貪る豚 ◆/1XIgPEeCM
地図上で言うC-7の北東側の森の中。そこをゆっくりと、本当にゆっくりと走る一台のトラックの姿があった。
このトラックに乗る石田ヤマトは、必要以上に前方に注意を向けながらハンドルを握っていた。
冷や汗が一筋、額から頬へと伝う。二度とあんなことを起こしてはならない。
先刻、自分がやってしまった取り返しのつかないこと。
このトラックに乗る石田ヤマトは、必要以上に前方に注意を向けながらハンドルを握っていた。
冷や汗が一筋、額から頬へと伝う。二度とあんなことを起こしてはならない。
先刻、自分がやってしまった取り返しのつかないこと。
一人の少女を、轢き殺した。
殺意があったわけではなかった。事故だったのだ。
彼女には、恐らく兄がいた。その兄までもがこの殺し合いに参加させられているのかは分からない。
だが、その少女は運悪く自分に轢き殺されてしまった。それだけは分かる。
自分が、殺したのだ。自分が、この手で。
思い出すたびに深い深い罪悪感に苛まれ、気が狂いそうになる。
彼女には、恐らく兄がいた。その兄までもがこの殺し合いに参加させられているのかは分からない。
だが、その少女は運悪く自分に轢き殺されてしまった。それだけは分かる。
自分が、殺したのだ。自分が、この手で。
思い出すたびに深い深い罪悪感に苛まれ、気が狂いそうになる。
でも。
いつまでも感傷に浸っているわけにはいかない。
既に事切れている彼女のためにできること。それは、彼女を安らかに眠らせてあげることだ。
それくらいしか今のヤマトには思いつかなかったし、できそうになかった。まさか死んで詫びるわけにはいくまい。
死ねない。ヤマトは思う。こんなところで死ぬわけにはいかない。
だって、今もきっと自分の帰りを待ってくれている実の弟がいるのだから。
思いついた脱出案を行動に移して大変なことになったけれど。
救いのヒーローとしてギガゾンビを倒すとか言っているぶりぶりざえもんはアテにならないけれど。
太一と合流し、何とかして生きて帰れる方法を探すんだ。
いつまでも感傷に浸っているわけにはいかない。
既に事切れている彼女のためにできること。それは、彼女を安らかに眠らせてあげることだ。
それくらいしか今のヤマトには思いつかなかったし、できそうになかった。まさか死んで詫びるわけにはいくまい。
死ねない。ヤマトは思う。こんなところで死ぬわけにはいかない。
だって、今もきっと自分の帰りを待ってくれている実の弟がいるのだから。
思いついた脱出案を行動に移して大変なことになったけれど。
救いのヒーローとしてギガゾンビを倒すとか言っているぶりぶりざえもんはアテにならないけれど。
太一と合流し、何とかして生きて帰れる方法を探すんだ。
決意を改め、僅かな希望を内に秘め、ヤマトはハンドルを再び強く握り締める。
と、ヤマトはそこであることに気が付いた。
今、ヤマトの操縦するトラックのスピードは、時速20キロに届くか届かないかというところである。
これはトラックを初めて走らせた時よりさらに遅い。あの事故のこともあり、過剰なまでの安全運転になってしまっているのだ。
そう、このスピードではまず間違いなく隣にいるぶりぶりざえもんが何かしら文句を垂れるはずなのだ。
事故を起こす前までは、『もっと速く走れ』だとか、『私の手足がもう少し長ければ私の華麗なドライビングテクニックを……』などとほざいていたというのに。
それがないどころか、ぶりぶりざえもんは運転を再開してから一言も声を発していない。
黙っててくれるのは有り難いが、これだけ静かだとどうにも怪しい。怪しすぎる。
流石のぶりぶりざえもんも、先程の件で意気消沈しているのだろうか。それともまた夢の中に旅立ってしまったのだろうか。
ヤマトは、アクセルにかける足の力をほんの少し緩め、そして片目だけでちらりと助手席の方を見た。
今、ヤマトの操縦するトラックのスピードは、時速20キロに届くか届かないかというところである。
これはトラックを初めて走らせた時よりさらに遅い。あの事故のこともあり、過剰なまでの安全運転になってしまっているのだ。
そう、このスピードではまず間違いなく隣にいるぶりぶりざえもんが何かしら文句を垂れるはずなのだ。
事故を起こす前までは、『もっと速く走れ』だとか、『私の手足がもう少し長ければ私の華麗なドライビングテクニックを……』などとほざいていたというのに。
それがないどころか、ぶりぶりざえもんは運転を再開してから一言も声を発していない。
黙っててくれるのは有り難いが、これだけ静かだとどうにも怪しい。怪しすぎる。
流石のぶりぶりざえもんも、先程の件で意気消沈しているのだろうか。それともまた夢の中に旅立ってしまったのだろうか。
ヤマトは、アクセルにかける足の力をほんの少し緩め、そして片目だけでちらりと助手席の方を見た。
ぶりぶりざえもんは、いなかった。
ヤマトは咄嗟にブレーキを踏んだ。車体が僅かだがぐらぐらと前後に揺れ、そして止まる。
「ぶりぶりざえモン、どこだ!」
叫びながら車内を見回す。運転に集中しすぎて、周りの変化に気が付かなかったのだ。
だが、その者は思いの外早く見つかった。運転席の左斜め後ろ。もう二度と動かないであろう、横たわる少女の傍にそいつはいた。
「なんだ、私ならここにいるぞ」
何時の間に移動したのだろうか、後部座席にぶりぶりざえもんが座っていた。
偉そうに足を組んでいるが、足が短すぎるがゆえ、その様は酷く滑稽だ。何故か口元に白い物がいくつもくっついている。
「お前、何時の間に後ろに……なにしてるんだよ」
なるべく死体は見ないようにしながら、ヤマトはぶりぶりざえもんに問う。
「見ればわかるだろ。飯だ」
即座に返答される。よくよく見ると、ぶりぶりざえもんの片手には何か丸い物が握られていた。
「飯だと!? さっき食べたばかりじゃないか!」
そうなのだ。既にぶりぶりざえもんはパンを二つも消費してしまっている。
後先考えずばくばく食っていたら、一日も経たぬ内に食料が尽きるのは目に見えている。
「腹が減っては戦ができん、と言うだろう」
決まり文句の如く言うぶりぶりざえもんだが、こいつ、端から戦などする気はないのではないか。
ヤマトはそう思ってならない。
「だからさっき食っただろ!」
「細かいことをガタガタ抜かすな。ほれ、ヤマトも欲しいのか?」
ヤマトの一喝を往なし、ぶりぶりざえもんはその手に握られた物をヤマトの眼前に持ってきた。
ヤマトはそれに見覚えがあった。少なくともこれは元々個々のデイパックに入っていた食料ではない。
白いボールに黒い紙が貼り付けられたようなそれ。ぶりぶりざえもんのすぐ近くに散乱する笹の葉。
ヤマトは、まさかと思った。
「ぶりぶりざえモン、それ……どうした?」
「ん? これか? これはこの子供のバッグの中に入っていたから貰ったものだ。美味そうだったからな」
ヤマトのまさかが、確信へと変わった。
「ま、欲しいと言っても一口もやらぬがな」
ぶりぶりざえもんは言って、それを口へと運ぼうとする。ヤマトの手が反射的に動いた。
「なっ、なにをする!」
運転席から後部座席の方へ身を乗り出したヤマトの右腕は、鮮やかな軌道を描き、ぶりぶりざえもんの手からおにぎりを掻っ攫った。
「か、返せ! それは私のおにぎりだ! 返せ!」
ジタバタと手足を動かし、怒りと焦りの入り混じった表情で喚くぶりぶりざえもん。まるで迫力はないが。
「説明書を見なかったのか? これは食べたらいけないものだろ」
これ、即ちおにぎりのことだ。
これは今は亡き少女の遺品なのだが、このおにぎり、ただのおにぎりではない。
このおにぎりは細菌が大量に繁殖しており、食べると食中毒を伴う危険性高し。
死亡することは稀だろうが、症状によっては今後の活動状況に大きく支障が生じることとなる。簡単に言ってしまえば毒物なのだ。
ヤマトは少女のデイパックを調べた時に支給品の説明書をしっかり読んでいたので、これを熱知していた。
だが、そんなトラップアイテムを知ってか知らずかこの豚は……。
もし知ってて食べようとしたのなら、よっぽど食い意地が張っているか、チャレンジャーか。あるいは自殺願望でもあるかのどれかか。
いずれにしろ、倒れたりでもしたら自業自得だが。
「案ずるな。たかだか消費期限切れの食品を食べたくらいで腹を壊すほどヤワではない。
それに、既にもう一つ食べてしまったしな」
途端に落ち着きを取り戻したぶりぶりざえもんはそう言いながら、運転席と助手席の間を潜り抜け、助手席へと舞い戻ってくる。
確かに、今は異常は見られないし、一度地面に落ちたパンをも平気で食べるこいつなら大丈夫かもしれないが……。
「…………」
「さ、それをよこせ」
ぶりぶりざえもんがヤマトの持つおにぎりに視線を向け、言った。しかしヤマトは怪訝そうな顔をして譲らない。
「よこせって言ってんだよ、このタコォ!」
ぶりぶりざえもんの怒号が飛ぶ。その何とも言えない気迫に圧倒され、ヤマトはおずおずとおにぎりを差し出した。
ヤマトの手から瞬時におにぎりがもぎ取られ、ぶりぶりざえもんは無我夢中でおにぎりにかぶりついた。
下品にも米粒がいくらかぽろぽろと零れ落ちる。あっと言う間におにぎりは平らげられてしまった。
「……どうなっても知らないからな」
ヤマトは吐き捨てるように言って、ぶりぶりざえもんから目を離し、ゆっくりとトラックを発進させた。
「ぶりぶりざえモン、どこだ!」
叫びながら車内を見回す。運転に集中しすぎて、周りの変化に気が付かなかったのだ。
だが、その者は思いの外早く見つかった。運転席の左斜め後ろ。もう二度と動かないであろう、横たわる少女の傍にそいつはいた。
「なんだ、私ならここにいるぞ」
何時の間に移動したのだろうか、後部座席にぶりぶりざえもんが座っていた。
偉そうに足を組んでいるが、足が短すぎるがゆえ、その様は酷く滑稽だ。何故か口元に白い物がいくつもくっついている。
「お前、何時の間に後ろに……なにしてるんだよ」
なるべく死体は見ないようにしながら、ヤマトはぶりぶりざえもんに問う。
「見ればわかるだろ。飯だ」
即座に返答される。よくよく見ると、ぶりぶりざえもんの片手には何か丸い物が握られていた。
「飯だと!? さっき食べたばかりじゃないか!」
そうなのだ。既にぶりぶりざえもんはパンを二つも消費してしまっている。
後先考えずばくばく食っていたら、一日も経たぬ内に食料が尽きるのは目に見えている。
「腹が減っては戦ができん、と言うだろう」
決まり文句の如く言うぶりぶりざえもんだが、こいつ、端から戦などする気はないのではないか。
ヤマトはそう思ってならない。
「だからさっき食っただろ!」
「細かいことをガタガタ抜かすな。ほれ、ヤマトも欲しいのか?」
ヤマトの一喝を往なし、ぶりぶりざえもんはその手に握られた物をヤマトの眼前に持ってきた。
ヤマトはそれに見覚えがあった。少なくともこれは元々個々のデイパックに入っていた食料ではない。
白いボールに黒い紙が貼り付けられたようなそれ。ぶりぶりざえもんのすぐ近くに散乱する笹の葉。
ヤマトは、まさかと思った。
「ぶりぶりざえモン、それ……どうした?」
「ん? これか? これはこの子供のバッグの中に入っていたから貰ったものだ。美味そうだったからな」
ヤマトのまさかが、確信へと変わった。
「ま、欲しいと言っても一口もやらぬがな」
ぶりぶりざえもんは言って、それを口へと運ぼうとする。ヤマトの手が反射的に動いた。
「なっ、なにをする!」
運転席から後部座席の方へ身を乗り出したヤマトの右腕は、鮮やかな軌道を描き、ぶりぶりざえもんの手からおにぎりを掻っ攫った。
「か、返せ! それは私のおにぎりだ! 返せ!」
ジタバタと手足を動かし、怒りと焦りの入り混じった表情で喚くぶりぶりざえもん。まるで迫力はないが。
「説明書を見なかったのか? これは食べたらいけないものだろ」
これ、即ちおにぎりのことだ。
これは今は亡き少女の遺品なのだが、このおにぎり、ただのおにぎりではない。
このおにぎりは細菌が大量に繁殖しており、食べると食中毒を伴う危険性高し。
死亡することは稀だろうが、症状によっては今後の活動状況に大きく支障が生じることとなる。簡単に言ってしまえば毒物なのだ。
ヤマトは少女のデイパックを調べた時に支給品の説明書をしっかり読んでいたので、これを熱知していた。
だが、そんなトラップアイテムを知ってか知らずかこの豚は……。
もし知ってて食べようとしたのなら、よっぽど食い意地が張っているか、チャレンジャーか。あるいは自殺願望でもあるかのどれかか。
いずれにしろ、倒れたりでもしたら自業自得だが。
「案ずるな。たかだか消費期限切れの食品を食べたくらいで腹を壊すほどヤワではない。
それに、既にもう一つ食べてしまったしな」
途端に落ち着きを取り戻したぶりぶりざえもんはそう言いながら、運転席と助手席の間を潜り抜け、助手席へと舞い戻ってくる。
確かに、今は異常は見られないし、一度地面に落ちたパンをも平気で食べるこいつなら大丈夫かもしれないが……。
「…………」
「さ、それをよこせ」
ぶりぶりざえもんがヤマトの持つおにぎりに視線を向け、言った。しかしヤマトは怪訝そうな顔をして譲らない。
「よこせって言ってんだよ、このタコォ!」
ぶりぶりざえもんの怒号が飛ぶ。その何とも言えない気迫に圧倒され、ヤマトはおずおずとおにぎりを差し出した。
ヤマトの手から瞬時におにぎりがもぎ取られ、ぶりぶりざえもんは無我夢中でおにぎりにかぶりついた。
下品にも米粒がいくらかぽろぽろと零れ落ちる。あっと言う間におにぎりは平らげられてしまった。
「……どうなっても知らないからな」
ヤマトは吐き捨てるように言って、ぶりぶりざえもんから目を離し、ゆっくりとトラックを発進させた。
「やれやれ、私のことなど気にせずに運転していれば良いものを」
「……黙っててくれないか」
またも偉そうなことを口にしたぶりぶりざえもんへと、前方に視線を向けたままのヤマトが言い放つ。
その口調は白眼視そのものだ。
「キ、キサマ、さっきから言わせておけばガキの分際で……!」
ヤマトは相変わらず騒がしいぶりぶりざえもんを無視し、黙々と運転を続ける。
ヤマトのその様子にぶりぶりざえもんは何を思ったか、ふんっと一度鼻息を大きく鳴らすと、どかっとシートに寄り掛かり、押し黙った。
「……黙っててくれないか」
またも偉そうなことを口にしたぶりぶりざえもんへと、前方に視線を向けたままのヤマトが言い放つ。
その口調は白眼視そのものだ。
「キ、キサマ、さっきから言わせておけばガキの分際で……!」
ヤマトは相変わらず騒がしいぶりぶりざえもんを無視し、黙々と運転を続ける。
ヤマトのその様子にぶりぶりざえもんは何を思ったか、ふんっと一度鼻息を大きく鳴らすと、どかっとシートに寄り掛かり、押し黙った。
車内に、重苦しい雰囲気が充満し始めていた。
トラックは、まもなくC-7の南西に差し掛かる。
【C-7森 1日目・黎明】
【石田ヤマト@デジモンアドベンチャー】
[状態]:人をはね殺したことに対する深い罪悪感、精神的疲労、ぶりぶりざえモンがうざったい
[装備]:クロスボウ、73式小型トラック(運転)
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー
RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)
デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
真紅のベヘリット@ベルセルク
[思考]
1:街へ行って、どこかにグレーテルを埋葬してやる
2:八神太一との合流
3:ぶりぶりざえモンはアテにしない
基本:生き残る
[備考]:ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
[状態]:人をはね殺したことに対する深い罪悪感、精神的疲労、ぶりぶりざえモンがうざったい
[装備]:クロスボウ、73式小型トラック(運転)
[道具]:ハーモニカ@デジモンアドベンチャー
RPG-7スモーク弾装填(弾頭:榴弾×2、スモーク弾×1、照明弾×1)
デジヴァイス@デジモンアドベンチャー、支給品一式
真紅のベヘリット@ベルセルク
[思考]
1:街へ行って、どこかにグレーテルを埋葬してやる
2:八神太一との合流
3:ぶりぶりざえモンはアテにしない
基本:生き残る
[備考]:ぶりぶりざえもんのことをデジモンだと思っています。
【ぶりぶりざえもん@クレヨンしんちゃん】
[状態]:健康
[装備]:照明弾、73式小型トラック(助手)
[道具]:支給品一式 (配給品0~2個:本人は確認済み)パン二つ消費
[思考]
1:ヤマトの運転を補助
2:強い者に付く
3:自己の命を最優先
基本:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する
[備考]:おにぎり弁当を食べました。
[状態]:健康
[装備]:照明弾、73式小型トラック(助手)
[道具]:支給品一式 (配給品0~2個:本人は確認済み)パン二つ消費
[思考]
1:ヤマトの運転を補助
2:強い者に付く
3:自己の命を最優先
基本:"救い"のヒーローとしてギガゾンビを打倒する
[備考]:おにぎり弁当を食べました。
[共通思考]:市街地に向かい、グレーテルを埋葬するのに適当な場所を探す。
[共同アイテム]:ミニミ軽機関銃、おにぎり弁当のゴミ(どちらも後部座席に置いてあります)
[共同アイテム]:ミニミ軽機関銃、おにぎり弁当のゴミ(どちらも後部座席に置いてあります)
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Back:misapprehension Next:「速さ」ってなんだろ?「速さ」ってなぁに?
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Back:遠坂凛は魔法少女に憧れない Next:暴走特急は親友の夢を見るか
56:嗤うベヘリット | 石田ヤマト | 98:罪悪感とノイズの交錯 |
56:嗤うベヘリット | ぶりぶりざえもん | 98:罪悪感とノイズの交錯 |