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「きゃっほう」/「禁則事項です」/「いってらっしゃい」◆LXe12sNRSs


 涼宮ハルヒはいつだって突拍子もないことを言う。
 急に映画を作ろうだとか、急に野球大会に参加しようだとか、急に合宿に行こうだとか。
 その被害を受けてきたのは、専ら涼宮ハルヒが団長を務めるSOS団の面々であったのだが。
 このバトルロワイアル内では、かの有名な大怪盗、アルセーヌ・ルパンの三代目が被害者となっていた。

「図書館に行きましょう!」

 市街地に足を踏み入れ、他の参加者と接触するため探索を始めた頃。
 ずんずんと先を進んでいた涼宮ハルヒは、後ろをついて来るルパンとアルルゥにそう提案した。

「図書館ねぇ。悪いチョイスじゃあないと思うが、しかしまたなんで? お嬢ちゃんの仲間を捜すんなら、人の集まりやすそうな駅周辺とかの方がいいんじゃないか?」

 意図の分からない提案に答えを求めるべく、ルパンが団長閣下に質問する。
 地図に明確な居場所が明記されている以上、それなりに大きな施設であると推測できる図書館。
 しかし図書館に向かうには、川を跨いでそこそこ歩かなければいけない必要があり、あまり効率的な判断とは言えない。
 それだったら、図書館よりもよっぽど近い駅やホテルに向かった方が確実のようにも思える。

「有希はね、本が好きなのよ」
「は?」

 ハルヒが何の脈絡もなしに出した名前に、ルパンは疑問符を浮かべた。

「あの子、普段SOS団の部室でも、暇さえあれば本を読んでるのよ。文庫だったりハードカバーだったり、小説だったり難しい外国版だったりもするのよ」
「はぁ……つまり、その有希って子はSOS団の仲間で、本の虫ってわけか。で、だからってなんで図書館を目指すんだい?」
「鈍いわねぇ~。あれだけ本好きの有希が、これだけハッキリと『図書館』って明記されている場所に向かわないはずないでしょ!?」

 自信満々に語るハルヒを前に、ルパンは思わず脱力した。

「あたしずっと考えてたのよね。SOS団のみんななら、いったい何処に向かうだろうって。
 で、地図を見たらピンときたってわけ。キョンやみくるちゃんはともかく、有希なら絶対に図書館に行くはずよ!
 さすがはあたし。団員の行動心理を的確に判断し、居場所を特定する……う~ん! 今から有希との合流が楽しみになってきたわ!」

 キラキラと目を輝かせるハルヒの前に、ルパンは最早、返す言葉もなかった。
 そもそも長門有希なる人物は、このような非常事態でも本を読みに行くような肝の据わった人間だというのだろうか。
 いや、それは単なる危機感のない馬鹿か、もしくはかなりの天然か……。
 想像できない人物像を頭の中で有耶無耶にしたまま、ルパンはやがて考えることをやめた。

(ま……仲間の性格から行き先を特定するって手段は面白いと思うがね……。俺の知り合いならどこへ向かうかな?
 銭形のとっつぁんなら警察署、不二子なら宝石店、次元ならガンショップで、五ェ門なら鍛冶屋かなんかか?
 どれもこれもありそうにねぇ施設だなぁ……)

 ハルヒに習って、仲間の向かいそうな場所を考えてみる。
 が、出てきた結果はどれもありえないものばかり……いくら不二子でも、この非常時に宝石を手に入れて喜んだりはしないだろう。
 次元や五ェ門が武器を求めて各所に向かうという可能性はありそうだが、このゲーム内で銃や刀を現地調達できるとは思いがたい。
 銭形に至っては、特に目的地も考えず、ただひたすらにルパンを捜している可能性すらあり得る。

 考えるだけ無駄か。そう判断したルパンは、思考を中断して、先を行くハルヒとアルルゥに目をやった。

 そこで、ルパンは明らかな視覚の変動に頭を振るわせた。

 目をごしごしと擦り、もう一度目をやる。

 間違いない。いやしかしなんで。

 あまりにも唐突すぎること故、判断が追いつかない。

 しかしこのままではただ混乱を広げるだけなので、現在ルパンの視覚が捉えている内容を率直に表現しよう。


 アルルゥが、メイド服を着ていた。


「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~いい!
 すごいわアルちゃん! 素晴らしすぎる着こなし……も、もう萌え萌えだわっ!
 世の中にこんな生体兵器並みの萌え生物がいたなんて……ああ、もう! みくるちゃんのポジションが危うくなっちゃうじゃない!」

 元着ていたアイヌの民族衣装っぽいのはどこに消えたのか。
 アルルゥはやや派手なフリフリメイド服に身を包み、つぶらな瞳を浮かべてはハルヒにムギュっとされていた。

「な、なぁ嬢ちゃん……いったいこのメイド服は、どこから調達したんだい?」
「え? ああ、これよこれ」

 困惑するルパンに、興奮気味のハルヒはずいっと、一台のカメラを差し出した。
 奇抜なデザインの珍妙なカメラ……もしかしなくても、ハルヒの支給品だろう。刀以外にもあったのか。
 どれどれっ、とルパンはカメラ片手に説明書を眺めてみる。そこには、こう書かれていた。

『着せ替えカメラ
 気に入ったデザインの服を着せたい人にすぐ着せられるカメラ。
 デザイン画をカメラに入れ、ファインダーを覗きながら位置を合わせ、シャッターを切る。
 すると、分子分解装置が服を作っている分子をバラバラにし、定着装置(分子再合成装置)がそれを組み立て、別の服にする。
 絵や写真を入れないでシャッターを押すと、衣服を分解するだけで再構成しないので、裸になってしまう』

 摩訶不思議、の五文字では済ませられない超科学の産物が、そこにあった。

(なるほどなぁ……原理はちぃーっとも分からないが、これを使えば自分がデザインしたとおりの衣装に着せ替えさせられるわけか。
 団長様はこれを使って、尻尾の嬢ちゃんをメイド服に着替えさせたと、そういうわけね。
 しかしこれ、何も入れないでシャッターを切ると裸になっちまうのか……ウッシシシシシおっと)

 ルパンはやや引きつった(不気味な)微笑をしながら、ハルヒに着せ替えカメラを返却した。
 その際――着せ替えカメラを取り出した際に取りこぼしたのだろう――ハルヒの足元に、一挺の銃が転がっていることに気づいた。

「お嬢ちゃん、これは?」
「ああ、それ? もう一個の支給品よ」

 さらっと流すハルヒ。というか、今の今までこんなものを隠し持っていたのか。

「おいおい、どうでもいいって風に言うが、護身用だったら刀よりもこっちの銃の方がいいんじゃないか?」
「いやよ。だってあたし銃なんて撃ったことないし、万が一狙いが反れでもしたら、アルちゃんも危険になっちゃうじゃない。
 それに…………運悪く急所に当たって、相手を殺しちゃうのも嫌だしね」

 ああ、なんだ。やや小さくなったハルヒの声を聞いて、ルパンはある種の安堵を取り戻した。
 涼宮ハルヒ。これまでの動向は、未だ現実に慣れていないようにも思えたが……心の中では、これが殺し合いのゲームであるとちゃんと自覚しているらしい。

「なんなら、それはあんたにあげるわよ。あんたも一応SOS団の団員なわけだし、ここらへんで団長であるあたしのご好意に甘えても、罰は当たらないはずよ」
「そりゃどーも」

 ルパンは丁重にお辞儀をし、寛大な団長様に感謝の意を表す。
 ルパンの戦闘スタイルは二挺拳銃というガラではないが、マテバの残弾が心許なかった現状、嬉しい報酬ではある。

「そんなことよりも! あたしは今すぐ、この萌え萌えアルちゃんを写真に収めなければ気がすまないわ!
 どこかに写真屋はないかしら? この際コンビニや売店でもいいわ。インスタントカメラくらいは売ってるでしょ」

 アルルゥの可愛さに暴走気味のハルヒは、一人先走って市街地の奥深くへと進んでいった。
 追わなければなるまい。SOS団の特別団員として、彼女の気まぐれにとことんまで付き合うことこそが、ルパンの最優先すべき仕事なのだ。
 万が一彼女を不機嫌にして、閉鎖空間でも発生しようものなら――この場に古泉一樹がいたら、そんな心配をしたことだろう。
 幸いにも、このゲーム内で閉鎖空間が発生する可能性は……『おそらく』ゼロなのだが。


 程なくして。一行は人気のない公園へと移動する。
 小さな町の写真店から二台、インスタントカメラをガメてきたハルヒが、アルルゥを被写体にパシャパシャとシャッターを切っていた。

「アルちゃん、そこでクルッとターン!」
「きゃっほう♪」

 グラビアアイドルを撮影するカメラマンのような機敏さで、アルルゥを激写しまくるハルヒ。
 本当は高画質のデジタルカメラが欲しかったところだが、あまり贅沢は言っていられない。
 アルルゥもアルルゥで、楽しそうな表情をしている。いきなりこんな殺し合いに連れて来られたというのに、タフな女の子たちだ。
 東から昇った太陽が照明となり、フラッシュ要らずでシャッター音が飛び交う。
 涼宮ハルヒの撮影が終わるのは、いつになることやら。ルパンは欠伸をしながら、犬耳メイド撮影会を眺めていた。

「ねぇ、ルパン」
「ん?」

 ハルヒに初めて名前で呼ばれ、ルパンは一瞬面食らったような顔をしてしまう。

「この写真、インスタントだから専門の人がいてくれないと現像できないのよね。
 あたしはSOS団の更なる躍進のためにも、アルちゃんの写真を絶対ホームページにアップしなければならない。
 だから……さっさと元の世界に帰るわよ」

「……ああ、そのためのSOS団団長様、だろ?」

 ルパンは思った。
 涼宮ハルヒは確かにハチャメチャだが、根は仲間思いの優しい娘だ。
 天下の大泥棒、ルパン三世が惚れ込み、守るだけの価値は十分にある。

「ああ、それにしても! ぜひともこの子とみくるちゃんのダブルメイドで、ツーショットを撮ってみたいものだわっ!
 きっと萌え萌えすぎて失神者続出、ホームページのヒット数も鰻上り間違いなしよ!
 ああもう、こんな時にみくるちゃんは、いったいどこで何をしてるのよぉ~!!」


 ◇ ◇ ◇


 団長が新戦力のポテンシャルに悶えていることなど露知らず。
 SOS団の現役マスコットである朝比奈みくるは、メイド衣装のまま駅前の喫茶店に入っていた。
 もちろん、先刻知り合ったバトーも一緒であるが、会話はあまりない。
 なぜならば。朝比奈みくるは今、ある作業に没頭中であり、とても声をかけられる雰囲気ではないからである。

「う~んと……ほうじ茶にアールグレイ……それとキリマンジャロ……すごい、お茶や紅茶に、それにコーヒー豆も充実してる」

 カウンターの奥に並べられた、多種多様な茶葉とコーヒー豆たち。
 それを目の前に、吟味するような熱い視線を送り続けるメイドさん。
 客席に座るバトーの視界には、シュールな光景が浮かんでいた。

「なあ、お楽しみのところ悪いんだが、そろそろ出発しないか? 言いにくいが、あと僅か数分で六時……放送が流れちまう。
 こんなところで、悠長に茶を眺めている時間はないと思うんだが」
「へあ!? も、もうちょっと、もうちょっとだけ待ってください……」

 このやり取りも、かれこれ三回目である。
 いったい何が楽しいのか――そういえば、どこかで『女の買い物は長い』と聞いたような気もする――分からないが、みくるはこの喫茶店からいっこうに離れようとしない。
 茶葉やコーヒー豆が欲しいのならば、全部纏めて持って行ってしまえばいいものを。どうせ、四次元デイパックの収容数は無制限なのだから。
 バトーはやれやれとつぶやきながら、ちょこまかと動き回るメイドを見ていた。

 そもそも、2人はなぜこんなところにいるのか。
 当初は、深夜の内に付近で一番高い建造物であるホテルへと向かうはずだったのだ。
 その道中、駅周辺の小さな百貨店で望遠鏡を探し回り――残念ながら調達することはできなかったが――どうしたものかと歩いていた最中、みくるの懇願でここに立ち寄ってみたのだ。

「……実を言うとですね」
「うん?」

 カウンター越し、茶葉の包みを胸に抱えたままのみくるが、背を向けた状態でバトーに話しかける。

「駅前の喫茶店って、SOS団の集合場所だったんですよ」
「S……OS団? なんだ?」

 聞きなれない単語に、バトーは説明を求める。

「あ、SOS団っていうのは涼宮さんが発足した部活動のことで、あたしやキョンくんや長門さん、それに古泉くんも参加してるんですよ。
 いつもは北口駅なんですけど、ここの喫茶店も似たような場所にあったから、つい、ここで待ってれば誰かが来てくれるんじゃないかと思って……」

 懐かしそうに語るみくるの表情はどこか儚げで、バトーは今までに感じていたドジッ娘メイドの印象を少しばかり改変した。

(つまり駅前の喫茶店は、仲間内でお決まりの合流地点だったってわけか)

 それならそうと、早く言えばいいものを。
 ホテルから他の参加者を捜すという手段も良策ではあるが、みくるの仲間がここを訪れる可能性があるというのであれば、わざわざ無碍にする必要もないだろう。
 それに、駅ならば人の集まる確率も高い。仲間と合流を図るにも、他の参加者と接触するにも、ここは都合のいい場所なのかもしれない。

「そういうことなら、もう少しここで待ってみるか。擦れ違って合流がおじゃんになっちまったら、救いようがないからな」
「ほ、本当にいいんですか?」
「ああ。俺も、もう少しのんびりさせてもらおうか」
「あ、ありがとうございますっ!」

 みくるはペコリと一礼し、さらに店内の奥側――厨房の方へ走っていった。

「で、今度はいったい何をするつもりなんだ?」
「あ、みなさんがいつお腹を空かせて来てもいいように、何か軽食でも作っておこうかと思ったんですけど……ここの冷蔵庫、何もないんですね。ちょっと残念……」

 なんとまぁ、楽天的な。
 バトーは思いつつも、決して悪い印象は抱かず。また、やれやれ、といった感じで、顔を緩ませた。
 ふと、店内を見渡してみる。その片隅にポツンと置かれた機械が気になって、少し調べてみた。
 どうやらかなり旧式の音楽再生機――レコードのようだ。
 この店は防音処理が施してあるようだし、外に音が漏れる心配もないか……と、バトーは気まぐれにレコードを再生してみる。
 質素な喫茶店のイメージうまく調和した、モダンテイストの荘厳な旋律が流れ出す。
 その大人な雰囲気を醸し出す店内の奥で、可愛らしい女子高生メイドがせっせと紅茶を作っているというのも、おかしな話だった。

「なぁ」
「はい?」

 バトーの呼びかけでみくるは手を休め、両者が視線を合わせる。

「みくるは、本当にただの……いや、『未来人』だったか……ともかく、ただの女子高生なのか? 
 こんなこと言っちゃあなんだが、本当に本職がメイドってわけじゃあ……」
「ええ、そ、それはぁ……」

 バトーの質問に一瞬だけ困惑した顔を見せたみくるは、やがて笑顔でこう返した。

「禁則事項です」

 ……ん、そうかい。と、バトーはまた口を噤んだ。


 ◇ ◇ ◇


「チッ」

 同僚のバトーが喫茶店でメイドを眺めていることなど露知らず。
 公安9課に属する新米課員、トグサはホテルのロビーでもう何回目になるか分からない舌打ちをしていた。

「トグサさ~ん、例のもの、見つかりましたか?」
「ああ、セラスか。今ちょうど、このホテルの設備の悪さにイラついていたところさ」

 あからさまに不機嫌な顔を作るトグサの前に、同じくホテルの別フロアを調べていたセラス・ヴィクトリアが現れる。
 彼らがこのホテルに到着したのは、朝日が昇る前。しかしこの大きな内部を二人だけで探索するというのも骨が折れるもので、気づけば既に放送直前の時刻にまで迫っていた。
 ハァ~っ、と大きな溜め息を吐きながら、トグサはロビーに置かれた豪華なソファに腰を下ろす。
 尻部に感じる感触はフカフカで、実に座り心地が良かった。これほど上質なソファを備えているというのに、何故『あれ』はないのか。

「見つからなかったんですか? 情報端末」
「ああ。回線らしきものが取り付けられていることは確認できたんだが……肝心の情報端末本体がない。
 旧式でもいいからコンピュータの一つや二つくらいあるかと思ったんだが、甘かったな。
 通信機の方は電話が置いてあったが、繋がるのはマップ内の他の施設だけ。しかも全部留守電ときたもんだ」

 ホテルのロビー、フロント、事務室、色々回ってみたが、情報を入手できるようなものは何一つとして置かれていなかった。
 仮にもここはホテル。建物内に情報端末が一つもないというのは不自然な結果だったが、逆にその結果から推測できることもある。

「そういえばセラス、厨房の方はどうだった?」
「ええとですね……思ったとおり、冷蔵庫の中はもぬけの空でした。でも、調理道具や食器類はちゃんと残ってましたよ。
 武器、って言うにはちょっと不安ですけど、一応包丁やナイフなんかの刃物も入手できました」

 トグサと別行動を取っていたセラスが調べたのは、ホテル内のレストラン――そこの厨房の設備だった。
 支給品に食料類が入っていることからも想像できるが、やはり重要アイテムを施設から現地調達するのは無理だったようだ。
 もしかしたら……と思ったのだが、結果は案の定。だがこれで、トグサの考える『答え』は明確のものとなった。

「包丁やナイフ、武器とは呼べないようなどうでもいいものは置いてあり……食料や情報端末などは施設内から撤去されている……セラス、これがどういうことか分かるか?」
「え? ど、どういうことですか?」

 トグサの言う意味をを飲み込めないセラスは、キョトンとした顔つきで首を傾げる。
 そんなセラスに、トグサは微笑を作りながら言った。

「支給品だよ」

 その言葉で、セラスはますます混乱してしまう。
 どうやら、さらなる説明が必要なようだ。

「いいかセラス。食料も情報端末も、どちらともホテルに置いてあっておかしくないものだ。
 だが、ない。これはどういうことか。主催者になったつもりで考えてみれば分かるだろ?」

 セラスは数秒思案し、やがて閃いたかのように目を見開き、発言した。

「えっと……『参加者に持っていかれたら困る』、だから初めから置かない……そういうことですかね?」
「正解だ。食料が簡単に手に入るようにしてしまったら、
『数少ない食料を参加者同士で奪い合う』という、主催者側が好みそうなイベントをおしゃかにしちまう可能性があるからな。
 同じ理由で、情報端末を置いてしまったら『簡単に情報が漏れる』。
 ここに情報端末が置いていないということはつまり、『ネットワーク上に見つけられては困る情報がある』ってことなのさ」
「なるほど。それが、脱出や首輪解体のヒントってわけですね……ん?」

 トグサの考察を感心しながら聞いていたセラスだったが、ある一つの、絶対に無視できない疑問点に気づく。

「って、ネットワーク上にヒントが転がってるって分かっても、肝心の情報端末がないんじゃ意味ないじゃないですか!」

 既にこのホテル内は、虱潰しに捜した。
 地図を見てもマップ上で一番大きな施設はこのホテルのようだし、他の施設を廻っても、情報端末がある可能性は著しく低いだろう。
 退路が断たれた――セラスが胸に絶望感を抱かせ始めたその時、トグサがまた光明を開いた。

「だからさっきも言ったろう? 鍵は支給品さ」
「ふぇ?」

 間抜けな声を出すセラスに、トグサはさらなる説明を続ける。

「まずは、これを見て欲しい。これは俺に支給された道具の一つなんだが……」

 トグサがデイパックから取り出したのは、何の変哲もないただの手袋。
 興味深げなセラスの視線の下、トグサがその手袋をはめてみると、指先から多種多様な工具が飛び出した。
 それはドリルだったりカッターだったり溶接機具だったりセンサーだったり……小型工具が密集しすぎて、何に使えるのかがよく分からない。
 そもそも、この小さな手袋のどこにこれほどの工具が収容されていたのか。

「これは『技術手袋』といってだな、簡単な工作から難しい修理、改造までなんでもこなせる万能ツールなんだそうだ。
 機械的な技術のない者でも容易に使いこなせるらしく、ラジコンの戦車を実戦用に改造することも可能らしい」
「ら、ラジコンておもちゃですよね!? そんな、おもちゃを実戦用にって……本当にそんなこと可能なんですか?」
「俺も信じがたかったんだが、どうやら性能は間違いないらしい。
 さっき試しに、そこのフロントに置いてあるレジを一台ブッ壊してみたんだが……数分も掛からず修理できたよ」

 目を白黒させて、セラスはフロントに置かれたレジを確認する。
 どこにも異常は見られない、万全の状態だった。かといってトグサのブッ壊したという言葉が嘘とも思えない。
 だとすると、導き出される結論は一つ。
 トグサの持つ、ラジコンを実戦用に改造することさえ可能な手袋の性能は、疑うことなく本物であるということだ。

 未来のオーバーテクノロジーの産物を前に、信じられないといった表情を見せるセラスは、そこであることに気づいた。
 ラジコンを実戦用にすら改造できる代物。だというのなら。

「ひょっとしてそれ……この首輪も、解体できるんじゃ……」

 恐る恐る聞いてみる。トグサから返ってくる答えは――

「気づいたか。これだけの性能を秘めた道具だ――俺は、『可能』だと思ってる」

 ――ビンゴ。
 どうやらトグサの引き当てた『技術手袋』は、全ランダムアイテムの中でも特上級の当たりだったらしい。

「じゃ、じゃあ今すぐにでも解体を――」
「いや、それは無理だ」

 興奮気味に駆け寄るセラスを制して、トグサは冷静に説明を続行する。

「確かに、この技術手袋を使えば首輪の解体は簡単だ。だが、それじゃあまりに『簡単すぎる』んだよ。
 俺が主催者だったら、まずそんな便利アイテムは支給しないし、支給したとしても、なんらかの罠を仕掛ける」
「罠、ですか?」
「そう、罠だ。たとえば、首輪を解体しようとした瞬間に――『ボン』、とかな」

 ゾクゾクゾクッ、とセラスの身が震える。
 今まで築き上げてきた希望の山が、一片に崩された気持ちだ。

「そ、それじゃあやっぱり解体なんて無理じゃないですかぁ~」
「そうでもないさ。ようは、首輪より先にその罠を解除できればいいわけだ。
 そして俺の予測では、おそらくその答えは……ネットワーク上に転がっている」

 なるほど。そのための情報端末排除か。
 ということは、情報端末を手に入れその上で技術手袋を駆使すれば、首輪は外れる――と、そこまで考えて喜ぼうとしたセラスは、高揚寸前だった心を急激に落ち着かせた。
 さすがに、希望を見つけてまた失望するというパターンにはもう飽き飽きだ。

「だーかーらー! その情報端末が手に入らないんじゃ、首輪解除のための情報も掴めないじゃないですか!
 意味ないですよ! トグサさん、ひょっとして私のことからかってるんじゃないですか!?」
「ちょ、そんな怒るなよセラス。俺はただ順を追って説明しようとしただけで……お、おいやめろよ? 殴るのだけは勘弁だぞ? おい!?」


 セラスの気持ちを落ち着かせるのに、数分かかった。


「い、いいかセラス? とりあえず、これまでの俺の考えを整理するぞ?
 まず、『首輪は技術手袋で簡単に解除できる』。これは信じきっていいだろう。
 だが、『首輪には解除しようとすると起爆する罠が仕掛けれている可能性がある』。これは余計な心配かもしれないが、十分考えられることだ。
 そして、『その罠を解く方法、脱出の方法云々は、ネットワーク上に隠されている可能性が高い』。ホテル内の情報端末が撤去されていることから見ても、これは間違いないと思う」
 で、これで最後になるが……『鍵となる情報端末は、他の参加者の支給品に紛れているかもしれない』」

「……その根拠は?」
「俺に技術手袋が支給されたという事実さ。もし主催者側が、本当に俺たちに首輪を解除させたくないのなら、こんなアイテムは支給しない。
 殺し合いに相応しい武器だけを支給していればいい話だ」

 トグサの考察が、いよいよ大詰めに入る。
 セラスは、聞く耳に注意力を高めた。

「つまりは、技術手袋も情報端末も、主催者側がゲームを面白くするために入れた施し……キーアイテムなんだよ。
 奴は俺たちがキーアイテムの存在に気づき、必死で脱出への道を模索している様を、笑いながら見るのが趣味なんだろうさ」

 悪態を吐きながら、虚空を眺めるトグサを見て、セラスはまた気づく。
 トグサの考察は立派なものだったが……これは、ひょっとしたらヤバいのではないだろうか。

「あの、トグサさん……もし、もしですよ? 主催者が……ギガゾンビがこの会話を盗聴してたり監視してたりしたら……ヤバイんじゃ」
「盗聴に監視ね……まさかこんな殺し合いを開いて中身を見ないってはずはないし、十中八九、それもあるだろうな」
「え、えええええええ!? じゃ、じゃあどうするんですか!? 
 こんなに主催者側の考えてることズバズバ言い当てちゃって、危険と思われて外から首輪を遠隔爆破でもされたら……」
「いや、おそらくギガゾンビは起爆スイッチは用意していない。相手の手動で爆破、ってのはたぶんしないはずだ……たぶんな」

 これまでの発言と違い、今回の考察については自信がないのか、トグサの声はやや小さかった。

「わざとキーアイテムをばら撒くようなヤツだ。反抗して脱出しようとする者がいるなら、むしろ大歓迎と思っている可能性が高い。
 それを遠隔から爆破するなんて、味気のないマネはしないだろう……ギガゾンビの性格はよく知らないが、俺はそう推測するね」
「それって……性格から感じ取ったイメージってだけで、根拠は何もないじゃないですか……」
「や、根拠ならあるぞ一応。それは、『俺がまだ死んでないってことだ』。
 あれだけマズイことをベラベラ喋ったんだ。危機感を感じたってんなら、さっさと俺の首輪を爆破するだろうさ。
 ま、単純に俺の考えてることが大ハズレなだけで、何言ってんだコイツって呆れられてるだけかもしれないがな」

 結局のところ、トグサの推論はどれも推測の域を出ない。
 だが少なくとも情報端末が見つかりさえすれば……トグサの考察が正解だったのかどうだったのか、全てに決着がつく。
 それまでは、いつ首が飛ぶのだろうというビクビクした思いと戦いながら、歩んでいこう。


「さて、これで長ったらしい説明は終わりだ。俺はこれから外に出て、他の参加者が何か情報端末を支給されていないか調査してくる。セラスは……」
「あ、私は日の光がちょっと……」
「苦手だったんだな。仕方がない。セラスはここで待機、俺はちょっくら外に出てくる。別行動になるが、時間は無駄にできないしな」

 膳は急げ、とトグサはホテルの出入り口に向かっていく。
 その身に武装はない。あるのは武器とはいえないような護身用の刃物が数点のみだ。
 さすがに心配になったセラスは、別れ際トグサに声をかける。

「あ、あの! さすがに丸腰じゃ危ないだろうし、なんだったら私の武器を持っていって……」
「心配はいらないさ。俺はあくまでも、調査に向かうだけだ。護身用の武器もガラクタで十分だし、それはセラスが持ってろ。
 あと、俺が戻ってくるまで絶対に離れるなよ。最低でも、正午には戻ってくるから。
 もし万が一、ここが禁止エリアになったりしようものなら……すぐ近くのエリアにある駅を合流ポイントにしよう」

 手際よく話を進めるトグサに、セラスは何も言えなくなってしまった。
 この別れが今生の別れ、というわけではないが、彼と離れるのはなんだか妙に心細い。
 その心を知ってか知らずか、トグサは既にホテル入り口の自動ドアを潜り抜けるところまで来ていた。

「あっ、あの」

 後姿を見せるトグサに、セラスが懸命な思いで声を掛ける。
 また再開するために必要な、大事な儀式を行うために。

「いってらっしゃい」

「ああ、いってくるよ」

 ナチュラルに。
 トグサとセラスは会話を終え、それぞれの仕事に取り掛かった。
 調査と待機。二人がこのホテルで再会するのは、いったいいつになるのだろうか。


 ◇ ◇ ◇


 こうして、ホテルにて合流するはずだった七人の参加者は、奇妙な運命に翻弄され別々の道を歩む。
 この先、彼らが一同に会する機会があるのかどうかは……まだ、誰にも分からない。


【D-4/公園/1日目/早朝(放送直前)】
【ルパン三世@ルパン三世】
[状態]:健康、SOS団特別団員認定
[装備]:マテバ2008M@攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(弾数5/6)、ソード・カトラス@BLACK LAGOON (残弾15/15)、
[道具]:支給品一式、エロ凡パンチ・'75年4月号@ゼロの使い魔
[思考]:1、とりあえずハルヒに従いつつ行動。
    2、ハルヒとアルルゥを守り通す。
    3、他の面子との合流。
    4、協力者の確保(美人なら無条件?)。
    5、首輪の解除及び首輪の解除に役立つ道具と参加者の捜索。
    6、主催者打倒。

【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康、アルルゥの萌え度に興奮気味
[装備]:小夜の刀(前期型)@BLOOD+
[道具]:支給品一式、着せ替えカメラ(残り19回)@ドラえもん、インスタントカメラ×2(内一台は使いかけ)
[思考]:1、図書館に向かい、長門有希と合流。
    2、着せ替えカメラを駆使し、アルルゥの萌え萌え写真を撮りまくる。
    3、SOS団のメンバーや知り合いと一緒にゲームからの脱出。

【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:健康、SOS団特別団員認定
[装備]:ハクオロの鉄扇@うたわれるもの、ハルヒデザインのメイド服
[道具]:無し
[思考]:1:ハルヒ達に同行しつつハクオロ等の捜索。
    2:ハクオロに鉄扇を渡す。



【E-6/駅前の喫茶店/1日目/早朝(放送直前)】
【バトー@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]:健康
[装備]:AK-47(30/30) カラシニコフ
[道具]:デイバッグ/支給品一式/AK-47用マガジン(30発×9)/チョコビ/煙草一箱(毒)
[思考]:1、しばらく喫茶店で待機。
    2、望遠鏡またはそれに類するものを入手し、ホテルの屋上に向かう。
    3、9課の連中、みくるの友人、青いタヌキを探す。

【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康/メイド服を着ている
[装備]:石ころ帽子(※[制限]音は気づかれる。怪しまれて注視されると効力を失う)
[道具]:紙袋、茶葉とコーヒー豆各種(全て紙袋に入れている)
[思考]:1、しばらく喫茶店で待機し、SOS団の面々と合流する。
    2、バトーに同行する。
    3、SOS団メンバー、鶴屋さんを探して合流する。 
    4、青ダヌキさんを探し、未来のことについて話し合いたい。



【D-5/ホテル内/1日目/早朝(放送直前)】
【セラス・ヴィクトリア@HELLSING】
[状態]: 健康
[装備]: エスクード(風)@魔法騎士レイアース、中華包丁、ナイフ×10本、フォーク×10本
[道具]: 支給品一式 (バヨネットを包むのにメモ半分消費)、バヨネット@ヘルシング
[思考・状況]1:トグサが戻るまでホテルで待機。
      2:アーカード、ウォルターと合流。
      3:ドラえもんと接触し、ギガゾンビの情報を得る。
※ドラえもんを『青いジャック・オー・フロスト』と認識しています。


【D-5/ホテル周辺/1日目/早朝(放送直前)】
【トグサ@攻殻機動隊S.A.C】
[状態]: 健康
[装備]: 暗視ゴーグル(望遠機能付き)、刺身包丁、ナイフ×10本、フォーク×10本
[道具]: 支給品一式、警察手帳(元々持参していた物)、技術手袋(残り19回)@ドラえもん
[思考・状況]1:情報端末の入手(他の参加者の支給品に紛れている可能性が高いと考えている)。
      2:正午の放送までにはホテルに戻る。セラスと合流できない場合は駅へ。
      3:機会があれば九課メンバーと合流。
[備考]※他メンバーの行動の妨げにならないよう、他メンバーについての情報は漏らさないつもりです。
   ※セラスのことを、強化義体だと思っています。
   ※トグサの考察は以下の通りです。
   ・『首輪は技術手袋で簡単に解体できるが、そのままでは起爆する恐れがある』
   ・『安全に解体するための方法は、脱出手段も含めネットワーク上に隠されている』
   ・『ネットワークに繋ぐための情報端末は、他の参加者の支給品に紛れている』
   ・『監視や盗聴はされていると思うが、その手段については情報不足のため保留』
   ・『ギガゾンビが手動で首輪を爆破させるつもりはないと考えているが、これはかなり自身ない』


※【着せ替えカメラ】と【技術手袋】についての補足

【着せ替えカメラ】
  • 基本的に『服』にのみ有効。武器、支給品(もぐらてぶくろ、北高の制服、バニーガールスーツ等)、
 その他特殊な兵装(のび太の眼鏡、セイバー、シグナム等の甲冑、フェイト等のバリアジャケット、スクライド勢のアルター、タチコマのボディ等) には効果なし。
  • カメラにデザイン画を入れないでシャッターを切ると、相手の服は『一時的に』消失する。
(服の分子を分解した状態で留まるので、裸の状態でも再びデザイン画を入れて着せ替えさせることは可能)
  • 服自体の素材は変わらない。
 例えば、綿で出来た服を分解して鎧みたいなデザインのものに着せ替えても、素材はやっぱり綿なので強度は変わらない。
  • 着せ替えさせるにはピントを合わせる必要があるため、動いている相手に使う場合は必然的に難しくなる。
 また、デザイン画が入った状態でシャッターを切り、着せ替えに失敗した場合は回数にカウントされない。

【技術手袋】
  • 機械にのみ有効。修理については、攻殻勢やドラえもんにも有効。ドールには無効。
 死亡が確定している場合は、修理不能と見なされ技術手袋が反応しない(その場合回数は減らない)。
 また、参加者の修理は度合いにもよるが、通常に比べてかなりの時間がかかる。
  • 銃器など構造が簡単なものの修理は容易だが、秘密道具などの構造が複雑なものの修理には時間が掛かる(30分~1時間くらい)
  • 改造は可能だが、かなりの時間が必要(1時間~3時間程度。より複雑なものに改造する場合はさらに膨大化)


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54:従わされるもの ルパン三世 125:D-3ブリッヂの死闘
54:従わされるもの 涼宮ハルヒ 125:D-3ブリッヂの死闘
54:従わされるもの アルルゥ 125:D-3ブリッヂの死闘
43:不思議の国のバトー バトー 106:Ground Zero
43:不思議の国のバトー 朝比奈みくる 106:Ground Zero
55:ムーンマーガレット トグサ 121:仕事
55:ムーンマーガレット セラス・ヴィクトリア 106:Ground Zero




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