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「孤独な笑みを夕陽にさらして」(2021/10/06 (水) 06:41:14) の最新版変更点
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*孤独な笑みを夕陽にさらして ◆lbhhgwAtQE
『警告します。禁止区域に抵触しています。あと30秒以内に爆破します』
既に禁止エリアに指定されていた地区A-4に足を踏み入れた瞬間に聞こえたのはそんな警告音。
「――ったく、どこまでも俺達を追い詰めて遊ぶ気かよ……」
これで、地図の外へ出た時と同じ警告がされることを次元は確認したことになる。
警告音に従い、スタコラと禁止区域を出ると、次元は近くにあった電柱に寄りかかった。
「さて、これからどうするかだが……」
地図の範囲外、及び追加指定された禁止エリアに進入した場合の首輪の反応は確認した。
埋葬までは行かないが、ソロモンや圭一の遺体を弔うこともした。
蒼星石の残骸ごとだが首輪のサンプルも回収した。
とすれば、ここに留まっている理由は無い。
脱出の鍵を握ってあるであろう青狸やその仲間と思われる少年達を探す為にも、移動すべきだろう。
だが脇腹を負傷している以上、激しい動きは出来ない。
ならば、なるべく敵に会わないように移動しなくてはならない。
次元はそう考えると、幹線道路を一本外れた道を警戒しながら南下しはじめた。
そのように、歩き始めてから少しして。
――だから! あたし一人で行くからいいって言ってるでしょ!!――
突如、耳にそんな若い女性の声が飛び込んできた。
「……こりゃあ、何の騒ぎだってんだ?」
音源は幹線道路の方向。
次元は声の主の正体を確かめるべく、幹線道路に繋がる路地へと入ると、その影からその様子を見始める。
すると、彼の目に映ったのは一台の軍用トラックと、そこに乗る複数の男女。
「参加者……だろうな」
首で鈍く光るそれを確認すると、次元は彼らの正体を見極めるべく、観察を続ける。
――危険といったら危険だ。絶対に行かせる訳には――
――それじゃ、誰がルパンを弔ってあげるのよ! まさか放ったらかしにしておく気!?――
――ルパン、なかま! アルルゥもルパンの所行く!――
「ルパン……だと!?」
次元の耳が捉えたのは、常に自分の隣にいた頼れる相棒の名前。
どうやら、会話から察するに彼女らはルパンと接触していたようだ。
「あいつが……ねぇ」
彼女らがルパンと接触していたのなら、その居場所を聞き出して是非合流したいところだ。
――もし彼が生きていたとしたら、の話だが。
現実では、ルパンは既に死んでしまったという。
ならば、合流が叶うはずもなく、路上で堂々大声を上げるという危険行為を行う彼らに接触する必要も無い。
――だが。
「――あー、お取り込み中悪いんだがなぁ、ちょっといいかい?」
気付けば次元の足は彼女らのいるトラックへと向いていた。
◆
時はやや遡り。
赤いコスプレ少女、そして金髪青服の剣士の襲撃から何とか脱出したトグサ達を乗せたトラックは道路を北へと走っていた。
そして、そのトラックの中で襲撃によって肩を負傷したヤマトはアルルゥに手当てをしてもらっていた。
「…………ありがとう」
「……ん!」
アルルゥはハルヒや長門の持っていたハンカチを細く千切ったものを包帯代わりにして、黙々とヤマトの肩に巻いていく。
そんな姿を見て、ハルヒは感心する。
「ふぅん……アルちゃん、随分手馴れてるわね」
「……ん。。おねえちゃんのやりかた見てたから慣れてる」
「しっかりしてるのねぇ、アルちゃんは」
ハルヒがそう言って頭を撫でてやると、アルルゥは「んふ~」と気持ち良さそうな声を出して鳴く。
……そして、一通り手当てが終わると、ハルヒは今度はヤマトの方を向く。
「……それに引き換え、あんたはねぇ……まったく! 子供の癖にあんな大見得切って飛び出しちゃって無謀にも程があるわ」
セイバーを食い止めるために立ち向かったことを指してハルヒは半ば非難するような形で喋る。
「ああ言うのは、勇気じゃなくって蛮勇か無謀って言うのよ! 車が間に合ったからいいけど、もし少しでもタイミングがズレたら……」
「ヤマトをあまり責めないでやってくれ」
ハルヒの言葉を遮ったのは、運転席のトグサだった。
「本来あそこであの剣士に立ち向かうべきだったのは俺だ。つまり、君の責めを受けるのは俺のはずだったんだ」
「だ、だけど……」
「それに……今はそっとしておいてくれないか」
ちらりとトグサは後部座席の向こう、荷台にいるヤマトの顔を見る。
その顔は、痛みや疲労から来るものとは違う、悲しい表情をしていた。
「ぶりぶりざえもん…………」
ヤマトが思うは、身を挺して剣士をトラックから退けてくれた役立たず――いや、かけがいのない仲間であり、自分たちにとって真の救いのヒーローだった豚のこと。
彼の脳裏にはその豚が最後に見せた勇者の眼差しが焼きついていた。
その表情を見て、ハルヒも言葉を詰まらせる。
「そ、それは分かってるけど…………」
流石のハルヒも、先程の一連の出来事を見て、そんなヤマトとぶりぶりざえもんの並々ならない関係は察していた。
自分だって、みくるの死をあんな形で見せられたら、こうなって、いやもっと酷いことになるかもしれない。
だが、それでも彼女は――
「涼宮ハルヒは、あの時金髪の剣士に立ち向かった石田ヤマトの事が心配だった。……だからこそ多少乱暴な物言いになっている。そう私は推測する」
「――ゆ、有希!!」
つまりはそういうわけだった。
結局はハルヒも出会って間もないとはいえ、行動を少しでもともにした仲間が危険な目に遭って平然としていられるほど薄情ではない。
「ま、そ、そういうわけだから、次からは自分の身の事もちゃんと考えなさい、いいわね!?」
「…………」
ハルヒの問いかけに、ヤマトは黙ったまま。
そんな彼を見ていて、彼女はふと思い出した。
自分にも離れ離れになったままの仲間がいたことを。
「ねぇ……そういえばルパンはどうしたの? さっき病院にいたってことは橋を渡ってきたはずでしょ。あそこにいたはずのルパンはどうしたの?」
口ではそう言いつつも、薄々と気づいていた。
橋にいたはずの彼が、橋を渡ってきたこのトラックにいないという事は……。
すると、運転席からその答えが聞こえてきた。
「橋の途中には確かに君がルパンと呼んでいたと思われる男性がいたよ。…………ただし、遺体の状態でね」
トグサは直接生前のルパンを見たわけではなかった。
だが、橋を通過時に見たその男の遺体は、ハルヒの話を聞いていたヤマトから伝えられた特徴と一致する部分が多すぎた。
それゆえ、彼は橋の男をルパンと確定した。
「昼の放送でも、ルパンという名前が呼ばれていた。…………彼の死は確実だろう」
「……そう」
そして、それを聞いたハルヒの口から漏れたのは、そんな溜息ともつかない言葉。
彼女の中で予感は確信へと変わった。
ハルヒは自分が間に合わなかったことに悔しさを覚えると同時に、ある決意をした。
「――ねぇ、えっとトグサさん、だったっけ。車止めてくれない?」
「どうした? 具合でも悪くなったのか?」
ミラーで追跡が無いことを確認してトラックを路肩に停車したトグサは、後ろを振り返る。
すると、後部座席にいたハルヒは、先程とは違う面持ちをしたまま口を開いた。
「あたし、ちょっと用事があるから、ここで降りるわ」
「……は?」
いきなりの言葉に、トグサは言葉を失う。
「一体どうしたんだ? 何でわざわざ降りるなんてことを……」
「言ったでしょう、用事が出来たのよ」
「だからその用事っていうのは何なんだ? 君が助けようとしたルパンという男はもう――」
「その話は聞いたわよ。……聞いたからこそ、私はあいつに会いたいのよ。――そしてちゃんと弔ってあげたいの」
ハルヒは俯き加減に言葉を紡ぐ。
「あいつはね……ルパンはね、仮にもSOS団の団員なの。そして団長であるあたしは、団員をちゃんと弔う義務がある。……あいつの体、橋にいるまんまなんでしょ?」
「あぁ。あの時は病院行くのに忙しかったから――って、そうじゃなくって! そんなのを認められるわけが無いだろう!
後ろからはまだ襲撃してきた連中が追いかけてきてるかもしれないんだぞ」
「だから! あたし一人で行くからいいって言ってるでしょ!! あたし一人で行くだけなら、あんた達に迷惑が掛かる訳でもないし」
そんな言い分を聞いて、トグサは更に語気を強めた。
「尚更駄目だ! 君はまだ重傷患者なんだ。そんなふらついた体で一人にするわけにはいかない」
「――それに、先程自身で言っていた“自分の身の事もちゃんと考えなさい”という注意事項に抵触する。……明らかな矛盾」
長門もそう言いながら、静かにだが反論する。
――だが、それでもハルヒは意志を曲げない。
「……そ、それはそれ! これはこれよ! 誰が何といっても私は――」
ハルヒが車を出るべくドアに手をかけようとするが、その手をトグサが掴んで止める。
「危険といったら危険だ。絶対に行かせる訳にはいかない」
「それじゃ、誰がルパンを弔ってあげるのよ! まさか放ったらかしにしておく気!?」
「ルパン、なかま! アルルゥもルパンの所行く!」
そして、ここで更に荷台でヤマトの手当てをしていたアルルゥが加わるものだから、話は更にややこしくなる。
「おいおい、君までそんな――」
「……いいの?」
「ん! ルパンなかま! ハルヒおねーちゃんが行くならアルルゥも行く!」
「アルちゃん――!!」
ハルヒは、アルルゥの小さな体を抱き寄せる。
――が、一方でトグサは抗議を続ける。
「今の状況が分からないのか!? 武器も無い、襲撃者に追われてる可能性がある、夜が近い、それに何よりその頭の怪我。……何一つ安心できる余地が無いんだぞ!」
「そ、そんなの何とかしてみせるわよ! それに武器ならこのカメラだってあるんだし!」
ハルヒはデイパックから着せ替えカメラを取り出すと、それを掲げる。
だが、何も知らないトグサにとってはそれはただの変わった形をしたカメラにしか見えない。
――そもそも、着せ替えカメラは武器としてはとても利用できた代物ではないわけだが。
「おいおい、そのカメラのどこが武器――」
トグサの苦言が続きそうになったその時だった。
「――あー、お取り込み中悪いんだがなぁ、ちょっといいかい?」
トラックに乗る誰のものとも違う、渋い男の声が車外からしてきた。
トラックに乗る面々に声を掛けてきたのは、黒に身を包み、帽子を目深に被った男。
いかにも怪しいその男に、皆はすぐに警戒をする。
トグサは銃に手をかけ、長門は眼鏡を掛けてタヌ機の使用準備をする――が。
「おっと、そんな警戒しなさんな。……俺はゲームに乗っちゃいねえよ」
男は早々に両手を軽く挙げて、警戒を解くように呼びかけてきた。
だが、彼らは構えを解かない。
トグサ達にとって、あくまで今の次元は突然の闖入者。
出来ればトグサもこのような疑心暗鬼になるような真似はしたくなかったが、先程の襲撃があったばかりである以上、警戒するに越したことは無かった。
「……あんたは誰だ?」
「俺は次元大介。――さっき、お前さんらの話の中に出てきたルパンって奴の知り合いさ」
「……ルパンの知り合いですって!?」
次元の自己紹介に一番驚いた顔をしていたのは他ならぬハルヒだ。
「それじゃ、あんたが早撃ちが得意だっていう次元大介ってわけ!?」
「他に同姓同名の参加者がいない以上、その次元大介が俺なのは確かだろうな」
「――――で、その早撃ちが得意なあんたが、どうして俺達に近づいてきた?」
その問いを聞くと、次元は帽子に手を当てて顔を下へ向ける。
「ま、やっぱそこが気になるだろうな。……正直、俺も隙だらけで格好の的になりそうなお前さんらに近づくのはリスクが高いと承知していたよ」
「……? だったら何故?」
「――ルパンの野郎がどんな連中と行動していたのか……それが知りたかったのかもなあ、あいつの相棒を長年してきた俺としてはよ」
そんな次元の言葉に一同が黙る中、ハルヒが口を開いた。
「――あんた、本当に戦う気は無いのね?」
「そっちから襲ってこない限りはな。それにあの仮面野郎のいう事を聞くほど俺だって馬鹿じゃあない」
すると、ハルヒは何か納得したように頷く。
「そう……。だったら信じてあげる。敵じゃないってね」
「お、おい、そんな安易に――!!」
「前にルパンから聞いた事があるのよ。次元っていう相棒がどんな男なのかってね。……それを聞く分だと、私にはこいつがあたしたちを襲うとは思えないわけ」
「そりゃどうも、っと」
おどけてみせる次元を見て、トグサも観念したように銃から手を離す。
長門は依然、眼鏡を装着したままだったが。
「名乗ってなかったな。……俺はトグサ。一応、元の世界では警察に所属していた」
警察手帳を見せて自己紹介をするトグサに、次元は一瞬怯む。
彼は今までに警察から追われるような事を少なからず……もとい大いにしてきた。
反射的に警察と聞いて、足が逃げようとしたが……今はそうもいってられない状況だ。
いつぞやのルパンと銭形のように共闘関係を結ぶ他ないだろう。
「あぁ、こっちこそよろしく頼むよ」
◆
ホテルで何かがあったこと、市街中心地で巨大な爆発があったこと、病院にて赤いコスプレ少女や金髪青服の剣士に襲われたこと。
次元がトグサ達と接触して手に入れた情報はどれも明るくないものばかりだった。
そして、何より知りたかったルパンの動向については――
「なるほど、お前さん方を庇ってねぇ……あいつらしいな」
女の為に身を犠牲にする――まさにルパン三世という男の生き様の集大成のようだ。
「……私達がもっと早く助けを呼んでればルパンも――」
ハルヒは俯きながらも、言葉を続ける。
だが、そんな彼女の肩に次元は手を置く。
「いんや、お前さんが気に病むことはない」
「…………」
「それにお前さんとそこの……アルルゥだったか? お前らを結果的に助けられたんだ。あいつだって本望だろうよ」
それを聞いて、ハルヒは黙ったまま涙を流しはじめる。
今まで我慢していた分も含めて、堰を切ったようにそれは流れる。
「……ハルヒおねーちゃん、また泣いてる?」
アルルゥがそんなハルヒの顔を見て尋ねるが、彼女は答えない。
今のハルヒはただ泣くばかりであった。
次元はいきなりの落涙に戸惑うが、そんな彼へ今度はトグサが問いかけてきた。
「……それで、さっき言っていた話は本当なのか?」
「さっきの? ――あぁ、小次郎の事か? こんなときに出鱈目言えるかよ。んなことしたらお前さん方に何されるやら」
トグサが問いただしたのは、次元が話した佐々木小次郎がこの道の先で襲撃をしてきたという話。
ルパンの話をする前に、交換条件として先に話していたのだ。
「本当だとしたら、この先にはまだその小次郎という男がいるということになるが……」
「それはどうだろうな。あいつ、戦いが終わったら西の方に行っちまったみたいだから、今はいないんじゃないか?」
「そうか……」
子供達を運んでいる以上、ゲームに乗った参加者のいる方角へ車を走らせることは出来るだけしたくない。
「小次郎って奴はどうも〝兵〟を探してるらしいからよ。子連れのあんたらなら襲う気は起こさねぇかもな」
「兵……か」
トグサはちらりと長門の方を見る。
強化義体である彼女の力を見たことのある彼からすれば、彼女はいわゆる兵に部類する存在だ。
もし、彼女の力量をその小次郎という男が見極めたとすれば……。
「平気。私がボロを出さなければいいこと」
「……え、いや、しかし――」
「このまま南下しても敵がいる可能性がある。……それにもう少し北上すれば映画館がある。そこで休憩できる」
トグサが迷っている間に、長門が新たな提案をしてくる。
「映画館か。……ま、怪我人もいることだし、休憩するにはもってこいかもな。いざって時の避難口も多そうだしよ」
「怪我人って……そういえば、あんたも大怪我してるじゃないか」
トグサが指差した先は、次元の脇腹。
布を巻いても尚血が滲むそこは、ソロモンに食らわされた一撃による傷のある場所。
決して軽傷とはいえないが、次元はそれを隠すように笑う。
「これか? ま、かすり傷だ、大層なもんじゃねぇ。……そんじゃ、あんた方は早ぇとこ映画館かそこらまで行って休んどくこったな」
「……あんたはどうするんだ?」
「俺か? 俺は少しばかり用事が出来たわ」
「用事……だと?」
次元は頷く。
「ああ。相棒の顔を一度拝んでやりたくてよ。……こんなところで死んじまった馬鹿な相棒の顔をな」
次元の言葉に真っ先に反応したのはついさっきまで泣いていたハルヒだった。
「拝むって……あんたもしかして……」
「お前さんのその体じゃ、こっから橋まで行くのも大変だろ。……だから、俺が代わりにあいつを弔ってきてやるよ」
「……そう。なら、あんたに任せるわ。相棒のあんたが行った方があいつも喜ぶだろうし」
「ま、俺より不二子や他の女が行った方が喜びそうだがな、あいつの場合」
――と、おどけて見せるとハルヒも「そうね」とその泣きはらした顔に笑みを浮かべる。
だが、その言葉に驚いたのはトグサだった。
「――本気か? 怪我してるっていうのにそんな……」
「だから言ったろ、かすり傷だって。それに俺は小次郎に兵のレッテル貼られてるんでな。あんたらの傍にいたんじゃ厄介なことになるだろうよ」
確かに次元が小次郎から狙われているとするならば、連れて北上することは危険だ。
ならば、この措置もやむなしか……。
そう悟ると、彼はおもむろにメモ用紙を取り出し何かを走り書きして、それを次元へと手渡した。
「……こいつは?」
「首輪やこのゲーム自体に対する俺の考えをまとめた考察だ。道中、もしタチコマという名の青い蜘蛛みたいな戦車を見つけたらこれを渡して欲しい」
「蜘蛛みたいな戦車……ねぇ」
訝しげにする次元であったが、腕が槍になる人間や意思を持った人形とつい先程まで一緒だったことを思い出し、ありえない話ではないと考える。
「それとセラスという金髪の婦警がいたら、俺が無事だと伝えてやってくれ」
「あぁ、了解了解」
するとハルヒやアルルゥも身を乗り出して、次元に声を掛ける。
「――あ、それならあたしもキョンっていうぱっとしない男子学生がいたら、『勝手に死んだら許さない!』って――」
「――アルルゥもおねーちゃん達に無事だって――」
「あぁ、待った待った!! 俺は電話交換手でも郵便屋でもないんだ、そんな一度に伝えられても覚えきれないぞ!」
矢継ぎ早に伝言を伝えられ、流石の次元も戸惑ってしまう。
次元はひとまずメモ用紙を取り出すとそれに順にトグサらが口にした知人の名前をメモしてゆく。
そして、それが終わると彼はトラックの荷台にいたままになっていた少年に声を掛ける。
「よぉ、ボウズ。お前さんはいいのか? 何か伝えとくことがあるなら聞いとくぞ」
そんな次元の声に顔を上げると、ヤマトは力無い声で呟く。
「……八神太一っていうゴーグルつけてる俺と同い年くらいの子供がいるので、見つけたら俺が無事だってことを伝えてください」
「八神太一ねぇ……了解了解」
メモを一通り終え、次元はそのメモをポケットへと突っ込む。
そして、それと同時に別のメモ用紙を二枚、トグサに手渡した。
「……こいつは俺が実際に禁止エリアに入って調べた情報だ。……なんかの形で役立ててくれや」
「ああ、そうさせてもらう」
すると、メモを見ながら、トグサは気付いたように問う。
「――そういえば、お前の知り合いは誰かいないのか?」
「いるにはいる……峰不二子っつう女がな。けど気をつけろ、あいつは心の底で何考えてるか分からないから」
「あぁ、承知した」
「――んじゃ、日が完全に沈まないうちに、とっとと出発するかね」
大きく伸びをして、次元は道路の南方を見据える。
「そんじゃ、ガキ共は任せたぜ、トグサ」
「ああ。そっちも無事でいろよ」
「――分かってるさ。……そんじゃ、また会えたらな」
次元がトラックから離れ、南へと――橋へと向かって歩き出す。
すると、ハルヒがトラックから身を乗り出して次元へと叫ぶ。
「次元――!! ルパンを頼んだわよ!!」
夕陽が差し、黒一色の影となった男の背中はその声を聞いて、片手を挙げて答えた。
その男の背中はハルヒ達にはとても大きく見えた――。
【C-4/幹線道路上 一日目/夕方(放送近し)】
【次元大介@ルパン三世】
[状態]:疲労(小)、ショック、わき腹にケガ(激しく動き過ぎると大出血の恐れあり・一応手当て済み)
[装備]:朝倉涼子のコンバットナイフ、454カスール カスタムオート(弾:7/7)@ヘルシング ズボンとの間に挟んであります
[道具]:支給品一式4人分(水食料二食分消費)、13mm爆裂鉄鋼弾(34発) 、レイピア、
蒼星石の亡骸(首輪つき)、リボン、ナイフを背負う紐、双眼鏡(蒼星石用)、
ハリセン、望遠鏡、ボロボロの拡声器(運用に問題なし) 、蒼星石のローザミスティカ
トグサの考察メモ、トラック組の知人の名前宛てのメッセージを書いたメモ
[思考・状況]
1:周囲を警戒しながらD-3の橋へ行き、ルパンを弔う。
2:トグサらの知り合いを見つけたら伝言を伝える。
3:殺された少女(静香)の友達と青い狸を探す
4:圭一と蒼星石の知り合いを探す。蒼星石の遺体については慎重に取り扱う。
5:怪我の治療ができる場所(できれば病院以外)を探す。
6:ギガゾンビを殺し、ゲームから脱出する。
7:仲間を見つけられたら、首輪を回収する。
基本:こちらから戦闘する気はないが、向かってくる相手には容赦しない
[備考]
情報交換により、ピンク髪に甲冑の弓使い(シグナム)、赤いコスプレ東洋人少女(カレイドルビー)、
羽根の生えた黒い人形(水銀燈)、及び金髪青服の剣士(セイバー)を危険人物と認識しました。
【トラック組(SOS団) 運転:トグサ】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:自分の不甲斐なさへの怒り
[装備]:73式小型トラック(運転席)
:S&W M19(残弾1/6)、暗視ゴーグル(望遠機能付き)/刺身包丁/ナイフ×10本/フォーク×10本
[道具]:デイバッグ/支給品一式/警察手帳(元々持参していた物)/技術手袋(残り17回)@ドラえもん
首輪の情報等が書かれたメモ2枚
[思考]:
基本:子供達を護りつつ、脱出の手立てを模索
1、進路を北へ。目指すは映画館。
2、情報および協力者の収集、情報端末の入手。
3、タチコマ及び光、エルルゥ、八神太一の捜索。
[備考]
風・次元と探している参加者について情報交換しました。
情報交換により佐々木小次郎という名の侍を危険人物と認識しました。
【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人を殺した罪を背負っていく覚悟、重度の疲労、右腕上腕に打撲(ほぼ完治)、右肩に裂傷(手当て済)、SOS団特別団員認定
[装備]:クロスボウ、スコップ(元トラックのドア)、73式小型トラック(荷台)
[道具]:支給品一式、ハーモニカ@デジモンアドベンチャー、デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、
:クローンリキッドごくう@ドラえもん(残り3回)、真紅のベヘリット@ベルセルク、ぶりぶりざえもんのデイパック(中身なし)
[思考・状況]
1、ぶりぶりざえもん…………
2、ハルヒとアルルゥにグレーテルのことを説明。
3、八神太一、長門有希の友人との合流。
基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。
[備考]
ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
ぶりぶりざえもんは死亡したと思い込んでいます。
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:頭部に重度の打撲(意識は回復。だがまだ無理な運動は禁物)、左上腕に負傷(ほぼ完治)
心の整理はほぼ完了、回復直後による疲労感
[装備]:73式小型トラック(後部座席)
[道具]:支給品一式、着せ替えカメラ(残り19回)@ドラえもん、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)
[思考・状況]
基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出。
1、ひとまず映画館に到着したら作戦会議
[備考]
腕と頭部には、風の包帯が巻かれています。
【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:左腕骨折(添え木による処置が施されている)、思考にノイズ(活性化中?)、SOS団正規団員
[装備]:73式小型トラック(後部座席)
[道具]:デイバッグ/支給品一式/タヌ機(1回使用可能)
[思考・状況]:
1、涼宮ハルヒの安全を最優先。
2、小次郎に目を付けられないように注意する
[備考]
癒しの風による回復力促進に伴い、添木等の措置をして安静にしていれば半日程度で骨折は完治すると思われます。
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:右肩・左足に打撲(ほぼ完治)、SOS団特別団員認定
[装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、ハルヒデザインのメイド服、73式小型トラック(後部座席)
[道具]:無し
[思考・状況]
1、トグサ達についていく
[共通思考]:映画館で休息をとる。佐々木小次郎を最優先に警戒。
[共同アイテム]:おにぎり弁当のゴミ(後部座席に置いてあります)
RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)、マウンテンバイク (荷台に置いてあります)
*時系列順で読む
Back:[[「ブリブリーブリブリー」]] Next:[[Infection of tears]]
*投下順で読む
Back:[[「ブリブリーブリブリー」]] Next:[[Infection of tears]]
|185:[[どうしようか]]|次元大介|206:[[【背中で泣いてる 男の美学】]]|
|187:[[「救いのヒーロー」(後編)]]|トグサ|203:[[【薄暗い劇場の中で】]]|
|187:[[「救いのヒーロー」(後編)]]|石田ヤマト|203:[[【薄暗い劇場の中で】]]|
|187:[[「救いのヒーロー」(後編)]]|涼宮ハルヒ|203:[[【薄暗い劇場の中で】]]|
|187:[[「救いのヒーロー」(後編)]]|長門有希|203:[[【薄暗い劇場の中で】]]|
|187:[[「救いのヒーロー」(後編)]]|アルルゥ|203:[[【薄暗い劇場の中で】]]|
*孤独な笑みを夕陽にさらして ◆lbhhgwAtQE
『警告します。禁止区域に抵触しています。あと30秒以内に爆破します』
既に禁止エリアに指定されていた地区A-4に足を踏み入れた瞬間に聞こえたのはそんな警告音。
「――ったく、どこまでも俺達を追い詰めて遊ぶ気かよ……」
これで、地図の外へ出た時と同じ警告がされることを次元は確認したことになる。
警告音に従い、スタコラと禁止区域を出ると、次元は近くにあった電柱に寄りかかった。
「さて、これからどうするかだが……」
地図の範囲外、及び追加指定された禁止エリアに進入した場合の首輪の反応は確認した。
埋葬までは行かないが、ソロモンや圭一の遺体を弔うこともした。
蒼星石の残骸ごとだが首輪のサンプルも回収した。
とすれば、ここに留まっている理由は無い。
脱出の鍵を握ってあるであろう青狸やその仲間と思われる少年達を探す為にも、移動すべきだろう。
だが脇腹を負傷している以上、激しい動きは出来ない。
ならば、なるべく敵に会わないように移動しなくてはならない。
次元はそう考えると、幹線道路を一本外れた道を警戒しながら南下しはじめた。
そのように、歩き始めてから少しして。
――だから! あたし一人で行くからいいって言ってるでしょ!!――
突如、耳にそんな若い女性の声が飛び込んできた。
「……こりゃあ、何の騒ぎだってんだ?」
音源は幹線道路の方向。
次元は声の主の正体を確かめるべく、幹線道路に繋がる路地へと入ると、その陰からその様子を見始める。
すると、彼の目に映ったのは一台の軍用トラックと、そこに乗る複数の男女。
「参加者……だろうな」
首で鈍く光るそれを確認すると、次元は彼らの正体を見極めるべく、観察を続ける。
――危険といったら危険だ。絶対に行かせる訳には――
――それじゃ、誰がルパンを弔ってあげるのよ! まさか放ったらかしにしておく気!?――
――ルパン、なかま! アルルゥもルパンの所行く!――
「ルパン……だと!?」
次元の耳が捉えたのは、常に自分の隣にいた頼れる相棒の名前。
どうやら、会話から察するに彼女らはルパンと接触していたようだ。
「あいつが……ねぇ」
彼女らがルパンと接触していたのなら、その居場所を聞き出して是非合流したいところだ。
――もし彼が生きていたとしたら、の話だが。
現実では、ルパンは既に死んでしまったという。
ならば、合流が叶うはずもなく、路上で堂々大声を上げるという危険行為を行う彼らに接触する必要も無い。
――だが。
「――あー、お取り込み中悪いんだがなぁ、ちょっといいかい?」
気付けば次元の足は彼女らのいるトラックへと向いていた。
◆
時はやや遡り。
赤いコスプレ少女、そして金髪青服の剣士の襲撃から何とか脱出したトグサ達を乗せたトラックは道路を北へと走っていた。
そして、そのトラックの中で襲撃によって肩を負傷したヤマトはアルルゥに手当てをしてもらっていた。
「…………ありがとう」
「……ん!」
アルルゥはハルヒや長門の持っていたハンカチを細く千切ったものを包帯代わりにして、黙々とヤマトの肩に巻いていく。
そんな姿を見て、ハルヒは感心する。
「ふぅん……アルちゃん、随分手馴れてるわね」
「……ん。おねえちゃんのやりかた見てたから慣れてる」
「しっかりしてるのねぇ、アルちゃんは」
ハルヒがそう言って頭を撫でてやると、アルルゥは「んふ~」と気持ち良さそうな声を出して鳴く。
……そして、一通り手当てが終わると、ハルヒは今度はヤマトの方を向く。
「……それに引き換え、あんたはねぇ……まったく! 子供の癖にあんな大見得切って飛び出しちゃって無謀にも程があるわ」
セイバーを食い止めるために立ち向かったことを指してハルヒは半ば非難するような形で喋る。
「ああ言うのは、勇気じゃなくって蛮勇か無謀って言うのよ! 車が間に合ったからいいけど、もし少しでもタイミングがズレたら……」
「ヤマトをあまり責めないでやってくれ」
ハルヒの言葉を遮ったのは、運転席のトグサだった。
「本来あそこであの剣士に立ち向かうべきだったのは俺だ。つまり、君の責めを受けるのは俺のはずだったんだ」
「だ、だけど……」
「それに……今はそっとしておいてくれないか」
ちらりとトグサは後部座席の向こう、荷台にいるヤマトの顔を見る。
その顔は、痛みや疲労から来るものとは違う、悲しい表情をしていた。
「ぶりぶりざえもん…………」
ヤマトが思うは、身を挺して剣士をトラックから退けてくれた役立たず――いや、かけがいのない仲間であり、自分たちにとって真の救いのヒーローだった豚のこと。
彼の脳裏にはその豚が最後に見せた勇者の眼差しが焼きついていた。
その表情を見て、ハルヒも言葉を詰まらせる。
「そ、それは分かってるけど…………」
流石のハルヒも、先程の一連の出来事を見て、そんなヤマトとぶりぶりざえもんの並々ならない関係は察していた。
自分だって、みくるの死をあんな形で見せられたら、こうなって、いやもっと酷いことになるかもしれない。
だが、それでも彼女は――
「涼宮ハルヒは、あの時金髪の剣士に立ち向かった石田ヤマトの事が心配だった。……だからこそ多少乱暴な物言いになっている。そう私は推測する」
「――ゆ、有希!!」
つまりはそういうわけだった。
結局はハルヒも出会って間もないとはいえ、行動を少しでもともにした仲間が危険な目に遭って平然としていられるほど薄情ではない。
「ま、そ、そういうわけだから、次からは自分の身の事もちゃんと考えなさい、いいわね!?」
「…………」
ハルヒの問いかけに、ヤマトは黙ったまま。
そんな彼を見ていて、彼女はふと思い出した。
自分にも離れ離れになったままの仲間がいたことを。
「ねぇ……そういえばルパンはどうしたの? さっき病院にいたってことは橋を渡ってきたはずでしょ。あそこにいたはずのルパンはどうしたの?」
口ではそう言いつつも、薄々と気づいていた。
橋にいたはずの彼が、橋を渡ってきたこのトラックにいないという事は……。
すると、運転席からその答えが聞こえてきた。
「橋の途中には確かに君がルパンと呼んでいたと思われる男性がいたよ。…………ただし、遺体の状態でね」
トグサは直接生前のルパンを見たわけではなかった。
だが、橋を通過時に見たその男の遺体は、ハルヒの話を聞いていたヤマトから伝えられた特徴と一致する部分が多すぎた。
それゆえ、彼は橋の男をルパンと確定した。
「昼の放送でも、ルパンという名前が呼ばれていた。…………彼の死は確実だろう」
「……そう」
そして、それを聞いたハルヒの口から漏れたのは、そんな溜息ともつかない言葉。
彼女の中で予感は確信へと変わった。
ハルヒは自分が間に合わなかったことに悔しさを覚えると同時に、ある決意をした。
「――ねぇ、えっとトグサさん、だったっけ。車止めてくれない?」
「どうした? 具合でも悪くなったのか?」
ミラーで追跡が無いことを確認してトラックを路肩に停車したトグサは、後ろを振り返る。
すると、後部座席にいたハルヒは、先程とは違う面持ちをしたまま口を開いた。
「あたし、ちょっと用事があるから、ここで降りるわ」
「……は?」
いきなりの言葉に、トグサは言葉を失う。
「一体どうしたんだ? 何でわざわざ降りるなんてことを……」
「言ったでしょう、用事が出来たのよ」
「だからその用事っていうのは何なんだ? 君が助けようとしたルパンという男はもう――」
「その話は聞いたわよ。……聞いたからこそ、私はあいつに会いたいのよ。――そしてちゃんと弔ってあげたいの」
ハルヒは俯き加減に言葉を紡ぐ。
「あいつはね……ルパンはね、仮にもSOS団の団員なの。そして団長であるあたしは、団員をちゃんと弔う義務がある。……あいつの体、橋にいるまんまなんでしょ?」
「あぁ。あの時は病院行くのに忙しかったから――って、そうじゃなくって! そんなのを認められるわけが無いだろう!
後ろからはまだ襲撃してきた連中が追いかけてきてるかもしれないんだぞ」
「だから! あたし一人で行くからいいって言ってるでしょ!! あたし一人で行くだけなら、あんた達に迷惑が掛かる訳でもないし」
そんな言い分を聞いて、トグサは更に語気を強めた。
「尚更駄目だ! 君はまだ重傷患者なんだ。そんなふらついた体で一人にするわけにはいかない」
「――それに、先程自身で言っていた“自分の身の事もちゃんと考えなさい”という注意事項に抵触する。……明らかな矛盾」
長門もそう言いながら、静かにだが反論する。
――だが、それでもハルヒは意志を曲げない。
「……そ、それはそれ! これはこれよ! 誰が何といっても私は――」
ハルヒが車を出るべくドアに手をかけようとするが、その手をトグサが掴んで止める。
「危険といったら危険だ。絶対に行かせる訳にはいかない」
「それじゃ、誰がルパンを弔ってあげるのよ! まさか放ったらかしにしておく気!?」
「ルパン、なかま! アルルゥもルパンの所行く!」
そして、ここで更に荷台でヤマトの手当てをしていたアルルゥが加わるものだから、話は更にややこしくなる。
「おいおい、君までそんな――」
「……いいの?」
「ん! ルパンなかま! ハルヒおねーちゃんが行くならアルルゥも行く!」
「アルちゃん――!!」
ハルヒは、アルルゥの小さな体を抱き寄せる。
――が、一方でトグサは抗議を続ける。
「今の状況が分からないのか!? 武器も無い、襲撃者に追われてる可能性がある、夜が近い、それに何よりその頭の怪我。……何一つ安心できる余地が無いんだぞ!」
「そ、そんなの何とかしてみせるわよ! それに武器ならこのカメラだってあるんだし!」
ハルヒはデイパックから着せ替えカメラを取り出すと、それを掲げる。
だが、何も知らないトグサにとってはそれはただの変わった形をしたカメラにしか見えない。
――そもそも、着せ替えカメラは武器としてはとても利用できた代物ではないわけだが。
「おいおい、そのカメラのどこが武器――」
トグサの苦言が続きそうになったその時だった。
「――あー、お取り込み中悪いんだがなぁ、ちょっといいかい?」
トラックに乗る誰のものとも違う、渋い男の声が車外からしてきた。
トラックに乗る面々に声を掛けてきたのは、黒に身を包み、帽子を目深に被った男。
いかにも怪しいその男に、皆はすぐに警戒をする。
トグサは銃に手をかけ、長門は眼鏡を掛けてタヌ機の使用準備をする――が。
「おっと、そんな警戒しなさんな。……俺はゲームに乗っちゃいねえよ」
男は早々に両手を軽く挙げて、警戒を解くように呼びかけてきた。
だが、彼らは構えを解かない。
トグサ達にとって、あくまで今の次元は突然の闖入者。
出来ればトグサもこのような疑心暗鬼になるような真似はしたくなかったが、先程の襲撃があったばかりである以上、警戒するに越したことは無かった。
「……あんたは誰だ?」
「俺は次元大介。――さっき、お前さんらの話の中に出てきたルパンって奴の知り合いさ」
「……ルパンの知り合いですって!?」
次元の自己紹介に一番驚いた顔をしていたのは他ならぬハルヒだ。
「それじゃ、あんたが早撃ちが得意だっていう次元大介ってわけ!?」
「他に同姓同名の参加者がいない以上、その次元大介が俺なのは確かだろうな」
「――――で、その早撃ちが得意なあんたが、どうして俺達に近づいてきた?」
その問いを聞くと、次元は帽子に手を当てて顔を下へ向ける。
「ま、やっぱそこが気になるだろうな。……正直、俺も隙だらけで格好の的になりそうなお前さんらに近づくのはリスクが高いと承知していたよ」
「……? だったら何故?」
「――ルパンの野郎がどんな連中と行動していたのか……それが知りたかったのかもなあ、あいつの相棒を長年してきた俺としてはよ」
そんな次元の言葉に一同が黙る中、ハルヒが口を開いた。
「――あんた、本当に戦う気は無いのね?」
「そっちから襲ってこない限りはな。それにあの仮面野郎のいう事を聞くほど俺だって馬鹿じゃあない」
すると、ハルヒは何か納得したように頷く。
「そう……。だったら信じてあげる。敵じゃないってね」
「お、おい、そんな安易に――!!」
「前にルパンから聞いた事があるのよ。次元っていう相棒がどんな男なのかってね。……それを聞く分だと、私にはこいつがあたしたちを襲うとは思えないわけ」
「そりゃどうも、っと」
おどけてみせる次元を見て、トグサも観念したように銃から手を離す。
長門は依然、眼鏡を装着したままだったが。
「名乗ってなかったな。……俺はトグサ。一応、元の世界では警察に所属していた」
警察手帳を見せて自己紹介をするトグサに、次元は一瞬怯む。
彼は今までに警察から追われるような事を少なからず……もとい大いにしてきた。
反射的に警察と聞いて、足が逃げようとしたが……今はそうもいってられない状況だ。
いつぞやのルパンと銭形のように共闘関係を結ぶ他ないだろう。
「あぁ、こっちこそよろしく頼むよ」
◆
ホテルで何かがあったこと、市街中心地で巨大な爆発があったこと、病院にて赤いコスプレ少女や金髪青服の剣士に襲われたこと。
次元がトグサ達と接触して手に入れた情報はどれも明るくないものばかりだった。
そして、何より知りたかったルパンの動向については――
「なるほど、お前さん方を庇ってねぇ……あいつらしいな」
女の為に身を犠牲にする――まさにルパン三世という男の生き様の集大成のようだ。
「……私達がもっと早く助けを呼んでればルパンも――」
ハルヒは俯きながらも、言葉を続ける。
だが、そんな彼女の肩に次元は手を置く。
「いんや、お前さんが気に病むことはない」
「…………」
「それにお前さんとそこの……アルルゥだったか? お前らを結果的に助けられたんだ。あいつだって本望だろうよ」
それを聞いて、ハルヒは黙ったまま涙を流しはじめる。
今まで我慢していた分も含めて、堰を切ったようにそれは流れる。
「……ハルヒおねーちゃん、また泣いてる?」
アルルゥがそんなハルヒの顔を見て尋ねるが、彼女は答えない。
今のハルヒはただ泣くばかりであった。
次元はいきなりの落涙に戸惑うが、そんな彼へ今度はトグサが問いかけてきた。
「……それで、さっき言っていた話は本当なのか?」
「さっきの? ――あぁ、小次郎の事か? こんなときに出鱈目言えるかよ。んなことしたらお前さん方に何されるやら」
トグサが問いただしたのは、次元が話した佐々木小次郎がこの道の先で襲撃をしてきたという話。
ルパンの話をする前に、交換条件として先に話していたのだ。
「本当だとしたら、この先にはまだその小次郎という男がいるということになるが……」
「それはどうだろうな。あいつ、戦いが終わったら西の方に行っちまったみたいだから、今はいないんじゃないか?」
「そうか……」
子供達を運んでいる以上、ゲームに乗った参加者のいる方角へ車を走らせることは出来るだけしたくない。
「小次郎って奴はどうも〝兵〟を探してるらしいからよ。子連れのあんたらなら襲う気は起こさねぇかもな」
「兵……か」
トグサはちらりと長門の方を見る。
強化義体である彼女の力を見たことのある彼からすれば、彼女はいわゆる兵に部類する存在だ。
もし、彼女の力量をその小次郎という男が見極めたとすれば……。
「平気。私がボロを出さなければいいこと」
「……え、いや、しかし――」
「このまま南下しても敵がいる可能性がある。……それにもう少し北上すれば映画館がある。そこで休憩できる」
トグサが迷っている間に、長門が新たな提案をしてくる。
「映画館か。……ま、怪我人もいることだし、休憩するにはもってこいかもな。いざって時の避難口も多そうだしよ」
「怪我人って……そういえば、あんたも大怪我してるじゃないか」
トグサが指差した先は、次元の脇腹。
布を巻いても尚血が滲むそこは、ソロモンに食らわされた一撃による傷のある場所。
決して軽傷とはいえないが、次元はそれを隠すように笑う。
「これか? ま、かすり傷だ、大層なもんじゃねぇ。……そんじゃ、あんた方は早ぇとこ映画館かそこらまで行って休んどくこったな」
「……あんたはどうするんだ?」
「俺か? 俺は少しばかり用事が出来たわ」
「用事……だと?」
次元は頷く。
「ああ。相棒の顔を一度拝んでやりたくてよ。……こんなところで死んじまった馬鹿な相棒の顔をな」
次元の言葉に真っ先に反応したのはついさっきまで泣いていたハルヒだった。
「拝むって……あんたもしかして……」
「お前さんのその体じゃ、こっから橋まで行くのも大変だろ。……だから、俺が代わりにあいつを弔ってきてやるよ」
「……そう。なら、あんたに任せるわ。相棒のあんたが行った方があいつも喜ぶだろうし」
「ま、俺より不二子や他の女が行った方が喜びそうだがな、あいつの場合」
――と、おどけて見せるとハルヒも「そうね」とその泣きはらした顔に笑みを浮かべる。
だが、その言葉に驚いたのはトグサだった。
「――本気か? 怪我してるっていうのにそんな……」
「だから言ったろ、かすり傷だって。それに俺は小次郎に兵のレッテル貼られてるんでな。あんたらの傍にいたんじゃ厄介なことになるだろうよ」
確かに次元が小次郎から狙われているとするならば、連れて北上することは危険だ。
ならば、この措置もやむなしか……。
そう悟ると、彼はおもむろにメモ用紙を取り出し何かを走り書きして、それを次元へと手渡した。
「……こいつは?」
「首輪やこのゲーム自体に対する俺の考えをまとめた考察だ。道中、もしタチコマという名の青い蜘蛛みたいな戦車を見つけたらこれを渡して欲しい」
「蜘蛛みたいな戦車……ねぇ」
訝しげにする次元であったが、腕が槍になる人間や意思を持った人形とつい先程まで一緒だったことを思い出し、ありえない話ではないと考える。
「それとセラスという金髪の婦警がいたら、俺が無事だと伝えてやってくれ」
「あぁ、了解了解」
するとハルヒやアルルゥも身を乗り出して、次元に声を掛ける。
「――あ、それならあたしもキョンっていうぱっとしない男子学生がいたら、『勝手に死んだら許さない!』って――」
「――アルルゥもおねーちゃん達に無事だって――」
「あぁ、待った待った!! 俺は電話交換手でも郵便屋でもないんだ、そんな一度に伝えられても覚えきれないぞ!」
矢継ぎ早に伝言を伝えられ、流石の次元も戸惑ってしまう。
次元はひとまずメモ用紙を取り出すとそれに順にトグサらが口にした知人の名前をメモしてゆく。
そして、それが終わると彼はトラックの荷台にいたままになっていた少年に声を掛ける。
「よぉ、ボウズ。お前さんはいいのか? 何か伝えとくことがあるなら聞いとくぞ」
そんな次元の声に顔を上げると、ヤマトは力無い声で呟く。
「……八神太一っていうゴーグルつけてる俺と同い年くらいの子供がいるので、見つけたら俺が無事だってことを伝えてください」
「八神太一ねぇ……了解了解」
メモを一通り終え、次元はそのメモをポケットへと突っ込む。
そして、それと同時に別のメモ用紙を二枚、トグサに手渡した。
「……こいつは俺が実際に禁止エリアに入って調べた情報だ。……なんかの形で役立ててくれや」
「ああ、そうさせてもらう」
すると、メモを見ながら、トグサは気付いたように問う。
「――そういえば、お前の知り合いは誰かいないのか?」
「いるにはいる……峰不二子っつう女がな。けど気をつけろ、あいつは心の底で何考えてるか分からないから」
「あぁ、承知した」
「――んじゃ、日が完全に沈まないうちに、とっとと出発するかね」
大きく伸びをして、次元は道路の南方を見据える。
「そんじゃ、ガキ共は任せたぜ、トグサ」
「ああ。そっちも無事でいろよ」
「――分かってるさ。……そんじゃ、また会えたらな」
次元がトラックから離れ、南へと――橋へと向かって歩き出す。
すると、ハルヒがトラックから身を乗り出して次元へと叫ぶ。
「次元――!! ルパンを頼んだわよ!!」
夕陽が差し、黒一色の影となった男の背中はその声を聞いて、片手を挙げて答えた。
その男の背中はハルヒ達にはとても大きく見えた――。
【C-4/幹線道路上 一日目/夕方(放送近し)】
【次元大介@ルパン三世】
[状態]:疲労(小)、ショック、わき腹にケガ(激しく動き過ぎると大出血の恐れあり・一応手当て済み)
[装備]:朝倉涼子のコンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、454カスール カスタムオート(弾:7/7)@HELLSING(ズボンとの間に挟んであります)
[道具]:支給品一式4人分(水食料二食分消費)、13mm爆裂鉄鋼弾(34発) @HELLSING、レイピア
蒼星石の亡骸(首輪つき)、リボン、ナイフを背負う紐、双眼鏡(蒼星石用)
ハリセン、望遠鏡、ボロボロの拡声器(運用に問題なし) 、蒼星石のローザミスティカ
トグサの考察メモ、トラック組の知人の名前宛てのメッセージを書いたメモ
[思考・状況]
1:周囲を警戒しながらD-3の橋へ行き、ルパンを弔う。
2:トグサらの知り合いを見つけたら伝言を伝える。
3:殺された少女(静香)の友達と青い狸を探す
4:圭一と蒼星石の知り合いを探す。蒼星石の遺体については慎重に取り扱う。
5:怪我の治療ができる場所(できれば病院以外)を探す。
6:ギガゾンビを殺し、ゲームから脱出する。
7:仲間を見つけられたら、首輪を回収する。
基本:こちらから戦闘する気はないが、向かってくる相手には容赦しない
[備考]
情報交換により、ピンク髪に甲冑の弓使い(シグナム)、赤いコスプレ東洋人少女(カレイドルビー)、
羽根の生えた黒い人形(水銀燈)、及び金髪青服の剣士(セイバー)を危険人物と認識しました。
【トラック組(SOS団) 運転:トグサ】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:自分の不甲斐なさへの怒り
[装備]:73式小型トラック(運転席)
S&W M19(残弾1/6)、暗視ゴーグル(望遠機能付き)/刺身包丁/ナイフ×10本/フォーク×10本
[道具]:支給品一式/警察手帳(元々持参していた物)/技術手袋(残り17回)@ドラえもん
首輪の情報等が書かれたメモ2枚
[思考]:
基本:子供達を護りつつ、脱出の手立てを模索
1、進路を北へ。目指すは映画館。
2、情報および協力者の収集、情報端末の入手。
3、タチコマ及び光、エルルゥ、八神太一の捜索。
[備考]
風・次元と探している参加者について情報交換しました。
情報交換により佐々木小次郎という名の侍を危険人物と認識しました。
【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人を殺した罪を背負っていく覚悟、重度の疲労、右腕上腕に打撲(ほぼ完治)、右肩に裂傷(手当て済)、SOS団特別団員認定
[装備]:クロスボウ、スコップ(元トラックのドア)、73式小型トラック(荷台)
[道具]:支給品一式、ハーモニカ@デジモンアドベンチャー、デジヴァイス@デジモンアドベンチャー
クローンリキッドごくう@ドラえもん(残り3回)、真紅のベヘリット@ベルセルク、ぶりぶりざえもんのデイパック(中身なし)
[思考・状況]
1、ぶりぶりざえもん…………
2、ハルヒとアルルゥにグレーテルのことを説明。
3、八神太一、長門有希の友人との合流。
基本:これ以上の犠牲は増やしたくない。生き残って元の世界に戻り、元の世界を救う。
[備考]
ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
ぶりぶりざえもんは死亡したと思い込んでいます。
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:頭部に重度の打撲(意識は回復。だがまだ無理な運動は禁物)、左上腕に負傷(ほぼ完治)
心の整理はほぼ完了、回復直後による疲労感
[装備]:73式小型トラック(後部座席)
[道具]:支給品一式、着せ替えカメラ(残り19回)@ドラえもん、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)
[思考・状況]
基本:SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出。
1、ひとまず映画館に到着したら作戦会議
[備考]
腕と頭部には、風の包帯が巻かれています。
【長門有希@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:左腕骨折(添え木による処置が施されている)、思考にノイズ(活性化中?)、SOS団正規団員
[装備]:73式小型トラック(後部座席)
[道具]:支給品一式/タヌ機(1回使用可能) @ドラえもん
[思考・状況]:
1、涼宮ハルヒの安全を最優先。
2、小次郎に目を付けられないように注意する
[備考]
癒しの風による回復力促進に伴い、添木等の措置をして安静にしていれば半日程度で骨折は完治すると思われます。
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:右肩・左足に打撲(ほぼ完治)、SOS団特別団員認定
[装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、ハルヒデザインのメイド服、73式小型トラック(後部座席)
[道具]:無し
[思考・状況]
1、トグサ達についていく
[共通思考]:映画館で休息をとる。佐々木小次郎を最優先に警戒。
[共同アイテム]:おにぎり弁当のゴミ(後部座席に置いてあります)
RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)、マウンテンバイク(荷台に置いてあります)
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