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「GAMEOVER(3)」(2022/05/22 (日) 12:49:30) の最新版変更点
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*GAMEOVER(3) ◆S8pgx99zVs
**[ On the landing ]
ギガゾンビ城を縦に貫く、豪奢で壮大な螺旋階段。
そこを50メートルも登れば、さすがに元気有り余るしんのすけといえども辟易とせざるを得なかった。
彼に遅れて続く、ドラえもん、ロック、ユービックの三人の顔にも疲労は色濃い。
だが、もうゴールは近かった。見上げれば屋上にへと出る扉が――と、そこに彼らの前に立ち塞がる影があった。
一本の刀を腰に佩き、一体のツチダマが静かに影の中から姿を現す。
「十万億土の冥土の使者が、闇に裁いて地獄に送る――江戸のギガ参上!」
江戸のギガを名乗る一体のツチダマ。それが持つ、見覚えのある刀を見てドラえもんの顔が青褪めた。
「アレは、名刀・電光丸っ!」
持ち主の強さや意識とは無関係に、自動で相手の動きを解析して戦う無敵の刀――名刀・電光丸。
ただのツチダマ一体ではあったが、それを聞くと残りの三人にも緊張が走った。
「何でもいいからバラバラにしたいギガァァァァァァァァァァァ――ッ!」
目の前の敵に気を取られていた四人の頭上に、もう一体のツチダマが飛び降りてくる。
こちらのツチダマが持つのは、同じく23世紀の道具の一つ――分解ドライバー。
触れれば、生物、無生物の区別なしにバラバラにしてしまう、武器として使うと極めて恐ろしい道具だ。
「――しんのすけっ!」
狙われたしんのすけをかばいにロックが飛びつく。間一髪で、奇襲を避けられたかのように見えたが、
分解ドライバーの先端が二人の身体を掠っていた。そして、それはそれで十分に効果を発揮する。
「ああああああああっ!」
ドラえもんが見ている目前で、宙を飛んでいた二人の身体がバラバラに解体され、階段の上を転がり落ちてゆく。
「隙ありーっ!」
驚愕するドラえもんを背後から襲ったのは刀を持ったツチダマだ。
この場面ならば、例え刀の機能がなくてもドラえもんを仕留めることができただろう。だが、そうはならなかった。
横合いからユービックの放った電撃が彼を襲い、刀はそれをツチダマの意志とは無関係に受け止める。
その間にドラえもんは手にしたスタンロッドを構え直すが……
ドラえもんとユービックの二人に対し、目の前には電光丸と分解ドライバーを持った二体のツチダマ。
ギガゾンビを目前にして、彼らは絶体絶命の危機に陥っていた。
◆ ◆ ◆
「……なんなんだ。コレは?」
階段の上に転がるロックの首。その口からその言葉は漏れた。
バラバラになった瞬間――スローになった視界の中で、自身の首のない胴体を見た時は
彼も死んだと錯覚し、ギロチンで首を落とされるのはこんな気持ちなのかと思ったのだが、彼はまだ生きていた。
生きていたというだけでなく、離れ離れになった身体の感覚もまだある。
ドラえもんの世界の道具の無茶苦茶さ加減に改めて呆れると、ロックは自分の身体を捜そうと首を動かした。
周りには自分の身体だけでなく、一緒にバラバラにされたしんのすけの身体も転がっている。
「接着合体~っ!」
身体がバラバラになるということに面白さを感じているのか、しんのすけは上機嫌だった。
ロックが見ている前で、器用に身体を組み立てる。そして、ロボットの様に合体すると最後に自分の頭を持ち上げ、
――それを、ロックの胴体へとくっつけた。
「おまえ何やってるんだ野原しんのすけーーっ! 冗談はともかくワケを言えーーっ!」
絶叫するロックをよそに、しんのすけとその身体はガシーン! ガシーン! とロックの身体を組上げてゆく。
そして――
「サラリーマンしんのすけ、とーじょー♪」
頭脳は5歳。身体は大人な、奇妙な人物がそこに誕生した。
実によく馴染むその身体にしんのすけは満足すると、床に落ちていたスタンロッドを拾い上げ
窮地に立たされたドラえもん達を救うべく、雄叫びを上げながら階段を三段飛ばしで駆け上がって行った。
そして、
「俺の身体を返してくれーっ」
その後ろから、身体は5歳。頭脳は大人となってしまったロックが、バランスの悪さに苦戦しながら彼を追いかける。
◆ ◆ ◆
「えい、えい、えい、えい、えい、えいーーっ!」
声を発しながらドラえもんはスタンロッドを振り回す。
むこうから攻められては負けだと、出鱈目に棒を振って相手に防御を強いていた。
だが、自動的に防御する機能を利用して動きを止めていても、それで相手を倒せるわけではない。
極端な話、むこうは寝ていたとしても腕に持ってさえいれば機能するのだ。そして、逆にドラえもんはすでに消耗も限界だった。
この一方的に見える攻撃も、実際には見た目とは逆でドラえもんはギリギリにまで追い詰められていた。
そして、もう一方のユービックも追い詰められていた。
手にしたノートPCを分解されてはたまらないと、広い階段の上を逃げ回っている。
腕から発する電撃で追い払おうにも、むこうは一瞬でも触れればよいわけで、猛突進してくる相手にその隙はなかった。
ギガゾンビを目前にして窮地に立たされたドラえもんとユービック。
――そこに、階下より救世主が現れた。
「野原しんのすけ。ぎによっておたすけいたすでもうす~!」
目を丸くするドラえもんとユービックの前に、大人のバディを手に入れたしんのすけが飛び出した。
階段を滝を遡る鯉のように一気に駆け上り、分解ドライバーを構えるツチダマの前へと肉薄する。
「コテーーッ!」
スタンロッドを後ろに引いた脇構えから一気に振り上げ、手にした分解ドライバーごと腕を折る。さらに――
「ドウーーッ!」
返す刀でツチダマの胴体を横薙ぎにして、その身体を階段の外へと放り出した。
「安心せい。みねうちで、ゴザった」
……フ、とキザな風に笑うしんのすけ。その背後よりドラえもんを退けた江戸のギガが歩み寄る。
「貴殿は中々の武士とお見受けした。――ならば、我と一戦を交えんッ!」
「のぞむところダゾ~!」
仲間が見守る中、ジリジリと互いが間合いを詰める。
そして、どこからともなく巻き上がってきた風が、結ばれた二人の視線の間を塵で遮った次の瞬間――
四つの打ち合わせる音を同時に鳴らし、何時の間にかに近づいていた二人は再び飛び退った。
互いの電気を流す得物が打ち合った後には、残光と飛び散った火花が残っている。
床に片足がつくと、ツチダマはもう片足でそこを蹴ってしんのすけへと再び突進――電光丸を振るう!
対するしんのすけは、得物の腹でそれを受けると背後へと跳躍。空中で一回転して欄干の上へと立つ。
追いすがり、しんのすけの足を狙って払われる刃を跳ねて避けると、交差する剣戟で宙に星空を描きながら欄干の上を走った。
追ってくるツチダマを引き離すと、しんのすけは再び階段にへと降り、ツチダマに正対する。
間を置いて追いついたツチダマに、八双の構えから得物を振り下ろした。
渾身の力を籠められて振り下ろされた一撃に、それを受けたツチダマの身体が軋み、合わせた得物から激しい火花が散った。
さらに得物を合わせたままの状態から、しんのすけの長い足が伸びてツチダマを階下へと蹴飛ばす。
蹴飛ばされ宙を舞うツチダマは、階段に身体を打ち付けるとその耐性の限界から、砕けてただの土塊と化した。
「……お前がオラと同じ人間だったら、負けていたのはオラのほうだったかも知れない」
好敵手であった江戸のギガ。
それを下し、神妙な目で見つめるしんのすけ。そこに階下から彼の勝利を称える仲間達が登ってきていた。
**[ Gainer over ]
「――新手の、オーバーマンッ!?」
粗方のツチダマとその戦力を掃討したキングゲイナー。その直下より急接近する新手の人型機動兵器があった。
キングゲイナーよりも二回り以上も大きく、マッチョなフォルムをトリコロールカラーで彩ったそれは、
ギガゾンビ側が持つ最後の切り札――最強のロボット、ザンダクロスだ。
「ギガゾンビ様に楯突く無法者め! 主への手土産に、今ここで貴様を落としてやる!」
フェムトの操作するザンダクロスがキングゲイナーへと突進し、唸りを上げてその豪腕を振るう。
「そんなスピードで――!」
高機動を売りにするキングゲイナーはそれを易々と避けると、チェーンガンの弾丸をザンダクロスへとぶつけた。
「そんなものが、このザンダクロスに通用するか――!」
磨き上げられたボディで無造作に弾丸を受け止めると、ザンダクロスはキングゲイナーを猛追する。
追いすがるザンダクロスから逃げ回りながら、キングゲイナーは攻撃を繰り返す。
左胸のポケットから予備弾を取り出し、豪腕を避けながらリロード。そして、間近から頭部へと集中砲火を浴びせた。
だが、煙の中から再び顔を出したザンダクロスには傷一つついていない。
「なんて頑丈なんだ。――だったら!」
チェーンガンの刃の部分。そこが回転を始め赤熱化し、そこからさらにフォトンマットを取り込み蒼い刃と化す。
それを構えると、キングゲイナーは超加速でザンダクロスの懐へと飛び込んだ。
「小癪な――ッ!」
刃を振り回し飛び回るキングゲイナーを、ザンダクロスは鬱陶しそうに両手を振るって追い払おうとする。
だが、振るう腕よりもキングゲイナーは速く、ただいたずらにザンダクロスの傷が増えるだけであった。
それでも遂にザンダクロスの拳がキングゲイナーを捉えた――と思いきや、それはゲイナーの生み出した残像だった。
拳を突き出し、宙を泳ぐ体勢となってしまったザンダクロス。その背後にキングゲイナーが現れ渾身の一撃を与えた。
辛うじて身を捩り、最悪の一撃を逃れたザンダクロスの肩のアーマーが地上へと落下する。
それを見て、操縦席に座っていたフェムトは激怒した。
「よくもギガゾンビ様のザンダクロスを! 貴様だけは許さんぞ――スゲーナスゴイデスッ!」
フェムトの片手には主より授けられた魔法のトランプ。
それが効果を発揮すると、目にも止まらなかったキングゲイナーの動きがピタリと止まった。
「これはっ、タイム――――うわぁっ!」
ザンダクロスの時間止め張り手を喰らったキングゲイナーが、空中を錐揉みに落下していく。
そして、それを見下ろすザンダクロスの腹部収納が開き、唯一の武装にして最強の攻撃――レーザー砲が現れる。
「堕ちろォ、蚊トンボ――!」
号令と共に超熱量を持ったレーザーが空中を走り、キングゲイナーに触れると――大爆発を起こした。
夜空に浮かぶ超高温のプラズマ火球。
その炎の中から黒煙に包まれたキングゲイナーが、地上へと墜落するのを確認すると、
ザンダクロスはロケットを噴かせて上昇を始め、哄笑をその場に残しながら主が待つ城の頂上へと飛び去った。
**[ Dust to dust ]
一発の銃声が鳴り響き、一体のツチダマが電子頭脳をばら撒き床に転がる。
また、一発の銃声が鳴り響き、胴を撃ち抜かれたツチダマが床に油溜まりを作る。
一発、一殺。
開けたエレベータホールには無数のツチダマの残骸。そして、そこから漏れる油と硝煙の匂いで充満していた。
……――89、……――90、……――91、……――92、――――93、――――――94。
「……94。……これがあたしの、スコアだ。……ゲイ……ン」
最後の薬莢が血溜まりの中に落ち、ソードカトラスのスライドが下がりっぱなしになって弾切れを知らせる。
「もう……、喋れなく、なっちまってたの、か……」
気だるげに視線をやったその先、そこには力尽き自らの血で引いたシーツの上で眠るゲインの姿があった。
その半身は熱線銃の一撃を受けて真っ黒に炭化しており、生きていた頃のような精悍さはもうなかった。
――テメェのスコアを聞かなきゃ、あたしが勝っているのかどうかが判らねえじゃないか。
床の上、銃を持った腕を下ろし目を瞑って、レヴィはその時を待つ。
すでに息絶えたゲイン同様、彼女もまた死の淵のギリギリの場所に立っていた。
その身体を通り抜けた弾丸の数はゆうに十を越える。骨を断たれた右腕はとうに使い物にならなくなっていたし、
大量出血に下半身は弛緩し、立ち上がることもできなくっていた。床を濡らす血に紛れているが、失禁だってしている。
鼻の中も口の中も血に溢れ気持ちが悪い。視界は電灯を落としたかの様に暗いし、耳は壊れたラジオの様に遠い。
解るのはまだ生きているという事。そして、もう死ぬという事。
飛来した弾丸がレヴィの腹に吸い込まれ新しい傷を作った。
レヴィは反応しない。ただ、傷口から黒く濁った血を溢すだけだ。
――向こうに着いたら、テメェのスコアを聞いてやるからな。絶対、誤魔化したりするんじゃ……。
間際――レヴィの目の前に真っ白な羽毛が舞ったような気がした。
そして、その次の瞬間にレヴィは眉間を弾丸に貫かれ――死んだ。
血と硝煙の匂いで充満する通路の中。
真赤なシーツの上で、レヴィとゲインは並んで眠るように死に――殺戮の舞台より退場した。
&color(red){【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー 死亡】}
&color(red){【レヴィ@BLACK LAGOON 死亡】}
**[ Climax ]
遂には集束を始めた物語。
ギガゾンビ城の頂上。そこでも、また一つの決着がつこうとしていた。
吹きさらしになっている屋上の、その端には追い詰められたギガゾンビが一人。
そして、地上より繋がる階段の入り口には、そこを上ってきたドラえもん達四人の姿があった。
じりじりと間を詰める四人の腕にはそれぞれの武器がある。
対して、ギガゾンビの手中には電撃を放てる杖と、スゲーナスゴイデスのトランプが一枚のみ。
取り寄せバッグを使おうにも、すでに有用な道具は出払ってしまっていた。
「ワシに近づくんじゃあないっ!」
ギガゾンビを取り囲むように広がり、半分の距離まで詰めてきた四人に対しギガゾンビはトランプを突きつけた。
ぴたりと四人の動きが止まる。だが、その魔法のトランプの力もすでに程度は知れ渡っているのだ。
「……ギガゾンビ。もう、無駄な抵抗は止すんだ」
元の身体を取り戻し、電光丸を手にしたロックが一歩前進する。
「素直に投降すれば、殺しはしない」
言いながら、もう一歩前進する。
「ハッ! 何を馬鹿なことを。何が殺しはしない――だ。
どうせタイムパトロールに突き出されれば、死んだも同然。そんな言葉にだれが――」
勢いのままに言葉を発していたギガゾンビは、唐突にそれを止めた。
そして先程とは打って変わった、気持ちの悪い猫なで声で話しはじめる。
「条件をつけないかぁ、君達?」
唐突に豹変したギガゾンビの態度に四人は訝しがる。
「そうだ。ワシはもう君達とは争うのを止めにするよ。だから君達も、そんな武器は捨ててくれないか?
何。その内、ここにはタイムパトロールがやってくる。君達は彼らに助けてもらうといい。
だから、ワシを一足先にここから逃してくれ。
そうだ! 欲しいというのなら、何か願いを叶えてやっても構わんぞ。
特別サービスに、生き残った君達全員が優勝者ということにしてやろう。
どうだ? 何か叶えて欲しい願いの一つや二つ、君達にもあるだろう……?
……どうした? ワシの言葉が信じられないのか? それなら…………」
取り囲む四人の前で饒舌に語るギガゾンビに、ロックは違和感を持つ。
ただの命乞い――いや、そうじゃない。こんな時、こんな奴が、こんなことを言い出すのは、それは、そう――時間稼ぎだ!
ロックと他の三人が、ギガゾンビの意図に気付いて動こうとしたその時――
そこに、ギガゾンビ最後の切り札――ザンダクロスが彼の背後より姿を現した。
全員が動いた。
ギガゾンビは振り返り、彼の後ろに現れたザンダクロスに飛び乗ろうと走る。
ドラえもん、しんのすけ、ロック、ユービックの四人はそれを阻止しようと、ギガゾンビを追う。
真っ先に追いつたのはしんのすけだ。
ギガゾンビに捕りかかろうと跳躍する――が、すんでの所でその姿を豚にされ、腕が宙を切る。
最後のトランプを使い切ると、ギガゾンビは最大出力で杖の電撃を放った。撃たれた床が爆ぜ、破片を撒き散らす。
そして、足を止めた残りの三人を尻目に、ギガゾンビは遂に屋上の縁にへと足をかけザンダクロスへと手を伸ばした。
◆ ◆ ◆
邪魔者を排し、遂にギガゾンビの元へと到着したフェムトと彼が操るザンダクロス。
見下ろせば、まさに彼の主が追い詰められようとしているところだった。
だが、彼の主は追っ手を振り払いこちらへと駆け寄り手を伸ばしている。
フェムトは、駆け寄る我が主を受け止めるため、ザンダクロスの長い腕をそこに向けて伸ばす。
この瞬間。フェムトの電子頭脳の中には達成感と奉仕する歓喜。そして、勝利の確信によって満たされていた。
ドスン――と、フェムトが座る操縦席が震えた。
操縦席の下から何かが飛び出して、目の前のコンソールを越えて胸部の装甲版を貫いていた。
(――なんだコレは? いったい、コレはなんなのだ? この、――”熱い”モノは?)
それはものすごい熱を持っていた。瞬く間に操縦席の中が、ザンダクロス自身が熱されていく。
(――コレは! 忌々しい羽虫のような音を立てる――この刃は!)
フェムトは操縦席より降りて背後を振り返った。
そんなことをしても壁に阻まれてそれを見ることはできなかいが、彼にはそれが何者かということはすでに解っていた。
「……キ、……キ、……キング・ゲイナアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――ッ!」
その絶叫がギガゾンビの唯一の腹心――フェムトの断末魔となった。
◆ ◆ ◆
目の前で起こった大爆発。
屋上の端より身を乗り出していたギガゾンビは、その爆風に吹き飛ばされ屋上の中へと引き戻された。
床の上に転がるギガゾンビ。どこかへと飛んでいってしまった仮面の下の素顔は、貧相な老人のものだ。
呆然とそれを見上げる彼の前で、爆裂したザンダクロスの燃える破片が地上へと降り注ぐ。
後一歩のところで彼の切り札は失われ、また杖もなく、最早そこにはただの憐れな老人しか残っていなかった。
そして、漂う煙が夜風によって払われると、そこには彼の希望を断ったキングゲイナーのその姿があった。
纏っていた純白のオーバーコートは焼け焦げて煤の色に染まっており、所々に失われている場所もある凄惨な姿ではあったが、
安定した飛行を見せるとそのまま屋上へと降り立つ。
そこに、彼の偉業を称えながらドラえもん、そして元の姿に戻ったしんのすけの二人が駆け寄る。
そして、茫然自失と化したギガゾンビの元にはロックと、元の主の没落を複雑な目で見るユービックの姿があった。
ロックは項垂れるギガゾンビの首筋に刀を当て、彼にそれを宣言する。
「――ゲームオーバーだ。ギガゾンビ。」
◆ ◆ ◆
二日足らず前に始められた殺戮遊戯。その終結を宣言したロックの足元で、ギガゾンビの身体が震えていた。
最初は、それは恐怖や絶望からだとロックは推測したが、すぐにそうでないことが解る。
「ハ、ハ、ハッ! ハアーーッ、ハハハハハハハハハハハーーッ! ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ…………!」
狂った様にギガゾンビが笑い出し、それにロックと振り返ったドラえもん達は何事かと目を見張る。
涎を撒き散らし、目を剥いて壊れた様に笑うギガゾンビは狂っている。――いや、とうの昔に狂っていた。
一通り笑い終わり、顔を上げたギガゾンビの両目を見た時、ロックの脳裏に悪い予感が走った。
引ん剥かれた老人の凶眼から読み取れるのは――、自暴自棄、破滅、自爆、無差別。そんなキーワード。
そして、そのロックの予感は最悪の形で的中した。
――零時ジャストにこの世界そのものが消えてなくなる。そうギガゾンビは言った。
「ハハハ! ハハハ! 嘘じゃないぞ! 嘘じゃないぞ!
もう誰も地球破壊爆弾には手出しすることはできん。このワシにもな。絶対に――ダ!」
地球破壊爆弾という単語にドラえもんの顔が青褪める。それを見て、他の者達はギガゾンビの言葉が嘘でないと知った。
「地球破壊爆弾」――その名のとおり、地球そのものを宇宙の塵に変えてしまえる程の威力を持った爆弾。
「もう終わりだ! 何もかも終わりダ!
死ね! 死ね! 死ね! 死ぬぞ! 死ぬぞ! お前も死ぬ! お前もだ! お前達の仲間も全い――ッ!」
ドサリと音を立てて、電光丸の一撃を受けたギガゾンビは崩れ落ち気を失った。
電光丸を振るったロックは、怒りと焦り。そして、恐怖に肩を震わせている。そして、ただ――、
「病院へ、戻ろう……」
……と、それだけを蒼くなった唇から溢した。
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*GAMEOVER(3) ◆S8pgx99zVs
**[ On the landing ]
ギガゾンビ城を縦に貫く、豪奢で壮大な螺旋階段。
そこを50メートルも登れば、さすがに元気有り余るしんのすけといえども辟易とせざるを得なかった。
彼に遅れて続く、ドラえもん、ロック、ユービックの三人の顔にも疲労は色濃い。
だが、もうゴールは近かった。見上げれば屋上にへと出る扉が――と、そこに彼らの前に立ち塞がる影があった。
一本の刀を腰に佩き、一体のツチダマが静かに影の中から姿を現す。
「十万億土の冥土の使者が、闇に裁いて地獄に送る――江戸のギガ参上!」
江戸のギガを名乗る一体のツチダマ。それが持つ、見覚えのある刀を見てドラえもんの顔が青褪めた。
「アレは、名刀・電光丸っ!」
持ち主の強さや意識とは無関係に、自動で相手の動きを解析して戦う無敵の刀――名刀・電光丸。
ただのツチダマ一体ではあったが、それを聞くと残りの三人にも緊張が走った。
「何でもいいからバラバラにしたいギガァァァァァァァァァァァ――ッ!」
目の前の敵に気を取られていた四人の頭上に、もう一体のツチダマが飛び降りてくる。
こちらのツチダマが持つのは、同じく23世紀の道具の一つ――分解ドライバー。
触れれば、生物、無生物の区別なしにバラバラにしてしまう、武器として使うと極めて恐ろしい道具だ。
「――しんのすけっ!」
狙われたしんのすけをかばいにロックが飛びつく。間一髪で、奇襲を避けられたかのように見えたが、
分解ドライバーの先端が二人の身体を掠っていた。そして、それはそれで十分に効果を発揮する。
「ああああああああっ!」
ドラえもんが見ている目前で、宙を飛んでいた二人の身体がバラバラに解体され、階段の上を転がり落ちてゆく。
「隙ありーっ!」
驚愕するドラえもんを背後から襲ったのは刀を持ったツチダマだ。
この場面ならば、例え刀の機能がなくてもドラえもんを仕留めることができただろう。だが、そうはならなかった。
横合いからユービックの放った電撃が彼を襲い、刀はそれをツチダマの意志とは無関係に受け止める。
その間にドラえもんは手にしたスタンロッドを構え直すが……
ドラえもんとユービックの二人に対し、目の前には電光丸と分解ドライバーを持った二体のツチダマ。
ギガゾンビを目前にして、彼らは絶体絶命の危機に陥っていた。
◆ ◆ ◆
「……なんなんだ。コレは?」
階段の上に転がるロックの首。その口からその言葉は漏れた。
バラバラになった瞬間――スローになった視界の中で、自身の首のない胴体を見た時は
彼も死んだと錯覚し、ギロチンで首を落とされるのはこんな気持ちなのかと思ったのだが、彼はまだ生きていた。
生きていたというだけでなく、離れ離れになった身体の感覚もまだある。
ドラえもんの世界の道具の無茶苦茶さ加減に改めて呆れると、ロックは自分の身体を捜そうと首を動かした。
周りには自分の身体だけでなく、一緒にバラバラにされたしんのすけの身体も転がっている。
「接着合体~っ!」
身体がバラバラになるということに面白さを感じているのか、しんのすけは上機嫌だった。
ロックが見ている前で、器用に身体を組み立てる。そして、ロボットの様に合体すると最後に自分の頭を持ち上げ、
――それを、ロックの胴体へとくっつけた。
「おまえ何やってるんだ野原しんのすけーーっ! 冗談はともかくワケを言えーーっ!」
絶叫するロックをよそに、しんのすけとその身体はガシーン! ガシーン! とロックの身体を組上げてゆく。
そして――
「サラリーマンしんのすけ、とーじょー♪」
頭脳は5歳。身体は大人な、奇妙な人物がそこに誕生した。
実によく馴染むその身体にしんのすけは満足すると、床に落ちていたスタンロッドを拾い上げ
窮地に立たされたドラえもん達を救うべく、雄叫びを上げながら階段を三段飛ばしで駆け上がって行った。
そして、
「俺の身体を返してくれーっ」
その後ろから、身体は5歳。頭脳は大人となってしまったロックが、バランスの悪さに苦戦しながら彼を追いかける。
◆ ◆ ◆
「えい、えい、えい、えい、えい、えいーーっ!」
声を発しながらドラえもんはスタンロッドを振り回す。
むこうから攻められては負けだと、出鱈目に棒を振って相手に防御を強いていた。
だが、自動的に防御する機能を利用して動きを止めていても、それで相手を倒せるわけではない。
極端な話、むこうは寝ていたとしても腕に持ってさえいれば機能するのだ。そして、逆にドラえもんはすでに消耗も限界だった。
この一方的に見える攻撃も、実際には見た目とは逆でドラえもんはギリギリにまで追い詰められていた。
そして、もう一方のユービックも追い詰められていた。
手にしたノートPCを分解されてはたまらないと、広い階段の上を逃げ回っている。
腕から発する電撃で追い払おうにも、むこうは一瞬でも触れればよいわけで、猛突進してくる相手にその隙はなかった。
ギガゾンビを目前にして窮地に立たされたドラえもんとユービック。
――そこに、階下より救世主が現れた。
「野原しんのすけ。ぎによっておたすけいたすでもうす~!」
目を丸くするドラえもんとユービックの前に、大人のバディを手に入れたしんのすけが飛び出した。
階段を滝を遡る鯉のように一気に駆け上り、分解ドライバーを構えるツチダマの前へと肉薄する。
「コテーーッ!」
スタンロッドを後ろに引いた脇構えから一気に振り上げ、手にした分解ドライバーごと腕を折る。さらに――
「ドウーーッ!」
返す刀でツチダマの胴体を横薙ぎにして、その身体を階段の外へと放り出した。
「安心せい。みねうちで、ゴザった」
……フ、とキザな風に笑うしんのすけ。その背後よりドラえもんを退けた江戸のギガが歩み寄る。
「貴殿は中々の武士とお見受けした。――ならば、我と一戦を交えんッ!」
「のぞむところダゾ~!」
仲間が見守る中、ジリジリと互いが間合いを詰める。
そして、どこからともなく巻き上がってきた風が、結ばれた二人の視線の間を塵で遮った次の瞬間――
四つの打ち合わせる音を同時に鳴らし、何時の間にかに近づいていた二人は再び飛び退った。
互いの電気を流す得物が打ち合った後には、残光と飛び散った火花が残っている。
床に片足がつくと、ツチダマはもう片足でそこを蹴ってしんのすけへと再び突進――電光丸を振るう!
対するしんのすけは、得物の腹でそれを受けると背後へと跳躍。空中で一回転して欄干の上へと立つ。
追いすがり、しんのすけの足を狙って払われる刃を跳ねて避けると、交差する剣戟で宙に星空を描きながら欄干の上を走った。
追ってくるツチダマを引き離すと、しんのすけは再び階段にへと降り、ツチダマに正対する。
間を置いて追いついたツチダマに、八双の構えから得物を振り下ろした。
渾身の力を籠められて振り下ろされた一撃に、それを受けたツチダマの身体が軋み、合わせた得物から激しい火花が散った。
さらに得物を合わせたままの状態から、しんのすけの長い足が伸びてツチダマを階下へと蹴飛ばす。
蹴飛ばされ宙を舞うツチダマは、階段に身体を打ち付けるとその耐性の限界から、砕けてただの土塊と化した。
「……お前がオラと同じ人間だったら、負けていたのはオラのほうだったかも知れない」
好敵手であった江戸のギガ。
それを下し、神妙な目で見つめるしんのすけ。そこに階下から彼の勝利を称える仲間達が登ってきていた。
**[ Gainer over ]
「――新手の、オーバーマンッ!?」
粗方のツチダマとその戦力を掃討したキングゲイナー。その直下より急接近する新手の人型機動兵器があった。
キングゲイナーよりも二回り以上も大きく、マッチョなフォルムをトリコロールカラーで彩ったそれは、
ギガゾンビ側が持つ最後の切り札――最強のロボット、ザンダクロスだ。
「ギガゾンビ様に楯突く無法者め! 主への手土産に、今ここで貴様を落としてやる!」
フェムトの操作するザンダクロスがキングゲイナーへと突進し、唸りを上げてその豪腕を振るう。
「そんなスピードで――!」
高機動を売りにするキングゲイナーはそれを易々と避けると、チェーンガンの弾丸をザンダクロスへとぶつけた。
「そんなものが、このザンダクロスに通用するか――!」
磨き上げられたボディで無造作に弾丸を受け止めると、ザンダクロスはキングゲイナーを猛追する。
追いすがるザンダクロスから逃げ回りながら、キングゲイナーは攻撃を繰り返す。
左胸のポケットから予備弾を取り出し、豪腕を避けながらリロード。そして、間近から頭部へと集中砲火を浴びせた。
だが、煙の中から再び顔を出したザンダクロスには傷一つついていない。
「なんて頑丈なんだ。――だったら!」
チェーンガンの刃の部分。そこが回転を始め赤熱化し、そこからさらにフォトンマットを取り込み蒼い刃と化す。
それを構えると、キングゲイナーは超加速でザンダクロスの懐へと飛び込んだ。
「小癪な――ッ!」
刃を振り回し飛び回るキングゲイナーを、ザンダクロスは鬱陶しそうに両手を振るって追い払おうとする。
だが、振るう腕よりもキングゲイナーは速く、ただいたずらにザンダクロスの傷が増えるだけであった。
それでも遂にザンダクロスの拳がキングゲイナーを捉えた――と思いきや、それはゲイナーの生み出した残像だった。
拳を突き出し、宙を泳ぐ体勢となってしまったザンダクロス。その背後にキングゲイナーが現れ渾身の一撃を与えた。
辛うじて身を捩り、最悪の一撃を逃れたザンダクロスの肩のアーマーが地上へと落下する。
それを見て、操縦席に座っていたフェムトは激怒した。
「よくもギガゾンビ様のザンダクロスを! 貴様だけは許さんぞ――スゲーナスゴイデスッ!」
フェムトの片手には主より授けられた魔法のトランプ。
それが効果を発揮すると、目にも止まらなかったキングゲイナーの動きがピタリと止まった。
「これはっ、タイム――――うわぁっ!」
ザンダクロスの時間止め張り手を喰らったキングゲイナーが、空中を錐揉みに落下していく。
そして、それを見下ろすザンダクロスの腹部収納が開き、唯一の武装にして最強の攻撃――レーザー砲が現れる。
「堕ちろォ、蚊トンボ――!」
号令と共に超熱量を持ったレーザーが空中を走り、キングゲイナーに触れると――大爆発を起こした。
夜空に浮かぶ超高温のプラズマ火球。
その炎の中から黒煙に包まれたキングゲイナーが、地上へと墜落するのを確認すると、
ザンダクロスはロケットを噴かせて上昇を始め、哄笑をその場に残しながら主が待つ城の頂上へと飛び去った。
**[ Dust to dust ]
一発の銃声が鳴り響き、一体のツチダマが電子頭脳をばら撒き床に転がる。
また、一発の銃声が鳴り響き、胴を撃ち抜かれたツチダマが床に油溜まりを作る。
一発、一殺。
開けたエレベータホールには無数のツチダマの残骸。そして、そこから漏れる油と硝煙の匂いで充満していた。
……――89、……――90、……――91、……――92、――――93、――――――94。
「……94。……これがあたしの、スコアだ。……ゲイ……ン」
最後の薬莢が血溜まりの中に落ち、ソードカトラスのスライドが下がりっぱなしになって弾切れを知らせる。
「もう……、喋れなく、なっちまってたの、か……」
気だるげに視線をやったその先、そこには力尽き自らの血で引いたシーツの上で眠るゲインの姿があった。
その半身は熱線銃の一撃を受けて真っ黒に炭化しており、生きていた頃のような精悍さはもうなかった。
――テメェのスコアを聞かなきゃ、あたしが勝っているのかどうかが判らねえじゃないか。
床の上、銃を持った腕を下ろし目を瞑って、レヴィはその時を待つ。
すでに息絶えたゲイン同様、彼女もまた死の淵のギリギリの場所に立っていた。
その身体を通り抜けた弾丸の数はゆうに十を越える。骨を断たれた右腕はとうに使い物にならなくなっていたし、
大量出血に下半身は弛緩し、立ち上がることもできなくっていた。床を濡らす血に紛れているが、失禁だってしている。
鼻の中も口の中も血に溢れ気持ちが悪い。視界は電灯を落としたかの様に暗いし、耳は壊れたラジオの様に遠い。
解るのはまだ生きているという事。そして、もう死ぬという事。
飛来した弾丸がレヴィの腹に吸い込まれ新しい傷を作った。
レヴィは反応しない。ただ、傷口から黒く濁った血を溢すだけだ。
――向こうに着いたら、テメェのスコアを聞いてやるからな。絶対、誤魔化したりするんじゃ……。
間際――レヴィの目の前に真っ白な羽毛が舞ったような気がした。
そして、その次の瞬間にレヴィは眉間を弾丸に貫かれ――死んだ。
血と硝煙の匂いで充満する通路の中。
真赤なシーツの上で、レヴィとゲインは並んで眠るように死に――殺戮の舞台より退場した。
&color(red){【ゲイン・ビジョウ@OVERMANキングゲイナー 死亡】}
&color(red){【レヴィ@BLACK LAGOON 死亡】}
**[ Climax ]
遂には集束を始めた物語。
ギガゾンビ城の頂上。そこでも、また一つの決着がつこうとしていた。
吹きさらしになっている屋上の、その端には追い詰められたギガゾンビが一人。
そして、地上より繋がる階段の入り口には、そこを上ってきたドラえもん達四人の姿があった。
じりじりと間を詰める四人の腕にはそれぞれの武器がある。
対して、ギガゾンビの手中には電撃を放てる杖と、スゲーナスゴイデスのトランプが一枚のみ。
取り寄せバッグを使おうにも、すでに有用な道具は出払ってしまっていた。
「ワシに近づくんじゃあないっ!」
ギガゾンビを取り囲むように広がり、半分の距離まで詰めてきた四人に対しギガゾンビはトランプを突きつけた。
ぴたりと四人の動きが止まる。だが、その魔法のトランプの力もすでに程度は知れ渡っているのだ。
「……ギガゾンビ。もう、無駄な抵抗は止すんだ」
元の身体を取り戻し、電光丸を手にしたロックが一歩前進する。
「素直に投降すれば、殺しはしない」
言いながら、もう一歩前進する。
「ハッ! 何を馬鹿なことを。何が殺しはしない――だ。
どうせタイムパトロールに突き出されれば、死んだも同然。そんな言葉にだれが――」
勢いのままに言葉を発していたギガゾンビは、唐突にそれを止めた。
そして先程とは打って変わった、気持ちの悪い猫なで声で話しはじめる。
「条件をつけないかぁ、君達?」
唐突に豹変したギガゾンビの態度に四人は訝しがる。
「そうだ。ワシはもう君達とは争うのを止めにするよ。だから君達も、そんな武器は捨ててくれないか?
何。その内、ここにはタイムパトロールがやってくる。君達は彼らに助けてもらうといい。
だから、ワシを一足先にここから逃してくれ。
そうだ! 欲しいというのなら、何か願いを叶えてやっても構わんぞ。
特別サービスに、生き残った君達全員が優勝者ということにしてやろう。
どうだ? 何か叶えて欲しい願いの一つや二つ、君達にもあるだろう……?
……どうした? ワシの言葉が信じられないのか? それなら…………」
取り囲む四人の前で饒舌に語るギガゾンビに、ロックは違和感を持つ。
ただの命乞い――いや、そうじゃない。こんな時、こんな奴が、こんなことを言い出すのは、それは、そう――時間稼ぎだ!
ロックと他の三人が、ギガゾンビの意図に気付いて動こうとしたその時――
そこに、ギガゾンビ最後の切り札――ザンダクロスが彼の背後より姿を現した。
全員が動いた。
ギガゾンビは振り返り、彼の後ろに現れたザンダクロスに飛び乗ろうと走る。
ドラえもん、しんのすけ、ロック、ユービックの四人はそれを阻止しようと、ギガゾンビを追う。
真っ先に追いつたのはしんのすけだ。
ギガゾンビに捕りかかろうと跳躍する――が、すんでの所でその姿を豚にされ、腕が宙を切る。
最後のトランプを使い切ると、ギガゾンビは最大出力で杖の電撃を放った。撃たれた床が爆ぜ、破片を撒き散らす。
そして、足を止めた残りの三人を尻目に、ギガゾンビは遂に屋上の縁にへと足をかけザンダクロスへと手を伸ばした。
◆ ◆ ◆
邪魔者を排し、遂にギガゾンビの元へと到着したフェムトと彼が操るザンダクロス。
見下ろせば、まさに彼の主が追い詰められようとしているところだった。
だが、彼の主は追っ手を振り払いこちらへと駆け寄り手を伸ばしている。
フェムトは、駆け寄る我が主を受け止めるため、ザンダクロスの長い腕をそこに向けて伸ばす。
この瞬間。フェムトの電子頭脳の中には達成感と奉仕する歓喜。そして、勝利の確信によって満たされていた。
ドスン――と、フェムトが座る操縦席が震えた。
操縦席の下から何かが飛び出して、目の前のコンソールを越えて胸部の装甲版を貫いていた。
(――なんだコレは? いったい、コレはなんなのだ? この、――”熱い”モノは?)
それはものすごい熱を持っていた。瞬く間に操縦席の中が、ザンダクロス自身が熱されていく。
(――コレは! 忌々しい羽虫のような音を立てる――この刃は!)
フェムトは操縦席より降りて背後を振り返った。
そんなことをしても壁に阻まれてそれを見ることはできなかいが、彼にはそれが何者かということはすでに解っていた。
「……キ、……キ、……キング・ゲイナアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――ッ!」
その絶叫がギガゾンビの唯一の腹心――フェムトの断末魔となった。
◆ ◆ ◆
目の前で起こった大爆発。
屋上の端より身を乗り出していたギガゾンビは、その爆風に吹き飛ばされ屋上の中へと引き戻された。
床の上に転がるギガゾンビ。どこかへと飛んでいってしまった仮面の下の素顔は、貧相な老人のものだ。
呆然とそれを見上げる彼の前で、爆裂したザンダクロスの燃える破片が地上へと降り注ぐ。
後一歩のところで彼の切り札は失われ、また杖もなく、最早そこにはただの憐れな老人しか残っていなかった。
そして、漂う煙が夜風によって払われると、そこには彼の希望を断ったキングゲイナーのその姿があった。
纏っていた純白のオーバーコートは焼け焦げて煤の色に染まっており、所々に失われている場所もある凄惨な姿ではあったが、
安定した飛行を見せるとそのまま屋上へと降り立つ。
そこに、彼の偉業を称えながらドラえもん、そして元の姿に戻ったしんのすけの二人が駆け寄る。
そして、茫然自失と化したギガゾンビの元にはロックと、元の主の没落を複雑な目で見るユービックの姿があった。
ロックは項垂れるギガゾンビの首筋に刀を当て、彼にそれを宣言する。
「――ゲームオーバーだ。ギガゾンビ。」
◆ ◆ ◆
二日足らず前に始められた殺戮遊戯。その終結を宣言したロックの足元で、ギガゾンビの身体が震えていた。
最初は、それは恐怖や絶望からだとロックは推測したが、すぐにそうでないことが解る。
「ハ、ハ、ハッ! ハアーーッ、ハハハハハハハハハハハーーッ! ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ…………!」
狂った様にギガゾンビが笑い出し、それにロックと振り返ったドラえもん達は何事かと目を見張る。
涎を撒き散らし、目を剥いて壊れた様に笑うギガゾンビは狂っている。――いや、とうの昔に狂っていた。
一通り笑い終わり、顔を上げたギガゾンビの両目を見た時、ロックの脳裏に悪い予感が走った。
引ん剥かれた老人の凶眼から読み取れるのは――、自暴自棄、破滅、自爆、無差別。そんなキーワード。
そして、そのロックの予感は最悪の形で的中した。
――零時ジャストにこの世界そのものが消えてなくなる。そうギガゾンビは言った。
「ハハハ! ハハハ! 嘘じゃないぞ! 嘘じゃないぞ!
もう誰も地球破壊爆弾には手出しすることはできん。このワシにもな。絶対に――ダ!」
地球破壊爆弾という単語にドラえもんの顔が青褪める。それを見て、他の者達はギガゾンビの言葉が嘘でないと知った。
「地球破壊爆弾」――その名のとおり、地球そのものを宇宙の塵に変えてしまえる程の威力を持った爆弾。
「もう終わりだ! 何もかも終わりダ!
死ね! 死ね! 死ね! 死ぬぞ! 死ぬぞ! お前も死ぬ! お前もだ! お前達の仲間も全い――ッ!」
ドサリと音を立てて、電光丸の一撃を受けたギガゾンビは崩れ落ち気を失った。
電光丸を振るったロックは、怒りと焦り。そして、恐怖に肩を震わせている。そして、ただ――
「病院へ、戻ろう……」
……と、それだけを蒼くなった唇から溢した。
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