「某としたことが……」 ◆LXe12sNRSs


「先刻は失礼した。某(それがし)の名はトウカ。エヴェンクルガ族の武士(もののふ)なり」

 なんとかロワイアルに巻き込まれて早数分、首筋に刃物を突きつけられるといういきなりのピンチに遭遇した俺だったが、今はなんとか難を逃れることに成功した。
 時代劇に出てきそうな武士の着物を身に付け、鳥類の羽を模した耳を携える謎のコスプレイヤーさんの名前は、トウカというらしい。
 なぜ彼女はこんな異常事態に、こんなふざけた格好をしているのか。少なくとも、先ほど出刃包丁を突きつけてきた時の彼女にはマジな緊迫感を感じたんだが。
 ひょっとして俺の錯覚だったか? それとも、彼女は真剣にこの姿で殺し合いに臨むつもりなのだろうか。
 オイオイ、まさかとは思うが、この舞台のどこかにいるであろう朝比奈さんも、SOS団給仕用のメイド服を着ていたりはしないだろうな。
 メチャクチャ可能性ありそうで、限りなく不安なんだが。

「しかしそなた……随分と珍妙な格好をしているが、いったい何処の国の出身だ?」

 珍妙な格好はどっちだ。自慢じゃないが、北高男子の制服はオーソドックスすぎるブレザーで、地味なことだけが自慢なんだぞ。ってやっぱ自慢になんねーよ。
 それに何処の国の出身かって、そんなもん一目瞭然じゃないか。あんたが今話している言語は何処の国のものだ。俺の知識じゃ該当する国は一つしかないのだが。

 と、俺の常識とトウカさんの常識をぶつけ合うこと自体そもそもの間違いだったのだと、その後の情報交換で思い知らされることになる。
 なんでも、トウカさんの出身国はハクオロという王様が統治するトゥスクルというところだそうで、豊かな自然と寛大な王に守られた素晴らしく住み心地のいい国らしい。
 しかしおかしいな。俺は世界地図でも地球儀でも旅行番組でも、トゥスクルなんて国はお目に掛かったことがない。
 エヴェンクルガ族とかいうのも初耳だし、ひょっとしたら国というよりはどこかの辺境民族の集落かなんかじゃ、と俺は考えた。
 我ながら、常識人らしい考えを持っちまったと思ってる。
 現在自分の身が置かれている状況と、普段自分が遭遇しているビックリ体験の連続を照らし合わせてみろ。
 この鳥の羽の耳を付けたコスプレイヤーさんじゃない人が何者なのか、トゥスクルという国が実在するのか否か、答えは実に簡単じゃないか。

 つまりトウカさんは――ハルヒが創りだした閉鎖空間のような――パラレルワールドの住人というわけだ。

 もちろん、この世界も俺の知る世界なんかじゃなく、その類のものなんだろうな。
 だとしたら、やっぱり元凶はハルヒか? アイツ、宇宙人や未来人や超能力者では飽き足らず、密かに鳥耳少女と友好を深めたいとか願ってやがったのか?
 って、いや、ちょっと待てよ俺。いくらハルヒがトウカさんみたいな特異な人種との遭遇を願ったからといって、そこが殺し合いの場である必要性なんて皆無のはずだ。
 確かに八十人が生死を懸けて戦うなんてのは、刺激的を通り越して猟奇的すぎるイベントだ。
 だがハルヒが心の底からそんな惨劇を望むかといえば、答えはノーに決まってる。実際、夏休みに起きた孤島での殺人事件もお芝居だったしな。

 とまぁ、この世界における俺の浅知恵な考察はこの辺にしておこう。
 この殺し合いゲームにハルヒが関与しているにせよしていないにせよ、俺みたいな一般ピープルが一人が悩んだところで答えが見えるはずもない。
 何度も言うが、俺は至って普通の男子高校生だ。宇宙人でも未来人でも超能力者でもないし、そうなりたいとも思わない。
 ただちょっとばかり、周りが特殊すぎるだけだ。ライオンの檻の中に一人迷い込んだネコみたいな存在なんだよ、俺は。

「で、トウカさんはまず仲間たち――ハクオロさんとエルルゥさんとアルルゥさんとカルラさん、この四人と合流したいと」
「ああ。カルラ殿ほどの実力者なら心配要らないだろうが、エルルゥ殿やアルルゥ殿を一人にしておくのはあまりに危険。
 それに聖上は、絶対に失ってはいけぬ御方。某がなんとしてもお守りしなければ。キョン殿は――」

 ちなみに。
 これから俺に会う奴会う奴、みんな俺のことをキョンと呼ぶのだろうが、その辺のことについてのツッコミはご遠慮いただきたい。
 そもそも参加者名簿での登録名があだ名ってのはどうなんだ。いくら俺が本名で呼ばれることがないからって、これじゃあ初対面の相手にもキョンって名乗らなきゃいけねぇじゃねぇか。
 例外は俺だけでなく、鶴屋さんもよく『鶴屋さん』なんて呼称で名簿に載ることになったもんだ。ってか殺し合う相手に対してさん付けがデフォルトってのはどうなんだ。

「――えすおーえす団、というところの仲間を捜しているのであろう? 人捜しをするならば、人手が多いに越したことはない。
 どうだろう。ここは某と、協力関係を結んではくれまいか?」

 協力し合うことには何の異存もないだのだが、仮にも殺し合いをしろと言われてここにいるのに、そう簡単に人を信用していいものか。
 もっともそんな心配をしているのは俺だけのようで、トウカさんの瞳は曇りを一切持たない天真爛漫な光で輝いている。
 きっと、人を疑ったりとかあんまりしない人なんだろうな。

「あのギガゾンビなる怪人が如何程の実力を持っているかは分からぬが、某とて武の民エヴェンクルガ族の端くれ。
 某と共に歩んでくれるというのであれば、身命に懸けてキョン殿のお命を守ることを約束しよう」

 やたら勇敢なことを言ってくれるが、俺はうら若い女性に守ってもらうほど弱い男じゃない。
 そりゃ俺は古泉みたいな超能力バトルはできないし、この世界からの脱出方法についても結局は長門頼りだが、それなりに修羅場はくぐって来たつもりだ。
 運よく身を守るための武器も支給されているし、トウカさんにそこまで苦労をかけるつもりは――

「某の実力が疑わしいというのであれば、それなりの証拠をお見せしよう。そこで見ていてくれ」

 どうやら俺の気遣いの意味を取り違えてくれたらしい。
 トウカさんは弱く見られたと思っている自分の実力を見せ付けるため、支給された出刃包丁片手に一際高く聳えた大木の前に立つ。
 そしてそのまま腰を落とし、出刃包丁を持った右腕は左脇の辺りに構えた。

 ああ、この構えなら分かるぞ――これは、世にいう『居合い』というものだ。

 剣術なんてものには浸透していないが、どういう技なのかはそれなりに知っている。
 刀を鞘に納めた状態で腰元に構え、相手が間合いに近づいてきた瞬間に抜刀、一撃で斬り伏せる神速の型だ。
 その姿は剣戟モノの時代劇で見る役者なんかよりよっぽど堂に入っており、思わず見惚れる程でもある。
 だが忘れちゃいけないが、彼女が持っているのは日本刀ではなく出刃包丁だ。
 そしてそれを使って斬り伏せようとしているのは、秋刀魚や鯵ではなく樹齢100年はあろうかという大木だ。
 ミスマッチにもほどがある。そんな風に考えていたら、風が吹いた。

 ――ヒュンッ

 トウカさんの出刃包丁による居あい斬り――その一振りが、轟音と突風を生み出したのだ。
 その剣速には正直俺も驚いたが、そんなことよりもまず、訪れた残酷な結果に言葉を失ったね。

「なぁ!?」

 案の定というかお約束というか想定通りというか、出刃包丁は見事に大木に減り込んでいた。半分にも斬り込めていない。
 まぁ、刃渡り数センチの刃物で人よりも大きな木を一刀両断なんて離れ業は、たとえ中国雑技団でも無理な芸当だ。
 こうなることは予測できていたのだが、なんというか、意外そうに目をパチクリしているトウカさんを見ると居た堪れない気持ちになってくる。
 自分の失態が納得いかないのかそれとも恥ずかしいのか、トウカさんは減り込んだ出刃包丁に力を込め、強引に木から引き離そうとしている。
 あーあー、そんなに力いっぱい引き抜こうとしたら……

 ――ポキンッ

 危惧して忠告しようとしたのも束の間。
 無理やりに力を込めた出刃包丁は、ものの見事に折れてしまった。

「なななななななななななななァァ――!?」

 や、そんなに驚かれても対応に困るのだが。
 そしてそのままがっくりと項垂れるし。
 トウカさんの剣の腕が凄いってのは分かったが、出刃包丁じゃこれが限界ってことをぜひ知ってもらいたい。

「クッ! 某としたことが……一生の不覚ッ!」

 不注意から武器を失ってしまったことにショックを受けているのか、トウカさんは悔しそうに嘆いていた。

「まぁまぁ。そうだ、剣が得意っていうなら、俺のヤツを譲りますよ。俺の支給品、偶然にも刀でしたから」
「それはかたじけない。キョン殿には何から何まで、迷惑をかける……アッ!」

 俺が物干し竿をトウカさんに譲ろうと、徐に支給品類を広げた時のことだ。
 突如トウカさんの瞳が宝物を見つけたかのような反応を見せ、キラキラと輝きだす。
 その視線の先は俺が差し出した物干し竿ではなく、もう一つの支給品……不細工な上にやたらとデカイ、ウサギのぬいぐるみに注がれていた。

「か、かわいい……」

 ……そ、空耳か? 今一瞬、この不細工ウサギを見つめながら可愛いと称賛する声が聞こえたのだが。
 もしかしてあれか? トウカさんは、気丈な性格の割に実は無類の可愛い物好きというお決まりな設定を秘めているというのか?
 ……だとしたらそれなんて……ゲフンゲフン。いや、俺はトウカさんの正確な素性とかよく知らないぞ。原作とか、そういう単語はNGワードとして登録するように。

「そ、そういえば、トウカさんの他の支給品はなんだったんです? まさか出刃包丁一本だけってことはないでしょう?」

 話題を切り替えようと、俺はトウカさんに手持ちの荷物を見せてくれるよう頼む。
 これで支給品が包丁一本だけだったらどう慰めようかとも思ったが、あいにくその心配は杞憂に終わったようだった。

 トウカさんが新たに取り出した支給品は二つ。
 一組のボクシングローブと、造花のようにも思える一輪の花だった。
 俺はその二つの花の方を手に取り、説明書片手に難しい顔をするトウカさんに尋ねる。

「この花はなんていう道具なんですか?」
「『わすれろ草』、というらしい。なんでも、この花のにおいを嗅いだ者は、たちまちその時思っていたり考えていたことを忘れてしまう……と」

 なんじゃそら。つまり相手から思考を奪う道具ってわけか……まさかと思うが、なんかヤバイ薬の原材料とかじゃないよな。
 しかしまあ、使いようによっては使える道具かもしれない。
 たとえばもし誰かに襲われたとして、その相手にこの花のにおいを嗅がせれば、襲っていたこと自体を忘れちまうわけだ。
 ご丁寧にも数十分で効果が切れるとの補足説明付きだが、急場凌ぎくらいにはなるだろう。もちろん、使わないにこしたことはないのだが。

「じゃあ、このボクシンググローブみたいなものは? これはどことなく武器っぽいですけど」
「ぼくしんぐぐろーぶ……というのはよく分からないが、それは『けんかてぶくろ』という名前らしい」

 なんつーまんまなネーミングだ。製作者はもっとこう、センスというものを考慮しなかったのだろうか。
 機能については説明を受けるまでもない。ただのボクシンググローブではないようだし、十中八九けんかが強くなるとか、そいうまじないめいたものが込められた道具なのだろう。
 俺はそのけんかてぶくろなるものを拝借し、試しに手に嵌めてみた。
 ボクシンググローブを嵌めるなんて機会は滅多にないからな。気分はプロボクサーだ! なんて思いつつ、少々舞い上がりシャドウボクシングなどしてしまった。
 それが、最大の間違いだったんだな。

「ぐふぉっ!?」

 ――突然、殴られた。誰にかって? 他でもない、自分の腕にさ。

「ごふっ!? ぐおっ!?」
「キョ、キョン殿!?」

 混乱するな。誰がなんと言おうと俺が一番驚いている。
 一応断っておくが、俺は急に自虐の楽しみに目覚めたとかそんなんじゃないぞ。
 シャドウボクシングするつもりで空に振り被ったパンチが、意図せずUターンして俺の顔面に飛び込んできた。ただそれだけさ。
 結果的に、俺は自分で自分を殴っていることになる。それも自分の意思とは関係なしにだ。
 力の調節もできたもんじゃない。どうすれば止まるのか見当も付かず、俺は激痛の走る顔面から鼻血を垂れ流していた。

「こ、これはいったいどうなって……」
「ト、トウカさんごふぉ、説明書をぼっ、読んでくださべっ!?」
「説明書……は! な、なんと! 『自分で自分と喧嘩できる道具』と書かれている!?」

 な、なんてこった。喧嘩が強くなる、なんてとんだ見当違いな効果じゃねーか!
 あまりの馬鹿げた効果に怒り狂いたかったところだが、腕が殴ることをやめない内ではそれも叶わない。
 つーか誰だこれ作ったの。責任者出て来い。

 ――危うく、自分の拳に殴り殺されるところだった。
 結局、俺の腕が俺の顔面を殴り続けるというアホすぎる行動から解放されたのは、五分が経過してから。どうやら時間制限が付いているらしい。
 だがあえて文句を言わせてもらおう。なげーよ五分。というかこんなものはこの先一分一秒足りて付けたくはない。てかもう絶対付けねぇ。
 もし俺の拳が本当にプロボクサーのものだったら、それこそ死んでいたかもしれない。効果はふざけているが、考えようによっちゃ恐ろしすぎるアイテムでもある。
 ないとは思うが、こんなものが普通にデパートに並んでいたとしたら、消費者から事故が発生するのは間違いないと思う。

「申し訳ないキョン殿! 某としたことが……支給品の効果を見誤るとは、なんたる不覚!」

 トウカさんはといえば、自分の支給品で俺を傷つけてしまったことが居た堪れないのか、ほとんど土下座の体勢でさっきから謝り続けている。
 もとはといえば、先走ってあんなものを嵌めてしまった俺が悪いのだが。
 俺はトウカさんに気にしないよう言葉を投げかけてみるのだが、この人の性格も相当頑固なようで、自らの手で責任を取らなければ気が済まない様子である。

「かくなる上は……割腹し、この命を持ってお詫び申し上げまする!!」

 ――――ハ?

「え、あの、トウカさん? 何もそこまでしなくても……」
「いいえ! せっかく協力し合えた相手にこのような失態を働いてしまうとは、エヴェンクルガ族末代までの恥!
 義を重んじる民の者として、償いを入れねば某の気が治まりませぬ!」

 俺が制止を入れても聞かず、トウカさんは正座の体制から腹部目掛け、折れた状態の出刃包丁を付きたてようとする。
 いくら折れてるからって、あんなもの突きつけりゃ怪我をすることは間違いなしだ。

「聖上……某の未熟が故の失態、どうかお許しください。願わくば、皆が無事に生還できることを……」

 覚悟を決めたのか、目を瞑り切腹の体勢に入る。

「わー! ストップストップ!!」

 俺は慌てふためき、咄嗟に地面に置かれた一輪の花を手に取った。
 わすれろ草、だったか。彼女を止めるには、もうこれしか方法がない。

「忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ!」

 トウカさんの鼻元で、がむしゃらにわすれろ草を振るいまくる。
 するとトウカさんはむず痒かったのか、ハクチュ、と可愛らしいクシャミを一回。
 そして、次の瞬間には手から出刃包丁を放していた。

「あれ……某はいったい何を……?」
「や、やだなぁ座り込んじゃって! ほら、早く立ってくださいよ! 仲間を捜しに向かうんでしょう?」

 俺はやや強引にトウカさんの手を引き、方向も確認せずに歩き出す。
 トウカさんはやや不服そうな顔を見せたが、すぐに自分の成すべきことに気づき、自らの足で歩みだした。

「そうだ……一刻も早く聖上を見つけ出し、お守りしなければ。某としたことが……そんな大事なことを失念してしまうとは」
「そうですよ~ハハハ……」

 つ、疲れるっ! なんかもの凄く疲れたぞこれまでの一連の行動っ!
 ともかく俺は心強いかどうかはかなり微妙な線をいく協力者を得て、仲間達の捜索に当たった。
 正直先行きはかなり不安なんだが……ま、グチを言っても始まらんだろう。


 ちなみに。
 トウカさんは今回、「某としたことが……」と三回も口にした。おそらくは、本人も知らない内に口癖になっているだろう。
 そしてそれを分析して、俺は確信したね。
 口には絶対出さんが、トウカさんは重度の「うっかり者」で間違いない。絶対。


【A-3森 初日 黎明】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:軽度の疲労(精神面含め)、顔面に軽傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、わすれろ草@ドラえもん、けんかてぶくろ@ドラえもん
[思考・状況]1:トウカと共に仲間の捜索。
       2:ハルヒ達との合流(朝倉涼子に関しては保留)。
      基本:殺し合いをする気はない。

【トウカ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、出刃包丁(折れた状態)@ひぐらしのなく頃に、なぐられうさぎ@クレヨンしんちゃん
[思考・状況]1:キョンと共に仲間の捜索。
       2:エヴェンクルガの誇りにかけ、キョンを守り通す。
       3:ハクオロ等との合流。
      基本:無用な殺生はしない。

※それぞれの支給品を交換しました。


本スレ2 レス34-40



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10:普通の人間にしか興味はない キョン 75:洗濯⇔選択
10:普通の人間にしか興味はない トウカ 75:洗濯⇔選択





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