幸運と不幸の定義 near death happiness ◆QEUQfdPtTM
――放送が響く。
まるで神にでもなったかのように傲慢な声で、楽しげに死人の名を読み上げていく。
死んだ人間の名を告げるなどという放送は、大抵の人間に絶望しか与えない。
そして、それはアーチャーもまた例外ではない――
ただし、彼が絶望を受ける理由は一般的な理由ではなかったが。
彼が絶望したのは、衛宮士郎が死んでなお自分が存在しているという事実。
死んだ人間の名を告げるなどという放送は、大抵の人間に絶望しか与えない。
そして、それはアーチャーもまた例外ではない――
ただし、彼が絶望を受ける理由は一般的な理由ではなかったが。
彼が絶望したのは、衛宮士郎が死んでなお自分が存在しているという事実。
「やり直しなんてできない、か。
過去の自分の言葉、身を以って知る羽目になるとはな」
過去の自分の言葉、身を以って知る羽目になるとはな」
薄々、アーチャーも分かってはいたことだ。
英霊は時代を越えて様々な世界へ召喚される存在である以上、
例え過去がどう改竄されようとタイムパラドックスは起こりえない、
独立した存在になっているのだろう――
そうアーチャーは推測して、ため息を吐いた。
英霊は時代を越えて様々な世界へ召喚される存在である以上、
例え過去がどう改竄されようとタイムパラドックスは起こりえない、
独立した存在になっているのだろう――
そうアーチャーは推測して、ため息を吐いた。
大した話ではない。簡単に言えば一行で十分。
ただ、自分は永遠に消えずに人殺しを続けるだけだと、アーチャーは思い知っただけ。
ただ、自分は永遠に消えずに人殺しを続けるだけだと、アーチャーは思い知っただけ。
「どうせ、女でも庇って死んだのだろう」
失望を隠すかのように下らない悪態を吐いて、アーチャーはデイパックに手を入れた。
しばらくして取り出された右手に握られているのは名簿。
いくらなんでも、衛宮士郎とアーチャーだけが同じ場に呼ばれるのは偶然に過ぎる。
だが、聖杯戦争に関わった者が優先して召喚されたとすれば……?
アーチャーの推測は当たっていた。名簿には衛宮士郎……遠坂凛。そして。
しばらくして取り出された右手に握られているのは名簿。
いくらなんでも、衛宮士郎とアーチャーだけが同じ場に呼ばれるのは偶然に過ぎる。
だが、聖杯戦争に関わった者が優先して召喚されたとすれば……?
アーチャーの推測は当たっていた。名簿には衛宮士郎……遠坂凛。そして。
「――アルトリア」
過去に出会った、剣の英霊――セイバーの名が記されていた。
アーチャーの顔が緩む。その表情はまるで少年のよう。
そのまま、穏やかな声で彼は呟いた。
アーチャーの顔が緩む。その表情はまるで少年のよう。
そのまま、穏やかな声で彼は呟いた。
「君はまだ、あの願いを求めているのか……?」
アーチャーが思うのは、過去に出会った少女。かつて共に戦い抜いた、騎士王のこと。
分かってはいる。ここにいる彼女は自分の知り合った彼女ではない。
それでも、アーチャーは自分の思い出を彼女に重ねずにはいられない。
そんな自分に気づいて、アーチャーは自嘲の笑みを浮かべていた。
分かってはいる。ここにいる彼女は自分の知り合った彼女ではない。
それでも、アーチャーは自分の思い出を彼女に重ねずにはいられない。
そんな自分に気づいて、アーチャーは自嘲の笑みを浮かべていた。
「やり直しなんてできない、なんて今のオレには言えないか……」
自分の感傷を鼻で笑って……ふとアーチャーは気付いた。
名簿に書かれている名前はアルトリアでもなければ、アーサーでもなく。
名簿に書かれている名前はアルトリアでもなければ、アーサーでもなく。
「『セイバー』や『アーチャー』で書かれている?」
守護者として召喚されたなら、名簿に書かれる名前は真名のはず。
それがわざわざ聖杯戦争のクラスで書かれているということは。
そして、衛宮士郎や遠坂凛が二人揃って呼ばれたことを説明できる理論は。
それがわざわざ聖杯戦争のクラスで書かれているということは。
そして、衛宮士郎や遠坂凛が二人揃って呼ばれたことを説明できる理論は。
「守護者としてではなく……サーヴァントとして召喚されたのか?」
ギガゾンビという男は、聖杯戦争の関係者を呼んだ。
そして、アーチャーはその中の一人として召喚された。
これしか、ありえない。
そして、アーチャーはその中の一人として召喚された。
これしか、ありえない。
~~~ ~~~ ~~~ ~~~
放送は、どのエリアにも平等に降り注ぐ。
どのエリアでも放送された内容は同じ。ただ、受け取り手が違うだけ。
それでも、受け取り手によってはその内容は希望にも成りうるが……
ルイズが受け取ったのは、至極真っ当な絶望だった。
どのエリアでも放送された内容は同じ。ただ、受け取り手が違うだけ。
それでも、受け取り手によってはその内容は希望にも成りうるが……
ルイズが受け取ったのは、至極真っ当な絶望だった。
――平賀才人
放送でその名が呼ばれるということが、ルイズに与える物は一つ。
愛する人が、死んだという絶望。
愛する人が、死んだという絶望。
「う……そ」
そう呟いたルイズの瞳には涙さえない。とっくに涙は涸れ果てている。
そもそもこの二時間、泣いていた後はただ呆然としているだけだった。
疲労もある程度取れたし魔力も回復してきてはいるものの、
精神的にはむしろ朝倉に脅された時より悪化していると言っていい。
この場にいる中で唯一起きていた素子も、放送までの間に慰めるようなことはしていない。
一言も喋らずに周囲への警戒に専念していただけ。
こういった状態の相手に下手に何か言えば悪化すると分かっているし、
何よりも士郎の死について自責の念があったからだ。
だから何よりも、これ以上死者を出さないことだけ専念していた。
そもそもこの二時間、泣いていた後はただ呆然としているだけだった。
疲労もある程度取れたし魔力も回復してきてはいるものの、
精神的にはむしろ朝倉に脅された時より悪化していると言っていい。
この場にいる中で唯一起きていた素子も、放送までの間に慰めるようなことはしていない。
一言も喋らずに周囲への警戒に専念していただけ。
こういった状態の相手に下手に何か言えば悪化すると分かっているし、
何よりも士郎の死について自責の念があったからだ。
だから何よりも、これ以上死者を出さないことだけ専念していた。
ドラえもんは気絶していた。
太一は眠っていた。
だから反応したのは素子だけ。できたのは彼女だけ。
それが幸運だったか、不幸だったのか。それは正真正銘、神のみぞ知ることだろう。
太一は眠っていた。
だから反応したのは素子だけ。できたのは彼女だけ。
それが幸運だったか、不幸だったのか。それは正真正銘、神のみぞ知ることだろう。
声に素早く反応して振り向いた素子は見た。まるで幽鬼のような表情のルイズを。
そして、数々の修羅場を潜り抜けた素子だからこそ気付いた。
そして、数々の修羅場を潜り抜けた素子だからこそ気付いた。
あの表情は、自棄を起こしている人間の目だと。
素早く現状を確認する。そして一瞬で理解した。
ルイズの右腕が士郎の剣を掴もうとしていることに。
同時に、素子は走り出す。理由は単純。
この表情でやる事は、間違いなくまともなことではない。
ルイズの右腕が士郎の剣を掴もうとしていることに。
同時に、素子は走り出す。理由は単純。
この表情でやる事は、間違いなくまともなことではない。
「くそっ!」
「離してっ!」
「離してっ!」
剣が掴み上げられる寸前、素子は紙一重のタイミングで剣を踏みつけていた。
激昂した――いや、むしろ錯乱したという方が正しい――ルイズが素子に殴りかかるが、
素子とルイズの身体能力の差は歴然としている。
ルイズはあっさりと拳を掴まれて足を払われ、マウントポジションを取られていた。
それでもルイズが暴れるのをやめる様子は無い。
激昂した――いや、むしろ錯乱したという方が正しい――ルイズが素子に殴りかかるが、
素子とルイズの身体能力の差は歴然としている。
ルイズはあっさりと拳を掴まれて足を払われ、マウントポジションを取られていた。
それでもルイズが暴れるのをやめる様子は無い。
「何をするつもりで……」
「士郎とサイトの仇を討ってから私も死ぬ!」
「考え直せ! そんなことを衛宮が……」
「うるさい!」
「士郎とサイトの仇を討ってから私も死ぬ!」
「考え直せ! そんなことを衛宮が……」
「うるさい!」
一応説得を試みたものの、言い切る間もなくルイズの平手が飛んできた……
片腕であっさり防御できる程度の威力しかなかったが。
素子としてもこんな安っぽいドラマのようなセリフで説得できるとは思っていなかったが、
かといって他に何か説得できそうな言葉も思いつかない。
片腕であっさり防御できる程度の威力しかなかったが。
素子としてもこんな安っぽいドラマのようなセリフで説得できるとは思っていなかったが、
かといって他に何か説得できそうな言葉も思いつかない。
「どきなさいよこのメスゴリラ!」
「メッ……」
「メッ……」
だが、腕を掴まれてもルイズが諦める様子は無い。
ここまで来ると素子もお手上げだ。なんせ話さえ聞かず、見境なしに暴れるのだから。
下手に殺すわけにもいかず、拘束して引き渡す相手もいないのだからどうしようもない。
不満があるなら自分を変えろ、それが嫌ならなどと言って銃を突きつければ
本当に自殺するだろうから更にどうしようもない。キ○ガイに刃物とはよくいった物だ。
だが、このまま暴れさせるわけにもいかないのは確か。
よって、素子は強引で単純な手段を採用した。
ここまで来ると素子もお手上げだ。なんせ話さえ聞かず、見境なしに暴れるのだから。
下手に殺すわけにもいかず、拘束して引き渡す相手もいないのだからどうしようもない。
不満があるなら自分を変えろ、それが嫌ならなどと言って銃を突きつければ
本当に自殺するだろうから更にどうしようもない。キ○ガイに刃物とはよくいった物だ。
だが、このまま暴れさせるわけにもいかないのは確か。
よって、素子は強引で単純な手段を採用した。
~~~ ~~~ ~~~ ~~~
日が昇る。
アーチャーはそんな事関係ないと言わんばかりに目を閉じていた。
眠るためではない。考えるためだ。
アーチャーはそんな事関係ないと言わんばかりに目を閉じていた。
眠るためではない。考えるためだ。
彼の考えている事はただ単純、今の自分は守護者なのか、サーヴァントなのか。それに尽きる。
そもそも、守護者とは生前、人間が力を得るために世界と契約をした者のことを指す。
圧倒的な力を得る代償としてその死後を世界に売り渡し、
死後は世界によってその存続のために使役され続ける存在。
使役の目的は掃除屋。人類が人間によって滅びる可能性がある時その場に呼び出され、
そこにいる者を救うのではなく全て殺すことでその他の人間を救う。
そのためか、守護者として活動する際は意識の無い機械のように殺戮を行わせられる。
守護者が自分から出来るのは、呼び出されていない時に自分の行った殺戮を確認する事のみ。
アーチャーが「正義の味方」という理想に絶望したのも、
それを追い求めて最終的にたどり着いた結果がただ殺戮をし続ける自分だったからだった。
だが、今の彼にはれっきとした自我がある。
召喚の際に何かしらエラーでもあったのかとアーチャーは判断していたが、
聖杯の力で『アーチャー』として召喚されているなら……
守護者でなく遠坂凛のサーヴァントとして召喚されているなら辻褄は合う。
ただ、懸念もある。そもそもこの場にサーヴァントとして呼ばれたこと自体が、
人類の存続のために抑止力が働いた結果だとすれば?
それに、彼の今までの経験からも分かってはいる。全てを救うことはできない。
ギガゾンビを倒すのにもっとも確実な手段は、やはり参加者を全滅させること。
確実に多くの人を救いたいなら、正しい手段は一つだけ。
圧倒的な力を得る代償としてその死後を世界に売り渡し、
死後は世界によってその存続のために使役され続ける存在。
使役の目的は掃除屋。人類が人間によって滅びる可能性がある時その場に呼び出され、
そこにいる者を救うのではなく全て殺すことでその他の人間を救う。
そのためか、守護者として活動する際は意識の無い機械のように殺戮を行わせられる。
守護者が自分から出来るのは、呼び出されていない時に自分の行った殺戮を確認する事のみ。
アーチャーが「正義の味方」という理想に絶望したのも、
それを追い求めて最終的にたどり着いた結果がただ殺戮をし続ける自分だったからだった。
だが、今の彼にはれっきとした自我がある。
召喚の際に何かしらエラーでもあったのかとアーチャーは判断していたが、
聖杯の力で『アーチャー』として召喚されているなら……
守護者でなく遠坂凛のサーヴァントとして召喚されているなら辻褄は合う。
ただ、懸念もある。そもそもこの場にサーヴァントとして呼ばれたこと自体が、
人類の存続のために抑止力が働いた結果だとすれば?
それに、彼の今までの経験からも分かってはいる。全てを救うことはできない。
ギガゾンビを倒すのにもっとも確実な手段は、やはり参加者を全滅させること。
確実に多くの人を救いたいなら、正しい手段は一つだけ。
「……それしか、ないのか?」
アーチャーは思わず呟いていた。
守護者として召喚されてなくとも、自分には殺戮を行う道しかないのか、と。
そう自問するアーチャーに、答える者はいない。
守護者として召喚されてなくとも、自分には殺戮を行う道しかないのか、と。
そう自問するアーチャーに、答える者はいない。
――その生前と、同じように。
~~~ ~~~ ~~~ ~~~
太一が目覚めたのは、素子がルイズを大人しくさせたすぐ後のことだった。
むしろ、ルイズが大騒ぎしたせいで叩き起こされたというべきかもしれないが。
ルイズまで気絶しているのを見てまさか自分のせいかと思った彼だが、すぐに素子が否定した。
むしろ、ルイズが大騒ぎしたせいで叩き起こされたというべきかもしれないが。
ルイズまで気絶しているのを見てまさか自分のせいかと思った彼だが、すぐに素子が否定した。
「パニックになったので私が眠らせただけだ」
実際は気絶させたと言う方が正しいが、言う必要はないだろう。
……ちなみにあくまで安全のためで、メスゴリラ呼ばわりされてキレたからではない。
もっとも、太一の表情は晴れなかった。
……ちなみにあくまで安全のためで、メスゴリラ呼ばわりされてキレたからではない。
もっとも、太一の表情は晴れなかった。
「パニックって、もしかして俺のせいで……」
「衛宮の仇を討つと言っていたから、一因とはなっているな」
「衛宮の仇を討つと言っていたから、一因とはなっているな」
太一の呟いた言葉に対し、素子は慰めることもしなければ責めることもしない。肯定しただけ。
素子の返答に、太一は表情を曇らせる。
同時に、苦虫を噛む様な素子の表情を見て尚更に思い知っていた。
これは、ゲームなんかではないことに。
今更ながら、自分のやったことに対する自責の念が太一に湧いてくる。
だが、素子が言葉をかけていた。短く、簡潔に。
素子の返答に、太一は表情を曇らせる。
同時に、苦虫を噛む様な素子の表情を見て尚更に思い知っていた。
これは、ゲームなんかではないことに。
今更ながら、自分のやったことに対する自責の念が太一に湧いてくる。
だが、素子が言葉をかけていた。短く、簡潔に。
「それをどう背負うかはお前の自由だが……
現実から逃げることだけはするな」
現実から逃げることだけはするな」
それだけ言って素子は近くの商業ビルに視線を移した。
殺し合いには無用の長物だからか、ビルとは言っても三階ほどの高さしかなかったが。
そっけない対応といえばそうだろうが、それでもその言葉は呼び起こしていた。
太一の、「勇気」を。
殺し合いには無用の長物だからか、ビルとは言っても三階ほどの高さしかなかったが。
そっけない対応といえばそうだろうが、それでもその言葉は呼び起こしていた。
太一の、「勇気」を。
「俺……何か、できることありますか」
決然とした表情で太一は呟く。
それを見て、素子は少し息を吐いた。ため息ではない。むしろ、喜ぶべきことだ。
少なくとも見所はあるようだと、素子に思わせるほどの表情だったのだから。
それを見て、素子は少し息を吐いた。ため息ではない。むしろ、喜ぶべきことだ。
少なくとも見所はあるようだと、素子に思わせるほどの表情だったのだから。
「しばらくその女を見張っていろ。護身用に剣と金槌もお前のデイパックに入れておけ。
少し囮をやってもらう……できるな?」
少し囮をやってもらう……できるな?」
ドラえもんを持ち上げながら、素子は告げた。
~~~ ~~~ ~~~ ~~~
何かよく分からない人形を運んで、女の人がとなりのビルへ入っていく。
倒れている子供はそのまま。それを見て、ジュンは息を吐いていた。
倒れている子供はそのまま。それを見て、ジュンは息を吐いていた。
「まだ、気づかれてないか」
放送を聞いて、真紅たちが無事なことに安心したすぐ後のこと。
突然向こうで女性の声がしたのが気になり、
商業ビルに裏口から侵入して少し覗いていたのだ。
見たのは小さな女の子(もちろんルイズのことである)を殴って気絶させる大人の女性。
最初はもちろん、逃げ出そうかと思った。
だが殴られた当人が生きているらしいこと、殴った方は子供と話しているのを見て、
殺し合いに乗っていないのかもと考え始めた挙句、
ガラスで出来ていた正面入り口の影に隠れたまま、
話しかけるかどうか悩み続けているというわけである。
突然向こうで女性の声がしたのが気になり、
商業ビルに裏口から侵入して少し覗いていたのだ。
見たのは小さな女の子(もちろんルイズのことである)を殴って気絶させる大人の女性。
最初はもちろん、逃げ出そうかと思った。
だが殴られた当人が生きているらしいこと、殴った方は子供と話しているのを見て、
殺し合いに乗っていないのかもと考え始めた挙句、
ガラスで出来ていた正面入り口の影に隠れたまま、
話しかけるかどうか悩み続けているというわけである。
(今いるのは子供だけか。大丈夫、か?
少しもこっちを見ないってことは気付いていないんだろうし……)
少しもこっちを見ないってことは気付いていないんだろうし……)
そんなことを考えているジュンだったが、数秒後。
自分はのんきだったと盛大に後悔した。
とつぜん、銃声が響く。
銃弾が綺麗にジュンの脇のガラスを撃ち抜き、派手な音を立てた。
ジュンは逃げ出すことさえままならなかった。なぜなら。
自分はのんきだったと盛大に後悔した。
とつぜん、銃声が響く。
銃弾が綺麗にジュンの脇のガラスを撃ち抜き、派手な音を立てた。
ジュンは逃げ出すことさえままならなかった。なぜなら。
「武器を手放して、壁に手を付けろ」
後ろで素子が銃を突きつけていたからだ。
彼にできるのは、言葉に従うことだけ。
彼にできるのは、言葉に従うことだけ。
要するにこういうことだ。
太一をその場に残すことで気付いていないと相手に思わせ、自分はドラえもんと共にその場から離れる。
これは荒事に備えて貴重な情報源を隣のビルに避難させておくため、
そして何よりジュンの視界から消え油断させるためだ。
囮である太一が狙撃される可能性もあったが、
今まで撃ってこないことなどから相手は銃を持っていないと判断していた。
後頭部に銃を突きつけたまま、素子は尋問を開始する。
太一をその場に残すことで気付いていないと相手に思わせ、自分はドラえもんと共にその場から離れる。
これは荒事に備えて貴重な情報源を隣のビルに避難させておくため、
そして何よりジュンの視界から消え油断させるためだ。
囮である太一が狙撃される可能性もあったが、
今まで撃ってこないことなどから相手は銃を持っていないと判断していた。
後頭部に銃を突きつけたまま、素子は尋問を開始する。
「大層な数の荷物だな。奪ったのか?」
「い、いえ、人を殺してなんかないしこれは正当防衛で……」
「なるほど。これほどの参加者を返り討ちにできるほど強力な支給品だった、と」
「ち、違う! 支給品はモデルガンと物干し竿です!」
「つまり、そんな物で戦えるほどの実力者か」
「ち、違いますって!」
「い、いえ、人を殺してなんかないしこれは正当防衛で……」
「なるほど。これほどの参加者を返り討ちにできるほど強力な支給品だった、と」
「ち、違う! 支給品はモデルガンと物干し竿です!」
「つまり、そんな物で戦えるほどの実力者か」
「ち、違いますって!」
ジュンの不幸は、素子が士郎の死に責任を感じていたことだろう。
責任を感じているからこそ、少しでも不安要素を見れば警戒せざるを得なかった。
もちろん、ジュンには知りようが無いことだが。
責任を感じているからこそ、少しでも不安要素を見れば警戒せざるを得なかった。
もちろん、ジュンには知りようが無いことだが。
~~~ ~~~ ~~~ ~~~
ガラスが割れる音。それはしっかりと太一も聞いていた。
しかし、彼がそれに驚くことはない。分かっていたことだ。
太一はルイズを抱え、移動を開始した。目指すのは、ドラえもんが運ばれた隣のビル。
しかし、彼がそれに驚くことはない。分かっていたことだ。
太一はルイズを抱え、移動を開始した。目指すのは、ドラえもんが運ばれた隣のビル。
「っこらしょ、と」
ルイズは小柄とは言え、小学五年生には重い。
だからといって捨てたりなんて、太一はしなかった。
しっかりと背負って歩き出す。
だからといって捨てたりなんて、太一はしなかった。
しっかりと背負って歩き出す。
素子がガラスを撃ち抜いたのは、単なる脅しではない。合図でもある。
銃声とガラスが割れる音がしたら、猫型義体を運んだビルへ逃げ込んでおけ。
それが素子の命令だった。
銃声とガラスが割れる音がしたら、猫型義体を運んだビルへ逃げ込んでおけ。
それが素子の命令だった。
――その中に、ルイズを運べという内容はない。
それでも、太一は自ら行っていた。自分だけ逃げるなんて駄目だと。
罪を償わなくてはいけないと。
ちゃんと謝らなくてはいけないと。
そう思っての、行動だった。
罪を償わなくてはいけないと。
ちゃんと謝らなくてはいけないと。
そう思っての、行動だった。
「ドラえモン、どこだ?」
なんとか入り口手前までたどり着き、自動扉が開くのを待つ。
ルイズを抱えて扉越しにパートナーの姿を探す彼は。
後ろで腕を振り上げているアーチャーの姿に、気付くことができなかった。
ルイズを抱えて扉越しにパートナーの姿を探す彼は。
後ろで腕を振り上げているアーチャーの姿に、気付くことができなかった。
~~~ ~~~ ~~~ ~~~
素子の尋問は、苛烈を決めていた。もっとも、当然の結果ではある。
一応ジュンの後頭部から銃は離れてはいるが、解放されたのではなく荷物検査のため。
現に、少し離れた先で素子が銃を突きつけながらデイパックを漁っている。
周囲には、引っ張り出された様々な荷物が散らばっていた。
物干し竿、モデルガン、弓矢、刀、黄金の鞘、そして……
一応ジュンの後頭部から銃は離れてはいるが、解放されたのではなく荷物検査のため。
現に、少し離れた先で素子が銃を突きつけながらデイパックを漁っている。
周囲には、引っ張り出された様々な荷物が散らばっていた。
物干し竿、モデルガン、弓矢、刀、黄金の鞘、そして……
「貴様、これはなんだ?」
「い、いや、その……」
「い、いや、その……」
素子が持っているのは、腕。元はハクオロが交渉用に入れておいたアーチャーの腕である。
これもまた、素子にもジュンにも分かりようがないことだ。
これもまた、素子にもジュンにも分かりようがないことだ。
「人の腕を斬りとって収集か? いい趣味だな」
「ぼ、僕は知らないって言ってるじゃないか! あの女は生首だって集めてたんだし!」
「弓も剣も持った、腕や生首を切り落として回収するような相手に襲い掛かられ、物干し竿とモデルガンだけで返り討ちにする。
そんなことを信じられると思うのか?」
「ぼ、僕は知らないって言ってるじゃないか! あの女は生首だって集めてたんだし!」
「弓も剣も持った、腕や生首を切り落として回収するような相手に襲い掛かられ、物干し竿とモデルガンだけで返り討ちにする。
そんなことを信じられると思うのか?」
素子の表情は険しい。当然、実際に勝ったことは知りようがない。
大量の荷物に腕。既に数多くの犠牲を出してしまっている彼女としては、
ここまで怪しい要素ばかりの人間を放っておくわけにはいかない。
何より、ルイズが起きて何をするか分からない以上迅速に動かなくてはならない。
無言で素子は腕を元のデイパックに戻し、銃口をジュンの足へ向ける。
とりあえず、動きを封じておくことに決めたのだ。
大量の荷物に腕。既に数多くの犠牲を出してしまっている彼女としては、
ここまで怪しい要素ばかりの人間を放っておくわけにはいかない。
何より、ルイズが起きて何をするか分からない以上迅速に動かなくてはならない。
無言で素子は腕を元のデイパックに戻し、銃口をジュンの足へ向ける。
とりあえず、動きを封じておくことに決めたのだ。
瞬間。何かがガラスの扉を突き破って飛来し、爆発した。
「何!?」
視界が煙に覆われる。義体の表面が熱で焼ける。
それでも素子はしっかりと捉えていた。
赤い外套の男――アーチャーが、短剣を抜いて素子へ向けて疾走するのを。
明らかに、人間の速さではない。
それでも素子はしっかりと捉えていた。
赤い外套の男――アーチャーが、短剣を抜いて素子へ向けて疾走するのを。
明らかに、人間の速さではない。
(義体か!?)
一瞬迷ったものの、ジュンから銃口を外して横に跳ぶ。
もしジュンに斬りつければその隙に発砲できるという考えだ。
だが、アーチャーはジュンを完全に無視して素子へ斬りつけていた。
すんでのところで回避、後退したものの狙いを付ける余裕さえ与えられていない。
優先順位を正しく判断している様子に素子も理解した。この男は、場数を踏んでいると。
他に注意を向けながら戦える相手ではない――そこまで考えて、気付いた。
ジュンは既に、こちらに背を向けて走り出していることに。
彼は最初こそ突然の事態に混乱していたものの、得意分野からの観察という手段で冷静さを取り戻していたのだ。
そして気付いた。あの服はあの腕の袖と同じものだと。
もしジュンに斬りつければその隙に発砲できるという考えだ。
だが、アーチャーはジュンを完全に無視して素子へ斬りつけていた。
すんでのところで回避、後退したものの狙いを付ける余裕さえ与えられていない。
優先順位を正しく判断している様子に素子も理解した。この男は、場数を踏んでいると。
他に注意を向けながら戦える相手ではない――そこまで考えて、気付いた。
ジュンは既に、こちらに背を向けて走り出していることに。
彼は最初こそ突然の事態に混乱していたものの、得意分野からの観察という手段で冷静さを取り戻していたのだ。
そして気付いた。あの服はあの腕の袖と同じものだと。
(よく分からないけど僕を狙ってるわけじゃないみたいだし、腕を取り返しにきたのか?
なら、逃げるなら今しかない!)
なら、逃げるなら今しかない!)
ジュンも爆発で軽い火傷を負ってはいたが、走ることくらいはできる。
取り上げられている道具は惜しいが、命の方がよっぽど大切だ。
そう判断して、すぐに走り出していた。入ってきた裏口へ向けて。
止める余裕は素子には無い。アーチャーが剣を振り上げて迫っている。
そしてアーチャーもまた、ジュンを狙う気はない。
もっともアーチャーがここに現れたのは腕のためではないし、見逃したのは冷徹な計算の元である。
ジュンに現在武器はない。そして、その動きは明らかに素人だ。
よって、アーチャーは彼を殺すのは後回しでよいと判断した。それだけだ。
取り上げられている道具は惜しいが、命の方がよっぽど大切だ。
そう判断して、すぐに走り出していた。入ってきた裏口へ向けて。
止める余裕は素子には無い。アーチャーが剣を振り上げて迫っている。
そしてアーチャーもまた、ジュンを狙う気はない。
もっともアーチャーがここに現れたのは腕のためではないし、見逃したのは冷徹な計算の元である。
ジュンに現在武器はない。そして、その動きは明らかに素人だ。
よって、アーチャーは彼を殺すのは後回しでよいと判断した。それだけだ。
もっとも……この理論は無差別に殺戮することへの躊躇いを隠す、言い訳に過ぎなかったのかもしれないが。
そんなことを、素子は知る由もないし気にも留めはしない。
素早く銃を構えようとするが、アーチャーが一気に踏み込んでくる。剣の間合いへ。
素早く銃を構えようとするが、アーチャーが一気に踏み込んでくる。剣の間合いへ。
「ちっ!」
狙いを付けるのを諦め回避を優先する。
何よりも最悪なのが、間合いだ。
この状況で銃を放つにあたっては、「狙う」と「引き金を引く」という二つのプロセスが必要。
だが剣は間合いに入っている以上、ただ振るうだけでよい。
接近戦ではナイフは銃に勝ると呼ばれるのもそのためだ。
何よりも最悪なのが、間合いだ。
この状況で銃を放つにあたっては、「狙う」と「引き金を引く」という二つのプロセスが必要。
だが剣は間合いに入っている以上、ただ振るうだけでよい。
接近戦ではナイフは銃に勝ると呼ばれるのもそのためだ。
ゆえに、素子が勝つために必要なことは奇策。
ひたすら回避し続けながら、ある方向からの攻撃を持つ。
肩口からの袈裟懸け、胴体の両断を狙う切り返し、顔面を貫くべく繰り出された突き。
人間を遙かに凌駕する速さで繰り出される連撃をひたすら紙一重で回避し続ける。
肩口からの袈裟懸け、胴体の両断を狙う切り返し、顔面を貫くべく繰り出された突き。
人間を遙かに凌駕する速さで繰り出される連撃をひたすら紙一重で回避し続ける。
下から来る剣に銃を向け、盾にする。アーチャーが剣筋を変える様子は無い。
銃ごと両断するつもりなのだ。無表情のまま剣を振り上げる。
しかし、その剣は何かを断つことはないまま天井を指す。
受け流し。動体視力と精密な計算から太刀筋を導き出し、
上手く銃を傾かせて受けることにより下から振り上げられた剣の軌道を逸らしたのだ。
剣に釣られる形で、アーチャーの右腕が跳ね上がる。
もっとも素子の右腕も衝撃で跳ね上がっており、アーチャーを撃ち抜くことは不可能。
アーチャーの身体能力は素子と同等以上。銃を向ける頃には剣を向けられているだろう。
だから、跳ね上げられたままで撃ち抜いた。天井にあった紐を。
吊り下げられていた案内用のプレートが支えを失って落下し、アーチャーの手から剣を叩き落とす。
これでアーチャーは素手。素子が圧倒的有利な状況に立った。
相手が行えることといえば殴り合いだが、その前に射殺することが可能なはず。
だが、アーチャーは接近するどころか、その場から離れた。
まるで、爆発物から離れるかのように。
銃ごと両断するつもりなのだ。無表情のまま剣を振り上げる。
しかし、その剣は何かを断つことはないまま天井を指す。
受け流し。動体視力と精密な計算から太刀筋を導き出し、
上手く銃を傾かせて受けることにより下から振り上げられた剣の軌道を逸らしたのだ。
剣に釣られる形で、アーチャーの右腕が跳ね上がる。
もっとも素子の右腕も衝撃で跳ね上がっており、アーチャーを撃ち抜くことは不可能。
アーチャーの身体能力は素子と同等以上。銃を向ける頃には剣を向けられているだろう。
だから、跳ね上げられたままで撃ち抜いた。天井にあった紐を。
吊り下げられていた案内用のプレートが支えを失って落下し、アーチャーの手から剣を叩き落とす。
これでアーチャーは素手。素子が圧倒的有利な状況に立った。
相手が行えることといえば殴り合いだが、その前に射殺することが可能なはず。
だが、アーチャーは接近するどころか、その場から離れた。
まるで、爆発物から離れるかのように。
(まさか……!?)
先ほどの爆発が脳裏に蘇る。だが素子の理性はすぐに否定した。
足下に落ちたのは剣。まさかそれが爆弾となるはずがない。
なにより、それならとっくの昔に起爆しているはずだ。さんざん振り回しているのだから。
足下に落ちたのは剣。まさかそれが爆弾となるはずがない。
なにより、それならとっくの昔に起爆しているはずだ。さんざん振り回しているのだから。
しかし、そのまさかだった。
間近で起こった爆発により、防御する暇もなく素子は吹き飛ばされた。
幸運にも、突っ込んだ先は衣装の山。大量のクッションにより衝撃はいくらか緩和されている。
だがそれでもなお義体の損傷は致命的なレベルだ。特に下半身がひどい。
左足に至っては丸ごと吹き飛んでいる。もっとも、義体でなければ下半身全てが吹き飛んでいただろうが。
銃を構えようにも、衣装の山の中のどこかへ埋もれてしまっていた。デイパックも同様。
アーチャーはといえば、デイパックから武器を取り出していた……しかも、それは太一に持たせた剣。
こちらは丸腰、そして立てない。これ以上ないまでのチェック・メイトだった。
それでも、素子は諦めない。上手く時間を稼ぎ、その間に衣装の中から武器を取り出せれば。
幸運にも、突っ込んだ先は衣装の山。大量のクッションにより衝撃はいくらか緩和されている。
だがそれでもなお義体の損傷は致命的なレベルだ。特に下半身がひどい。
左足に至っては丸ごと吹き飛んでいる。もっとも、義体でなければ下半身全てが吹き飛んでいただろうが。
銃を構えようにも、衣装の山の中のどこかへ埋もれてしまっていた。デイパックも同様。
アーチャーはといえば、デイパックから武器を取り出していた……しかも、それは太一に持たせた剣。
こちらは丸腰、そして立てない。これ以上ないまでのチェック・メイトだった。
それでも、素子は諦めない。上手く時間を稼ぎ、その間に衣装の中から武器を取り出せれば。
「その剣をなぜ持っている。太一をどうした?」
アーチャーを睨み付けて口を開く。
ちなみに、こうしている間にも素子の腕は衣装の中を探っている。
ちなみに、こうしている間にも素子の腕は衣装の中を探っている。
「気絶させただけだ。奪ったのもこの剣だけ。ただの素人よりも、
まず銃を持っている人間を倒すことの方を優先したかったのでな」
まず銃を持っている人間を倒すことの方を優先したかったのでな」
アーチャーの答えに、素子は眉を顰めた。
殺していない?奪った荷物も剣だけ?それでは、まるで……
殺していない?奪った荷物も剣だけ?それでは、まるで……
「子供には手を出さない、とでも言うつもりか?
しかも食料まで残してやるあたり、ずいぶんと甘い殺人鬼だな」
「……なんとでも言うがいい。これ以上時間稼ぎに付き合う義理は無い」
しかも食料まで残してやるあたり、ずいぶんと甘い殺人鬼だな」
「……なんとでも言うがいい。これ以上時間稼ぎに付き合う義理は無い」
アーチャーの答えに、素子は舌打ちをしていた。見抜かれていたらしい。
銃もデイパックもまだ探り当ててはいない。例え全身が義体でも頭が斬られては終わり。
とどめを刺される場所次第では死んだフリもできるか……?
だが、素子の考えが実行に移されることは無かった。
意識を取り戻した太一が、叫んでいた。
銃もデイパックもまだ探り当ててはいない。例え全身が義体でも頭が斬られては終わり。
とどめを刺される場所次第では死んだフリもできるか……?
だが、素子の考えが実行に移されることは無かった。
意識を取り戻した太一が、叫んでいた。
「止めろよ!
も、もしその人を殺すっていうなら、これで吹き飛ばすぞ!」
「お前……」
も、もしその人を殺すっていうなら、これで吹き飛ばすぞ!」
「お前……」
その手にあるのはみせかけミサイル。
デイパックさえ持ってきていなかった。例え、金槌があった所で彼は勝てない。
だからこれで怯むことにかけ、これ一つで太一はアーチャーに相対した。勇気を、振り絞って。
デイパックさえ持ってきていなかった。例え、金槌があった所で彼は勝てない。
だからこれで怯むことにかけ、これ一つで太一はアーチャーに相対した。勇気を、振り絞って。
だが、アーチャーには無意味だ。
「構造解析、完了」
彼にとっての基礎である呪文を呟いて、アーチャーは太一から視線を外した。
あっさりと気付いたのだ。ろくに火薬は入っていない、殺傷力がないものだと。
相手をしようとさえ、しなかった。
あっさりと気付いたのだ。ろくに火薬は入っていない、殺傷力がないものだと。
相手をしようとさえ、しなかった。
「やめろっていってるだろ!」
太一がゴーグルをかけると同時に、みせかけミサイルは強烈な閃光と轟音を見舞う。
さすがにアーチャーも怯んだものの、それも一瞬だけ。
殺傷能力がないと分かっている武器に怯えるような馬鹿ではない。
再び剣を振り上げ……それは急に、止まる。
さすがにアーチャーも怯んだものの、それも一瞬だけ。
殺傷能力がないと分かっている武器に怯えるような馬鹿ではない。
再び剣を振り上げ……それは急に、止まる。
太一がスライディングの要領で滑り込み、素子の目の前で庇おうとしていた。
拾い上げた物を盾にして、アーチャーの剣を防ごうとしていた。
拾い上げた物を盾にして、アーチャーの剣を防ごうとしていた。
ここに来て、アーチャーも自覚せざるを得なかった。女子供を殺すことに躊躇いがあることに。
何よりも、太一が盾にしようとしていたのは……黄金の鞘。
それに斬りつけることなど、アーチャーにできるはずがない。
何よりも、太一が盾にしようとしていたのは……黄金の鞘。
それに斬りつけることなど、アーチャーにできるはずがない。
「っ……どけっ!」
鞘を傷つけないよう、アーチャーは太一を素子の脇へと蹴飛ばす。
もはやアーチャーの表情は無表情とは程遠いものだ。
自分自身の中にある迷いごと振り払うかのように剣を素子へ向けて振り下ろした。
……しかし、その剣が素子を切り裂くことはない。
太一が時間を稼いでいた間に素子がデイパックから取り出した短刀により、アーチャーの剣は止められていた。
その短刀の名はルールブレイカー。
戦闘用ではないとはいえ仮にも宝具だ。その耐久力は半端なものではない。
驚きでアーチャーの動きが一瞬止まった隙に素子は彼を右足で蹴り飛ばし、銃を探す。
いや……探そうとしたところで、気付いた。
もはやアーチャーの表情は無表情とは程遠いものだ。
自分自身の中にある迷いごと振り払うかのように剣を素子へ向けて振り下ろした。
……しかし、その剣が素子を切り裂くことはない。
太一が時間を稼いでいた間に素子がデイパックから取り出した短刀により、アーチャーの剣は止められていた。
その短刀の名はルールブレイカー。
戦闘用ではないとはいえ仮にも宝具だ。その耐久力は半端なものではない。
驚きでアーチャーの動きが一瞬止まった隙に素子は彼を右足で蹴り飛ばし、銃を探す。
いや……探そうとしたところで、気付いた。
外でルイズがグラーフアイゼンを振り上げていることに。
確かに太一は、アーチャーの手から素子を助けた。
それは誉められるべきことだったし、勇敢だっただろう。
だが、太一の不幸は……デイパックを残してきてしまったこと。
そして、ルイズを一緒に運んでしまったこと。
そうすれば、アーチャーに気絶させられることも無く。
それは誉められるべきことだったし、勇敢だっただろう。
だが、太一の不幸は……デイパックを残してきてしまったこと。
そして、ルイズを一緒に運んでしまったこと。
そうすれば、アーチャーに気絶させられることも無く。
「Schwalbefliegen」
ルイズがグラーフアイゼンを拾うのも、遅れただろうから。
銃を向けようにも剣を投げようにも、既に遅い。
ルイズは既に宙に浮かぶ砲丸目掛け、グラーフアイゼンを振り下ろしていたのだから。
銃を向けようにも剣を投げようにも、既に遅い。
ルイズは既に宙に浮かぶ砲丸目掛け、グラーフアイゼンを振り下ろしていたのだから。
素子の不幸はただ一つ。
彼女がルイズに刻み付けた恐怖は、ルイズの中でしっかりと生きていたこと。
その一点に尽きた。
彼女がルイズに刻み付けた恐怖は、ルイズの中でしっかりと生きていたこと。
その一点に尽きた。
~~~ ~~~ ~~~ ~~~
ジュンは駅に逃げ込んでいた。
遊園地にいた時からほとんど休みなしで動いていたのだ、走って逃げるのはもう限界だったのだ。
そのためいちかばちかすぐに乗れるような列車があることに賭けて駅に逃げ込んだのだが……
結果は大失敗だった。
遊園地にいた時からほとんど休みなしで動いていたのだ、走って逃げるのはもう限界だったのだ。
そのためいちかばちかすぐに乗れるような列車があることに賭けて駅に逃げ込んだのだが……
結果は大失敗だった。
「もう出てたのか……」
がっくりと肩を落とすしかジュンには出来ない。
時刻表を見る限り、次の列車は当分来そうもない。全力疾走した意味はどこへやら。
だがいつまでもここにいるわけにもいかない。派手な音がしたのは駅まで届いている。
どうやら、とんでもない武器を持っているようだ。巻き込まれたら今度こそ無事では済まない。
時刻表を見る限り、次の列車は当分来そうもない。全力疾走した意味はどこへやら。
だがいつまでもここにいるわけにもいかない。派手な音がしたのは駅まで届いている。
どうやら、とんでもない武器を持っているようだ。巻き込まれたら今度こそ無事では済まない。
「何か身を守れそうな物を見つけて、すぐに逃げ出さないと」
呼吸を落ち着けながら周りを見渡してみる。
デイパックが無い以上あまり重い物は持てないが、丸腰のまま歩くなんて無謀だ。
そう思い歩き回ってはみるものの、やはりろくな物がない。
鉄パイプすら見つからない。運が悪いのか探し方が悪いのか。
ため息を吐こうとして……ふと気付いた。
デイパックが無い以上あまり重い物は持てないが、丸腰のまま歩くなんて無謀だ。
そう思い歩き回ってはみるものの、やはりろくな物がない。
鉄パイプすら見つからない。運が悪いのか探し方が悪いのか。
ため息を吐こうとして……ふと気付いた。
「……電話?」
そう。見つけたのは電話。
別にただの電話なのだが、何か留守電のメッセージが入っているらしい。
別にただの電話なのだが、何か留守電のメッセージが入っているらしい。
……本来なら素子が気付いただろうが、いかんせんタイミングが悪かった。
電話が鳴ったのは太一の手榴弾が爆発して大騒ぎになっていた時。
そのまま素子はずっと駅前で見張りを行っていたため、電話に気付かずに今に至っている。
電話が鳴ったのは太一の手榴弾が爆発して大騒ぎになっていた時。
そのまま素子はずっと駅前で見張りを行っていたため、電話に気付かずに今に至っている。
もちろん、そんなことはジュンには分かりようがない。
事情を知らないまま、彼は電話に手をかけた。
事情を知らないまま、彼は電話に手をかけた。
~~~ ~~~ ~~~ ~~~
轟音と共に、土煙が巻き上がる。
ルイズの撃ち出した砲丸は誘導性が甘く、その場にいた誰にも直撃していない。
しかし、巻き起こした圧倒的な爆発は全員纏めて跡形も無く吹き飛ばすに足りる。
本来、シュワルベフリーゲンにここまでの爆発力はない。
だが、ルイズの扱う魔法である「虚無」の特性は、
圧倒的な破壊力をシュワルベフリーゲンに付与させていた。
具体的に言えば……商業ビルを破壊し、瓦礫の山に変えるほどの。
三階しかないとはいえれっきとしたビルが崩れていくのを、ルイズは何の感慨も無く見つめて呟いた。
ルイズの撃ち出した砲丸は誘導性が甘く、その場にいた誰にも直撃していない。
しかし、巻き起こした圧倒的な爆発は全員纏めて跡形も無く吹き飛ばすに足りる。
本来、シュワルベフリーゲンにここまでの爆発力はない。
だが、ルイズの扱う魔法である「虚無」の特性は、
圧倒的な破壊力をシュワルベフリーゲンに付与させていた。
具体的に言えば……商業ビルを破壊し、瓦礫の山に変えるほどの。
三階しかないとはいえれっきとしたビルが崩れていくのを、ルイズは何の感慨も無く見つめて呟いた。
「あと、56人」
何の人数かは言うまでもない。殺すべき人間の数だ。
ルイズは確かに冷静になっていた。冷静になって、結論を出した。
……冷静に、狂っていた。
ここにいるうちの誰かが才人を殺したかなんて、ルイズには知りようが無い。
だが、ここにいる80人のうち、確実に誰かは才人の仇だとも言える。
なら……全員殺せば、確実に敵討ちができるのだ。
それに、上手く優勝すればギガゾンビも殺すチャンスがあるかもしれない。
戦うことに恐れなんて無い。爪を剥がしたあの女さえ今のルイズには怖くない。
なぜなら、別に自分が死んでも構わないから。
ルイズは確かに冷静になっていた。冷静になって、結論を出した。
……冷静に、狂っていた。
ここにいるうちの誰かが才人を殺したかなんて、ルイズには知りようが無い。
だが、ここにいる80人のうち、確実に誰かは才人の仇だとも言える。
なら……全員殺せば、確実に敵討ちができるのだ。
それに、上手く優勝すればギガゾンビも殺すチャンスがあるかもしれない。
戦うことに恐れなんて無い。爪を剥がしたあの女さえ今のルイズには怖くない。
なぜなら、別に自分が死んでも構わないから。
「死んだら、才人に会える……」
ルイズが呟いた声に明るさは無い。悲しさすらない。
今のルイズにとって、死は恐ろしい物ではなかった。愛する人に会える、受け入れるべき結果。
だから、失敗しても別にいい。死んだって構わない。
どの道、全員殺したら才人に会いに逝くのだから。
今からやることは、ルイズにとってちょっとした寄り道でしかない。
失敗して死んでも、しょうがないから諦めようとしか彼女は思わないだろう。
仇を討つのは、あくまでついでのことでしかないのだから。
今のルイズにとって、死は恐ろしい物ではなかった。愛する人に会える、受け入れるべき結果。
だから、失敗しても別にいい。死んだって構わない。
どの道、全員殺したら才人に会いに逝くのだから。
今からやることは、ルイズにとってちょっとした寄り道でしかない。
失敗して死んでも、しょうがないから諦めようとしか彼女は思わないだろう。
仇を討つのは、あくまでついでのことでしかないのだから。
「待ってて。すぐに終わらせて会いに逝くから」
太一が置き去りにしていたデイパックを持ち上げて、ルイズはどこへともなく歩き出す。
その瞳に、正真正銘の虚無だけを映して。
その瞳に、正真正銘の虚無だけを映して。
彼女の不幸は、才人への異常なまでの思慕ではない。
それに関しては、どれほど不幸だと思われても彼女は理解できないだろうから。
彼女にとっての不幸とは、まずドラえもんも破壊したビルにいたと勘違いしていたこと。
そして、その他にも生存者がいたことが該当するのだろう。
それに関しては、どれほど不幸だと思われても彼女は理解できないだろうから。
彼女にとっての不幸とは、まずドラえもんも破壊したビルにいたと勘違いしていたこと。
そして、その他にも生存者がいたことが該当するのだろう。
~~~ ~~~ ~~~ ~~~
土煙に紛れて逃走した者にルイズは気付かなかった。当然と言えば当然だ。
死後の世界に執着する者が、現世を注意深く見られるはずがない。
駅から少し離れた住宅の中。そこには、とっさに脱出していたアーチャーがいた。
だが、無事に生還したにも関わらずその表情は暗い。
彼が手を出すまでもなく、二人とも瓦礫の山の中。彼の迷いは全て無駄になった。
そして、鞘も手に入らなかった。彼に子供を殺させなかった衝動は無意味だった。
アーチャーが回避できたのは単純な話。あの三人の中で、唯一魔術の心得があったから。
しかも爆発が起こる前にすぐ離脱すれば無傷で脱出できただろうに、
中途半端に欲張り爆発に巻き込まれる羽目になっていた。
彼が行ったことは単純だ。とっさに剣を捨てて鞘を拾い上げようとしただけ。
もっとも爆風に巻き込まれて鞘は見失い、
一か八か手近にあった物を拾ってみれば、明らかにデイパックらしい手触り。
もはやこれ以上留まるわけにもいかず、鞘を残して逃げ出すしかなかった。
死後の世界に執着する者が、現世を注意深く見られるはずがない。
駅から少し離れた住宅の中。そこには、とっさに脱出していたアーチャーがいた。
だが、無事に生還したにも関わらずその表情は暗い。
彼が手を出すまでもなく、二人とも瓦礫の山の中。彼の迷いは全て無駄になった。
そして、鞘も手に入らなかった。彼に子供を殺させなかった衝動は無意味だった。
アーチャーが回避できたのは単純な話。あの三人の中で、唯一魔術の心得があったから。
しかも爆発が起こる前にすぐ離脱すれば無傷で脱出できただろうに、
中途半端に欲張り爆発に巻き込まれる羽目になっていた。
彼が行ったことは単純だ。とっさに剣を捨てて鞘を拾い上げようとしただけ。
もっとも爆風に巻き込まれて鞘は見失い、
一か八か手近にあった物を拾ってみれば、明らかにデイパックらしい手触り。
もはやこれ以上留まるわけにもいかず、鞘を残して逃げ出すしかなかった。
「結局、オレに『全て遠き理想郷』を得る資格は無いってことなのかな……セイバー」
そう呟くアーチャーの顔には、自嘲の笑みが浮かんでいる。
もはや届かないアーチャーの夢を示すかのように、鞘は彼の手から零れ落ちた。
代わりに手に入れたのは、よりにもよって士郎が投影した剣。
いっそ平和的な手段を以って頼み込んでいれば手に入ったのかもしれない。
もしくは最初から完全に皆殺しのつもりで襲えば奪い取れたのかもしれない。
だが迷ったまま、半端な覚悟で戦いに望んだ結果がこれだ。
幸い、拾ったデイパックは左腕とそれを接着できるというのりが入った物……
素子がこのデイパックの中身を検査していた以上、
これが一番近くに置いてあるのは当たり前かもしれないが。
ルイズを追撃せずに近くの民家に隠れていたのも、まず先に左腕を接着するためだった。
もはや届かないアーチャーの夢を示すかのように、鞘は彼の手から零れ落ちた。
代わりに手に入れたのは、よりにもよって士郎が投影した剣。
いっそ平和的な手段を以って頼み込んでいれば手に入ったのかもしれない。
もしくは最初から完全に皆殺しのつもりで襲えば奪い取れたのかもしれない。
だが迷ったまま、半端な覚悟で戦いに望んだ結果がこれだ。
幸い、拾ったデイパックは左腕とそれを接着できるというのりが入った物……
素子がこのデイパックの中身を検査していた以上、
これが一番近くに置いてあるのは当たり前かもしれないが。
ルイズを追撃せずに近くの民家に隠れていたのも、まず先に左腕を接着するためだった。
もっとも身体的な面では、アーチャーの満足のいく結果だったかと言うとそれも否だ。
まず、アーチャーは右目に熱風を直に浴びていた。
視力が多少落ちただけで失明してはいないが、エリアを跨ぐような遠距離狙撃には確実に支障をきたす。
そして右腕もまた、あの大爆発によって傷付いている。
軽い動作ならまだ大丈夫だろうし、痛みを堪えれば「まだ」剣を振れるだろう。
だがそれはつまり、戦闘動作を行い続ければいつか確実に限界が来るということ。
要するに、片腕だけ使った接近戦を中心に戦わなくてはならないことは全く変わっていない。
視力が多少落ちただけで失明してはいないが、エリアを跨ぐような遠距離狙撃には確実に支障をきたす。
そして右腕もまた、あの大爆発によって傷付いている。
軽い動作ならまだ大丈夫だろうし、痛みを堪えれば「まだ」剣を振れるだろう。
だがそれはつまり、戦闘動作を行い続ければいつか確実に限界が来るということ。
要するに、片腕だけ使った接近戦を中心に戦わなくてはならないことは全く変わっていない。
「……くそ」
アーチャーは悪態を吐いたものの、それで傷が治るわけでもない。
接着した左腕でベッドカバーを切り裂き、包帯を作る。
今、彼にできることは、右腕に応急処置を施すことのみ。それしか思いつかない。
今後どうするか、決まっていないのだから。
接着した左腕でベッドカバーを切り裂き、包帯を作る。
今、彼にできることは、右腕に応急処置を施すことのみ。それしか思いつかない。
今後どうするか、決まっていないのだから。
……アーチャーの不幸はたった一つ。
磨耗しきり、過去の自分を間違いだったと否定していても、
自分で思っている以上に「正義の味方」という理想を心の中に留めていたことだ。
あれほど理想を裏切られ、絶望し、唾棄してもなお、
未だに最も多くの人々を救う手段はどれか考えていることを、彼自身は不思議だと思わなかったこと。
まるで呼吸するかのように、当たり前の思考としてできるだけ多くの人々が助かる手段を考えていたこと。
それが、何よりも証拠となっていた。
磨耗しきり、過去の自分を間違いだったと否定していても、
自分で思っている以上に「正義の味方」という理想を心の中に留めていたことだ。
あれほど理想を裏切られ、絶望し、唾棄してもなお、
未だに最も多くの人々を救う手段はどれか考えていることを、彼自身は不思議だと思わなかったこと。
まるで呼吸するかのように、当たり前の思考としてできるだけ多くの人々が助かる手段を考えていたこと。
それが、何よりも証拠となっていた。
~~~ ~~~ ~~~ ~~~
素子の視界は、一面が闇だった。
夢を見ているわけでも地獄に堕ちたわけでもない。瓦礫に埋まっているだけだ。
夢を見ているわけでも地獄に堕ちたわけでもない。瓦礫に埋まっているだけだ。
(重要な部分はかろうじて無事だが、四肢はもう駄目……
航空機事故に遭った時もこうだったのかしら)
航空機事故に遭った時もこうだったのかしら)
もっとも、肝心の頭部も瓦礫の重みで軋んでいる。
二分程度で限界を迎えるだろう……出たのはそんな結論だった。
ため息を吐こうにも暴れようにも義体が反応しない。
二分間。その間に九課の仲間のことを考えようかと思ったが、やめた。
放送でみんな無事だと知っている。それだけしか分からないし、それだけで十分。
代わりに、太一の生存する可能性でも考えてみることにした。
二分程度で限界を迎えるだろう……出たのはそんな結論だった。
ため息を吐こうにも暴れようにも義体が反応しない。
二分間。その間に九課の仲間のことを考えようかと思ったが、やめた。
放送でみんな無事だと知っている。それだけしか分からないし、それだけで十分。
代わりに、太一の生存する可能性でも考えてみることにした。
『地面にぶつかったら頭を庇え!』
そう叫んで、太一をアヴァロンと一緒に投げ飛ばしたのが、瓦礫に押しつぶされる寸前。
文字通り、最後の力を振り絞っての行動だった。
手榴弾、壊れた幻想、シュワルベフリーゲン。
三つの爆発はもはや素子の義体を機能停止に追いやっておかしくないダメージを与えていたのだ。
そこまで傷付いていた素子を動かした物はただ単純なこと。
公安9課として、無駄死になどしては顔向けできないという意地だ。
文字通り、最後の力を振り絞っての行動だった。
手榴弾、壊れた幻想、シュワルベフリーゲン。
三つの爆発はもはや素子の義体を機能停止に追いやっておかしくないダメージを与えていたのだ。
そこまで傷付いていた素子を動かした物はただ単純なこと。
公安9課として、無駄死になどしては顔向けできないという意地だ。
(助かったかどうか、確認できないのは悔しいが)
素子が最後に見たのは、無情にも太一の上にも降り注ぐ瓦礫。
だが、その量は素子が埋まっている場所よりは遥かに少ない。
運がよければ自力で這い出るか、あの猫型義体が救出するはずだ。
問題は襲ってきた当人と爆破した当人がまだこの周辺にいる場合だが、
それに関してはもはや祈ることしか出来ない。
こうしている間にも、素子の義体は瓦礫の重みで軋み続けているのだから。
だが、その量は素子が埋まっている場所よりは遥かに少ない。
運がよければ自力で這い出るか、あの猫型義体が救出するはずだ。
問題は襲ってきた当人と爆破した当人がまだこの周辺にいる場合だが、
それに関してはもはや祈ることしか出来ない。
こうしている間にも、素子の義体は瓦礫の重みで軋み続けているのだから。
(攻勢の組織が聞いて呆れる。結局、最期まで後手に回ってばかりだったな……)
できれば口に出して愚痴りたかったが、損傷した義体はピクリとも動かない。
まだ考え事ができるだけ、幸運なのかもしれなかったが。
もはや義体は終わっている。生きているのは脳だけだ。
まだ考え事ができるだけ、幸運なのかもしれなかったが。
もはや義体は終わっている。生きているのは脳だけだ。
(助かった後は、どうなるか……)
ふと、そこから考えていた。肉体面でなく、精神面の問題を。
目の前で人が死んだことに何度も直面しながら、自分だけは生き残り続ける。
それがどれほど幼い子供の心に取り返しの付かない傷を残すか……
下手をすれば、死んだ方がまだ幸運だったという結果にさえなりかねない。
目の前で人が死んだことに何度も直面しながら、自分だけは生き残り続ける。
それがどれほど幼い子供の心に取り返しの付かない傷を残すか……
下手をすれば、死んだ方がまだ幸運だったという結果にさえなりかねない。
(無駄な考えだな)
だが、素子はあっさりと切り捨てた。
彼の勇敢さ。自分の体を盾にしてまで、素子を守ろうとした「勇気」。
自責の念に駆られて暴走した結果かもしれないが、
少なくとももう現実から目を背けはしないだろう。
きっと乗り越え、生きていることが幸運だったと思えるように成長していくはず。
そう、素子は信じて。
彼の勇敢さ。自分の体を盾にしてまで、素子を守ろうとした「勇気」。
自責の念に駆られて暴走した結果かもしれないが、
少なくとももう現実から目を背けはしないだろう。
きっと乗り越え、生きていることが幸運だったと思えるように成長していくはず。
そう、素子は信じて。
(そろそろ、限界……後は……任せ……)
最期に願いを、仲間へと託した。
数秒後、鈍い音を立てて瓦礫の山の一部が陥没し……素子の唯一機械化されていない部分を、破壊した。
数秒後、鈍い音を立てて瓦礫の山の一部が陥没し……素子の唯一機械化されていない部分を、破壊した。
【F-1西部住宅・1日目 朝】
【アーチャー@Fate/stay night】
[状態]:右腕に中程度の火傷や裂傷(応急処置中)
右目の視力低下(接近戦は問題ないが、エリアを跨ぐような狙撃に支障)
右半身に軽い火傷や擦り傷
[装備]:名も無き剣@Fate/stay night
[道具]:支給品二人分、チャンバラ刀専用のり
[思考・状況] 状況確認・今後の方針作成
【アーチャー@Fate/stay night】
[状態]:右腕に中程度の火傷や裂傷(応急処置中)
右目の視力低下(接近戦は問題ないが、エリアを跨ぐような狙撃に支障)
右半身に軽い火傷や擦り傷
[装備]:名も無き剣@Fate/stay night
[道具]:支給品二人分、チャンバラ刀専用のり
[思考・状況] 状況確認・今後の方針作成
【F-1東部・1日目 朝】
【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:疲労中程度。左手中指の爪剥離。魔力中消費。
[装備]:グラーフアイゼン(強力な爆発効果付きシュワルベフリーゲンを使用可能)@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:ヘルメット、支給品一式
[思考・状況]
1.才人の仇を討つ。判別する手段がないので、片っ端から殺す。
2.優勝してギガゾンビを殺し、自分も死ぬ。
【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@ゼロの使い魔】
[状態]:疲労中程度。左手中指の爪剥離。魔力中消費。
[装備]:グラーフアイゼン(強力な爆発効果付きシュワルベフリーゲンを使用可能)@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:ヘルメット、支給品一式
[思考・状況]
1.才人の仇を討つ。判別する手段がないので、片っ端から殺す。
2.優勝してギガゾンビを殺し、自分も死ぬ。
【F-1 駅・1日目 朝】
【桜田ジュン@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:全力疾走による相当な疲労、全身に軽い火傷
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:電話に応対
2:信頼できる人間を捜す
3:他人の殺害は出来れば避けたい
基本:ゲームに乗らず、ドールズ(真紅、翠星石、蒼星石)と合流する。
【桜田ジュン@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:全力疾走による相当な疲労、全身に軽い火傷
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:電話に応対
2:信頼できる人間を捜す
3:他人の殺害は出来れば避けたい
基本:ゲームに乗らず、ドールズ(真紅、翠星石、蒼星石)と合流する。
【F-1 駅周辺・1日目 朝】
【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]: 右手に銃創 ???
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night
[道具]:無し
[思考・状況]
1:???
基本:ヤマトたちと合流
※放送は聞いていない
【八神太一@デジモンアドベンチャー】
[状態]: 右手に銃創 ???
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night
[道具]:無し
[思考・状況]
1:???
基本:ヤマトたちと合流
※放送は聞いていない
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:中程度のダメージ ???
[装備]:無し
[道具]:"THE DAY OF SAGITTARIUS Ⅲ"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱 、支給品一式
[思考・状況]
1:???
2:ヤマトを含む仲間との合流(特にのび太)
基本:ひみつ道具を集めてしずかの仇をとる。ギガゾンビをなんとかする
※放送は聞いていない
[状態]:中程度のダメージ ???
[装備]:無し
[道具]:"THE DAY OF SAGITTARIUS Ⅲ"ゲームCD@涼宮ハルヒの憂鬱 、支給品一式
[思考・状況]
1:???
2:ヤマトを含む仲間との合流(特にのび太)
基本:ひみつ道具を集めてしずかの仇をとる。ギガゾンビをなんとかする
※放送は聞いていない
【草薙素子@攻殻機動隊S.A.C 死亡】
[残り57人]
[残り57人]
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93:Unknown to Death. Nor known to Life | アーチャー | 137:正義の味方 |
84:現実の定義 Virtual game | ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール | 129:「サイトと一緒」 |
90:回天 | 桜田ジュン | 131:トグサくんのメッセージ |
97:brave heart | 八神太一 | 134:歩みの果てには |
84:現実の定義 Virtual game | ドラえもん | 134:歩みの果てには |
84:現実の定義 Virtual game | 草薙素子 |