯誤な甲冑を纏った褐色の肌の女が、駆け足でホテルとは逆の方向へ向かっていた。
『まさかホテルで何かが……!』
声を掛けなければ。
女からホテルでの状況を聞かなければ。
だが、先程鶴屋に騙され、不意を突かれて腹を刺された苦い思い出が、僅かに小夜を躊躇させた。
結果的に、その躊躇が小夜に女を観察する時間を与える。
その短い時間の中で小夜は気付いてしまった。
女の持つ剣が、刃こぼれ一つしていないものの、何かの血と油でてかてかと光っていることを。
そして嗅ぎ慣れた匂いが小夜の鼻まで到達する。
瞬間、小夜は物陰から飛び出していた。
まるで弾丸のようなスピードで、一気に女に肉薄する。
「――ッ!」
小夜の接近に気付いた女がとっさに剣を構えるが、連戦による疲労の為一瞬遅れる。
その一瞬の間に、小夜の右拳が女の持つ剣を弾き飛ばしていた。
そのままの勢いで足を引っかけ、一気に女を仰向けに押し倒す。
即座に女が起き上がろうとするが、すでにその首筋にナイフが突き付けられていた。
「く……!」
「答えなさい……貴女はあのホテルで一体何をしていたの」
その女、キャスカは後悔していた。
いましがたまでの戦闘の高揚を引きずったまま、周囲への警戒を忘れていた。
傭兵にとって本陣に戻るまでは決して油断などできないのは常識であるのに。
強くあろうと心に誓ったその直後にもうこんな失態をしてしまった。
つくづく自分を呪い殺したくなる。
「…………」
「答えろ――――ッ!」
目の前の少女は激昂している。
キャスカが少しでも余計な動きを見せたら即座にナイフを突き立てかねない。
駄目だ。
こんなところで諦めてたまるものか。
そんなことではグリフィスに……ガッツに追い付くことなどできはしない。
キャスカは口を開くと、そのまま少女の持つナイフに囓り付いた。
「!」
単純な力の差を比べるならば、キャスカは翼主の女王たる小夜には全く及ばないだろう。
しかし、小夜は躊躇した。
ここで口蓋に刃を押し込めば、間違いなく相手は絶命する。
それに剣が血に塗れているからと言って、目の前の女は正当防衛で斬らざるを得なかったのかも知れないし、たまたま剣を拾った可能性だってある。
その一方、キャスカは自分の命など惜しまなかった。
死ぬことを恐れれば、その恐怖が自分の足を引っ張り、臆病が太刀筋を歪める。
その覚悟の差が、キャスカを窮地から救った。
キャスカはナイフを咥えたまま立ち上がり、即座に飛び退くと黄金の剣を拾い上げた。
一方的な展開が一転、勝負は振り出しに戻る。
「答えなさい、貴女はあそこで何をしたの」
小夜が再び問う。
「知れた事……数人この剣の錆にしてやったまでさ。お前と同じようにッ!」
キャスカが一息で間合いに踏み込み、一閃。素早く、そして確実だ。
とっさにバックステップで避けつつ、小夜はキャスカの技量に驚嘆した。
今まで自分よりも力やスピードで勝る相手と何度も相対してきた。
人数や装備の面で自分達が劣っていた事もしょっちゅうだった。
しかし、これ程までに技能の面で優れた相手と戦う事態はそうはなかった。
ならば自分はパワーと素早さで攻めるしかない。
この時点で、小夜から迷いは消えていた。
この人物を捨て置けば、争う意志のない人まで次々と手に掛けて行くだろう。
『私が……やらなきゃ!』
今度は小夜が先制。
地面を蹴り一気に加速すると、残像を残しながら一瞬でキャスカの背後につく。
キャスカは敵を見失っても狼狽することもなく、今まで戦場で培ってきた勘に従い前方に倒れ込む。
甲冑をナイフの先端がかすめて火花が散った。
後一瞬遅れていたらキャスカの頚椎が真っ二つになっていただろう。
本来、ナイフは刺して攻撃するもの。斬るのには向いていない。
それでもこの斬撃は容易く甲冑を破り、人体を両断し得るだろう(同時にナイフも御釈迦だろうが)。
それほどの勢いだった。ガッツとタメを張れるかもしれない。
『『強い!』』
相対する両者は双方の実力を理解した。
なればこそ、双方とも引く訳には行かない。
一方はこれ以上罪無き犠牲者を増やさない為。
もう一方は崇敬する者に一歩でも近付く為。
それぞれの願いを胸に、両者は同時に踏み出した。
視界から小夜が掻き消える。
キャスカは走りながら必死で敵の気配を手繰った。
相手が自分の間合いに入る、その瞬間を狙って。
『……左!』
そこから袈裟掛けを仕掛けるつもりか。
呆れる程単純で、かつ荒事していることを匂わせる選択。
先程はその人間離れしたスピードに驚いて遅れをとったが、一度手の内を見た後はそうは行かない。
キャスカは小夜の方を振り向かず、エクスカリバーを必勝のタイミングで左方へ振り切り――
剣は、空を切った。
「な……に……」
左脚にナイフが刺さっている。
左側を向くと、エクスカリバーのリーチのギリギリ手前で、小夜がナイフを投げつけた格好のまま後ろに倒れ込んでいた。
信じ難いことに、ナイフは大腿骨を砕き、大腿動脈を掠めている。
正に人間離れした所業だった。
キャスカは左脚の支えを失って倒れ込んだ。
だくだくと血が流れ出していく。
『負けた……のか……』
ゆらり、と幽鬼の様に小夜が立ち上がる。
止めを刺すべきか、捨て置くべきか、助けるべきか、小夜は葛藤しながらショットガンを取り出すために離れた所に置いてある自分のデイバッグに向かった。
『死ぬ……のか?』
死ぬ訳には行かない。自分はまだ、たった一人しか屠っていない。
こんな中途半端な相手に殺されてしまう様では、グリフィスの剣になれはしない。
この程度の傷で諦めていては、ガッツを殺すことなど出来る訳が無い。
まだだ。
まだこの剣がある。剣は、地べたに這いつくばる惨めな自分を見放してはいない。
ならば。
『ならば……必勝の名を冠す黄金の剣よ! 私に今一度力を!』
キャスカは激痛と足が砕ける恐怖に耐え、立ち上がった。
こちらを注意していた小夜は、特に慌てるでもなくショットガンを向ける。
キャスカにはどんな武器かは判らなかったが、それが離れた位置から自分に致命傷を与え得るものであることは理解できた。
小夜との距離は4、5歩程。間合いを詰めるまでにキャスカは攻撃されるだろう。
それでも
『構わない! ここで終わる前に、一太刀でも与えられるなら!』
その瞬間。
閃光が弾けた。
キャスカはその手にある剣の真の名を理解した。
そしてその剣の持つ力の断片が自分と継った事を感じ取った。
『これは――?』
戸惑いは一瞬。
自分が為すべき事も、その結果も手に取るように判った。
それを実行するだけだ。
エクス
「――――約束された」
キャスカの掲げ持つ剣が眩い光を発し始める。
小夜はその脅威を肌で感じ取り、先手を打つべく引き金を引く。
それと同時にキャスカは剣の真名を開放した。
カリバー
「勝利の剣――――!!!」
そして――――
空間が断裂し、全てが閃光に飲み込まれた。
◇ ◇ ◇
市街地の一角。
一直線に3軒程の民家が倒壊していた。
その惨状はまるで局地的に怪獣が行進し炎をまき散らした跡の様だ。
支柱はことごとく焼け落ち、壁面はあらかた崩壊し、原型を留めている物は殆どない。
その惨状の始点、怪獣が空から舞い降りた場所から、キャスカは這いずりながら移動していた。
その足は完全に折れ曲がり、今なお傷口から血が滴り流れ出ている。
それでも、キャスカは笑っていた。
『やった! 私は……力を手に入れた! この剣があれば……グリフィスは私を見てくれる! グリフィスの剣になれる! ガッツの…………』
どこかの民家の影に身を潜めると、そのままキャスカの意識はぷっつりと途絶えた。
◇ ◇ ◇
D-6エリアの中程。
ガッツはやっと山道から開放され市街地に入った。
「やれやれ、怪我を押しての強行軍には慣れっことは言え、キツイのは変わりないぜ」
一人ぼやきながら街中に入り、辺りを見回す。
奇妙な街だった。
木造の壁に瓦を張った屋根の家もあるが、大半の建造物は何か石のような材質で出来ていて、継目が全く無い。
地面もそれと似た材質の何かで舗装されている。
所々に立っている細長い石柱には黒い縄が渡されている。罪人を吊るし上げるのにでも使うのだろうか?
「まさか、ここは幽界(かくりよ)のどっかだって言うつもりじゃねえだろうな」
しかし、先程まで同行していたみさえと沙都子の話を聞く限り、彼女らが居た元の国、ニホンでは自分の知らない様々な設備、文化が根付いているらしい。
今まで出会った自分を含めて三人の内、ニホン出身が二人。
つまりこの場では、自分の方が異邦人と言う訳か。
これがニホン独特の都市景観と言うならば納得できる。
兎に角、先程聞こえた爆発音、木々のせいで反響して厳密な方向は掴めなかったが、まずはそこに向かうことにしよう。
「ん?」
よろよろと、黒髪をショートカットにした少女が西の方からこっちに向かって来た。
怪我人を装った罠かと思い、油断なくバットを構え、周囲を警戒する。
と、ガッツまで10メートル程の所で、少女はばたりと崩れ落ちた。
その衝撃で傷口が開いたせいか、血溜りが広がり始める。
抱え起こすと左半身に酷い火傷と裂傷を負っていた。
再生を始めているようだが追い付いていない。
どう見ても致命傷だった。
「おい、生きているのか? 誰にやられた?」
「……女、褐色の肌で……鎧を着てて、剣を……」
褐色の肌……キャスカの姿が脳裏に浮かんだがすぐに打ち消した。
あいつは今、そんなことが出来る状態じゃない。
「足を怪我してる……私の他に何人も……彼女を……止めて」
「傭兵にタダで物を頼む気か?」
「私の……支給品を……」
死人の持ち物などあの世に持って行ける訳でもない。
交渉材料としてはお笑い種にしかならないが、そんなことを指摘しても面倒になるだけだ。
「判った。で、そいつは今どこに居る」
「…………」
「おい」
その少女、小夜にはもうガッツの声が聞こえていなかった。
彼女の耳にはチェロの音色が聞こえていた。
優しい、ゆるやかな、チェロの独奏が。
小夜は、ゆっくりと瞼を閉じた。
「…………」
ガッツは少女の心拍が止まった事を確認すると、そっとその身を抱え上げた。
野晒しにするのは忍びないので、埋葬するか、ベッドに横たえるかさせてやろう。
名前も知らない、会ったばかりの少女にそこまでする義理なんて無いのにな、と静かに自嘲する。
まあ良い、支給品を貰うついでだ。サービスしてやろう。
「脚を怪我してるんだったな。そいつが遠くに行かねえ内に済ませちまうか」
ふと見上げると、あの仮面の男の姿が再び浮かび上がってきた。
二回目の放送が始まるようだ。
おそらくこの少女の名前も呼ばれるのだろうな、と何とはなしにガッツは思った。
【D-6中央部/1日目/昼(放送直前)】
【ガッツ@ベルセルク】
[状態]:全身打撲(治療、時間経過などにより残存ダメージはやや軽減)
[装備]:バルディッシュ@魔法少女リリカルなのは、悟史のバット@ひぐらしのなく頃に、ボロボロになった黒い鎧
[道具]:スペツナズナイフ×3、銃火器の予備弾セット(各160発ずつ)
首輪、ウィンチェスターM1897(残弾数3/5)
ウィンチェスターM1897の予備弾(30発分)、支給品一式、デイパック2人分
[思考]
1:小夜の死体を手早く処理
2:キャスカを保護する
3:褐色の肌で鎧と剣を装備して脚に怪我をしている女を殺す
4:自分の剣、もしくはそれに近いもの? を持っている奴を探す
5:オレの邪魔する奴はぶっ殺す、ひぐらしメンバーに警戒心
6:首輪の強度を検証する
7:みさえや沙都子の事がやや気にかかる 、しんのすけを見つけたら(余裕があれば)保護し、みさえの事を教える
基本行動方針:グリフィス、及び剣を含む未知の道具の捜索、情報収集
最終行動方針:グリフィスを探し出して殺す
【D-6南西部】
【キャスカ@ベルセルク】
[状態]:気絶、左脚複雑骨折+裂傷、魔力(=体力?)消費甚大
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、ハンティングナイフ(脚に刺さったまま)
[道具]:支給品一式(一食分消費)、カルラの剣@うたわれるもの(持ち運べないので鞄に収納)
[思考・状況]
1:エクスカリバーを使いこなせた歓喜。
2:他の参加者(グリフィス以外)を殺して最後に自害する。
3:グリフィスと合流する。
4:セラス・ヴィクトリア、獅堂光と再戦を果たし、倒す。
&color(red){【音無小夜@BLOOD+ 死亡】}
&color(red){[残り53人]}
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|138:[[ハードボイルド・ハードラック]]|ガッツ|172:[[契約しよう]]|
|139:[[恋のミクル伝説(後編)]]|キャスカ|172:[[契約しよう]]|
|120:[[影日向]]|&color(red){音無小夜}||
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