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「今日までそして明日から」(2022/06/11 (土) 23:03:48) の最新版変更点
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*今日までそして明日から ◆WwHdPG9VGI 氏
「う~ん、おなか一杯だゾ」
おなかをさすりながらしんのすけは自室のドアを開けた。
東北に来てよかったことの一つは自分の部屋が持てたことだ。
昔、父、ひろしが使っていた部屋が今ではしんのすけの部屋になっている。
幼稚園に持っていくカバンを取ろうと、しんのすけは机の方に歩み寄ろうとして――
――何かにけつまづいてコケた。
「おッ……っと……なんの!」
だがそこは運動神経抜群の野原しんのすけ。
くるりと回って華麗に着地しようとして――。
思い切りオモチャのブロックを踏んで悶絶した。
「~ったいなあ、もう。何処の狩人ぉ? こんな所にトラップをしかけるなんて~。
はっ! オラを亡き者にする計画がかくかくとおしんこ中とか……」
――単に散らかってるだけでしょうが。
という冷酷なツッコミは聞えてこなかったが、
何となく空しいものを感じたしんのすけは部屋を見渡し、硬直した。
「お、おお……」
散らかっている。どうしようもなく散らかっている。
足の踏み場もない、とまでは言わないがその半歩手前といったところか。
(ど、どーしよ……。お片づけしないと……。そんでも……)
――これぐらいならまだ、我慢できる。
部屋を散らかす人間特有の悪魔のささやきが聞えた気がした。
一気にメーターが『片付けない』のほうに傾いていく。
安楽な方へ方へと流されたくなる。
(でも、かーちゃんが見たら……)
――しんのすけ! ちゃんとお片づけしなさい!
厳しい声が聞こえた気がして、しんのすけはビクリと体を震わせた。
「う~ん……。でも、風間君が『しんのすけにイイ子は似合わない』っていったしぃ。
よしなが先生も無理しなくていいっていったしぃ……」
――それはそれ! これはこれ!
また耳の奥で声がした。
「……んもう! やればいいんでしょ! やればぁっ!」
叫ぶと同時にしんのすけは片端から物をオモチャ箱に放り込み、
服をたたみ、あるいは洗濯物カゴに放り込んでいく。
数分後――
ぴしゃりと押入れをしめ、
「よし! 完璧!」
満足げにしんのすけは頷いた。
押入れの中はあまり見せられたものではないが、まあ及第点といったところだろう。
しんのすけが、額の汗をぬぐう仕草をしたのとほぼ時を同じくして、
「しんのすけ~。早くいかんと幼稚園に遅れるよ~」
「ほっほ~い!」
祖母の声に元気良く答えながら、しんのすけはふと思いつく。
(行く前に、久しぶりにやろっかな)
――最近たるんでる気がするし。
思い立つと後は早い。
そそくさとしんのすけは、もう一度押入れをあけるとディパックを取り出した。
きょろきょろとあたりを見渡しながら、しんのすけはディパックの中から箱を取り出した。
箱の中に入っているのは、秘密の写真。
「だ~れも知らない、知られちゃいけない~」
少し音程の外れた声で歌いながら、その写真をこの上もなく大事そうに、
しんのすけは一枚一枚取り出していく。
それらは存在しないはずの写真。
この写真の主達と一緒にいた時しんのすけはカメラなどもっていなかった。
そしてもっていたとしても、写す暇はなかったはず。
それが何故ここにあるのか?
(リングおねーさん、ありがとう)
しんのすけは、心の中でリングに頭を下げた。
『死んじゃったみんなのお顔、忘れたくない』って言ったら
リング・スノーストームが、みんなのことをこっそりタイムカメラを使って撮ってくれたのだ。
30世紀のタイムカメラは時間と空間を超越できるとかどうとか、
難しいことは分からないが、みんなの写真がここにある。
しんのすけにはそれで十分だった。
1枚目の写真の中では、銀髪の少年が月下の下、天使のような笑みを浮かべていた。
――僕はヘンゼル…そうだな、世界で二番目にカッコ良い双子の一人さ。
少年の名前はヘンゼル。
あの世界に飛ばされて初めてであった、初めて友達になった少年。
あんまり長い時間一緒にいられなかったけれど、それでも友達だった。
2枚目の写真には、銃を構えて咆哮をあげる青年の姿。
――坊主。そのお兄さんの話をきちんと聞くんだぞ! そうするだけの時間は、今、俺が作ってやる!
初めて見たときは頼りなさそうで騙されやすい、おバカなお兄さんだと思ったけど、
本当はとっても勇気があってカッコよかったお兄さん。君島邦彦。
3枚目の写真には、闇の中でたおやかに微笑む獣耳の女性、エルルゥの姿があった。
その膝の上には眠っている自分がいる。しんのすけは目を細めた。
――子守唄、歌ってあげるね。
今でも目を閉じれば、おねえさんが透き通った声で歌う子守唄が耳の奥に蘇ってくる。
あの悲しげな優しい瞳のきらめきは、今でも鮮明に覚えている。
4枚目の写真には、笑顔を浮かべるポニーテールの少女、園崎魅音と、
顔を覆って恥ずかしそうにしている北条沙都子が並んで映っている。
しんのすけが、ケツだけ星人をやってみせた時のものだ。
――きゃあ~~~~~ッ!! お、お下品ですわよしんのすけさん!!
――あはははははは!! しんちゃんも中々の芸達者だねぇ
ずっと暗い顔してたさとちゃんが、やっと笑ってくれたと思ったのに。
魅音お姉さんも辛そうだったけど頑張ろうとしてたのに。
わずかにしんのすけの顔がわずかに歪む。
悲しげにため息をつきながら、しんのすけはそっと写真を机の上に置いた。
5枚目の写真には、困り顔の少年の顔と少年に助け起こされている侍の格好をした女性が映っていた。
――お、お二方~、喧嘩はやめて下さ――あぶっ!!
トウカお姐さんはうっかりさんだっけど、大事な時はビシっと決めるおねーさんだった。
剣を構えた彼女の横顔は凛々しくて、テレビに出てくるヒーローみたいだった。
キョンお兄さんもそうだった。
見かけは別に普通だったけど、
――キスした相手の助けにいくのは、男として当然だろ?
そう言った時の決意に満ちていた顔は、忘れられない。
6枚目の写真に写っているのは、ライフルを構えた浅黒い肌の男。
――ミサエは本当に勇敢で、そして優しいご婦人だった。お前は、そのことを誇りに思っていい。胸を張っていい。
彼の立ち振る舞いは自信に満ち、言葉には誠実さと暖かさがあった。
かーちゃんのことをちゃんと受け止められたのはあの人が告げてくれたことが大きいと思う、
だって、『誇りに思っていい』といわれたとき、そうなんだ、と心底思えたから。
「オラ……。君島お兄さんや、キョンお兄さんやゲインおじさんみたいに、強くなりたいゾ」
彼らのことを思い出すと、自然とそう思える。
強くなって、さとちゃんや魅音おねーさんやエルルゥおねーさんみたいに悲しんでいる
女の子を守れる男に、涙を止めてあげられる男になりたいと思う。
「……まぁ、その前にその守ってあげたくなる女の子を探すのが大変ですなぁ。
最近はもう、ろくな出会いがなくて困っちゃいますですよ~。
嗚呼、ななこおねいさん。オラ、会いたい……」
しんのすけの意中の人、なな子おねいさんとの手紙のやり取りは続いている。
だけど、このままでは疎遠になってしまうかもしれない、というのが目下のところ、
しんのすけの最重要懸案事項だったりする。
「でもでも……。離れて燃え上がる恋もあるっていうし……。
『しんのすけ、離れてあなたがいないとダメだって分かったの。愛してるわ……』
か~っっ! なんてななんてなっ!!」
エヘラエヘラとしんのすけが顔を緩ませていると、
「しんのすけ! 遅れるっちゅーとるべっ!」
多少の怒りが含有された祖母の声に、しんのすけはハッと我に返った。
「お、お馬鹿なことを言ってる暇はないのを忘れてたゾ」
焦りながら、残りの写真を取り出しそうとして身をかがめた時、
既に出した写真の中の人間達と目が合った。
何故か皆、どこか冷ややかな目をしているような……。
「や、やだなぁ、みんな。ちょっとした冗談だゾ。じょ、お、く!」
――やれやれ。
そんな声が聞こえた気がした。
冷や汗をかきながらしんのすけは、二枚の写真を取り出す。
一枚は、最後に生き残った9人で撮った写真。
ちなみにこの写真は、涼宮ハルヒの持っていたデジカメで撮ったものだ。
あの時の騒動を思い出し、しんのすけの口元に小さく笑みが浮かんだ。
――凛、あんたは無駄に背、高いんだから二列めよ。
――無駄にはないでしょ!
――ドラえもんは僕の前かい?
――そうね、ゲイナー君はそこで……。あ、ロックさん、そこ空けておいて。フェイトの後ろには、あたしが入るから。
――了解。オイ、しんのすけ。俺の頭に登らないでくれよ。
――いや~ん、ロックお兄さんのいけずぅ。
――やれやれ、最後まで大騒ぎだな。
――騒ぐことは生命の発露。生の証。
――ドラえもん……。俺は入っていいのだろうか?
――何言ってるんだ、ユービック。ボク達もう、仲間じゃないか。
あの時のみんなの声が耳の奥に蘇ってくる。
まだそれぞれ痛みを抱えていたけど、整理しきれない思いを抱えていたけど、
それでもみんな、精一杯明るく振舞おうとしていた。
自分の生を喜ばないことは、置き去りにするしかなかった者達への冒涜だと思えたから。
だからこの写真には決意が込められている。前を向き、歩き続ける決意が。
最後の一枚取り出す。映っているのは、在りし日の光景。
自分と、とーちゃんと、かーちゃんと、ひまわりと。
心が澄んでいく気がした。自分の背筋が自然と伸びるのをしんのすけは感じた。
ディパックから刀を取り出す。誇り高い侍の刀を。
写真に向かってぐっと刀を突き出す。
――元気です。これからも頑張る。安心して、見ていてね。
幾多の思い込めて、一言だけ、言う。
「――いってきます!」
祖母の胸に抱かれたひまわりに手を振り、
シロが一声なくのにあわせて逆の手を上げて答えてやる。
ふわりと爽やかな風がしんのすけの頬を撫でた。
空は青く澄み、太陽が輝いている。
遠くに映るのはうっそうと木々が茂る山々。
鼻腔をくすぐるのは草の匂い。
耳をすませば聞こえてくるのは、川のせせらぎとひぐらしの声。
――まだ、何となく慣れない。
どちらかといえば週末に行く少し大きな町で聞こえる車の排気音の方が、
鼻をくすぐる生活臭の方が、アスファルトの地面を踏んだ時の感触の方が落ち着く。
でも、未来に続く道はこの道だから。
少年はしっかりと地面を踏みしめて走る。
日常を生きる。前を向き走り続ける。
その先にある未来を。
歩みを止めてしまった者達一人一人がきっと思い描いていた、幸せな未来を、信じて。
【アニメキャラ・バトルロワイアル クレヨンしんちゃん 完】
*時系列順に読む
Back:[[さよならありがとう(再)]]Next:[[私は笑顔でいます、元気です]]
*投下順に読む
Back:[[さよならありがとう(再)]]Next:[[私は笑顔でいます、元気です]]
|306:[[さよならありがとう(再)]]|野原しんのすけ|
*今日までそして明日から ◆WwHdPG9VGI 氏
「う~ん、おなか一杯だゾ」
おなかをさすりながらしんのすけは自室のドアを開けた。
東北に来てよかったことの一つは自分の部屋が持てたことだ。
昔、父、ひろしが使っていた部屋が今ではしんのすけの部屋になっている。
幼稚園に持っていくカバンを取ろうと、しんのすけは机の方に歩み寄ろうとして――
――何かにけつまづいてコケた。
「おッ……っと……なんの!」
だがそこは運動神経抜群の野原しんのすけ。
くるりと回って華麗に着地しようとして――。
思い切りオモチャのブロックを踏んで悶絶した。
「~ったいなあ、もう。何処の狩人ぉ? こんな所にトラップをしかけるなんて~。
はっ! オラを亡き者にする計画がかくかくとおしんこ中とか……」
――単に散らかってるだけでしょうが。
という冷酷なツッコミは聞えてこなかったが、
何となく空しいものを感じたしんのすけは部屋を見渡し、硬直した。
「お、おお……」
散らかっている。どうしようもなく散らかっている。
足の踏み場もない、とまでは言わないがその半歩手前といったところか。
(ど、どーしよ……。お片づけしないと……。そんでも……)
――これぐらいならまだ、我慢できる。
部屋を散らかす人間特有の悪魔のささやきが聞えた気がした。
一気にメーターが『片付けない』のほうに傾いていく。
安楽な方へ方へと流されたくなる。
(でも、かーちゃんが見たら……)
――しんのすけ! ちゃんとお片づけしなさい!
厳しい声が聞こえた気がして、しんのすけはビクリと体を震わせた。
「う~ん……。でも、風間君が『しんのすけにイイ子は似合わない』っていったしぃ。
よしなが先生も無理しなくていいっていったしぃ……」
――それはそれ! これはこれ!
また耳の奥で声がした。
「……んもう! やればいいんでしょ! やればぁっ!」
叫ぶと同時にしんのすけは片端から物をオモチャ箱に放り込み、
服をたたみ、あるいは洗濯物カゴに放り込んでいく。
数分後――
ぴしゃりと押入れをしめ、
「よし! 完璧!」
満足げにしんのすけは頷いた。
押入れの中はあまり見せられたものではないが、まあ及第点といったところだろう。
しんのすけが、額の汗をぬぐう仕草をしたのとほぼ時を同じくして、
「しんのすけ~。早くいかんと幼稚園に遅れるよ~」
「ほっほ~い!」
祖母の声に元気良く答えながら、しんのすけはふと思いつく。
(行く前に、久しぶりにやろっかな)
――最近たるんでる気がするし。
思い立つと後は早い。
そそくさとしんのすけは、もう一度押入れをあけるとディパックを取り出した。
きょろきょろとあたりを見渡しながら、しんのすけはディパックの中から箱を取り出した。
箱の中に入っているのは、秘密の写真。
「だ~れも知らない、知られちゃいけない~」
少し音程の外れた声で歌いながら、その写真をこの上もなく大事そうに、
しんのすけは一枚一枚取り出していく。
それらは存在しないはずの写真。
この写真の主達と一緒にいた時しんのすけはカメラなどもっていなかった。
そしてもっていたとしても、写す暇はなかったはず。
それが何故ここにあるのか?
(リングおねーさん、ありがとう)
しんのすけは、心の中でリングに頭を下げた。
『死んじゃったみんなのお顔、忘れたくない』って言ったら
リング・スノーストームが、みんなのことをこっそりタイムカメラを使って撮ってくれたのだ。
30世紀のタイムカメラは時間と空間を超越できるとかどうとか、
難しいことは分からないが、みんなの写真がここにある。
しんのすけにはそれで十分だった。
1枚目の写真の中では、銀髪の少年が月下の下、天使のような笑みを浮かべていた。
――僕はヘンゼル…そうだな、世界で二番目にカッコ良い双子の一人さ。
少年の名前はヘンゼル。
あの世界に飛ばされて初めて出会った、初めて友達になった少年。
あんまり長い時間一緒にいられなかったけれど、それでも友達だった。
2枚目の写真には、銃を構えて咆哮をあげる青年の姿。
――坊主。そのお兄さんの話をきちんと聞くんだぞ! そうするだけの時間は、今、俺が作ってやる!
初めて見たときは頼りなさそうで騙されやすい、おバカなお兄さんだと思ったけど、
本当はとっても勇気があってカッコよかったお兄さん。君島邦彦。
3枚目の写真には、闇の中でたおやかに微笑む獣耳の女性、エルルゥの姿があった。
その膝の上には眠っている自分がいる。しんのすけは目を細めた。
――子守唄、歌ってあげるね。
今でも目を閉じれば、おねえさんが透き通った声で歌う子守唄が耳の奥に蘇ってくる。
あの悲しげな優しい瞳のきらめきは、今でも鮮明に覚えている。
4枚目の写真には、笑顔を浮かべるポニーテールの少女、園崎魅音と、
顔を覆って恥ずかしそうにしている北条沙都子が並んで映っている。
しんのすけが、ケツだけ星人をやってみせた時のものだ。
――きゃあ~~~~~ッ!! お、お下品ですわよしんのすけさん!!
――あはははははは!! しんちゃんも中々の芸達者だねぇ
ずっと暗い顔してたさとちゃんが、やっと笑ってくれたと思ったのに。
魅音お姉さんも辛そうだったけど頑張ろうとしてたのに。
わずかにしんのすけの顔がわずかに歪む。
悲しげにため息をつきながら、しんのすけはそっと写真を机の上に置いた。
5枚目の写真には、困り顔の少年の顔と少年に助け起こされている侍の格好をした女性が映っていた。
――お、お二方~、喧嘩はやめて下さ――あぶっ!!
トウカお姐さんはうっかりさんだっけど、大事な時はビシっと決めるおねーさんだった。
剣を構えた彼女の横顔は凛々しくて、テレビに出てくるヒーローみたいだった。
キョンお兄さんもそうだった。
見かけは別に普通だったけど、
――キスした相手の助けにいくのは、男として当然だろ?
そう言った時の決意に満ちていた顔は、忘れられない。
6枚目の写真に映っているのは、ライフルを構えた浅黒い肌の男。
――ミサエは本当に勇敢で、そして優しいご婦人だった。お前は、そのことを誇りに思っていい。胸を張っていい。
彼の立ち振る舞いは自信に満ち、言葉には誠実さと暖かさがあった。
かーちゃんのことをちゃんと受け止められたのはあの人が告げてくれたことが大きいと思う。
だって、『誇りに思っていい』といわれたとき、そうなんだ、と心底思えたから。
「オラ……。君島お兄さんや、キョンお兄さんやゲインお兄さんみたいに、強くなりたいゾ」
彼らのことを思い出すと、自然とそう思える。
強くなって、さとちゃんや魅音おねーさんやエルルゥおねーさんみたいに悲しんでいる
女の子を守れる男に、涙を止めてあげられる男になりたいと思う。
「……まぁ、その前にその守ってあげたくなる女の子を探すのが大変ですなぁ。
最近はもう、ろくな出会いがなくて困っちゃいますですよ~。
嗚呼、ななこおねいさん。オラ、会いたい……」
しんのすけの意中の人、なな子おねいさんとの手紙のやり取りは続いている。
だけど、このままでは疎遠になってしまうかもしれない、というのが目下のところ、
しんのすけの最重要懸案事項だったりする。
「でもでも……。離れて燃え上がる恋もあるっていうし……。
『しんのすけ、離れてあなたがいないとダメだって分かったの。愛してるわ……』
か~っっ! なんてななんてなっ!!」
エヘラエヘラとしんのすけが顔を緩ませていると、
「しんのすけ! 遅れるっちゅーとるべっ!」
多少の怒りが含有された祖母の声に、しんのすけはハッと我に返った。
「お、お馬鹿なことを言ってる暇はないのを忘れてたゾ」
焦りながら、残りの写真を取り出しそうとして身をかがめた時、
既に出した写真の中の人間達と目が合った。
何故か皆、どこか冷ややかな目をしているような……。
「や、やだなぁ、みんな。ちょっとした冗談だゾ。じょ、お、く!」
――やれやれ。
そんな声が聞こえた気がした。
冷や汗をかきながらしんのすけは、二枚の写真を取り出す。
一枚は、最後に生き残った9人で撮った写真。
ちなみにこの写真は、涼宮ハルヒの持っていたデジカメで撮ったものだ。
あの時の騒動を思い出し、しんのすけの口元に小さく笑みが浮かんだ。
――凛、あんたは無駄に背、高いんだから二列めよ。
――無駄にはないでしょ!
――ドラえもんは僕の前かい?
――そうね、ゲイナー君はそこで……。あ、ロックさん、そこ空けておいて。フェイトの後ろには、あたしが入るから。
――了解。オイ、しんのすけ。俺の頭に登らないでくれよ。
――いや~ん、ロックお兄さんのいけずぅ。
――やれやれ、最後まで大騒ぎだな。
――騒ぐことは生命の発露。生の証。
――ドラえもん……。俺は入っていいのだろうか?
――何言ってるんだ、ユービック。ボク達もう、仲間じゃないか。
あの時のみんなの声が耳の奥に蘇ってくる。
まだそれぞれ痛みを抱えていたけど、整理しきれない思いを抱えていたけど、
それでもみんな、精一杯明るく振舞おうとしていた。
自分の生を喜ばないことは、置き去りにするしかなかった者達への冒涜だと思えたから。
だからこの写真には決意が込められている。前を向き、歩き続ける決意が。
最後の一枚を取り出す。映っているのは、在りし日の光景。
自分と、とーちゃんと、かーちゃんと、ひまわりと。
心が澄んでいく気がした。自分の背筋が自然と伸びるのをしんのすけは感じた。
ディパックから刀を取り出す。誇り高い侍の刀を。
写真に向かってぐっと刀を突き出す。
――元気です。これからも頑張る。安心して、見ていてね。
幾多の思い込めて、一言だけ、言う。
「――いってきます!」
祖母の胸に抱かれたひまわりに手を振り、
シロが一声なくのにあわせて逆の手を上げて答えてやる。
ふわりと爽やかな風がしんのすけの頬を撫でた。
空は青く澄み、太陽が輝いている。
遠くに映るのはうっそうと木々が茂る山々。
鼻腔をくすぐるのは草の匂い。
耳をすませば聞こえてくるのは、川のせせらぎとひぐらしの声。
――まだ、何となく慣れない。
どちらかといえば週末に行く少し大きな町で聞こえる車の排気音の方が、
鼻をくすぐる生活臭の方が、アスファルトの地面を踏んだ時の感触の方が落ち着く。
でも、未来に続く道はこの道だから。
少年はしっかりと地面を踏みしめて走る。
日常を生きる。前を向き走り続ける。
その先にある未来を。
歩みを止めてしまった者達一人一人がきっと思い描いていた、幸せな未来を、信じて。
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