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嘘と誤解と間違いと ◆CSROPR1gog


2人の少年は闇の中を歩いていた。
夜空は白々と明け始めている。
だが闇は依然濃い。
夜の帳が降ろされた暗い道は少年達の勇気を削ぎ落とす。
それが頼れる大人達との死別の後ともなれば、尚更の事だった。
「みんな、死んじゃった」
少年のび太は呟く。
「しずかちゃんは殺されて。キートンさんも殺されて。
 あの車椅子の女の子も。……銭形警部だって殺されてしまったんだ」
嘆く。
諦める。
絶望する。
弱音を吐く。
……屈服する。
「結局、ギガゾンビの奴のいう通りなんだ。
 ぼく達、何もできずに苦しんで死ぬんだ」
一度はギガゾンビに対して怒りを胸に刃向かおうとした。
だけど結果はこの有様だ。
のび太はバトルロワイアルにまるで歯が立たなかった。
キートンは殺されて、名も知らぬ車椅子の女の子も殺されて、銭形警部までもが殺された。
どれもこれも目の届かない場所で。
「ぼく達、逃げてばっかりじゃないか」
「…………ちがうよ、のび太」
否定するスネ夫の声だって震えていた。
スネ夫だって何もできない。虚勢を張っていた。
「そうだよ、確かにしずかちゃんも、はやてちゃんも殺された。
 銭形のおじさんだって、きっと殺されちゃったんだ」
だけど。
「でも銭形警部は言ったんだ。
 『逃げろ』って。それと……『君を保護する』って」
だけどスネ夫は、見栄や虚勢を張る事だけは得意だった。

「ボク達、銭形のおじさんを嘘吐きになんてさせないよ。ぜったい、生きのびてやる。
 それがボク達の戦いなんだ!
 生きよう、のび太!
 ギガゾンビなんかの言うとおりになんて……なってたまるもんか!」
だからぼろぼろと泣きながらでもそう言えた。
心がひび割れてたまらないのに、必死に虚勢だけは張って見せた。
その虚勢はいつだって、のび太の心を抉るのだ。

(『逃げろ』……)
のび太はその言葉を頭の中で反芻する。
(『逃げろ』……『逃げろ』……『逃げろ』……)
何度も何度も繰り返す。
(そうだ。キートンさんも、そう言った)

『のび太君は……今のうちに、逃げろ……』

「キートンさん……」
最後に残された命までを使って必死にのび太を逃がした大人。
「銭形さん……」
自らの身を挺して死んでいった、警部さん。
(それから……)
本人から名を聞く間さえ無く殺されてしまった車椅子の女の子。
それにギガゾンビに殺されてしまった、しずかちゃん!
「…………そうだ。ギガゾンビの言いなりになんて、なってやるもんか」
ふと気づけば周囲は明るく照らされていた。
大通りの交差点。
ビルの明かりは消えていたけれど、幾つもの街頭の明かりが広い十字路を照らし出していた。
闇は拭われ――幾つもの影が交錯していた。

       *

「それでその杖、本当に頼りになるのぉ?」
「少なくともあなたを見つけたのはこの杖のおかげよ」
『Yes my temporary master(はい、仮マスター)』
「あら、そうなの」
堕天使の様な人形と魔法少女が夜の街角に潜んでいた。
つまり水銀燈と遠坂r……カレイドルビーである。
「レイジングハート、残る距離は?」
『前方20ヤード。明かりの下に出ます』
言葉通り、2人の少年が街頭の明かりの下に姿を現した。

その少年達はボロボロだった。
傷はさほどでもない。せいぜい擦り傷程度だ。
だけども心身共に疲れ果て、今にも野垂れ死んでしまいそう。
デイパックも手放していて、互いに握る掌だけが確かだった。
背の低い方に手を引かれている眼鏡の少年は銃を持っていたけれど。
『眼鏡の少年の銃は弾切れのようです』
「……そう。完全に無防備って事」
「散々な有様ねぇ。警戒する意味なんて無かったじゃない」
彼女達は凛のエリアサーチに引っかかった一般人並魔力の参加者に対し、
念のために様子を見ようと街角に隠れていたのだ。
凛の本音は出来るだけ魔法少女姿を人に見せたくなかったからというのもあるのだが。
「警戒するに越した事は無いわ。今後も出来るだけ隠密行動で行くわよ。
 エリアサーチなんて何発使っても屁でもないもの」
「あら、下品ねぇ」
「…………わ、悪かったわね」
強い魔力を持たない相手は見つけづらく、昼間では視認の方がマシな位だが、
それでも夜間、それも障害物の多い町中では十分に役に立つ。
そして強い魔力を持つ存在なら、同じエリア内に居ればほぼ網羅できる程に範囲が広い。

「それで、あの2人は放っておくのね?」
「ええ。流石に見ず知らずの他人を保護するほどお人好しじゃないわ」
水銀燈を助けたのだって情報収集の為と、戦力になるからだ。
少なくとも自他に対する建前としてはそうだ。
一般人を巻き込まないのは魔術師のルールだが、それ以外の死因までお節介は焼けない。
(士郎の馬鹿じゃないんだし)
馬鹿みたいに正義の味方になろうとする男を思いだす。
あいつはきっといつも通り無茶無謀に突っ走っている。
早く見つけないといけない相手の一人だ。
「とにかく次よ、次! ――Anfang!
 魔力を探して、レイジングハート」
『Area Search』
レイジングハートを使い再びエリアサーチを発動する。
『新しい魔力反応を確認。彼らの後方150ヤードです』
「そう、それじゃそっちを……」
確認に行こう、そう言おうとした時。
『魔力の集中を確認』
「……なんですって?」
凛の表情が強張る。
通りの奥の闇にで微かに、冷たい鏃が星明かりを反射した。

       *

(見つけた。……『標的』だ)
左手の中でクラールヴィントの振り子石が薄闇の奥を指す。
所々にある街灯の明かりが、彼らをぼんやりと浮かび上がらせる。
魔力の網に掛かった不幸な2人の少年を。
子供達は見て判るほどに疲弊し、消耗し、力を失っていた。
哀れなほどに弱かった。
例え如何なる武器を持とうとも、今の彼らに力は無かった。
それでも容赦は出来ない。その弱ささえも人を傷つける事が有るのだから。
誰かを失うことを容認できない強すぎる想いが、他の全てを無価値とする事も有るのだから。
「あの父親のように。……そして今の私のように、か」
苦笑し、自嘲する。
(しかし2人、それも少し距離が有るな……どうする?)
相手は無力だ。飛行して突撃し、一気に仕留めるのでも確実だろう。
距離を詰めるまでの間に逃げられたら?
狭いとはいえ感知の網から逃れられる事は無いだろう。
しかし手間取れば自らの姿を他の誰かに見られる危険があった。
(安全を期すか……)
シグナムはまずは弓矢を手に取った。
あの2人は良い友であると見える。
ならば片方の足を止めれば、もう一方も逃げる足を失うはずだ。
騎士として許されぬ外道の戦術。
「…………私は最早、ただの修羅だ」
それでも手は止まらなかった。
確実に射抜けるように、2人が街灯の多い交差点に出るのを待ってから。
魔力を篭めて撃ち放たれた矢は、朝日の上る前の闇を切り裂いて飛んだ。
横に落ちる涙のように。

       *

いきなり酷い衝撃が有って。
目の前が真っ赤になって。
激痛が走った。
「う、うわあああああああああああぁっ!!」
「のび太!?」
何が起きたのかまるで判らなかった。
痛い、というより熱かった。
目の前に地面があって転んだのだと思った。
だけど痛いのは足で、そこを見下ろすと……左足を、矢が貫いていた。
「わ、わあああ!! うわ、あ、あ、あし、あし、が、わあああああぁ!?」
「ヒィッ、の、のび太! しっかりしろ、のび太ぁっ!!」
少年達はどうしようもなく怯えていた。
頼れる大人達はもうどこにも居なくて、2人だけで夜を歩いていた。
誰かに襲われるかも知れないと怯えながら。
現実と化してしまったその恐怖に、もう抗う事なんてできなかった。
のび太は痛みにのたうち回り、スネ夫は無様に泣きついていた。
スネ夫が風を切る音にハッと頭を上げたその時。
スネ夫は確かに闇の奥から自分に向けて飛んでくる二本目の矢と。

夜の闇を切り裂いて現れた魔法少女の背中を見た。

『Wide area Protection』

透明な壁が彼らの周囲を覆っていた。
「あらぁ、助けないんじゃなかったのぉ?」
「き、気が変わったのよ!」
ガキンと音を立てて、矢が弾かれ地に落ちる。
薄い膜のような壁は、ヒビこそ入りつつも辛うじてそれを防いでいた。
「気が変わった? どうしてぇ?」
「それよりレイジングハート! この障壁、脆いわよ!?」
『違います、仮マスター』
咄嗟に話を逸らして杖にぶつけた疑問を、杖は静かに否定する。
『魔法攻撃です。矢に魔力が篭められています』
「な……!」
そういえば直前にもレイジングハートがそんな事を言った気がする。
その言葉で否応なしにも連想する男が居た。
弓矢での狙撃、容赦の無い戦術、そして魔術師。
(アーチャー? まさか!?)
一瞬の動揺を、杖は再び否定する。
『魔力パターン近似。ヴォルケンリッターのシグナムと推測されます』
次に動揺が浮かんだのはスネ夫だった。

       *

「レイジングハートだと!?」
シグナムも思わず動揺の声を上げていた。
横合いから飛び出した魔法使いの手に有る物は見間違えようもない。
高町なのはのインテリジェント・デバイス、レイジングハート。
専らシグナムと戦ったのはフェイトとそのデバイスであるバルディッシュだが、
レイジングハートにもシグナムのデータは記録されているはずだ。
更に先ほどの狙撃においてシグナムは、弾道の安定と加速の為に矢に魔力を篭めた。
彼女の必殺技である魔法と同じ要領で、だ。
その結果としてはもちろん……狙撃者の正体に気づかれた可能性がある。
「クッ……失敗したな」
自らを知る者の中にデバイスを入れ忘れていたのは大きなミスだ。
普段は持ち主とセットで行動していたから、今回も纏めて考えてしまった。
だがデバイスはバラバラに支給されている。
こうなる事も考えておくべきだった。
(こうなれば、多少姿を見られるのもやむなしか……)
騎士服姿の女がゲームに乗った事を知られるよりも、
ヴォルケンリッターのシグナムがゲームの乗った事を知られる方が危険だ。
それは主はやてへの疑惑と危険に繋がる。
危険因子は確実に始末しなければならない。
幸い今なら、近くの建物に逃げ込みはしたがすぐに探知で補足できる。
狙撃では無理だが、ならば直接刃を交えれば良いだけの事。
答えは決まった。迷うことは何も無い。
「往くぞ」
シグナムは武器を刀に持ち替え、狙撃を行ったビルの窓から飛び出した。


――修羅が夜天を飛翔する。


       *

それはあの静謐な病院で食事を取っていた時の事だった。
はやての作った早すぎる朝食を食べながら、不安を振り払うようにスネ夫はよく喋った。
銭形警部と話した事。ドラえもんの事。友達の事。
自分より年下の少女に、ボクはちっとも怯えてないって見栄を張りたかった。
だけど、友達の話をしていたらどうしてもしずかちゃんの事を思いだしてしまった。
みんなを支えられる強さを持った女の子。のび太が片思いしていた女の子。
失ってしまった、無くしてしまった、大切な一人の友人。
だから話しながらぽろぽろと泣き出してしまった。
だって、例え無事に帰れても、あの楽しい毎日は戻ってこない。
欠けてしまった、壊れてしまった一欠片が、穴となって残ってしまう。
その事に気づいた途端、無性に悲しくてたまらなくなってしまった。
ほっそりと柔らかい手が、そっとスネ夫を抱き締めた。

(ママ……?)
違う。ママの手はもっと大きくて、なのにこの手はそれ以上に力強かった。
そして、ママみたいに優しかった。
「スネ夫にいちゃん、元気だしてな」
顔を上げると、目の前に居たのははやてだった。
歳はスネ夫より幼くて、その背丈は低身長がコンプレックスのスネ夫よりも更に低い位だ。
小さくて、スネ夫の様に健康な体も持っていない。
「泣いてたら、考えが悪い方にばっかり行ってしまうで?」
なのに優しくて、強くて、真摯にスネ夫の事を心配してくれていた。
「……ムリだよ」
だけど挫けてしまいそうになる。
「だってボク達の首には爆弾付きの首輪が付いているんだよ!?
 逆らえばドカンだ! しずちゃんやあの男の人みたいに!
 言いなりになってみんな殺し合わされてるに、どうやれば生きのびれるっていうの!?」
「スネ夫君、まだ希望は有る! 例えば……ルパン達のような!」
「でも銭形のおじさん!
 この首輪はドラえもんと同じ、ううん、それ以上に未来の技術で作られてるんだ!
 そんな物をほんとうに外せるの!? このどこかもわからない所から逃げられるの!?」
「……外せるよ」
答えたのははやてだった。
「みんなの力を合わせたら、絶対外せる。
 わたし達だけやったらどうにもならへんけど、みんなの力を合わせれば、それは絶対や」
はやてはそれを信じていた。信じて、確信して、それを表情に見せていた。
「ど、どうして言い切れるのさ!?」
「そやなー……信じてもらえるかわからへんけど」
はやては苦笑すると。
「わたし、魔法使いなんよ」
そう言ってはやては色々な事を語ってくれた。
ヴォルケンリッターという名の家族の事。友達のなのはやフェイトの事。
以前は闇の書と呼ばれていた夜天の書の事。自分が魔法使いである事。
そして筆談で、首輪に盗聴の機能が有ることと、その内部構造を解析したと書いて見せた。
「といっても今は、もう少ししないと殆ど魔法使えへんのやけどな。
 ……ほんとに足手まといやな。危なくなったら置いていってくれてもかまへん。
 でもこの書が使える用になったら、わたしがスネ夫にいちゃんと銭形さんを護ってあげる。
 うちの子達と一緒に、きっとみんなを護ってあげる。
 約束や」
それはまだ先の事。
今はまだ、八神はやては無力で、歩けもせず、暴力には抗えない。
彼女を護るヴォルケンリッターも側に居らず、解析した首輪の構造を理解出来る者も居ない。
「……はやてちゃんは、どうしてそんなに恐くないの?」
「だって、前向きに考えてたら前に進めるやろ?
 わたし、立ち止まって死んでしまう方が怖いんよ」
だけどそこに有ったのはきっと、希望だったのだろう。だから。
「まもるよ」
希望を手放すまいと思った。
「それなら、ボ、ボクがはやてちゃんをまもるよ! 数時間だけでも!
 だいじょうぶ、ボクにはひらりマントが有るんだ! どんな奴だってへっちゃらさ!」
「よく言った、二人とも! だが君達二人はワシが護る。大人に任せたまえ!」
銭形警部が二人の子供を纏めてがっしりと抱き寄せて宣言した。

その言葉。その想い。その決意。その希望。
ほんの短い間だけ、スネ夫達三人の中に有った確かな絆。
スネ夫にのび太の手を引いて闇に飛び込む勇気をくれた、たいせつな想い出。

だけどスネ夫は約束を守れなくて、神父を食い止めているその間に、
八神はやては別の誰かの手で殺されてしまっていて……


(ボクのせいだ)
ヴォルケンリッターのシグナム。
スネ夫とのび太の背後から現れ矢を放った姿も知らない誰か。
(ボクのせいだ。ボクがはやてちゃんをまもれなかったから!)
だから復讐に来たのだ。大切な主の仇を討つ為に。
スネ夫の親友であるのび太を巻き添えにして。
(ボクのせいだ……!!)

「貫通して……硬い骨は避け、確実正確に筋を断ち切ってきてる。なんて精度」
「あらそう。それで私はどの位こうしていればいいのかしらぁ?」
「ンーッ! ンンーーッ!!」
ここは交差点から逃げ込んだ近くの路地から入ったとあるビルの二階、少し広い部屋。
水銀燈が羽根で縛り口を覆っているのび太を、カレイドルビー凛が手早く処置していく。
「千切れた血管や神経の接続に筋と靱帯の再生……かなりの難事だわ。
 士郎を治した時に比べれば楽だけど、あの宝石は今は無いのに……!」
凛の宝石よりも更に強大な魔力を秘めていた遺産の宝石。
かつて遠坂凛はそれを使い、奇跡的に、9割9分死体だった衛宮士郎の蘇生に成功した。
だが今はそれは無い。
『仮マスター、カートリッジシステムを使用しますか?』
「それは……」
レイジングハートの提案に一瞬思案する。
レイジングハートに内臓された、魔力を篭めた弾丸を使用した魔力補強システム。
確かにそれが上手くいけば、ブーストした魔力でこんな傷は一気に治療できる。
「……ダメよ。あなたの中に回復魔術は入ってないじゃない。
 あたしの魔術をあなたで増幅するには魔術の形式にある差異の調整を済まさないと。
 下手をすれば暴発した魔術で患部を逆に傷つけてしまうわ」
遠坂凛の魔術と、レイジングハートが教えられる魔法の構造はそれほど離れていない。
だが即座にそのまま転用出来るほどに近くも無いのだ。
(レイジングハートはあたしの魔術構造はベルカ式に似てるって言ってたわね)
ベルカ式のデバイスなら使いこなせたかもしれないが、レイジングハートはミッドチルダ式だ。
カートリッジシステムはベルカ式を参考に取り付けられた物だが、
あくまでカートリッジシステムの付いたミッドチルダ式デバイスなのである。
すぐにある程度使いこなす自信は有るが、少なくともこんな場面で使うにはリスクが大きすぎる。
「安心なさい、この位あたしに掛かれば一瞬よ!」
だからいつも通り、自分の魔術を発動する。
凛を重い疲労感が襲うが、この程度ならまだ大丈夫だ。
遠坂凛の魔術によってのび太の足の傷は見る見るうちに塞がっていった。
それを見て水銀燈は羽根を離した。
「ぷはぁ! あ、足が、ぼくの、ぼくの足が!?」
「落ち着きなさい! 治ってるはずよ」
「え、ほ、ほんと? ……痛ぅっ!?」
慌てて足を動かそうとしたのび太が痛みに顔を歪める。
「い、痛いよう!」
「しまった、ちょっと粗かったか……でも安心なさい、それも直に治るわ」
「直にぃ? いつまで待つつもりかしらぁ?」
しかし水銀燈はその言葉と痛みに焦る少年を嗤う。
「あの狙撃者、いつまで待ってくれるのかしらねぇ?」
「………………」
あの狙撃者、レイジングハートによればヴォルケンリッターのシグナム。
彼女が何故ゲームに乗った、あるいは理由有って二人の子供を狙ったのかは判らない。
そもそもどういう人物なのか?
「レイジングハート。ヴォルケンリッターっていうのはどういう連中なの?」
『夜天の主である八神はやてを主と慕う、夜天の書の守護騎士達です。
 このバトルロワイアルにおいてはヴィータとシグナムの二名が該当します。
 既にお話済ですが、彼らが使用するのがベルカ式の魔法体系です』
「……そのはやてっていう奴とヴォルケンリッターの性格は?」
『八神はやては私のマスター高町なのはの友人でもある穏和な少女です。
 殺し合いに乗る可能性は極めて低いでしょう』
「従者達の方は?」
『基本的には高潔です。ただし八神はやてに関連する事項を最優先するでしょう。
 また、彼女達の生命は八神はやてに依存しています』
冷静なレイジングハートの言葉に加え、震える言葉が更に推測を加速する。
「……ボクのせいなんだ」
スネ夫の震えた声が情報を加算する。。
「きっとボクがはやてちゃんをまもってあげられなかったから。
 約束を守れなかったから、殺しに来たんだ!」
「…………八神はやては、死んでいるの?」
「死んだよ! 殺された!
 ボクとのび太と、銭形のおじさんで怪物と戦ってる間に、だれかに殺されちゃったんだ!
 だから、だから……!!」
辿々しい叫び。だが一つ判ることが有った。
この少年は必死に出来るだけの事はした。それでも八神はやては殺されてしまった。
(このタイミングからして復讐の可能性が一番高いわね。まさか、誤解されている?)
何らかの理由で八神はやての死の原因がこの二人にあると思いこまれた。
その事に怒り狂った彼女の従者が敵討ちの為に迫ってきている。
そう考えるのが最も高い確率に思える。
目まぐるしい状況の中、彼女達は気づかない。
八神はやてに依存しているはずの騎士が生きている事。
その事が騎士達に最大最悪の誤解を生みだしている事に気づかない。
「目的が怨恨だとすると、狙撃失敗で諦めてくれそうにはないわね」
『加えてヴォルケンリッターが得意とするのは近接戦闘です』
「魔法を併用した白兵戦……まずいわね、距離を詰められたらやられる」
凛の表情に焦りが浮かぶ。
魔術師で有りながら肉体を強化しての格闘戦もそこそこ行える遠坂凛だが、
それだってその道のプロには到底敵わない。
「水銀燈、あなたは?」
「戦えなくも無いけど、あまり得意でもないわぁ」
こちらも不機嫌そうな答えが返る。
水銀燈は2時間前後前に妙なロボットの振り回したハンマーに吹き飛ばされた所だ。
庭師の鋏を振るう蒼星石や、妙に良いパンチを持っている真紅とは違う。
羽根による戦闘があらゆる距離に対応できるだけで、白兵戦は専門ではない。
近づけなければ良い話だが、近づかれると苦しいのは事実だった。
「まずい……逃げた方が良いわね。
 あたしのフライヤーフィンとあなたでこの二人を持って飛べば……」
『仮マスターの飛行魔法はまだ安定性に欠けます』
「無茶言わないで欲しいわぁ。私の羽はまだ治りきってないのよ?
 子供だからって人間一人抱えたら、のろのろと飛ぶ事しか出来なくなるじゃない」
子供1人だけなら、スピードを落とさずに高速で逃げられるかもしれない。
だが2人を持って運ぼうとすれば運ぶのがやっと。とても逃げきれる速度ではなくなる。
「だから、なんでこんな子達を助けようとするの? あなたには関係ないでしょうに」
「……幾つか聞きたい事が有るのよ」
「おバカさんねぇ。それで死んじゃったら元も子もないじゃない。
 言っておくけど、私は自分とあなたを優先するわよ?」
「あんたはそれで良いわ、水銀燈。
 とにかく、聞いた話だとベルカ式の魔術は不器用みたいだし、
 エリアサーチを繰り返して隠れながら進めば、逃げきれなくも……」
『ジャミングを確認』

息を飲む凛をレイジングハートの報告が畳みかける。
『情報戦型デバイスの力を借りているものと思われます。エリアサーチ不可能』
「……ヤバイ!」
凛が青ざめた次の瞬間、部屋の隅の天井がぶち破られる!
濛々と沸き上がる煙の中で小さくパキッと音がして、何かが砕け散った。
煙の中に浮かぶ影は刃を携えた長身の女。
その殺意は如何なる意思故かこれ以上無いほどに苛烈だった。
説得の余地は無い、そう思わせるのに十分なほどに。
「くっ」「フン……」
凛の指が、水銀燈の羽が煙に浮かぶ乱入者を指し示し、一斉に黒い弾幕が放たれる。
ガンド撃ち、そして水銀燈の黒い羽根。
だが乱入者シグナムはそれを尽く避け、かわし、切り払って凌いで駆け回る。
「なんて速さ……!? だけど!」
部屋の広さには限界が有る。どれだけ速かろうと二人がかりの弾幕は多すぎる。
シグナムはじりじりと部屋の隅へと追いつめられていく。……だが。
凛はシグナムの焦り無い表情と、その手の内にある見覚えの有る宝石を見た。
(まさか……!)
――曰く、遠坂凛の魔術はベルカ式のそれと近似した構造を持つ。
宝石が砕け散り、シグナムの刃に炎が灯る。
「――紫電一閃!」
閃光と爆発が全ての弾幕を吹き消した!

そして次の一瞬には既に目前にまで迫った騎士が、凛に刃を振り降ろして

『Flier fin』

その一瞬だけ前に辛うじて発動した飛行魔法が凛を後方に跳躍させた。
だがここは屋内。当然の事ながらその先に待つのは。壁だ。
「ぐぅっ!!」
頭を庇う間すらなく、凛は壁に向かって勢いよく激突した。
ぐったりと体から力が抜ける。
脳震盪だ。
たった十数秒の間だけ、凛は完全に無力と化した。
バリアジャケットが無ければ頭が割れていたかもしれない。
だがどちらにしろ結末は同じ、無防備と化した彼女に追撃を……

「もうやめてよ!」
スネ夫が叫んだ。
「ボクが悪かったんだ! 悪かったのはボクなんだ! だからもうやめて!
 ごめんなさい! だから、ごめんなさい、ボクが、ボクが悪くて……!」
要領を得ない叫びを上げて、スネ夫は無謀にも駆け出す。
シグナムを止めようと、凛を護ろうと、罪を償おうと駆け出した。
それだけならシグナムにとってはどうという事は無かった。
まずは一瞬で目の前に居るレイジングハートの使い手の魔法少女を始末して、
その後で子供達を無視して黒い羽根を飛ばす人形を撃破、その後で子供二人を殺せば良い。
あるいは魔法少女を始末して、人形と戦うついでに子供達を殺しても良い。
だがスネ夫の目の前に、黒い天使が舞い降りた。
シグナムに向けて腕を広げて、羽を広げて、薄い笑みを浮かべて舞い降りた。

――まるで身を挺して弱き人々を護る聖者のように。

「だ、だめだよ! やめて!」
その姿が銭形と重なって、スネ夫は必死に止めてと叫ぶ。
また悪夢が繰り返されるのか。また自分達を護って誰かが死んでいくのか。
そんな事はイヤだと思って、だけど叫ぶ事しかできない。
その一瞬でシグナムは考えた。
謎の魔法少女は動かない。ダメージが有って動けない。
そして黒い天使人形も、子供を庇って無防備な姿を晒していた。
それならその間に黒い人形の方を始末しても良いだろう。
その後でも魔法少女が起きあがるのには間に合うはずだ。
即断即決。千載一遇の勝機を逃すまいと矛先を変えてシグナムは加速する。
間合いは迫る。元来闘争を好む騎士は唯勝利の為の修羅と化して突き進む。
間合いは迫る。黒い天使は手を広げ羽を広げて待ち受ける。
間合いは迫る。小さな少年は泣いてそれを制止する事しか出来ない。
間合いは、詰まった。

シグナムは誤算していた。
この戦いを制する重要な一点。それは。

水銀燈にはスネ夫を護る気などこれっぽっちも無かったという事だ。


一気に振り下ろされた黒い翼は空気を掴み小さな体を瞬時に浮き上がらせる。
刃は虚しく水銀燈の居た場所を素通りする。
そして。

スネ夫の体という肉の塊に埋もれた。

「な……!?」
「ぇ…………?」
「ふふ、おバカさん」
驚愕のデュエットをBGMに水銀燈が背後で唄う。
そして、放たれる無数の黒い羽根が騎士甲冑を突き破りシグナムの背中を抉った。
激痛と共にシグナムは自分が敗北した事を悟った。
騎士甲冑に護られたおかげか、幸運にも自分がまだ生きている事も。
(撤退だ――!)
手の中に握り込んでいた宝石をまた一つ使用する。
解放された魔力がクラールヴィントを経て刀に収束、業火を発する。
スネ夫に刺さったままの刃が業火を、爆炎を解き放つ。
そのまま亡骸を焼き尽くしながら貫通して地面に叩きつけた刃はビルの床を破壊。
生まれた奈落がその上にある一人と一つを呑み込んだ。
轟音が響きわたり粉塵が舞い上がり瓦礫が奈落に吸い込まれるように落ちていった。
――戦いは、決した。

結局シグナムは何も知らずに戦いを終え、最悪の一人を殺した。
主である八神はやてが、この殺し合いの中で僅かな間だけ心を通わせた友を殺した。
何も知らず。何も気づかず。幸福な無知に守られたままに。
病院で誓った約束は一つも守られず。
銭形も、はやても、スネ夫も。
彼ら3人は皆、嘘吐きとなった。

       *

「ぅ……」
「お目覚めかしら、カレイドルビー」
楽しげな水銀燈の声に、凛はゆっくりと目を開く。
(頭がぐらぐらする……)
一体何がどうなったのか。そう、確か自分達は……
「そうだ、あいつは!?」
「撃退したわ」
そう言って水銀燈はくすくすと笑う。
「でも手傷を負わせただけ。急いで逃げなければまた来るわ」
「そう、それじゃ早くここを離れないと。
 撃退は出来ても、あっちは割と武器を使いこなしてるんだから次は危ないわ」
『賢明な判断です』
「そうね。幸いにも足手まといも減ったから、これで逃げきれるわねぇ」
「え……?」
ハッとなり周囲を見回すと視界に映るのは呆然としている眼鏡の少年だけだ。
それより少し背が低い少年の姿は、何処にもなかった。
ただ床に大きな穴が一つ空いていて、その周囲に少し血痕が散っているだけで。
「あの子なら殺されてしまったわよぅ?」
「……そう」
ギッと歯を食いしばる。
自分の無力が腹立たしいが、それ以外が生き残っただけでも良しとすべきだ。
そもそもあの少年と自分は何の関係も無いのだから、責任を感じる理由は無い。
……それでも悔やみの感情が無いといえば嘘になるが。
「行くわよ、レイジングハート、水銀燈。
 その子を連れて、飛んでここを離れるわ」
「どこへ行くの? それにどうして連れて行くのかしら? 聞きたい事ってぇ?」
「……その子、最初の会場であの変な男の事を知っていたわ。
 その子が落ち着くまでの時間と根掘り穴掘り聞く時間が欲しい。
 そうね、一度街を離れるわ。良いわね?」
「仕方ないわねぇ」
(いっそ気分転換に温泉に行くのも手かしら)
凛はどこかしら間の抜けた事を考えつつ。
「それじゃ行くわよ、レイジングハート」
『Yes my temporary master(はい、仮マスター)』
空が白々とし始めた早朝。
魔法少女は黒い天使人形と共に、1人の子供を掴んでひっそりと北東へと飛び去った。

       *

(さあ、これであの騎士はどう動くかしら?)
一度街を離れるのは面倒だが、種は撒いた。
あの騎士が殺したあの子供と、この子供を復讐の対象だと誤解しているなら、
もう一人のヴィータという騎士に自分達の悪評を撒いてくれるはずだ。
あるいはそれ以外の、この殺し合いの中で生まれた仲間達にだ。
(そう、カレイドルビーの敵をねぇ)
そうやって敵を増やし、それをカレイドルビーを利用して駆逐する。
今回は後れをとったが、それは彼女の非力さを意味しない。
至近距離の戦闘が苦手なだけで、後衛としては十分な火力が有ると見ている。
(ああそうか。壁も必要になるわねぇ)
もう一枚、利用できる壁が必要になるかもしれない。
後々で始末しやすい単純な性格であれば何より望ましい。
(わざと死なないように加減してあげたんだから、せいぜい騒ぎなさいよぉ? シグナム。
 ふふ、ふふふふふふ………………)
水銀燈は誤算していた。
それはシグナムが復讐の為ではなく、単純にゲームに乗って襲撃していた事だった。


【骨川スネ夫@ドラえもん 死亡】
[残り62人]

【C-6/山中/1日目-早朝】
【魔法少女カレイドルビーチーム】
【遠坂凛(カレイドルビー)@Fate/ Stay night】
[状態]:魔力中消費/カレイドルビー状態/水銀橙と『契約』
[装備]:レイジングハート・エクセリオン(バスターモード)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式、ヤクルト一本
[思考]1、のび太をつれて安全な場所に移動し、落ち着いたらギガゾンビの情報を聞き出す。
    2、高町なのはを探してレイジングハートを返す。ついでに守ってもらう。
    3、士郎と合流。ただしカレイドルビーの姿はできる限り見せない。
    4、アーチャーやセイバーがどうなっているか、誰なのかを確認する
    5、知ってるセイバーやアーチャーなら、カレイドルビーの姿は以下略。
    6、自分の身が危険なら手加減しない
[備考]:現在、カレイドルビーは一期第四話までになのはが習得した魔法を使用できます。
    ただしフライヤーフィンは違う魔術を同時使用して軟着陸&大ジャンプができる程度です。

【水銀燈@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:中程度の消耗/服の一部損傷/『契約』による自動回復
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考]1、カレイドルビーとの『契約』はできる限り継続、利用。最後の二人になったところで殺しておく。
    2、カレイドルビーの敵を作り、戦わせる。
    3、真紅達ドールを破壊し、ローザミスティカを奪う。
    4、バトルロワイアルの最後の一人になり、ギガゾンビにメグの病気を治させる。
[備考]:凛の名をカレイドルビーだと思っている。

【野比のび太@ドラえもん】
[状態]:茫然自失/左足に負傷(走れないが歩ける程度に治療)
[装備]:ワルサーP38(0/8)
[道具]:
[思考]:色々有りすぎて考えがまとまらない。

水銀燈の『契約』について
厳密に言うと契約ではなく、水銀橙の特殊能力による一方的な魔力の収奪です。
凛からの解除はできませんが、水銀橙からの解除は自由です。再『契約』もできます。
ただし、凛が水銀橙から離れていれば収奪される量は減ります。
通常の行動をする分には凛に負荷はかかりません。
水銀橙が全力で戦闘をすると魔力が少し減少しますが、凛が同時に戦闘するのに支障はありません。
ただしこれは凛の魔力量が平均的な魔術師より遥かに多いためであり、魔力がない参加者や平均レベルの魔力しかない魔術師では負荷が掛かる可能性があります。
逆に言えば、なのは勢やレイアース勢などは平気です。

【D-4/不明(逃走)/早朝】
【シグナム@魔法少女リリカルなのはA's】
[状態]:背中を負傷(致命傷には遠い)/騎士甲冑装備
[装備]:ディーヴァの刀(BLOOD+)
   クラールヴィント(極基本的な機能のみ使用可能)(魔法少女リリカルなのはA's)
   凛の宝石×5個(Fate/stay night)
   鳳凰寺風の弓(矢22本)(魔法騎士レイアース)/コルトガバメント
[道具]:支給品一式/ルルゥの斧(BLOOD+)
[思考・状況]1凛と水銀燈(名前は知らない)を捜索して殺害する。出来ればのび太も。
       2はやて、ヴィータ、フェイト、なのは以外の参加者を殺害する。
       3ゲームに乗った事を知られた者は特に重点的に殺害する。
       4危険人物優先だが、あくまで優先。
       5もしも演技でなく絶対に危険でないという確信を得た上で、
        ゲームに乗った事を知られていないという事が起きれば殺さない。
※シグナムは列車が走るとは考えていません。


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80:遠坂凛は魔法少女に憧れない 遠坂凛 113:触らぬタチコマに祟り無し Flying tank
80:遠坂凛は魔法少女に憧れない 水銀燈 113:触らぬタチコマに祟り無し Flying tank
61:神父 アレクサンド・アンデルセン 野比のび太 113:触らぬタチコマに祟り無し Flying tank
61:神父 アレクサンド・アンデルセン 骨川スネ夫
72:最悪の軌跡 シグナム 91:「すべての不義に鉄槌を」




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