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*「選んだら進め。進み続けろ」 ◆LXe12sNRSs
『カズく~ん!』
……んあ?
なんだ、かなみか。どうしたよ、大声出して。
『どうしたよ、じゃないよ。今日は牧場で牛さんの世話をするって約束だったのに、なんでこんなところでお昼寝してるの?』
あー……それはだな…………ワリィ!
急用思い出しちまってさぁ。パスさせてもらうわ。
『もう、またそんなこと言って。いつになったら真面目に働いてくれるの?』
『働かざる者食うべからずって、昔の偉い人も言ってたよ』
『カズくんが働いてくれないと、お米も野菜も買えなくなっちゃうんだから』
『カズマさんが働かないと、私たちが苦労するんだからね』
『ねー』
『ねー』
あぁ、だから悪かったって。この埋め合わせは今度必ず……って、かなみが二人!?
『? 何言ってるのカズくん。私はかなみで、こっちは――』
『――高町なのは。声は似てるけど、別人だよ。どうしちゃったの?』
かなみとなのは……あれ? いや、なんか違和感が……
『寝すぎで頭がボーっとしてるんじゃないの? ウチは私とカズくんとなのはちゃんの三人家族だったじゃない』
『そうそう』
そうだったっけ? そうだった気もするな……ん? そうなのか……?
『――カッズマく~ん。どうしたんだ? 珍しく頭使ってるような顔しちゃってよ』
珍しくは余計だ! ……っと、君島か。何の用だ?
『おいおい忘れちまったのか? 仕事だよ。お前向けの、とびきりヤベー仕事。忘れちまったんならもっかい説明してやろうか?』
――いや、いい。思い出した。たしか今日だったな……HOLY野郎共との決戦は。
『ああ。HOLYのネイティブアルター狩り……俺たちはそれを止めるために、今日襲撃をかける』
そこに奴もいるんだろ。おもしれぇ。やってやろうじゃねぇか。
『ったくHOLYのこととなると目の色変わるなお前は。まぁいいや。じゃ、仲間のところに案内するぜ』
仲間――か。
どんな面子が揃おうが関係ねぇ。俺は、あの男をぶっ飛ばす。ただそれだけだ。
足手まといになるような奴なら置いてくし、使える奴だとしても邪魔はさせねぇ。
そう……あいつとの決着だけは!
『――さ、紹介するぜみんな。こいつが、あのHOLYに正面からケンカ吹っかけたことで有名なカズマくんだ』
『へぇー。あんたがカズマさんか。俺は八神太一。よろしくな』
『俺は石田ヤマト。あんたの噂は聞いてるよ。なんでも、HOLY内部にまで潜入して大暴れしたとか』
……おい、君島。こいつらガキだぞ。
『歳で力量見んのか、カズマくんは? かなみちゃんやなのはちゃんに生活支えられてる身で』
……ま、いいさ。どんな奴が仲間にいようが関係ねぇ。邪魔にさえならなきゃ――
『おいおいお前ら、誰かを忘れちゃいねぇか? この全てを打ち崩すアルター使い、ビフ君を――げふっ!?』
『――デケェ図体して道塞いでんじゃねーよ。通れねぇだろうが』
……おい、君島。今度はかなみくれぇの女の子が現れたぞ。あれも仲間か。
『もちろんだとも』
『……鉄槌の騎士ヴィータだ。ま、せいぜいあたしの足手まといにならないよう気をつけな』
……頭痛がしてきたぞオイ。
『文句言ってる暇はねぇぜ。さっそく敵さんのご登場だ』
おうおう、いるねぇHOLYの制服着た連中がわんさかと。
だが眼中にねぇ。俺の狙いはただ一人……あの男だけだ。
『カズマさんがいかないなら俺が先陣を切るぜ! アグモン、進化だァ――ッ!』
『太一に遅れるな! ガブモン、こっちも進化だ――ッ!』
うおッ!? なんだ、怪獣が出てきやがったぞ!? あれが太一とヤマトのアルターか!?
『あいつらばっかいいカッコさせるかよ! ――グラーフアイゼン!』
今度は巨大ハンマーかよ! 思ったよりやるじゃねぇかあいつら。
いいぜ……これならこっちも集中できる。あの野郎との喧嘩によぉ。
『――また性懲りもなく俺の前に現れたか。この社会不適合者が』
――見つけた、劉鳳!!
俺はこの数日間、ずっとテメェに借りを返すことだけを考えてたんだ。
前のようにはいかねぇ。今度こそ見せ付けてやるよォ……この俺の、カズマの!
『やはり毒虫はどう足掻いたところで毒虫だな。低俗な考えしか持たぬから社会に適合することも敵わない――絶影!』
言ってろ! 衝撃のファーストブリットォォォォォ!!!
『――ぐっ! どうやら少しは腕を上げたようだな。それでこそ俺も本気を出せるというものだ』
気にいらねェな……その上から見下すような目つき、ムカつくんだよ!
『何を怒る。これが俺とお前の立つ位置、その力の差だ。それよりもいいのか? お前の仲間が苦戦しているようだぞ』
仲間? ――――なッ!?
『うわあああああああ!』
『太一!? 太一、太一ィィィィィ!』
『悪いなボウズ共。お前らには死んでもらわにゃならん』
『恨みはない。ですが貴方にはここで潰えてもらいます……風王結界!』
『チクショウ! 踏ん張れグラーフアイゼン…………ぐ、あああああああああ!!』
太一! ヤマト! ヴィータ!?
『皆、貴様の身勝手さが原因で死んでいく。貴様ほどの力があれば、守ることもできたはずなのにだ』
うるせェ! 守るなんざ俺の性に合わぇんだよ!
『そうだったな。お前はそういう男だ。――なら、あいつらが死んでも同じことが言えるな』
なに――あれはっ、かなみ! なのは! 君島!?
なんで、なんであいつらまでこんなところに!?
『全ての死は貴様が招いた。誰が死のうが関係ない――貴様のその身勝手な考えが、周りの人間を死に至らしめるのだ! 絶影!』
やめろ、やめ――――……かなみ? なのは? 君島ああぁぁぁぁぁ!
太一! ヤマト! ヴィータ! 誰か、誰でもいいから返事をしやがれ!
なんで、なんでこんな……
『――速さだな。速さが足りなかった。ただそれだけさ』
――兄貴? なんでアンタがここに……
『いいかカズヤ? 俺がここで言う速さってのは、肉体的なスピードのことじゃない。決断力の速さだ。
お前の周りの人間がどんどん死んでいくのは誰のせいだ? それは殺した人間のせいじゃない。お前の遅さが原因だ。
お前が慕っていたあの子が死んだ時、お前は何をやっていた?
ウサギの少女が死んだ時、お前が彼女の名前を刻んだのはなんのためだ?
ゴーグルの少年が死んだ時、お前は何を決断した?
思い出せカズヤ。お前はこんなところで燻ってるような男じゃあない。
やることは遅いが地の力は強い。それは時として速さを捻じ伏せるほどにな。
考えろカズヤ。お前は今何がしたい? お前がするべきことはなんだ?
少なくともこんなところで眠って夢見てる場合じゃない。そもそもだな――』
うるせぇ……長ぇよ兄貴……
◇ ◇ ◇
ドガッ……。
重厚な破壊音を目覚ましに、カズマは閉じ切っていた両瞼を開眼させた。
起き抜けの虚ろな脳が、頭痛を訴えてくる。頭部になにやら痛みと水気を感じ、触れてみるとそこには赤い液体が付着していた。
血ではない。血よりももっと水っぽく、ところどころに実と種も付いている。それに皮も。
カズマが周囲の残骸から西瓜で頭を殴られたのだと推測する頃には、おぼろげな視界も前方に定まりつつあった。
そしてその場には、カズマの脳天に西瓜を投下した張本人がいる。
「よぉ、やっと起きたか大将。随分とご機嫌な頭してるな」
「テメェは――」
記憶の糸を辿ってみると、そのホットパンツにタトゥーの女はカズマの知人に分類された。
知人と言っても、それはかなり最悪な部類。大切な人の仇と誤解してドンパチを繰り広げ、それ以降はろくに会話もしていない、怒りを売りあった仲だった。
名前はたしか、レヴィ――カズマがその名を呼ぼうとした刹那、レヴィの手によって身体が後方に押し倒された。
そのままの勢いで圧し掛かられ、マウントポジションを取られる。
胸ぐらを乱暴に掴まれたかと思うと、彼女の怒り全開のしかめっ面が視界に飛び込んできた。
不思議と抵抗する気は起きない。まだ起き抜けで頭がボーっとしているせいだろうか。
周囲では「レヴィさん!」「おい、何を」などの男声が上がるが、どちらもカズマにとっては親しみの薄い声だった。
ふと気づけば、回りの情景も随分と見慣れぬ景色に変わっている。
いくつもの椅子に大きなスクリーン。部屋と称すにはあまりにだだっ広いスペース。
ロストグラウンドの崩壊地区で育ったカズマには馴染みが薄いが、ここが映画館であるということは辛うじて理解できた。
などと暢気に周囲に目をやっている時点で、目の前の彼女の怒りを増長させていることには気づけない。
「……西瓜クセェ」
「たりめェだ。そりゃあたしがぶつけてやったんだからな。
しかし失敗したぜ。テメェみてぇな寝ぼすけ起こすんなら、鉛弾ぶち込んでやった方が手っ取り早かった」
レヴィは眉間に皺を寄せ、これでもかと言わんばかりに睨みを利かせていた。
その怒りを行動で再現しようと、所持していた銃をカズマのこめかみに捻じ込む。
しかし、カズマは動じない。怯えるでも抵抗するでもなく、銃のことなどまるで意に関さずレヴィを見つめていた。
生気の抜け落ちた死霊のような眼差しは、彼を知る者から見れば違和感を感じずにはいられないほど異質なもの。
何があったのか、問い質すのも躊躇われる雰囲気だった。しかしレヴィは、
「ふざけんじゃねェぞ!」
カズマの様子などお構いなしに、眠たげな顔面を鉄拳で殴りつけた。
本気のパンチに弾け飛んだカズマは受け身を取ろうともせず、無様に床を転がる。
「おら、立てよコラ。あたしゃあこの一日、ずっとテメェに借りを返すことだけを考えてたんだ。いつまでも腑抜けてんじゃねェぞ」
カズマという男は、いかに相手が女とはいえ頬っ面を殴られて大人しくしているほど温厚な性格ではない。
即座に立ち上がり反撃の意志を示すのが当たり前――であったはずなのだが、彼は痛みを堪えるかのようにゆっくりと立ち上がった。
そこに気迫や威圧感はない。レヴィの言うとおり、正に『腑抜け』という言葉がお似合いの惨めな姿を晒していた。
「へへっ……チンピラだな、まるで。あいにくよ、俺はテメェみてぇなのを相手にしてる暇はねぇんだわ。やらなきゃいけねぇことがあるからよ」
「さっきまで寝てた野郎がナマ言ってんじゃねェぞ。テメェが腑抜けてるせいで、あたしのテールランプはとっくのとうに真っ赤っ赤だ。
もうな、収まりがつかねェんだよ……どっかの馬鹿を蜂の巣にでもしなけりゃな」
「やるってのか? あの時の続きをよ……おもしれぇ」
いつかのように、銃と拳を突きつけ合うカズマとレヴィ。
傍目から見ても一触即発と取れる光景だったが、その場にいた二人の傍観者――トグサとゲイナーは、止めようとはしなかった。
いや、正確にはトグサは止めようとしたのだが、ゲイナーが先にそれを押し止めたのだ。
少し前の彼だったら、トグサと一緒になってレヴィを羽交い絞めにしたことだろう。
だが、今はあの時とは違う。安心できる、と言ってしまうのはどこか悔しいが、この場面はレヴィに任せられるだけの信頼感があった。
現に、一触即発と思われた状況はいつまで経っても暗転しない。
レヴィはいつでも引き金を引ける体勢ではあったが、向かい合うカズマはいつまで経ってもアルターを発現しない。丸腰でレヴィと向かい合う。
単にアルターを駆使するだけの余力がなかったのか、それとも頭に西瓜をぶつけられたダメージが残っているのか。それは定かではない。
ただ事実として闘争は起こらず、睨み合ったままの状態に嫌気のさしてきたレヴィはついに――
「だァァーッ! なんッなんだテメェは!」
――キレた。
同時に、構えていた銃を撃つ、ではなく投げつける。
回転しながら飛んでいくべレッタを正面から受け、カズマはまたその場に倒れこんだ。
「死んだ魚みてェな眼しやがって! いいか、テメェは一回あたしに喧嘩売ってんだぞ!? その決着はまだついてねェ!
だけどな、こちとら弱虫小僧を甚振る趣味はねェんだよ! ピーピー泣き叫ぶガキ撃ったって面白くもなんともねェからな!」
再びカズマの胸ぐらを掴み上げ、大きく突き飛ばす。
やることは乱暴だが、それはひとえにカズマに対する憤慨、そして失望の表れだった。
レヴィが『借りを返す』と誓ったのは、銃弾を拳で弾き、右腕一本で森林破壊をやってのけるような天までイカシてるカズマだ。
間違っても、目の前にいるような腑抜けとは違う。
(死んだ魚の目……? この、俺が?)
レヴィの心境など知ったことではないカズマだったが、朦朧としていた意識はレヴィの挑発と罵声により徐々に変化を見せ、今の自分に疑問を抱きつつあった。
かなみが死んだ。君島が死んだ。ヴィータが死んだ。太一が死んだ。なのはが死んだ。クーガーが死んだ。ヤマトが死んだ。
カズマに関わった人間は、皆どこかで先に逝ってしまう。守れるはずだった存在が、カズマの身勝手さのせいで消えていく。
そんなことは知ったこっちゃない。俺に関わった奴には悪いが腹括ってもらう――以前、カズマが自分で言った言葉だった。
なのに、今の有様はなんだ。目の前で死んだ石田ヤマト、その姿が脳裏をうろついて離れない。
彼を救えなかった後ろめたさが、カズマにこんな眼をさせているとでもいうのだろうか。
(……違う。そんなんじゃねぇ。俺には足りなかったんだ。速さとか以前に、一番大事なものが足りてなかった)
悔しかった。
何もしない内に死んでいった仲間たち。目の前で別れることになってしまった仲間たち。自分の身の周りで起こる死の連続が。
もうあんな思いはしたくない。だから、守ろうとしてしまった。カズマという人間の本質に逆らって。
カズマは誰かを付きっ切りで守るようなタイプではない。大切なものが奪われたら、それを即行で奪い返すのが性に合っている。
(――『決意』だ。
こうと決めたら絶対に曲がらねぇ、道を逸れたり止まったりもしねぇ、何がなんでも突き進むっていう意志が足りなかったんだ。
一度こうと決めたら、自分が選んだんなら決して迷うな。迷えばそれが他者に伝染する。選んだら進め。進み続けろ)
今のカズマは、ヤマトの死によって止まってしまっている。太一に突き進むと約束し、それを破ったばかりに止まってしまった。
それがなんだって言うんだ。カズマにはまだ、やりたいことが残っている。
ムカツク奴はまだいるし、劉鳳に会ったらブチのめすつもりもある。
欲しいものは奪ってでも手に入れる――それが既に失われたものだとしても、止まったり退き帰したりはしない。
進む。ただ前を向き、ただ上を目指す。それしかできないし、それしかする気もない。
だから、
「立ち止まってるヒマなんか――ねェ!」
カズマは立ち上がった。咆哮と一緒に、瞳に魂を再燃させた。
「俺は進めぜ! 他人のことなんざ知ったことか! 着いて来てぇ奴だけ着いてくりゃあいい!
それでどうなろうが文句は言わせねぇ! あぁそうだ、俺は昔からそうやってきた! これからだって変わらねぇ!
かなみと君島とヴィータとなのはと太一とヤマト! ついでに兄貴もだ!
あいつらの名前はみんな刻んだ! ああそうだ、だから進むぜ俺は!」
死んだ魚は、一転して獣へと生まれ変わる。
それは絵に描いたような馬鹿で、愚直という言葉がピッタリ当てはまるような馬鹿で、馬鹿だった。
だが、それが素晴らしくカズマらしい。
「おい、一つだけ聞かせてくれ。君が気絶する直前に首輪が爆発して死んだ参加者がいるだろう? それはまさか」
「ヤマトだよ。石田ヤマト。太一のダチだった奴だ。詳しいことが知りたいんなら病院へ行きな。ドラえもんとのび太って奴らがいるからよ」
トグサの問いに対し最低限の返答を済ませ、カズマは映画館を出ていこうとした。
後を追おうとする者はいない。トグサもゲイナーも彼を止めようとはせず、レヴィに至っては完全に見限ったのか、そっぽ向いてしまっている。
そのレヴィに向かって、カズマは退室の間際にこう言い残した。
「そこのテメェ、レヴィっつったな! テメェの名前も刻んだからな! さっきの借りはいつかぜってェ返す! 覚えとけ!」
「あーウルセー。腰抜けのボウヤはさっさとどこかへ行っちまえタコ。
もしノコノコとあたしの前に姿見せてみろ。そんときは、今度こそその脳天に鉛弾ブチ込んでやるよ」
両者、最後まで顔を向け合うことはなく――だが二人とも密かに笑い、別の道を行った。
もし三度顔を合わせる時が来るとしたら、その時こそお互いがお互いの借りを返す時なのだろう。
今はただ、その時を待てばいい。自己の尊重とぶつけ合いは後回しで、今はただ、進み続ければいい。
映画館に残った西瓜の匂いはどこか甘ったるく、どこか刺激的だった。
◇ ◇ ◇
カズマが去り、トグサとゲイナー、レヴィの三人は情報交換を再開することにした。
映画館へ移動する際鉢合わせた両名は、トグサがカズマを背負っていたこととゲイナーがレヴィをうまく抑制したこともあり、無駄に争うこともなく交流を得ることができた。
カズマが目覚めるまでに提供を済ませたのは、この世界に連れて来られてからの簡単な情報のみ。
それぞれの知人関係とこれまでの経緯等、トグサはその中でタチコマの名を聞くことになった。
そして今、話題は首輪を中心とした脱出方面へと向いている。薄暗い映画館の事務室で、ゲイナーとトグサはペンを走らせていた。
『これが、その時の戦闘で燃え残った首輪です』
『首輪か。焼け焦げてはいるが、中身は問題はなさそうだな。技術手袋を試すいい機会だが、問題は起爆装置がまだ機能してるかどうかだな』
ゲイナーの提案により、会話は盗聴を考慮して筆談で進められている。
首輪は記されたネームが擦れるほどに焦げてしまっていたが、原型を留めている以上中身に変化はないだろう。
トグサが技術手袋による解体を決行するかどうか決めかねていると、筆談には参加していなかったレヴィが徐に近づいてきた。
「ったくいつまでウダウダやってんだよ。ようするに、こいつを使えば首輪は解体できんだろ? さっさと試しゃいいじゃねェか」
「な!? おい、ちょっと待て!」
筆談の意味を台無しにした上で、レヴィはトグサから技術手袋と問題の首輪を取り上げる。
そして躊躇いもなしに技術手袋を機動させ、首輪はものの数秒でバラバラに解体された。
「おぉ! スゲェじゃねーかコレ。どうだゲイナー、テメェの首輪でも試してみねェか?」
「やめてくださいよ! 既に外れた首輪だったからいいものを、普通に使ってたら絶対に爆発してますよ!」
レヴィの大胆な行動に、トグサは肝を冷やした。
だが、結果オーライではある。人の首から外れた首輪は既に機能を停止し、技術手袋の性能どおり無事解体できることが証明された。
もちろん、人の首に嵌ったままのものはまた別の話。あくまでも、首から外れた首輪の解体に成功したに過ぎない。
「どうしますトグサさん? もしこの現場がギガゾンビに監視されていたとしたら――」
「どの道、俺たちには引き返すことなんてできないさ。コソコソせずに堂々と中身を調べさせてもらう」
ホテルでセラスに説明した考察の件に続き、今回は首輪の解体にも成功したというのにギガゾンビ側からのアプローチはない。
やはり、トグサの『技術手袋で人の首から首輪を解除するには、それに加えて何か他の要因が必要になってくる』という推理は当たっているのだろう。
だからギガゾンビはまだ手出しをせず、悠々と傍観を決め込んでいる。
重要なのは、その『別の要因』だ。技術手袋で首輪を解除する際、仕掛けられている罠を外すようなパスが必要なはずなのである。
それは何なのか。首輪の中身を調べ推理していく。
「この小型機械の数々、どれが何の役割をしているか分かるか?」
「このマイクみたいなのは、盗聴のためのものでしょうね。それとこの配線が繋がってるのは爆弾、このアンテナっぽいの二つは受信装置で、
この超小型の計器は……何かを計測するためのもの?」
「それが何か、が問題だな。だが、これらはどれも機能を停止しているようだ。収音器具と思われる小型マイクは、何故か壊れてすらいる」
「解体したから機能が停止したのか、それとも参加者の首から外れた時点で機能を停止したのか……それによって考え方も変わってきますね」
「これらの機械を一つ一つ調べていくには、俺たちじゃ知識が足りない。それこそギガゾンビと同等の技術力を持った人間にしか分かり得ないだろうな」
「小難しいったらありゃしねェな。あたしはメシでも食うかね」
一人グルメテーブルかけを敷くレヴィはを尻目に、ゲイナーも空腹に耐えかね食料を取り出す。
しかし首輪の解体には成功したものの、考えは深まるばかり。
トグサとゲイナーという知恵者二人が合わさっても、専門的な未来技術の前では手も足も出ない。せいぜいそれらしい推測を並べるだけだ。
「とりあえず、首輪の中に監視道具は入っていないみたいですね。小型のカメラが搭載されている可能性も考えたんですけど」
「それなら監視可能範囲が参加者の視点に限定されるし、マフラーか何かで首元を覆えば簡単に監視を封じ込める。
中にはアーカードっていう心臓に首輪を取り付けられていた参加者もいるくらいだしな。それより気になるのはこの盗聴道具だ。
見たところ小型化を重視するあまり、性能は随分と低く抑えられているようだ。しかもこの首輪の場合、解体する以前に壊れていて使い物にならなくなってる」
「たぶん、フェイトちゃんとの戦闘の衝撃で壊れたんでしょうね。所持者の人が跡形もなく消し飛ぶほど、壮絶だったらしいですから」
「だが、盗聴機以外の機具に破損は見当たらない。これだけが壊れたのは、盗聴機の耐久度だけが低かったからだ。
そんな粗末なものを、監視道具の一環として用意するだろうか。殺し合いなんてしてれば、すぐに壊れるのは明白だ」
「僕ならしませんね。監視が外部から行われているとするなら、盗聴もそれとセットでやるのが普通だと思います。
それでも首輪に盗聴機を仕込みたいって言うなら、せいぜいそれは何かあった時の保険代わりにしかならない」
「保険……例えば監視機具に不具合が生じたり、参加者が監視の目の届かない場所に隠れてしまった時のための処置か。確かに有り得るな」
「なんか話がダリィな。寝てていいかゲイナー?」
「ご勝手にどうぞ」
さっそく寝息を立て始めたレヴィを無視し、ゲイナーとトグサは考察の海に沈む。
首輪の解体により分かったことは、監視と盗聴は外部から行われている。ただし、首輪には保険代わりの低性能盗聴機が仕掛けられている。まずこの二つ。
さらに受信装置はおそらく、外部からの起爆電波を受信するためのもの。片方はギガゾンビによる手動電波、もう片方は禁止エリアから発せられる電波を受信するのだろう。
小型計器が何を計測しているのかは、見当もつかない。そもそもこれら全ては推測の域を出ないものであり、確証を得るには機械工学についての知識が足りなさすぎた。
『問題は技術手袋を使った際、すんなり解除成功といくにはどうすればいいかだ』
『中の爆弾についた配線から推測するに、外部から干渉を受けるとすぐに起爆する仕組みになってるみたいです』
レヴィが寝に入り、考察の内容が首輪の確信に触れると判断した二人は、話し方を再び筆談に戻す。
『なら、爆弾の機能を一時的に停止させ、その隙に技術手袋で首輪を解除すればいいわけだ』
『問題はその方法ですね。この配線を断てばそれも可能でしょうけど、外側からではまず不可能だ』
『起爆しないようにうまく首輪を解除する方法……技術手袋でも無理となると、かなり難しくなってくるな』
『そんな方法、あるんですかね』
ゲイナーがそう記してから数分間、トグサの持つペンは動かなくなった。
爆弾の解体なら多少の心得もあるが、そこに未来技術が絡んでくるとなるとどうにも勝手が変わってくる。
難しい顔をするトグサ、すっかり就寝モードのレヴィ、両者の顔を見回した後、ゲイナーがペンを走らせる。
『トグサさん。唐突なことを聞きますが、「時間を止める方法」に心当たりはありませんか?』
それは、あまりに突拍子のない質問だった。
『時間を止める? どういうことだ?』
『僕のいた世界には、オーバーマンっていう巨大ロボットがいて、それらはオーバースキルという特殊な能力を秘めていました。
その中のラッシュロッドという機体は、「時間を止める」オーバースキルを持っていたんです。
時間を止めた範囲にいる人間は動くこともできないし、もちろん機械も一切の機能を停止します。
もし「時間を止める方法」があるとすれば、時間を止めてその隙に首輪を解除することが可能なんじゃないか……と』
『時間を止める……か。なるほど。だがあいにく、そんな非科学的な現象を起こす方法には心当たりがないな。
まぁ、数ある不思議な支給品の中にそういった道具が紛れ込んでいないとも限らないし、そのラッシュロッド自体がこの場に存在している可能性だってある』
『だとしたら、ラッシュロッドで時間を止めて首輪の機能を停止、その間に解除っていう理想が実現できます。
でも、たぶんオーバーマンが支給品として紛れ込んでいる可能性はない』
『巨大ロボなんて代物、殺し合いの武器として支給したらバランスを崩しかねないからな。
だがその発想はイエスだ。一時的に首輪の、最低限爆弾の機能だけでも止めることができれば、その隙に技術手袋が使える』
『今後の方針としては、それを可能にするための能力、もしくは道具の探索ですね』
『ああ。俺の推理としては、ネットワーク上に何かヒントが転がっているんじゃないかと思ったんだが……肝心の情報端末はまだ見つからないしな』
『どちらにしても、根気よく探すしかないですね。できれば僕たち以上に機械に詳しい人も』
『所詮は推測の上での推理。都合のいい仮定を並べて引いた線上の戯言でしかないからな』
それを境に、トグサとゲイナーの首輪に関する筆談は終了を迎えた。
◇ ◇ ◇
「バラバラにした首輪は、トグサさんが持っていてください。技術手袋もあるし、重要なアイテムは一箇所に纏めておいた方がいい」
「了解した。それで、ゲイナーたちはこれからどうする?」
レヴィを叩き起こした後、トグサたちはそれぞれの目的を果たすために一度映画館を出ることにした。
「僕は、六時にフェイトちゃんと駅で待ち合わせをしているんです。今から行かないと間に合わないだろうし、合流しだいすぐに病院へ向かいます」
「そうか。俺は一度病院へ行って、カズマの言っていた二人と接触してみようと思う。ヤマトが絡んでるということは、そこにハルヒとアルルゥもいるはずだからな。
……それにもし彼女たちと合流できたら、長門やヤマトのことも報告しなくちゃいけない。首輪関連以外にも、やらなきゃいけないことは山積みだ」
「あんまり無茶はしないでください。もう残り人数も少なくなってきてるし、トグサさんみたいな大人は希少だと思いますから」
横目で欠伸をするレヴィを見つつ、ゲイナーは呆れ顔で溜め息をつく。
トグサも彼の苦労を察したのか、複雑な面持ちで「頑張れよ、少年」と元気付けた。
「それじゃあ、僕たちは行きます。トグサさんもどうか気をつけて。ほら、レヴィさんも挨拶くらい」
「あぁ? メンドクセェな……ま、せいぜい頑張りな」
「ああ。じゃあな二人とも。またあとで落ち合えることを願ってるよ」
イイロク駅を目指して、ゲイナーとレヴィの姿が南へと遠ざかる。
それを見送ったトグサもマウンテンバイクに跨り、進路を病院へと定めた。
(タチコマ……お前の築いた交友関係は、無駄になんてならなかった)
ペダルを漕ぎマウンテンバイクを走らせる一方で、トグサは星空を見上げながら同僚達のことを思った。
残った者はただ一人。だがその一人は一番の新米であり、それ故に皆の意志を一身に受け継ぐ者でもあった。
トグサは進む。彼もまたカズマと同様に、立ち止まったりはしないのだろう。
(公安9課は俺やみんなが望む限り、犯罪に対して攻勢の組織であり続ける。これから先もずっとな)
――この意志を少佐へ。バトーへ。タチコマへ。
【B-4/2日目/黎明(2~3時範囲)】
【カズマ@スクライド】
[状態]:中程度の疲労、全身に重度の負傷(一部処置済)、西瓜臭い
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:気にいらねぇモンは叩き潰す、欲しいモンは奪う。もう止まったりはしねぇ、あとは進むだけだ!
1:変装ヤローを見つけ次第ぶっ飛ばす!
2:ドラえもんやのび太とはあとで合流。
3:気にいらねぇ奴はぶっ飛ばす!
4:レヴィにはいずれ借りを返す!
【B-4/2日目/黎明(3~4時範囲)】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、SOS団団員辞退は不許可
[装備]:S&W M19(残弾6/6発)、刺身包丁、ナイフとフォーク×各10本、マウンテンバイク
[道具]:デイバッグと支給品一式×2(食料-4)、S&W M19の弾丸(34発)、警察手帳(持参していた物)
技術手袋(使用回数:残り16回)@ドラえもん、首輪の情報等が書かれたメモ1枚(内部構造について追記済み)
解体された首輪、フェイトのメモの写し
[思考]
基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
1:病院へ向かいドラえもん、のび太と合流。カズマの行動についての経緯を問い質す。
2:病院にハルヒとアルルゥがいるかを確認。いないようなら彼女らを捜索。
3:病院に人が集まったら、改めて詳しい情報交換を行う。
4:機械に詳しい人物、首輪の機能を停止できる能力者及び道具(時間を止めるなど)の探索。
5:ハルヒからインスタントカメラを借りてロケ地巡りをやり直す。
6:情報および協力者の収集、情報端末の入手。
7:エルルゥの捜索。
[備考]
※風、次元と探している参加者について情報交換済み。
【魔法少女ラジカルレヴィちゃんチーム】
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:風邪の初期症状、頭にたんこぶ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
腹部と後頭部と顔面に相当なダメージ
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料一日分消費)、ロープ、フェイトのメモ、画鋲数個、首輪の情報等が書かれたメモ1枚
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出。
1:E6駅でフェイトと合流。できなければ電話をかける。
2:フェイトと合流後、病院で再びトグサと合流する。
3:機械に詳しい人物、首輪の機能を停止できる能力者及び道具(時間を止めるなど)の探索。
4:フェイトのことが心配。
[備考]
※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。
※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています。
※トグサから聞き逃した第四放送の情報を得ました。
※顔面の腫れは行動に支障がない程度には回復しました。
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:殺る気満々。腹部に軽傷、頭にタンコブ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い。
[装備]:イングラムM10サブマシンガン、ベレッタM92F(残弾15、マガジン15発、マガジン14発)
グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)@魔法少女リリカルなのはA's
[道具]:デイバッグ×2、支給品一式×2、予備弾薬(イングラム用、残弾数不明)、NTW20対物ライフル(弾数3/3)
グルメテーブルかけ(使用回数:残り17品)@ドラえもん、テキオー灯@ドラえもん、ぬけ穴ライト@ドラえもん
バカルディ(ラム酒)×1本、割れた酒瓶(凶器として使える)
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出。物事なんでも速攻解決!! 銃で!!
1:不本意だが駅に向かいフェイトと合流。
2:フェイトと合流後、病院で再びトグサと合流する。
3:見敵必殺ゥでゲイナーの首輪解除に関するお悩みごとを「現実的に」解決する。
4:魔法戦闘の際はやむなくバリアジャケットを着用?
5:カズマとはいつかケジメをつける。
6:ロックに会えたらバリアジャケットの姿はできる限り見せない。
[備考]
※双子の名前は知りません。
※魔法などに対し、ある意味で悟りの境地に達しました。
※ゲイナー、レヴィ共にテキオー灯の効果は知りません。
※トグサから聞き逃した第四放送の情報を得ました。
*時系列順で読む
Back:[[のこされたもの(狂戦士)]] Next:[[人形裁判 ~ 人の形弄びし少女]]
*投下順で読む
Back:[[Keep the tune delectable]] Next:[[道]]
|245:[[峰不二子の陰謀]]|カズマ|260:[[運命に反逆する―――――――!!]]|
|245:[[峰不二子の陰謀]]|トグサ|257:[[プリズムライト(前編)]]|
|247:[[Keep the tune delectable]]|ゲイナー・サンガ|256:[[暗闇に光る目]]|
|247:[[Keep the tune delectable]]|レヴィ|256:[[暗闇に光る目]]|
*「選んだら進め。進み続けろ」 ◆LXe12sNRSs
『カズく~ん!』
……んあ?
なんだ、かなみか。どうしたよ、大声出して。
『どうしたよ、じゃないよ。今日は牧場で牛さんの世話をするって約束だったのに、なんでこんなところでお昼寝してるの?』
あー……それはだな…………ワリィ!
急用思い出しちまってさぁ。パスさせてもらうわ。
『もう、またそんなこと言って。いつになったら真面目に働いてくれるの?』
『働かざる者食うべからずって、昔の偉い人も言ってたよ』
『カズくんが働いてくれないと、お米も野菜も買えなくなっちゃうんだから』
『カズマさんが働かないと、私たちが苦労するんだからね』
『ねー』
『ねー』
あぁ、だから悪かったって。この埋め合わせは今度必ず……って、かなみが二人!?
『? 何言ってるのカズくん。私はかなみで、こっちは――』
『――高町なのは。声は似てるけど、別人だよ。どうしちゃったの?』
かなみとなのは……あれ? いや、なんか違和感が……
『寝すぎで頭がボーっとしてるんじゃないの? ウチは私とカズくんとなのはちゃんの三人家族だったじゃない』
『そうそう』
そうだったっけ? そうだった気もするな……ん? そうなのか……?
『――カッズマく~ん。どうしたんだ? 珍しく頭使ってるような顔しちゃってよ』
珍しくは余計だ! ……っと、君島か。何の用だ?
『おいおい忘れちまったのか? 仕事だよ。お前向けの、とびきりヤベー仕事。忘れちまったんならもっかい説明してやろうか?』
――いや、いい。思い出した。たしか今日だったな……HOLY野郎共との決戦は。
『ああ。HOLYのネイティブアルター狩り……俺たちはそれを止めるために、今日襲撃をかける』
そこに奴もいるんだろ。おもしれぇ。やってやろうじゃねぇか。
『ったくHOLYのこととなると目の色変わるなお前は。まぁいいや。じゃ、仲間のところに案内するぜ』
仲間――か。
どんな面子が揃おうが関係ねぇ。俺は、あの男をぶっ飛ばす。ただそれだけだ。
足手まといになるような奴なら置いてくし、使える奴だとしても邪魔はさせねぇ。
そう……あいつとの決着だけは!
『――さ、紹介するぜみんな。こいつが、あのHOLYに正面からケンカ吹っかけたことで有名なカズマくんだ』
『へぇー。あんたがカズマさんか。俺は八神太一。よろしくな』
『俺は石田ヤマト。あんたの噂は聞いてるよ。なんでも、HOLY内部にまで潜入して大暴れしたとか』
……おい、君島。こいつらガキだぞ。
『歳で力量見んのか、カズマくんは? かなみちゃんやなのはちゃんに生活支えられてる身で』
……ま、いいさ。どんな奴が仲間にいようが関係ねぇ。邪魔にさえならなきゃ――
『おいおいお前ら、誰かを忘れちゃいねぇか? この全てを打ち崩すアルター使い、ビフ君を――げふっ!?』
『――デケェ図体して道塞いでんじゃねーよ。通れねぇだろうが』
……おい、君島。今度はかなみくれぇの女の子が現れたぞ。あれも仲間か。
『もちろんだとも』
『……鉄槌の騎士ヴィータだ。ま、せいぜいあたしの足手まといにならないよう気をつけな』
……頭痛がしてきたぞオイ。
『文句言ってる暇はねぇぜ。さっそく敵さんのご登場だ』
おうおう、いるねぇHOLYの制服着た連中がわんさかと。
だが眼中にねぇ。俺の狙いはただ一人……あの男だけだ。
『カズマさんがいかないなら俺が先陣を切るぜ! アグモン、進化だァ――ッ!』
『太一に遅れるな! ガブモン、こっちも進化だ――ッ!』
うおッ!? なんだ、怪獣が出てきやがったぞ!? あれが太一とヤマトのアルターか!?
『あいつらばっかいいカッコさせるかよ! ――グラーフアイゼン!』
今度は巨大ハンマーかよ! 思ったよりやるじゃねぇかあいつら。
いいぜ……これならこっちも集中できる。あの野郎との喧嘩によぉ。
『――また性懲りもなく俺の前に現れたか。この社会不適合者が』
――見つけた、劉鳳!!
俺はこの数日間、ずっとテメェに借りを返すことだけを考えてたんだ。
前のようにはいかねぇ。今度こそ見せ付けてやるよォ……この俺の、カズマの!
『やはり毒虫はどう足掻いたところで毒虫だな。低俗な考えしか持たぬから社会に適合することも叶わない――絶影!』
言ってろ! 衝撃のファーストブリットォォォォォ!!!
『――ぐっ! どうやら少しは腕を上げたようだな。それでこそ俺も本気を出せるというものだ』
気にいらねェな……その上から見下すような目つき、ムカつくんだよ!
『何を怒る。これが俺とお前の立つ位置、その力の差だ。それよりもいいのか? お前の仲間が苦戦しているようだぞ』
仲間? ――――なッ!?
『うわあああああああ!』
『太一!? 太一、太一ィィィィィ!』
『悪いなボウズ共。お前らには死んでもらわにゃならん』
『恨みはない。ですが貴方にはここで潰えてもらいます……風王結界!』
『チクショウ! 踏ん張れグラーフアイゼン…………ぐ、あああああああああ!!』
太一! ヤマト! ヴィータ!?
『皆、貴様の身勝手さが原因で死んでいく。貴様ほどの力があれば、守ることもできたはずなのにだ』
うるせェ! 守るなんざ俺の性に合わぇんだよ!
『そうだったな。お前はそういう男だ。――なら、あいつらが死んでも同じことが言えるな』
なに――あれはっ、かなみ! なのは! 君島!?
なんで、なんであいつらまでこんなところに!?
『全ての死は貴様が招いた。誰が死のうが関係ない――貴様のその身勝手な考えが、周りの人間を死に至らしめるのだ! 絶影!』
やめろ、やめ――――……かなみ? なのは? 君島ああぁぁぁぁぁ!
太一! ヤマト! ヴィータ! 誰か、誰でもいいから返事をしやがれ!
なんで、なんでこんな……
『――速さだな。速さが足りなかった。ただそれだけさ』
――兄貴? なんでアンタがここに……
『いいかカズヤ? 俺がここで言う速さってのは、肉体的なスピードのことじゃない。決断力の速さだ。
お前の周りの人間がどんどん死んでいくのは誰のせいだ? それは殺した人間のせいじゃない。お前の遅さが原因だ。
お前が慕っていたあの子が死んだ時、お前は何をやっていた?
ウサギの少女が死んだ時、お前が彼女の名前を刻んだのはなんのためだ?
ゴーグルの少年が死んだ時、お前は何を決断した?
思い出せカズヤ。お前はこんなところで燻ってるような男じゃあない。
やることは遅いが地の力は強い。それは時として速さを捻じ伏せるほどにな。
考えろカズヤ。お前は今何がしたい? お前がするべきことはなんだ?
少なくともこんなところで眠って夢見てる場合じゃない。そもそもだな――』
うるせぇ……長ぇよ兄貴……
◇ ◇ ◇
ドガッ……。
重厚な破壊音を目覚ましに、カズマは閉じ切っていた両瞼を開眼させた。
起き抜けの虚ろな脳が、頭痛を訴えてくる。頭部になにやら痛みと水気を感じ、触れてみるとそこには赤い液体が付着していた。
血ではない。血よりももっと水っぽく、ところどころに実と種も付いている。それに皮も。
カズマが周囲の残骸から西瓜で頭を殴られたのだと推測する頃には、おぼろげな視界も前方に定まりつつあった。
そしてその場には、カズマの脳天に西瓜を投下した張本人がいる。
「よぉ、やっと起きたか大将。随分とご機嫌な頭してるな」
「テメェは――」
記憶の糸を辿ってみると、そのホットパンツにタトゥーの女はカズマの知人に分類された。
知人と言っても、それはかなり最悪な部類。大切な人の仇と誤解してドンパチを繰り広げ、それ以降はろくに会話もしていない、怒りを売りあった仲だった。
名前はたしか、レヴィ――カズマがその名を呼ぼうとした刹那、レヴィの手によって身体が後方に押し倒された。
そのままの勢いで圧し掛かられ、マウントポジションを取られる。
胸ぐらを乱暴に掴まれたかと思うと、彼女の怒り全開のしかめっ面が視界に飛び込んできた。
不思議と抵抗する気は起きない。まだ起き抜けで頭がボーっとしているせいだろうか。
周囲では「レヴィさん!」「おい、何を」などの男声が上がるが、どちらもカズマにとっては親しみの薄い声だった。
ふと気づけば、回りの情景も随分と見慣れぬ景色に変わっている。
いくつもの椅子に大きなスクリーン。部屋と称すにはあまりにだだっ広いスペース。
ロストグラウンドの崩壊地区で育ったカズマには馴染みが薄いが、ここが映画館であるということは辛うじて理解できた。
などと暢気に周囲に目をやっている時点で、目の前の彼女の怒りを増長させていることには気づけない。
「……西瓜クセェ」
「たりめェだ。そりゃあたしがぶつけてやったんだからな。
しかし失敗したぜ。テメェみてぇな寝ぼすけ起こすんなら、鉛弾ぶち込んでやった方が手っ取り早かった」
レヴィは眉間に皺を寄せ、これでもかと言わんばかりに睨みを利かせていた。
その怒りを行動で再現しようと、所持していた銃をカズマのこめかみに捻じ込む。
しかし、カズマは動じない。怯えるでも抵抗するでもなく、銃のことなどまるで意に関さずレヴィを見つめていた。
生気の抜け落ちた死霊のような眼差しは、彼を知る者から見れば違和感を感じずにはいられないほど異質なもの。
何があったのか、問い質すのも躊躇われる雰囲気だった。しかしレヴィは、
「ふざけんじゃねェぞ!」
カズマの様子などお構いなしに、眠たげな顔面を鉄拳で殴りつけた。
本気のパンチに弾け飛んだカズマは受け身を取ろうともせず、無様に床を転がる。
「おら、立てよコラ。あたしゃあこの一日、ずっとテメェに借りを返すことだけを考えてたんだ。いつまでも腑抜けてんじゃねェぞ」
カズマという男は、いかに相手が女とはいえ頬っ面を殴られて大人しくしているほど温厚な性格ではない。
即座に立ち上がり反撃の意志を示すのが当たり前――であったはずなのだが、彼は痛みを堪えるかのようにゆっくりと立ち上がった。
そこに気迫や威圧感はない。レヴィの言うとおり、正に『腑抜け』という言葉がお似合いの惨めな姿を晒していた。
「へへっ……チンピラだな、まるで。あいにくよ、俺はテメェみてぇなのを相手にしてる暇はねぇんだわ。やらなきゃいけねぇことがあるからよ」
「さっきまで寝てた野郎がナマ言ってんじゃねェぞ。テメェが腑抜けてるせいで、あたしのテールランプはとっくのとうに真っ赤っ赤だ。
もうな、収まりがつかねェんだよ……どっかの馬鹿を蜂の巣にでもしなけりゃな」
「やるってのか? あの時の続きをよ……おもしれぇ」
いつかのように、銃と拳を突きつけ合うカズマとレヴィ。
傍目から見ても一触即発と取れる光景だったが、その場にいた二人の傍観者――トグサとゲイナーは、止めようとはしなかった。
いや、正確にはトグサは止めようとしたのだが、ゲイナーが先にそれを押し止めたのだ。
少し前の彼だったら、トグサと一緒になってレヴィを羽交い絞めにしたことだろう。
だが、今はあの時とは違う。安心できる、と言ってしまうのはどこか悔しいが、この場面はレヴィに任せられるだけの信頼感があった。
現に、一触即発と思われた状況はいつまで経っても暗転しない。
レヴィはいつでも引き金を引ける体勢ではあったが、向かい合うカズマはいつまで経ってもアルターを発現しない。丸腰でレヴィと向かい合う。
単にアルターを駆使するだけの余力がなかったのか、それとも頭に西瓜をぶつけられたダメージが残っているのか。それは定かではない。
ただ事実として闘争は起こらず、睨み合ったままの状態に嫌気のさしてきたレヴィはついに――
「だァァーッ! なんッなんだテメェは!」
――キレた。
同時に、構えていた銃を撃つ、ではなく投げつける。
回転しながら飛んでいくべレッタを正面から受け、カズマはまたその場に倒れこんだ。
「死んだ魚みてェな眼しやがって! いいか、テメェは一回あたしに喧嘩売ってんだぞ!? その決着はまだついてねェ!
だけどな、こちとら弱虫小僧を甚振る趣味はねェんだよ! ピーピー泣き叫ぶガキ撃ったって面白くもなんともねェからな!」
再びカズマの胸ぐらを掴み上げ、大きく突き飛ばす。
やることは乱暴だが、それはひとえにカズマに対する憤慨、そして失望の表れだった。
レヴィが『借りを返す』と誓ったのは、銃弾を拳で弾き、右腕一本で森林破壊をやってのけるような天までイカシてるカズマだ。
間違っても、目の前にいるような腑抜けとは違う。
(死んだ魚の目……? この、俺が?)
レヴィの心境など知ったことではないカズマだったが、朦朧としていた意識はレヴィの挑発と罵声により徐々に変化を見せ、今の自分に疑問を抱きつつあった。
かなみが死んだ。君島が死んだ。ヴィータが死んだ。太一が死んだ。なのはが死んだ。クーガーが死んだ。ヤマトが死んだ。
カズマに関わった人間は、皆どこかで先に逝ってしまう。守れるはずだった存在が、カズマの身勝手さのせいで消えていく。
そんなことは知ったこっちゃない。俺に関わった奴には悪いが腹括ってもらう――以前、カズマが自分で言った言葉だった。
なのに、今の有様はなんだ。目の前で死んだ石田ヤマト、その姿が脳裏をうろついて離れない。
彼を救えなかった後ろめたさが、カズマにこんな眼をさせているとでもいうのだろうか。
(……違う。そんなんじゃねぇ。俺には足りなかったんだ。速さとか以前に、一番大事なものが足りてなかった)
悔しかった。
何もしない内に死んでいった仲間たち。目の前で別れることになってしまった仲間たち。自分の身の周りで起こる死の連続が。
もうあんな思いはしたくない。だから、守ろうとしてしまった。カズマという人間の本質に逆らって。
カズマは誰かを付きっ切りで守るようなタイプではない。大切なものが奪われたら、それを即行で奪い返すのが性に合っている。
(――『決意』だ。
こうと決めたら絶対に曲がらねぇ、道を逸れたり止まったりもしねぇ、何がなんでも突き進むっていう意志が足りなかったんだ。
一度こうと決めたら、自分が選んだんなら決して迷うな。迷えばそれが他者に伝染する。選んだら進め。進み続けろ)
今のカズマは、ヤマトの死によって止まってしまっている。太一に突き進むと約束し、それを破ったばかりに止まってしまった。
それがなんだって言うんだ。カズマにはまだ、やりたいことが残っている。
ムカツク奴はまだいるし、劉鳳に会ったらブチのめすつもりもある。
欲しいものは奪ってでも手に入れる――それが既に失われたものだとしても、止まったり退き帰したりはしない。
進む。ただ前を向き、ただ上を目指す。それしかできないし、それしかする気もない。
だから、
「立ち止まってるヒマなんか――ねェ!」
カズマは立ち上がった。咆哮と一緒に、瞳に魂を再燃させた。
「俺は進めぜ! 他人のことなんざ知ったことか! 付いて来てぇ奴だけ付いてくりゃあいい!
それでどうなろうが文句は言わせねぇ! あぁそうだ、俺は昔からそうやってきた! これからだって変わらねぇ!
かなみと君島とヴィータとなのはと太一とヤマト! ついでに兄貴もだ!
あいつらの名前はみんな刻んだ! ああそうだ、だから進むぜ俺は!」
死んだ魚は、一転して獣へと生まれ変わる。
それは絵に描いたような馬鹿で、愚直という言葉がピッタリ当てはまるような馬鹿で、馬鹿だった。
だが、それが素晴らしくカズマらしい。
「おい、一つだけ聞かせてくれ。君が気絶する直前に首輪が爆発して死んだ参加者がいるだろう? それはまさか」
「ヤマトだよ。石田ヤマト。太一のダチだった奴だ。詳しいことが知りたいんなら病院へ行きな。ドラえもんとのび太って奴らがいるからよ」
トグサの問いに対し最低限の返答を済ませ、カズマは映画館を出ていこうとした。
後を追おうとする者はいない。トグサもゲイナーも彼を止めようとはせず、レヴィに至っては完全に見限ったのか、そっぽを向いてしまっている。
そのレヴィに向かって、カズマは退室の間際にこう言い残した。
「そこのテメェ、レヴィっつったな! テメェの名前も刻んだからな! さっきの借りはいつかぜってェ返す! 覚えとけ!」
「あーウルセー。腰抜けのボウヤはさっさとどこかへ行っちまえタコ。
もしノコノコとあたしの前に姿見せてみろ。そんときは、今度こそその脳天に鉛弾ブチ込んでやるよ」
両者、最後まで顔を向け合うことはなく――だが二人とも密かに笑い、別の道を行った。
もし三度顔を合わせる時が来るとしたら、その時こそお互いがお互いの借りを返す時なのだろう。
今はただ、その時を待てばいい。自己の尊重とぶつけ合いは後回しで、今はただ、進み続ければいい。
映画館に残った西瓜の匂いはどこか甘ったるく、どこか刺激的だった。
◇ ◇ ◇
カズマが去り、トグサとゲイナー、レヴィの三人は情報交換を再開することにした。
映画館へ移動する際鉢合わせた両名は、トグサがカズマを背負っていたこととゲイナーがレヴィをうまく抑制したこともあり、無駄に争うこともなく交流を得ることができた。
カズマが目覚めるまでに提供を済ませたのは、この世界に連れて来られてからの簡単な情報のみ。
それぞれの知人関係とこれまでの経緯等、トグサはその中でタチコマの名を聞くことになった。
そして今、話題は首輪を中心とした脱出方面へと向いている。薄暗い映画館の事務室で、ゲイナーとトグサはペンを走らせていた。
『これが、その時の戦闘で燃え残った首輪です』
『首輪か。焼け焦げてはいるが、中身は問題はなさそうだな。技術手袋を試すいい機会だが、問題は起爆装置がまだ機能してるかどうかだな』
ゲイナーの提案により、会話は盗聴を考慮して筆談で進められている。
首輪は記されたネームが擦れるほどに焦げてしまっていたが、原型を留めている以上中身に変化はないだろう。
トグサが技術手袋による解体を決行するかどうか決めかねていると、筆談には参加していなかったレヴィが徐に近づいてきた。
「ったくいつまでウダウダやってんだよ。ようするに、こいつを使えば首輪は解体できんだろ? さっさと試しゃいいじゃねェか」
「な!? おい、ちょっと待て!」
筆談の意味を台無しにした上で、レヴィはトグサから技術手袋と問題の首輪を取り上げる。
そして躊躇いもなしに技術手袋を機動させ、首輪はものの数秒でバラバラに解体された。
「おぉ! スゲェじゃねーかコレ。どうだゲイナー、テメェの首輪でも試してみねェか?」
「やめてくださいよ! 既に外れた首輪だったからいいものを、普通に使ってたら絶対に爆発してますよ!」
レヴィの大胆な行動に、トグサは肝を冷やした。
だが、結果オーライではある。人の首から外れた首輪は既に機能を停止し、技術手袋の性能どおり無事解体できることが証明された。
もちろん、人の首に嵌ったままのものはまた別の話。あくまでも、首から外れた首輪の解体に成功したに過ぎない。
「どうしますトグサさん? もしこの現場がギガゾンビに監視されていたとしたら――」
「どの道、俺たちには引き返すことなんてできないさ。コソコソせずに堂々と中身を調べさせてもらう」
ホテルでセラスに説明した考察の件に続き、今回は首輪の解体にも成功したというのにギガゾンビ側からのアプローチはない。
やはり、トグサの『技術手袋で人の首から首輪を解除するには、それに加えて何か他の要因が必要になってくる』という推理は当たっているのだろう。
だからギガゾンビはまだ手出しをせず、悠々と傍観を決め込んでいる。
重要なのは、その『別の要因』だ。技術手袋で首輪を解除する際、仕掛けられている罠を外すようなパスが必要なはずなのである。
それは何なのか。首輪の中身を調べ推理していく。
「この小型機械の数々、どれが何の役割をしているか分かるか?」
「このマイクみたいなのは、盗聴のためのものでしょうね。それとこの配線が繋がってるのは爆弾、このアンテナっぽいの二つは受信装置で、
この超小型の計器は……何かを計測するためのもの?」
「それが何か、が問題だな。だが、これらはどれも機能を停止しているようだ。収音器具と思われる小型マイクは、何故か壊れてすらいる」
「解体したから機能が停止したのか、それとも参加者の首から外れた時点で機能を停止したのか……それによって考え方も変わってきますね」
「これらの機械を一つ一つ調べていくには、俺たちじゃ知識が足りない。それこそギガゾンビと同等の技術力を持った人間にしか分かり得ないだろうな」
「小難しいったらありゃしねェな。あたしはメシでも食うかね」
一人グルメテーブルかけを敷くレヴィを尻目に、ゲイナーも空腹に耐えかね食料を取り出す。
しかし首輪の解体には成功したものの、考えは深まるばかり。
トグサとゲイナーという知恵者二人が合わさっても、専門的な未来技術の前では手も足も出ない。せいぜいそれらしい推測を並べるだけだ。
「とりあえず、首輪の中に監視道具は入っていないみたいですね。小型のカメラが搭載されている可能性も考えたんですけど」
「それなら監視可能範囲が参加者の視点に限定されるし、マフラーか何かで首元を覆えば簡単に監視を封じ込める。
中にはアーカードっていう心臓に首輪を取り付けられていた参加者もいるくらいだしな。それより気になるのはこの盗聴道具だ。
見たところ小型化を重視するあまり、性能は随分と低く抑えられているようだ。しかもこの首輪の場合、解体する以前に壊れていて使い物にならなくなってる」
「たぶん、フェイトちゃんとの戦闘の衝撃で壊れたんでしょうね。所持者の人が跡形もなく消し飛ぶほど、壮絶だったらしいですから」
「だが、盗聴機以外の機具に破損は見当たらない。これだけが壊れたのは、盗聴機の耐久度だけが低かったからだ。
そんな粗末なものを、監視道具の一環として用意するだろうか。殺し合いなんてしてれば、すぐに壊れるのは明白だ」
「僕ならしませんね。監視が外部から行われているとするなら、盗聴もそれとセットでやるのが普通だと思います。
それでも首輪に盗聴機を仕込みたいって言うなら、せいぜいそれは何かあった時の保険代わりにしかならない」
「保険……例えば監視機具に不具合が生じたり、参加者が監視の目の届かない場所に隠れてしまった時のための処置か。確かに有り得るな」
「なんか話がダリィな。寝てていいかゲイナー?」
「ご勝手にどうぞ」
さっそく寝息を立て始めたレヴィを無視し、ゲイナーとトグサは考察の海に沈む。
首輪の解体により分かったことは、監視と盗聴は外部から行われている。ただし、首輪には保険代わりの低性能盗聴機が仕掛けられている。まずこの二つ。
さらに受信装置はおそらく、外部からの起爆電波を受信するためのもの。片方はギガゾンビによる手動電波、もう片方は禁止エリアから発せられる電波を受信するのだろう。
小型計器が何を計測しているのかは、見当もつかない。そもそもこれら全ては推測の域を出ないものであり、確証を得るには機械工学についての知識が足りなさすぎた。
『問題は技術手袋を使った際、すんなり解除成功といくにはどうすればいいかだ』
『中の爆弾についた配線から推測するに、外部から干渉を受けるとすぐに起爆する仕組みになってるみたいです』
レヴィが寝に入り、考察の内容が首輪の確信に触れると判断した二人は、話し方を再び筆談に戻す。
『なら、爆弾の機能を一時的に停止させ、その隙に技術手袋で首輪を解除すればいいわけだ』
『問題はその方法ですね。この配線を断てばそれも可能でしょうけど、外側からではまず不可能だ』
『起爆しないようにうまく首輪を解除する方法……技術手袋でも無理となると、かなり難しくなってくるな』
『そんな方法、あるんですかね』
ゲイナーがそう記してから数分間、トグサの持つペンは動かなくなった。
爆弾の解体なら多少の心得もあるが、そこに未来技術が絡んでくるとなるとどうにも勝手が変わってくる。
難しい顔をするトグサ、すっかり就寝モードのレヴィ、両者の顔を見回した後、ゲイナーがペンを走らせる。
『トグサさん。唐突なことを聞きますが、「時間を止める方法」に心当たりはありませんか?』
それは、あまりに突拍子のない質問だった。
『時間を止める? どういうことだ?』
『僕のいた世界には、オーバーマンっていう巨大ロボットがいて、それらはオーバースキルという特殊な能力を秘めていました。
その中のラッシュロッドという機体は、「時間を止める」オーバースキルを持っていたんです。
時間を止めた範囲にいる人間は動くこともできないし、もちろん機械も一切の機能を停止します。
もし「時間を止める方法」があるとすれば、時間を止めてその隙に首輪を解除することが可能なんじゃないか……と』
『時間を止める……か。なるほど。だがあいにく、そんな非科学的な現象を起こす方法には心当たりがないな。
まぁ、数ある不思議な支給品の中にそういった道具が紛れ込んでいないとも限らないし、そのラッシュロッド自体がこの場に存在している可能性だってある』
『だとしたら、ラッシュロッドで時間を止めて首輪の機能を停止、その間に解除っていう理想が実現できます。
でも、たぶんオーバーマンが支給品として紛れ込んでいる可能性はない』
『巨大ロボなんて代物、殺し合いの武器として支給したらバランスを崩しかねないからな。
だがその発想はイエスだ。一時的に首輪の、最低限爆弾の機能だけでも止めることができれば、その隙に技術手袋が使える』
『今後の方針としては、それを可能にするための能力、もしくは道具の探索ですね』
『ああ。俺の推理としては、ネットワーク上に何かヒントが転がっているんじゃないかと思ったんだが……肝心の情報端末はまだ見つからないしな』
『どちらにしても、根気よく探すしかないですね。できれば僕たち以上に機械に詳しい人も』
『所詮は推測の上での推理。都合のいい仮定を並べて引いた線上の戯言でしかないからな』
それを境に、トグサとゲイナーの首輪に関する筆談は終了を迎えた。
◇ ◇ ◇
「バラバラにした首輪は、トグサさんが持っていてください。技術手袋もあるし、重要なアイテムは一箇所に纏めておいた方がいい」
「了解した。それで、ゲイナーたちはこれからどうする?」
レヴィを叩き起こした後、トグサたちはそれぞれの目的を果たすために一度映画館を出ることにした。
「僕は、六時にフェイトちゃんと駅で待ち合わせをしているんです。今から行かないと間に合わないだろうし、合流しだいすぐに病院へ向かいます」
「そうか。俺は一度病院へ行って、カズマの言っていた二人と接触してみようと思う。ヤマトが絡んでるということは、そこにハルヒとアルルゥもいるはずだからな。
……それにもし彼女たちと合流できたら、長門やヤマトのことも報告しなくちゃいけない。首輪関連以外にも、やらなきゃいけないことは山積みだ」
「あんまり無茶はしないでください。もう残り人数も少なくなってきてるし、トグサさんみたいな大人は希少だと思いますから」
横目で欠伸をするレヴィを見つつ、ゲイナーは呆れ顔で溜め息をつく。
トグサも彼の苦労を察したのか、複雑な面持ちで「頑張れよ、少年」と元気付けた。
「それじゃあ、僕たちは行きます。トグサさんもどうか気をつけて。ほら、レヴィさんも挨拶くらい」
「あぁ? メンドクセェな……ま、せいぜい頑張りな」
「ああ。じゃあな二人とも。またあとで落ち合えることを願ってるよ」
イイロク駅を目指して、ゲイナーとレヴィの姿が南へと遠ざかる。
それを見送ったトグサもマウンテンバイクに跨り、進路を病院へと定めた。
(タチコマ……お前の築いた交友関係は、無駄になんてならなかった)
ペダルを漕ぎマウンテンバイクを走らせる一方で、トグサは星空を見上げながら同僚達のことを思った。
残った者はただ一人。だがその一人は一番の新米であり、それ故に皆の意志を一身に受け継ぐ者でもあった。
トグサは進む。彼もまたカズマと同様に、立ち止まったりはしないのだろう。
(公安9課は俺やみんなが望む限り、犯罪に対して攻勢の組織であり続ける。これから先もずっとな)
――この意志を少佐へ。バトーへ。タチコマへ。
【B-4/2日目/黎明(2~3時範囲)】
【カズマ@スクライド】
[状態]:中程度の疲労、全身に重度の負傷(一部処置済)、西瓜臭い
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:気にいらねぇモンは叩き潰す、欲しいモンは奪う。もう止まったりはしねぇ、あとは進むだけだ!
1:変装ヤローを見つけ次第ぶっ飛ばす!
2:ドラえもんやのび太とはあとで合流。
3:気にいらねぇ奴はぶっ飛ばす!
4:レヴィにはいずれ借りを返す!
【B-4/2日目/黎明(3~4時範囲)】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、SOS団団員辞退は不許可
[装備]:S&W M19(残弾6/6発)、刺身包丁、ナイフとフォーク×各10本、マウンテンバイク
[道具]:デイバッグと支給品一式×2(食料-4)、S&W M19の弾丸(34発)、警察手帳(持参していた物)
技術手袋(使用回数:残り16回)@ドラえもん、首輪の情報等が書かれたメモ1枚(内部構造について追記済み)
解体された首輪、フェイトのメモの写し
[思考]
基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
1:病院へ向かいドラえもん、のび太と合流。カズマの行動についての経緯を問い質す。
2:病院にハルヒとアルルゥがいるかを確認。いないようなら彼女らを捜索。
3:病院に人が集まったら、改めて詳しい情報交換を行う。
4:機械に詳しい人物、首輪の機能を停止できる能力者及び道具(時間を止めるなど)の探索。
5:ハルヒからインスタントカメラを借りてロケ地巡りをやり直す。
6:情報および協力者の収集、情報端末の入手。
7:エルルゥの捜索。
[備考]
※風、次元と探している参加者について情報交換済み。
【魔法少女ラジカルレヴィちゃんチーム】
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:風邪の初期症状、頭にたんこぶ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
腹部と後頭部と顔面に相当なダメージ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料一日分消費)、ロープ、フェイトのメモ、画鋲数個、首輪の情報等が書かれたメモ1枚
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出。
1:E6駅でフェイトと合流。できなければ電話をかける。
2:フェイトと合流後、病院で再びトグサと合流する。
3:機械に詳しい人物、首輪の機能を停止できる能力者及び道具(時間を止めるなど)の探索。
4:フェイトのことが心配。
[備考]
※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。
※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています。
※トグサから聞き逃した第四放送の情報を得ました。
※顔面の腫れは行動に支障がない程度には回復しました。
【レヴィ@BLACK LAGOON】
[状態]:殺る気満々。腹部に軽傷、頭にタンコブ(回復中)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い。
[装備]:イングラムM10サブマシンガン、ベレッタM92F(残弾15、マガジン15発、マガジン14発)
グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)@魔法少女リリカルなのはA's
[道具]:デイバッグ×2、支給品一式×2、予備弾薬(イングラム用、残弾数不明)、NTW20対物ライフル(弾数3/3)
グルメテーブルかけ(使用回数:残り17品)@ドラえもん、テキオー灯@ドラえもん、ぬけ穴ライト@ドラえもん
バカルディ(ラム酒)×1本、割れた酒瓶(凶器として使える)
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出。物事なんでも速攻解決!! 銃で!!
1:不本意だが駅に向かいフェイトと合流。
2:フェイトと合流後、病院で再びトグサと合流する。
3:見敵必殺ゥでゲイナーの首輪解除に関するお悩みごとを「現実的に」解決する。
4:魔法戦闘の際はやむなくバリアジャケットを着用?
5:カズマとはいつかケジメをつける。
6:ロックに会えたらバリアジャケットの姿はできる限り見せない。
[備考]
※双子の名前は知りません。
※魔法などに対し、ある意味で悟りの境地に達しました。
※ゲイナー、レヴィ共にテキオー灯の効果は知りません。
※トグサから聞き逃した第四放送の情報を得ました。
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