「Can you feel my soul」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「Can you feel my soul」(2022/03/19 (土) 13:17:29) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
*Can you feel my soul ◆B0yhIEaBOI
僕は、ひとりで薄暗い病院の廊下を歩いていた。
ひとり分の足音が廊下に響き渡る。それが、僕にはなんだかとっても寂しかった。
思えば、僕にはずっと仲間がいた。友達がいた。
乱暴者のジャイアン。
臆病者のスネ夫君。
優しいしずかちゃん。
いつだって、みんなと一緒だった。
ここに来てからだって、色んな人達と出会った。
太一君や、ヴィータちゃん。アルルゥちゃんに、ヤマト君。
それに、ついさっきまでだって、一緒にいたんだ。
劉鳳さん、セラスさん、水銀燈。
そして……のび太君。
のび太君とは、本当に長い付き合いだった。
バカでドジで泣き虫の弱虫で、でも純粋で、心優しくて、ちょっぴりだけど、勇気もある。
本当に良い奴だった。
なのに。
みんな、死んでしまった。
僕は、のび太くんを世話するために未来から来たのに……。
僕は、子供たちの面倒を見る為のロボットなのに……。
僕は彼らを守れなかった。ううん、それどころじゃない。
僕達がここに連れてこられたのだって……あのとき、タイムマシーンで昔に行ったからじゃないか。
もしもあの時僕が皆を昔になんて連れて行かなければ……ギガゾンビなんかに会わなければ……。
僕がいなければ、皆が死ぬことも無かったんじゃあないんだろうか?
だとしたら……ああ、僕はなんてことをしてしまったんだ……。
とぼとぼとあても無く廊下を歩く僕の心は晴れない。
窓の外では明るい太陽が世界を照らしていたけれど、僕の心は暗いままだ。
そのまま、ただ気まぐれに歩いていた僕だったけれど、ふとあることに気が付いた。
――キィン――
「あれ? 今何か音が……?」
ぼおっとしていたとは言え、そのとき確かに聞こえた気がした。
何か、小さな金属音が。
そして、そのまま静かに耳を澄ましていると……
――カァン――キィン――
再び聞こえた。何か小さな金属が弾かれるような音が。
「やっぱり、誰か居るんだ……でも、こんなところで一体誰だろう?」
改めて周りを見回してみると、その周囲には幾つかの金属製の扉が立ち並んでいた。
それらには『手術室1』『手術室2』と番号が打たれている。
どこと無く血なまぐさい臭いと消毒液の臭いが立ち込めるここは、この病院の手術室のある区画のようだった。
でも、それを確認すると、改めて疑問に思ってしまう。
誰が? 何のために? 何をしているんだろう?
集中して音を聞と、どうやらこの手術室の中から音がするようだ。
思い切って呼びかけてみる。
「ねえ、誰かいるの? 何してるの?」
……だけど、返事は無い。
僕の気のせい? ううん、そんなことは無い。
今だって、かすかな金属の触れ合う音が絶えず聞こえてくるんだから。
「ねえ、居るんでしょ? 返事が無いなら……入るよ?」
そう呼びかけてみても、やっぱり返事は無い。
仕方が無い。意を決した僕は、その手術室の扉を開く。
――ガシャン
勢い良く開いたその扉の先で僕が見たものは――薄暗い部屋の中心に座る、少年の姿だった。
その姿は、天井から降り注ぐ手術用の照明に照らされて、まるでスポットライトを浴びているかのようだった。
少年は僕に背を向けているために、その顔が見えない。
だから、咄嗟にそう思ってしまった。
――のび太君?
いや、それはありえない。のび太君は、死んでしまったんだ。
信じたくはないけれど、信じないといけない。これは、事実なんだ。
だから、そこにいるのはのび太君じゃなく――
「そこにいるのは……ゲイナー君かい?」
「……え? あ、ハイ、そうですけど、何か用ですか?」
僕の思ったとおり、その少年はゲイナー君だった。
でも、ゲイナー君は僕のほうを見ようともせずに、相変わらずの姿勢で、何かをカチャカチャといわせている。
「ゲイナー君、そこで何してるの?」
僕はとりあえず、ゲイナー君にそう聞いてみる。
でも……あれ? 返事が無い?
「ゲイナー君?」
「ああ、すいません。ちょっと集中していたもので。何か急用ですか?」
「いや、急用ってわけじゃ無いんだけど……」
「じゃあ、少し放っておいてくれませんか? 少し忙しいもので」
僕にぴしゃりとそう言い放つと、ゲイナー君はまた何かしらに没頭し始める。
僕と話す時間も惜しい……まさにそんな感じだった。
「そ、そんなに邪険にしなくってもいいじゃないか。ゲイナー君も仲間が死んで悲しいのかも知れないけれど……」
「仲間? ああ……」
僕がいった言葉に、ゲイナー君は初めて腕を休めて、応えてくれた。
「そういえば、あったんですよね、放送。今度は、何人の方が亡くなられたんですか?」
あまりの言葉に、僕は一瞬、呆気に取られてしまった。
「そういえば、って……ゲイナー君、もしかしてさっきの放送聞いてなかったの!?」
「ええ。作業に集中してましたから」
ゲイナー君は、さも当然と言わんばかりにそう返事をする。
「ちょ、ちょっとそれって酷いんじゃないの!? 人が、友達が死んだって言うのに、気にならないの!?」
思わず声を荒げる僕とは対照的に、ゲイナー君は落ち着いたまま、またカチャカチャと何かを弄りだす。
「貴方はお友達が亡くなったんですよね。お悔やみ申し上げます。ですが、僕には元々仲間と言える人間だってゲインだけだったし、
ここに来てから出来た仲間も、ゲインとレヴィさん、カズマさんにフェイトちゃん以外はみんな死んでしまいましたから。
仲間の仲間も心配ですが、実際に会ったことのある人も居ませんし。
でも、何人の方が亡くなったのかには興味が有りますね。今回の犠牲者は何人だったんですか?」
ひ、酷い……!
他人の死を気にもしないだなんて、このゲイナーという少年はなんて心が冷たいんだ!
最初にこの少年を見たときは、眼鏡に痩せっぽちで、自信なさげな内気な少年……
どこかでのび太君と似た印象を持っていたけれど……とんでもない!
のび太君は、もっと心の優しい人だった!
「それはあんまりだよゲイナー君! ちょっとこっちで話を――」
ゲイナー君を叱ろうと僕が歩き出したその時。
「来ないで!!」
ゲイナー君が叫んだ。
その目は……血走って目の下にはクマが出来ている。
とても必死な、そんな顔だった。
「げ、ゲイナー君、僕はただ――」
「――それ、踏まないでくださいね。足元には気をつけてくださいよ」
「えっ?」
ゲイナー君にそう言われて、改めて薄暗い部屋の床に目を凝らしてみると――
「な、なんだこれ!!?」
それは、小さなネジや、ボルトやナットや、ケーブルや……
基盤や、コンデンサーや、ICチップ等の機械の部品だった。
僕の足元には、大小様々な無数の金属辺が、床一面に敷き詰められていたのだ。
「これは一体……!?」
「僕が分解したんですよ。この『技術手袋』を使って。まあ、半分くらいは使用回数温存のために、僕が自力で分解したものですけどね」
「で、でも、この部品の山……一体何を分解したの!? それに、何のために!?」
かちゃり、かちゃり。ゲイナー君はいつの間にか作業を再開してたが、話は聞いてくれているようだ。
「これは、病院に置いてあった医療器具を分解したんですよ。手術室の周りって、結構いろんな機械が置いてあるんですね」
さらりとそう言うゲイナー君だが、床に散らばる部品の山は、結構どころではない量になっている。
相当な量の機械を分解したことは明らかだけど……いつの間に?
そういえば、放送前の集まりの中で、ゲイナー君はいつまで僕らと一緒に居たんだっけ?
知らない間に抜け出して、ひとりでずっと機械の分解を続けていた……
時間的に考えると、そうとしか思えない。
「……でも、何故? 何のために?」
自然とその疑問が、再び僕の口から零れ落ちる。
その質問に、ゲイナー君は何かを考えながら、ぼそりぼそりと答えだす。
「実験……性能テスト、いや、材料調達と言った方が良いのかな? いや、研究……勉強……訓練……?」
「ど、どういう意味? 僕にも分かるように、ちゃんと説明してくれよ」
ゲイナー君は、少し思いあぐねた末に、作業を止めて僕の方に向き直ってくれた。
「最初に考えたんです。僕に何が出来るのか、って。
僕にはカズマさんやフェイトちゃんみたいな超能力も無いし、レヴィさんみたいに銃の扱いに長けているわけでもない。
そして、貴方――ドラえもんみたいに活用できる知識を持っているわけでもない。
だから、僕なりに考えて、出来る事をしようと思ったんです。そして思いついたのが……この手袋の活用です」
「技術手袋の? でも、それって誰が使っても効果は同じ筈じゃ?」
「ええ、そうです。でも、そうではないんです。……例えば、僕が今から、この技術手袋をもう一個作ろうとしてみます。それは可能でしょうか?」
「う、う~ん、それは多分無理だろうね。材料も無いし、仕組みも複雑すぎる」
「では、『この世界から脱出できる装置』は?」
「それも無理だろうね。そもそも、どうやったら脱出できるか想像が出来ない」
「では、例えば車を作ることは?」
「それは可能だと思うよ。でも、材料があったとしてもそんな大掛かりなもの、出来上がるまでに何時間かかるか……」
「では、『オーバーマン』を作ることは?」
「え? おーばー……何だって?」
「ですから『オーバーマン』です。なんなら妥協して『シルエットエンジン』でもいい。作れますか?」
「いやあ……名前を聞いただけじゃ、それが何なのか分からないし、きっと作れないと思うよ」
「そうでしょうね。それが一体何なのかを知らないドラえもんには作れないでしょうね。
でも、恐らく……その実体を知っている僕なら、少なくともシルエットエンジンぐらいなら作れるかもしれない。
勿論、十分な時間と材料は必要でしょうが」
「その『オーバーナントカ』っていうのは君の世界の物なの? でも技術手袋じゃそういう未知の技術とかには対応できないと思うんだけれど……」
僕がそういうと、ゲイナー君は、僕が知る限りはじめて……笑った。
しかも、とびきり不敵に。
「なら、知ればいいんですよ。その『未知』のものを」
「とは言え、僕には工学的な知識なんかは全くありません。
知っていることといえばゲーム機の大まかな構造と、雑学レベルの知識程度……
ですから、まずは知識を得るために、適当な機械を一つ分解してみたんです。
とは言っても、この技術出袋には使用回数制限があるみたいですから……
とりあえず、目に付くものの中で一番大きくて、一番複雑そうな奴を分解してみたんです。
知ってました? 医療器具って、実にいろんな様々な機能を持った部品の集合体なんですよ?」
「その残骸が、これなんだね」
改めて足元の部品類を眺めてみると、それらパーツの用途ごとに分類され、几帳面に並べられていることに気付く。
そこからも、ゲイナー君の頑張りの成果が見て取れた。
「最初は本当にチンプンカンプンだったんですが、それでも最初の一つを技術手袋が丁寧に解体してくれたおかげで、大分見当が付きました。
その後もそれを真似て自力で何度も分解していく内に、段々と機械の構造や仕組みの意味が掴めてきた気がしてきました。
それもこれも手袋のおかげですね」
「それは……ゲイナー君が頑張ったからなんじゃないかなあ」
「……手袋のおかげですよ」
照れ隠しに顔を背けるゲイナー君を見ていると、さっきの僕の考えが間違いなんじゃないかな? と思えてくる。
ゲイナー君は、そんなに酷い人間じゃない。
少なくとも、こんなに一生懸命に頑張っているんだから、そのことは素直に認めてあげたい。応援してあげたい。
僕のゲイナー君に対する評価は、また少しずつ変わり始めていた。
「それと、技術手袋のことなんですが……幾つか疑問に思ったことがあります。
まず、この手袋は少なくともこの時代に於けるあらゆる技術に対応してるとおっしゃっていましたが、
恐らく、ドラえもんのいた時代までの全ての技術的なデータがこの手袋の中に詰め込まれているんでしょうね」
「うん、その通りだよ。技術手袋があれば、僕が知ってる道具ならほとんど作れると思うよ。時間と材料さえあれば」
「では、ここで一つ疑問が湧きます。
この手袋で、未知の道具が作れるのかどうか? 例えば、そう、ドラえもんが居たよりもさらに未来の道具だとかは」
「え? う~ん、それはちょっと無理じゃないかなあ。その道具のデータが技術手袋に無い限りは」
「でも、ですよ? 例えはAという装置と、Bという装置を組み合わせて、Cという機械が遥か未来に作られていたとします。
もちろん、その設計図は技術手袋の中には無い。でも、その発想が無かっただけで、理論や概念さえ知っていれば、再現可能な機械だったとして。
そして、もし、遥かな未来から来た技術者が技術手袋を使って、Aという装置とBという装置を組み合わせたとすれば……
Cという機械は果たして作れると思いますか?」
「ええ? ちょっと待ってくれよ。……う~ん、どうなんだろう。できるのかなあ……?」
「それが出来るかどうかを確かめるのも僕の目的の一つだったんですが……
ですが、僕の直感では、きっと出来る。技術手袋に、さらに別の『知識』と『技能』を上乗せするんです。
問題は……その知識や理論に精通している人間がいるのかどうか、って事なんですが……
ドラえもんは、そういう未来の技術なんかには詳しいですか?」
「……道具の性能や使い方は知ってるけど、その詳しい理論や構造なんかは、さすがにちょっと……」
「そうですか……」
ゲイナー君は心底残念そうにそう呟くと、また作業を再開しだした。
「ドラえもんの知識、結構アテにしてたんですけどね……」
「……ごめん」
一転、重苦しい空気が部屋中にたちこめた。
「おっ、相変わらず頑張ってるみたいだな!」
閉塞した部屋の中に、いきなり誰かの声が響き渡った。
声のした入り口の方を振り向くと、そこにはひとりの男の人――トグサさんが立っていた。
「ああ、トグサさん。お疲れ様です。……で、どうでした? 頼んでたもの、見つかりました?」
「おう、見つかったぜ。電源なんかも生きてるし、運良く戦闘の被害も受けていなかった」
「それは何よりです! じゃあ、早速ですがそこまで案内してもらえますか?」
「わかった。こっちだ」
「ああ、ドラえもんも来てください。話したいことがありますから」
????
そうして僕が状況を全く理解しない内に、僕たち3人はどこかに向かって歩き出していた。
ゲイナー君が、トグサさんに頼んだ探し物? それって一体何のことなんだろう?
そして、暫く歩いた末に僕達はある部屋に辿り着いた。
病院の中でも一際奥まった場所にある、窓の無い、息が詰まりそうな部屋。
大きな機械が幾つも並び、それらは僕が生まれた工場を思い出させた。
そこは、この時代の病院にならば必ずといって良いほどある……レントゲン室だった。
「ここでいいのかゲイナー?」
「ええ、バッチリです! この世界にもあるかどうか不安だったんですが……やっぱり放射線を利用した医療器具はあったんですね!」
「ゲイナー君は、レントゲン室を探していたの?」
「ええ、そうです。ただ、この世界のことは良くわからないので……代わりにトグサさんに探してもらっていたんですよ」
「まあ、案内板をみりゃあすぐに分かったけどな。で、ゲイナー、俺の仕事はこれで終わりか?」
「いえ、少し待ってください。少しお話がありますから……」
そう言いながらゲイナー君は、レントゲンを操作する台をいじり始める。
そしてその手を休めずに、ゲイナー君は話し始めた。
「ところで、お二人とも……『スピーカーとマイクの構造』って、どんなのだか知ってますか?」
「はぁ? スピーカーとマイク? いや、知らないが……」
「いえ、難しく考えることは無いんです。スピーカーもマイクも、音と電気信号を変換する装置なんですよ。簡単に言えば。
で、これは雑学みたいなモノなんですけど……スピーカーの端子をマイクの端子に挿せば、スピーカーがマイクの変わりになるんですよ。
知ってました?」
「ああ、何かで聞いたことがあるような……」
「でもゲイナー君、それが一体どうしたって言うんだい?」
「つまり、僕が言いたいのは……大切なのは『概念』であって、個々の細かい仕組みではない、っていうことなんですよ。
大事なのは音と電気信号のやり取りであって、その変換装置の具体的な仕組みはどうでもいい、ってことです。
その概念さえ合っていれば、細かいことを考えなくても、スピーカーはマイクの変わりになってくれる……まあ、ちょっと暴論ですけどね。
えっと、起動スイッチは……これかな? ああ、点きました。ほら、ちょっとこの画面を見てください」
ゲイナー君が促したその画面は、普通のパソコンのような、文字を打ち込める画面になっていた。
そして、そこにゲイナー君が文字を打ち込んでいく。
その文字をみて……僕は息を呑んだ。
『では、そろそろ本題に入ります。首輪を解除するための話です』
『首輪の解除方法ですが、大体今はこんなところでしょうか
・外部からの起爆電波のジャミング・シャットアウト
・首輪への無線を介したアクセス → 無効化
・無線でアクセスするための機材が必要
・アクセスコード等の、解析・制御が必要
ジャミング・シャットアウトに関しては、首輪解除中に主催者に感付かれて爆破、というのを防ぐために必須だと思います。
これにはそれ専用の発信機を作るべきかもしれませんが…… 一応、この点のためにレントゲン室を使うことにしたんです。
レントゲン室は、電波や放射線に関して言えば、最も透過性の低い場所と言えますからね。
ところでドラえもん、このレントゲン室で、未来技術における電波はシャットアウトできると思いますか?』
『え、う~ん、ある程度は遮断できると思うけど、それでも透過させる方法もあるよ』
『……ということは、少なくとも気休めにはなり得る、ということですね。その辺りの解明もいずれ必要になりそうですが……話を進めます』
僕とトグサさんは、ゲイナー君が打ち出す言葉に、静かに頷く。
『次に、首輪へのアクセスについての話に移ります。
ここで絶対に必要になるのが、何らかの通信機、それもこの首輪に対応したものです。
これは必然的に自作しなければならないのですが……ここで一つ問題があります。
この首輪は……『電波』で通信しているのか? ということです。
未来技術なのだから、電波以外の、僕たちが思いもよらない手段で通信しているのかもしれない』
『うん、確かにその可能性はあるよ。だけど、それがどういう手段なのかは、僕には検討もつかないよ……』
『ええ。僕もそうです。ですが、それでも良いんです。見当が付く必要なんて無いんですよ』
『……どういうことだ?』
『さっきの『マイクとスピーカー』の話の応用ですよ。『電波だかなんだか分からないもの』と『電気信号』とを変換させる装置さえあれば、
別にその『電波だかなんだか分からないもの』を特定する必要なんかないんです』
『だけどゲイナー君、その『なんだか分からないもの』を特定しないことには、そんな『変換装置』なんて作りようが無いんじゃ?』
『そんなことはありません。だって、もう既にその『変換装置』は手に入っているんですから』
『ど、どういうこと!? ゲイナー君、いつの間に!?』
『利用できるかどうかは別にすれば、その『変換装置』はみんな持ってるんですよ。……そうでしょう、トグサさん?』
トグサさんがニヤリと笑う。
『読めたぜ、ゲイナー。お前が言ってるのは……コイツのことだろ?』
そうやってトグサさんは、あるものを指差した。
それは、トグサさんの――そして、僕にも、ゲイナー君も身に着けている――『首輪』だった。
『つまり、『電波?』を受信した首輪の中の『変換装置』が、それを『電気信号』に変換する。
そして、首輪が記録した『電気信号』はまた『変換装置』によって『電波?』に変換される。
だから、俺達が通信装置を作るために必要な『変換装置』は、この首輪を分解すれば容易に手に入れることが出来る。
そして、機能を停止した首輪は分解可能であることは実証済みだし、解体済みの首輪も、俺が一個持っている。
ほら、これだ』
トグサさんがデイパックから取り出したそれは、確かに解体された首輪だった。
内部に何個かの小さな装置が垣間見える。
『この首輪の装置はかなり小型ですが、その分余計な小細工は付与しにくい……希望的観測ですが、そう考えています。
ですから、この首輪の装置を首輪解除装置に流用するのも可能だと僕は考えています。
まあ、詳しく調べてみないことには確証は得られませんが』
『な、なるほど! じゃあ、もうすぐにでも首輪解除機が作れるの?』
『まあ、それなりの時間をかければ作れると思うのですが……それだけでは、まだ首輪の解除は出来ません』
『どういうこと? 首輪解除機なんだから、それさえあればいいんじゃないの?』
『首輪解除機は、言わばハードウェアなんです。で、実際に首輪を解除するためには、専用のソフトウェアが必要になります。
それには、長門さんという方が残したという情報に期待したいところですね。
それを一から構築することも可能だとは思いますが、さらに長い時間をかけないといけなくなるでしょうね』
『と、いうことは、今はキョン達が居ないと先に進めないわけか。奴等、無事だと良いんだが……』
『いえ、彼らが合流するまでの時間を無駄にするべきではありません。
ソフトウェアが無くても、ハードウェアだけなら作れるかもしれません。
未来の技術を使用している分、どれだけ時間がかかるかは見当がつきませんが……それでも、何もしないよりはマシでしょう』
『なるほどな。じゃあ、今すぐにでも首輪解除機の製作にかかるか。よし、ゲイナーは良く頑張った。後は俺たちが……』
トグサさんの申し出は、しかし途中で遮られる。
『いえ、解除機の製作は引き続き僕が行います。それが最も効率的な選択です』
ゲイナー君は、強い決意を込もった力強い声で、そう言い切った。
『トグサさんは僕と違って戦闘能力があります。今後生じるであろう戦闘に備えておいてください。
ドラえもんも怪我をしているみたいだし、ドラえもんの未来知識はどこかで活用できる機会があるかもしれない。
でも、僕は……僕だけは、何も無いんですよ。戦闘能力も、知識も、特殊な技術も。
だから、誰がしても良い作業ならば……それは、僕がすべきなんですよ。
いえ、寧ろ僕にやらせて欲しい。僕だって、皆のために、あの仮面の男に一矢報いるために、なにかをしたいんです。
これ以上犠牲者を出さないための、何かを!
だから……僕が、装置を作ります。作らせてください!
そのために、ずっと機械類の構造を把握するべく解体作業をやっていたんですから。
今なら、きっと僕が一番うまく技術手袋をつかえるんです!』
「ゲイナー君……」
彼の熱い想いに、思わず彼の名を呟いてしまう。
ゲイナー君、ごめんよ。僕は君の事を勘違いしていたみたいだ。
君が放送を見なかったのは、その僅かな時間も惜しんでいたからなんだね。
君は、君なりに心を痛めていたんだね。
君は人知れず、自分の出来ることを探して、それを一生懸命頑張っていたんだね。
君がこんなにも熱い心を持っていてくれて……僕は、なんだか嬉しいよ。
『でも、それじゃ凛さんやゲインさんにも話しておいた方がいいんじゃあないの?』
『凛さんは「そういう機械系統の問題は苦手」だそうでして。ゲイン達には……後で、目処が立ち次第報告しますよ』
『分かった。じゃあ、首輪解除機の製作はゲイナーに任せるが……あんまり無茶するなよ?
お前がへばっちまったらしょうがないんだからな?』
『ありがとうございます。……でも、僕が死んでも、代わりは居ますから……』
「何?」
僕とトグサさんは、思わず顔を見合わせる。
『ところで、さっき聞きそびれたんですが……先ほどの放送で伝えられた死者は何人で、誰と誰だったんですか』
『え、ああ、死者は8人だったよ。
のび太君や 劉鳳さん、 エルルゥさん、水銀燈が死んだのは分かっていたけれど、
その他にもセラスさん、魅音ちゃん、沙都子ちゃんと、それに峰不二子って人が死んでしまったらしいんだ……』
『それじゃあ、残りは14人。内、僕らの仲間と言える人数が13人。で、残りが14回……うん、ギリギリだけれど何とかなる』
『? 何の話だい?』
『ああ、技術手袋の話ですよ。回数制限があるから、無駄に乱用は出来ませんからね。
とは言え、材料の確保に一回は使わざるを得ませんでしたから、先ほどは使ってしまいましたが……
残り人数がそれだけなら、後二回、首輪解除機とジャミング用の電波撹乱機の分は確保できそうですね』
『ああ、そうか。皆の首輪を取り外すことを考えれば、残りの仲間人数分は回数を確保しておかないといけないんだね』
『ええ。非情なようですが、残り人数が減れば、それだけ技術手袋を使える回数が増え、首輪解除機等を作る余裕が出る……皮肉なものですね』
『だが、ちょっと待てよゲイナー。計算がおかしくないか?
仲間の数が13人で、残り使用回数が14回なら、使える回数は後一回だけだろ?』
『いえ、違います。残り使用回数から引くのは、“僕以外の12人分”でいいんです。14-(13-1)=2 でしょ? 』
「ゲイナー、お前……!!
「自分が犠牲になるつもりなの!?」
僕とトグサさんは思わず画面から目を離し、ゲイナー君に詰め寄った。
でも、ゲイナー君はさも当然かのように、キーボードで文字を綴る。
『ええ。だから、この話はお二人には是非聞いておいて欲しかったんです。
あと、僕にもしものことがあれば、その空いた一回分をお二人に有効に活用して欲しい。
これはある意味当然の、最も合理的な判断ですよ。言ったでしょう? 僕には何も無いって。だから、せめて皆の役に立とうと思って……
以上が僕の希望です。……ということで、後はお願いできますか?』
ゲイナー君がそのメッセージが打ち終わらない内に。
――ゴン!
鈍い音が室内に響き渡った。トグサさんの拳骨がゲイナー君の脳天を直撃したのだ。
「子供が調子に乗るんじゃない!」
「い、痛いッ! お、大人はすぐそうやって!!
それに大体、こうする以外に道が無いじゃないですか! 誰かが犠牲になるなら、能力的に低いものが――」
「なら、お前はしんのすけ君を犠牲に出来るのか?」
「――!! そ、それは……」
ゲイナー君が反論に詰まる。
「そうやってすぐに視野を狭めて、格好つけて自己犠牲に陶酔してるからガキだってんだよ。
自分が綺麗に死んでそれで満足してる内は子供なんだ。
汚い手使っても、格好悪くても、最後まで諦めずに足掻いてこそ一人前なんだよ!」
「で、ですが……!」
殴られた頭を押さえながら、ゲイナー君がモニターの方に向き直る。
興奮しているみたいだけど、そこはちゃんと冷静なようだった。
『ですが、でもそれじゃあどうするって言うんですか!? どちらにせよ使用回数から考えれば、最低ひとりは犠牲にならざるを得ませんよ!』
『いや、まだ分からないぞ。長門の隠したデータの中身が分からない以上、全てを決め付けることは出来ない。
もしかしたら、首輪の遠隔操作や電波遮断に関しての情報が入っているかもしれないし、それで手袋の使用回数を節約できるかもしれない。
過度に楽観的になるわけにはいかないが……かといって、望みを捨てるにはまだ早すぎる』
トグサさんはそう画面に打ち込むと、改めてゲイナー君を見る。真剣に。
「いいか、ゲイナー。お前が皆の為に頑張ろうって考えるのは良いことだ。凄く、な。
だが、だからって自分を蔑ろにするのは止めろ。
自分の命を粗末にするのは、死んでいった者に対する侮辱だ。
志半ばで死んじまった奴等の為にも……お前には生きる義務がある。
だから……軽々しく自分の命を投げ出すような真似は止めろ。わかったな?」
まっすぐにゲイナー君の目を見据えるトグサさんは、大人の顔をしていた。
対するゲイナー君は、おどおどと目を逸らす。
「ぼ、僕だって別に死にたいと思ってるわけじゃ……!そ、それに結果的にはまだ死ぬと決まったわけでもないし……!」
「馬ぁ鹿!」
――ゴン!
「痛い! またぶった!」
「だからガキだって言ってんだよ。こういうときは素直に『ごめんなさい』って言っとくもんなんだよ!」
そう言いながら、トグサさんはゲイナー君の頭を鷲掴みにする。
「ほら、言ってみろ。『ごめんなさい、もう死ぬなんていいません』ってな!」
「またそうやって子供扱いするッ……!」
「まだ殴られ足らないのか? ほら、早く」
「う……わ、分かりましたよ、言えば良いんでしょ? ご……ごめんなさい。もう軽々しく死ぬだなんて言いません……」
「よし、よく言えたな」
そのままトグサさんは、ゲイナー君の頭をわしわしと乱暴に撫でる。
「大体なあ、お前だってそんなに卑下するほどの役立たずってワケじゃないんだからな?
『敵を知り己を知らば百戦危うからず』って言うだろ。お前も胸張って自信持てよ!」
「わかりましたよ……。 じゃあ、お返しに言いますけど、トグサさんはちゃんとお休みになってるんですか?
トグサさん、しばらくの間働き詰めでしょう?仕事を頼んじゃった僕が言うのもなんですけど……少し休まれてはどうですか?
もしもの時に動けなくなったらいけませんからね。『敵を知り己を知らば百戦危うからず』でしょ?」
「こいつ……口の減らない奴だなあ……!」
苦笑いするトグサさんと目が合った。
――もう、心配無いな。
トグサさんの目はそう言っているように見えた。
「さてと。じゃあ、俺はもう行くぞ? お言葉に甘えて、そろそろ休ませて貰うからな」
「ああ、待って下さい!」
ゲイナー君は部屋を立ち去ろうとするトグサさんを呼び止めると、キーボードを急いで叩き出した。
『思ったんですが、首輪解除装置の副産物として……『電波?』を受信する装置が出来ます。
それを利用すれば、電波の発信源……つまり、主催者の本拠地が分かるかも知れません』
「……たいした奴だよ、お前はな!」
「わあ、だから子ども扱いは止めてって言ってるのに!」
そうしてひとしきりゲイナー君の頭をぐしゃぐしゃとなでてから、トグサさんは笑いながら部屋を出て行った。
部屋に僕とゲイナー君だけが残された。
「ドラえもんも僕のことは気にせずに、ご飯を食べるなり休むなりしてくれればいいですよ?」
「ううん、僕はもうしばらくここに居るよ。何かゲイナー君の助けになれるかもしれないしね」
「そう……ありがとう、ドラえもん」
そして、ゲイナー君はまた、首輪解除装置の作成のために、作業を再開した。
僕は、その彼の姿を、ただただ見守っている。
でも、それがなんだか暖かくて、嬉しかった。
頑張れ、ゲイナー君。
君なら、きっと上手くいくよ。
のび太君、きみがいなくなったら なんだか部屋がガラ―ンとしちゃったよ……
だけど、すぐに慣れると思う。
だから心配するなよ、のび太君。君の仇はきっととってやるからな……!
【D-3/病院-レントゲン室/2日目-日中】
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:疲労蓄積、風邪の初期症状、腹部と後頭部と顔面に打撲(処置済み)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
[装備]:技術手袋(使用回数:残り14回)、コルトガバメント(残弾7/7、予備残弾×38発)、トウカの日本刀、コンバットナイフ
[道具]:支給品一式(食料一日分消費)、スタングレネード×2、スパイセットの目玉と耳
クーガーのサングラス、グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)、エクソダス計画書
病院内で見つけた工具箱、解体された首輪、機械の部品多数
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出。
1: 首輪解除機の作成。
2: エクソダス計画に対し自分のできることをする。
3: カズマが戻ってきたらクーガーのサングラスを渡す。
4: グラーフアイゼンを誰かふさわしい人に譲る。
[備考]
※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。
※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています。
※基礎的な工学知識を得ました。
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ(修理によりやや回復)、頭部に強い衝撃、のび太の死による喪失感
[装備]:虎竹刀
[道具]:支給品一式(食料-1)、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"のゲームCD
[思考]
基本:ひみつ道具と仲間を集めて仇を取る。ギガゾンビを何とかする。
1:エクソダス計画に対し自分のできることをする。
2:ゲイナーを温かい目で見守る
[備考]
※Fateの魔術知識、リリカルなのはの魔法知識を学びました。
※だいぶ落ち着きましたが、まだかなり落ち込んでいます。
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、特に足には相当な疲労、SOS団団員辞退は不許可
[装備]:S&W M19(残弾6/6発、予備弾薬×28発)
[道具]:支給品一式、警察手帳、タチコマのメモリチップ、エクソダス計画書
[思考]
基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
1:今の内に休息を取る。
2:キョンが来るのを待って、彼から謎のデータを受け取る。
3:謎のデータが電脳通信に関するものだったら、それを使ってハックの準備を行う。
4:ハルヒか他の人間にロケ地巡りをしてもらうよう頼む。
【全体の備考】
・手術室には分解済みの部品が多数放置されています。
【ゲイナーの首輪解除機について】
・首輪の部品を利用。
・使用にはソフトウェアが必要。自作可能だが、それには更なる時間が必要。
・完成までに必要な時間数は不明。
・解除は遮蔽性の高いレントゲン室で行う。
・解除の際には外からの電波を遮蔽する装置も使用する(レントゲン室で十分に遮蔽できていると確認できたなら不要)。
・技術手袋は生存している仲間の数と同数回だけは温存。
・副次的に、電波の発生源=主催者の居場所を特定できるかもしれない。
・その理論はゲイナーの他、ドラ・トグサが知っている。
*時系列順に読む
Back:[[せおわれたもの]]Next:[[永遠の孤独 -Sparks Liner High-]]
*投下順に読む
Back:[[せおわれたもの]]Next:[[SUPER GENERATION(前編)]]
|274:[[陽が昇る(後編)]]|トグサ|283:[[I,ROBOT]]|
|274:[[陽が昇る(後編)]]|ゲイナー・サンガ|283:[[I,ROBOT]]|
|274:[[陽が昇る(後編)]]|ドラえもん|283:[[I,ROBOT]]|
*Can you feel my soul ◆B0yhIEaBOI
僕は、ひとりで薄暗い病院の廊下を歩いていた。
ひとり分の足音が廊下に響き渡る。それが、僕にはなんだかとっても寂しかった。
思えば、僕にはずっと仲間がいた。友達がいた。
乱暴者のジャイアン。
臆病者のスネ夫君。
優しいしずかちゃん。
いつだって、みんなと一緒だった。
ここに来てからだって、色んな人達と出会った。
太一君や、ヴィータちゃん。アルルゥちゃんに、ヤマト君。
それに、ついさっきまでだって、一緒にいたんだ。
劉鳳さん、セラスさん、水銀燈。
そして……のび太君。
のび太君とは、本当に長い付き合いだった。
バカでドジで泣き虫の弱虫で、でも純粋で、心優しくて、ちょっぴりだけど、勇気もある。
本当に良い奴だった。
なのに。
みんな、死んでしまった。
僕は、のび太くんを世話するために未来から来たのに……。
僕は、子供たちの面倒を見る為のロボットなのに……。
僕は彼らを守れなかった。ううん、それどころじゃない。
僕達がここに連れてこられたのだって……あのとき、タイムマシーンで昔に行ったからじゃないか。
もしもあの時僕が皆を昔になんて連れて行かなければ……ギガゾンビなんかに会わなければ……。
僕がいなければ、皆が死ぬことも無かったんじゃあないんだろうか?
だとしたら……ああ、僕はなんてことをしてしまったんだ……。
とぼとぼとあても無く廊下を歩く僕の心は晴れない。
窓の外では明るい太陽が世界を照らしていたけれど、僕の心は暗いままだ。
そのまま、ただ気まぐれに歩いていた僕だったけれど、ふとあることに気が付いた。
――キィン――
「あれ? 今何か音が……?」
ぼおっとしていたとは言え、そのとき確かに聞こえた気がした。
何か、小さな金属音が。
そして、そのまま静かに耳を澄ましていると……
――カァン――キィン――
再び聞こえた。何か小さな金属が弾かれるような音が。
「やっぱり、誰か居るんだ……でも、こんなところで一体誰だろう?」
改めて周りを見回してみると、その周囲には幾つかの金属製の扉が立ち並んでいた。
それらには『手術室1』『手術室2』と番号が打たれている。
どこと無く血なまぐさい臭いと消毒液の臭いが立ち込めるここは、この病院の手術室のある区画のようだった。
でも、それを確認すると、改めて疑問に思ってしまう。
誰が? 何のために? 何をしているんだろう?
集中して音を聞と、どうやらこの手術室の中から音がするようだ。
思い切って呼びかけてみる。
「ねえ、誰かいるの? 何してるの?」
……だけど、返事は無い。
僕の気のせい? ううん、そんなことは無い。
今だって、かすかな金属の触れ合う音が絶えず聞こえてくるんだから。
「ねえ、居るんでしょ? 返事が無いなら……入るよ?」
そう呼びかけてみても、やっぱり返事は無い。
仕方が無い。意を決した僕は、その手術室の扉を開く。
――ガシャン
勢い良く開いたその扉の先で僕が見たものは――薄暗い部屋の中心に座る、少年の姿だった。
その姿は、天井から降り注ぐ手術用の照明に照らされて、まるでスポットライトを浴びているかのようだった。
少年は僕に背を向けているために、その顔が見えない。
だから、咄嗟にそう思ってしまった。
――のび太君?
いや、それはありえない。のび太君は、死んでしまったんだ。
信じたくはないけれど、信じないといけない。これは、事実なんだ。
だから、そこにいるのはのび太君じゃなく――
「そこにいるのは……ゲイナー君かい?」
「……え? あ、ハイ、そうですけど、何か用ですか?」
僕の思ったとおり、その少年はゲイナー君だった。
でも、ゲイナー君は僕のほうを見ようともせずに、相変わらずの姿勢で、何かをカチャカチャといわせている。
「ゲイナー君、そこで何してるの?」
僕はとりあえず、ゲイナー君にそう聞いてみる。
でも……あれ? 返事が無い?
「ゲイナー君?」
「ああ、すいません。ちょっと集中していたもので。何か急用ですか?」
「いや、急用ってわけじゃ無いんだけど……」
「じゃあ、少し放っておいてくれませんか? 少し忙しいもので」
僕にぴしゃりとそう言い放つと、ゲイナー君はまた何かしらに没頭し始める。
僕と話す時間も惜しい……まさにそんな感じだった。
「そ、そんなに邪険にしなくってもいいじゃないか。ゲイナー君も仲間が死んで悲しいのかも知れないけれど……」
「仲間? ああ……」
僕がいった言葉に、ゲイナー君は初めて腕を休めて、応えてくれた。
「そういえば、あったんですよね、放送。今度は、何人の方が亡くなられたんですか?」
あまりの言葉に、僕は一瞬、呆気に取られてしまった。
「そういえば、って……ゲイナー君、もしかしてさっきの放送聞いてなかったの!?」
「ええ。作業に集中してましたから」
ゲイナー君は、さも当然と言わんばかりにそう返事をする。
「ちょ、ちょっとそれって酷いんじゃないの!? 人が、友達が死んだって言うのに、気にならないの!?」
思わず声を荒げる僕とは対照的に、ゲイナー君は落ち着いたまま、またカチャカチャと何かを弄りだす。
「貴方はお友達が亡くなったんですよね。お悔やみ申し上げます。ですが、僕には元々仲間と言える人間だってゲインだけだったし、
ここに来てから出来た仲間も、ゲインとレヴィさん、カズマさんにフェイトちゃん以外はみんな死んでしまいましたから。
仲間の仲間も心配ですが、実際に会ったことのある人も居ませんし。
でも、何人の方が亡くなったのかには興味が有りますね。今回の犠牲者は何人だったんですか?」
ひ、酷い……!
他人の死を気にもしないだなんて、このゲイナーという少年はなんて心が冷たいんだ!
最初にこの少年を見たときは、眼鏡に痩せっぽちで、自信なさげな内気な少年……
どこかでのび太君と似た印象を持っていたけれど……とんでもない!
のび太君は、もっと心の優しい人だった!
「それはあんまりだよゲイナー君! ちょっとこっちで話を――」
ゲイナー君を叱ろうと僕が歩き出したその時。
「来ないで!!」
ゲイナー君が叫んだ。
その目は……血走って目の下にはクマが出来ている。
とても必死な、そんな顔だった。
「げ、ゲイナー君、僕はただ――」
「――それ、踏まないでくださいね。足元には気をつけてくださいよ」
「えっ?」
ゲイナー君にそう言われて、改めて薄暗い部屋の床に目を凝らしてみると――
「な、なんだこれ!!?」
それは、小さなネジや、ボルトやナットや、ケーブルや……
基盤や、コンデンサーや、ICチップ等の機械の部品だった。
僕の足元には、大小様々な無数の金属辺が、床一面に敷き詰められていたのだ。
「これは一体……!?」
「僕が分解したんですよ。この『技術手袋』を使って。まあ、半分くらいは使用回数温存のために、僕が自力で分解したものですけどね」
「で、でも、この部品の山……一体何を分解したの!? それに、何のために!?」
かちゃり、かちゃり。ゲイナー君はいつの間にか作業を再開してたが、話は聞いてくれているようだ。
「これは、病院に置いてあった医療器具を分解したんですよ。手術室の周りって、結構いろんな機械が置いてあるんですね」
さらりとそう言うゲイナー君だが、床に散らばる部品の山は、結構どころではない量になっている。
相当な量の機械を分解したことは明らかだけど……いつの間に?
そういえば、放送前の集まりの中で、ゲイナー君はいつまで僕らと一緒に居たんだっけ?
知らない間に抜け出して、ひとりでずっと機械の分解を続けていた……
時間的に考えると、そうとしか思えない。
「……でも、何故? 何のために?」
自然とその疑問が、再び僕の口から零れ落ちる。
その質問に、ゲイナー君は何かを考えながら、ぼそりぼそりと答えだす。
「実験……性能テスト、いや、材料調達と言った方が良いのかな? いや、研究……勉強……訓練……?」
「ど、どういう意味? 僕にも分かるように、ちゃんと説明してくれよ」
ゲイナー君は、少し思いあぐねた末に、作業を止めて僕の方に向き直ってくれた。
「最初に考えたんです。僕に何が出来るのか、って。
僕にはカズマさんやフェイトちゃんみたいな超能力も無いし、レヴィさんみたいに銃の扱いに長けているわけでもない。
そして、貴方――ドラえもんみたいに活用できる知識を持っているわけでもない。
だから、僕なりに考えて、出来る事をしようと思ったんです。そして思いついたのが……この手袋の活用です」
「技術手袋の? でも、それって誰が使っても効果は同じ筈じゃ?」
「ええ、そうです。でも、そうではないんです。……例えば、僕が今から、この技術手袋をもう一個作ろうとしてみます。それは可能でしょうか?」
「う、う~ん、それは多分無理だろうね。材料も無いし、仕組みも複雑すぎる」
「では、『この世界から脱出できる装置』は?」
「それも無理だろうね。そもそも、どうやったら脱出できるか想像が出来ない」
「では、例えば車を作ることは?」
「それは可能だと思うよ。でも、材料があったとしてもそんな大掛かりなもの、出来上がるまでに何時間かかるか……」
「では、『オーバーマン』を作ることは?」
「え? おーばー……何だって?」
「ですから『オーバーマン』です。なんなら妥協して『シルエットエンジン』でもいい。作れますか?」
「いやあ……名前を聞いただけじゃ、それが何なのか分からないし、きっと作れないと思うよ」
「そうでしょうね。それが一体何なのかを知らないドラえもんには作れないでしょうね。
でも、恐らく……その実体を知っている僕なら、少なくともシルエットエンジンぐらいなら作れるかもしれない。
勿論、十分な時間と材料は必要でしょうが」
「その『オーバーナントカ』っていうのは君の世界の物なの? でも技術手袋じゃそういう未知の技術とかには対応できないと思うんだけれど……」
僕がそういうと、ゲイナー君は、僕が知る限りはじめて……笑った。
しかも、とびきり不敵に。
「なら、知ればいいんですよ。その『未知』のものを」
「とは言え、僕には工学的な知識なんかは全くありません。
知っていることといえばゲーム機の大まかな構造と、雑学レベルの知識程度……
ですから、まずは知識を得るために、適当な機械を一つ分解してみたんです。
とは言っても、この技術出袋には使用回数制限があるみたいですから……
とりあえず、目に付くものの中で一番大きくて、一番複雑そうな奴を分解してみたんです。
知ってました? 医療器具って、実にいろんな様々な機能を持った部品の集合体なんですよ?」
「その残骸が、これなんだね」
改めて足元の部品類を眺めてみると、それらパーツの用途ごとに分類され、几帳面に並べられていることに気付く。
そこからも、ゲイナー君の頑張りの成果が見て取れた。
「最初は本当にチンプンカンプンだったんですが、それでも最初の一つを技術手袋が丁寧に解体してくれたおかげで、大分見当が付きました。
その後もそれを真似て自力で何度も分解していく内に、段々と機械の構造や仕組みの意味が掴めてきた気がしてきました。
それもこれも手袋のおかげですね」
「それは……ゲイナー君が頑張ったからなんじゃないかなあ」
「……手袋のおかげですよ」
照れ隠しに顔を背けるゲイナー君を見ていると、さっきの僕の考えが間違いなんじゃないかな? と思えてくる。
ゲイナー君は、そんなに酷い人間じゃない。
少なくとも、こんなに一生懸命に頑張っているんだから、そのことは素直に認めてあげたい。応援してあげたい。
僕のゲイナー君に対する評価は、また少しずつ変わり始めていた。
「それと、技術手袋のことなんですが……幾つか疑問に思ったことがあります。
まず、この手袋は少なくともこの時代に於けるあらゆる技術に対応してるとおっしゃっていましたが、
恐らく、ドラえもんのいた時代までの全ての技術的なデータがこの手袋の中に詰め込まれているんでしょうね」
「うん、その通りだよ。技術手袋があれば、僕が知ってる道具ならほとんど作れると思うよ。時間と材料さえあれば」
「では、ここで一つ疑問が湧きます。
この手袋で、未知の道具が作れるのかどうか? 例えば、そう、ドラえもんが居たよりもさらに未来の道具だとかは」
「え? う~ん、それはちょっと無理じゃないかなあ。その道具のデータが技術手袋に無い限りは」
「でも、ですよ? 例えはAという装置と、Bという装置を組み合わせて、Cという機械が遥か未来に作られていたとします。
もちろん、その設計図は技術手袋の中には無い。でも、その発想が無かっただけで、理論や概念さえ知っていれば、再現可能な機械だったとして。
そして、もし、遥かな未来から来た技術者が技術手袋を使って、Aという装置とBという装置を組み合わせたとすれば……
Cという機械は果たして作れると思いますか?」
「ええ? ちょっと待ってくれよ。……う~ん、どうなんだろう。できるのかなあ……?」
「それが出来るかどうかを確かめるのも僕の目的の一つだったんですが……
ですが、僕の直感では、きっと出来る。技術手袋に、さらに別の『知識』と『技能』を上乗せするんです。
問題は……その知識や理論に精通している人間がいるのかどうか、って事なんですが……
ドラえもんは、そういう未来の技術なんかには詳しいですか?」
「……道具の性能や使い方は知ってるけど、その詳しい理論や構造なんかは、さすがにちょっと……」
「そうですか……」
ゲイナー君は心底残念そうにそう呟くと、また作業を再開しだした。
「ドラえもんの知識、結構アテにしてたんですけどね……」
「……ごめん」
一転、重苦しい空気が部屋中にたちこめた。
「おっ、相変わらず頑張ってるみたいだな!」
閉塞した部屋の中に、いきなり誰かの声が響き渡った。
声のした入り口の方を振り向くと、そこにはひとりの男の人――トグサさんが立っていた。
「ああ、トグサさん。お疲れ様です。……で、どうでした? 頼んでたもの、見つかりました?」
「おう、見つかったぜ。電源なんかも生きてるし、運良く戦闘の被害も受けていなかった」
「それは何よりです! じゃあ、早速ですがそこまで案内してもらえますか?」
「わかった。こっちだ」
「ああ、ドラえもんも来てください。話したいことがありますから」
????
そうして僕が状況を全く理解しない内に、僕たち3人はどこかに向かって歩き出していた。
ゲイナー君が、トグサさんに頼んだ探し物? それって一体何のことなんだろう?
そして、暫く歩いた末に僕達はある部屋に辿り着いた。
病院の中でも一際奥まった場所にある、窓の無い、息が詰まりそうな部屋。
大きな機械が幾つも並び、それらは僕が生まれた工場を思い出させた。
そこは、この時代の病院にならば必ずといって良いほどある……レントゲン室だった。
「ここでいいのかゲイナー?」
「ええ、バッチリです! この世界にもあるかどうか不安だったんですが……やっぱり放射線を利用した医療器具はあったんですね!」
「ゲイナー君は、レントゲン室を探していたの?」
「ええ、そうです。ただ、この世界のことは良くわからないので……代わりにトグサさんに探してもらっていたんですよ」
「まあ、案内板をみりゃあすぐに分かったけどな。で、ゲイナー、俺の仕事はこれで終わりか?」
「いえ、少し待ってください。少しお話がありますから……」
そう言いながらゲイナー君は、レントゲンを操作する台をいじり始める。
そしてその手を休めずに、ゲイナー君は話し始めた。
「ところで、お二人とも……『スピーカーとマイクの構造』って、どんなのだか知ってますか?」
「はぁ? スピーカーとマイク? いや、知らないが……」
「いえ、難しく考えることは無いんです。スピーカーもマイクも、音と電気信号を変換する装置なんですよ。簡単に言えば。
で、これは雑学みたいなモノなんですけど……スピーカーの端子をマイクの端子に挿せば、スピーカーがマイクの変わりになるんですよ。
知ってました?」
「ああ、何かで聞いたことがあるような……」
「でもゲイナー君、それが一体どうしたって言うんだい?」
「つまり、僕が言いたいのは……大切なのは『概念』であって、個々の細かい仕組みではない、っていうことなんですよ。
大事なのは音と電気信号のやり取りであって、その変換装置の具体的な仕組みはどうでもいい、ってことです。
その概念さえ合っていれば、細かいことを考えなくても、スピーカーはマイクの変わりになってくれる……まあ、ちょっと暴論ですけどね。
えっと、起動スイッチは……これかな? ああ、点きました。ほら、ちょっとこの画面を見てください」
ゲイナー君が促したその画面は、普通のパソコンのような、文字を打ち込める画面になっていた。
そして、そこにゲイナー君が文字を打ち込んでいく。
その文字をみて……僕は息を呑んだ。
『では、そろそろ本題に入ります。首輪を解除するための話です』
『首輪の解除方法ですが、大体今はこんなところでしょうか
・外部からの起爆電波のジャミング・シャットアウト
・首輪への無線を介したアクセス → 無効化
・無線でアクセスするための機材が必要
・アクセスコード等の、解析・制御が必要
ジャミング・シャットアウトに関しては、首輪解除中に主催者に感付かれて爆破、というのを防ぐために必須だと思います。
これにはそれ専用の発信機を作るべきかもしれませんが…… 一応、この点のためにレントゲン室を使うことにしたんです。
レントゲン室は、電波や放射線に関して言えば、最も透過性の低い場所と言えますからね。
ところでドラえもん、このレントゲン室で、未来技術における電波はシャットアウトできると思いますか?』
『え、う~ん、ある程度は遮断できると思うけど、それでも透過させる方法もあるよ』
『……ということは、少なくとも気休めにはなり得る、ということですね。その辺りの解明もいずれ必要になりそうですが……話を進めます』
僕とトグサさんは、ゲイナー君が打ち出す言葉に、静かに頷く。
『次に、首輪へのアクセスについての話に移ります。
ここで絶対に必要になるのが、何らかの通信機、それもこの首輪に対応したものです。
これは必然的に自作しなければならないのですが……ここで一つ問題があります。
この首輪は……『電波』で通信しているのか? ということです。
未来技術なのだから、電波以外の、僕たちが思いもよらない手段で通信しているのかもしれない』
『うん、確かにその可能性はあるよ。だけど、それがどういう手段なのかは、僕には検討もつかないよ……』
『ええ。僕もそうです。ですが、それでも良いんです。見当が付く必要なんて無いんですよ』
『……どういうことだ?』
『さっきの『マイクとスピーカー』の話の応用ですよ。『電波だかなんだか分からないもの』と『電気信号』とを変換させる装置さえあれば、
別にその『電波だかなんだか分からないもの』を特定する必要なんかないんです』
『だけどゲイナー君、その『なんだか分からないもの』を特定しないことには、そんな『変換装置』なんて作りようが無いんじゃ?』
『そんなことはありません。だって、もう既にその『変換装置』は手に入っているんですから』
『ど、どういうこと!? ゲイナー君、いつの間に!?』
『利用できるかどうかは別にすれば、その『変換装置』はみんな持ってるんですよ。……そうでしょう、トグサさん?』
トグサさんがニヤリと笑う。
『読めたぜ、ゲイナー。お前が言ってるのは……コイツのことだろ?』
そうやってトグサさんは、あるものを指差した。
それは、トグサさんの――そして、僕にも、ゲイナー君も身に着けている――『首輪』だった。
『つまり、『電波?』を受信した首輪の中の『変換装置』が、それを『電気信号』に変換する。
そして、首輪が記録した『電気信号』はまた『変換装置』によって『電波?』に変換される。
だから、俺達が通信装置を作るために必要な『変換装置』は、この首輪を分解すれば容易に手に入れることが出来る。
そして、機能を停止した首輪は分解可能であることは実証済みだし、解体済みの首輪も、俺が一個持っている。
ほら、これだ』
トグサさんがデイパックから取り出したそれは、確かに解体された首輪だった。
内部に何個かの小さな装置が垣間見える。
『この首輪の装置はかなり小型ですが、その分余計な小細工は付与しにくい……希望的観測ですが、そう考えています。
ですから、この首輪の装置を首輪解除装置に流用するのも可能だと僕は考えています。
まあ、詳しく調べてみないことには確証は得られませんが』
『な、なるほど! じゃあ、もうすぐにでも首輪解除機が作れるの?』
『まあ、それなりの時間をかければ作れると思うのですが……それだけでは、まだ首輪の解除は出来ません』
『どういうこと? 首輪解除機なんだから、それさえあればいいんじゃないの?』
『首輪解除機は、言わばハードウェアなんです。で、実際に首輪を解除するためには、専用のソフトウェアが必要になります。
それには、長門さんという方が残したという情報に期待したいところですね。
それを一から構築することも可能だとは思いますが、さらに長い時間をかけないといけなくなるでしょうね』
『と、いうことは、今はキョン達が居ないと先に進めないわけか。奴等、無事だと良いんだが……』
『いえ、彼らが合流するまでの時間を無駄にするべきではありません。
ソフトウェアが無くても、ハードウェアだけなら作れるかもしれません。
未来の技術を使用している分、どれだけ時間がかかるかは見当がつきませんが……それでも、何もしないよりはマシでしょう』
『なるほどな。じゃあ、今すぐにでも首輪解除機の製作にかかるか。よし、ゲイナーは良く頑張った。後は俺たちが……』
トグサさんの申し出は、しかし途中で遮られる。
『いえ、解除機の製作は引き続き僕が行います。それが最も効率的な選択です』
ゲイナー君は、強い決意を込もった力強い声で、そう言い切った。
『トグサさんは僕と違って戦闘能力があります。今後生じるであろう戦闘に備えておいてください。
ドラえもんも怪我をしているみたいだし、ドラえもんの未来知識はどこかで活用できる機会があるかもしれない。
でも、僕は……僕だけは、何も無いんですよ。戦闘能力も、知識も、特殊な技術も。
だから、誰がしても良い作業ならば……それは、僕がすべきなんですよ。
いえ、寧ろ僕にやらせて欲しい。僕だって、皆のために、あの仮面の男に一矢報いるために、なにかをしたいんです。
これ以上犠牲者を出さないための、何かを!
だから……僕が、装置を作ります。作らせてください!
そのために、ずっと機械類の構造を把握するべく解体作業をやっていたんですから。
今なら、きっと僕が一番うまく技術手袋をつかえるんです!』
「ゲイナー君……」
彼の熱い想いに、思わず彼の名を呟いてしまう。
ゲイナー君、ごめんよ。僕は君の事を勘違いしていたみたいだ。
君が放送を見なかったのは、その僅かな時間も惜しんでいたからなんだね。
君は、君なりに心を痛めていたんだね。
君は人知れず、自分の出来ることを探して、それを一生懸命頑張っていたんだね。
君がこんなにも熱い心を持っていてくれて……僕は、なんだか嬉しいよ。
『でも、それじゃ凛さんやゲインさんにも話しておいた方がいいんじゃあないの?』
『凛さんは「そういう機械系統の問題は苦手」だそうでして。ゲイン達には……後で、目処が立ち次第報告しますよ』
『分かった。じゃあ、首輪解除機の製作はゲイナーに任せるが……あんまり無茶するなよ?
お前がへばっちまったらしょうがないんだからな?』
『ありがとうございます。……でも、僕が死んでも、代わりは居ますから……』
「何?」
僕とトグサさんは、思わず顔を見合わせる。
『ところで、さっき聞きそびれたんですが……先ほどの放送で伝えられた死者は何人で、誰と誰だったんですか』
『え、ああ、死者は8人だったよ。
のび太君や 劉鳳さん、 エルルゥさん、水銀燈が死んだのは分かっていたけれど、
その他にもセラスさん、魅音ちゃん、沙都子ちゃんと、それに峰不二子って人が死んでしまったらしいんだ……』
『それじゃあ、残りは14人。内、僕らの仲間と言える人数が13人。で、残りが14回……うん、ギリギリだけれど何とかなる』
『? 何の話だい?』
『ああ、技術手袋の話ですよ。回数制限があるから、無駄に乱用は出来ませんからね。
とは言え、材料の確保に一回は使わざるを得ませんでしたから、先ほどは使ってしまいましたが……
残り人数がそれだけなら、後二回、首輪解除機とジャミング用の電波撹乱機の分は確保できそうですね』
『ああ、そうか。皆の首輪を取り外すことを考えれば、残りの仲間人数分は回数を確保しておかないといけないんだね』
『ええ。非情なようですが、残り人数が減れば、それだけ技術手袋を使える回数が増え、首輪解除機等を作る余裕が出る……皮肉なものですね』
『だが、ちょっと待てよゲイナー。計算がおかしくないか?
仲間の数が13人で、残り使用回数が14回なら、使える回数は後一回だけだろ?』
『いえ、違います。残り使用回数から引くのは、“僕以外の12人分”でいいんです。14-(13-1)=2 でしょ? 』
「ゲイナー、お前……!!
「自分が犠牲になるつもりなの!?」
僕とトグサさんは思わず画面から目を離し、ゲイナー君に詰め寄った。
でも、ゲイナー君はさも当然かのように、キーボードで文字を綴る。
『ええ。だから、この話はお二人には是非聞いておいて欲しかったんです。
あと、僕にもしものことがあれば、その空いた一回分をお二人に有効に活用して欲しい。
これはある意味当然の、最も合理的な判断ですよ。言ったでしょう? 僕には何も無いって。だから、せめて皆の役に立とうと思って……
以上が僕の希望です。……ということで、後はお願いできますか?』
ゲイナー君がそのメッセージが打ち終わらない内に。
――ゴン!
鈍い音が室内に響き渡った。トグサさんの拳骨がゲイナー君の脳天を直撃したのだ。
「子供が調子に乗るんじゃない!」
「い、痛いッ! お、大人はすぐそうやって!!
それに大体、こうする以外に道が無いじゃないですか! 誰かが犠牲になるなら、能力的に低いものが――」
「なら、お前はしんのすけ君を犠牲に出来るのか?」
「――!! そ、それは……」
ゲイナー君が反論に詰まる。
「そうやってすぐに視野を狭めて、格好つけて自己犠牲に陶酔してるからガキだってんだよ。
自分が綺麗に死んでそれで満足してる内は子供なんだ。
汚い手使っても、格好悪くても、最後まで諦めずに足掻いてこそ一人前なんだよ!」
「で、ですが……!」
殴られた頭を押さえながら、ゲイナー君がモニターの方に向き直る。
興奮しているみたいだけど、そこはちゃんと冷静なようだった。
『ですが、でもそれじゃあどうするって言うんですか!? どちらにせよ使用回数から考えれば、最低ひとりは犠牲にならざるを得ませんよ!』
『いや、まだ分からないぞ。長門の隠したデータの中身が分からない以上、全てを決め付けることは出来ない。
もしかしたら、首輪の遠隔操作や電波遮断に関しての情報が入っているかもしれないし、それで手袋の使用回数を節約できるかもしれない。
過度に楽観的になるわけにはいかないが……かといって、望みを捨てるにはまだ早すぎる』
トグサさんはそう画面に打ち込むと、改めてゲイナー君を見る。真剣に。
「いいか、ゲイナー。お前が皆の為に頑張ろうって考えるのは良いことだ。凄く、な。
だが、だからって自分を蔑ろにするのは止めろ。
自分の命を粗末にするのは、死んでいった者に対する侮辱だ。
志半ばで死んじまった奴等の為にも……お前には生きる義務がある。
だから……軽々しく自分の命を投げ出すような真似は止めろ。わかったな?」
まっすぐにゲイナー君の目を見据えるトグサさんは、大人の顔をしていた。
対するゲイナー君は、おどおどと目を逸らす。
「ぼ、僕だって別に死にたいと思ってるわけじゃ……!そ、それに結果的にはまだ死ぬと決まったわけでもないし……!」
「馬ぁ鹿!」
――ゴン!
「痛い! またぶった!」
「だからガキだって言ってんだよ。こういうときは素直に『ごめんなさい』って言っとくもんなんだよ!」
そう言いながら、トグサさんはゲイナー君の頭を鷲掴みにする。
「ほら、言ってみろ。『ごめんなさい、もう死ぬなんていいません』ってな!」
「またそうやって子供扱いするッ……!」
「まだ殴られ足らないのか? ほら、早く」
「う……わ、分かりましたよ、言えば良いんでしょ? ご……ごめんなさい。もう軽々しく死ぬだなんて言いません……」
「よし、よく言えたな」
そのままトグサさんは、ゲイナー君の頭をわしわしと乱暴に撫でる。
「大体なあ、お前だってそんなに卑下するほどの役立たずってワケじゃないんだからな?
『敵を知り己を知らば百戦危うからず』って言うだろ。お前も胸張って自信持てよ!」
「わかりましたよ……。 じゃあ、お返しに言いますけど、トグサさんはちゃんとお休みになってるんですか?
トグサさん、しばらくの間働き詰めでしょう?仕事を頼んじゃった僕が言うのもなんですけど……少し休まれてはどうですか?
もしもの時に動けなくなったらいけませんからね。『敵を知り己を知らば百戦危うからず』でしょ?」
「こいつ……口の減らない奴だなあ……!」
苦笑いするトグサさんと目が合った。
――もう、心配無いな。
トグサさんの目はそう言っているように見えた。
「さてと。じゃあ、俺はもう行くぞ? お言葉に甘えて、そろそろ休ませて貰うからな」
「ああ、待って下さい!」
ゲイナー君は部屋を立ち去ろうとするトグサさんを呼び止めると、キーボードを急いで叩き出した。
『思ったんですが、首輪解除装置の副産物として……『電波?』を受信する装置が出来ます。
それを利用すれば、電波の発信源……つまり、主催者の本拠地が分かるかも知れません』
「……たいした奴だよ、お前はな!」
「わあ、だから子ども扱いは止めてって言ってるのに!」
そうしてひとしきりゲイナー君の頭をぐしゃぐしゃとなでてから、トグサさんは笑いながら部屋を出て行った。
部屋に僕とゲイナー君だけが残された。
「ドラえもんも僕のことは気にせずに、ご飯を食べるなり休むなりしてくれればいいですよ?」
「ううん、僕はもうしばらくここに居るよ。何かゲイナー君の助けになれるかもしれないしね」
「そう……ありがとう、ドラえもん」
そして、ゲイナー君はまた、首輪解除装置の作成のために、作業を再開した。
僕は、その彼の姿を、ただただ見守っている。
でも、それがなんだか暖かくて、嬉しかった。
頑張れ、ゲイナー君。
君なら、きっと上手くいくよ。
のび太君、きみがいなくなったら なんだか部屋がガラ―ンとしちゃったよ……
だけど、すぐに慣れると思う。
だから心配するなよ、のび太君。君の仇はきっととってやるからな……!
【D-3/病院-レントゲン室/2日目-日中】
【ゲイナー・サンガ@OVERMAN キングゲイナー】
[状態]:疲労蓄積、風邪の初期症状、腹部と後頭部と顔面に打撲(処置済み)、頭からバカルディを被ったため少々酒臭い
[装備]:技術手袋(使用回数:残り14回)、コルトガバメント(残弾7/7、予備残弾×38発)、トウカの日本刀、コンバットナイフ
[道具]:支給品一式(食料一日分消費)、スタングレネード×2、スパイセットの目玉と耳
クーガーのサングラス、グラーフアイゼン(待機状態、残弾0/3)、エクソダス計画書
病院内で見つけた工具箱、解体された首輪、機械の部品多数
[思考]
基本:バトルロワイアルからの脱出。
1: 首輪解除機の作成。
2: エクソダス計画に対し自分のできることをする。
3: カズマが戻ってきたらクーガーのサングラスを渡す。
4: グラーフアイゼンを誰かふさわしい人に譲る。
[備考]
※名簿と地図を暗記しています。また、名簿から引き出せる限りの情報を引き出し、最大限活用するつもりです。
※なのはシリーズの世界、攻殻機動隊の世界に関する様々な情報を有しています。
※基礎的な工学知識を得ました。
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ(修理によりやや回復)、頭部に強い衝撃、のび太の死による喪失感
[装備]:虎竹刀
[道具]:支給品一式(食料-1)、"THE DAY OF SAGITTARIUS III"のゲームCD
[思考]
基本:ひみつ道具と仲間を集めて仇を取る。ギガゾンビを何とかする。
1:エクソダス計画に対し自分のできることをする。
2:ゲイナーを温かい目で見守る
[備考]
※Fateの魔術知識、リリカルなのはの魔法知識を学びました。
※だいぶ落ち着きましたが、まだかなり落ち込んでいます。
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:疲労と眠気、特に足には相当な疲労、SOS団団員辞退は不許可
[装備]:S&W M19(残弾6/6発、予備弾薬×28発)
[道具]:支給品一式、警察手帳、タチコマのメモリチップ、エクソダス計画書
[思考]
基本:情報を収集し脱出策を講じる。協力者を集めて保護。
1:今の内に休息を取る。
2:キョンが来るのを待って、彼から謎のデータを受け取る。
3:謎のデータが電脳通信に関するものだったら、それを使ってハックの準備を行う。
4:ハルヒか他の人間にロケ地巡りをしてもらうよう頼む。
【全体の備考】
・手術室には分解済みの部品が多数放置されています。
【ゲイナーの首輪解除機について】
・首輪の部品を利用。
・使用にはソフトウェアが必要。自作可能だが、それには更なる時間が必要。
・完成までに必要な時間は不明。
・解除は遮蔽性の高いレントゲン室で行う。
・解除の際には外からの電波を遮蔽する装置も使用する(レントゲン室で十分に遮蔽できていると確認できたなら不要)。
・技術手袋は生存している仲間の数と同数回だけは温存。
・副次的に、電波の発生源=主催者の居場所を特定できるかもしれない。
・その理論はゲイナーの他、ドラ・トグサが知っている。
*時系列順に読む
Back:[[せおわれたもの]]Next:[[永遠の孤独 -Sparks Liner High-]]
*投下順に読む
Back:[[せおわれたもの]]Next:[[SUPER GENERATION(前編)]]
|274:[[陽が昇る(後編)]]|トグサ|283:[[I,ROBOT]]|
|274:[[陽が昇る(後編)]]|ゲイナー・サンガ|283:[[I,ROBOT]]|
|274:[[陽が昇る(後編)]]|ドラえもん|283:[[I,ROBOT]]|
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: