「「ミステリックサイン」」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「「ミステリックサイン」」(2021/09/29 (水) 21:07:35) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
*「ミステリックサイン」 ◆LXe12sNRSs
突然だが、皆はスーパーマンという存在を知っているだろうか。
そう。あのアメリカンコミックのキャラクターが青い全身タイツを身に纏い、肩にマントをかけて空を飛ぶ、夢のようなスーパーヒーローの話だ。
多少世代の差があるかもしれないが、まぁ俺と同年代くらいの人間なら名前くらい知っている奴は多いだろうと思う。
で、それは置いといて。
連投になるが、皆はゴジラという存在を知っているだろうか。
そう。あの口から放射線を放ち、毎回強敵と激闘を繰り広げては市街を破壊していく、傍迷惑な大怪獣の話だ。
こちらもスーパーマン同様、名前くらいは知れ渡っていることかと思う。
で、だ。
こんな回りくどい言い回しをして、俺はいったい何を言いたいのかというとだな。
いるんだよ、今そこに。
スーパーマンのように空を飛びまわり、ゴジラのように市街を破壊する――人間が。
「――カズマァァァァァ!!!」
「――劉ゥゥ鳳ォォォォォ!!!」
今の絶叫に近い叫び声をお聞きいただけただろうか。
――時は遡ること数分前。
放送を聴き終えた俺とトウカさんは、ギガゾンビが残した意味深なメッセージの詳細を確かめるべく、一番近いE-4エリアを捜索することにした。
身動きのできなくなった馬鹿がいるとのことだが、そいつはいったいどういった経緯でそうなり、現在どんな状況に陥ってるんだろうな。
誰かに拘束されたまま放置されたのか、はたまた睡眠薬を嗅がされ気絶でもしているのか。
もしくはブービートラップにでも引っかかり、脱出不能の窮地に立たされているのかもしれない。
想像は膨らむが、肝心の答えはそのお馬鹿さんを発見しないことには永遠に見えてこないだろう。
――まぁ、ハルヒや長門がそんなヘマを踏むとは、暗がりを好む蝙蝠がお日様の下を元気に飛び回っている光景を目にしたとしても信じられないが。
万が一、という場合もある。トウカさんの仲間であるエルルゥさんやアルルゥさんは、ハクオロさんの死を知って自暴自棄になっている可能性もあるらしいからな。
ま、このE-4で捜し人が見つかるか否かは運に頼るしかないな。
そう暢気に構えていた俺自身を呪うことになったのは、実に三秒後のことである。
聞こえてきたのはバズーカが発射される音だった。いや、バズーカというのは語弊があるな。
まるでアームストロング砲が発射されたかのようだった、とでも言えばその凄まじさが伝わるだろうか。
とにかく、鼓膜を破らんばかりの怒号は俺とトウカさんの脚を止め、すぐにその視線を音源の先へと誘う。
見えたのは一瞬、六階建てはあろうかという巨大なビルが、一瞬の内に吹き飛ぶ様だった。
ああ確か、この光景は前にも見たことがあるな。
そうだ、小学生の頃に震災の恐ろしさを伝えるための学習ビデオかなんかで見た光景に近しいような気がする。
……思い出したくない例を上げれば、ハルヒの創り出した閉鎖空間に出没する《神人》、あの巨人が一薙ぎでビルを倒壊させた時の光景と酷似していた。
もちろん、この突然の災害に驚かないはずもないだろう。
特にトウカさんは、自分たちの世界のものに比べよっぽど堅牢な構造をした建物が一挙に崩れ去る様を見て衝撃を覚えたのか、ポカンとした表情で空を見上げていた。
混乱の中で動けるのは俺一人という状況、俺は降り注ぐ残骸の雨から逃げるべく、トウカさんの手を引いて走った。
そして、逃げながら状況確認をする内に知った。この市街破壊が、たった二人の人間の手によって齎されたことを。
そして、現在にいたる。
周囲のビルや民家を容赦なくぶっ壊しながら戦う二人は、互いの名を呼び合いながら熱く拳を交わす。
厳密に言うと、一人は右手に大そうな篭手をしており、中にロケットブースターでも仕込んでいるのではないだろうか思うほど不条理な突進力を見せ、
もう一人は何やら大蛇の姿をしたロボットを従えて、ロケットパンチを放つよう命令していた。
……これを拳を交わすとは言わないな。言ってしまったら、全国の拳で友情を語り合う皆様方に失礼だ。
まったく、こんなふざけた漫画みたいなバトルを見せられるとは思ってもみなかった。ある意味カマドウマ退治してた古泉以上だなこりゃ。
本人達は相当熱が入っているのか、遠くから戦闘を観戦する俺たちなどアウトオブ眼中。
いや、まぁ気づかれたら気づかれたで困るのだが、実際俺とトウカさんはどうすればいいんだこの状況。
予定通りこのエリアで身動きの取れない参加者を捜す?
まさか。落石注意と書かれた看板の立っている洞窟を、探検と称してレッツゴーする趣味は俺にはない。
かといって止めに入れる状況でもないだろうこれは。
目の前で起こっているのは、規模はともかくとして、殺し合いというより喧嘩に近い印象を受ける。
ならば当人たちに解決してもらうのが一番の安全策であり、男同士の殴り合いに俺たちが関与する隙間はない。
そうと決まれば、即刻退散。はい撤収撤収。
俺とトウカさんは一先ず戦場から非難すべく、脚を進めた。
距離にして、E-4エリアの北端あたりまで移動した頃だろうか。
「キョン殿……なにか、悪臭を感じぬか?」
不意にトウカさんが脚を止め、何やら不吉なことを言ってのけた。
俺は鼻をすんすんと鳴らし、トウカさんの言う悪臭の正体を掴むべく嗅覚をフル活用。
そして嗅ぎつけたのは、よくキッチンなどで奥様が悩まされるというあの臭い。
「なにか……ガス臭い?」
俺が異変を嗅ぎつけた直後のことだった。
急に背後の世界が真紅に染め上がり、発光。
トウカさんの「危ない、キョン殿――ッ!?」という叫びを聞いたかと思えば、俺の意識はそこでぷっつり途絶えることとなった。
◇ ◇ ◇
大抵の人間は、眠ったり気絶したりしている間は大事な人のことを思い出す。
それは友達だったり、家族だったり、恋人だったり。殺し合いなんて緊張状態の続きっ放しな環境に置かれれば、なおさらのことだろう。
じゃあ俺は、そんな状況に陥った時どうするか?
既に死んでしまった朝比奈さんや鶴屋さんを思い出すか、もしくはただ無事を祈るばかりのハルヒや長門、そしておまけとして朝倉のことでも思うか?
いやいや、俺はそんなワンパターンに引かれた思考回路のレールには乗らないぞ。
漫画や小説、映画なんかでよくある。誰か大切な知人のことを思い、明日のために奮起するというシーンは、それ自体が死亡フラグに繋がるのだ。
戦争映画なんかを例に挙げてみよう。敵地へ向かう最中、急に仲間の一人が「俺……この戦争が終わったら結婚するんだ」なんて言って婚約者の写真の一つでも見せびらかしてみろ。
その仲間の末路がどうなるか、もはやお決まりすぎて読者も納得しないことだろう。
だから俺は、そんな安易な物思いにふけたりはしない。じっくり黙って、ただ目覚めるのを待つばかりさ……
と、もし俺が創作上キャラクターだったとしたら、相当捻くれた心構えをしていたことかと思う。
それでも世の中は結果が重要視される時代なのさ。程なくして俺は、薄暗い部屋の中で目を覚ました。
記憶はある。E-4エリアで男二人の戦いから逃走していた途中、不意に巻き起こった爆発により、俺の身体は空の彼方へ吹き飛んだ。
気を失ったのはその際の衝撃が原因だろうが、不思議とダメージは少ない。
全身は軋むように痛いし、擦り切れたらしい皮膚のあちこちが絆創膏を所望しているが、あいにくそんな便利グッズは用意していない。
具体的にどれくらいの規模の爆発が起こったかは分からんが、意識も確かに生き延びてるんだから、素直に幸運だったと喜ぶことにしよう。
あれ、そう言えばトウカさんはどうした?
暗い部屋の中を見渡してみると、確認できるのはソファ、窓、本棚、デスク、俺以外の人影はなし。
窓の外を覗くと、風景が随分と広く見渡せる。どうやらここは、何階建てかのビル内部らしい。
だとしたら、トウカさんは別の階層にいるのか?
俺はズキズキと痛む身体を、五月蝿い静まりなさいと一蹴し、ドアに手を掛けた。
その時、ふと横を見てしまった。そこに何かがいると、予感がしてしまったから。
ドアノブを回しきる前に、横に置いてあったそれを確認してしまった。
思わず、顔が青ざめる。
俺が見つけてしまったもの。それは、あの平賀さんと同じような――このゲームに敗れ去った、死者の亡骸だった。
ガクッと下がるテンションは吐き気こそ誘わなかったものの、俺の膝を床につかせるには十分な威力だった。
見ると、死んでいるのは丁髷をした髭のおっさん。ご職業はなんだと思いますか、と問われたら間違いなく侍ですと答えるだろう、そんな風貌の人だった。
肩口から斜めに袈裟斬り一閃、残された剣筋の軌跡には、かすかに焼け焦げた跡も確認できる。
犯人の正体は、伝説のファイアソードを使う魔法戦士様か何かだろうか。どこのファンタジックRPGだこのやろう。
唐突な出会いを果たした俺は、冷静になって考え直す。
このお侍様がどなたかはともかくとして、なぜ俺と一緒の部屋に寝ていたのか。
おそらくトウカさんが絡んでいることと思うが、この手の予測がハズレないのはある意味お約束だ。
元いた世界でも、何かおかしなことが起こればそれは必ずと言っていいほどハルヒ絡みだった。それと同じ理屈だ。
「申し訳ない、キョン殿! 某としたことが……目覚めた後のキョン殿への配慮も考えず、この御仁の亡骸を放置してしまうとは……不覚!」
やっぱりというかなんというか。
程なくしてビル内の探索から帰ってきたトウカさんにお侍さんのことを尋ねてみると、真っ先に謝られた。もちろん「某としたことが……」付きでだ。
あの爆発の後――爆心地が遠かったためか爆風に飛ばされるだけで済んだ俺とトウカさんだったが、俺は着地の際の打ち所が悪かったらしく、しばらく気絶していたらしい。
それを見て慌てふためいたトウカさんは、俺を担いで避難できるところ探し回ったそうだ。
だが周囲はあの爆発の影響か――大半はあの男二人組みによるものが大きいが――崩壊、もしくは崩壊寸前の建物ばかりで、やっとのこと見つけたのがこの雑居ビル。
トウカさんも相当混乱していたんだろうな。中に敵がいるとは露とも思わず、休めそうな部屋を探して駆け回ったとのことだ。
その道中、廊下に転がっていたこのお侍さんの遺体に躓いて、俺ごと転んだんだとか。
「不幸な事故とはいえ、死者の眠りを妨げてしまったことには詫びを入れたい」
だから、あとでしっかり供養するために部屋に一旦置いておいたそうだ。俺と同室に。
で、目覚めた事情知らずの俺はアンビリーバボー。現在に至るというわけだ。
以上、説明終わり。
「事情はだいたい飲み込めました。でも、俺たちって確かE-4エリアにいたんですよね? 時計を見る限りじゃもうとっくに四時回ってるんですが……ここはどのへんなんですか?」
「某も無我夢中だった故、明確にどこかは断言できぬが……おそらく、E-4より北に位置するD-4のどこかだと思う」
一つ上のエリアというわけか。首輪が爆発していないところから察しても、だいたいその辺りで間違いないな。
結局、ギガゾンビの言う身動きの取れない参加者の正体は分からず仕舞いになったわけか……。
悔しいが、今の時間じゃどうしようもない。それに非常に残念だが、もしその参加者がE-4にいたのだとしたら、あの爆発に巻き込まれてどの道助からなかったことだろう。
「キョン殿はこのままここで休むといい。某はこの御仁を供養せねばならぬので、申し訳ないが……」
「構いませんよ。こんな廃れたビル、一人でいたって誰も襲ってきやしませんって」
「……かたじけない」
擦り傷だらけの俺を気遣い、トウカさんは一人お侍様の遺体を背負って外に出て行った。
……そして、俺は一人になる。
誰もいない空間の中で、傷だらけの身体を嘗め回すように拝見。ボロボロだった。
朝比奈さんや鶴屋さんも、こんな目にあったのだろうか。
死者のことを思えば思うほど、気持ちがセンチメンタルになってくる。案外ナイーブだな、俺も。
身近にトウカさんのようなうっかり者がいたせいもあるのだろうが、少し気を張りすぎていたかもしれん。
ここらで生き抜きが欲しいところだが……癒しなんて求めてみたところで、どうせ無駄な結果に終わるんだろうな。
と、ソファに寝転がりながら、俺は部屋の隅に置かれたある物に目を奪われる。
それは、三つのデイパックだった。俺のでもトウカさんのものでもない、おそらくはあのお侍様のものだろう。
何故三つもあるのかという点については様々な考察ができるが、あのお侍様の死に顔はとても悪人とは思えなかった。だから、深くは考えない。
俺はソファの上でリラックスモードを貫きながら、デイパックの中身を確認。
そしたら出るわ出るわ、地図に食料、時計にコンパス……サバイバルに於ける基本物資の数々が、どのデイパックにも手付かずの状態で保管されていた。
だが、目ぼしい道具や武器なんかはどこにもない。
誰かが持ち去ったと考えるのが妥当だろうが、食料まで手付かずということは、その人物は生存よりも殺害優先の思考を持っている可能性が高い。
しかしたった一つ、殺し合いには不要と判断されたのか、ブラックカラーの怪しげなノートパソコンが発掘された。
見たこともない機種だな……と俺は訝しげな視線を送りつつ、電源を入れて本体機動。
すぐに浮かび上がってきたのは、ギガゾンビと謎の土偶集団による趣味の悪いデスクトップ画像だった。
自主制作だろうか……? などと心底どうでもいい疑問を抱いた後、俺はインターネットのブラウザを機動させた。
最初に映し出されたスタートページもこれまた趣味が悪い。
『ギガゾンビ様のホームページへようこそ!』と書かれた歓迎文に出来る限りのしかめっ面を浴びせ、俺は適当にページをスクロールさせる。
ホームページに書かれたていたのは、この殺し合いの基本的なルール、詳細なマップ説明、そして随時更新されるらしい現死亡者と禁止エリアの位置。
データベースとしてはこの上なく親切な作りになっていたが、やっている内容が内容なだけに、とても褒められたものじゃない。
とりあえず俺はダーッと文面を流し読みにし、有益な情報がないかチェックするが……成果はなし。
死亡者状況も放送ごとの区切りで更新されているらしく、第一、第二放送で呼ばれた名前以外はリストに挙がっていない。
まあ、万が一放送を聞き逃した場合には使える機能だな。
しかしこのホームページの更新をギガゾンビがやっていると考えると、激しく笑えるのだが。
ギガゾンビのホームページを読み終えた俺は、一つ気になることがあって画面上部のお気に入りアイコンをクリックする。
このパソコン、ネット回線は問題なく繋がっているらしいが、それは果たして他の著名ホームページに対してもいえたことなのだろうか。
早い話が、外部との連絡が取れるかどうか確かめたかったのだ。で、結果だが。
俺が開いたページは、我等が本部『SOS団』の公式ホームページだ。
あのハルヒがデザインした奇妙なロゴマークは健在に輝いており、眩しく俺の瞳を照らす。
……どういうことだ? 問題なく開けてしまったぞ。
ん? いやちょっと待て。
その前に、どうしてSOS団のホームページなんかがこの見知らぬパソコンのお気に入りなんかにブックマークされてるんだ?
このパソコンはSOS団はおろか、お隣のコンピ研のものでもないし、そもそも日本じゃこんな型のパソコンはなさそうだ。だってメーカーのロゴマークがどこにもない。
誰かがお気に入りに登録した?――だとすれば、それは必然的にSOS団のホームページアドレスを知っているハルヒたちの仕業だと考えられる。
だがおかしなことに、履歴を調べてみても俺以外の人間がネットを開いた痕跡は見当たらなかった。
それ加え、俺が知り得る限りのアドレスを入力して他のホームページを片っ端からチェックしてみるが、まったく開くことが出来ない。
結論から言って、まともに開くことが出来たのはギガゾンビのホームページとSOS団のホームページのみだ。
どうしてSOS団のホームページだけが……?
俺は頭を捻り、やがてある事件のことを思い出した。
そう、突如としてコンピ研の部長が消失し、古泉や長門がカマドウマを退治することで解決したあの傍迷惑な事件の話だ。
あのとき異空間に現れたカマドウマの正体は大昔の情報生命体で、ハルヒが作成したロゴマークが原因で蘇ったとのことだったが……ひょっとしたら、あの時のような不思議ハルヒパワーが作用していたりするのか?
見た目では、SOS団のロゴマークに変化は見当たらない。長門辺りが調べれば何か分かりそうな気はするが、素人目ではおかしな点は見つからなかった。
このままトップページを眺めているだけというのも不毛だろう。
俺は試しに、SOS団のメールフォーム宛てにSOSメールを送ってみることにした。
どこかでギガゾンビなる人物に殺し合いをやらされているという現状、朝比奈さんや鶴屋さんが死亡したという事実、その他諸々の記せるだけの情報を詰め込めんだ、救助要請の電信である。
運がよければ古泉あたりが拾ってくれることだろう。
ハルヒにもピンチが迫っていると知れば、『機関』の連中や長門たちの親玉である『情報統合思念体』、『未来人』も動くかもしれん。
かなりの望み薄だが、送れるというのなら送っとけ。
やるべきことをやり終えて、俺がSOS団ホームページからジャンプしようとしたその時だ。
ソファに寝転がりながらという無理な体勢が災いしたのか、俺はうっかり手を滑らせてあらぬ箇所をクリックしてしまう。
それは、SOS団ロゴマークのちょうど中央、『O』マークの穴の部分。
うっかりが呼んだ幸運とでも言おうか。そこは未知の領域への入り口だったらしく、画面は別のページへとジャンプする。
『ツチダマ掲示板へようこそ! ここは、ギガゾンビ様の前では言えない不満や愚痴、バトルロワイアルの進行状況などを極秘裏に扱う秘密の掲示板です』
……SOS団トップページから移動したのは、ツチダマとかいうギガゾンビの手下共が運営する、主人には秘密のいけない掲示板だった。
あらかじめ断っておくが、もちろんSOS団のホームページにこんな掲示板は存在しない。
更新などほぼ無意味、人が訪れることさえ稀なホームページなのだ。掲示板を置くなど、時期尚早もいいとこだろう。
ま、百聞は一見にしかずだ。俺はそのページをスクロールさせ、掲示板を覗いて見る。
728:ツチダマな名無しさん :16:37:05
いや~まさか朝比奈みくるがあんなに早く脱落するとは思わなかったギガ~
729:ツチダマな名無しさん :16:52:43
>728
みくるちゃんの脱落は仕方がないギガ~。ドジっ娘メイドさんに殺し合いなんて所詮無理な話なんだギガ~
730:ツチダマな名無しさん :17:00:01
そんなことよりあのアオダヌキがとことんまで役に立ってないギガ~(笑)
731:ツチダマな名無しさん :17:03:57
今極秘に掴んだ情報によると、どうやらE-4のエリアで爆発が起こったみたいギガ~。誰が死んだかお楽しみギガ~
732:ツチダマな名無しさん :17:05:35
>731
マジ!?
これは次の放送に送られてくる監視映像から目が放せないギガ~
……あろうことか、この掲示板の住人連中は朝比奈さんの死亡話他について熱く語り合っていやがった。
しかしなんだ、この某巨大掲示板みたいな作りは。ギガゾンビには極秘というが、カモフラージュのためにSOS団のホームページを使うとは、ハルヒに知れたらお前らただじゃすまないぞ。
とりあえず、このふざけた掲示板を観察して気づいたことが数点ある。
まず一つ。この掲示板は、ギガゾンビの手下であるツチダマという存在(トップページに映っていたあの土偶か?)が秘密裏に立てたものだ。
それがどういうわけか支給品のノートパソコンにブックマークされている。もしかしたら、主催側でなんらかの不手際があったのかもしれない。
それにしても、ご主人様に隠れてこんなストレス発散の娯楽をしているとは。ツチダマという奴等も、相当ギガゾンビにコキ使われているようだ。
奴に対する不満を述べた書き込みも、結構な数をいっている。
次にもう一つ。どうやら、このゲームの内容はギガゾンビたちに監視されているらしい。
だがそれも全員がリアルタイムで把握しているようではなく、少なくともこの掲示板に書き込みをしているツチダマたちは、放送までその全貌が分からないようだ。
おそらく、放送ごとに数体のツチダマが交代し、ビデオカメラか何かで監視を行っている……監視中は掲示板を覗く暇もない、といったところだろうか。
他にも、「○○○がここで死んだのが意外だった」とか、「○○○は絶対最後まで生き残ると思ってたのに」だとか、「ギガゾンビの足は臭い」だとか、
どうにも抽象的な内容ばかりで、具体的にどこでどんな出来事が起こったかはほとんど書き込まれていなかった。
以下、俺が約700レスを読み返して得た情報の数々である。
・『朝比奈みくる』は『キャスカ』という参加者に殺された。
・『朝倉涼子』が『平賀才人』と『ハクオロ』の二人を殺した。
・『朝倉涼子』が『アーカード』に追い詰められたところで第一~第二放送分が終了した。
・『野比のび太』が幾度となくピンチに陥っているがなかなか死なない。
・『アオダヌキ』と呼称された参加者がやたらと罵倒されている。
大半はギガゾンビへの不満がほとんどで、ゲームの推移についての書き込みは、全体を見るに『野比のび太』と『アオダヌキ』と呼ばれる二人に関することが多い。
話題に上らない参加者も多く、僅かな書き込みの中で判明したことは朝比奈さんを殺害した犯人の名前、そして――朝倉涼子について。
第一放送後の時刻、『朝倉涼子が平賀才人とハクオロの二人を瞬殺して見せたのには驚きだったギガ~』という書き込みが確認できた。
そして第二放送後の時刻、『朝倉涼子がアーカードに追い詰められ絶体絶命ギガ~。続きは第三放送後までお預けなんてあんまりギガ~』という書き込みを確認。
しかし、まさかトウカさんの主であるハクオロ皇があの朝倉に殺されていただなんて……。
しかもその朝倉は、ロックさんが危険だと忠告してくれたアーカードなる吸血鬼に襲われている最中――時間的にもう決着は着いただろうか――らしい。
もちろん、この掲示板自体が俺たちを騙すためのブラフであるという可能性もある。
だが、ここに書かれている内容はどれも妙に真実味があった。
ツチダマとかいう奴等に愛着を持ったわけではないが、なんとなくこいつらはとてつもなく苦労している……そんな漠然とした予感がしたのだ。
俺はこの掲示板の真意を確かめるべく、ある一つの妙案を思いついた。
どうやらこのツチダマ掲示板は、誰でも匿名で参加できる――といってもツチダマだけだろうが――自由な掲示板らしい。
ならば、当然俺にも書き込む権利はあるはずだ。
作戦は簡単。こちらからさり気なく確かめやすい話題を振り、返って来た反応を見てこいつらの言っていることが嘘か本当か見極める。
ようは陽動作戦だ。相手が乗ってくれば俺の勝ち。乗ってこなければ俺の負け。
口での駆け引きならハルヒや古泉の得意分野だが、顔を出さない掲示板でなら俺にも勝機はある。
そう思い、キーボードに指をかけようとしたその時だ。
掲示板に、新規の書き込みが表示された。
732:ツチダマな名無しさん :17:11:29
話は古くなるけど、キョンとかいうヤツが自分の顔を自分でガンガン殴っている光景はいつ見ても笑えるギガ~
……俺自ら書き込みをする必要はなくなった。
こいつら完全に遊んでやがる。ギガゾンビとはまた違った意味でムカつく奴等だった。
こんな奴等に付き合って無駄にパソコンのバッテリーを消費するのも馬鹿らしい。
俺はSOS団ホームページへと帰還し、さらにスタート地点だったギガゾンビのホームページへと舞い戻る。
何か見落としはないだろうか……と最後の確認をしていると、画面の左端辺りに小さく刻まれた興味深い文字を見つけた。
『管理者専用ページへジャンプ』
そう書かれたアイコンはどうやら別のページへと続いているらしく、俺は迷わずそこをクリックする。
するとどうだろう。現れたのは、細長い枠線とその上部に記されたメッセージ。
なになに……『パスワードを入力してください』。
なるほど。さすがに管理者専用ページと銘打つだけあって、そう簡単には通してくれないってことか。
だがパスワードなどと言われても俺には思い当たる節が何一つなく、適当な文字を入力してみようとも思ったが、もし何か変なことが起きたら嫌なのでやめておいた。
パスワードねぇ……閉鎖空間から脱出する時だったら『白雪姫』というワードが鍵になったが、ここでもハルヒにあんなことをしろいうのなら、俺はギガゾンビに断固抗議を申し立てるつもりだ。
何かヒントはないか、とパソコン内のデータを隈なく探してみるが、有益な情報は何も発見できない。
それどころかムカつくことに、見つかったファイルの数々には『ギガゾンビが教える簡単な人の殺し方』やら『相手に腹の内を読ませない極意』やら『ステルスマーダーの見分け方』などといったタイトルの殺し合い指南書が多く含まれていた。
もちろん俺は、ありがたーい主催者様のご好意を受け取ってこんな馬鹿げた指南書のお世話になるつもりは一切ない。
パソコン内をあらかた調べ終え、時刻は既に第三放送の30分前まで迫っていた。
時が経つというのは早いものだ。窓の外の風景は夕闇を帯びてきており、再び夜へと移行しようとしている。
思えば、今日一日だけで実に十年分くらいの人生経験を積んだような気がする。
朝倉以外の女性に刃物向けられて襲われたのも初めてだし、親しい先輩方の死に憤慨したのも初。
こうやって出口の見えない迷路を彷徨うのは……ま、初めてではないかな。
それにしたってこんな経験、なかなかできるものじゃない。
この壮大なゲームを乗り越えた先には、きっと一回りも二回りも成長したNEWキョンが新生していることだろう。
……そんなもん、クソくらえだ。俺はやっぱり、いつまでも平凡でいたい。
たまに非日常な事件が起こったとしても、長門がいる、古泉がいる、朝比奈さんがいる、どうせハルヒ絡みなんだろ、と心の中で安心していたいわけだ。
そのためにもギガゾンビ、お前のたくらみは絶対阻止してやる。
俺一人じゃどうにもならないかもしれないが、ここにはトウカさんやロックさんという頼もしい仲間がいる。
長門というなんでもありの産物も忘れちゃいけない。そしてなにより、一部では神様的扱いまでされているハルヒがいるんだ。
今度会ったら面と向かって言ってやろう――子分共に陰口叩かれているような小者臭漂う独裁者なんかに、大事は無理なんだよ――ってな。
さて、そろそろトウカさんも戻ってくる頃だろう。パソコン遊びもこの辺にするか。
そう思い、電源を落とそうとした。が、最後のクリックを済ませようとした俺の右人差し指は思わぬところで停止した。
見落としていた――? そもそもさっきこんなのあったか――?
灯台下暗しだろうか。いや、この際理由なんてどうでもいい。
とにかく俺は迂闊なことに、ある重大な見落としをしていたことに気づいたのだ。
パソコン画面の右下隅に注目。バックの画像だけでガランとしたデスクトップに唯一、アイコンが記されていたのだ。
俗に言うトラッシュボックス――つまり『ゴミ箱』だ。俺はまだ、ここをチェックしていなかった。
素早い動作でダブルクリックを行い、ゴミ箱の中を開く。
開かれた中には、一件のテキストファイルが残されていた。
それも開き、文面を確認する。
『射手座の日を越えていけ』
――記されていたのは、たったそれだけ。
まるで長門が残したかのような、簡素な一言だった。
射手座の日……そんな祝日あっただろうか?
星座でいうところの射手座といえば、確か11月23日から12月21日を指していたはずだ。
その間に何かあるのか? というよりも、この世界の日付設定はいったい何月何日になっているんだろうな。
不親切なことにパソコンにカレンダー機能は搭載されておらず、時刻くらいの情報しか与えてはくれない。
まさかこれが管理者ページのパスワードになっているだなんていうご都合展開は……ないだろうな。
考えるなら、パスワードを得るためのヒント。それが妥当だろう。
しかしなんだってこんなものがゴミ箱に放置されているんだ。
単なる削除のし忘れだとしたら、これも主催側の不手際だろうか。
いや、もしかしたら罠という可能性だってある。むしろそっち可能性の方が高いだろう。
だが、不思議と信頼感を得てしまうのは俺が浅はかなだけだろうか。
もしかしたら、これは誰かが遠まわしによこしてくれたメッセージなのでは……そんな気がするのだ。
夢見る少女じゃあるまいし、希望的観測もいいところだ。とは思う。
思うんだが……望みを感じてしまうんだからしょうがないじゃないか。
俺は蓄積された情報の山を脳内で整理しつつ、今度こそパソコンの電源を落とした。
ツチダマ掲示板から窺える他参加者の状況、管理者ページへ繋げるためのパスワード、そして謎のキーワード『射手座の日』。
このノートパソコンは偶然とうっかりが招いた副産物だが、思いがけないキーアイテムになりそうだった。
ただ、俺ではこれを活かしきれないというのが手厳しい。
長門辺りならハッキングの一つでもして管理者ページに無理矢理侵入することもできそうだが……当面は『射手座の日』について頭を悩ませる必要がありそうだ。
「遅れてすまないキョン殿。大事がなかったようでなにより」
直にトウカさんも戻り、俺たちが次の放送までにやれることはもうなくなった。
パソコンについてだが、トウカさんにはあえて喋っていない。
言ってみたところで「ぱーそなるこんぴゅーたー……というのはいったい?」と返されるのは目に見えているし、使い方を伝授しようにも軽く一年くらいは費やしそうだ。
それにこれは俺の勝手なイメージだが、トウカさんは機械の類が物凄く苦手そうに見える。
うっかり水を零してパソコンがおじゃんになってしまったら目も当てられない。もちろんその時は「某としたことが――!」のセリフ付きだ。いや、まったく失礼なことだが。
ハクオロさんについては……そうだな。次の放送で朝倉の名前が呼ばれたら教えることにしよう。
ひょっとしたら朝倉もアーカードとかいう奴に殺されているかもしれんし、先走ってトウカさんが仇討ちにでも向かったら大変だしな。
しかし……朝倉関係含め、この世界は本当にとんでもない創りをしているのだと改めて思い知らされる。
もはや長門一人でもどうにもならんだろうな……これはいよいよ、『射手座の日』の謎を解明する必要があるか。
俺とトウカさんは窓の外から夕闇を眺め、直に映り出されるであろうクソ主催者様の立体映像を待った。
今度はいったい、誰の名前が呼ばれるんだろうな。
【D-4・雑居ビル/1日日/夕方】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:全身各所に擦り傷、ギガゾンビと殺人者に怒り、強い決意
[装備]:バールのようなもの、わすれろ草@ドラえもん、ころばし屋&円硬貨数枚
[道具]:支給品一式×4(食料一食分消費)、キートンの大学の名刺、ロープ、ノートパソコン
[思考・状況]
基本:殺し合いをする気はない、絶対に皆で帰る
1:ビル内に留まり放送を聴く。
2:『射手座の日』に関する情報収集。
3:トウカと共にトウカ、君島、しんのすけの知り合い及び、ハルヒ達を捜索する。
4:朝倉涼子とアーカードを警戒する。
5:あれ? そういえばカズマってどこかで聞いたような……
[備考]
※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は以下の通りです。
・『朝比奈みくる』は『キャスカ』という参加者に殺された。
・『朝倉涼子』が『平賀才人』と『ハクオロ』の二人を殺した。
・『朝倉涼子』が『アーカード』に追い詰められたところで第一~第二放送分が終了した。
・『野比のび太』が幾度となくピンチに陥っているがなかなか死なない。
・『アオダヌキ』と呼称された参加者がやたらと罵倒されている。
・SOS団のメールフォームにSOSメールを送りましたが、本人はあまり期待していません。
・『射手座の日を越えていけ』は、管理者ページへ入るためのパスワードを入手するヒントと考えている。
・主催者側による監視が行われている(方法は不明)。
※ギガゾンビのホームページ、SOS団ホームページ、ツチダマ掲示板について
・ギガゾンビのホームページに記載された死亡者状況、禁止エリア状況は、放送ごとに随時更新されます。
・SOS団ホームページには問題なくアクセスでき、メールを送ることも可能です。
・その他、キョンが知り得るホームページには繋がりませんでしたが、例外がSOS団ホームページだけとは限りません。
・ツチダマたちは前回と前々回の放送間、もしくはそれ以前の話題しか書き込みません。
・掲示板の内容はギガゾンビへの愚痴がほとんど。基本的にバトルロワイアルの進行状況に対する具体的な書き込みは少ないです。
・ドラえもん(アオダヌキと呼称)関係の書き込みが多いようです。
・『射手座の日を越えていけ』の『射手座の日』とは、現段階でドラえもんが所持している『"THE DAY OF SAGITTARIUS III"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱』のことを指しています。
キョンはコンピ研と対決した際のゲームタイトルなど忘れているため、この正解にはたどり着いていません。
【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:左手に切り傷、全身各所に擦り傷
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式(食料一食分消費)、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況]
基本:無用な殺生はしない
1:ビル内に留まり放送を聴く。
2:キョンと共にキョン、君島、しんのすけの知り合い及びエルルゥ達を捜索する
3:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す
4:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す
※二人とも食事を取りました。
※井尻又兵衛由俊の遺体は埋葬されました。
*時系列順で読む
Back:[[THE TOWER~"塔"]] Next:[[響け終焉の笛]]
*投下順で読む
Back:[[Wind ~a breath of cure~]] Next:[[白地図に赤を入れ]]
|168:[[失われたもの、守るべきもの]]|キョン|188:[[がんばれジャイアン!]]|
|168:[[失われたもの、守るべきもの]]|トウカ|188:[[がんばれジャイアン!]]|
*「ミステリックサイン」 ◆LXe12sNRSs
突然だが、皆はスーパーマンという存在を知っているだろうか。
そう。あのアメリカンコミックのキャラクターが青い全身タイツを身に纏い、肩にマントをかけて空を飛ぶ、夢のようなスーパーヒーローの話だ。
多少世代の差があるかもしれないが、まぁ俺と同年代くらいの人間なら名前くらい知っている奴は多いだろうと思う。
で、それは置いといて。
連投になるが、皆はゴジラという存在を知っているだろうか。
そう。あの口から放射線を放ち、毎回強敵と激闘を繰り広げては市街を破壊していく、傍迷惑な大怪獣の話だ。
こちらもスーパーマン同様、名前くらいは知れ渡っていることかと思う。
で、だ。
こんな回りくどい言い回しをして、俺はいったい何を言いたいのかというとだな。
いるんだよ、今そこに。
スーパーマンのように空を飛びまわり、ゴジラのように市街を破壊する――人間が。
「――カズマァァァァァ!!!」
「――劉ゥゥ鳳ォォォォォ!!!」
今の絶叫に近い叫び声をお聞きいただけただろうか。
――時は遡ること数分前。
放送を聴き終えた俺とトウカさんは、ギガゾンビが残した意味深なメッセージの詳細を確かめるべく、一番近いE-4エリアを捜索することにした。
身動きのできなくなった馬鹿がいるとのことだが、そいつはいったいどういった経緯でそうなり、現在どんな状況に陥ってるんだろうな。
誰かに拘束されたまま放置されたのか、はたまた睡眠薬を嗅がされ気絶でもしているのか。
もしくはブービートラップにでも引っかかり、脱出不能の窮地に立たされているのかもしれない。
想像は膨らむが、肝心の答えはそのお馬鹿さんを発見しないことには永遠に見えてこないだろう。
――まぁ、ハルヒや長門がそんなヘマを踏むとは、暗がりを好む蝙蝠がお日様の下を元気に飛び回っている光景を目にしたとしても信じられないが。
万が一、という場合もある。トウカさんの仲間であるエルルゥさんやアルルゥさんは、ハクオロさんの死を知って自暴自棄になっている可能性もあるらしいからな。
ま、このE-4で捜し人が見つかるか否かは運に頼るしかないな。
そう暢気に構えていた俺自身を呪うことになったのは、実に三秒後のことである。
聞こえてきたのはバズーカが発射される音だった。いや、バズーカというのは語弊があるな。
まるでアームストロング砲が発射されたかのようだった、とでも言えばその凄まじさが伝わるだろうか。
とにかく、鼓膜を破らんばかりの怒号は俺とトウカさんの脚を止め、すぐにその視線を音源の先へと誘う。
見えたのは一瞬、六階建てはあろうかという巨大なビルが、一瞬の内に吹き飛ぶ様だった。
ああ確か、この光景は前にも見たことがあるな。
そうだ、小学生の頃に震災の恐ろしさを伝えるための学習ビデオかなんかで見た光景に近しいような気がする。
……思い出したくない例を挙げれば、ハルヒの創り出した閉鎖空間に出没する《神人》、あの巨人が一薙ぎでビルを倒壊させた時の光景と酷似していた。
もちろん、この突然の災害に驚かないはずもないだろう。
特にトウカさんは、自分たちの世界のものに比べよっぽど堅牢な構造をした建物が一挙に崩れ去る様を見て衝撃を覚えたのか、ポカンとした表情で空を見上げていた。
混乱の中で動けるのは俺一人という状況、俺は降り注ぐ残骸の雨から逃げるべく、トウカさんの手を引いて走った。
そして、逃げながら状況確認をする内に知った。この市街破壊が、たった二人の人間の手によって齎されたことを。
そして、現在にいたる。
周囲のビルや民家を容赦なくぶっ壊しながら戦う二人は、互いの名を呼び合いながら熱く拳を交わす。
厳密に言うと、一人は右手に大層な篭手をしており、中にロケットブースターでも仕込んでいるのではないだろうか思うほど不条理な突進力を見せ、
もう一人は何やら大蛇の姿をしたロボットを従えて、ロケットパンチを放つよう命令していた。
……これを拳を交わすとは言わないな。言ってしまったら、全国の拳で友情を語り合う皆様方に失礼だ。
まったく、こんなふざけた漫画みたいなバトルを見せられるとは思ってもみなかった。ある意味カマドウマ退治してた古泉以上だなこりゃ。
本人達は相当熱が入っているのか、遠くから戦闘を観戦する俺たちなどアウトオブ眼中。
いや、まぁ気づかれたら気づかれたで困るのだが、実際俺とトウカさんはどうすればいいんだこの状況。
予定通りこのエリアで身動きの取れない参加者を捜す?
まさか。落石注意と書かれた看板の立っている洞窟を、探検と称してレッツゴーする趣味は俺にはない。
かといって止めに入れる状況でもないだろうこれは。
目の前で起こっているのは、規模はともかくとして、殺し合いというより喧嘩に近い印象を受ける。
ならば当人たちに解決してもらうのが一番の安全策であり、男同士の殴り合いに俺たちが関与する隙間はない。
そうと決まれば、即刻退散。はい撤収撤収。
俺とトウカさんは一先ず戦場から避難すべく、脚を進めた。
距離にして、E-4エリアの北端あたりまで移動した頃だろうか。
「キョン殿……なにか、悪臭を感じぬか?」
不意にトウカさんが脚を止め、何やら不吉なことを言ってのけた。
俺は鼻をすんすんと鳴らし、トウカさんの言う悪臭の正体を掴むべく嗅覚をフル活用。
そして嗅ぎつけたのは、よくキッチンなどで奥様が悩まされるというあの臭い。
「なにか……ガス臭い?」
俺が異変を嗅ぎつけた直後のことだった。
急に背後の世界が真紅に染め上がり、発光。
トウカさんの「危ない、キョン殿――ッ!?」という叫びを聞いたかと思えば、俺の意識はそこでぷっつり途絶えることとなった。
◇ ◇ ◇
大抵の人間は、眠ったり気絶したりしている間は大事な人のことを思い出す。
それは友達だったり、家族だったり、恋人だったり。殺し合いなんて緊張状態の続きっ放しな環境に置かれれば、なおさらのことだろう。
じゃあ俺は、そんな状況に陥った時どうするか?
既に死んでしまった朝比奈さんや鶴屋さんを思い出すか、もしくはただ無事を祈るばかりのハルヒや長門、そしておまけとして朝倉のことでも思うか?
いやいや、俺はそんなワンパターンに引かれた思考回路のレールには乗らないぞ。
漫画や小説、映画なんかでよくある。誰か大切な知人のことを思い、明日のために奮起するというシーンは、それ自体が死亡フラグに繋がるのだ。
戦争映画なんかを例に挙げてみよう。敵地へ向かう最中、急に仲間の一人が「俺……この戦争が終わったら結婚するんだ」なんて言って婚約者の写真の一つでも見せびらかしてみろ。
その仲間の末路がどうなるか、もはやお決まりすぎて読者も納得しないことだろう。
だから俺は、そんな安易な物思いにふけたりはしない。じっくり黙って、ただ目覚めるのを待つばかりさ……
と、もし俺が創作上キャラクターだったとしたら、相当捻くれた心構えをしていたことかと思う。
それでも世の中は結果が重要視される時代なのさ。程なくして俺は、薄暗い部屋の中で目を覚ました。
記憶はある。E-4エリアで男二人の戦いから逃走していた途中、不意に巻き起こった爆発により、俺の身体は空の彼方へ吹き飛んだ。
気を失ったのはその際の衝撃が原因だろうが、不思議とダメージは少ない。
全身は軋むように痛いし、擦り切れたらしい皮膚のあちこちが絆創膏を所望しているが、あいにくそんな便利グッズは用意していない。
具体的にどれくらいの規模の爆発が起こったかは分からんが、意識も確かに生き延びてるんだから、素直に幸運だったと喜ぶことにしよう。
あれ、そう言えばトウカさんはどうした?
暗い部屋の中を見渡してみると、確認できるのはソファ、窓、本棚、デスク、俺以外の人影はなし。
窓の外を覗くと、風景が随分と広く見渡せる。どうやらここは、何階建てかのビル内部らしい。
だとしたら、トウカさんは別の階層にいるのか?
俺はズキズキと痛む身体を、五月蝿い静まりなさいと一蹴し、ドアに手を掛けた。
その時、ふと横を見てしまった。そこに何かがいると、予感がしてしまったから。
ドアノブを回しきる前に、横に置いてあったそれを確認してしまった。
思わず、顔が青ざめる。
俺が見つけてしまったもの。それは、あの平賀さんと同じような――このゲームに敗れ去った、死者の亡骸だった。
ガクッと下がるテンションは吐き気こそ誘わなかったものの、俺の膝を床につかせるには十分な威力だった。
見ると、死んでいるのは丁髷をした髭のおっさん。ご職業はなんだと思いますか、と問われたら間違いなく侍ですと答えるだろう、そんな風貌の人だった。
肩口から斜めに袈裟斬り一閃、残された剣筋の軌跡には、かすかに焼け焦げた跡も確認できる。
犯人の正体は、伝説のファイアソードを使う魔法戦士様か何かだろうか。どこのファンタジックRPGだこのやろう。
唐突な出会いを果たした俺は、冷静になって考え直す。
このお侍様がどなたかはともかくとして、なぜ俺と一緒の部屋に寝ていたのか。
おそらくトウカさんが絡んでいることと思うが、この手の予測がハズレないのはある意味お約束だ。
元いた世界でも、何かおかしなことが起こればそれは必ずと言っていいほどハルヒ絡みだった。それと同じ理屈だ。
「申し訳ない、キョン殿! 某としたことが……目覚めた後のキョン殿への配慮も考えず、この御仁の亡骸を放置してしまうとは……不覚!」
やっぱりというかなんというか。
程なくしてビル内の探索から帰ってきたトウカさんにお侍さんのことを尋ねてみると、真っ先に謝られた。もちろん「某としたことが……」付きでだ。
あの爆発の後――爆心地が遠かったためか爆風に飛ばされるだけで済んだ俺とトウカさんだったが、俺は着地の際の打ち所が悪かったらしく、しばらく気絶していたらしい。
それを見て慌てふためいたトウカさんは、俺を担いで避難できるところ探し回ったそうだ。
だが周囲はあの爆発の影響か――大半はあの男二人組みによるものが大きいが――崩壊、もしくは崩壊寸前の建物ばかりで、やっとのこと見つけたのがこの雑居ビル。
トウカさんも相当混乱していたんだろうな。中に敵がいるとは露とも思わず、休めそうな部屋を探して駆け回ったとのことだ。
その道中、廊下に転がっていたこのお侍さんの遺体に躓いて、俺ごと転んだんだとか。
「不幸な事故とはいえ、死者の眠りを妨げてしまったことには詫びを入れたい」
だから、あとでしっかり供養するために部屋に一旦置いておいたそうだ。俺と同室に。
で、目覚めた事情知らずの俺はアンビリーバボー。現在に至るというわけだ。
以上、説明終わり。
「事情はだいたい飲み込めました。でも、俺たちって確かE-4エリアにいたんですよね? 時計を見る限りじゃもうとっくに四時回ってるんですが……ここはどのへんなんですか?」
「某も無我夢中だった故、明確にどこかは断言できぬが……おそらく、E-4より北に位置するD-4のどこかだと思う」
一つ上のエリアというわけか。首輪が爆発していないところから察しても、だいたいその辺りで間違いないな。
結局、ギガゾンビの言う身動きの取れない参加者の正体は分からず仕舞いになったわけか……。
悔しいが、今の時間じゃどうしようもない。それに非常に残念だが、もしその参加者がE-4にいたのだとしたら、あの爆発に巻き込まれてどの道助からなかったことだろう。
「キョン殿はこのままここで休むといい。某はこの御仁を供養せねばならぬので、申し訳ないが……」
「構いませんよ。こんな廃れたビル、一人でいたって誰も襲ってきやしませんって」
「……かたじけない」
擦り傷だらけの俺を気遣い、トウカさんは一人お侍様の遺体を背負って外に出て行った。
……そして、俺は一人になる。
誰もいない空間の中で、傷だらけの身体を舐め回すように拝見。ボロボロだった。
朝比奈さんや鶴屋さんも、こんな目にあったのだろうか。
死者のことを思えば思うほど、気持ちがセンチメンタルになってくる。案外ナイーブだな、俺も。
身近にトウカさんのようなうっかり者がいたせいもあるのだろうが、少し気を張りすぎていたかもしれん。
ここらで生き抜きが欲しいところだが……癒しなんて求めてみたところで、どうせ無駄な結果に終わるんだろうな。
と、ソファに寝転がりながら、俺は部屋の隅に置かれたある物に目を奪われる。
それは、三つのデイパックだった。俺のでもトウカさんのものでもない、おそらくはあのお侍様のものだろう。
何故三つもあるのかという点については様々な考察ができるが、あのお侍様の死に顔はとても悪人とは思えなかった。だから、深くは考えない。
俺はソファの上でリラックスモードを貫きながら、デイパックの中身を確認。
そしたら出るわ出るわ、地図に食料、時計にコンパス……サバイバルに於ける基本物資の数々が、どのデイパックにも手付かずの状態で保管されていた。
だが、目ぼしい道具や武器なんかはどこにもない。
誰かが持ち去ったと考えるのが妥当だろうが、食料まで手付かずということは、その人物は生存よりも殺害優先の思考を持っている可能性が高い。
しかしたった一つ、殺し合いには不要と判断されたのか、ブラックカラーの怪しげなノートパソコンが発掘された。
見たこともない機種だな……と俺は訝しげな視線を送りつつ、電源を入れて本体機動。
すぐに浮かび上がってきたのは、ギガゾンビと謎の土偶集団による趣味の悪いデスクトップ画像だった。
自主制作だろうか……? などと心底どうでもいい疑問を抱いた後、俺はインターネットのブラウザを機動させた。
最初に映し出されたスタートページもこれまた趣味が悪い。
『ギガゾンビ様のホームページへようこそ!』と書かれた歓迎文に出来る限りのしかめっ面を浴びせ、俺は適当にページをスクロールさせる。
ホームページに書かれていたのは、この殺し合いの基本的なルール、詳細なマップ説明、そして随時更新されるらしい現死亡者と禁止エリアの位置。
データベースとしてはこの上なく親切な作りになっていたが、やっている内容が内容なだけに、とても褒められたものじゃない。
とりあえず俺はダーッと文面を流し読みにし、有益な情報がないかチェックするが……成果はなし。
死亡者状況も放送ごとの区切りで更新されているらしく、第一、第二放送で呼ばれた名前以外はリストに挙がっていない。
まあ、万が一放送を聞き逃した場合には使える機能だな。
しかしこのホームページの更新をギガゾンビがやっていると考えると、激しく笑えるのだが。
ギガゾンビのホームページを読み終えた俺は、一つ気になることがあって画面上部のお気に入りアイコンをクリックする。
このパソコン、ネット回線は問題なく繋がっているらしいが、それは果たして他の著名ホームページに対してもいえたことなのだろうか。
早い話が、外部との連絡が取れるかどうか確かめたかったのだ。で、結果だが。
俺が開いたページは、我等が本部『SOS団』の公式ホームページだ。
あのハルヒがデザインした奇妙なロゴマークは健在に輝いており、眩しく俺の瞳を照らす。
……どういうことだ? 問題なく開けてしまったぞ。
ん? いやちょっと待て。
その前に、どうしてSOS団のホームページなんかがこの見知らぬパソコンのお気に入りなんかにブックマークされてるんだ?
このパソコンはSOS団はおろか、お隣のコンピ研のものでもないし、そもそも日本じゃこんな型のパソコンはなさそうだ。だってメーカーのロゴマークがどこにもない。
誰かがお気に入りに登録した?――だとすれば、それは必然的にSOS団のホームページアドレスを知っているハルヒたちの仕業だと考えられる。
だがおかしなことに、履歴を調べてみても俺以外の人間がネットを開いた痕跡は見当たらなかった。
それ加え、俺が知り得る限りのアドレスを入力して他のホームページを片っ端からチェックしてみるが、まったく開くことが出来ない。
結論から言って、まともに開くことが出来たのはギガゾンビのホームページとSOS団のホームページのみだ。
どうしてSOS団のホームページだけが……?
俺は頭を捻り、やがてある事件のことを思い出した。
そう、突如としてコンピ研の部長が消失し、古泉や長門がカマドウマを退治することで解決したあの傍迷惑な事件の話だ。
あのとき異空間に現れたカマドウマの正体は大昔の情報生命体で、ハルヒが作成したロゴマークが原因で蘇ったとのことだったが……ひょっとしたら、あの時のような不思議ハルヒパワーが作用していたりするのか?
見た目では、SOS団のロゴマークに変化は見当たらない。長門辺りが調べれば何か分かりそうな気はするが、素人目ではおかしな点は見つからなかった。
このままトップページを眺めているだけというのも不毛だろう。
俺は試しに、SOS団のメールフォーム宛てにSOSメールを送ってみることにした。
どこかでギガゾンビなる人物に殺し合いをやらされているという現状、朝比奈さんや鶴屋さんが死亡したという事実、その他諸々の記せるだけの情報を詰め込めんだ、救助要請の電信である。
運がよければ古泉あたりが拾ってくれることだろう。
ハルヒにもピンチが迫っていると知れば、『機関』の連中や長門たちの親玉である『情報統合思念体』、『未来人』も動くかもしれん。
かなりの望み薄だが、送れるというのなら送っとけ。
やるべきことをやり終えて、俺がSOS団ホームページからジャンプしようとしたその時だ。
ソファに寝転がりながらという無理な体勢が災いしたのか、俺はうっかり手を滑らせてあらぬ箇所をクリックしてしまう。
それは、SOS団ロゴマークのちょうど中央、『O』マークの穴の部分。
うっかりが呼んだ幸運とでも言おうか。そこは未知の領域への入り口だったらしく、画面は別のページへとジャンプする。
『ツチダマ掲示板へようこそ! ここは、ギガゾンビ様の前では言えない不満や愚痴、バトルロワイアルの進行状況などを極秘裏に扱う秘密の掲示板です』
……SOS団トップページから移動したのは、ツチダマとかいうギガゾンビの手下共が運営する、主人には秘密のいけない掲示板だった。
あらかじめ断っておくが、もちろんSOS団のホームページにこんな掲示板は存在しない。
更新などほぼ無意味、人が訪れることさえ稀なホームページなのだ。掲示板を置くなど、時期尚早もいいとこだろう。
ま、百聞は一見にしかずだ。俺はそのページをスクロールさせ、掲示板を覗いて見る。
728:ツチダマな名無しさん :16:37:05
いや~まさか朝比奈みくるがあんなに早く脱落するとは思わなかったギガ~
729:ツチダマな名無しさん :16:52:43
>728
みくるちゃんの脱落は仕方がないギガ~。ドジっ娘メイドさんに殺し合いなんて所詮無理な話なんだギガ~
730:ツチダマな名無しさん :17:00:01
そんなことよりあのアオダヌキがとことんまで役に立ってないギガ~(笑)
731:ツチダマな名無しさん :17:03:57
今極秘に掴んだ情報によると、どうやらE-4のエリアで爆発が起こったみたいギガ~。誰が死んだかお楽しみギガ~
732:ツチダマな名無しさん :17:05:35
>731
マジ!?
これは次の放送に送られてくる監視映像から目が放せないギガ~
……あろうことか、この掲示板の住人連中は朝比奈さんの死亡話他について熱く語り合っていやがった。
しかしなんだ、この某巨大掲示板みたいな作りは。ギガゾンビには極秘というが、カモフラージュのためにSOS団のホームページを使うとは、ハルヒに知れたらお前らただじゃすまないぞ。
とりあえず、このふざけた掲示板を観察して気づいたことが数点ある。
まず一つ。この掲示板は、ギガゾンビの手下であるツチダマという存在(トップページに映っていたあの土偶か?)が秘密裏に立てたものだ。
それがどういうわけか支給品のノートパソコンにブックマークされている。もしかしたら、主催側でなんらかの不手際があったのかもしれない。
それにしても、ご主人様に隠れてこんなストレス発散の娯楽をしているとは。ツチダマという奴等も、相当ギガゾンビにコキ使われているようだ。
奴に対する不満を述べた書き込みも、結構な数をいっている。
次にもう一つ。どうやら、このゲームの内容はギガゾンビたちに監視されているらしい。
だがそれも全員がリアルタイムで把握しているようではなく、少なくともこの掲示板に書き込みをしているツチダマたちは、放送までその全貌が分からないようだ。
おそらく、放送ごとに数体のツチダマが交代し、ビデオカメラか何かで監視を行っている……監視中は掲示板を覗く暇もない、といったところだろうか。
他にも、「○○○がここで死んだのが意外だった」とか、「○○○は絶対最後まで生き残ると思ってたのに」だとか、「ギガゾンビの足は臭い」だとか、
どうにも抽象的な内容ばかりで、具体的にどこでどんな出来事が起こったかはほとんど書き込まれていなかった。
以下、俺が約700レスを読み返して得た情報の数々である。
・『朝比奈みくる』は『キャスカ』という参加者に殺された。
・『朝倉涼子』が『平賀才人』と『ハクオロ』の二人を殺した。
・『朝倉涼子』が『アーカード』に追い詰められたところで第一~第二放送分が終了した。
・『野比のび太』が幾度となくピンチに陥っているがなかなか死なない。
・『アオダヌキ』と呼称された参加者がやたらと罵倒されている。
大半はギガゾンビへの不満がほとんどで、ゲームの推移についての書き込みは、全体を見るに『野比のび太』と『アオダヌキ』と呼ばれる二人に関することが多い。
話題に上らない参加者も多く、僅かな書き込みの中で判明したことは朝比奈さんを殺害した犯人の名前、そして――朝倉涼子について。
第一放送後の時刻、『朝倉涼子が平賀才人とハクオロの二人を瞬殺してみせたのには驚きだったギガ~』という書き込みが確認できた。
そして第二放送後の時刻、『朝倉涼子がアーカードに追い詰められ絶体絶命ギガ~。続きは第三放送後までお預けなんてあんまりギガ~』という書き込みを確認。
しかし、まさかトウカさんの主であるハクオロ皇があの朝倉に殺されていただなんて……。
しかもその朝倉は、ロックさんが危険だと忠告してくれたアーカードなる吸血鬼に襲われている最中――時間的にもう決着はついただろうか――らしい。
もちろん、この掲示板自体が俺たちを騙すためのブラフであるという可能性もある。
だが、ここに書かれている内容はどれも妙に真実味があった。
ツチダマとかいう奴等に愛着を持ったわけではないが、なんとなくこいつらはとてつもなく苦労している……そんな漠然とした予感がしたのだ。
俺はこの掲示板の真意を確かめるべく、ある一つの妙案を思いついた。
どうやらこのツチダマ掲示板は、誰でも匿名で参加できる――といってもツチダマだけだろうが――自由な掲示板らしい。
ならば、当然俺にも書き込む権利はあるはずだ。
作戦は簡単。こちらからさり気なく確かめやすい話題を振り、返って来た反応を見てこいつらの言っていることが嘘か本当か見極める。
ようは陽動作戦だ。相手が乗ってくれば俺の勝ち。乗ってこなければ俺の負け。
口での駆け引きならハルヒや古泉の得意分野だが、顔を出さない掲示板でなら俺にも勝機はある。
そう思い、キーボードに指をかけようとしたその時だ。
掲示板に、新規の書き込みが表示された。
732:ツチダマな名無しさん :17:11:29
話は古くなるけど、キョンとかいうヤツが自分の顔を自分でガンガン殴っている光景はいつ見ても笑えるギガ~
……俺自ら書き込みをする必要はなくなった。
こいつら完全に遊んでやがる。ギガゾンビとはまた違った意味でムカつく奴等だった。
こんな奴等に付き合って無駄にパソコンのバッテリーを消費するのも馬鹿らしい。
俺はSOS団ホームページへと帰還し、さらにスタート地点だったギガゾンビのホームページへと舞い戻る。
何か見落としはないだろうか……と最後の確認をしていると、画面の左端辺りに小さく刻まれた興味深い文字を見つけた。
『管理者専用ページへジャンプ』
そう書かれたアイコンはどうやら別のページへと続いているらしく、俺は迷わずそこをクリックする。
するとどうだろう。現れたのは、細長い枠線とその上部に記されたメッセージ。
なになに……『パスワードを入力してください』。
なるほど。さすがに管理者専用ページと銘打つだけあって、そう簡単には通してくれないってことか。
だがパスワードなどと言われても俺には思い当たる節が何一つなく、適当な文字を入力してみようとも思ったが、もし何か変なことが起きたら嫌なのでやめておいた。
パスワードねぇ……閉鎖空間から脱出する時だったら『白雪姫』というワードが鍵になったが、ここでもハルヒにあんなことをしろいうのなら、俺はギガゾンビに断固抗議を申し立てるつもりだ。
何かヒントはないか、とパソコン内のデータを隈なく探してみるが、有益な情報は何も発見できない。
それどころかムカつくことに、見つかったファイルの数々には『ギガゾンビが教える簡単な人の殺し方』やら『相手に腹の内を読ませない極意』やら『ステルスマーダーの見分け方』などといったタイトルの殺し合い指南書が多く含まれていた。
もちろん俺は、ありがたーい主催者様のご好意を受け取ってこんな馬鹿げた指南書のお世話になるつもりは一切ない。
パソコン内をあらかた調べ終え、時刻は既に第三放送の30分前まで迫っていた。
時が経つというのは早いものだ。窓の外の風景は夕闇を帯びてきており、再び夜へと移行しようとしている。
思えば、今日一日だけで実に十年分くらいの人生経験を積んだような気がする。
朝倉以外の女性に刃物向けられて襲われたのも初めてだし、親しい先輩方の死に憤慨したのも初。
こうやって出口の見えない迷路を彷徨うのは……ま、初めてではないかな。
それにしたってこんな経験、なかなかできるものじゃない。
この壮大なゲームを乗り越えた先には、きっと一回りも二回りも成長したNEWキョンが新生していることだろう。
……そんなもん、クソくらえだ。俺はやっぱり、いつまでも平凡でいたい。
たまに非日常な事件が起こったとしても、長門がいる、古泉がいる、朝比奈さんがいる、どうせハルヒ絡みなんだろ、と心の中で安心していたいわけだ。
そのためにもギガゾンビ、お前のたくらみは絶対阻止してやる。
俺一人じゃどうにもならないかもしれないが、ここにはトウカさんやロックさんという頼もしい仲間がいる。
長門というなんでもありの産物も忘れちゃいけない。そしてなにより、一部では神様的扱いまでされているハルヒがいるんだ。
今度会ったら面と向かって言ってやろう――子分共に陰口叩かれているような小者臭漂う独裁者なんかに、大事は無理なんだよ――ってな。
さて、そろそろトウカさんも戻ってくる頃だろう。パソコン遊びもこの辺にするか。
そう思い、電源を落とそうとした。が、最後のクリックを済ませようとした俺の右人差し指は思わぬところで停止した。
見落としていた――? そもそもさっきこんなのあったか――?
灯台下暗しだろうか。いや、この際理由なんてどうでもいい。
とにかく俺は迂闊なことに、ある重大な見落としをしていたことに気づいたのだ。
パソコン画面の右下隅に注目。バックの画像だけでガランとしたデスクトップに唯一、アイコンが記されていたのだ。
俗に言うトラッシュボックス――つまり『ゴミ箱』だ。俺はまだ、ここをチェックしていなかった。
素早い動作でダブルクリックを行い、ゴミ箱の中を開く。
開かれた中には、一件のテキストファイルが残されていた。
それも開き、文面を確認する。
『射手座の日を越えていけ』
――記されていたのは、たったそれだけ。
まるで長門が残したかのような、簡素な一言だった。
射手座の日……そんな祝日あっただろうか?
星座でいうところの射手座といえば、確か11月23日から12月21日を指していたはずだ。
その間に何かあるのか? というよりも、この世界の日付設定はいったい何月何日になっているんだろうな。
不親切なことにパソコンにカレンダー機能は搭載されておらず、時刻くらいの情報しか与えてはくれない。
まさかこれが管理者ページのパスワードになっているだなんていうご都合展開は……ないだろうな。
考えるなら、パスワードを得るためのヒント。それが妥当だろう。
しかしなんだってこんなものがゴミ箱に放置されているんだ。
単なる削除のし忘れだとしたら、これも主催側の不手際だろうか。
いや、もしかしたら罠という可能性だってある。むしろそっち可能性の方が高いだろう。
だが、不思議と信頼感を得てしまうのは俺が浅はかなだけだろうか。
もしかしたら、これは誰かが遠まわしによこしてくれたメッセージなのでは……そんな気がするのだ。
夢見る少女じゃあるまいし、希望的観測もいいところだ。とは思う。
思うんだが……望みを感じてしまうんだからしょうがないじゃないか。
俺は蓄積された情報の山を脳内で整理しつつ、今度こそパソコンの電源を落とした。
ツチダマ掲示板から窺える他参加者の状況、管理者ページへ繋げるためのパスワード、そして謎のキーワード『射手座の日』。
このノートパソコンは偶然とうっかりが招いた副産物だが、思いがけないキーアイテムになりそうだった。
ただ、俺ではこれを活かしきれないというのが手厳しい。
長門辺りならハッキングの一つでもして管理者ページに無理矢理侵入することもできそうだが……当面は『射手座の日』について頭を悩ませる必要がありそうだ。
「遅れてすまないキョン殿。大事がなかったようでなにより」
直にトウカさんも戻り、俺たちが次の放送までにやれることはもうなくなった。
パソコンについてだが、トウカさんにはあえて喋っていない。
言ってみたところで「ぱーそなるこんぴゅーたー……というのはいったい?」と返されるのは目に見えているし、使い方を伝授しようにも軽く一年くらいは費やしそうだ。
それにこれは俺の勝手なイメージだが、トウカさんは機械の類が物凄く苦手そうに見える。
うっかり水を零してパソコンがおじゃんになってしまったら目も当てられない。もちろんその時は「某としたことが――!」のセリフ付きだ。いや、まったく失礼なことだが。
ハクオロさんについては……そうだな。次の放送で朝倉の名前が呼ばれたら教えることにしよう。
ひょっとしたら朝倉もアーカードとかいう奴に殺されているかもしれんし、先走ってトウカさんが仇討ちにでも向かったら大変だしな。
しかし……朝倉関係含め、この世界は本当にとんでもない創りをしているのだと改めて思い知らされる。
もはや長門一人でもどうにもならんだろうな……これはいよいよ、『射手座の日』の謎を解明する必要があるか。
俺とトウカさんは窓の外から夕闇を眺め、直に映り出されるであろうクソ主催者様の立体映像を待った。
今度はいったい、誰の名前が呼ばれるんだろうな。
【D-4・雑居ビル/1日日/夕方】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:全身各所に擦り傷、ギガゾンビと殺人者に怒り、強い決意
[装備]:バールのようなもの、わすれろ草@ドラえもん、ころばし屋&円硬貨数枚@ドラえもん
[道具]:支給品一式×4(食料一食分消費)、キートンの大学の名刺、ロープ、ノートパソコン
[思考・状況]
基本:殺し合いをする気はない、絶対に皆で帰る
1:ビル内に留まり放送を聴く。
2:『射手座の日』に関する情報収集。
3:トウカと共にトウカ、君島、しんのすけの知り合い及び、ハルヒ達を捜索する。
4:朝倉涼子とアーカードを警戒する。
5:あれ? そういえばカズマってどこかで聞いたような……
[備考]
※キョンがノートパソコンから得た情報、その他考察は以下の通りです。
・『朝比奈みくる』は『キャスカ』という参加者に殺された。
・『朝倉涼子』が『平賀才人』と『ハクオロ』の二人を殺した。
・『朝倉涼子』が『アーカード』に追い詰められたところで第一~第二放送分が終了した。
・『野比のび太』が幾度となくピンチに陥っているがなかなか死なない。
・『アオダヌキ』と呼称された参加者がやたらと罵倒されている。
・SOS団のメールフォームにSOSメールを送りましたが、本人はあまり期待していません。
・『射手座の日を越えていけ』は、管理者ページへ入るためのパスワードを入手するヒントと考えている。
・主催者側による監視が行われている(方法は不明)。
※ギガゾンビのホームページ、SOS団ホームページ、ツチダマ掲示板について
・ギガゾンビのホームページに記載された死亡者状況、禁止エリア状況は、放送ごとに随時更新されます。
・SOS団ホームページには問題なくアクセスでき、メールを送ることも可能です。
・その他、キョンが知り得るホームページには繋がりませんでしたが、例外がSOS団ホームページだけとは限りません。
・ツチダマたちは前回と前々回の放送間、もしくはそれ以前の話題しか書き込みません。
・掲示板の内容はギガゾンビへの愚痴がほとんど。基本的にバトルロワイアルの進行状況に対する具体的な書き込みは少ないです。
・ドラえもん(アオダヌキと呼称)関係の書き込みが多いようです。
・『射手座の日を越えていけ』の『射手座の日』とは、現段階でドラえもんが所持している『"THE DAY OF SAGITTARIUS III"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱』のことを指しています。
キョンはコンピ研と対決した際のゲームタイトルなど忘れているため、この正解にはたどり着いていません。
【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:左手に切り傷、全身各所に擦り傷
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式(食料一食分消費)、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に
[思考・状況]
基本:無用な殺生はしない
1:ビル内に留まり放送を聴く。
2:キョンと共にキョン、君島、しんのすけの知り合い及びエルルゥ達を捜索する
3:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す
4:ハクオロへの忠義を貫き通すべく、エルルゥとアルルゥを見つけ次第守り通す
※二人とも食事を取りました。
※井尻又兵衛由俊の遺体は埋葬されました。
*時系列順で読む
Back:[[THE TOWER~"塔"]] Next:[[響け終焉の笛]]
*投下順で読む
Back:[[Wind ~a breath of cure~]] Next:[[白地図に赤を入れ]]
|168:[[失われたもの、守るべきもの]]|キョン|188:[[がんばれジャイアン!]]|
|168:[[失われたもの、守るべきもの]]|トウカ|188:[[がんばれジャイアン!]]|
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: