Unknown to Death. Nor known to Life ◆2kGkudiwr6


「――投影、完了」

 やる事が粗方終わり、私は一息吐いた。
地面に散らばるのは3組の干将莫耶。
本来なら二十七本投影しても汗の一つも出ないが……どうもここでは魔力の通りが悪い。消費も所要時間もいつもより大きい。干将莫耶の投影に2,3秒、消費魔力も倍。
投影を行う際に必要となる設計図をあらかじめ待機させておくことで所要時間は短縮できるが、身体に負担が掛かる。
ゆえに、投影はあらかじめ行っておくべきだと判断した。
あらかじめ右手に白い短剣・陰剣莫耶を携え、黒い短剣・陽剣干将はベルトに挟む。
残り二組の干将莫耶はデイパックへ。
片腕となったのは痛いが……それでも戦いようはある。
疲労も取れてきた。偵察ならばこなせるだろう。
目指すは北西。先ほど聞こえた、大音量の源。
そう決めると同時に、荷物を片付けて私は跳躍した。
電柱や家屋の屋根を飛び移って移動する。最終的に降り立ったのは商店街の屋根。
そこにあったのはひどい破壊の痕だ。
見る限り、強力な魔術行使と強大な爆発が行われたらしい。
そしてその中で、悠々と歩いている男が一人。
気配で分かる……奴は明らかに人外の者。
何よりも、特になにかしているわけでもないのに傷だらけの体が少しずつ癒えている。
まともな人間ではない、というのは誰にでも分かるだろう。
長年戦い抜いてきた私にはその正体が簡単に分かった。
「復元呪詛……吸血鬼か」
復元呪詛とは、吸血鬼が持ち合わせる再生能力。
私は何度か吸血鬼と戦ったことがある。ゆえに、その特性も実戦の中で知っていた。
しかもそろそろ日が昇ると言うのに気に介することもなく行動している辺り、
日光を克服したかなり高いランクの吸血鬼で間違いないだろう。
そして……

「ほう……見抜いたのか」

それほどの吸血鬼なら、私に気付かないはずがない。
警戒しながら莫耶を構える。どうやら、かなり手こずることになりそうだ。
奴の得物は銃……だが、何か他に特殊能力を持っている可能性もある。
吸血鬼である以上固有結界……あるいは空想具現化か。
もっとも、私の切り札同様に制限されている可能性が高いが。
しかし奴は私とは違う反応を見せた。警戒するどころか……笑っていた。
笑って、言葉を告げた。

「ならばお前は何だ? 殺し屋か?
 人のために吸血鬼を倒す正義の味方か?」

吸血鬼が告げた言葉。それが、私の心を少しだけ削る。
苛立ちに後押しされる形で、私は言い返した。

「……ただの掃除屋だ」

それが、引き金となった。
奴が銃を向ける。こちらは隻腕、しかも得物は剣。
まともに戦っては無事で済まない。よって、商店街の設備を利用するしかないだろう。
周りを見やりながら屋根の上を疾走、状況を探る。

――BANG!

銃声が響く。足元で建築材が爆ぜる。
とっさに回避していなければ足に穴が開いていたに違いない……
だが、喜んでいる暇は無い。

――BANG!

「どうした!? 逃げ回るだけかヒューマン!」
素早く屋根から飛び降りた。いや、そうせざるを得なかった。
予想以上に狙いが正確だ。最初こそ接近を試みようと走っていたが、回避するために距離を取らざるを得ない。
そうしなければ、やられる。
「……ならば!」
奴が銃を向ける。近くにあった電信柱に隠れ、盾にした。
銃弾が直撃した電信柱に亀裂が入る……やはり、ただの銃にしては威力が高すぎる。
だが、好都合。
「せいっ!」
右腕を素早く振るった。亀裂が入っていた電信柱は私の斬撃でも容易く両断された。
そのまま狙い通り、奴へ向かって倒れ込む。
……もっとも、奴に驚きは無い。当然だ。
吸血鬼の身体能力ならこの程度の攻撃、回避は容易。
故に、握っていた莫耶を「左から」切り返しの要領で投擲する。
電信柱が右から倒れ込み、左からは莫耶。時間差と速度差を利用した挟み撃ち。
どちらに回避しようとダメージは免れない。

――そう、回避するだけならば。

奴は莫耶の方を回避した。莫耶はそのままあらぬ方向へと飛んで行く。
電信柱はどうしたか?簡単だ。
左腕で倒れ込んできた電信柱を軽々と受け止めたのだ。
奴がニヤリと笑う。相対する私は無表情のまま。だが……

にやりと笑いたいのは、こちらも同じ。

奴の背後。そこでは、投擲した莫耶がブーメランのように戻ってきていた。
私の腰のベルトにある干将に引き寄せられたのだ。
これが干将莫耶が夫婦剣足る由縁。互いに引かれ合う固い絆。
しかし。
奴は振り向くことさえせずに腕だけを後ろに向け、軽々と莫耶を撃ち落とした。
「……ちっ」
思わず舌打ちする。
予知能力の類ではないだろう……ただ身体能力が圧倒的に優れている、それだけだ。
ただそれだけで、後ろから飛来する凶器に気付き、反応してみせた。
「なかなか考えているじゃあないか、ヒューマン」
「…………」

そのまま、銃を向けることもなく奴は笑っていた。楽しくて仕方が無いと言うように。
先ほどまで起こっていた騒音。そしてこの態度。
ならば、答えは一つだけ。

「どうやら貴様は殺し合いに乗ったようだな、吸血鬼」
「だからどうした?
 今更そんなことを確認してどうする?」

奴の視線が告げている。早く違う武器を取り出せと。俺を殺してみせろと。
だが……私は後ろに跳んで距離を取った。
戦う気をなくした、と言わんばかりに。
奴の表情が、変わる。

「……何のつもりだ」
「貴様はゲームに乗っている。ならば、私と貴様がここで戦う必要はあるまい」

簡単な理屈だ。
私の目的は参加者の全滅。ならばこの吸血鬼と戦う必要性はない。
参加者を殺してくれる吸血鬼は放っておき、私は違う参加者を殺す。
無駄に消耗することも無い、実に合理的で利口なやり方だ。
そもそも、私がここに来たのは偵察のためなのだから。

……だが、奴は納得しなかったらしい。

「戦わずに逃げる、ということか?」
「私の目的は勝利であり、戦いではない」
そう断言する。
私にとって最悪のパターンは「中途半端に一部の参加者が脱出を目指した結果、全員が首を吹き飛ばされること」。
それすればもう誰もギガゾンビを止められず、より多くの数の人間が犠牲になる。
それだけは、絶対に出来ない。
そうならないためにこの吸血鬼の存在は有益だ。参加者を殺していってくれるのだから。
弱ったところで私がとどめを刺せばよい。奴も私に対して同じことが言えるはずだ。
もし生存を望むのならばこの手段がもっとも良い。

……しかし、奴は違った。

「お前はつまらないな、ヒューマン」

吸血鬼はそう告げた。
そこに愉悦はない。あるのは怒りと……呆れだった。
「なによりもまず、その目だ。
 その目は現実に負けた目だ。諦め、屈した敗者の目だ。つまらん」
「…………」
反論はない。する必要も無い。事実だ。
ここに在るのは夢を追い求め、それが間違いだと知って絶望するだけの残骸だ。
正義の味方を目指し……そんな物はないと気付いた愚者。
銃口が向く。素早く干将を盾にした。衝撃で剣が折れると同時に、奴は罵倒する。
「抗おうと思わないのか、ヒューマン!? 貴様は犬の餌にも成り得ない屑か!」
奴は本気で激怒していた……だから、少しだけ応えた。
奴の激情に、『俺』が持っていた行動理念を少しだけ告げるという形で。
「……抗ったさ。誰も彼も守ろうと、現実に抗ってひたすら理想を追い続けた。
 そうして理想を追い続けたオレが最後に見たのは、人を殺し続ける無限地獄に過ぎなかったがな!」
「なら大人しく死ね! 諦めているだけなら貴様はただの死人だ!」
奴の意志を体現するかのごとく銃が火を噴く。頬を銃弾が掠めた。
攻撃から逃れると同時に、オレは言い返した。
「あいにく、とうに死んだ身だ……理想を抱いて溺死した!
 死してなお終わることのない地獄を見せられる気持ちが、
 不老不死を体現する貴様らに分かるのか、吸血鬼!?」
「……何?」
奴がオレの言葉に興味を持ったようだが、これ以上応える義理は無い。
後は相手の狙いを外すべく、立ち並ぶ建築物の合間を無言で走る。

――オレは親父の理想を継いで、走り続けた。そして見たのは。

追ってきた相手を視認した瞬間、デイパックから莫耶を取り出し投擲した。
奴が飛んできた剣へ銃口を向ける。その狙いは恐ろしく正確だ。
だが、それは予測済み。このままでは撃ち落とされるのはこちらも分かっている。

ブロークン・ファンタズム
「壊れた幻想」

――最後に見たのは……壊れた、愚かな自分のユメ。
――最後に残ったのは、人類の存続のために人を殺し続ける一人の英霊。

だから撃ち落される前に投げた莫耶を爆発させた。
螺旋剣による爆発に比べれば小規模……だが、それでも熱は十分だ。
そう、あらかじめ仕掛けておいた物に引火させるには。
電信柱が倒れたことで電線が千切れ、ショートしている。狙いはこれだ。

「――――」

奴が叫んだようだが、オレにはよく聞こえなかったし聞く気もない。
『壊れた幻想』による爆発に電線が発火、更に大規模な火災を発生させた。
もはやその勢いは爆発に近い。声が聞こえなくて自然だろう。
それでも、奴は死ぬまい。いや、恐らくこれでも傷を負ってさえいない。
そもそもまともに当たってはいないのだから。
あくまで、さきほどの攻撃は電気を使った爆発を誘発させるのを優先していた。
ダメージを与えるには爆発地点が遠すぎる。
当然といえば当然の結果だ。逃げることだけが目的なのだから。
屋根へ飛び上がりながら置き土産として更に干将を取り出して投擲、爆発。
煙が視界を覆い、嗅覚を鈍らせる。更なる爆発音は耳鳴りを起こすだろう。
そのまま住宅の屋根を跳び移って奴から離れ、橋の欄干へと跳び上がる。
しばらくしても奴が追ってくる様子は無い。見失ったか……興味を無くしたか。
「……後者だろうな」
思わず、そう吐き捨てていた。そう判断した理由は簡単だ。

背後では炎の中であの吸血鬼が五体満足のまま、完全に失望した目つきで睨みつけていた。

さきほどの爆発で負った傷はほとんどないのだろう。
だが、見失っていた数秒の間に距離が離れてしまい、もはや追いつけない。
銃で追撃しようにも跳んで移動するオレには当たりづらいし……
何よりも、奴はオレの姿勢を見て戦う価値さえないと判断したのだろう。
お互い無傷。武器を浪費し、周囲の物を破壊しただけ。
そしてせっかくのチャンスにオレは追撃ではなく撤退を選んだ。
奴にとってそれは恐らく失望するしかないこと。

――だが、オレが付き合う義理はない。

奴の視線に全く動じることなく橋を渡り切り、休めそうな住宅を目指す。
とりあえず、今必要なのは休息だ。新たな剣も投影しておく必要があるだろう。
一番近いところにあった住宅の中に誰もいないのを確認し、入り込んだ。
どうやらベッドや椅子といった物は置いてあるらしい。休むのには支障ない。
とりあえず、ベッドに座り込んで……
(もし衛宮士郎なら、きっと奴の望んだような戦いを見せていたのだろうが)
ふと、そんなことを思った。
奴なら命を懸けてあの吸血鬼を止めようとしただろう。人々を助ける正義の味方として、例え死んでも。
多くの人間を、脱出させるために。

だが、それは無意味。
全てを助けようとして、二も三も取りこぼしていく結果を生むだけ。
中途半端にギガゾンビを警戒させ、奴を取り逃し新たな犠牲者を生むだけ。
ゆえに、オレは違う道を取る。

この殺し合いの参加者という一を切り捨て。
この殺し合いに参加せずに済んだ十を助ける。

過程はどうあれ……結果を見ればこの方が正しい。だから、この道を選ぶ。
『俺』が目指した正義の味方はそんなものでしかなかった。
……無様なものだ。最終的に得た答えがこれか。それでも、
「……せめて、切り捨てることになる一が二や三にならないように」
ギガゾンビによってこの殺し合いが再び開かれないように……
こうやって戦うことしかオレにはできない。
脱出なんて夢物語は望めない。みんな助かるなんて望めない。有り得ないことだから、望めない。
それが正義の味方になると誓って知った現実。
愚かな理想を追い求めたオレが知った、ユメは夢に過ぎないという現実。
それこそが真理だからこそ――正義の味方を目指した少年は剣(てつ)の心で殺戮者になるしかなかったのだから。

そう、過去の自分を少しだけ慨嘆したオレは……空にギガゾンビの顔が映し出されているのを見た。



【F-2 線路脇・1日目 早朝】
【アーチャー@Fate/stay night】
[状態]:疲労、左腕喪失、魔力微消費
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、干将×1、莫耶×1
[思考・状況]
1:休息。
2:参加者を「効率良く」殲滅する(ゲームに乗った者は放置。乗らない者を最優先)
3:ギガゾンビの抹殺

【F-3 商店街・1日目 早朝】
【アーカード@HELLSING】
[状態]:体中に軽度の火傷(自然治癒可能)
[装備]:対化物戦闘用13mn拳銃ジャッカル(残弾15)
[道具]:なし
[思考・状況]
1、赤い外套の男に失望
2、人々の集まりそうなところへ行き闘争を振りまく
3、殺し合いに乗る

※電信柱が倒れたことで、F-3一帯が停電を起こしています。
また、現在F-3の一部で火事が起きています。


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46:弓兵と使い魔、そして皇 アーチャー 119:幸運と不幸の定義 near death happiness
68:朧月夜 アーカード 130:Ultimate thing





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