悲劇 ◆wlyXYPQOyA


「流石にすぐにダメージが治ったりはしねーか……げほっ!」

ハルバードを持って警戒しつつ、肩で息をしながら、時には咳き込みながら
ゆっくりと、ゆっくりと、出来る限り静かに、ヴィータはその場に座り込んで回復を待っていた。
化け物の様な敵が闊歩している中を、ダメージが残った状態で進むのは危険すぎる。
だからこそ今すぐにでもはやてを捜したい気持ちを無理矢理抑え、休息を取り続ける。
清潔感漂う色彩のセーラー服が、風で揺れた。


ヴィータの着替えが終わったのは数分前。
彼女にとっては誰かに見られてしまったりしないかと冷や冷やした時間だった。
下着以外の全てを脱ぎ捨て、きつく絞って出来る限り水気を取る。
その間に五体の自然乾燥を期待する。微妙に、月並みだが乾燥が促された。
しかし、何も着ていない状態で風に当たると風邪を引きそうなものだが
「こんな事でベルカの騎士が具合悪くなってどうすっくしょん!!」
との事らしい。ただ、今の盛大なくしゃみで体の冷えを実感した。
彼女は急いで北高の制服を着る。不安だったがサイズは合っていた。
その事に一先ず安心していたが、やはり制服が少し湿り気を帯びてきた。
流石にこの短時間で体はまだ乾いていたとは言えなかったらしい。
だがあの濡れ鼠状態よりは十分マシだ。このレベルならいつかは乾燥するだろう。


そんな事があり、数分経った後に今のヴィータのこの状態に時間は戻る。

座っていると楽だった。疲れやダメージも軽くはなってきた気がする。
溺れていた時の後遺症で咳き込む事もあるが、それもいつかは収まるだろう。
こういうものは気の持ちようだ。大丈夫、なんとかなる。自身に言い聞かせた。
「大丈夫だ、大丈夫……ハルバード、お前もそう思うよな?」
ハルバードは答えない。当然だ、アームドデバイスでも無ければインテリジェントデバイスでもない。
「……ハルベルト?」
今度はドイツの語感で名前を呼んでみる。当然だが相変わらず反応は無い。
「まぁ、答えないのが当たり前だよなー……げほっ」
ここは恰好良い声で『Ja.(はい)』とか答えて欲しかったが仕方が無い。
頼れるものの物言わぬ武器を溜息交じりに眺め、空を見上げた。

「はやて……どこにいるんだ……?」



「はやて……か」
「はやて?」
ドラえもんは、歩きながら名簿を見ている太一の呟きを聞いた。
太一は先程からランタンで辺りを照らしつつ、延々と名簿を眺めながら歩いている。
こんな夜中に、しかも敵がいるかもしれないのに。なんとも危なっかしい。
冷や冷やしていると、太一が唐突に名簿を見せてきた。どうしたんだろう。
「ほら、見てみろよ。俺と苗字が一緒の奴がいるんだ」
言われるがままに名簿を見せると、確かに”八神はやて”という名前が書かれていた。
まさか、何か重要な事なのだろうか。太一に訪ねてみる。
「太一くん、もしかしてそれ……結構大事な事だったり……」
「いや? 別に」
「……あ、そう……」
「いやー、でも偶然って凄いな! どんな奴なんだろう、会ってみたいなぁ」
あっさり言ってのけると、まだ見ぬ八神さんに思いを馳せる太一。
そんな光景を見てドラえもんは溜息をついた。

『呑気過ぎる』

陰口に相当する事を、ついつい心中で呟いてしまう。
しかしなんとか彼に毒づきたくなる気持ちを押さえた。
冷静になって辺りを見渡すと、太一の持つ灯りのおかげで案外明るい事を改めて認識した。
二人きりと言う状況では、自分たちの位置を他人に教えてしまい危険である。
だが太一は灯りをつけたまま、その事を気にかけることもしなかった。

そして安心しきっている太一の歩みの勢いも、失う事を知らない。
と言うよりドラえもんには寧ろ、彼の勢いは増している様にも見えた。
その証拠に、いつの間にか太一はまたも自分の前を歩いている。
一応彼にペースを合わせるものの、そうすると歩く事に夢中になって周りへの警戒を怠りそうになってしまう。
「ねぇ、太一君。もうちょっと周りを警戒しないと……」
流石にこれは拙い、とドラえもんが注意しようとする。
「大丈夫大丈夫! 心配するなってー」
だが、あっけなくそう言われてしまった。
何が大丈夫なのだろうか。ドラえもんは再び不安に駆られた。


「あ、駅だ!」

暫く歩き続けた後。
そんな事に気づく様子も無く、太一が達成感で溢れた表情で言った。
辺りが暗い所為でどのくらいの時間歩いていたかは判らないが、確かに視線の先には駅があった。
「よーし、誰かいるか調べてみようぜ」
「え? それは危険だよ!」
太一の無謀な言葉に対してドラえもんが声を荒げるが、太一はやはり気にしない。
「いいからいいから! 俺を信じて」
それどころか、ドラえもんの手を取って引っ張ろうとさえした。

ドラえもんは思う。
そろそろ一喝しなければ、と。



ドラえモンは何をそんなに心配しているんだろう。
太一はそう考えながら気楽に駅の内部へと進んでいく。

大丈夫だ。

そんな間違った自己解決による結論を基に太一は進んでいく。
自分には敵がいないかのように、状況を知らずに進んでいく。
自分が全てを理解しているかのように、危険を顧みずに進んでいく。

太一は勘違いに気づかない。
何時間も勘違いをし続けている。
致命的で、危険で、最悪な勘違いを。


『大丈夫、おれ達はデータなんだし』


太一は、愚かにも進み続ける。



自分はデータの様なものである。

ヴィータはそれをよく知っていた。
はやてから魔力を貰う事で存在し続ける、言わばデータシステム。それが自分だ。
自身の命が尽きるか、もしくははやてが死んでしまえば自分は消滅してしまう。
はやてが死んでしまったら、シグナムもシャマルもザフィーラも、そのアームドデバイス達も死んでしまう。
今、自分の手から離れてしまっているあのグラーフアイゼンもだ。

だが今はどうだ。自分は生きているじゃないか。
自分が生きている限り、はやては死んでいないのだ。

そう自分に言い聞かせると、ヴィータは少しだけ安心した。
冷静になり、はやての生を実感し続ける事で気持ちが楽になっていく。
そのおかげかは知らないが、少しだけダメージも消えていった気がした。
「単純だな……」
苦笑し、静かに辺りを眺める。少なくとも今は人の気配が無い。
だが警戒は解かず、闇の中で彼女は休息を続ける。

大丈夫、大丈夫だ……。
まだ自分は生きている。だからはやても生きている。
はやては見つかる、絶対に見つかるんだ。

そう言い聞かせ、焦りを無理矢理に封じ込めて休息する。
はやてを捜す為、そして殺しに従事する者を倒すその時の為に。


ヴィータにとってその休息の時間は、極めて穏やかに流れていった事だろう。
だがしかしその同時刻、彼女が知らぬ所ではとても穏やかとは思えない事件が起きていた。



「ドゥォオオオオオオッッッ~~ッゥクワァッッァァァァァアアアア~~~ウウンッッ!!」

街で、数時間前にヴィータと戦ったあの鉄パイプの男、アンデルセンが殺戮を始めていた。
その近くには八神はやてがいるのだが、ヴィータがそれを知る事は無く、休息を続けている。


「はははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

街で、アンデルセンの襲撃からめがねをかけた少年、のび太が逃げていく。
彼が逃げる先には八神はやてがいるのだが
ヴィータはそれを知る事も無く、休息を続けていた。


「ドオッ……………カアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ……ンッ!!」

病院で、のび太の後を追ってきたアンデルセンが襲撃をかけていた。
八神はやては彼の襲撃から仲間と共に必死に逃げているのだが
ヴィータはそれを知る事も無く、休息を終わりにして立ち上がろうとした。


「いかにも、私はラブレス家に仕えるメイドのロベルタというものです。このような夜分に
突然声をかけ驚かせてしまった非礼をお詫びします」

病院の緊急搬出口の外で突然姿を現したメイド服の女性、ロベルタが八神はやてに話しかけた。
彼女はこの殺し合いに乗っていた危険人物であり、八神はやての命さえも奪おうとするのだが
ヴィータはそれを知る事も無く、決意を新たに立ち上がった。




そして、ヴィータが移動を開始する瞬間。

八神はやてが、死んだ。




――だが、運命の悪戯だろうか。神の悪ふざけなのだろうか。
八神はやてが死んだその瞬間に、ヴィータは歩き始めていた。
完全には疲労を回復出来てはいないだろうと推測し、勢いを抑えつつだ。
勿論その目的は八神はやてを護る事であり、それは永劫変わらない。


つまりは、そう。
八神はやてが死を迎えても、ヴィータは消滅しなかった。
避けられぬはずだった死の運命――それが消え失せてしまっていたのだ。

この光景を眺める者が居たとしたら。
そしてその眺める者が音楽家や奏者なら。
きっと、涙しながら哀しい旋律を紡いだ事だろう。
主が死んだ事を知る由も無く、騎士が歩き出してしまったのだから。

「はやて……無事でいろよ……」

彼女が何故、主を失ってもなお生き続けているのかは誰にも判らない。
だが今こうして、守護騎士ヴォルケンリッターが主を追い求めている現実がそこにある。
消えるはずだった命が消えず、知るはずだった現実を知る事も無くなってしまった。
そんな彼女に降りかかったものを敢えて言葉にするならば――それは”悲劇”に他ならないだろう。

「絶対見つけるから、待ってろよ」

達成されるはずの無い目的の為、ヴィータは歩き出した。


【C-2川の分岐点の岸・1日目 黎明】

【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:疲労は減少、空気砲のダメージも減少、着替え終了、休息終了
[装備]:ハルバード、北高の制服@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:支給品一式、スタングレネード(残り五つ)
[思考・状況]
1:信頼できる人間を捜し、PKK(殺人者の討伐)を行う
基本:元の世界の仲間を探す(八神はやてを最優先)


【F-1 ランタンで駅が視認出来る周辺(北側)・1日目 黎明】

【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:健康 多大な不安
[装備]:手榴弾@BLOOD+ (普段はデイパックにいれています)
[道具]:"THE DAY OF SAGITTARIUS Ⅲ"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱 、支給品一式
[思考・状況]
1:そろそろ太一を一喝したい
2:ヤマトを含む仲間との合流(特にのび太)
基本:ひみつ道具を集めてしずかの仇、ギガゾンビをなんとかする

【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]:健康 投げやりな気持ち
[装備]:なし
[道具]:みせかけミサイル@ドラえもん
   ヘルメット(殺し合いが起きないという自信の表れでつけていません)
   支給品一式
[思考・状況]
1:ドラえもんを連れて駅内部を気軽に探索
2:危険な目に遭ってドラえモンを進化させたい
基本:ヤマトたちと合流



【注意】
守護騎士ヴォルケンリッターであるヴィータは八神はやてが死ぬと消滅するはずでしたが
今回ヴィータは消滅せずに、何事も無かったかの様に生命活動を支障なく続けています。

本作品「悲劇」の最終的な時間軸は
◆S8pgx99zVs氏の作品「神父 アレクサンド・アンデルセン
の作品内ラストにて、ロベルタが場を後にした時刻とほぼ同じです。

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26:鋼鉄の咆哮 ヴィータ 104:東天の緋
23:ドラえモンアドベンチャー 漂流? 殺戮の島! ドラえもん 84:現実の定義 Virtual game
23:ドラえモンアドベンチャー 漂流? 殺戮の島! 八神太一 84:現実の定義 Virtual game





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