彼女の最適解 ◆qwglOGQwIk


まだ年端もいかない少女、オヤシロ様の巫女である古手梨花はその姿に似使わぬ大人びた声で小さく呟いた。

「殺し合い、ねぇ」

あの変な仮面をつけた男?は確かにそう言ったはずだ、殺しあえ。と

「ねぇ、羽入。」

私は羽入にだけ聞こえる声で言うが、羽入の姿は見当たらない。
それどころか今この場に、人の気配すらしないみたいだ。
やはり、殺し合いの場に招かれたというのは間違いが無いのだろう。
とにかく、この場に羽入は居ないようだ。
普段うっとおしい癖に、肝心な時に全く役に立たないんだから・・・。

心の中で悪態を付いた私は、誰も居ないことをもう一度確認し近くの木にもたれかかることにした。

さすがに・・・死に戻ったばかりでこれは疲れるわね・・・。
幾度となく死に続けてきた私だが、さすがに殺し合いをする世界は見たことも無い。
と、言うよりもここは雛見沢ですら無いのだろう。まったく見覚えの無い場所だ。
周りの光景はまるで雛見沢のような森林に覆われた山岳地帯のようだ。
だが、雛見沢とは全く別の場所であるのは間違いない。
そりゃ百年以上も雛見沢に居れば誰だってそこにあるものはほぼ全て把握して当然である。
というよりも雛見沢という閉じた世界は完全に見飽きていた。
この場所は確実に雛見沢ではない。だがここは本当に日本であるかすら怪しく思える。
木々から感じ取れる生命感の無さ、不自然さは私にちょっとした不快感と少しの新鮮さを与える。
そう考えれば私があの時死んだのは間違いで、実は何らかの事故が起こったのかもしれない。
やり直しはいつも雛見沢だったんだから。

・・・いやいや、記憶に違いが無ければ私は間違いなく死んだのだろう。

私が最後に見た光景は間違いが無ければ、狂気と妄想に取り付かれた哀れな拷問狂、園崎詩音の姿だったはずだ。
そのとき私は、惨劇を止めるために雛見沢症候群を患った詩音に治療の注射をしようとした。
だが、結局の所返り討ちになってしまった。情けない・・・
その後私は「綿流し編」と名づけた世界と似たような展開、つまり詩音によって拷問されるのはもう御免だった。
私は同じ展開を二度もやるなんてご免だし、それが拷問の末の死なら尚更やりたいはずがない。
・・・その後は良く覚えてないが、多分近くに落ちていた包丁で喉を掻き毟り、自殺してやったはずだ。
自殺した私が羽入にやり直しを頼んだ後、何故かあの殺し合いの場に居たというわけだ。

・・・記憶と事実のつながりがあまりにも不自然すぎる。今までとはまったくありえない展開。
やり直した先は雛見沢ではなく、殺し合いの舞台ですって?
終わりの無き永遠の繰り返しの世界で、最も大きなイレギュラーだ。私はこんな世界は見たことが無い。
まあ、今回も富竹は今までとまったく同じ展開だったのは頭が痛い・・・
さすがに、この殺し合いの舞台では私と同じである富竹の逃れられない死は関係がないだろう。
が、私の首に巻かれた首輪の存在はここが殺し合いの場であるということの確かな証明になっている。
いくらなんでも私の足元に転がった富竹の首が夢だとはとても思えない。でも・・・

「ありえない・・・。こんなことはありえないはずよ・・・。」

彼女は少女とは思えないほど大人びた声で、ただただ困惑の表情を浮かべながら呟やく。
百年を生きる雛見沢の魔女、本当の古手梨花にとってイレギュラーとは嬉しくもあり困惑するものでもあった。


・・・私は思考停止をするのも馬鹿らしいと思い、表情を再び戻す。
まずは、あの仮面男・・・ギガゾンビとやらが言っていた支給品とやらを確認してみることにした。
私は中身を確認する。
これはこれは・・・、ずいぶんと馴染み深い物が姿を現した。

「スタンガン、ねぇ・・・」

私はあまりの皮肉に笑いそうになってしまった。
一番最後に私を死に至らしめる原因となった、あのスタンガンがここにあるとはね。
まあ、私みたいな非力な小娘が殺し合いをするには
銃や刀なんかよりよっぽどうってつけの、いわゆる"当たり"ってとこかしらね?

私は残りの支給品を確認を行った。
するとその中には、名簿が含まれている。
私は自分以外に誰がこの趣味の悪いゲームに付き合っているのかを確認することにした。
そういえばあの場にみんなが・・・いや、確認してから考えよう。
もしかしたら人違いかもしれない、そうかもしれないんだから・・・

やはりか・・・。
前原圭一、竜宮レナ、園崎魅音、北条沙都子・・・そして私。
・・・私の大切な友人。いや、仲間達と殺しあえというのか。なんて残酷な運命。
私にはそんな、そんなことが出来るはずが無い。仲間を、殺せだなんて
そもそも、非力な小娘がこんな殺し合いの舞台で生き残れるか?いや、無い。
私を深い絶望が覆う。結局・・・私は繰り返される惨劇に抗えないのか、救われないのか・・・。

絶望に身を任せ、いっそこの場で自殺してしまおうかと思ったとき、あの男が言った言葉を思い出していた。
"好きな願いを叶えてやろう。"と
私ははっとなる。
しかし、都合よく願いなど叶えてくれるだろうか?いや、普通はないだろう。
私が何度繰り返しても掴む事が出来なかった小さな願いをあの男が?
私の小さな願い、大切な友人たちが誰一人惨劇に見舞われず、雛見沢で昭和58年6月を超えること

そんなことは・・・ありえない。
見るからに胡散臭そうな見た目の男だった。
あいつの都合通りに他人を殺して回るというのも、運命に流されてるようで気が乗らない。
・・・いや、どうなんだろう。決め付けるのはよくないな。
もしかしたら、これはチャンスなのかもしれない。
私を100年以上も執拗に追い掛け回し、永遠に昭和58年6月の雛見沢に縛り付ている死の運命。
どれだけ抗っても今まで勝つことが出来なかった死。
それに比べてみれば殺し合いなどなんと分かりやすいか。
どうせ死んでも惜しくない命なんだ、私だってやれないことは無いはずだ。

でも・・・
でも・・・
私は・・・大切な友人達を、親友の・・・沙都子を殺せるの?
私に、できるのだろう・・・か。沙都子を、みんなを殺す?

いや・・・殺すしかないんだ。
私は今まで八方手を尽くして大切な友人を救おうとした。
私の身に迫る運命から救おうと助けを求め続けた。
仲間でさえ!親友でさえもだ。
私は慰められ、勇気付けられたことはあった。だが、助けてはくれなかった。誰もね・・・
それどころか私は雛見沢とは関係のない青年、赤坂衛にすら助けを求めた。
しかし彼でさえ、一度たりとも昭和58年6月に助けに来てくれなかった。
私は、雛見沢で何度も何度も惨劇を回避しようとした、その努力は決して報われることは無かった。
今はどうだ?ただ生き残るだけで私の望む小さな幸せをという願いを叶えることが出来る。
なんと簡単で分かりやすい!

仮にゲームから脱出して雛見沢に戻る?私の大切な友人が一人でも欠けた世界になんて興味ない。
私だって生き残れるかどうか分からないのに、みんな一緒に脱出なんてそれこそ虫の良すぎる話だ。
奇跡が起こってみんなで雛見沢に帰れても、正体の分からない惨劇が起これば努力は全て水の泡だ。
それならば、願いをかなえて惨劇の起こらない雛見沢で、もう一度やり直せばいいのではないか?
これはとても分の悪い賭け、でも勝つのに奇跡・・・サイコロの7は要らない。
サイコロの6を何度か出し続ければいい。たったそれだけの話なんだ。
現にサイコロの6、このスタンガンを引いている。確実に流れは向いているようにも見える。


決めなきゃ・・・答えを・・・
私は

私は、大切な友人達と一緒に昭和58年6月を超えてみせる!
殺してでも、生き延びる。私は決して死の運命なんかには屈しない!
そのためならば誰でも殺す。たとえ圭一を・・・、レナを・・・、魅音を・・・、・・・そして沙都子を



殺してでも!

「いいじゃないの変態仮面。あんたの企みに乗ってやるわ。」

彼女は空を見上げ悪態を放ち、その場から立ち上がった。
その表情は、とても年端の行かない少女とはかけ離れた歪んだ笑いであった。

さて、どうするか。
クールになれ、古手梨花。どうやったらこのゲームで勝ち残れる?
このスタンガンで直接他の参加者を襲う?
・・・いや、それは無理だろう。あの場には私では絶対適わないような大男もちらほらと居たようだった。
それに私は詩音に奇襲しようとして、助けようとしたとはいえ返り討ちになったではないか。
そんな私が正面から他の参加者と戦ったとして、優勝どころか一人倒すのだって難しいだろう。
つまり、私は殺し合いに最初から向いていない。でもどうすれば私は勝ち残れる?
考えろ・・・考えるんだ。


・・・そうね。いつものやり方で行きましょうか。
私は見ての通り小さな普通の少女だ。少なくともゲームに乗っている人間には見えないだろう。
だから守ってもらえばいいんだ。他の参加者にね・・・。
雛見沢でも私は、オヤシロ様の生まれ変わりとして周りからずっと持て囃されてきた。
魅音の叔父の店を貸しきって部活をしたときにも、周りの参加者をうまく味方につけて勝ち上がった。
そんな私にとって他人を上辺だけでも味方につけることはたやすい。

私のようにゲームに乗って殺しに来る人間ならともかく、まさかあの中の全員がゲームに乗って殺し合いをするわけが無い。
私の仲間も・・・たぶんそうだろうし、名簿を見たときには日本人らしき名前もかなり含まれていた。
少なくともいつの間にか連れ去られ、殺し合いをしろといわれた日本人がいたとする。
そんな人間がハイそうですか。と言ってゲームに参加する?普通はないだろう。
だからこそ、人を騙して信用させることが出来る。私みたいな普通の可愛らしい少女なら尚更だ。
私が積極的に殺し合いをする必要など無い。他の誰かに私以外の全員を殺してもらえばそれでいい。
そして最後の二人になったら、背後からズガン。
少なくとも、私が積極的に殺人をするよりはよっぽど勝率が高い。
最後の一人を倒せばいい。たったそれだけのことだ。

・・・確率は決して高いわけじゃない。でも0よりはずっと高い。
私は今度こそ、・・・いや、絶対に賭けに勝つんだっ・・・!
この今までに決してありえなかった世界で勝つんだ!
勝って、勝って今度こそ私は私が幸せになれる世界をを手に入れるんだ!
そのためなら、私はどんな努力でもする。今度こそ私が生き残るために!


「みぃ、殺し合いなんてがくがくぶるぶるのにゃーにゃーなのです・・・。」

彼女ははまるで自分自身を騙すかのように年相応の、可愛らしい声で一言呟いて歩き出した。

そうね、まずは人の集まりそうなあの町にでも行ってみようかしら。・・・くすくす

【B-6南東部 一日目 深夜】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:スタンガン(普段はディバックに隠している)
[道具]:荷物一式
[思考]
第一行動方針:B-6から南下して町へ向かう。
第二行動方針:ステルスマーダーとしてゲームに乗る。
基本行動方針:自分を保護してくれそうな人物(部活メンバー優先)、パーティーを探す。
最終行動方針:ゲームに優勝し、願いを叶える。

※梨花は目明し編終了時→罪滅し編開始時から呼ばれました。



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古手梨花 29:少女の幸運と少女の不幸





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