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「突入せよ! ギガゾンビ城」(2022/05/21 (土) 22:32:11) の最新版変更点
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*突入せよ! ギガゾンビ城 ◆lbhhgwAtQE
**【1階・正面ホール】
門をくぐった一同が最初に足を踏み入れたのは、その城の規模に見合うような広いスペース。
――正面ホールだった。
このホールは、城1階の各フロアへ移動する際の基点となっており、複数の廊下がここより伸びている。
だが、現在ゲイン達が1階で用があるのは、その無数にあるフロアのうち、二つのみ。
その二フロアとは、2階へ上がる為の階段があるフロアと格納庫のあるフロア。
即ち、最上階のギガゾンビのいるフロアへ行くための道と、キングゲイナーを取り返すための道の二つが彼らの進むべき道であった。
「……というわけなんですが、分かりましたか?」
ゲイナーがパソコンを開いて、見取り図を見せながら皆に説明を続ける。
「階段は、ここから右手の方向の廊下を進むとあります。そして、一方の格納庫はその反対側、左手側の廊下の突き当たりに」
「見事に正反対の方向になっちゃってるんだ……」
ドラえもんの言う通り、階段と格納庫は真逆の方向に位置していた。
ちなみに城には他にも階段がいくつかあったが、隔壁の作動の関係で使用不能なものが多く、1階については今挙げたものしか使えないのが現状である。
「ということは、まずは左に行って、そのキングゲイナーを先に回収して、それからとんぼ返りして階段へ向かうってことになるのか」
「少しばかり遠回りになるが仕方ないだろうな」
ここまで行動を起こしてしまった以上、ギガゾンビはいち早く捕獲しなくてはならない。
故に、ここでは最短距離を進みたいところだ。
しかし、かといってキングゲイナーという戦力を放置しておくことはできない。
「よし、なら早速俺達はこれから格納庫に――――」
「いや、そうもいかないみたいだぜ? ……出迎えご一行様の登場だ」
レヴィが銃を構えると、複数の廊下からツチダマがわらわらと現れてきた。
『お前ら、幾重の難関を超えて、よくここまで来たギガ~』
『しかし、お前らの命運もここまでギガ~』
『ここから先は、我ら城内壱番警備隊がこの命に代えても通さないギガ!!』
ツチダマ達は威圧しながら、少しずつにじり寄ってくる。
すると、しんのすけやゲイナーを守るように大人達とドラえもんがツチダマの前に立つ。
「さてどうする? このままこいつら引き連れて格納庫に向かうか?」
「向こうは多勢。こういった広い空間ならともかく、狭い廊下で追い回されたら狙い打ちされるだろうな」
「しかも、格納庫でもツチダマがタチコマと交戦してるんですよね? 下手したら挟まれちゃいますよ」
格納庫行きを決めようとした矢先にこの事態。
悉く自分はツイていないと自分の運のなさをゲイナーは悔やむ。
そしてゲイナーが悩んでいる一方で、ゲインは一つの提案を持ち出す。
「……レヴィ嬢、一つ仕事を頼みたいのだがいいかな?」
「んぁ? こんな時になんだよ……」
「ここの敵は俺がなんとか食い止めておく。だから、その間にゲイナーを格納庫まで連れていってほしい」
それを聞いて、ゲイナーは驚く。
「あ、あなた、一体何を言ってるんですか? ここまで来て戦力を二分してしまうなんて……」
「確かに危険だろうな。……だが、ここで全員揃ってこいつらの相手をしていたら、いずれジリ貧になる。
だから俺はお前とキングゲイナーに賭ける事にした」
「だ、だったら、僕一人でも……!」
「トグサが言ってたんだろう? 格納庫にもそのタチコマとかいう戦車相手に戦ってるツチダマ達がいるってよ。だから――」
「そこであたしの出番ってわけか」
レヴィが顔を目の前のツチダマ達に向けたまま口を開く。
「……ま、アンタにはカトラスを貰った貸しがあるからな。いいぜ、その仕事引き受けた」
「ちょ、そんな勝手に!」
「では、お任せしましたよレヴィ嬢」
「あぁ。運び屋ラグーン商会の名に賭けて、しかとこの坊やを届けるとするよ」
そう言うと彼女はゲイナーの首根っこをつかみ、ツチダマへ背を向けると一気に格納庫のある方向へと走り去ってゆく。
「く、首が苦じいでずっで、レ゛ヴィさん……」
「んだと? 文句言うなら、自分の足で歩くんだな!」
レヴィ達が格納庫へ向けて駆けてゆき、その足音が少しずつ遠ざかってゆく。
そして、残されたのは成人男性が二人と少年が一人、ロボットが二体。
「さて、あとはゲイナーとレヴィ嬢の帰りを待ちながら、のんびりとしていたいのだが……」
「そうは問屋が卸してくれそうにないぞ」
「あぁ、分かってるさ。……ひとまず、こいつらの相手をしてやんないとな」
目の前には依然増え続けるツチダマの軍勢。
『何のつもりか分からないギガが、何をしてもお前達はもう生きて帰れないギガ~』
「……だとよ。どうするゲイン?」
「上等。ここで朽ちるようなら、俺達のエクソダスへの想いもその程度だったって事だ。だったら教えてやろうじゃないか、俺達の意志の強さを!」
そう叫ぶと同時に、ゲインはウィンチェスターの散弾を目の前のツチダマ達目掛けて放った。
ゲインの放つ弾丸は次々とツチダマ達を破壊してゆく。
ショットガンは元々近距離でその威力を発揮するものであるのに、加えそれを扱っているのが射撃の名手であるゲインなのだ。
その結果も頷けるだろう。
だが。
『突撃、突撃ギガ~!』
それでもツチダマは退くことなく、彼らへと迫ってゆく。
まるで、それは死を恐れぬ決死隊。
その勢いに流石のゲインも押されだす。
「……多勢に無勢ってのは、まさにこのことなのかねぇ」
「そうかもしれないが……今は弱音吐いてる暇は無いと思うぜ?」
ロックもゲイナー特製のスタンロッドでゲインの射撃の隙を突いて迫ってくるツチダマ達を迎え撃つ。
「こういう仕事は俺向きじゃないってのに……勘弁してほしいよ!」
電源が入り、高圧電流の流れるそれは、その振り下ろされた勢いと重量も相まってツチダマ達の回路を一瞬で焼き切り、そのまま頭部を砕いてゆく。
そして、もう一本のソレを持つドラえもんも果敢に戦っていた。
「せい! やぁっ! えぇーい!!!」
「頑張ってるな、ドラえもん!」
「22世紀の猫型ロボットが足手まといじゃ、のび太君達に示しがつかないからね! えぇーい!!」
その言葉からは、病院にいた頃のやや弱気な様子は感じられない。
城に突入前に決めていた覚悟は本物だったようだ。
「んじゃ、互いに慣れない戦いだが、もう少し頑張ろうや!」
「おー!!」
彼らは改めて気合を入れなおし、ツチダマ達を迎撃する。
――と、皆が戦っている一方で。
戦う術を持たないしんのすけは、自分を守ってくれている彼らに声援を送っていた。
「オジさん、お兄さん、それにタヌキさん、頑張れ~!!」
「だから俺はオジさんじゃないっての……」
「僕はタヌキじゃない! 猫型ロボットだぁ~!!」
お約束の返事もそこそこに、皆はしんのすけの声援を受けて、戦い続ける。
「う~ん、オラもオーエンだけじゃなくて、皆の力になりたいんだゾ……」
声援を送りながらも、しんのすけは少し複雑そうな顔をする。
これは、自分にとってもこの悲惨なことばかりだった一連の事件の決着をつけるための戦いだ。
その戦いで自分は何もせずにいていいのだろうか。
彼は幼いなりに、そのように考えていた。
だが、そんな彼を隣に立っていたツチダマ――ユービックが諭す。
「気にすることはない。お前が元気に応援をしているだけで皆の士気は上がる。……十分に力になってるじゃないか」
「う~ん、そうなのかなぁ? だけど、このままオーエンしてるだけっていうのは、オラのフライドポテトが許さないゾ」
「それを言うなら、プライドだろう……恐らく」
滅茶苦茶な間違いに呆れながら、ユービックは自身の心境の変化に自分で驚いていた。
何せ、元々は主催者であるギガゾンビに生み出され、その創造主の命に従い、彼らを監視していた身であったのだから。
しかも、その後、主をグリフィスに変えた後も、彼らを監視する立場に変化はなかった。
それなのに、今の自分はこうして、監視していた側に立って加勢、その上参加者の一人を諭そうとまでしている。
「今更ながら、俺もとんだ裏切り者だな…………。後悔はしていないが」
「え? 何か言った?」
「いや、なんでもない。気にするな。……それよりも応援を続けてやったらどうだ?」
「今はそれしかやることなさそうだし……うん、分かった!!」
しんのすけはひとまず納得した表情で応援に戻る。
「皆、頑張れ~!! …………でも、それにしても敵もたくさん出てきて卑怯だゾ……」
「ギガゾンビはツチダマを大量に生産したらしいからな」
「もしオラが大きな蝿叩きを持ってたら、まとめて叩いていたのにぃ……」
「いや、そんな大きな蝿叩きがあっても、お前に持てるわけがないだろう……常識的にかんg――――!」
そこで、ユービックはとある事を思いついた。
この状況を打破できるとある方法を。
そして、彼はそのことについて伝えるべく、背を向けたままのゲインへと声をかける。
「ゲイン。……苦戦しているか?」
「見たら分かるだろう。奴等、叩いても叩いてもキリがなく感じるぜ。……そんなこと聞く暇があったら、しんのすけの傍であいつを守ってや――」
「俺に一つ案がある。……聞いてもらえるか?」
◆
**【1階・格納庫付近】
「……静かですね」
「あぁ。気味悪いくらいだ」
格納庫へ続く廊下。
破壊されたツチダマの残骸が転がるそこを歩くゲイナーとレヴィは、周囲が静寂に包まれていることを不審がっていた。
今二人の耳に聞こえるのは、遠くで聞こえるゲイン達の交戦の音のみ。
「ま、深く考えてても始まらねぇ。……とりあえず問題のブツを回収してあそこに戻ることが最優先だ」
両手のカトラスの引き金にかけた指をそのままにレヴィは進む。
そして、直に彼らは扉が開いたままの格納庫の前まで到着することになる。
するとそこに広がっていたのは……
「これは……」
「これまた随分と派手にやりやがったな……。まるで狭い部屋にありったけの手榴弾ブチ込んだあとみたいだ」
レヴィはそう評してしまうほど、格納庫の内部はひどい有様だった。
そこに広がるのは、破壊された物体の山、山、山。
廊下にも転がっていたよりもさらに破砕されたツチダマの欠片。
抉れた壁や天井、床の残骸。
戦闘の余波を受けたのであろう破損した多数の機動兵器。
そして――
「タチコマ…………」
トグサから送られてきた画像に映っていたタチコマが乗り移ったという思考戦車が2体、無残な姿で放置されていた。
「相討ち、ってとこか。……この調子だと残りの一体も怪しいところだな」
「…………」
爆発したのだろう、上部が完全に吹き飛び手脚とそれを支える基部だけになったタチコマ達を横目に彼らはさらに奥へ進む。
そう、進もうとしたその時だった。
『隙ありギガ~!!!!』
いきなりそんな声が聞こえてきたかと思うと、残骸の中から完全に原型を留めたままのツチダマが現れた。
そして、そのツチダマは手に何やら拳銃のようなものを持っていて……
「ゲイナー、伏せろ!」
レヴィが叫び、ゲイナーごと無理矢理伏せると同時に彼女たちの頭上を何かが通過し、背後にあった壁が爆発した。
「か、壁が爆発した……?」
「……い、一体何だありゃ? 何で拳銃で榴弾みたいな爆発が起こるんだよ!」
起き上がったレヴィは、銃を構えるとツチダマのいた方向へ撃つ。
だが、ツチダマはそれを紙一重で避け、そのまま滑るように移動し、こちらへと再び狙いを定める。
『フッフッフ……ツチダマ族の秘術“活殺自在術(やられたふり)”を用いてこの場で待機していた甲斐があったギガ……。
貴様らは、ダマの作戦に気付かず、まんまとここの機動兵器という餌に釣られてやってきた“飛んで火にいる夏の虫”!!
このジャンボガンの餌食になって、ダマの名を挙げる糧になるがいいギガ~!!!』
「チッ! 一々説明が長いんだよ! テレビ伝道師かっつーの!」
滑るように移動するツチダマをレヴィは追ってゆく。
「……ゲイナー! こいつの事はあたしに任せて、お前はとっとと目的のブツを回収して来い!」
「は、はいっ!!」
ゲイナーが格納庫の奥、キングゲイナーの安置されている場所へと向かう。
だが、それを見逃すほどツチダマの甘くはなく……
『そうはいかないギガ~!!』
「おっと、よそ見してる暇は無いぜぇ!」
レヴィはゲイナーに注意を向け隙の出来たツチダマの片腕を撃った。
『よ、よくもダマの大事な腕を~~!!』
「チッ、少しズレちまったか……」
『許さん、許さんギガ!! ジャンボガンで灰燼に化すがいいギガ!!』
「へっ、……それでいいんだよ」
レヴィは目に楽しげな炎を灯らせ、改めてツチダマと向き合った。
レヴィにツチダマを任せたゲイナーは格納庫内を走っていた。
そして、それから直に彼は目的のブツ――白と青に彩られたオーバーマン、キングゲイナーを見つけることになる。
……その目の前にいる、地に脚をつけて動かなくなっている一体のベージュ色の思考戦車とともに。
その分厚いであろう装甲には、いくつもの穴が空き、小爆発を繰り返した跡が残っていた。
「タチコマ……もしかしてキングゲイナーを庇って……?」
背後にあるキングゲイナーがほぼ無傷で残っていることを鑑みるに、ここにいる思考戦車は自ら盾になってくれたようにも思える。
「フェイトちゃんを守ってくれた次は、キングゲイナーを守ってくれたのか。……ありがとう」
ゲイナーはひしゃげ黒く焦げたそのボディを優しく撫でる。
すると――
“ヤ、やァ……。やっパり来テくれたンだね……。いヤぁ、良かっタ良かッた”
突如、その思考戦車は鈍く腕だけを動かすと、壊れかけのスピーカーのように喋りだした。
「た、タチコマ!? まだ生きてるのかい!?」
“う~ン……正直もウダメかもしれナい……。唯一動かせた腕モ動かなクなってキたし、声モ上手く出ナいヤ……”
「それなら、技術手袋を使って、何とか動かせるくらいまでに……」
“ダ、ダメだヨ……。君は、そンなこトに時間取ってル場合じゃないんダロう? レヴィちゃンが……皆が待っテルんだから……”
ゲイナーがその言葉を聞いて我に返る。
そうだ、今まさにすぐ傍でツチダマと戦っているレヴィもホールに残ったゲイン達も自分がキングゲイナーを回収して戻るのを待っている。
ここでタチコマを修理する為に時間を浪費することは……出来ない。
“ソ……んな悲しそウな顔シ……ないでよ……。ホ、ホラ……早くキングゲイナーに乗ッテ、みんなを助けに行かナイト…………
「う、うん。……ありがとうタチコマ!」
“ソれジャ……グッドラ……ック…………”
腕を弱弱しく振って激励してくれるタチコマに後ろ髪を引かれながらも、ゲイナーはキングゲイナーの腹部のチャックを、コックピットに乗り込む。
「動作は正常そうだ……。チェーンガンもポシェットも異常なし……よし、イケる!!」
動作と装備の確認を素早く済ませると、ゲイナーはキングゲイナーを本格機動する。
「行くぞ、キングゲイナー!!!」
ゲイナーの呼びかけにこたえるようにキングゲイナーは浮上、格納庫内を滑空していった。
ひとまず、レヴィを回収する為に。
“……ゲイナー君…………君ナら…………出来……る……は……z”
そして、そんなキングゲイナーの後姿を見ながら腕を振り続けていたタチコマは、その言葉を最後に完全に機能を停止した。
一方、レヴィはというとジャンボガンを装備したタチコマ相手に中々止めの一発を決められずにいた。
いや、ただ威力が強い銃を装備しただけの相手ならば、彼女もそう苦戦はしなかっただろう。
問題は、そのツチダマの脚に装備されていたローラースケートにあった。
「クソッ! チョコマカ動きやがって……どこのニンジャだテメェは!」
『ヒャハハ! 当てられるものなら当ててみるがいいギガ!!』
ツチダマは、未来の秘密道具“どこでもだれでもローラースケート”を装備し、壁や天井を自在に移動して、レヴィにも予想できない動きで弾丸を回避していたのだ。
「あの野郎……ゼッテェ、潰す!!」
『ヒャハハ! 今のうちに粋がってるがいいギガ。
どうせ、お前とダマでは、速さも銃も格が段違いなんだからギガねぇ!』
「そっちこそ大口叩いておいて後悔するなよ……」
『後悔なんて、この太くて硬いジャンボガンを持つダマがするわけないギガ~!』
「さぁ、それはどうだろうねぇ?」
レヴィは微塵も焦りなど見せずに、その場に立ち尽くす。
天井を走っていたツチダマはその好機を見逃さない。
『太いギガ!』 一発。
『硬いギガ!』 二発。
『暴れっぱなしギガ!!』 三発。
合計三発の恐るべき弾丸がレヴィの立っていた場所に撃ち込まれる。
……だが。
『……これであの女も木っ端微j――――な、そ、そんなギガ!』
天井にいた彼の目の前に突如現れたのは自分がついさっき撃ったはずのレヴィその人。
彼女は何と、床方向に撃ち込まれた弾丸の衝突によって生じた爆煙の勢いに乗って、ツチダマのいる天井まで飛んできていたのだ。
『そんな……そんなまさかこれを狙って……!』
「今更気付いても遅いんだよ」
20世紀のヘボい銃と体を持つ人間のお前にダマが……ダマがぁ……』
「そーやっていつまでも見下してんじゃねぇよ!!」
この機を狙っていたレヴィのソードカトラスは、彼女の怒りに応える様にツチダマの全身を撃ち抜いた。
こうして、彼女はツチダマとの戦いに勝利したわけなのだが、このまま宙に浮いているわけにもいかない。
この世界にも重力・引力というものは存在するわけであり、レヴィの体はそのまま床に向けて落下する。
……だが、そんな自由落下する彼女は、床に到達する前に飛翔してきたキングゲイナーのその手に回収されることとなる。
「……よぉ。ナイスタイミングだ」
「って、何であんなところから落ちてたんですか!?」
「んなこと、どーでもいいだろ? あたしがいつ飛んで落ちたりしようが、あたしの勝手だ」
「そんな無茶苦茶な……」
相変わらずのレヴィの様子にゲイナーは呆れながらも、モニター越しにその床に落下していたツチダマを目にする。
恐らく、彼女はそれを倒す為にこのような無茶をしたのだろう。
……短い付き合いだが、彼には何となくそう思えた。
「ほら、こんなところでだべってないで、とっとと合流するぞ! これで戻ったら全滅とかだったら胸糞悪いからな!」
「そうですね。……それじゃ、全速力でいきます。しっかりつかまっててくださいね!!」
「ほぉ、こいつはカズマの野郎よりも乗り心地のいいタクs――うわぉっと!」
フォトンマットリングを放出しながら、キングゲイナーは一人の乗客を掌に乗せて、一直線に飛んでいった。
仲間の待つ玄関ホールを目指して。
◆
**【1階・正面ホール】
ユービックの思いついたという作戦の内容を聞いたゲインは思わず耳を疑った。
「……それは本当か?」
「この期に及んで嘘などつかない」
「しかし、それが本当だとしても一歩間違えたらヤバいことになるだろう」
「お前なら、それが出来ると見込んで話したのだ。……『黒いサザンクロス』の異名を持つお前なら出来ると信じてな」
ユービックの口調は真剣そのもの。
そして、確かにこのまま何も策を打たずにゲイナーの帰りを待っていてもジリ貧になる可能性が高い。
ならば、彼の言葉を信じてみる価値はあるだろう。
「……分かった。ここはお前の作戦に乗ってみるとしよう」
「……感謝する」
「というわけだ。ロックにドラえもん、俺が抜けた分の穴のサポートを頼む」
「了解……っと!」
「任せてよ!」
そう言うとゲインは一時銃撃を中断、ロックとドラえもんにツチダマの処理を任せている間に、ゲインは肩に掛けていたRPG-7に榴弾を装着する。
近距離での使用は爆風の影響をもろに受けるから、と使用を避けていたにも関わらず。
そして、彼はその引き金を躊躇うことなく引いた。
――しかし、ゲインの放った榴弾は、ツチダマ達に向かって放たれたものではなかった。
発射された方向……それは、天井。
そして、加速するそれは直に天井へと直撃した。
彼は、それを確認すると一発、また一発と榴弾を天井へと撃ち込む。
『ギガギガ? 一体何のつもりギガねぇ? 気でもふれたギガ?』
「……さぁ、それはどうかな?」
ゲインが不敵な笑みを浮かべる。
すると、その時、榴弾が何発も直撃した天井から突如、何かが軋む音がした。
そして、その軋む音が大きくなるにつれ天井には無数の亀裂が走り……
『な、こ、これは……何ギガ!』
「廊下に避難するんだ!!!」
ゲインが走り出すと同時に天井からは無数の瓦礫が落下してきた。
『ギ、ギガァ~~~!?』
気付いたときにはもう遅く。
落下してきた瓦礫は、ホールにいた無数のツチダマ達を踏み潰していった。
それをゲイン達は避難した先の廊下から眺める。
「……こ、こいつは予想以上だな」
「天井を破壊してその瓦礫で纏めて押しつぶす、か。確かにこれなら一体一体叩くよりも手っ取り早いよ」
ユービックが考えた作戦。
それは、まさにロックが言った通り、故意に生み出した瓦礫を利用したものであった。
ユービック曰く、この城を建設する際、ギガゾンビは外観や内装の豪華さを優先する代わりに、手抜き工事によって予算を軽減していたらしい。
そして、今まさに破壊した正面ホールの天井は外からの衝撃によって簡単に崩壊するほど脆いものだったのだ。
故に彼は、ゲインのその狙撃の腕を買って、ホールの天井のみを崩壊させるように事前に計算して榴弾を撃たせていたのだ。
「しんのすけの言っていた“巨大な蝿叩き”という言葉がヒントになった」
「なるほどな。確かに壊れた天井は蝿叩きみたいな役割を果たした訳だ」
「お~! オラ、実は凄いかもだゾ~!」
「これはアイディア賞モノだよ、しんのすけ君」
「えへへ~、オラ照れちゃうゾ~」
ドラえもんに褒められ口元を緩めるしんのすけに、ゲインも自然に笑みがこぼれる。
……だが、これでツチダマ達を完全に駆逐しきったとは限らない。
彼は、新たなツチダマの軍勢の出現を警戒するべくロックとともに瓦礫に覆われ、粉塵が舞うホールへと足を踏み入れる。
「……しっかし、自分でやっといてなんだが、派手にやらかしたもんだ」
「見ろよゲイン。天井に穴が空いて上の階の天井が見えるぜ?」
ロックが指差した先。
そこには確かに天井が崩落した影響でぽっかりと巨大な穴が開いており、そこから上の階の様子が伺えた。
「こりゃ酷いな……。逆に言えば、下手にこいつをぶっ放してたら、いつ床が崩れるかわからないってことだ」
「典型的な欠陥住宅って奴だな。……怖い怖い」
苦笑しながら、二人は天井の穴を見やっていた。
すると、不意にその天井から何かが落ちてきた。
……そして、ソレはその両脚を使って見事に着地して……。
『この穴は、お前達がやったギガね~? いいや、そうに決まってるギガ!』
二本の腕と脚を生やし、二本の機関砲を肩から生やしたツチダマと同色のボディの人型ロボットは、ツチダマ口調で喋りながら、ゲイン達へと顔を向けた。
*投下順に読む
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*時系列順に読む
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|296:[[Moonlit Hunting Grounds]]|レヴィ|296:[[いま賭ける、この命]]|
|296:[[Moonlit Hunting Grounds]]|ゲイン・ビジョウ|296:[[いま賭ける、この命]]|
|296:[[Moonlit Hunting Grounds]]|ゲイナー・サンガ|296:[[いま賭ける、この命]]|
|296:[[Moonlit Hunting Grounds]]|ドラえもん|296:[[いま賭ける、この命]]|
|296:[[Moonlit Hunting Grounds]]|野原しんのすけ|296:[[いま賭ける、この命]]|
|296:[[Moonlit Hunting Grounds]]|トグサ|296:[[いま賭ける、この命]]|
|296:[[Moonlit Hunting Grounds]]|ユービック(住職ダマB)|296:[[いま賭ける、この命]]|
*突入せよ! ギガゾンビ城 ◆lbhhgwAtQE
**【1階・正面ホール】
門をくぐった一同が最初に足を踏み入れたのは、その城の規模に見合うような広いスペース。
――正面ホールだった。
このホールは、城1階の各フロアへ移動する際の基点となっており、複数の廊下がここより伸びている。
だが、現在ゲイン達が1階で用があるのは、その無数にあるフロアのうち、二つのみ。
その二フロアとは、2階へ上がる為の階段があるフロアと格納庫のあるフロア。
即ち、最上階のギガゾンビのいるフロアへ行くための道と、キングゲイナーを取り返すための道の二つが彼らの進むべき道であった。
「……というわけなんですが、分かりましたか?」
ゲイナーがパソコンを開いて、見取り図を見せながら皆に説明を続ける。
「階段は、ここから右手の方向の廊下を進むとあります。そして、一方の格納庫はその反対側、左手側の廊下の突き当たりに」
「見事に正反対の方向になっちゃってるんだ……」
ドラえもんの言う通り、階段と格納庫は真逆の方向に位置していた。
ちなみに城には他にも階段がいくつかあったが、隔壁の作動の関係で使用不能なものが多く、1階については今挙げたものしか使えないのが現状である。
「ということは、まずは左に行って、そのキングゲイナーを先に回収して、それからとんぼ返りして階段へ向かうってことになるのか」
「少しばかり遠回りになるが仕方ないだろうな」
ここまで行動を起こしてしまった以上、ギガゾンビはいち早く捕獲しなくてはならない。
故に、ここでは最短距離を進みたいところだ。
しかし、かといってキングゲイナーという戦力を放置しておくことはできない。
「よし、なら早速俺達はこれから格納庫に――――」
「いや、そうもいかないみたいだぜ? ……出迎えご一行様の登場だ」
レヴィが銃を構えると、複数の廊下からツチダマがわらわらと現れてきた。
『お前ら、幾重の難関を超えて、よくここまで来たギガ~』
『しかし、お前らの命運もここまでギガ~』
『ここから先は、我ら城内壱番警備隊がこの命に代えても通さないギガ!!』
ツチダマ達は威圧しながら、少しずつにじり寄ってくる。
すると、しんのすけやゲイナーを守るように大人達とドラえもんがツチダマの前に立つ。
「さてどうする? このままこいつら引き連れて格納庫に向かうか?」
「向こうは多勢。こういった広い空間ならともかく、狭い廊下で追い回されたら狙い打ちされるだろうな」
「しかも、格納庫でもツチダマがタチコマと交戦してるんですよね? 下手したら挟まれちゃいますよ」
格納庫行きを決めようとした矢先にこの事態。
悉く自分はツイていないと自分の運のなさをゲイナーは悔やむ。
そしてゲイナーが悩んでいる一方で、ゲインは一つの提案を持ち出す。
「……レヴィ嬢、一つ仕事を頼みたいのだがいいかな?」
「んぁ? こんな時になんだよ……」
「ここの敵は俺がなんとか食い止めておく。だから、その間にゲイナーを格納庫まで連れていってほしい」
それを聞いて、ゲイナーは驚く。
「あ、あなた、一体何を言ってるんですか? ここまで来て戦力を二分してしまうなんて……」
「確かに危険だろうな。……だが、ここで全員揃ってこいつらの相手をしていたら、いずれジリ貧になる。
だから俺はお前とキングゲイナーに賭ける事にした」
「だ、だったら、僕一人でも……!」
「トグサが言ってたんだろう? 格納庫にもそのタチコマとかいう戦車相手に戦ってるツチダマ達がいるってよ。だから――」
「そこであたしの出番ってわけか」
レヴィが顔を目の前のツチダマ達に向けたまま口を開く。
「……ま、アンタにはカトラスを貰った貸しがあるからな。いいぜ、その仕事引き受けた」
「ちょ、そんな勝手に!」
「では、お任せしましたよレヴィ嬢」
「あぁ。運び屋ラグーン商会の名に懸けて、しかとこの坊やを届けるとするよ」
そう言うと彼女はゲイナーの首根っこをつかみ、ツチダマへ背を向けると一気に格納庫のある方向へと走り去ってゆく。
「く、首が苦じいでずっで、レ゛ヴィさん……」
「んだと? 文句言うなら、自分の足で歩くんだな!」
レヴィ達が格納庫へ向けて駆けてゆき、その足音が少しずつ遠ざかってゆく。
そして、残されたのは成人男性が二人と少年が一人、ロボットが二体。
「さて、あとはゲイナーとレヴィ嬢の帰りを待ちながら、のんびりとしていたいのだが……」
「そうは問屋が卸してくれそうにないぞ」
「あぁ、分かってるさ。……ひとまず、こいつらの相手をしてやんないとな」
目の前には依然増え続けるツチダマの軍勢。
『何のつもりか分からないギガが、何をしてもお前達はもう生きて帰れないギガ~』
「……だとよ。どうするゲイン?」
「上等。ここで朽ちるようなら、俺達のエクソダスへの想いもその程度だったって事だ。だったら教えてやろうじゃないか、俺達の意志の強さを!」
そう叫ぶと同時に、ゲインはウィンチェスターの散弾を目の前のツチダマ達目掛けて放った。
ゲインの放つ弾丸は次々とツチダマ達を破壊してゆく。
ショットガンは元々近距離でその威力を発揮するものであるのに、加えそれを扱っているのが射撃の名手であるゲインなのだ。
その結果も頷けるだろう。
だが。
『突撃、突撃ギガ~!』
それでもツチダマは退くことなく、彼らへと迫ってゆく。
まるで、それは死を恐れぬ決死隊。
その勢いに流石のゲインも押されだす。
「……多勢に無勢ってのは、まさにこのことなのかねぇ」
「そうかもしれないが……今は弱音吐いてる暇は無いと思うぜ?」
ロックもゲイナー特製のスタンロッドでゲインの射撃の隙を突いて迫ってくるツチダマ達を迎え撃つ。
「こういう仕事は俺向きじゃないってのに……勘弁してほしいよ!」
電源が入り、高圧電流の流れるそれは、その振り下ろされた勢いと重量も相まってツチダマ達の回路を一瞬で焼き切り、そのまま頭部を砕いてゆく。
そして、もう一本のソレを持つドラえもんも果敢に戦っていた。
「せい! やぁっ! えぇーい!!!」
「頑張ってるな、ドラえもん!」
「22世紀の猫型ロボットが足手まといじゃ、のび太君達に示しがつかないからね! えぇーい!!」
その言葉からは、病院にいた頃のやや弱気な様子は感じられない。
城に突入前に決めていた覚悟は本物だったようだ。
「んじゃ、互いに慣れない戦いだが、もう少し頑張ろうや!」
「おー!!」
彼らは改めて気合を入れなおし、ツチダマ達を迎撃する。
――と、皆が戦っている一方で。
戦う術を持たないしんのすけは、自分を守ってくれている彼らに声援を送っていた。
「オジさん、お兄さん、それにタヌキさん、頑張れ~!!」
「だから俺はオジさんじゃないっての……」
「僕はタヌキじゃない! 猫型ロボットだぁ~!!」
お約束の返事もそこそこに、皆はしんのすけの声援を受けて、戦い続ける。
「う~ん、オラもオーエンだけじゃなくて、皆の力になりたいんだゾ……」
声援を送りながらも、しんのすけは少し複雑そうな顔をする。
これは、自分にとってもこの悲惨なことばかりだった一連の事件の決着をつけるための戦いだ。
その戦いで自分は何もせずにいていいのだろうか。
彼は幼いなりに、そのように考えていた。
だが、そんな彼を隣に立っていたツチダマ――ユービックが諭す。
「気にすることはない。お前が元気に応援をしているだけで皆の士気は上がる。……十分に力になってるじゃないか」
「う~ん、そうなのかなぁ? だけど、このままオーエンしてるだけっていうのは、オラのフライドポテトが許さないゾ」
「それを言うなら、プライドだろう……恐らく」
滅茶苦茶な間違いに呆れながら、ユービックは自身の心境の変化に自分で驚いていた。
何せ、元々は主催者であるギガゾンビに生み出され、その創造主の命に従い、彼らを監視していた身であったのだから。
しかも、その後、主をグリフィスに変えた後も、彼らを監視する立場に変化はなかった。
それなのに、今の自分はこうして、監視していた側に立って加勢、その上参加者の一人を諭そうとまでしている。
「今更ながら、俺もとんだ裏切り者だな…………。後悔はしていないが」
「え? 何か言った?」
「いや、なんでもない。気にするな。……それよりも応援を続けてやったらどうだ?」
「今はそれしかやることなさそうだし……うん、分かった!!」
しんのすけはひとまず納得した表情で応援に戻る。
「皆、頑張れ~!! …………でも、それにしても敵もたくさん出てきて卑怯だゾ……」
「ギガゾンビはツチダマを大量に生産したらしいからな」
「もしオラが大きな蝿叩きを持ってたら、まとめて叩いていたのにぃ……」
「いや、そんな大きな蝿叩きがあっても、お前に持てるわけがないだろう……常識的にかんg――――!」
そこで、ユービックはとある事を思いついた。
この状況を打破できるとある方法を。
そして、彼はそのことについて伝えるべく、背を向けたままのゲインへと声をかける。
「ゲイン。……苦戦しているか?」
「見たら分かるだろう。奴等、叩いても叩いてもキリがなく感じるぜ。……そんなこと聞く暇があったら、しんのすけの傍であいつを守ってや――」
「俺に一つ案がある。……聞いてもらえるか?」
◆
**【1階・格納庫付近】
「……静かですね」
「あぁ。気味悪いくらいだ」
格納庫へ続く廊下。
破壊されたツチダマの残骸が転がるそこを歩くゲイナーとレヴィは、周囲が静寂に包まれていることを不審がっていた。
今二人の耳に聞こえるのは、遠くで聞こえるゲイン達の交戦の音のみ。
「ま、深く考えてても始まらねぇ。……とりあえず問題のブツを回収してあそこに戻ることが最優先だ」
両手のカトラスの引き金にかけた指をそのままにレヴィは進む。
そして、直に彼らは扉が開いたままの格納庫の前まで到着することになる。
するとそこに広がっていたのは……
「これは……」
「これまた随分と派手にやりやがったな……。まるで狭い部屋にありったけの手榴弾ブチ込んだあとみたいだ」
レヴィはそう評してしまうほど、格納庫の内部はひどい有様だった。
そこに広がるのは、破壊された物体の山、山、山。
廊下にも転がっていたよりもさらに破砕されたツチダマの欠片。
抉れた壁や天井、床の残骸。
戦闘の余波を受けたのであろう破損した多数の機動兵器。
そして――
「タチコマ…………」
トグサから送られてきた画像に映っていたタチコマが乗り移ったという思考戦車が2体、無残な姿で放置されていた。
「相討ち、ってとこか。……この調子だと残りの一体も怪しいところだな」
「…………」
爆発したのだろう、上部が完全に吹き飛び手脚とそれを支える基部だけになったタチコマ達を横目に彼らはさらに奥へ進む。
そう、進もうとしたその時だった。
『隙ありギガ~!!!!』
いきなりそんな声が聞こえてきたかと思うと、残骸の中から完全に原型を留めたままのツチダマが現れた。
そして、そのツチダマは手に何やら拳銃のようなものを持っていて……
「ゲイナー、伏せろ!」
レヴィが叫び、ゲイナーごと無理矢理伏せると同時に彼女たちの頭上を何かが通過し、背後にあった壁が爆発した。
「か、壁が爆発した……?」
「……い、一体何だありゃ? 何で拳銃で榴弾みたいな爆発が起こるんだよ!」
起き上がったレヴィは、銃を構えるとツチダマのいた方向へ撃つ。
だが、ツチダマはそれを紙一重で避け、そのまま滑るように移動し、こちらへと再び狙いを定める。
『フッフッフ……ツチダマ族の秘術“活殺自在術(やられたふり)”を用いてこの場で待機していた甲斐があったギガ……。
貴様らは、ダマの作戦に気付かず、まんまとここの機動兵器という餌に釣られてやってきた“飛んで火にいる夏の虫”!!
このジャンボガンの餌食になって、ダマの名を挙げる糧になるがいいギガ~!!!』
「チッ! 一々説明が長いんだよ! テレビ伝道師かっつーの!」
滑るように移動するツチダマをレヴィは追ってゆく。
「……ゲイナー! こいつの事はあたしに任せて、お前はとっとと目的のブツを回収して来い!」
「は、はいっ!!」
ゲイナーが格納庫の奥、キングゲイナーの安置されている場所へと向かう。
だが、それを見逃すほどツチダマの甘くはなく……
『そうはいかないギガ~!!』
「おっと、よそ見してる暇は無いぜぇ!」
レヴィはゲイナーに注意を向け隙の出来たツチダマの片腕を撃った。
『よ、よくもダマの大事な腕を~~!!』
「チッ、少しズレちまったか……」
『許さん、許さんギガ!! ジャンボガンで灰燼に化すがいいギガ!!』
「へっ、……それでいいんだよ」
レヴィは目に楽しげな炎を灯らせ、改めてツチダマと向き合った。
レヴィにツチダマを任せたゲイナーは格納庫内を走っていた。
そして、それから直に彼は目的のブツ――白と青に彩られたオーバーマン、キングゲイナーを見つけることになる。
……その目の前にいる、地に脚をつけて動かなくなっている一体のベージュ色の思考戦車とともに。
その分厚いであろう装甲には、いくつもの穴が空き、小爆発を繰り返した跡が残っていた。
「タチコマ……もしかしてキングゲイナーを庇って……?」
背後にあるキングゲイナーがほぼ無傷で残っていることを鑑みるに、ここにいる思考戦車は自ら盾になってくれたようにも思える。
「フェイトちゃんを守ってくれた次は、キングゲイナーを守ってくれたのか。……ありがとう」
ゲイナーはひしゃげ黒く焦げたそのボディを優しく撫でる。
すると――
“ヤ、やァ……。やっパり来テくれたンだね……。いヤぁ、良かっタ良かッた”
突如、その思考戦車は鈍く腕だけを動かすと、壊れかけのスピーカーのように喋りだした。
「た、タチコマ!? まだ生きてるのかい!?」
“う~ン……正直もウダメかもしれナい……。唯一動かせた腕モ動かなクなってキたし、声モ上手く出ナいヤ……”
「それなら、技術手袋を使って、何とか動かせるくらいまでに……」
“ダ、ダメだヨ……。君は、そンなこトに時間取ってル場合じゃないんダロう? レヴィちゃンが……皆が待っテルんだから……”
ゲイナーがその言葉を聞いて我に返る。
そうだ、今まさにすぐ傍でツチダマと戦っているレヴィもホールに残ったゲイン達も自分がキングゲイナーを回収して戻るのを待っている。
ここでタチコマを修理する為に時間を浪費することは……出来ない。
“ソ……んな悲しそウな顔シ……ないでよ……。ホ、ホラ……早くキングゲイナーに乗ッテ、みんなを助けに行かナイト…………
「う、うん。……ありがとうタチコマ!」
“ソれジャ……グッドラ……ック…………”
腕を弱弱しく振って激励してくれるタチコマに後ろ髪を引かれながらも、ゲイナーはキングゲイナーの腹部のチャックを開け、コックピットに乗り込む。
「動作は正常そうだ……。チェーンガンもポシェットも異常なし……よし、イケる!!」
動作と装備の確認を素早く済ませると、ゲイナーはキングゲイナーを本格機動する。
「行くぞ、キングゲイナー!!!」
ゲイナーの呼びかけにこたえるようにキングゲイナーは浮上、格納庫内を滑空していった。
ひとまず、レヴィを回収する為に。
“……ゲイナー君…………君ナら…………出来……る……は……z”
そして、そんなキングゲイナーの後姿を見ながら腕を振り続けていたタチコマは、その言葉を最後に完全に機能を停止した。
一方、レヴィはというとジャンボガンを装備したタチコマ相手に中々止めの一発を決められずにいた。
いや、ただ威力が強い銃を装備しただけの相手ならば、彼女もそう苦戦はしなかっただろう。
問題は、そのツチダマの脚に装備されていたローラースケートにあった。
「クソッ! チョコマカ動きやがって……どこのニンジャだテメェは!」
『ヒャハハ! 当てられるものなら当ててみるがいいギガ!!』
ツチダマは、未来の秘密道具“どこでもだれでもローラースケート”を装備し、壁や天井を自在に移動して、レヴィにも予想できない動きで弾丸を回避していたのだ。
「あの野郎……ゼッテェ、潰す!!」
『ヒャハハ! 今のうちに粋がってるがいいギガ。
どうせ、お前とダマでは、速さも銃も格が段違いなんだからギガねぇ!』
「そっちこそ大口叩いておいて後悔するなよ……」
『後悔なんて、この太くて硬いジャンボガンを持つダマがするわけないギガ~!』
「さぁ、それはどうだろうねぇ?」
レヴィは微塵も焦りなど見せずに、その場に立ち尽くす。
天井を走っていたツチダマはその好機を見逃さない。
『太いギガ!』 一発。
『硬いギガ!』 二発。
『暴れっぱなしギガ!!』 三発。
合計三発の恐るべき弾丸がレヴィの立っていた場所に撃ち込まれる。
……だが。
『……これであの女も木っ端微j――――な、そ、そんなギガ!』
天井にいた彼の目の前に突如現れたのは自分がついさっき撃ったはずのレヴィその人。
彼女は何と、床方向に撃ち込まれた弾丸の衝突によって生じた爆煙の勢いに乗って、ツチダマのいる天井まで飛んできていたのだ。
『そんな……そんなまさかこれを狙って……!』
「今更気付いても遅いんだよ」
20世紀のヘボい銃と体を持つ人間のお前にダマが……ダマがぁ……』
「そーやっていつまでも見下してんじゃねぇよ!!」
この機を狙っていたレヴィのソードカトラスは、彼女の怒りに応える様にツチダマの全身を撃ち抜いた。
こうして、彼女はツチダマとの戦いに勝利したわけなのだが、このまま宙に浮いているわけにもいかない。
この世界にも重力・引力というものは存在するわけであり、レヴィの体はそのまま床に向けて落下する。
……だが、そんな自由落下する彼女は、床に到達する前に飛翔してきたキングゲイナーのその手に回収されることとなる。
「……よぉ。ナイスタイミングだ」
「って、何であんなところから落ちてたんですか!?」
「んなこと、どーでもいいだろ? あたしがいつ飛んで落ちたりしようが、あたしの勝手だ」
「そんな無茶苦茶な……」
相変わらずのレヴィの様子にゲイナーは呆れながらも、モニター越しにその床に落下していたツチダマを目にする。
恐らく、彼女はそれを倒す為にこのような無茶をしたのだろう。
……短い付き合いだが、彼には何となくそう思えた。
「ほら、こんなところでだべってないで、とっとと合流するぞ! これで戻ったら全滅とかだったら胸糞悪いからな!」
「そうですね。……それじゃ、全速力でいきます。しっかりつかまっててくださいね!!」
「ほぉ、こいつはカズマの野郎よりも乗り心地のいいタクs――うわぉっと!」
フォトンマットリングを放出しながら、キングゲイナーは一人の乗客を掌に乗せて、一直線に飛んでいった。
仲間の待つ玄関ホールを目指して。
◆
**【1階・正面ホール】
ユービックの思いついたという作戦の内容を聞いたゲインは思わず耳を疑った。
「……それは本当か?」
「この期に及んで嘘などつかない」
「しかし、それが本当だとしても一歩間違えたらヤバいことになるだろう」
「お前なら、それが出来ると見込んで話したのだ。……『黒いサザンクロス』の異名を持つお前なら出来ると信じてな」
ユービックの口調は真剣そのもの。
そして、確かにこのまま何も策を打たずにゲイナーの帰りを待っていてもジリ貧になる可能性が高い。
ならば、彼の言葉を信じてみる価値はあるだろう。
「……分かった。ここはお前の作戦に乗ってみるとしよう」
「……感謝する」
「というわけだ。ロックにドラえもん、俺が抜けた分の穴のサポートを頼む」
「了解……っと!」
「任せてよ!」
そう言うとゲインは一時銃撃を中断、ロックとドラえもんにツチダマの処理を任せている間に、ゲインは肩に掛けていたRPG-7に榴弾を装着する。
近距離での使用は爆風の影響をもろに受けるから、と使用を避けていたにも関わらず。
そして、彼はその引き金を躊躇うことなく引いた。
――しかし、ゲインの放った榴弾は、ツチダマ達に向かって放たれたものではなかった。
発射された方向……それは、天井。
そして、加速するそれは直に天井へと直撃した。
彼は、それを確認すると一発、また一発と榴弾を天井へと撃ち込む。
『ギガギガ? 一体何のつもりギガねぇ? 気でもふれたギガ?』
「……さぁ、それはどうかな?」
ゲインが不敵な笑みを浮かべる。
すると、その時、榴弾が何発も直撃した天井から突如、何かが軋む音がした。
そして、その軋む音が大きくなるにつれ天井には無数の亀裂が走り……
『な、こ、これは……何ギガ!』
「廊下に避難するんだ!!!」
ゲインが走り出すと同時に天井からは無数の瓦礫が落下してきた。
『ギ、ギガァ~~~!?』
気付いたときにはもう遅く。
落下してきた瓦礫は、ホールにいた無数のツチダマ達を踏み潰していった。
それをゲイン達は避難した先の廊下から眺める。
「……こ、こいつは予想以上だな」
「天井を破壊してその瓦礫で纏めて押しつぶす、か。確かにこれなら一体一体叩くよりも手っ取り早いよ」
ユービックが考えた作戦。
それは、まさにロックが言った通り、故意に生み出した瓦礫を利用したものであった。
ユービック曰く、この城を建設する際、ギガゾンビは外観や内装の豪華さを優先する代わりに、手抜き工事によって予算を削減していたらしい。
そして、今まさに破壊した正面ホールの天井は外からの衝撃によって簡単に崩壊するほど脆いものだったのだ。
故に彼は、ゲインのその狙撃の腕を買って、ホールの天井のみを崩壊させるように事前に計算して榴弾を撃たせていたのだ。
「しんのすけの言っていた“巨大な蝿叩き”という言葉がヒントになった」
「なるほどな。確かに壊れた天井は蝿叩きみたいな役割を果たした訳だ」
「お~! オラ、実は凄いかもだゾ~!」
「これはアイディア賞モノだよ、しんのすけ君」
「えへへ~、オラ照れちゃうゾ~」
ドラえもんに褒められ口元を緩めるしんのすけに、ゲインも自然に笑みがこぼれる。
……だが、これでツチダマ達を完全に駆逐しきったとは限らない。
彼は、新たなツチダマの軍勢の出現を警戒するべくロックとともに瓦礫に覆われ、粉塵が舞うホールへと足を踏み入れる。
「……しっかし、自分でやっといてなんだが、派手にやらかしたもんだ」
「見ろよゲイン。天井に穴が空いて上の階の天井が見えるぜ?」
ロックが指差した先。
そこには確かに天井が崩落した影響でぽっかりと巨大な穴が開いており、そこから上の階の様子が窺えた。
「こりゃ酷いな……。逆に言えば、下手にこいつをぶっ放してたら、いつ床が崩れるかわからないってことだ」
「典型的な欠陥住宅って奴だな。……怖い怖い」
苦笑しながら、二人は天井の穴を見やっていた。
すると、不意にその天井から何かが落ちてきた。
……そして、ソレはその両脚を使って見事に着地して……。
『この穴は、お前達がやったギガね~? いいや、そうに決まってるギガ!』
二本の腕と脚を生やし、二本の機関砲を肩から生やしたツチダマと同色のボディの人型ロボットは、ツチダマ口調で喋りながら、ゲイン達へと顔を向けた。
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