「受容」(2021/10/06 (水) 02:02:02) の最新版変更点
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*受容 ◆/1XIgPEeCM
病院の待合室。そこにあるソファの上に寝かされていたエルルゥは目を覚ました。
「…………」
まず目に入ったのは白い天井。彼女はゆっくりと体を起こし、周囲を見回した。
すると、他にも茶色のソファが平行に二脚ほど配置されているのが分かった。部屋の角隅には観葉植物が見受けられる。
相変わらず、エルルゥのいた世界には見られない部屋の風景だ。
そもそも、何故こんなところにいるのか。記憶を搾り出してみる。
確か、川沿いを歩いていた時のこと。
眼鏡をかけた少年と、少し……いや、かなり変な格好をした少女。そして、黒い服を着て宙に浮いた小人? のような三人組に引き止められたのだ。
その後、急に目の前に変な格好の少女が現れて、それで……そこからの記憶がない。一体自分の身に何があったのか。
もう一度周囲を確認してみるが、あの三人組の姿は見当たらない。
だが、今はそんなことはどうでも良い。
「ハクオロさん……」
彼を探さなければ。
たずね人ステッキが指し示した方向。川沿いを北東に歩いていけば、きっと彼に会えるはず。
彼に会って、それで……。
それで、自分はどうしたいのだろう。
分からない。分からないけど、そんなことは二の次。彼にさえ会えれば、それもきっと分かる。
そう思った。
立ち上がり、出口だと思われる扉を開ける。
建物の奥が何やら騒がしいような気がしたが、耳に入らなかった。
白い建物を出て、暫し歩く。眠っている間に移動させられた以上、適当に歩くしかなかった。
10分ほど歩くと、川が見えた。深さはさほど無く、底が見えるほど澄んだ水が流れている綺麗な小川だ。
この川に沿って歩いて行けば良い。方角が分からないので、勘に従い左に曲がった。
そのまま、森の中を川沿いに歩く。延々と歩く。
さらに30分ほど歩いたところで、ようやく自分の荷物が無いことに気が付いた。
地図も無ければコンパスも無い。まして、食料や水など生きていく上で絶対必要な物さえ無い。
空腹だ。彼を探すために歩くばかりで気が付かなかったのだろうか、デイパックが無いことを認識した瞬間、急にそれを感じた。
ここに来てからというもの、口に入れた物と言えば、味見のために薬局で仕入れた医薬品を舐めたことと、鳳凰寺風にいただいた紅茶くらいである。
だが、今更戻るわけにもいかない。エルルゥは歩き続けた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ
もう相当な距離を歩いたはずだ。空はすっかりオレンジ色に染まっている。足も痛い。
しかし、歩けど歩けど、探し人は見つからない。
辺りは静かすぎた。まるで、この殺し合いの舞台にはもう自分一人しか残っていないのではないか、と思わせるほどに。
聞こえるのは、川のせせらぎと、風により木々の葉が僅かに擦れる音だけ。
そんな静かで長い道を、『ハクオロさんに会いたい』。ただその一心で歩き続けた。
しかし、永遠に続くかと思われたその道も、ついに終焉を迎える。
『警告します。禁止区域に抵触しています。あと30秒以内に爆破します』
突然、かなり近い場所から声が聞こえた。自分が知っている人のものではない、無機質な声。
歩みが止まり、その声により一瞬だけ、ハクオロを探すことばかり考えていた頭の中が真っ白になる。
爆破……そういえば、禁止エリアとやらに進入しても首輪が爆発すると、あの仮面の男が言っていたような気がする。
つまり、首からだ。この声は、自身の首に取り付けられたこの輪から発せられているのだ。
『警告します。禁止区域に抵触しています。あと20秒以内に爆破します』
あと20秒。
これが単なる脅しでなければ、あと20秒で自分に着けられたこの首輪は爆発し、喉を引き裂かれ、まず間違いなく自分は死ぬ。
そう、こんな所に連れて来られて、仮面の男に抗議し殺されたあの二人のように。
でも……それも良いかもしれない。
一回目の放送が流れた時点で亡くなってしまったらしい、愛するあの人と、向こうの世界でまた会うことができるかもしれない。
それに……もう、疲れた。どうしようもないくらいに。
『警告します。禁止区域に抵触しています。あと10秒以内に爆破します』
死ぬのは怖い。でも、また彼に会えるのなら、死んだって良い。
それに、自分なんかいない方が良いのだ。ここに来てからも、ロックや風に迷惑をかけてしまったのだから。
そうだ、自分がいなくなれば……。
……アルルゥはどうなる?
祖母を失い、父と慕う人を失い、そして血の繋がった姉までも失ったアルルゥは……。
『警告します。禁止区域に抵触しています。あと5秒以内に爆破します』
「ごめん……ごめんねぇ……」
それから1分後。地図上で言うA-7、会場の外まであと数歩という所で膝を抱えて蹲り、泣きながら謝る少女、エルルゥの姿があった。
結局、残された妹のことを考えると、死ぬことなんてとてもできなかった。
アルルゥは所詮、この殺し合いと言う場においては無力に等しいただの子供。そんな妹を、本来姉である自分が守ってあげるべきだろうに。
何もかも放り出して、自分だけ楽になってしまおう。そんなずるい考えをしてしまった自分を恥じた。
そして、気付いた。
死んだら二度と戻って来れないこと。そして、死んだ者にはもう会えないこと。顔を見ることはできても、本質的にはもう会えないのだと。
どれだけ泣き喚こうが、望もうが、あの人はもう戻ってこない。今まで自分がしてきたことは、全くの無意味なことだったのだと。
この殺し合いで勝ち残り、あの仮面の男に彼を生き返らせようと考えたこともあった。
だが、生き残れるのは一人だけ。それに従えば、いずれはアルルゥも殺さなければならない時がきてしまう。
そもそも、自分は生き残れるのか。本当に願いなど叶えてくれるのだろうか。そんな不安もあった。
そして何より、そこまでして生き返らせた彼は、何となく、どこか偽者のような気がして……。
その時の自分も、きっと駄目になってしまっているに違いない。……もう十分、駄目になってしまったかもしれないけれど。
だから、諦めた。
そして彼の死を改めて受け入れた。彼には、ハクオロにはもう会えないのだと認めて。
「うっ……うああああああああぁぁぁぁ!!」
だから、エルルゥはさらに激しく泣いた。
自分の服を、透明な大粒の涙で染め続けた。
まもなく、定時放送の時間である。
【A-7・川沿い 会場外との境界線あたり/1日目 夕方(放送直前)】
【エルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:かなりの肉体的、精神的疲労。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:アルルゥを探す。
[備考]※ハクオロの死を受け入れましたが、未だに精神状態は不安定です。
※フーとその仲間(ヒカル、ウミ)、更にトーキョーとセフィーロ、魔法といった存在について何となく理解しました。
*時系列順で読む
Back:[[これがあたし達の全力全開]] Next:[[調教]]
*投下順で読む
Back:[[これがあたし達の全力全開]] Next:[[調教]]
|187:[[「救いのヒーロー」(後編)]]|エルルゥ|211:[[WHEN THEY CRY]]|
*受容 ◆/1XIgPEeCM
病院の待合室。そこにあるソファの上に寝かされていたエルルゥは目を覚ました。
「…………」
まず目に入ったのは白い天井。彼女はゆっくりと体を起こし、周囲を見回した。
すると、他にも茶色のソファが平行に二脚ほど配置されているのが分かった。部屋の角隅には観葉植物が見受けられる。
相変わらず、エルルゥのいた世界には見られない部屋の風景だ。
そもそも、何故こんなところにいるのか。記憶を搾り出してみる。
確か、川沿いを歩いていた時のこと。
眼鏡をかけた少年と、少し……いや、かなり変な格好をした少女。そして、黒い服を着て宙に浮いた小人? のような三人組に引き止められたのだ。
その後、急に目の前に変な格好の少女が現れて、それで……そこからの記憶がない。一体自分の身に何があったのか。
もう一度周囲を確認してみるが、あの三人組の姿は見当たらない。
だが、今はそんなことはどうでも良い。
「ハクオロさん……」
彼を探さなければ。
たずね人ステッキが指し示した方向。川沿いを北東に歩いていけば、きっと彼に会えるはず。
彼に会って、それで……。
それで、自分はどうしたいのだろう。
分からない。分からないけど、そんなことは二の次。彼にさえ会えれば、それもきっと分かる。
そう思った。
立ち上がり、出口だと思われる扉を開ける。
建物の奥が何やら騒がしいような気がしたが、耳に入らなかった。
白い建物を出て、暫し歩く。眠っている間に移動させられた以上、適当に歩くしかなかった。
10分ほど歩くと、川が見えた。深さはさほど無く、底が見えるほど澄んだ水が流れている綺麗な小川だ。
この川に沿って歩いて行けば良い。方角が分からないので、勘に従い左に曲がった。
そのまま、森の中を川沿いに歩く。延々と歩く。
さらに30分ほど歩いたところで、ようやく自分の荷物が無いことに気が付いた。
地図も無ければコンパスも無い。まして、食料や水など生きていく上で絶対必要な物さえ無い。
空腹だ。彼を探すために歩くばかりで気が付かなかったのだろうか、デイパックが無いことを認識した瞬間、急にそれを感じた。
ここに来てからというもの、口に入れた物と言えば、味見のために薬局で仕入れた医薬品を舐めたことと、鳳凰寺風にいただいた紅茶くらいである。
だが、今更戻るわけにもいかない。エルルゥは歩き続けた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ
もう相当な距離を歩いたはずだ。空はすっかりオレンジ色に染まっている。足も痛い。
しかし、歩けど歩けど、探し人は見つからない。
辺りは静かすぎた。まるで、この殺し合いの舞台にはもう自分一人しか残っていないのではないか、と思わせるほどに。
聞こえるのは、川のせせらぎと、風により木々の葉が僅かに擦れる音だけ。
そんな静かで長い道を、『ハクオロさんに会いたい』。ただその一心で歩き続けた。
しかし、永遠に続くかと思われたその道も、ついに終焉を迎える。
『警告します。禁止区域に抵触しています。あと30秒以内に爆破します』
突然、かなり近い場所から声が聞こえた。自分が知っている人のものではない、無機質な声。
歩みが止まり、その声により一瞬だけ、ハクオロを探すことばかり考えていた頭の中が真っ白になる。
爆破……そういえば、禁止エリアとやらに進入しても首輪が爆発すると、あの仮面の男が言っていたような気がする。
つまり、首からだ。この声は、自身の首に取り付けられたこの輪から発せられているのだ。
『警告します。禁止区域に抵触しています。あと20秒以内に爆破します』
あと20秒。
これが単なる脅しでなければ、あと20秒で自分に着けられたこの首輪は爆発し、喉を引き裂かれ、まず間違いなく自分は死ぬ。
そう、こんな所に連れて来られて、仮面の男に抗議し殺されたあの二人のように。
でも……それも良いかもしれない。
一回目の放送が流れた時点で亡くなってしまったらしい、愛するあの人と、向こうの世界でまた会うことができるかもしれない。
それに……もう、疲れた。どうしようもないくらいに。
『警告します。禁止区域に抵触しています。あと10秒以内に爆破します』
死ぬのは怖い。でも、また彼に会えるのなら、死んだって良い。
それに、自分なんかいない方が良いのだ。ここに来てからも、ロックや風に迷惑をかけてしまったのだから。
そうだ、自分がいなくなれば……。
……アルルゥはどうなる?
祖母を失い、父と慕う人を失い、そして血の繋がった姉までも失ったアルルゥは……。
『警告します。禁止区域に抵触しています。あと5秒以内に爆破します』
「ごめん……ごめんねぇ……」
それから1分後。地図上で言うA-7、会場の外まであと数歩という所で膝を抱えて蹲り、泣きながら謝る少女、エルルゥの姿があった。
結局、残された妹のことを考えると、死ぬことなんてとてもできなかった。
アルルゥは所詮、この殺し合いという場においては無力に等しいただの子供。そんな妹を、本来姉である自分が守ってあげるべきだろうに。
何もかも放り出して、自分だけ楽になってしまおう。そんなずるい考えをしてしまった自分を恥じた。
そして、気付いた。
死んだら二度と戻って来れないこと。そして、死んだ者にはもう会えないこと。顔を見ることはできても、本質的にはもう会えないのだと。
どれだけ泣き喚こうが、望もうが、あの人はもう戻ってこない。今まで自分がしてきたことは、全くの無意味なことだったのだと。
この殺し合いで勝ち残り、あの仮面の男に彼を生き返らせようと考えたこともあった。
だが、生き残れるのは一人だけ。それに従えば、いずれはアルルゥも殺さなければならない時がきてしまう。
そもそも、自分は生き残れるのか。本当に願いなど叶えてくれるのだろうか。そんな不安もあった。
そして何より、そこまでして生き返らせた彼は、何となく、どこか偽者のような気がして……。
その時の自分も、きっと駄目になってしまっているに違いない。……もう十分、駄目になってしまったかもしれないけれど。
だから、諦めた。
そして彼の死を改めて受け入れた。彼には、ハクオロにはもう会えないのだと認めて。
「うっ……うああああああああぁぁぁぁ!!」
だから、エルルゥはさらに激しく泣いた。
自分の服を、透明な大粒の涙で染め続けた。
まもなく、定時放送の時間である。
【A-7・川沿い 会場外との境界線あたり/1日目 夕方(放送直前)】
【エルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:かなりの肉体的、精神的疲労。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:アルルゥを探す。
[備考]※ハクオロの死を受け入れましたが、未だに精神状態は不安定です。
※フーとその仲間(ヒカル、ウミ)、更にトーキョーとセフィーロ、魔法といった存在について何となく理解しました。
*時系列順で読む
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