死と少女と ◆TIZOS1Jprc



「うぐッ……。ヒック……」

いったいこの小さな少女のどこからそんな量の涙が出てくるのか。
そう思いたくなる程フェイトはずっと泣いていた。

『私の……せいだ……』

もう冷たくなって、死後硬直まで始まっているカルラの亡骸にすがり付いたまま。

『あの時フォトンランサーなんて撃たなければ! もっと早く誤解を解いてれば!
いや、せめてもっと周囲を警戒してれば悪意を持った人の接近に気付けてた!』

闇夜が白み始めているのにも気付かずに目を伏せたままずっとすすり泣いていた。
夜は、明ける。
そして暗い森の中にも光は射す。
不意に射し込んだ光に顔を上げると。

そこに奇妙な形をした巨大なクモがたたずんでいた。

     * * *

埋葬を終え行動を再開したタチコマは少し離れて線路沿いに進むことにした。
駅などの要衝を九課のメンバーが制圧していることを考慮したからだ。
そして途中でイーロク駅にたどり着いたものの。

「うわっ! タンマ! ストップ! のせてー!」

無情にも西へ向かう列車が丁度発車していた所だった。昭和時代の電車を模した自走列車がタチコマの目の前を通り過ぎる。
厚い装甲に阻まれ熱センサが届かず中の様子は確認できない。
線路にたどり着いた時にはもうずいぶんと距離が開けられていた。

「あーあ、行っちゃった。それにしてもスゴい列車だったなー。装甲列車なんて前時代的なモノ始めて見たよ」

タチコマの速さなら今からなら追い付くが、その場合イーロク駅の確認はできない。
追い付いても列車の中に侵入するのは一苦労しそうだ。
結局タチコマは列車を諦めてイーロク駅の調査を優先した。
ホーム、待合室、トイレ……は狭くて入れない。
階段、地下通路、機能していない改札、駅員区画、駅員用トイレ……やっぱり入れない。
ざっと調べた所、今駅の中に人は居ないようだ。
先程の列車に誰か乗り込んだかどうかは、もはや確認できない。
仕方なくホームに戻ってせめて時刻表を確認しておく。

「4:30発ってのがさっき出てったやつだね。4時間ごとの発車か……。で向こうの駅からの次の列車の到着は2時間後っと」

2時間何もせずこのまま駅に留まるのもアホらしい。九課のメンバーなら市街地に向かっただろうか。

「……でもこっから東の線路ってどうなってるんだろ?」

それにさっき北東の森の方でちらりと光が瞬いたのも気になる。戦闘の可能性。
仲間を探すための指針が全くない現状で頼りにすべきはその好奇心。
タチコマはそのまま線路沿いを東に突き進むことにした。



タチコマが市街地を抜けて森に入った時のことだった。

「あるうひ~♪ もりのなか~♪ くまさ……銃声?」

かすかだが北の方から銃声が聞こえた。音波の波形からするとおそらく12番ゲージを使用する型のショットガン。
銃声は一発切りでそれ以上は聞こえない。正面戦闘ならば複数回の発砲が聞こえる方が自然。接近戦にしか使えないショットガンでは狙撃も有り得ない。
ゲーム開始から5時間も経過して試し撃ちというのも考えづらいので、友好を装った者による騙し討ちが最も可能性が高い。ならば

「少なくとも顔は確認しとかないとね」

必要に応じて加害者の拘束、もしくは無力化を行わねばならない。
光学迷彩を作動させておく。
先程の戦闘によるダメージで光学迷彩の効果が著しく低下しているが、この薄暗さなら先に相手に発見される可能性は一段と低くなる。
彼本来の使命を遂行すべくタチコマは銃声の音源へと向かった。



途中にデイバッグらしき物を見掛けたが罠の可能性も考えて一旦無視。
そして、タチコマが現場に見た物は奇妙な形状に耳朶を改造した女の死体と、それにすがり付いて泣きじゃくる金髪の少女だった。

『えーーーーーーと』

この少女が死体の女を殺したのだろうか?
戦闘の跡らしき傷が彼女の所々に滲んでいる。
何にせよ先刻海を錯乱させて、挙句殺害されてしまった様な失態は繰り返してはならない。
あの時はパズの言う事を真に受けて必要以上に馴れ馴れしく接し、あらぬ誤解を受けてしまった。
こういう時はきっと一般的なロボットに対する先入観の通りに"ロボットらしく"行動すれば相手も安心するに違いない。
まず光学迷彩を消して姿を表す。突然表れた巨大な気配に金髪の少女が顔を上げた。

『さあ、ここからが勝負だ! コミュニケーションは言葉! 今こそこの膨大な記憶野を生かす時!』
「オハヨウ、オジョウサン。ボクノナマエハ、たちこまデス」

ぎょっとして少女が身を引く。

「……ロボット?」
「イエス。ボク、ろぼっとデス。ショウタイヲシラレタカラニハ、ニガスワケニハ、イキマセン」

益々気味悪げな表情で少女はあとずさった。

『あちゃー。逆効果だったみたい。やっぱり変な冗談は無しにして、矢張り冷静かつ客観的な態度でのぞまなきゃね』
「ごめんごめん。さっきのは会話を和やかにするためのジョークさ。僕は公安の備品で思考戦車のタチコマさ。とりあえずこの状況の経緯を聞きたいんだけど。まずキミの名前を教えてくれるかい?」

フェイトはぴょこぴょこと機敏に動くマニピュレータとくるくる回る外部観測ユニットを交互に眺めた。

「はあ……。私はフェイト……」

とりあえず同じ会話のフィールドに立つことには成功したようだ。そしてタチコマはストレートにさっきから気になっていた事を尋ねた。

「で。それ、キミが殺したの?」

あまりにストレートな物言いは、時に人を傷つける。
それ、が何をさすのか判らなかったか、一瞬呆気にとられた少女の眼に再び涙が込み上げた。

「私のせいなんだ……。わたしが……ころしたも同然……。わたしのほうが……! 死ねばよかったんだっ……!」

再びしゃくりあげる少女。
泣き声のボルテージが上昇しタチコマは途方に暮れる。
結局、少女フェイトが落ち着くまでにさらに数分を要した。



「じゃあキミの犯したのはせいぜい傷害と不慮の殺人未遂だね。キミは未成年だから前科にはならないだろうし、そもそもここ日本じゃないみたいだから僕達の捜査権は及ばないよ」

ようやくある程度落ち着いたフェイトから簡単に事情を聞いたタチコマはそう結論付けた。
とはいえこの少女が嘘を言っている可能性は思考に留める。
女を蜂の巣にしたショットガンは見当たらないが、デイバッグの中に隠しているかもしれない。

「……そういう問題じゃない」

さっきからずっと眼を伏せたままのフェイトがぽつりとつぶやいた。先程"お近付きのしるし"に与えた西瓜にも全く手を付けていない。

「私がしっかりしてれば、この人……カルラさんは死なずにすんだ。わたしが……なんとかしなきゃいけなかった」

そう言うと再びフェイトはうつむいて喋らなくなった。

『それにしても、ねえ?』

タチコマは先程のフェイトの話を反芻する。

『彼女の話が本当なら彼女は僕達のいる2031年から30年位過去から来た事になる。タイムスリップ?時空管理局執務官?バカバカしい話だよ』

しかし先刻相対した水銀燈なるロボット(?)の放った分析不能の黒い羽。
出会ったいずれも若い人間3人の内全員が今時電脳化していないという事実。
そしてフェイトが見せてくれたS2Uなる黒い杖に変化するカード。
どれもがタチコマの常識の遥か上空を行き交う話だった。

『やっぱこれ疑似体験だよね? 新手の行動テストかな?』

しかしこのバトルロワイアルが現実であろうと仮想であろうとタチコマの取るべき行動には関係の無いことだった。
AIのタチコマの頭脳にとって現実と仮想は等価。
現実の任務に失敗して破壊された所で、分化した数ある個体の一つが欠けただけの事。
また、仮想空間で酷い失敗をすれば性能不良として扱われ、待っているのは廃棄処分だ。
どのみち人工知能であるタチコマに"死"は存在せず、破壊を恐れて任務を疎かにすることは考えられない。
なすべき事は九課のメンバーとの合流、バックアップ。
そしてこの少女の保護。
例え彼女が嘘を付いていたとしても、だ。

「……誰かの為に涙を流すことは価値があることだって、トグサ君が言ってた」

タチコマの声にフェイトは顔を上げた。

「僕は涙腺なんてないからその意味がよくわからないけど……キミを泣かせてしまうこの現状をなんとかしたいって、思う」

それが現実であれ仮想であれ。
なぜだろう、目の前に居る傷付いた心を、放っておくことができない。
その言葉にフェイトはタチコマへの警戒を、ほんの少しだが、解いた。その時。
突然上空に巨大な主催者の仮面の男の姿が浮かびあがった。ギガゾンビのホログラム。
少女にさらなる死を突き付ける定時放送が始まったのだ。

そして夜は、明ける。



【D-7 森林・1日目 早朝~朝】
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:疲労中、全身に軽傷、背中に打撲、泣き疲れ
[装備]:S2U(元のカード形態)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式、ランダムアイテム残数不明、西瓜1個@スクライド
[思考]
1:放送を聞く。
2:カルラを埋葬、彼女の仲間に謝る。
3:タチコマを警戒しつつ情報交換
4:なのはに会い、もし暴走していたら止める。
5:はやて、シグナム、ヴィータとも合流
6:この西瓜……どうしよう
[備考]:タヌ機による混乱は治まったものの、なのはがシグナムを殺した疑惑はまだ残っています。

【タチコマ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:装甲はぼこぼこ、ダメージ蓄積、燃料わずかに消費
[装備]:ベレッタM92F(残弾16、マガジン15発、マガジン14発)
[道具]:支給品一式、燃料タンクから1/8補給済み、お天気ボックス@ドラえもん、西瓜48個@スクライド
   タチコマの榴弾@攻殻機動隊S.A.C、双眼鏡、龍咲海の生徒手帳
[思考]
1:放送を聞く。
2:フェイトと情報交換、榴弾を装填してもらう。
3:D7南部のデイバッグを回収
4:フェイトを彼女の仲間の元か安全な場所に送る。
5:九課のメンバーと合流。
6:自分を修理できる施設・人間を探す。
[備考]:光学迷彩の効果が低下しています。被発見率は多少下がるものの、あまり戦闘の役には立ちません。
効果を回復するには、適切な修理が必要です。


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59:「友達だ」 フェイト・T・ハラウオン 110:-目的- -選択- -未来-
71:人ならざるもの達の午前 Water Requiem タチコマ 110:-目的- -選択- -未来-





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