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淵底に堕ちた鷹  ◆KZj7PmTWPo


 輝くがらくたを求めて石畳を駆け抜けた、嘗ての幼少時代。
 茜色の帳が下りる夕暮れの中、ただただ純粋に目指した至高の到達点。
 最初は何も持ってはいなかった。だが、最初から他人が羨むものを持っていた。それは才能と言い換えてもいい。

 始まりは光の差さぬ陳腐な路地裏で。底辺に位置する穴倉から、曖昧に輝く真なる王城を求めて。一歩一歩と確実に歩みを進めてきた。  
 一つずつ、丁寧に丁重に。積み木を重ねるが如く慎重にだ。
 積み上げる腕は震えることなく、万事滞りなく高みを目指していった。
 順調にゆるりと進行した自身の目的であったが、そんな折に一人の男が現れる。
 躓きがなく、面白みに掛ける遊戯であったが、彼との邂逅は愚鈍な遊びに転機をもたらした。

 男は自分以上に何も持ってはいなかった。他人に羨まれるものとて所持していなかった。
 ―――だが、自分に持っていないものを持っていた。
 我を通す奔放さに、揺ぎ無い反骨心。常に直進する屈強な精神。
 目が眩むほどの男の特性を、一目で看破した。 
 故に思う。
 ―――欲しいと。
 そして、事実手に入れた。
 当然だ。今まで欲したもので、手に収まらなかったものはないのだから。
 男を加えてからというもの、自分の遊びは終幕へ向けて加速した。
 減速などありえない。推進剤の役目を担う男を伴って、全ての事を抜かりなく進行していく。
 夕焼けに誓った壮大な理想を叶えるべく、一刻たりとも静止せずに突き進んだ。
 自身が望む、自身の『国』を保持するという理想へ向けて。
 漠然と霞んでいた望みは、男の加入もあって鮮明さを増した。
 ―――あと少し。あと少しだ。あと少しで、自分は満たされると。
 だが、再び転機をもたらしたのは、やはり例の男であった。転機とは名ばかりの、暗い深淵へ転がり込む転機は確かに自分を深く叩き落した。
 男が去ったのだ。今まで留まることを知らなかった心を叩き折り、自分を差し置いて抜きん出た。屈辱という感情を置き土産にだ。
 一生懸命溜め込んだ砂利が指の隙間から抜け落ちていく喪失感に、精神の枷が外れたように自暴自棄となった。
 大いなる目的の為に小さな些事を斬り捨てながら保っていた精神の安定が、堰を切ったかのように流れ出した。
 決して媚びずに省みない男の存在が、感情の安定を確かに留めると共に、自身の起爆剤とも成り得たのだろう。  


 ―――結果、自分は全てを失った。富も名誉も、他人が羨望する自身の特性も全てが全て。積み上げた積木は総じて崩れ落ちたのだ。
 これまで歩んできた人生が、愚かしいほどに無謀な計画だと自覚せざるを得なかった。
 つまらなかった。何もかもが。くだらなかった。自分を含めた有象無象の全てが。
 今更だった。男を失って、初めて後悔を自覚したことが既に後の祭りであることは。
 手中に収めたと思っていた筈が、何時の間にやら逆に掌握されていたという事実。
 崇高で神聖な目的を果たす巡礼の旅は、男と共にいることで陽炎の如く揺らめき、淡く色褪せていった。
 理想へ近づいていた筈が、どうしてこんなにも霞んでいくのだろうか。
 耐え難かった。一身を捧げて遥か遠い理想郷を目指していたのに、一人の男がそれを狂わせた。
 確かに距離を縮めていたのに、男といれば強迫観念とも言える使命さえ忘れることが出来た。
 ―――楽しかったのだ。時間すらも忘れて、初めて対等と思える他者と接したことは、何よりも尊かった。
 それが、耐え難かったのだ。
 長年追い求めてきた理想の果てが、男一人の手により夢の残滓に消えるのか。
 ―――駄目だ。容認できない。
 暗き路地裏から理想を見上げるだけに留めておけば、自分とてここまで苦しむことはなかった。
 だが、もう遅い。自分は取り返しの付かない地点まで駆け抜けて、―――既に、再起不能の身体を抱えてしまっているのだから。
 想像を絶する拷問を受け、身体機能は著しく退廃した。
 剣も鎧も担げぬ身体で、一体何を成し遂げようものか。何も出来はしないのだ。
 目が眩んで理想を求めた果てが、結局これかと。―――本当につまらない。

 そして、やはり来た。
 矮小で脆弱となった自身を救出すべく、それでも男は現れた。
 ―――男は自分を“救い”に来たのだ。地に沈んだ自身へ、高みから手を差し伸べたのだ。
 それが苦痛でもあり、それ以上に憎らしかった。
 確かに格下であったものが同等となり、仕舞いには憐憫の視線で見下ろされる始末。
 男だけには。ただ一人、彼だけには哀れみの視線を投げかけられることは我慢ならない。
 これでは自身の価値など、男の踏み台となるべく生を繋いだ哀れな生贄ではないか。
 助けられた己は、羨望の的であった己は、仲間であった者からも須らく見下されていた。
 仲間達にその気はなくとも、自分にはそう感じた。そうとしか感じられなかったのだ。
 それも当然か。なにしろ一人では何ひとつ成し遂げることも叶わぬ醜態な存在へと、無様にも成り果てたのだから。
 ―――恐ろしかった。意味も意義も無情に失われるということは、どうしよもない恐怖へと駆り立てた。
 全てを失くしたと、改めて身の境遇を自覚してしまうと心が凍てついた。
 突き刺さる同情の眼差しが、自分を絶望へと苛ませる。
 こんな惨めで情けない姿を晒されるぐらいなら、いっそ光の灯らぬ拷問部屋で息絶えた方が幾分か増しだったというものだ。
 自分を救出したと思い込む男達は、亀裂が入った精神の傷口に塩を塗りこむ行為と同義だということに気付きもしない。
 這いずるしか能のない蛆虫な自身に、価値ある生を求めること自体間違っているのだ。
 意味を失った命などに執着はなく、全ての柵を投げ捨てて川岸の畔で命を絶った。

 元より不鮮明だった視界が閉ざされ、安楽という死へと堕ちていく筈だった。
 だが、漆黒の闇の中で、確かに意識が存在する。
 混雑極まりない思考が、あろうことか幻聴までも響かせた。
 どんな声色か声質か、今では判別もできはしないが、それでも確かに聞き届けた。
 それは再び機会を与えるという言霊に他ならない。
 言葉を受けた意識が明確となり、水中に浮ぶかのような浮遊感の中で、彼は眼光を灯らせた。
 暗き闇の淵に立つ自分の視界上で、彼方に聳える黄金色の城が、手の届かぬ位置で眩しく輝いている。 
 眩んだ目を薄め、ふと背後を振り返った。
 ―――そこには、ざわざわと蠢く嘗て人であった醜悪な肉の塊。
 一面を敷き詰めたように何十何百、何千何万の見るも無残な屍が延々と脈打ちながら続いていた。
 怨嗟の雄叫びを奏で、凄惨の悲鳴を響かせる無数の眼球は、怖怖と自分を見詰めている。
 そんな亡者共が連なるように積み上がり、自身の理想へ向けて長々と広がっていた。
 さながら過去に駆け抜けた路地裏の石畳の如く、欲求に従うよう親切にも踏み場を用意してくれているような光景だ。
 無意識にも理解する。―――それは贄だと。
 己が遊戯と称して積み上げてきたものは、断じて積木などではなかった。
 小さな犠牲と大きな犠牲を際限なく生んできたこの光景こそが、今の凝縮された世界なのだろう。 
 そして、頂きに届かせるべく、一体一体の不完全な屍を積み上げていったのは他でもない。
 ―――自分自身が築き上げたのだ。理想の為に斬り捨てた亡者の路地裏は、彼が積み上げてきたものだ。
 地獄の底から噴するように、絶望極めし幾重の唸り声を耳にした途端、唐突に不思議な感覚に囚われた。
 修羅の道を歩んだ先が、この光景を醸し出しているのだとしたら、自分は何を意固地に突き進んできたのだろうか。
 屍の罵るような言葉が問答無用に突き刺さり、彼は居た堪れなくなって頭を抱えた。
 感情を伴わない無情な罵倒が、途切れることなく自分へと降り注いだ。
 だが、死を意識せざるを得ない凄惨な挽歌の中で、閉じられた瞼の上から強い刺激を受けた。
 彼は、堪え切れずに面を上げて瞳を見開いた。
 ―――背後に広がる地獄絵図を霞ませるほどの眩い輝き、人生を賭して夢見た黄金郷が変わらぬ姿で佇んでいる。

 ―――そうだ、全てはこのためだ。
 何よりも尊ぶべき『国創り』。それが永久不変の目的ではなかったのか。
 人間という莫大な財産を無用に捨てたままで満足できるのか。志半ばで泣き寝入りを許容できるのか。
 ―――断じてありえない。嘆き続ける悲運な亡者共を価値ある死へと昇華せんために、自分が歩みを止めることなど許されない。
 理想の糧となった敵や味方達には、一欠けらの同情や謝罪する余地はない。
 詫びることなど決して出来ない。ここで詫びてしまえば、行為を悔やんでしまえば、今までの所業全てが水泡と化すのだから。
 数多の仲間や敵を踏みしだいて置きながら、今更何を躊躇う。
 諦めてしまえば、もう二度とあの場所へ手を届かせることは叶わない。
 だから、彼は振り返るのはもうやめた。 
 一心に輝く理想の果てを見届けて、彼の意識は四散する。


 ****

「…………」

 彼―――グリフィスは開いた視界で辺りを見渡した。
 そこは黒幕で閉ざされた小さな一室。
 瞼を二三度瞬かせて、彼は小さく息を吐く。
 眼球を走らせて視界を回す。
 ―――見える。傷つけられた網膜が正常に機能する。
 鼻を振るわせて周囲を嗅ぐ
 ―――香る。削がれた鼻腔が正常に機能する。
 口内を乾かせて言葉を吐き出す。
 ―――紡げる。切断された舌が正常に機能する。
 指の関節を一本一本折り曲げて拳を固めた。
 ―――動く。千切られた腱が正常に機能する。
 グリフィスは能面の表情で哂った。 
 何の冗談か、まるで現実味がない。だが、認めざるを得ない真実こそが今であろう。
 今際に耳朶を打たせた煩わしい言霊。
 恐らく此度の主催者、ギガゾンビのものであったのであろうか。
 お陰とは思わない。都合のいい偶然と数奇なる宿命だと納得する。
 どっちにしろ、グリフィスが行うことに差異はない。
 薄汚い路傍を駆け抜けた頃と、なんら違いはないのだ。

 彼は近くに転がる支給品に手を伸ばす。 
 それは黒光りする頭身に、無骨なフォルムを備える短機関銃。
 傍には、何重にも繊維が張り巡らされた簡素な衣服。耐刃防護服だ。
 防護服は一撫でしただけで、使用用途については理解した。硬く繊細で、それでいて軽量化が施された防衛道具に感心する。
 甲冑ほど被害を低減させるほどではないが、何よりも軽装だというのが魅力であった。
 すぐさま装着し、次いで機関銃に触れる。
 グリフィスがいた世界でも数少なくではあるが、携帯銃火器も確かに存在はしている。
 刀剣類が主流となっているために、こういった武装は正直お目にかかることも稀であろう。 
 訝しげに短機関銃を眺め回すが、引き鉄に手を差し込むことで銃把が掌に適合した。
 根底まで続きそうな暗闇へと、機関銃の銃口を向ける。
 トリガーに掛かった指を引いた瞬間、騒音を伴う一発の銃弾が大気を裂きながら放出された。
 バキリと、何かが砕けた音がする。弾丸が室内の備品を破壊したのだろう。
 多少の衝撃を肌で感じ、銃口から立ち込める硝煙をグリフィスは眺めた。

「戦におあつらえ向きだな……」

 銃の射程や威力等、最低限の有用性を見抜いたグリフィスは無表情で懐に支給品を仕舞い込む。
 さらにバックから参加者名簿を引き抜いた。
 適当にさらっと目を走らせて、二つの名前に釘付けとなる。

「―――キャスカ……。そして、やはりいたか……ガッツ」

 漠然と予感はしていた。
 キャスカはともかく、機会を設けた自身を差し置いて、ガッツがいない筈がないのだ。
 ガッツはグリフィスの本当の意味での友である。友愛の感情を持て余すほど惹かれている。
 ―――だがらこそ許せない。
 ガッツは自分を異常に狂わせる。一度でも彼を甘受してしまえば、手放すことが惜しいほどの執着心が沸き起こる。
 彼の輝きは、自身の理想を覆い尽くすほどにギラギラと目に付き刺さるのだ。
 それが苦痛だと、最初から気付いてしまえば良かったものを。
 耐え難い嫉妬の感情を必死に内包し、ガッツを常に格下、もしくは同等と見定めることで矜持を保っていたというのに。
 しかし、それは儚くも破裂した。
 ならば感情を持て余し、吐露すべき矛先は何に向ければいい。
 今ならば、少し考えれば自ずと理解も出来よう。―――当の本人に向ければ万事解決だ。
 ガッツと対峙した時に、既に心は決めていた筈なのだ。
 ―――手に入らぬのなら、いっそのこと―――

 今までは―――そうだ。少し休みすぎた。
 遊びは終わってはいない。これから再び始まるのだ。積木遊びは今も尚、頂を目指すべく継続している。
 故に、止まることは二度となく、積木と言う名の屍はこれからも築いていくだろう。 
 唯一無二の渇望を満たすべく、生ある命の全てが生贄だ。至高の到達点へ辿りつくために捧げられる人間は、ただの肉の御供に過ぎない。
 程よく揃っているバトルロワイヤルの参加者達は、例外なく競い合う軍鶏として献上されるだろう。―――自分の野望の為に。
 元より誰の為でもない。全ては欲求。全ては自己満足。その上に成り立つグリフィスの壮大な夢は、鮮血の絨毯で彩られている。
 彼は一切躊躇うことはないだろう。金輪際、眼前しか進まずに、見果てぬ世界を二度と見失うことはない。
 ―――紅の日暮れを背に駆け抜けた、あの路地裏の石畳はまだ続いているのだから。

「ふふ……。そうだな、そうだった。夕日は今も尚、輝きは失っていない……。沈んではいない。
 理想の為に……死んでくれるな、ガッツ?」

 グリフィスは動き出す。与えられた機会を活用すべく、自身の意義を見出すために。
 壊れた精神と、逸脱した思考を抱えて。
 理想を貧欲に求める渇望の狂戦士が、闇夜の戦場に降り立った。



【G-4 遊園地(お化け屋敷内)・1日目 深夜】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]:正常
[装備]:マイクロUZI(残弾数49/50)・耐刃防護服
[道具]:予備カードリッジ(50発×1)・支給品一式
[思考・状況]
1:皆殺し

『備考:グリフィスの時間軸は蝕の寸前。川岸で覇王の卵を手にする直前なので、フェムトフラグは無し。
    五体満足で、精神だけが連れてこられた状態です。身体能力についてはガッツと決闘した時と大差ないです』


本スレ2 レス29-33



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グリフィス 73:老兵は、




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