Ultimate thing ◆nBFOyIqCVI
彼女の知った誰の名も、呼ばれることはなかった。
だが、80人を数えた者たちが、たった一夜のうちに4分の1を失った事実が、代わって真紅を急き立てた。
喧騒は北側に多い。
つまり、人は北側に多い。
真紅は北へ進んでいた。
遠い騒音にまぎれて、比較的近い範囲で聞き覚えのある音がする。
それは単調な、しかしかなりの重量の物が移動する音だった。
真紅にとっては数十万時間前に、そしてジュンの家で目覚めてからはテレビの中くらいでしか聞かなかった音である。
だが、80人を数えた者たちが、たった一夜のうちに4分の1を失った事実が、代わって真紅を急き立てた。
喧騒は北側に多い。
つまり、人は北側に多い。
真紅は北へ進んでいた。
遠い騒音にまぎれて、比較的近い範囲で聞き覚えのある音がする。
それは単調な、しかしかなりの重量の物が移動する音だった。
真紅にとっては数十万時間前に、そしてジュンの家で目覚めてからはテレビの中くらいでしか聞かなかった音である。
「列車だ」
真紅が音の場所に辿り着いたとき、線路の間近に、切り抜いたような赤い闇が立っていた。
「まさかこんなところに列車が走っていようとはな」
伸ばしっぱなしにした黒い髪、青白く気だるそうな顔色、血のように赤いコート、血よりもなお赤い瞳。
そして、その下の拘束衣。
男の姿をした得体の知れぬ闇が、そう語った。
「しかもあんな速度で、だ。ギガゾンビとやらも、随分暇と力が余っているらしい」
あるいは逆かもしれんがね、と続ける。
視線が真紅の顔に止まり、無遠慮に捕捉する。
「これは、珍しいモノが来たものだ」
「じろじろと見ないで頂戴。私はローゼンメイデン第五ドール、真紅。モノ扱いとは、失礼ではなくて?」
「ク」
男が、堪え切れず笑いを漏らした。
「魔術師と賃金労働者と殺し屋の次は生きた人形だと? クク クハッ ハアッハッハハッ」
狂人だ。
やるやらないの話ではない。
空間を共有していること自体が、自分の身を危うくする。真紅は、そう判断した。
「貴方に危害を加えるつもりはないわ。その代わり貴方、桜田ジュンという人間に覚えはなくて?」
哄笑の余韻を残したままの表情で、男の目が真紅に降りてくる。
「眼鏡をかけた男の子よ」
「覚えがないな」
「そう。ほかに私のようなドールに……」
先程の様子なら、聞くまでもない話だった。
兎にも角にも、近くに立っているだけで濃厚な死の匂いが立ち込めてくる相手であった。
こうして何事もなく話している雰囲気の延長で、武器を抜いて相手を殺しに行けるタイプだろう。
手短に済んだのなら、さっさと引き上げてしまうに限る。
「いえ、いいわ。なら、私はこれで失礼させてもらうわ」
背を向けたら、相手が仕掛けてくるだろうという確信があった。
男を視界に収めたまま、近くの木立の方向へ歩みを進める。
「人形、お前は何だ?」
奈落の裂け目が、真紅をまた興味深げに見ていた。
真紅が音の場所に辿り着いたとき、線路の間近に、切り抜いたような赤い闇が立っていた。
「まさかこんなところに列車が走っていようとはな」
伸ばしっぱなしにした黒い髪、青白く気だるそうな顔色、血のように赤いコート、血よりもなお赤い瞳。
そして、その下の拘束衣。
男の姿をした得体の知れぬ闇が、そう語った。
「しかもあんな速度で、だ。ギガゾンビとやらも、随分暇と力が余っているらしい」
あるいは逆かもしれんがね、と続ける。
視線が真紅の顔に止まり、無遠慮に捕捉する。
「これは、珍しいモノが来たものだ」
「じろじろと見ないで頂戴。私はローゼンメイデン第五ドール、真紅。モノ扱いとは、失礼ではなくて?」
「ク」
男が、堪え切れず笑いを漏らした。
「魔術師と賃金労働者と殺し屋の次は生きた人形だと? クク クハッ ハアッハッハハッ」
狂人だ。
やるやらないの話ではない。
空間を共有していること自体が、自分の身を危うくする。真紅は、そう判断した。
「貴方に危害を加えるつもりはないわ。その代わり貴方、桜田ジュンという人間に覚えはなくて?」
哄笑の余韻を残したままの表情で、男の目が真紅に降りてくる。
「眼鏡をかけた男の子よ」
「覚えがないな」
「そう。ほかに私のようなドールに……」
先程の様子なら、聞くまでもない話だった。
兎にも角にも、近くに立っているだけで濃厚な死の匂いが立ち込めてくる相手であった。
こうして何事もなく話している雰囲気の延長で、武器を抜いて相手を殺しに行けるタイプだろう。
手短に済んだのなら、さっさと引き上げてしまうに限る。
「いえ、いいわ。なら、私はこれで失礼させてもらうわ」
背を向けたら、相手が仕掛けてくるだろうという確信があった。
男を視界に収めたまま、近くの木立の方向へ歩みを進める。
「人形、お前は何だ?」
奈落の裂け目が、真紅をまた興味深げに見ていた。
「既に名乗っているはずよ」
先に名乗るのが礼儀などという普段の返しは、できない。
この男は、真紅が「仕掛けてくる」のを、絡め落とそうと待ち構えているようなのだから。
「なぜ人形が動く? しかも自由意志を持って、だ。どうして? 何のために?」
「言う必要はないわ」
「『知らない』では、ないのだな?」
そうかそうか、と男が無造作に一歩、前へ出てきた。
一切の快活さから無縁の笑みが、輪郭からにじみ出ている。
「まったく、度し難い化け物だ」
その単語が何を指しているのか、真紅が理解するまでに少し時間がかかった。
「なんですって……!? 私が!?」
「そうだろう、人の手によってかりそめの命を与えられた歪んだ存在め」
「その言葉、取り消しなさい」
つい、食って掛かるように、真紅からも一歩踏み出した。
「お父様は私たちを、どんな花より気高く、どんな宝石よりも無垢で、一点の穢れも無い完全な少女になるようにと生み出してくださったのよ。
私はその誇り高きローゼンメイデンの第五ドール。お父様の下さった、いずれアリスとなるこの体を、化け物などと……」
「完全?」
頭に上った血が一気に落ちた。青ざめてさえいるだろう。
こちらを引っ掛けようと待っていた相手に向かって、まんまと一歩踏み出してしまったのだ。
そして、男が待っていたのは、攻撃の隙だけではなかった。
「ドール? アリス? ローゼンメイデン? ピュグマリオンのアフロディテ像か? アルバ・エディソンのアダリーか?
それともヘファイストスの黄金の乙女? 意志もつ者の創造は、神のみが成し得る禁忌の所業だ。
生まれの理がどれであろうと 姿形が何であろうと お前の存在は神への挑戦に他ならない」
そっと広げる両腕の中に、染め抜いたような赤い闇。
「そう 例えば 私のような」
そう嘯いて、不死の夜族は滴るような笑みを浮かべた。
「化け物でなくて、何だというのだ」
真紅の百数十万時間に及ぶ経験の積み重ねが、叫んでいる。
この闇と戦ってはいけない――
花弁が舞う。
先に名乗るのが礼儀などという普段の返しは、できない。
この男は、真紅が「仕掛けてくる」のを、絡め落とそうと待ち構えているようなのだから。
「なぜ人形が動く? しかも自由意志を持って、だ。どうして? 何のために?」
「言う必要はないわ」
「『知らない』では、ないのだな?」
そうかそうか、と男が無造作に一歩、前へ出てきた。
一切の快活さから無縁の笑みが、輪郭からにじみ出ている。
「まったく、度し難い化け物だ」
その単語が何を指しているのか、真紅が理解するまでに少し時間がかかった。
「なんですって……!? 私が!?」
「そうだろう、人の手によってかりそめの命を与えられた歪んだ存在め」
「その言葉、取り消しなさい」
つい、食って掛かるように、真紅からも一歩踏み出した。
「お父様は私たちを、どんな花より気高く、どんな宝石よりも無垢で、一点の穢れも無い完全な少女になるようにと生み出してくださったのよ。
私はその誇り高きローゼンメイデンの第五ドール。お父様の下さった、いずれアリスとなるこの体を、化け物などと……」
「完全?」
頭に上った血が一気に落ちた。青ざめてさえいるだろう。
こちらを引っ掛けようと待っていた相手に向かって、まんまと一歩踏み出してしまったのだ。
そして、男が待っていたのは、攻撃の隙だけではなかった。
「ドール? アリス? ローゼンメイデン? ピュグマリオンのアフロディテ像か? アルバ・エディソンのアダリーか?
それともヘファイストスの黄金の乙女? 意志もつ者の創造は、神のみが成し得る禁忌の所業だ。
生まれの理がどれであろうと 姿形が何であろうと お前の存在は神への挑戦に他ならない」
そっと広げる両腕の中に、染め抜いたような赤い闇。
「そう 例えば 私のような」
そう嘯いて、不死の夜族は滴るような笑みを浮かべた。
「化け物でなくて、何だというのだ」
真紅の百数十万時間に及ぶ経験の積み重ねが、叫んでいる。
この闇と戦ってはいけない――
花弁が舞う。
※
「どういうつもりなのかしら?」
この腰ほどの身長もない人形は、アーカードが花弁の眩ましを破ってなお手を出さなかったことをいぶかしんでいるらしかった。
隙あらばいつでも撒こう、という態で、小さく唸る。
撒かれれば撒かれるだろう。他に強い存在が来たのであれば、アーカードがそちらに気をとられているうちに
彼女が姿をくらますであろうことは想像に難くない。
だが、それでいい。
この腰ほどの身長もない人形は、アーカードが花弁の眩ましを破ってなお手を出さなかったことをいぶかしんでいるらしかった。
隙あらばいつでも撒こう、という態で、小さく唸る。
撒かれれば撒かれるだろう。他に強い存在が来たのであれば、アーカードがそちらに気をとられているうちに
彼女が姿をくらますであろうことは想像に難くない。
だが、それでいい。
「私もソレが見たくなった。もし本当にいるのであればな」
アーカードも、放送を聴いていた。
あの内容に偽りがないのであれば、参加者の中の誰かが、老いたりとはいえ死神ウォルターを、
そしてあのアレクサンド・アンデルセンを打ち倒したという事実に他ならない。
惜しい。
己の関わる外で、己の知る強者が二人も倒されたのだ。
だからと言って、アーカードのやることは変わるわけではない。
サーチ・アンド・デストロイ。
焦りに任せて歩き回ったところで、焦った分だけ多い人間に会えるというわけではない。いつも通り会った人間と戦うのみ。
真紅とて、通り一遍の話が終われば.454カスール弾と死の舞踏と洒落込むはずだった。
あの内容に偽りがないのであれば、参加者の中の誰かが、老いたりとはいえ死神ウォルターを、
そしてあのアレクサンド・アンデルセンを打ち倒したという事実に他ならない。
惜しい。
己の関わる外で、己の知る強者が二人も倒されたのだ。
だからと言って、アーカードのやることは変わるわけではない。
サーチ・アンド・デストロイ。
焦りに任せて歩き回ったところで、焦った分だけ多い人間に会えるというわけではない。いつも通り会った人間と戦うのみ。
真紅とて、通り一遍の話が終われば.454カスール弾と死の舞踏と洒落込むはずだった。
だが、彼に生まれたひとつの興味が、その暴虐を押し留めた。
そして、彼の奥底に潜んだ疑問が、その節を曲げさせた。
そして、彼の奥底に潜んだ疑問が、その節を曲げさせた。
最強の不死者だからこそ、不死がどれほど虚ろであるかがわかる。
永遠の命などというものは、この世に存在しない。
そう、永遠はなく、完全はなく、絶対はない。
完全なる美などというものもまた、この世には存在しないはずなのだ。
だが、もしソレが生まれ出でたのなら、完全なる美を「アリス」はどう語るだろう?
永遠の命などというものは、この世に存在しない。
そう、永遠はなく、完全はなく、絶対はない。
完全なる美などというものもまた、この世には存在しないはずなのだ。
だが、もしソレが生まれ出でたのなら、完全なる美を「アリス」はどう語るだろう?
皮肉なことに、完全を求めるアリスの蕾もまた、化け物であった。
【E-4東側線路上・1日目 朝】
【アーカード@HELLSING】
[状態]:健康
[装備]:対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾15)@HELLSING
[道具]:なし
[思考・状況]
1、どうせ殺すけど真紅についてくよー^^
2、人々の集まりそうなところへ行き闘争を振りまく
3、殺し合いに乗る
【アーカード@HELLSING】
[状態]:健康
[装備]:対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾15)@HELLSING
[道具]:なし
[思考・状況]
1、どうせ殺すけど真紅についてくよー^^
2、人々の集まりそうなところへ行き闘争を振りまく
3、殺し合いに乗る
【真紅@ローゼンメイデン】
[状態]:健康、人間不信気味、焦り
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはA's、くんくんの人形@ローゼンメイデン
[思考・状況]
1:アーカードを撒く
2:自分の能力が『魔力』に通ずるものがあるかを確かめたい
基本:ジュンや姉妹達を捜し、対策を練る
[状態]:健康、人間不信気味、焦り
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、レヴァンティン@魔法少女リリカルなのはA's、くんくんの人形@ローゼンメイデン
[思考・状況]
1:アーカードを撒く
2:自分の能力が『魔力』に通ずるものがあるかを確かめたい
基本:ジュンや姉妹達を捜し、対策を練る
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93:Unknown to Death. Nor known to Life | アーカード | 137:正義の味方 |
77:misapprehension | 真紅 | 137:正義の味方 |