圧倒的な力、絶対的な恐怖 ◆Xbtp/256QU
「服は、これでいいよね」
彼女は静かに、店を出る。
彼女は静かに、店を出る。
彼女、朝倉涼子は民家を出てからは、街を歩き続けた。
そして幸運にも歩き始めてすぐに、女性向けのブティックを見つけた。
ここなら、代えの衣服はいくらでもある。
案の定、自分のサイズに合う服はすぐに見つかった。
彼女はとにかく制服のイメージを大きく変えるために、白のクラシックパンツと水色のブラウスを選択した。
その上には、先ほどの民家で手に入れた漆黒のコートを着込む。中に編みこんだ髪は防具の役割を果たすからだ。
本来の彼女なら、もっと素晴らしいコーディネートを見せてくれただろうが、今の彼女にはそんな余裕は無い。
服選びに時間を割く、心理的余裕を彼女は無くしていた。
そして幸運にも歩き始めてすぐに、女性向けのブティックを見つけた。
ここなら、代えの衣服はいくらでもある。
案の定、自分のサイズに合う服はすぐに見つかった。
彼女はとにかく制服のイメージを大きく変えるために、白のクラシックパンツと水色のブラウスを選択した。
その上には、先ほどの民家で手に入れた漆黒のコートを着込む。中に編みこんだ髪は防具の役割を果たすからだ。
本来の彼女なら、もっと素晴らしいコーディネートを見せてくれただろうが、今の彼女にはそんな余裕は無い。
服選びに時間を割く、心理的余裕を彼女は無くしていた。
「早く、誰か助けてくれる人にっ!」
彼女は焦っていた。
一刻も早く、自分を護衛してくれる人を見つけたかった。
死への恐怖、今までに無い感情に、かつての氷のような冷静さは、失われつつあった。
一刻も早く、自分を護衛してくれる人を見つけたかった。
死への恐怖、今までに無い感情に、かつての氷のような冷静さは、失われつつあった。
「あと十分」
吸血鬼アーカードは、時計を一目見て呟く。
二回目の放送までの残り時間。
ほとんどの参加者は、放送を気にして動きを止めるだろう。
アーカードも、獲物が見つかる可能性が低いのに、太陽の下を歩く気にはならなかった。
そのため、適当な建物を見つけ、中で放送が終わるまで待つことにした。
だが、その必要はすぐに無くなった。
窓越しに見える、反対側の店のショーウインドウが鏡の役割を果たし、そこに人影が映し出された。
二回目の放送までの残り時間。
ほとんどの参加者は、放送を気にして動きを止めるだろう。
アーカードも、獲物が見つかる可能性が低いのに、太陽の下を歩く気にはならなかった。
そのため、適当な建物を見つけ、中で放送が終わるまで待つことにした。
だが、その必要はすぐに無くなった。
窓越しに見える、反対側の店のショーウインドウが鏡の役割を果たし、そこに人影が映し出された。
「獲物!怪物か、それとも逃げるだけの狗か、先ほどのような殺し屋か?」
アーカードは、外へ向かう。
狩りへの出発だ。
アーカードは、外へ向かう。
狩りへの出発だ。
「人間、私を倒してみろ!」
突然、目の前の壁が突き破られた。
少女の前に男が現れる。
獲物を見つけ、直射日光の最中にも関わらず飛び出した吸血鬼。
目は、新たなる闘争への喜びで輝いて見えた。
少女の前に男が現れる。
獲物を見つけ、直射日光の最中にも関わらず飛び出した吸血鬼。
目は、新たなる闘争への喜びで輝いて見えた。
「ひっ!?」
少女は怯えた。
だけど怯えつつも、かろうじて残っている直感で全てを感じ取った。
この男は自分を『護衛』してくれる優しい男ではないと。
むしろ、獲物を狙い『狩る』ことしか考えていないと。
だけど怯えつつも、かろうじて残っている直感で全てを感じ取った。
この男は自分を『護衛』してくれる優しい男ではないと。
むしろ、獲物を狙い『狩る』ことしか考えていないと。
――逃げないと――
少女は思った。
逃げないと死ぬと。
でも…足は震えて動かない。
目の前の男に対する恐怖は、機動力を奪った。
逃げないと死ぬと。
でも…足は震えて動かない。
目の前の男に対する恐怖は、機動力を奪った。
少女は必死で考える。
逃げると言う選択肢を失った今、何をすべきか。
あらゆる考えが、浮かんでは消えた。
その無数の案の中で、最もシンプルな選択肢が残った。
右手に持つ鎖鎌を一目、見る。
そして、一番勇気の要る選択肢を、採用した。
少女は勇気を振り絞った。
逃げると言う選択肢を失った今、何をすべきか。
あらゆる考えが、浮かんでは消えた。
その無数の案の中で、最もシンプルな選択肢が残った。
右手に持つ鎖鎌を一目、見る。
そして、一番勇気の要る選択肢を、採用した。
少女は勇気を振り絞った。
「…うっ…えいっ!」
意を決して鎖鎌の分銅を、男の頭部めがけて投げる。
自分と男の距離は、わずか三メートル。
強化された分銅は、男の頭蓋骨を砕き、脳漿をぶちまけ、彼女は勝利を収めるはずだった。
仮に分銅が急所を外しても、当たりさえすればひるんだ隙に、相手の首を鋭さを増した鎌で切り裂き、やはり彼女は勝利を手にするはずだった。
自分と男の距離は、わずか三メートル。
強化された分銅は、男の頭蓋骨を砕き、脳漿をぶちまけ、彼女は勝利を収めるはずだった。
仮に分銅が急所を外しても、当たりさえすればひるんだ隙に、相手の首を鋭さを増した鎌で切り裂き、やはり彼女は勝利を手にするはずだった。
そして彼女は死の恐怖に怯える、無力な少女ではない。
かつて、キョンに対し笑顔でナイフを向けた、このゲームでもピンク髪の少女の爪を笑顔で剥ぎ、笑顔で男二人の首を刈った、
笑顔が似合う、死を呼ぶ天使の朝倉涼子に、彼女は戻るはずだった。
かつて、キョンに対し笑顔でナイフを向けた、このゲームでもピンク髪の少女の爪を笑顔で剥ぎ、笑顔で男二人の首を刈った、
笑顔が似合う、死を呼ぶ天使の朝倉涼子に、彼女は戻るはずだった。
だった。
そのはずだった。
そのはずだった。
「どうした、ヒューマン」
理想と現実は大きく食い違った。
上半身だけの手投げ、かつての殺人的勢いは分銅には無かった。
男はあっさりと、そして当然のごとく、左手一本で分銅を掴み取ってしまった。
そしてそのまま、鎖を引っ張る。
上半身だけの手投げ、かつての殺人的勢いは分銅には無かった。
男はあっさりと、そして当然のごとく、左手一本で分銅を掴み取ってしまった。
そしてそのまま、鎖を引っ張る。
「うっ、くっ…う」
彼女も必死で鎌を、握り締める。
鎌を渡すまいと、両手で全力で、力強く握り締める。
両手は強く汗ばんでいた。
恐怖で、体は震えていた。
でも、絶対に手放せなかった。
今の彼女には、これ以外の武器が無かった。
これは彼女の強さを保つ唯一の術だった。
鎌を渡すまいと、両手で全力で、力強く握り締める。
両手は強く汗ばんでいた。
恐怖で、体は震えていた。
でも、絶対に手放せなかった。
今の彼女には、これ以外の武器が無かった。
これは彼女の強さを保つ唯一の術だった。
しかし現実は少女に対し、ことごとく残酷に進む。
「弱すぎるぞ、女!」
「きゃっ!」
男の怪力は、少女のそれを遥かに凌駕した。
鎖鎌を放さなかった少女は、自分の体ごと引っ張り上げられた。
鎖鎌を放さなかった少女は、自分の体ごと引っ張り上げられた。
――うそ!――
少女は体に浮遊感を感じる。
かつてない感覚。
周囲の全てが、スローモーションで見えた。
ただその中で、自分の体は…流されるだけだった。
かつてない感覚。
周囲の全てが、スローモーションで見えた。
ただその中で、自分の体は…流されるだけだった。
「HAHAHAHAHA、チェックメイトだ人間!!」
銃弾を失った銃、ジャッカル。
その銃身を男アーカードは右手で握り締め、鎌を握り締めたまま宙を舞う少女朝倉涼子の腹部へと叩きつける。
銃弾を失ってなお、ジャッカルは猛威を奮い続けた。
その銃身を男アーカードは右手で握り締め、鎌を握り締めたまま宙を舞う少女朝倉涼子の腹部へと叩きつける。
銃弾を失ってなお、ジャッカルは猛威を奮い続けた。
「ぐっ…はっ……」
血を吐いて、少女は倒れる。
唯一の武器も、少女の手から離れた。
その武器は、男の左手に収まった。
唯一の武器も、少女の手から離れた。
その武器は、男の左手に収まった。
「死んでないのか、素晴らしいしぶとさだ、ヒューマン」
普通なら背骨が砕け散り、致命傷となるはずだった。
しかし幸運にもジャッカルを叩き込んだ位置は、彼女が事前に服に仕込んだ硬質化した髪と同位置だった。
彼女はまだ意識があった。腹部への激しい激痛を伴いながら。
しかし幸運にもジャッカルを叩き込んだ位置は、彼女が事前に服に仕込んだ硬質化した髪と同位置だった。
彼女はまだ意識があった。腹部への激しい激痛を伴いながら。
「うっ、うう」
腹を押さえもだえ苦しむ少女、男はそんな少女に向けて、鎌を振り上げた。
ゆっくりと、だが高く、鎌は振り上げられた。
ゆっくりと、だが高く、鎌は振り上げられた。
「うう…ひっ!いやっ!お願いっやめてっ!」
少女の目に、高く振り上げられた鎌が映る。
彼女の恐怖は最高潮に達した。
自ら切れ味を強化させた鎌、あれを振り下ろされたらどうなるかは、本人が一番よく知っている。
彼女の恐怖は最高潮に達した。
自ら切れ味を強化させた鎌、あれを振り下ろされたらどうなるかは、本人が一番よく知っている。
「やめてっ!…うっうっうう」
少女の声は涙声に変わる。
目からは涙があふれ出る。
手で顔を押さえる。
男の絶大な力の前に、少女のプライドは崩壊した。
目からは涙があふれ出る。
手で顔を押さえる。
男の絶大な力の前に、少女のプライドは崩壊した。
「……」
男は無言で、一瞬動きを止めた。
「…えっ!?」
男の動きが止まった、少女の恐怖がほんの少しだけ和らぐ。
――助けてくれるの?――
少女は期待した。
このまま自分を見逃してくれることを。
もしかしたら、無力な自分を『保護』してくれるかもしれないことを。
助けてくれることを。
このまま自分を見逃してくれることを。
もしかしたら、無力な自分を『保護』してくれるかもしれないことを。
助けてくれることを。
「弱すぎる」
男の声と共に、少女の淡い期待は打ち消された。
そして次の瞬間、鎌は勢い良く振り下ろされた。
一度静止した分、力が込められていた。
狙いは、少女の…
そして次の瞬間、鎌は勢い良く振り下ろされた。
一度静止した分、力が込められていた。
狙いは、少女の…
「ひいぃぃぃっ!」
鎌は少女の顔と一センチも離れていない、路上の硬いアスファルトに鎌が深々と突き刺さった。
大きな音を立てて。
連戦によるダメージの蓄積が、手元をわずかに狂わせたのか。
少女の汗で湿った鎌の柄が、男の手を滑らせたのか。
それとも……
だがその一撃は、少女の心に絶大な恐怖を刻み付けた。
彼女は生まれて初めて、悲鳴を上げた。
そして彼女の意識は、恐怖が精神の限界を超過して、遮断された。
大きな音を立てて。
連戦によるダメージの蓄積が、手元をわずかに狂わせたのか。
少女の汗で湿った鎌の柄が、男の手を滑らせたのか。
それとも……
だがその一撃は、少女の心に絶大な恐怖を刻み付けた。
彼女は生まれて初めて、悲鳴を上げた。
そして彼女の意識は、恐怖が精神の限界を超過して、遮断された。
「つまらない、失望したぞ女!」
男は失望した、とても強く。
意識を失った少女に、罵声を浴びせるほどに。
この場に来てからの戦いは、どれも血肉踊る物だった。
意識を失った少女に、罵声を浴びせるほどに。
この場に来てからの戦いは、どれも血肉踊る物だった。
自らの首をはねた魔術師、頭を使った賃金労働者、高潔な雰囲気を保ち続け自分と対峙した生き人形、
自分に幾つもの傷を負わせた女子学生、同じく幾つもの傷を負わし、死ぬまで真正面から戦い続けた殺し屋。
自分に幾つもの傷を負わせた女子学生、同じく幾つもの傷を負わし、死ぬまで真正面から戦い続けた殺し屋。
全ての戦いが、男にとって最高に幸せな時間だった。
だが今回のような、震えて逃げることも出来ず、命乞いをするだけの少女は、男を失望させるだけだった。
だが今回のような、震えて逃げることも出来ず、命乞いをするだけの少女は、男を失望させるだけだった。
少女の黒いコートから、液体が流れる。
その少女の体液は、男の靴を汚す。
少女は自らが選んだ服を自らの体液で濡らした。
黒いコートの裏の白のクラシックパンツは、濡れて少し黒っぽくなった。
その少女の体液は、男の靴を汚す。
少女は自らが選んだ服を自らの体液で濡らした。
黒いコートの裏の白のクラシックパンツは、濡れて少し黒っぽくなった。
男は少女の醜態に、更に強く失望した。
これ以上に無いほどに。
これ以上に無いほどに。
青空には、放送を告げるギガゾンビの映像が、映し出されようとしていた。
【E-4 市街地/1日目/昼 放送直前】
【アーカード@HELLSING】
[状態]:全身に裂傷(回復中) 、靴に少女の体液が付着
[装備]:鎖鎌(ある程度、強化済み)、対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾無しのため、鈍器として使用予定)@HELLSING
[道具]:無し
[思考]:
1.とりあえず、放送を聞く。
2.目の前の少女を???
3.不愉快な日光を避けるため、一時建物に潜伏。
4.ただし、獲物を見つければ闘争に赴く。
[状態]:全身に裂傷(回復中) 、靴に少女の体液が付着
[装備]:鎖鎌(ある程度、強化済み)、対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(残弾無しのため、鈍器として使用予定)@HELLSING
[道具]:無し
[思考]:
1.とりあえず、放送を聞く。
2.目の前の少女を???
3.不愉快な日光を避けるため、一時建物に潜伏。
4.ただし、獲物を見つければ闘争に赴く。
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:恐怖による気絶、側頭部に傷(少し回復)、首までの短髪、死に対する恐怖、腹部に強い打撲。
[装備]:布状に編みこんだ髪(ある程度の強化済み) 、黒のコート(濡れている)、水色のブラウス、白いクラシックパンツ(濡れている)
[道具]:支給品一式(食料無し)、ターザンロープの切れ端@ドラえもん、輸血用血液(×3p)@HELLSING
[思考・状況]
1:目の前の男への、絶対的恐怖
2:優しい人に助けて欲しい。
3:劉鳳には会わないようにしたい。
4:桃色髪の少女が約束を守ってくれてるなら、一緒に居てほしい。
基本:絶対に死にたくない
[状態]:恐怖による気絶、側頭部に傷(少し回復)、首までの短髪、死に対する恐怖、腹部に強い打撲。
[装備]:布状に編みこんだ髪(ある程度の強化済み) 、黒のコート(濡れている)、水色のブラウス、白いクラシックパンツ(濡れている)
[道具]:支給品一式(食料無し)、ターザンロープの切れ端@ドラえもん、輸血用血液(×3p)@HELLSING
[思考・状況]
1:目の前の男への、絶対的恐怖
2:優しい人に助けて欲しい。
3:劉鳳には会わないようにしたい。
4:桃色髪の少女が約束を守ってくれてるなら、一緒に居てほしい。
基本:絶対に死にたくない
備考
アーカードが朝倉涼子をどうするかは、不明です。
朝倉涼子の支給品のSOS団団長のワッペンは、近くの女性向けブティック店内に制服と共に放置されています。
アーカードが朝倉涼子をどうするかは、不明です。
朝倉涼子の支給品のSOS団団長のワッペンは、近くの女性向けブティック店内に制服と共に放置されています。
※鎖鎌の切れ味が強化されています。
※布状に編みこんだ髪は硬度を強化されていますが、ナイフが通りにくい程度です。
※布状に編みこんだ髪は硬度を強化されていますが、ナイフが通りにくい程度です。
時系列順で読む
Back:いつか見た始まり Next:黒い死神、赤いあくま、そして銀の殺人人形
投下順で読む
Back:いつか見た始まり Next:黒い死神、赤いあくま、そして銀の殺人人形
145:正義の味方Ⅱ | アーカード | 171:「聖少女領域」(前編) |
147:KOOL EDITION | 朝倉涼子 | 171:「聖少女領域」(前編) |