「正義×正義」(2021/11/24 (水) 14:37:06) の最新版変更点
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*正義×正義 ◆S8pgx99zVs
傷ついた劉鳳への手当てが終わった後、峰不二子と劉鳳は午後六時――予定されている
三回目の放送までの短い時間を狭い薬局の中で過ごしていた。
劉鳳はこの悪趣味なゲームの舞台に立って以来摂っていなかった食事を摂っている。
義憤と焦燥に駆られ忘れていたが手当てを受け一度落ち着いたところで、思い出したかのように
身体がそれを欲求した。バッグに収められていた簡素な食事を、敵にするように喰らい飲み込む。
食事を続ける劉鳳の視線の先には、カウンター奥の薬品棚を漁っている峰不二子の姿がある。
棚の中身を一つ一つ確認しては時々その中身を取り出し、紙袋に小分けにしてペンでそこに
何かを書き記していた。
「……何をしている?」
劉鳳の問いに彼女は振り返ることなく、作業を続けながら答える。
「薬を調達しているのよ。鎮痛剤とか解熱剤とか……
これから先長丁場になるかもしれないし、それに怪我をするたびにここへと戻ってくるわけにも
いかないでしょう?」
峰不二子の意見は真っ当な物だ。それには劉鳳も納得した。だが、
「薬だったら表にも出ているが?」
店内に並んだ商品棚にはカラフルな箱に入った薬が数多く並んでいる。
続く質問にも彼女は作業を止めることなく答えた。
「そっちに出ているのは一般医薬品でしょう? それではこの場じゃ効果が薄いわ。
私が今出しているのは医療用医薬品。同じ薬ならより効果の高い方を持っていくべきよ」
劉鳳は再び納得する。つまり、
「薬に詳しいんだな」
そう感じた劉鳳の言葉を峰不二子は軽く否定した。
「そうでもないわ。自分の知っている物を集めているだけ。職業柄よくお世話になるからね。
もし、知識が十分にあるのならここにあるもの全部持っていくわ。コレがあるんだから」
そう言うと、彼女は棚から振り返り無限に物を飲み込む不可思議なデイバッグを指した。
そして必要な物は揃ったのか、カウンターの上に並んだ紙袋をそのバッグの中に収めていく。
「そういえば聞いていなかった。おまえの職業は何なんだ?」
劉鳳は先の彼女の発言から、それをまだ確認していなかったことを思い出し質問した。
薬品に馴染みがあるなど、医者でなければ思いつくのは荒事関係だ。
先の変装の件もある。相手の素性はしっかりと確認しておかねばならない。
一度はそれで痛い目にあっているのだから。
「探検家。世界中のお宝を求めて旅をしているの。トレジャーハンターと言ってもいいわ」
予想外の答えが返ってきたが、劉鳳はなるほどと納得した。
よく観察すれば彼女の立ち振る舞いは素人のそれではない。それにこの状況下での冷静さ。
それなりに修羅場を潜った経験があるということだ。
まだ信用しきれはしないが、頼りになる人間だと劉鳳は結論付けた。
作業を終えた峰不二子がいくつかのアンプルや瓶を手にして劉鳳の元へと戻ってくる。
彼女はその半分を劉鳳の前に置き、残った中から一本蓋を開けて口に運びながら言った。
「ビタミン剤に滋養強壮剤よ。飲んでおきなさい。そんなパンよりかはエネルギーになるわ」
峰不二子は一つを飲み終わるとすぐに残りに手をつける。劉鳳もそれにならい薬に手を出した。
そして二人が全てのアンプルを空にした時、ちょうど午後六時の――三回目の放送が始まった。
――桜田ジュン。そして真紅。
続けて呼ばれた二人の名に劉鳳は拳を強く固めた。
どちらの死にも彼に責任があると言える。少なくとも彼はそう思う。
桜田ジュン――彼の死については自身の不甲斐なさが原因だ。保護を謳っておきながら
目を離しその間に殺されてしまった。しかも彼を殺害したのは自分が見逃してしまった、あの
長門有希である。HOLYの隊員としてはあるまじき失態だ。
真紅――峰不二子が戦っている所を目撃したと言うが、どうやら殺されてしまったらしい。
今となっては彼女が正義だったのか悪だったのかは不明だが、少なくとも自分が最初の時に
捕まえていればこの結果は防げただろう。
劉鳳は自責の念を断罪の炎へと転化し床から立ち上がった。この場の悪を駆逐せんがために。
だが、それと同じように重要なことがある。弱者を守ることだ。
「――不二子。俺を真紅が戦っていた場所まで案内してくれ。
まだ襲われている人が残っているかもしれない。そして、悪がまだそこにいたならば
俺はそれを断罪しなければならない」
二人は休息の場であった薬局を出ると、沈む夕日に向かって道を西へと進んだ。
激しい戦いの痕跡が残るその場所にそれはあった。
薔薇の色のドレスは埃に塗れ色を失い。金色だった長い髪は光を返さない。
そして気品と誇りを湛えていた蒼い目はその片方が失われていた。
――壊れた人形。それはまるで誰かの忘れ物のようにそこへと転がっていた。
劉鳳は真紅との邂逅に思いを返すが、地に落ちたそれにあの時の面影は見られない。
そっと手を触れてみるが、その感触は生きていたとは思えないほどに空虚だった。
だが、この人形――彼女が生きていたことは皮肉にも首に嵌った枷が証明している。
「劉鳳。これは何かしら?」
峰不二子が指差しているのは真紅の胸の上に浮かんだ淡い光だ。
何か中心にあるというわけでもなく、ただ光が浮かんでいる。
「さぁ……、前に会った時には見なかったが……」
劉鳳はその光へと手を伸ばす。手が近づくと光は吸いよせられるようにその手のひらに収まった。
重さも温度も感じないが、何か不思議な感触がある。
「これが何かは解らないが、……何らかの意思がある」
ような気がする。と、劉鳳は感じた。
「……意思? じゃあ、その光はこの人形の魂だとか言うのかしら?」
峰不二子の言葉にはそれがナンセンスだというニュアンスがある。確かにそうだが、
「どちらにしろ捨て置けはしない」
謎の光をバッグへと収めると、劉鳳は真紅の躯を抱きかかえる。
子供程の大きさだが重さはその半分にも満たない。その軽さが不在――死をより実感させた。
埃を払い、水で煤を落とし着衣の乱れを正すと、劉鳳は真紅の躯を再びその場へと横たえる。
失われた部分はどうしようもなかったが、彼女は再び生きていた時の気品を取り戻した。
いや、戦いによって一部を失ったその猟奇的な姿はまた別の――倒錯的な魅力を得ている。
沈む夕日によって色を紅から蒼へと変える彼女をしばらくの間見ていたが、峰不二子に急かされ
劉鳳はその場を後にした。
今必要なのは感傷ではない。正義と行動だ。
渡った橋をまた戻り、今度は先程とは逆の北東の方角へと足を進める。
劉鳳が死なせてしまったもう一人の少年――桜田ジュンの言葉によればその方角にあるホテルに
人を集めている人間がいるはずである。
「集まっているかしら? それに罠だということも考えられない?」
峰不二子は最もな疑問を呈する。此処は安易に人を信用できる場所で無い事はすでに明白だ。
「少なくとも、そこに人を集めようとしていた人間がいることは確かだ」
それが善人か悪人かは解らない。
だが、劉鳳は前に進むだけだ。正義に回り道や逃げ道は存在しない。ただ真っ当するのみ。
隣を歩く峰不二子は嘆息する。
想像以上に融通が利かない。思いのほか真っ直ぐな男で、そして単純であるが故にブレにくい。
彼を操作するには理由――なんらかの媒介。つまりは餌が欲しい。
このままでは諸共に玉砕しかねない――と、そこまで考えたところで彼女の思考は停止した。
歩みを止めた同行者に劉鳳は訝しがる。
「……どうした?」
彼女は通りを挟んだ反対側の歩道を指差す。その先にあったものは、
「……豚?」
二本の足で道を歩く子ブタの姿であった。
「……アレもこのゲームの参加者かしら?」
二人とも、真紅の亡骸を見てこの悪趣味なゲームには人間以外の者も参加していると実感した
ばかりであったが、ブタとは予想外であった。しかもただの獣ではなく人の様に歩いている。
……どうしたものか。その突拍子の無さに逡巡する二人をよそに、ブタはその短い足を交互に
繰り出してこの場を去ろうとしている。
「声をかけよう」
それが何であれもう目の前から逃すわけにはいかない。そういった後悔はもう繰り返さないと
誓ったばかりだ。そう意を決し、劉鳳は目の前を横切るブタに声をかけた。
「――おい、そこの豚ッ!!」
そんな声のかけ方はないだろうと、隣の峰不二子は心の中でツっこむ。
案の定、二人に気づいたブタは顔を真っ赤にしてこちら側へと駆けて来た。
「誰が豚だッ!!」
いや、ブタには違いないだろうと、峰不二子はもう一度心の中でツっこんだ。
劉鳳はまじまじと目の前のブタを観察する。歩くだけではなく言葉も理解するとは……。
そしてやはりと言っていいのかこのブタも参加者の一人(?) であったらしい。その首にそれを示す
環が嵌っているのが見える。
それから数分。取り留めの無いブタに対し二人が繰り返し言葉を重ねた結果、ブタの名前と
目的が判明した。
「つまりぶりぶりざえもんは、怪我した仲間を助けるために魔法を使う少女を探しているのね?」
「そういうことだ。やっとわかったか」
尊大な態度のぶりぶりざえもんに、峰不二子は辟易とした表情だ。
ブタ――ぶりぶりざえもんと言う名前らしい――によると、途中で出会った仲間の中に重傷者がおり、
それを治療するために彼が以前世話になった"魔法"を使う少女を探している途中だと言う。
その少女は今は禁止エリアに指定されているE-4エリアへと向かっていたらしく、ぶりぶりざえもんは
それを手がかりにE-4エリアの周りを回っていたらしい。彼の言う病院へと向かった仲間は
おそらくその特徴から峰不二子が橋の近くで見た者達だろう。怪我を負ったが逃げ果せたらしい。
先程とは一転し、状況が複雑になった。
劉鳳は考える。選択の誤りによる犠牲はもう出したくない。病院に向かったという重傷者は手を
失っていたとぶりぶりざえもんは答えた。ならば、そちらにはもう猶予はないだろう。適切な処置が
施さなければ人事不省に陥るのも近いはずだ。
そしてもう一方の魔法を使うという少女。魔法というものが何なのかは解らないが、ここまでくれば
理解できなくともそれがあると信じられる。問題は目の前のブタに任せておけるかということだ。
先程の歩いている様を見た限りでは到底探しえるとは思えない。こちらが間に合わなければ先の
重傷者も間に合わないだろう。
優先順位が高いのは魔法を使う少女だ。協力をあおげればこの先幾人もの人を救えるはず。
しかし、すでに猶予のない人間もいる。ならばどうするか……?
「私が病院へと向かいましょうか?」
峰不二子の唐突な提案に劉鳳は驚く。
「何故って? あなたが考えていることぐらいお見通しよ」
彼女も同じ思考をし、同じ結論に達したと劉鳳は覚る。
「おまえを危険にさらすことになるが……」
ここで彼女に死なれれば元の木阿弥だ。失敗を繰り返すことになる。
「でも、それ以外にベターな方法はないわ。事は一刻を争う」
最良の結果だけを残したいが、理想と現実にはいつもギャップがある。
「解った。……だが、気をつけろ」
峰不二子は余裕の微笑みを返す。
「まかしておいて。そう簡単にやられたりはしないわ。それに怪我人の手当てもね」
二人の意思が決定したところで劉鳳はぶりぶりざえもんの方へと向き直る。
「いくぞぶりぶりざえもんッ!」
言うが早いか、ぶりぶりざえもんを掴んで跳躍。ビルの壁面を駆け上がりながら絶影を顕現化し、
それをさらに真・絶影へと進化。壁を蹴ってその背に乗ると、二人を乗せた影は空気を切って
その場から飛び去った。
劉鳳が去るのを確認してそこに残った峰不二子はほくそえんだ。
病院に向かえば、劉鳳を操るのに必要な手札――「弱者」が手に入るだろう。
その手札をうまく切れば、あの正義馬鹿を操ることも容易いはずだ。
しかも、それは接触を狙っていたあの青いタヌキの集団である。彼らが誰かに討ち取られる前に
接触できるというのは幸運だ。
踵を返し病院がある北の方角へと向く。すでに日は姿を消しあらゆる所に影が落ちている。
これならば隠れて進むのも容易い。
峰不二子は影から影へ身を隠しながら、音一つ立てずに病院へと向かい路地を駆けた。
【E-3/市街地(北東)/1日目-夜】
【峰不二子@ルパン三世】
[状態]:健康
[装備]:コルトSAA(弾数:6/6発/予備弾:12発)
[道具]
支給品一式(パン×1、水1/10消費)/ダイヤの指輪/銭型変装セット@ルパン三世
【薬局で入手した薬や用具】
鎮痛剤/解熱剤/睡眠薬/胃腸薬/下剤/利尿剤/ビタミン剤/滋養強壮薬
抗生物質/治療キット(消毒薬/包帯各種/鋏/テープ/注射器)/虫除けスプレー
※種類別に小分けにしてあります。
[思考]
基本:ゲームからの脱出。
1.D-3の病院へ向かいぶりぶりざえもんの仲間を手当てする。
2.そして青いタヌキ(ドラえもん)から情報を得る。
3.病院で劉鳳とぶりぶりざえもんの帰りを待つ。
4.F-1の瓦礫に埋もれたデイバッグはいつか回収したい。
5.ルパンが本当に死んでいるか確認したい。
[備考]:E-4の爆発について、劉鳳の主観を元にした説明を聞きました。
立ち並ぶビルの上を、大きな影が疾走する。
疾走する影のその背には劉鳳。そしてさらに彼の背にはぶりぶりざえもん。
眼下に流れる道や建物にくまなく目を走らせながら劉鳳は背中のぶりぶりざえもんに話しかける。
「ぶりぶりざえもんッ!! お前は何者だッ!!」
その質問にぶりぶりざえもんは誇らしげに答えを返した。
「救いのヒーロー、ぶりぶりざえもんだ」
その義勇ある行動から自分と同じものを感じていた劉鳳はその答えに得心する。
そして自身の素性を明らかにした。
「俺は対アルター特殊部隊HOLYの劉鳳だ」
聞きなれない言葉にぶりぶりざえもんは混乱する。劉鳳は改めて自身を表す言葉を紡いだ。
「いたずらに世を乱す唾棄すべき悪を断罪し、絶対正義の秩序を築くために活動している」
劉鳳の大仰な物言いにぶりぶりざえもんは少したじろぐ。
「お前もおたすけしているのか……?」
その問いに間髪入れずに劉鳳は答える。
「そうだッ! 貴様は正義かッ!?」
劉鳳の問いにぶりぶりざえもんもすぐに答える。
「正義? ああもちろんだ。なんといっても私は救いのヒーローだからな!」
殺戮と不安と疑心。弱者の心を蝕むこの最悪の舞台で、今二つの正義の意志が同調しその強さを
増している。それはこの舞台そのものを切り裂かんとする一条の矢と成ろうとしていた。
「俺達二人で悪を断罪するぞぶりぶりざえもん!」
「ああ!そしてみんなをおたすけする!」
いつの時代、どの場所でも正義の志は普遍だ。そしてそれは人に限らない。
それを確信すると、劉鳳は絶影を駆るスピードを増し、正義を成すべく暗闇を疾走した。
【F-4/市街地(北)/1日目-夜】
【劉鳳@スクライド】
[状態]:少し高揚している/軽い疲労/全身に中程度の負傷(手当て済)
[装備]:なし
[道具]
支給品一式(-2食)/斬鉄剣@ルパン三世/SOS団腕章『団長』@涼宮ハルヒの憂鬱
真紅似のビスクドール/ローザミスティカ(真紅)
[思考]
基本:自分の正義を貫く。
1.ぶりぶりざえもんと共に鳳凰寺風を探す。(※とりあえずE-4エリア周辺)
2.風を見つけたら病院へと戻る。
3.悪を断罪する。(※現在確認している断罪対象)
※アーカード、長門有希(朝倉涼子)、シグナム、ウォルターを殺した犯人。
4.ゲームに乗っていない人達を保護し、ここから解放する。
5.機会があればホテルに向かう。
[備考]
※朝倉涼子のことを『長門有希』と誤認しています。
※ジュンを殺害し、E-4で爆発を起こした犯人を朝倉涼子と思っています。
※例え相手が無害そうに見える相手でも、多少手荒くなっても油断無く応対します。
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:頭部にたんこぶ/ヤマトとの友情の芽生え/正義に対する目覚め
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:困っている人を探し、救いのヒーローとしておたすけする。
1.鳳凰寺風、高町なのはを捜して病院(太一たちのもと)へ連れて行く。
2.ヤマトたちとの合流。
3.救いのヒーローとしてギガゾンビを打倒する。
*時系列順で読む
Back:[[WHEN THEY CRY]] Next:[[FOOLY COOLY]]
*投下順で読む
Back:[[WHEN THEY CRY]] Next:[[FOOLY COOLY]]
|201:[[上手くズルく生きて]]|峰不二子|225:[[黒き王女]]|
|201:[[上手くズルく生きて]]|劉鳳|228:[[ここがいわゆる正念場(前編)]]|
|198:[[Infection of tears]]|ぶりぶりざえもん|228:[[ここがいわゆる正念場(前編)]]|
*正義×正義 ◆S8pgx99zVs
傷ついた劉鳳への手当てが終わった後、峰不二子と劉鳳は午後六時――予定されている
三回目の放送までの短い時間を狭い薬局の中で過ごしていた。
劉鳳はこの悪趣味なゲームの舞台に立って以来摂っていなかった食事を摂っている。
義憤と焦燥に駆られ忘れていたが手当てを受け一度落ち着いたところで、思い出したかのように身体がそれを欲求した。
バッグに収められていた簡素な食事を、敵にするように喰らい飲み込む。
食事を続ける劉鳳の視線の先には、カウンター奥の薬品棚を漁っている峰不二子の姿がある。
棚の中身を一つ一つ確認しては時々その中身を取り出し、紙袋に小分けにしてペンでそこに何かを書き記していた。
「……何をしている?」
劉鳳の問いに彼女は振り返ることなく、作業を続けながら答える。
「薬を調達しているのよ。鎮痛剤とか解熱剤とか……
これから先長丁場になるかもしれないし、それに怪我をするたびにここへと戻ってくるわけにもいかないでしょう?」
峰不二子の意見は真っ当な物だ。それには劉鳳も納得した。だが、
「薬だったら表にも出ているが?」
店内に並んだ商品棚にはカラフルな箱に入った薬が数多く並んでいる。
続く質問にも彼女は作業を止めることなく答えた。
「そっちに出ているのは一般医薬品でしょう? それではこの場じゃ効果が薄いわ。
私が今出しているのは医療用医薬品。同じ薬ならより効果の高い方を持っていくべきよ」
劉鳳は再び納得する。つまり、
「薬に詳しいんだな」
そう感じた劉鳳の言葉を峰不二子は軽く否定した。
「そうでもないわ。自分の知っている物を集めているだけ。職業柄よくお世話になるからね。
もし、知識が十分にあるのならここにあるもの全部持っていくわ。コレがあるんだから」
そう言うと、彼女は棚から振り返り無限に物を飲み込む不可思議なデイバッグを指した。
そして必要な物は揃ったのか、カウンターの上に並んだ紙袋をそのバッグの中に収めていく。
「そういえば聞いていなかった。おまえの職業は何なんだ?」
劉鳳は先の彼女の発言から、それをまだ確認していなかったことを思い出し質問した。
薬品に馴染みがあるなど、医者でなければ思いつくのは荒事関係だ。
先の変装の件もある。相手の素性はしっかりと確認しておかねばならない。
一度はそれで痛い目にあっているのだから。
「探検家。世界中のお宝を求めて旅をしているの。トレジャーハンターと言ってもいいわ」
予想外の答えが返ってきたが、劉鳳はなるほどと納得した。
よく観察すれば彼女の立ち振る舞いは素人のそれではない。それにこの状況下での冷静さ。
それなりに修羅場を潜った経験があるということだ。
まだ信用しきれはしないが、頼りになる人間だと劉鳳は結論付けた。
作業を終えた峰不二子がいくつかのアンプルや瓶を手にして劉鳳の元へと戻ってくる。
彼女はその半分を劉鳳の前に置き、残った中から一本蓋を開けて口に運びながら言った。
「ビタミン剤に滋養強壮剤よ。飲んでおきなさい。そんなパンよりかはエネルギーになるわ」
峰不二子は一つを飲み終わるとすぐに残りに手をつける。劉鳳もそれにならい薬に手を出した。
そして二人が全てのアンプルを空にした時、ちょうど午後六時の――三回目の放送が始まった。
――桜田ジュン。そして真紅。
続けて呼ばれた二人の名に劉鳳は拳を強く固めた。
どちらの死にも彼に責任があると言える。少なくとも彼はそう思う。
桜田ジュン――彼の死については自身の不甲斐なさが原因だ。
保護を謳っておきながら目を離しその間に殺されてしまった。
しかも彼を殺害したのは自分が見逃してしまった、あの長門有希である。HOLYの隊員としてはあるまじき失態だ。
真紅――峰不二子が戦っている所を目撃したと言うが、どうやら殺されてしまったらしい。
今となっては彼女が正義だったのか悪だったのかは不明だが、
少なくとも自分が最初の時に捕まえていればこの結果は防げただろう。
劉鳳は自責の念を断罪の炎へと転化し床から立ち上がった。この場の悪を駆逐せんがために。
だが、それと同じように重要なことがある。弱者を守ることだ。
「――不二子。俺を真紅が戦っていた場所まで案内してくれ。
まだ襲われている人が残っているかもしれない。
そして、悪がまだそこにいたならば俺はそれを断罪しなければならない」
二人は休息の場であった薬局を出ると、沈む夕日に向かって道を西へと進んだ。
激しい戦いの痕跡が残るその場所にそれはあった。
薔薇の色のドレスは埃に塗れ色を失い。金色だった長い髪は光を返さない。
そして気品と誇りを湛えていた蒼い目はその片方が失われていた。
――壊れた人形。それはまるで誰かの忘れ物のようにそこへと転がっていた。
劉鳳は真紅との邂逅に思いを返すが、地に落ちたそれにあの時の面影は見られない。
そっと手を触れてみるが、その感触は生きていたとは思えないほどに空虚だった。
だが、この人形――彼女が生きていたことは皮肉にも首に嵌った枷が証明している。
「劉鳳。これは何かしら?」
峰不二子が指差しているのは真紅の胸の上に浮かんだ淡い光だ。
何か中心にあるというわけでもなく、ただ光が浮かんでいる。
「さぁ……、前に会った時には見なかったが……」
劉鳳はその光へと手を伸ばす。手が近づくと光は吸いよせられるようにその手のひらに収まった。
重さも温度も感じないが、何か不思議な感触がある。
「これが何かは解らないが、……何らかの意思がある」
ような気がする。と、劉鳳は感じた。
「……意思? じゃあ、その光はこの人形の魂だとか言うのかしら?」
峰不二子の言葉にはそれがナンセンスだというニュアンスがある。確かにそうだが、
「どちらにしろ捨て置けはしない」
謎の光をバッグへと収めると、劉鳳は真紅の躯を抱きかかえる。
子供程の大きさだが重さはその半分にも満たない。その軽さが不在――死をより実感させた。
埃を払い、水で煤を落とし着衣の乱れを正すと、劉鳳は真紅の躯を再びその場へと横たえる。
失われた部分はどうしようもなかったが、彼女は再び生きていた時の気品を取り戻した。
いや、戦いによって一部を失ったその猟奇的な姿はまた別の――倒錯的な魅力を得ている。
沈む夕日によって色を紅から蒼へと変える彼女をしばらくの間見ていたが、
峰不二子に急かされ劉鳳はその場を後にした。
今必要なのは感傷ではない。正義と行動だ。
渡った橋をまた戻り、今度は先程とは逆の北東の方角へと足を進める。
劉鳳が死なせてしまったもう一人の少年――桜田ジュンの言葉によれば、
その方角にあるホテルに人を集めている人間がいるはずである。
「集まっているかしら? それに罠だということも考えられない?」
峰不二子は最もな疑問を呈する。此処は安易に人を信用できる場所で無い事はすでに明白だ。
「少なくとも、そこに人を集めようとしていた人間がいることは確かだ」
それが善人か悪人かは解らない。
だが、劉鳳は前に進むだけだ。正義に回り道や逃げ道は存在しない。ただ真っ当するのみ。
隣を歩く峰不二子は嘆息する。
想像以上に融通が利かない。思いのほか真っ直ぐな男で、そして単純であるが故にブレにくい。
彼を操作するには理由――なんらかの媒介。つまりは餌が欲しい。
このままでは諸共に玉砕しかねない――と、そこまで考えたところで彼女の思考は停止した。
歩みを止めた同行者に劉鳳は訝しがる。
「……どうした?」
彼女は通りを挟んだ反対側の歩道を指差す。その先にあったものは、
「……豚?」
二本の足で道を歩く子ブタの姿であった。
「……アレもこのゲームの参加者かしら?」
二人とも、真紅の亡骸を見てこの悪趣味なゲームには人間以外の者も参加していると実感したばかりであったが、
ブタとは予想外であった。しかもただの獣ではなく人の様に歩いている。
……どうしたものか。その突拍子の無さに逡巡する二人をよそに、
ブタはその短い足を交互に繰り出してこの場を去ろうとしている。
「声をかけよう」
それが何であれもう目の前から逃すわけにはいかない。そういった後悔はもう繰り返さないと誓ったばかりだ。
そう意を決し、劉鳳は目の前を横切るブタに声をかけた。
「――おい、そこの豚ッ!!」
そんな声のかけ方はないだろうと、隣の峰不二子は心の中でツっこむ。
案の定、二人に気づいたブタは顔を真っ赤にしてこちら側へと駆けて来た。
「誰が豚だッ!!」
いや、ブタには違いないだろうと、峰不二子はもう一度心の中でツっこんだ。
劉鳳はまじまじと目の前のブタを観察する。歩くだけではなく言葉も理解するとは……。
そしてやはりと言っていいのかこのブタも参加者の一人(?) であったらしい。
その首にそれを示す環が嵌っているのが見える。
それから数分。取り留めの無いブタに対し二人が繰り返し言葉を重ねた結果、ブタの名前と目的が判明した。
「つまりぶりぶりざえもんは、怪我した仲間を助けるために魔法を使う少女を探しているのね?」
「そういうことだ。やっとわかったか」
尊大な態度のぶりぶりざえもんに、峰不二子は辟易とした表情だ。
ブタ――ぶりぶりざえもんという名前らしい――によると、途中で出会った仲間の中に重傷者がおり、
それを治療するために彼が以前世話になった"魔法"を使う少女を探している途中だと言う。
その少女は今は禁止エリアに指定されているE-4エリアへと向かっていたらしく、
ぶりぶりざえもんはそれを手がかりにE-4エリアの周りを回っていたらしい。
彼の言う病院へと向かった仲間はおそらくその特徴から峰不二子が橋の近くで見た者達だろう。怪我を負ったが逃げ果せたらしい。
先程とは一転し、状況が複雑になった。
劉鳳は考える。選択の誤りによる犠牲はもう出したくない。
病院に向かったという重傷者は手を失っていたとぶりぶりざえもんは答えた。
ならば、そちらにはもう猶予はないだろう。適切な処置が施さなければ人事不省に陥るのも近いはずだ。
そしてもう一方の魔法を使うという少女。魔法というものが何なのかは解らないが、ここまでくれば理解できなくともそれがあると信じられる。
問題は目の前のブタに任せておけるかということだ。
先程の歩いている様を見た限りでは到底探しえるとは思えない。こちらが間に合わなければ先の重傷者も間に合わないだろう。
優先順位が高いのは魔法を使う少女だ。協力をあおげればこの先幾人もの人を救えるはず。
しかし、すでに猶予のない人間もいる。ならばどうするか……?
「私が病院へと向かいましょうか?」
峰不二子の唐突な提案に劉鳳は驚く。
「何故って? あなたが考えていることぐらいお見通しよ」
彼女も同じ思考をし、同じ結論に達したと劉鳳は覚る。
「おまえを危険にさらすことになるが……」
ここで彼女に死なれれば元の木阿弥だ。失敗を繰り返すことになる。
「でも、それ以外にベターな方法はないわ。事は一刻を争う」
最良の結果だけを残したいが、理想と現実にはいつもギャップがある。
「解った。……だが、気をつけろ」
峰不二子は余裕の微笑みを返す。
「まかしておいて。そう簡単にやられたりはしないわ。それに怪我人の手当てもね」
二人の意思が決定したところで劉鳳はぶりぶりざえもんの方へと向き直る。
「いくぞぶりぶりざえもんッ!」
言うが早いか、ぶりぶりざえもんを掴んで跳躍。ビルの壁面を駆け上がりながら絶影を顕現化し、それをさらに真・絶影へと進化。
壁を蹴ってその背に乗ると、二人を乗せた影は空気を切ってその場から飛び去った。
劉鳳が去るのを確認してそこに残った峰不二子はほくそえんだ。
病院に向かえば、劉鳳を操るのに必要な手札――「弱者」が手に入るだろう。
その手札をうまく切れば、あの正義馬鹿を操ることも容易いはずだ。
しかも、それは接触を狙っていたあの青いタヌキの集団である。
彼らが誰かに討ち取られる前に接触できるというのは幸運だ。
踵を返し病院がある北の方角へと向く。すでに日は姿を消しあらゆる所に影が落ちている。
これならば隠れて進むのも容易い。
峰不二子は影から影へ身を隠しながら、音一つ立てずに病院へと向かい路地を駆けた。
【E-3/市街地(北東)/1日目-夜】
【峰不二子@ルパン三世】
[状態]:健康
[装備]:コルトSAA(弾数:6/6発/予備弾:12発)
[道具]
支給品一式(パン×1、水1/10消費)/ダイヤの指輪/銭型変装セット@ルパン三世
【薬局で入手した薬や用具】
鎮痛剤/解熱剤/睡眠薬/胃腸薬/下剤/利尿剤/ビタミン剤/滋養強壮薬
抗生物質/治療キット(消毒薬/包帯各種/鋏/テープ/注射器)/虫除けスプレー
※種類別に小分けにしてあります。
[思考]
基本:ゲームからの脱出。
1.D-3の病院へ向かいぶりぶりざえもんの仲間を手当てする。
2.そして青いタヌキ(ドラえもん)から情報を得る。
3.病院で劉鳳とぶりぶりざえもんの帰りを待つ。
4.F-1の瓦礫に埋もれたデイバッグはいつか回収したい。
5.ルパンが本当に死んでいるか確認したい。
[備考]:E-4の爆発について、劉鳳の主観を元にした説明を聞きました。
立ち並ぶビルの上を、大きな影が疾走する。
疾走する影のその背には劉鳳。そしてさらに彼の背にはぶりぶりざえもん。
眼下に流れる道や建物にくまなく目を走らせながら劉鳳は背中のぶりぶりざえもんに話しかける。
「ぶりぶりざえもんッ!! お前は何者だッ!!」
その質問にぶりぶりざえもんは誇らしげに答えを返した。
「救いのヒーロー、ぶりぶりざえもんだ」
その義勇ある行動から自分と同じものを感じていた劉鳳はその答えに得心する。
そして自身の素性を明らかにした。
「俺は対アルター特殊部隊HOLYの劉鳳だ」
聞きなれない言葉にぶりぶりざえもんは混乱する。劉鳳は改めて自身を表す言葉を紡いだ。
「いたずらに世を乱す唾棄すべき悪を断罪し、絶対正義の秩序を築くために活動している」
劉鳳の大仰な物言いにぶりぶりざえもんは少したじろぐ。
「お前もおたすけしているのか……?」
その問いに間髪入れずに劉鳳は答える。
「そうだッ! 貴様は正義かッ!?」
劉鳳の問いにぶりぶりざえもんもすぐに答える。
「正義? ああもちろんだ。なんといっても私は救いのヒーローだからな!」
殺戮と不安と疑心。弱者の心を蝕むこの最悪の舞台で、今二つの正義の意志が同調しその強さを増している。
それはこの舞台そのものを切り裂かんとする一条の矢と成ろうとしていた。
「俺達二人で悪を断罪するぞぶりぶりざえもん!」
「ああ!そしてみんなをおたすけする!」
いつの時代、どの場所でも正義の志は普遍だ。そしてそれは人に限らない。
それを確信すると、劉鳳は絶影を駆るスピードを増し、正義を成すべく暗闇を疾走した。
【F-4/市街地(北)/1日目-夜】
【劉鳳@スクライド】
[状態]:少し高揚している/軽い疲労/全身に中程度の負傷(手当て済)
[装備]:なし
[道具]
支給品一式(-2食)/斬鉄剣@ルパン三世/SOS団腕章『団長』@涼宮ハルヒの憂鬱
真紅似のビスクドール/ローザミスティカ(真紅) @ローゼンメイデン
[思考]
基本:自分の正義を貫く。
1.ぶりぶりざえもんと共に鳳凰寺風を探す。(※とりあえずE-4エリア周辺)
2.風を見つけたら病院へと戻る。
3.悪を断罪する。(※現在確認している断罪対象)
※アーカード、長門有希(朝倉涼子)、シグナム、ウォルターを殺した犯人。
4.ゲームに乗っていない人達を保護し、ここから解放する。
5.機会があればホテルに向かう。
[備考]
※朝倉涼子のことを『長門有希』と誤認しています。
※ジュンを殺害し、E-4で爆発を起こした犯人を朝倉涼子と思っています。
※例え相手が無害そうに見える相手でも、多少手荒くなっても油断無く応対します。
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:頭部にたんこぶ/ヤマトとの友情の芽生え/正義に対する目覚め
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:困っている人を探し、救いのヒーローとしておたすけする。
1.鳳凰寺風、高町なのはを捜して病院(太一たちのもと)へ連れて行く。
2.ヤマトたちとの合流。
3.救いのヒーローとしてギガゾンビを打倒する。
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