「友達だ」 ◆LXe12sNRSs



 おっぺけぺ~のぺ~
  おっぺけぺ~のぺ~
   おっぺけぺ~のぺ~

 にゃはははぐるぐるでがらがらでどかんどかんぼーぼーなのです~

    おっぺけぺ~のぺ~
     おっぺけぺ~のぺ~
      おっぺけぺ~のぺ~

  byわひゃはyふぁらうぇおいjwみょ~

       おっぺけぺ~のぺ~
        おっぺけぺ~のぺ~
         おっぺけぺ~のぺ~

   ふぁけjひぁおうぇじゃだこぇえrふぁwfみおpmじゅえ~

          おっぺけぺ~のぺ~
           おっぺけぺ~のぺ~
            おっぺけぺ~のぺ~…………


 ◇ ◇ ◇



 いきなり殺し合いをしろ、なんて可笑しなことを言われたら、誰だって必然と視野が狭くなるもの。
 灯台下暗し――なんて諺があるが、暗くて見失ってしまうようなものは、何も手元にあるとは限らない。

「まぁ。今まで気にも留めませんでしたけれど、ここから見える月夜もなかなかのものじゃありませんの」

 空に上る満月を見ながら、獣耳の女――カルラは、物思いにふけるような素朴な笑顔を作る。

「まったく、こんな厄介なことに巻き込まれたりしなければ、今頃ウルトあたりと一緒に月見酒と洒落込むところですのに」

 素朴……そう、月を見上げる彼女の笑顔は、確かに素朴だったのだが、

「ねぇ? そうは思いませんこと?」

 見事すぎる真円から視線を外し、目の前に立つ少女へと被写体を移したその瞳は、どことなく妖艶にも見えた。

 深夜の森を行き来する風は、冷たい。
 漆黒のレオタードにマントベースとしたバリアジャケットを装備し、煌びやかな金髪を闇に引き立てさせている少女――フェイト・T・ハラオウンの格好は、見るからに寒そうだった。
 むき出しの太腿に鳥肌が立っていることにも気づかず、一点に見つめるは、闇の奥に潜みし者。
 寒さを忘れさせるほどの存在が、そこにいた。
 寒さを忘れさせるほどの失態を、やってしまった。
 寒さを忘れさせるほどの誤解を、生んでしまった。

「あ、あ…………」

 やらかしてしまった失敗への後悔のせいか、それとも単純に、カルラへの恐怖からくるものか。
 分からない。分かるのは、自分が彼女に攻撃を仕掛けてしまったということだけだ。

 普段の冷静な思考が、取り戻せない。
 タヌ機による幻覚作用が齎した最悪な不幸――親友が人を殺す、という悪夢がフェイトを混乱の渕に追い込んでいた。
 目の前の女性は誰か? 耳や尻尾など、獣の象徴的なパーツを宿しつつも人型を成すその姿。アルフやザフィーラと同じ使い魔なのだろうか。
 そもそも自分は、殺戮を続けるなのはを追ってここまで来たはずなのに。当のなのはは何処に消えてしまったのか。

「なのは……どこ?」

 カルラに目の焦点を合わせようとせず、フェイトはキョロキョロと辺りを見渡す。
 見知ったはずの親友は、やはりいない。既に移動してしまったのだろうか。
 だとすれば、このままここで無駄な時間を使ってるわけにはいかない。

「…………通る」

 殺し合いに乗った親友――高町なのはを止める。
 フェイトは意思を強め、見失わない内になのはを追おうと、再び進み出そうとするのだった。
 それこそ、降りかかる火の粉、行く手を阻む障害は、全て蹴散らしてでも。

「あらあら。殺気を放っても臆せずに向かってくるなんて……本当に困ったお子様ですわね。忠告しておきますけれど、わたくし、そんなに優しくありませんことよ」

 微笑の影に強大な剣気を隠し、カルラは杖を構えるフェイトに向き直る。
 ホーホー、と何処からか梟の鳴き声が聞こえてきたような気がした。いや、ひょっとしたら虫の鳴き声だったかもしれないし、周囲の参加者が高笑いでもしていたという可能性もある。
 なんにせよその瞬間、開戦の鐘の音としては十分な――音が、鳴り響いたのである。

「ランサーセット」『Get set』

 フェイトの足元に輝きを放つ魔法陣が形成され、周囲に雷の光球が三つ、発現する。
 高速直射弾『フォトンランサー』。フェイトが最も得意とする、雷撃系の攻撃魔法である。

「ファイア!」『Fire』

 フェイトと、その手に握られた杖――デバイス『S2U』の声が重なり、三つの光球は複雑な軌道を描きながらカルラへと伸びる。
 一つは直線的に真っ直ぐと、一つは螺旋を描きながら相手を錯乱させ、一つは横合いから低速で移動し時間差で攻める。
 数多くの戦を経験してきたカルラといえど、さすがに自由自在に軌道が変化する矢というものは初めてだった。

 まず一つ目に襲ってきた直線的な光球は、跳躍一蹴、地面を強く踏み込み空へと避ける。
 そして二つ目に襲い掛かってきた螺旋軌道の光球は、回避では防御で攻略する。
 カルラは跳躍したその先――高く聳える木の枝を掴み取り、そのまま猿のような機敏さで、生い茂る木の葉の群集に逃げ込む。
 それが隠れ蓑となり、光球は多くの枝と葉に阻まれ、カルラの下に届くことなく拡散した。
 途端、衝撃で舞い落ちる木の葉の雨中から、カルラが飛び出す。

(我ながら品のない戦法ですこと。森を飛びまわって攻撃を回避するなんて、まるでキママゥじゃありませんの)

 余談だが、キママゥとはカルラが居た世界『ウィツァルネミティア』に生息する猿のことである。
 木の上から飛び出したカルラが向かう先は、魔法陣の上で光球の操作を行っているフェイト。
 カルラの想像以上のスピードに目を白黒させつつ、残った三つ目の光球を引き戻そうとする。が、
 時、既に遅し。カルラはフェイトの眼前に立ち、フェイトの額を目掛けて右腕を伸ばす。

「おイタはいけませんことよ」

 大人女性特有の、優しげだがどこか迫力のある微笑を見せ、フェイトの額にデコピン一閃。
 普段、大人の男四人がかりでも持ち運ぶのが困難な大剣を振り回すカルラのデコピンは、もはや単なるお仕置きのレベルを超越していた。
 ピンッ、と指が弾かれ、後方に飛ばされるフェイト。数多の魔法戦を経験してきた彼女でも、デコピンで攻撃されるのは初めてだった。

「――ぅあっ!?」

 デコピンといえど、怪力カルラの繰り出す攻撃の前に、超軽量級のフェイトが飛ばされない理由はなかった。
 地を転がり、綺麗な金髪を土に汚す。ダメージ自体は大したことはないが、精神面――命を懸けた戦闘でデコピンを繰り出す――という衝撃的な出来事に、フェイトは面食らっていた。

「アルカス・クルタス・エイギアス 煌きたる天神よ いま導きのもと降りきたれ……」

 立ち上がりながら、フェイトはブツブツと何かを呟く。
 その複雑な言語様式が何を意味するものかは分からなかったが、フェイトの足場に形成された陣が未だ消えぬことに、カルラは警戒した。

(ウルトやカミュが術を使うのと似た雰囲気……まだ、何かがきますわね)

 フェイトから距離を取り、来るべき何かに備えるカルラ。
 その間も、フェイトは呪文の詠唱を止めなかった。

「サンダー……フォール!」

 瞬間。
 フェイトとカルラの周りに取り囲むかのような雷の帯が出現し、バチバチと火花を撃つ。
 傭兵としてのカンか、カルラはその雷で出来た円陣からこれまでにない危険信号を感知し、行動を移した。

 そして、天雷は降り注いだ。


 ◇ ◇ ◇


「…………やった?」

 砂埃舞う森林地帯。焼け焦げた草の大地に立っていたのは、フェイトただ一人だけだった。
 獣耳の怖い女の人はいない。影も気配も見当たらない。
 クロノのデバイスを通して放った魔法、死ぬことはないはずだが。

「……!」

 消えたカルラを捜すフェイトの視線の先、その場に倒れた一本の木を発見して、顔色が変わった。
 長さはそれほどでもなく、太さは人間の女性といった細い倒木。
 サンダーフォールの範囲雷撃に耐え切れなかったのだろう。根元からポッキリと折れ、大地に力なく横たわっていた。

 所々に、紅い血を付着させて。

「――――――――ぁ」

 嫌な予感を感じた。
 最悪の結果が頭を過ぎる。
 カルラは何処に消えたのか。
 倒木に付着した血は誰のものなのか。
 分からない。違う。考えたくない。
 しかし、脳は無意識の内に思考を始める。

 ひょっとしたら、下敷きにしてしまったのではないか?

 ひょっとしたら、倒木の下にいるのではないか?

 血を流し、息絶えた状態の、彼女が。

 自分と戦っていたカルラが、

 死んでいるのでは、ないか?

「――――――――ッ」

 言葉が、出なくなった。
 非殺傷設定があるから、クロノのS2Uがあるから、相手が死ぬことはない。そう思って攻撃魔法を放った。
 しかし、そのせいで木が倒れた。その先に彼女がいて、下敷きにされてしまったのだとしたら。
 ――死ぬ。間接的だが、自分が殺した。

「…………わたし、が?」

 殺すつもりなんてなかった。殺戮に走ってしまった友人を止めるため、ちょっと退いてもらおうと思っただけなのに。
 事故、じゃ済まされない。元はといえば、フェイトの放った魔法が原因だ。
 たとえその気がなくても。あの人は、


    フ ェ イ ト チ ャ ン モ 、 コ ロ シ チ ャ ッ タ ン ダ ネ 


 なのはの声が、聞こえてきたような気がした。
 どうしようもない絶望の中で、フェイトは膝を折り、落胆し、項垂れて、

「………………………………」

 泣きたくなった。

「――ぁっ、イタタ……まったく、驚かされましたわ」
「…………!」

 涙が溢れ出す――その間際、フェイトの涙腺を閉めるきっかけとなったのは、ひょうひょうとした女性の声だった。
 倒木が持ち上がり、その下から獣耳の女が姿を現す。
 頭部から血を垂れ流し、痛みに苦しむ顔をしているにも関わらず、手では軽々と倒木を持ち上げている。
 若い女性が血を垂らしながら木を持ち上げる。その光景にも驚かされたが、それよりも何より、

「…………生き、てた」

 ――殺して、なかった。
 その現実に、フェイトはいたく喜んだ。

「『生きてた』、と。そう言いましたわね、今。自分であんなことをしておきながら、そんな口を叩きますの?
 ……これはさすがのわたくしでも、ちょっと怒りましたわね。
 子供にはお仕置きで済ませようとも思いましたけれど……そういうわけにはいかなくなりましたわ」

 起き上がったカルラの表情から、微笑が消えた。
 そして次の瞬間、ブンッ! という大音量の風を切る音が。

 ――ドズンッ

 カルラを殺していなかったという喜びから一転、眼前に振り下ろされた倒木を見て、フェイトは表情を失った。
 ほとんど顔スレスレで下ろされた倒木は、カルラが一歩前に脚を踏み込んでいたら、フェイトの頭をグチャグチャに粉砕していたであろう体積。
 それを棍棒のように扱うカルラの怪力もそうだったが、

「子供を甚振るのは趣味ではありませんけれど……!」

 傭兵が全力で敵を殺しにかかる際の、本気の正気の剣気を超えた殺気。
 それを剥き出しにしたカルラの迫力に、フェイトは恐怖した。

 素手でフェイトに駆け寄り、電光石火の速度で腕を突きつける。
 今度はデコピンなどではない。突きつけた腕はそのままフェイトの顔面を掌握。
 女性のものとは到底思えない握力で締め上げ、さらに脚を加速させた。

「ぐあっ…………!」

 頭蓋骨が粉砕するのではないだろうかというほどの圧迫感、頭を固定されたまま高速で動かし回される不快感に、フェイトはこの上ない苦痛を味わう。
 フェイトの顔面を捕獲したままのカルラは、駆け出した状態からのスピードでさらに腕を伸ばし、聳え立った大木に突きつける。

「……がはあァッッ!!?」

 フェイトの背中と大木の腹が正面衝突を起こし、激痛を与える。
 かなりの衝撃だったが、背骨は折れていない。いや、いっそ折れていた方が楽になれたかもしれない。
 背中に伝わった衝撃はフェイトの内臓器官にまで伝わり、盛大な吐き気を誘う。
 苦しむフェイトに追い討ちをかけるかのように、カルラは腕を振り上げ、掴んでいた顔面を宙へと解き放つ。
 勢いよく放られたフェイトの身体は、ポイ捨てされるゴミくずの如く地面に投げ出された。

「邪魔をするなら容赦はしない。そう、言ったはずですわ。あなたが何者であろうとも、わたくしにはわたくしのすべきことがある。
 立ち止まってなんか、いられませんもの。障壁は、容赦なく叩き壊させていただきますわ」

「う、うぅ……」

 実力……いや、違う。『覚悟』が違いすぎた。

 身も心も、全て捧げた主ハクオロのため。楽しく過ごした仲間たちと、一緒に帰るため。また、平穏を取り戻すため。
 カルラは戦うのだ。死ねないのだ。降りかかる火の粉は何度も振り払い、押しのけてでも進まなくてはいけないのだ。

 片やフェイトは、親友を取り戻すため……本当に、そうだったろうか。
 あれは本当に真実だったのか。なのはが、あんなことをするというのか。
 今では、全てがまやかしであったようにも思える。それに、振り回されていただけのようにも思える。
 だとしたら――フェイトはとんだピエロだ。真面目にショーを見に来てくれたお客に、悪戯をするような悪いピエロ。
 必死に生きようとするカルラを殺害一歩手前まで追い込み、自分勝手な妄想で全てを台無しにしようとしてしまった。
 こんな茶番には、もう付き合いたくない。心底そう思った。

『……Prease Master』

 声が、聞こえた。
 破壊的なカルラのものでも、猟奇的ななのはのものでもない。
 もっと穏やかで、冷静で、お母さんみたいな声。

『It believes』

(……S2U…………)

『Friendship with the friend』

 平坦な声で、単調に言葉を紡ぐS2Uの声帯が、義母であるリンディの励ましにも思えた。

 ――――なまえを、よんで――――

「なのは…………」

 呟く。小さくもしっかりと、会ってもう一度呼びたい、その名を。

「なのは、なのは……なのは」

「……その『ナノハ』というのは、あなたの恋人か何かかしら? それとも家族?」

 フェイトの呟きを聞き漏らさず、興味を持ったカルラが尋ねてみる。
 フェイトは、カルラのその問いを拒絶することなく、立ち上がって正面から返答する。


「友達だ」


 ハッキリと、言い切る。
 S2Uは言った。友達を信じろと。きっと、バルディッシュやレイジングハートでも同じことを言ってくれる。
 なのははフェイトを救ってくれた、掛け替えのない友人だった。そのなのはを、友達であるフェイトが信じないで、どうするんだ。

「私は、なのはに会う。友達に、会いに行くんだ」
「……そう。それが、あなたを『突き動かしていた力』だったのですわね。それが分かれば、十分……」

 フェイトがS2Uを構え、カルラが先程の倒木を拾い直す。

 それぞれの武器を片手に、譲れない思いを胸に。

 再び、衝突を。

「ブレイズキャノン」『Blaze cannon』

 杖の先端をカルラへ向け、魔力を集中させる。

「……参りますわ!」

 倒木を槍のように突き構え、フェイトへ向けて突進する。

「……ファイア!」『Fire!』

 S2Uの先端から、閃光の帯が放出される。
 カルラは倒木を前に突き出し、襲い掛かってくる砲撃を正面から突破しようと直進する。

「わたしは……!」

 意地と意地とのぶつかり合い。思いと想いとのぶつかり合い。
 より強い方が勝つ。そんな気がして。

「なのはに、会うんだァァァァァァッ――――!!!」

 フェイトは、友達の名前を精一杯叫んだ。

 衝突は、轟音と閃光を放って、終焉を迎える。


 ◇ ◇ ◇


 そこには、極めて明確な勝敗結果が示されていた。
 先程まで構えていた杖はカード形態に戻し、立ったままの状態で、横たわる女性を見つめる少女が一人。
 地面に仰向けになりながら、開けてきた朝空と少女の顔を見つめる女性が一人。

「…………負けて、しまいましたわ」

 どこか陽気に聞こえるのは、彼女の楽天的な性格故のことだろうか。
 大した悔しさも見せず、カルラが終わりを告げた大地に倒れていた。

「ウルトやカミュの術も凄かったけれど、あなたの術の規模も相当なものでしたわよ」
「…………ありがとうございます」

 笑顔で相手を称賛するカルラとは反対に、勝者であるはずのフェイトは、居た堪れない気持ちでいっぱいだった。
 元はといえば、勘違いから始まった戦い。フェイトがもっと冷静であれば、回避できたはずの戦いだった。
 なのに、双方とも引き下がることが出来ず……結果的に、カルラをここまで傷つけてしまう結果になってしまった。
 落ち度を感じてしまうのは、しょうがないことであった。

「……ごめんなさい」
「あら、あなたが謝ることはありませんわ。これは、戦なんかよりももっと不条理で救えない、殺し合い。血も涙もなくて当然ですわ。ささ、遠慮なさらずこの首を持っていきなさい」
「! ……しませんっ、そんなこと」
「クスクスッ、分かっていましてよ。あなた、優しそうな瞳をしていますもの。見ていると吸い込まれそうな、そんな素敵な瞳……」

 カルラとフェイトは互いの視線を交差させつつ、その魅力に引き込まれ合っていた。
 さっきまで戦いを繰り広げ、互いにいがみ合ったていたはずなのに。今では、全てが分かり合えた気がする。

「よろしければ……名前を教えていただけるかしら」
「……フェイト。あなたは?」
「カルラ、ですわ。別に覚えていてもなんの得もない、つまらない名前でしてよ」

 カルラのふざけたような物言いが、妙に心地よい。
 殺し合いという不安な境遇に置かれた中で、少しだけ元の世界の暖かさを取り戻せたような、そんな気がした。


 背後に死神が迫ってきていたことに気づけなかった。
 それは、一瞬でも殺し合いの世界から脱線してしまった意識のせいなのかもしれいない。


 ――バッ、と即座に飛び起きたカルラは、全身で覆い隠すかのように、フェイトの身体を抱きしめる。

「か、カルラさん!?」

 いきなり何をするのか、フェイトは赤面しつつも混乱を覚え、カルラの腕の中でされるがままに抱きしめられていた。
 その時の視界に映ったものは、ただ一つ。

 穏やかな笑顔から一転して、

 ドンッ、ドンッ、ドンッ、

 一頻りの銃声の後、笑顔から苦悶の形相へと表情を作り直す、カルラの姿だった。


 その後のことは、よく分からない。
 カルラはフェイトを抱きかかえたまま走り出し、森の中へと疾走を開始する。
 あの銃声はなんだったのか、カルラはどうしてこんなにも強く、フェイトを抱きしめるのか。
 その時はまだ、何も分からないでいた――


 ◇ ◇ ◇


 人気の薄くなった森の奥まで連れて来られ、フェイトはやっと、状況を理解した。

「あ、あ、あ……」

 差し伸ばした手――カルラの背中辺りから、ヌメッとした感触を感じる。
 そして、暖かさも。
 確認するまでもなかった。自分の手にカルラの血が付着したことも、カルラの背中にどうしてこんな液体が付着しているのかも。

「カルラさん……あの時、誰かに撃たれて……」
「……あらあら、そんな泣きそうな顔をしちゃって、せっかくの可愛らしい顔が台無しですわよ」

 不思議だ。どうしてこの女性は、こんなにまで完璧な笑顔を作れるのか。

「ほら、笑ってくださいまし。あなたにはやらなくてはいけないこと、会わなくてはいけない友達がいるのでしょう?」
「でも、でも……」

 拒絶するようなフェイトの声にも押し負けず、カルラはあくまでも、地の笑顔を通して語りかける。

「もう一度、聞きますわよ。フェイト、あなたには会わなくてはいけない友達がいるのでしょう?
 その子の名前を呼んであげなさい。わたくしに聞かせてみせなさい。あなたには、悲しむ必要性なんてないのですから」

 カルラが見せてくれた極上の笑顔は、どこか痛々しくて。見ているだけで、涙がとめどなく溢れてきて。

「わたしは……なのはに……」

 もう一度、確かめるかのようにその名を呼ぶ。
 もう二度と、この気持ちを失わないように。
 もう二度と、目的を見失わないように。

「なのはに、会いたいぃぃ……………………………………」

 目から大粒の涙をたくさん流し、フェイトは、号泣しながらカルラにそう言った。

「……その言葉さえ聞ければ、わたくしはもう満足ですわ。そうだ、あなたが無事に友達と再会できるよう、おまじないをかけてあげましょう。
 目を瞑って、泣くのをやめて、気を休めて……」

 フェイトは、カルラに言われたとおりに行動し、そこで背中に違和感を感じた。
 トンッ、という首筋を打つような音がした直後、フェイトの身体はぐったり崩れ落ち、そこで意識を失う。
 泣き疲れて眠ってしまったような――そんな表情を見せる幼子に、カルラはよしよしと頭を撫で、静かに布を被せて上げた。


 ◇ ◇ ◇


 何が「おっぺけぺ~のぺ~」だ。
 正直、あんな状態になってしまった時はどうなるんだろうかと心配したものだったが、意外と早めに効果が切れたようで助かった。
 バカになっている最中に誰とも遭遇しなかったことは、運が良かったとしかいいようがない。
 あの尻尾の子には報復が必要ね……フフフ……いえ、それにお礼も必要かしら。
 なにせ、現在のこの状況を招く、きっかけを与えれてくれたんですもの。

「……つくづく、子供運がないですわね、わたくしも。まさか、襲撃者があなたのような可愛らしい娘だなんて」
「フフフ……あれだけ大きな戦闘音をたてれば、誰だって気になって調べてみようとするものよ。すぐにその場を立ち去らなかったのは、失敗だったわね」

 バカから平静に戻った私――古手梨花は、あの尻尾の少女を捜して森を彷徨っていた。
 その最中に見つけたのが、殺し合う二人の女たち。
 尻尾の少女と同族のようにも思える大人の女に、どういう仕組みかは知らないけれど杖から電気を発していた少女。
 私は二人の死闘を終始観戦しながら、機会を窺っていたのだ。――漁夫の利を得る、絶好の機会をね。

「みー。もう一人の女の子はどうしたのですか? あの子も殺してあげないと、ねこさんはガクガクブルブルが治まらないのですよ」
「ああ……あの子なら、とっくの当に逃げてしまいましたわ。せっかく助けてあげたというのに、薄情な子。きっと、あなたの顔も見ていないんじゃないかしら」
「それはそれは、ご愁傷さまなのです。かわいそうだから、もうこれ以上苦しまないように、楽に殺してあげるのですよ。にぱー☆」

 私は満面の笑みを見せながら、銃を内蔵した傘を突きつける。
 女は既に死を受け入れたのか、木に凭れ掛かったまま静かに目を瞑った。

「何か言い残すことはあるですか? 今が最後のビッグチャンスなのですよ」
「遺言……ですか。そんなもの特にはありませんけれど、残念といえば残念ですわね……」
「みぃ? ここで死んでしまうことがですか?」
「後悔……というほどのものでもありませんけれど。叶うなら、もう少し居たかったですわね……あの居心地のいい食卓に……」
「食卓? ごはんが食べたいのですか? 心配しないでも、天国へいけばお腹まんぷくで、ペコペコフラフラになることもないのですよ」
「それもそうですわね。もっとも、天国なんてところに行けるかどうかは、イマイチ自信がないですけれど」
「大丈夫なのですよ。もし地獄に落ちても、ボクには全く関係のないことだから、安心して逝ってくるといいのです」
「……あなた、歳の割に意外と毒舌ですのね」
「? 何を言っているのかボクにはよくわからないのですよ」
「あらあら、それは困りましたわ」
「あはははは~」
「ふふふふふっ」

「じゃあ、死になさい」


 ◇ ◇ ◇


  『それは俺の芋だァーーーー!』      『バカっ、テメー一人で食いすぎなんだよ!』

        『クロウ、あなたもいい加減にしておきなさい』

            『若様、おかわりはどうですか?』      『あらあらウフフ』

     『おいしいねーユズっち』          『はい……』

        『うぅ……聖上ぉ……某は、某はぁ……』   『ちょ、トウカさんそれお水じゃなくてお酒じゃないですか!』

 『やれやれ……』              『おとーさん、たいへん』



 あの、騒がしくも楽しかった団欒の日々。
 悲しみを招くような戦乱もあったけれど、あの楽しい日々があったから、今まで頑張ってこれた。
 もうあそこに戻れないんだと思うと、心が悲しくなってくる。

(もう少しだけ、あの場にいたかった)

(みなさんと一緒に、もう少しだけ)

(ごめんなさい……あるじ様。わたくし、どうやらここで退場みたいですわ)


 ◇ ◇ ◇


 後に残ったのは、怪しく笑う青髪の少女が一人。
 木に凭れ掛かったまま、体中を銃弾で貫かれた死体が一つ。

「まずは一人……そろそろ夜も明けるだろうけど、まぁまぁの滑り出しといったところかしら。
 役に立ちそうな支給品も手に入ったことだし、早めにこの場から立ち去ったほうがいいわね」

 カルラを銃殺した古手梨花は、彼女の四次元デイパックを回収し、その場を離れる準備を進めていた。
 震源地から少し離れているとはいえ、あの戦闘音を聞きつけた参加者がまだ湧いてこないとも限らない。
 それらと接触するというのも手だが、近くに死体がある以上、無駄な誤解をされる危険性もある。

「尻尾の少女に金髪の少女も……今のところは保留ね。幸いにも私の正体はバレていないようだし、放っておいても大丈夫でしょう」

 古手梨花は子供らしからぬ妖艶な笑みを浮かべ、その場を去って行く。

「こわいこわい。あんなところで人が死んでるなんて、ねこさんはますますガクガクブルブルのニャーニャーなのですよ」

 異常としか取れないような、無邪気な発言を残して。


 ◇ ◇ ◇


 風が吹く。
 その風は、少女を覆っていた布をバタバタとはためかせ、空へと舞い上げる。
 むき出しにされた少女は目元に涙を溜め、すぐ傍で起こっていた惨劇に気づけぬまま、朝を迎える。
 カルラが死亡前、フェイトに被せた布――『透明マント』が、梨花の目からフェイトを救ったのだ。
 だが、死は免れても、悲しみから逃れることは出来ない。

 フェイトは目を覚ましたあとも、きっと泣きじゃくることになるのだろう。

 分かり合えた、戦友になれると思えた女性の、死を受け止めて。



【D-7 森林・1日目 早朝】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:スタンガン@ひぐらしのなく頃に
[道具]:荷物一式×3、ロベルタの傘@BLACK LAGOON、ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾、残弾6発)@HELLSING、
    :カルラの不明支給品ひとつ(カルラが扱える武具ではない)
[思考・状況]
1:南西の町方向へ移動。
2:ステルスマーダーとしてゲームに乗る。チャンスさえあれば積極的に殺害。
基本:自分を保護してくれそうな人物(部活メンバー優先)、パーティーを探す
最終:ゲームに優勝し、願いを叶える


【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:気絶、疲労大、全身に軽傷、背中に打撲
[装備]:S2U(元のカード形態)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式、ランダムアイテム残数不明
[思考・状況]1:なのはに会う。それ以外の思考は停止中。
[備考]:タヌ機による混乱は治まった様子。


【カルラ@うたわれるもの 死亡】
[残り65人]

 ※午前四時ごろ、D-7の森林地帯にて、大規模な戦闘音と閃光が発生しました。
 ※カルラの支給品『透明マント@ドラえもん』は、風に飛ばされD-7の何処かに放置されています。
  ですが、布の生地自体が透明なため、著しく見つけにくくなっています。
  透明マントは子供一人がすっぽりと収まるサイズ。複数の人間や、大人の男性では全身を覆うことできません。
  また、かなり破れやすいです。

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29:少女の幸運と少女の不幸 古手梨花 89:魔女は夜明けと共に
41:経験過多、経験不足 フェイト・T・ハラオウン 78:死と少女と
41:経験過多、経験不足 カルラ





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