深まる疑心 ◆/1XIgPEeCM
「この野郎! 絶対! ぜーったい、ぶっ飛ばしてやるからな! 覚えてやがれ!」
その体格の良い少年、剛田武が、消えていくギガゾンビの姿に向かって叫ぶ。
意味の無いことだとは分かっていても、叫ばずにはいられないのだろう。その声には、明らかに怒りが含まれていた。
「相変わらずムカつく野郎ですぅ……!」
そして彼女、翠星石もまた、怒りに震えていた。
あのような笑い声を聞かせられれば、どんな者でも多少なりとも怒りや不快感を抱くだろう。
まして、それが誰かの死を告げるという内容の後ならば。
その体格の良い少年、剛田武が、消えていくギガゾンビの姿に向かって叫ぶ。
意味の無いことだとは分かっていても、叫ばずにはいられないのだろう。その声には、明らかに怒りが含まれていた。
「相変わらずムカつく野郎ですぅ……!」
そして彼女、翠星石もまた、怒りに震えていた。
あのような笑い声を聞かせられれば、どんな者でも多少なりとも怒りや不快感を抱くだろう。
まして、それが誰かの死を告げるという内容の後ならば。
第二回目の放送によると、新たに九人もの尊い命が失われたらしい。
だが、翠星石が現在探し続けている蒼星石やジュン、そして他の姉妹達は無事のようだ。
……そう、あの水銀燈さえも。
今この場にいる四人、即ち翠星石、剛田武、園崎魅音、古手梨花の知り合いの名が今の放送で呼ばれなかったことは、不幸中の幸いと言うか、喜べることかもしれない。
しかし、これまでに失われていった三分の一以上もの命のことを考えると、どんなに神経の図太い者でも、喜ぶことなどとてもできないだろう。
だが、翠星石が現在探し続けている蒼星石やジュン、そして他の姉妹達は無事のようだ。
……そう、あの水銀燈さえも。
今この場にいる四人、即ち翠星石、剛田武、園崎魅音、古手梨花の知り合いの名が今の放送で呼ばれなかったことは、不幸中の幸いと言うか、喜べることかもしれない。
しかし、これまでに失われていった三分の一以上もの命のことを考えると、どんなに神経の図太い者でも、喜ぶことなどとてもできないだろう。
「急いだ方が良いね……」
真剣な面持ちで、魅音が言った。
急ぐ……当然、仲間探しのことだろう。
第二回放送の死者の数は第一回放送と比べ半分まで減ったとは言え、それでも充分死にすぎに思える。
こうしている間にも、自分達の知り合いが危険な目に遭っているかもしれないと考えると、自然と焦りが生まれてくるのだ。
翠星石は思う。蒼星石、真紅、ジュンを早く見つけたい。会いたい、と。
「そういえばあのギガゾンビとか言う奴、さっき妙なこと言ってたね。
これから禁止されるエリアに、身動き取れないバカがいるとかなんとか……」
魅音が顎に手を当て、何かを考えるかのような仕草でそう言った。
「も、もしかしたらそれって俺達の知ってる奴かもしれないぞ。行ってみようぜ!」
それに武が続く。やはり彼も必死なのだろう。もし彼が今単独行動をしていたならば、後先考えず駆け出して行ったに違いない。
魅音は武に向かって一度頷き、今度は翠星石の方を向いた。
「翠星石、どう思う?」
「えっ?」
突然話を振られて、思わず言葉に詰まってしまう。
「私としては、これから電車に乗るっていう予定を急遽変更して、動けない参加者とやらを助けに行きたいんだけどね」
翠星石が答えやすいように、との配慮か。魅音が先に意見を述べた。
翠星石は考える。
もし、その動けない参加者とやらが蒼星石だったら? 真紅だったら? ジュンだったら?
自分は迷わず助けに行くだろう。
しかし、その身動きできないらしい参加者のことを態々放送で伝えるギガゾンビの意図が分からない。
一体何のために? 何のためにそんなことをしたのだろうか。考えられる可能性を挙げてみる。
真剣な面持ちで、魅音が言った。
急ぐ……当然、仲間探しのことだろう。
第二回放送の死者の数は第一回放送と比べ半分まで減ったとは言え、それでも充分死にすぎに思える。
こうしている間にも、自分達の知り合いが危険な目に遭っているかもしれないと考えると、自然と焦りが生まれてくるのだ。
翠星石は思う。蒼星石、真紅、ジュンを早く見つけたい。会いたい、と。
「そういえばあのギガゾンビとか言う奴、さっき妙なこと言ってたね。
これから禁止されるエリアに、身動き取れないバカがいるとかなんとか……」
魅音が顎に手を当て、何かを考えるかのような仕草でそう言った。
「も、もしかしたらそれって俺達の知ってる奴かもしれないぞ。行ってみようぜ!」
それに武が続く。やはり彼も必死なのだろう。もし彼が今単独行動をしていたならば、後先考えず駆け出して行ったに違いない。
魅音は武に向かって一度頷き、今度は翠星石の方を向いた。
「翠星石、どう思う?」
「えっ?」
突然話を振られて、思わず言葉に詰まってしまう。
「私としては、これから電車に乗るっていう予定を急遽変更して、動けない参加者とやらを助けに行きたいんだけどね」
翠星石が答えやすいように、との配慮か。魅音が先に意見を述べた。
翠星石は考える。
もし、その動けない参加者とやらが蒼星石だったら? 真紅だったら? ジュンだったら?
自分は迷わず助けに行くだろう。
しかし、その身動きできないらしい参加者のことを態々放送で伝えるギガゾンビの意図が分からない。
一体何のために? 何のためにそんなことをしたのだろうか。考えられる可能性を挙げてみる。
罠かもしれない。
例えば、第二回放送での死者が第一回放送の死者を大きく下回ったため、参加者を一気に減らす策として、
禁止エリア予定地に動けない参加者がいるというデマを流し、まんまと引っ掛かった参加者達が時間切れで首輪爆発……。
いくらなんでもおかしすぎるか。
ギガゾンビは明らかにこの殺し合いを見て楽しんでいる。彼が自ら介入して、この『楽しい時間』とやらを短くするような真似はしないだろう。
では、参加者達を特定の場所に集めるため?
禁止エリア予定地のどれかに身動きできない参加者がいると言っておけば、自分の仲間かもしれないと思い、やって来る参加者は多そうだ。
そうして多くの参加者達を一点に集めることによって、殺し合いをより促進させる……。そう考えるのが自然に思える、が。
これは下手をすれば、ギガゾンビ打倒の一大グループが結成してしまうことも十二分に有り得る。
そうなると不利になるのは勿論、奴等である。よって、この可能性も低いだろう。
ならば、あの発言はギガゾンビの単なる『気まぐれ』だとでも言うのだろうか。
殺し合いが早く終わるのも、ギガゾンビ打倒グループを結成されるのも何のその。
ただ、『こんなこと言ってみたら面白いかな』的な考えで言っただけかもしれない。そう思うと、途端に考えるのが馬鹿らしく感じた。
例えば、第二回放送での死者が第一回放送の死者を大きく下回ったため、参加者を一気に減らす策として、
禁止エリア予定地に動けない参加者がいるというデマを流し、まんまと引っ掛かった参加者達が時間切れで首輪爆発……。
いくらなんでもおかしすぎるか。
ギガゾンビは明らかにこの殺し合いを見て楽しんでいる。彼が自ら介入して、この『楽しい時間』とやらを短くするような真似はしないだろう。
では、参加者達を特定の場所に集めるため?
禁止エリア予定地のどれかに身動きできない参加者がいると言っておけば、自分の仲間かもしれないと思い、やって来る参加者は多そうだ。
そうして多くの参加者達を一点に集めることによって、殺し合いをより促進させる……。そう考えるのが自然に思える、が。
これは下手をすれば、ギガゾンビ打倒の一大グループが結成してしまうことも十二分に有り得る。
そうなると不利になるのは勿論、奴等である。よって、この可能性も低いだろう。
ならば、あの発言はギガゾンビの単なる『気まぐれ』だとでも言うのだろうか。
殺し合いが早く終わるのも、ギガゾンビ打倒グループを結成されるのも何のその。
ただ、『こんなこと言ってみたら面白いかな』的な考えで言っただけかもしれない。そう思うと、途端に考えるのが馬鹿らしく感じた。
そうして、どうでも良いことを深く考え込んでいたからだろう。
「おい翠星石、聞いてんのかよ?」
目の前にまで武が近付いていたことに気付かなかった。
魅音は、自分が悩んでいるとでも思ったのだろうか、口を出さずに答えを待っているようだった。
「あっ、えっと……良いと、思いますけど……」
とりあえず、ここはより確実な方を選んでみる。
先程レジャービルを探検した時も、結局自分が探している者は見付けられなかったのだ。闇雲に探し回っても、見付けられはしない。
第二回目の放送で得られた、動けない参加者の情報。それが真実であるか虚偽であるかははっきりとは分からないが、あんな嘘を付く理由も無いだろう。
三つある禁止エリア予定地の内のどれかに、動けない誰かがいる。それは、自分が探し求めている者かもしれない。
最早、藁にも縋る思いだった。だから、翠星石は『良い』と言った。
「じゃあ最後、梨花ちゃんは?」
翠星石の返事を確認したのか、魅音は梨花に問い掛けた。
「おい翠星石、聞いてんのかよ?」
目の前にまで武が近付いていたことに気付かなかった。
魅音は、自分が悩んでいるとでも思ったのだろうか、口を出さずに答えを待っているようだった。
「あっ、えっと……良いと、思いますけど……」
とりあえず、ここはより確実な方を選んでみる。
先程レジャービルを探検した時も、結局自分が探している者は見付けられなかったのだ。闇雲に探し回っても、見付けられはしない。
第二回目の放送で得られた、動けない参加者の情報。それが真実であるか虚偽であるかははっきりとは分からないが、あんな嘘を付く理由も無いだろう。
三つある禁止エリア予定地の内のどれかに、動けない誰かがいる。それは、自分が探し求めている者かもしれない。
最早、藁にも縋る思いだった。だから、翠星石は『良い』と言った。
「じゃあ最後、梨花ちゃんは?」
翠星石の返事を確認したのか、魅音は梨花に問い掛けた。
「ボクは、反対なのですよ」
返って来たのは、意外な返答だった。
「え? 梨花ちゃん……何で?」
と、魅音が頭の上に疑問符を乗せているかのような表情で問う。
「あの話は嘘かもしれないのです。本当かどうか分からないのですよ?」
と、魅音が頭の上に疑問符を乗せているかのような表情で問う。
「あの話は嘘かもしれないのです。本当かどうか分からないのですよ?」
嘘。
それは今さっき、翠星石も考えたことだった。
しかし、あんな嘘を付く理由がまるで見当たらない。恐らく本当のことをギガゾンビは言っているのだ、という結論に至ったわけだが……。
「梨花ちゃん。確かに私もあのギガゾンビとかいう奴に踊らされてる感じがして、あんまり良い気しないんだけどさ……ここは賭けてみない?」
と、魅音が説得を試みる。しかし、梨花は今度はこんなことを言い出した。
「みー、禁止エリアは恐いのですよ。近寄らない方が身のためなのです」
確かに、無闇に禁止エリア予定地に入るのは危ないことだと思う。その上で人を探し出し、救出すると言うのならば尚更だ。
人探しに夢中で、時間に気付かずボンッ、なんてことになったら、それこそコントだ。流石にそれは無いだろうが。
まあとにかく、これを行うにはちょっとした度胸が必要だろう。梨花のような小学生の女の子では、恐いと思うのは当然かもしれない。
「馬鹿野郎! 俺達の仲間が動けないかもしれないってのに、そんな理由で見殺しにすんのかよ!」
しかしそんな梨花を一喝したのは、他でもない彼、剛田武であった。
ただ禁止エリアが危ないから。そんな理由で自分の友人かもしれない誰かを放っておくなどと聞けば、単純で仲間想いな彼が怒るのも無理も無いことだろう。
怒りを露にする武の前に梨花は少し怯んだが、しかし。
「でも……」
上目遣いで目をうるうるさせ、尚も譲らない梨花に向かって、痺れを切らした翠星石は言った。
「梨花、もしかして何か都合の悪いことでもあるですか?」
それは今さっき、翠星石も考えたことだった。
しかし、あんな嘘を付く理由がまるで見当たらない。恐らく本当のことをギガゾンビは言っているのだ、という結論に至ったわけだが……。
「梨花ちゃん。確かに私もあのギガゾンビとかいう奴に踊らされてる感じがして、あんまり良い気しないんだけどさ……ここは賭けてみない?」
と、魅音が説得を試みる。しかし、梨花は今度はこんなことを言い出した。
「みー、禁止エリアは恐いのですよ。近寄らない方が身のためなのです」
確かに、無闇に禁止エリア予定地に入るのは危ないことだと思う。その上で人を探し出し、救出すると言うのならば尚更だ。
人探しに夢中で、時間に気付かずボンッ、なんてことになったら、それこそコントだ。流石にそれは無いだろうが。
まあとにかく、これを行うにはちょっとした度胸が必要だろう。梨花のような小学生の女の子では、恐いと思うのは当然かもしれない。
「馬鹿野郎! 俺達の仲間が動けないかもしれないってのに、そんな理由で見殺しにすんのかよ!」
しかしそんな梨花を一喝したのは、他でもない彼、剛田武であった。
ただ禁止エリアが危ないから。そんな理由で自分の友人かもしれない誰かを放っておくなどと聞けば、単純で仲間想いな彼が怒るのも無理も無いことだろう。
怒りを露にする武の前に梨花は少し怯んだが、しかし。
「でも……」
上目遣いで目をうるうるさせ、尚も譲らない梨花に向かって、痺れを切らした翠星石は言った。
「梨花、もしかして何か都合の悪いことでもあるですか?」
彼女がその言葉を発した瞬間、梨花の表情が、僅かに変わったように見えた。
翠星石はその時、触れてはいけない何かに触れてしまったかのような感覚に襲われた。
今の言葉が癪に障ったのだろうかと、一瞬そう思ったのだが……。
「ボクが悪かったのです。我侭言ってごめんなさいなのです」
翠星石が色々考えるより早く、梨花は三人に向かってペコリと頭を下げ、謝罪を表明した。
「あー、いいっていいって。別に誰も怒ってないしさ」
そんな梨花に、魅音が慌ててフォローを入れる。
どう見てもさっき武は怒っていたじゃないか。と、はっきり言ってやりたい衝動に駆られたが、翠星石はそれをぐっと抑える。
「いや、その……俺も熱くなっちまったみたいで、悪かった」
やはり仲間同士で争うべきではないと判断したのか、今度は武が申し訳無さそうな顔で梨花に謝る。
「ボクは気にしてないのですよ」
そう言って梨花は、にぱー、と満面の笑みを向けた。武と魅音はその笑顔に一瞬きょとんとしたが、すぐに釣られて笑った。
……ただ一人、翠星石だけが笑えなかった。
今の言葉が癪に障ったのだろうかと、一瞬そう思ったのだが……。
「ボクが悪かったのです。我侭言ってごめんなさいなのです」
翠星石が色々考えるより早く、梨花は三人に向かってペコリと頭を下げ、謝罪を表明した。
「あー、いいっていいって。別に誰も怒ってないしさ」
そんな梨花に、魅音が慌ててフォローを入れる。
どう見てもさっき武は怒っていたじゃないか。と、はっきり言ってやりたい衝動に駆られたが、翠星石はそれをぐっと抑える。
「いや、その……俺も熱くなっちまったみたいで、悪かった」
やはり仲間同士で争うべきではないと判断したのか、今度は武が申し訳無さそうな顔で梨花に謝る。
「ボクは気にしてないのですよ」
そう言って梨花は、にぱー、と満面の笑みを向けた。武と魅音はその笑顔に一瞬きょとんとしたが、すぐに釣られて笑った。
……ただ一人、翠星石だけが笑えなかった。
「翠星石、あんたさっきから随分口数少ないけど……大丈夫?」
自然と顔が俯き加減になってしまったからだろうか。魅音が翠星石に話しかけてきた。
「し、心配無用ですぅ。それより、いつになったら出発するですか?」
自然と顔が俯き加減になってしまったからだろうか。魅音が翠星石に話しかけてきた。
「し、心配無用ですぅ。それより、いつになったら出発するですか?」
5分後。
「で、居なかったらこっちに行く。これで良いね?」
地図のあちらこちらに指を走らせ、魅音が他の三人に問う。
「おう!」
「異議なし! ですぅ」
「良いですよ」
地図を囲むようにしゃがみ込み、それを見ていた武、翠星石、梨花は賛成の意を返した。
地図のあちらこちらに指を走らせ、魅音が他の三人に問う。
「おう!」
「異議なし! ですぅ」
「良いですよ」
地図を囲むようにしゃがみ込み、それを見ていた武、翠星石、梨花は賛成の意を返した。
今後の予定は思いの外早く決まった。
まず電車に乗ることを止め、ここから西方へ向かって行き、E-4を捜索する。勿論、身動きできない参加者とやらを探し出し、救出するためだ。
その参加者が自分達の探している者とは違ったとしても、助けてあげれば情報交換程度はできるかもしれない。
捜索すべき場所は三つだが、B-1は遠すぎる上に、あと1時間も経たぬ内に禁止エリアとなってしまう。
よって、残念ではあるが、全ての禁止エリア予定地を回ることは事実上不可能だ。
しかし二つならば充分可能である。今自分達がいる所の左隣のエリアを探索し、そして15時までに何も収穫が無ければ、もう一つ、F-8へ行く。
これが、これからの自分達の行動指針である。
まず電車に乗ることを止め、ここから西方へ向かって行き、E-4を捜索する。勿論、身動きできない参加者とやらを探し出し、救出するためだ。
その参加者が自分達の探している者とは違ったとしても、助けてあげれば情報交換程度はできるかもしれない。
捜索すべき場所は三つだが、B-1は遠すぎる上に、あと1時間も経たぬ内に禁止エリアとなってしまう。
よって、残念ではあるが、全ての禁止エリア予定地を回ることは事実上不可能だ。
しかし二つならば充分可能である。今自分達がいる所の左隣のエリアを探索し、そして15時までに何も収穫が無ければ、もう一つ、F-8へ行く。
これが、これからの自分達の行動指針である。
「よし! そうと決まれば早く行こうぜ!」
武は既にやる気満々、今にも走り出しそうなご様子だ。
「あ、ちょっと待って」
と、それを魅音が引き止めた。
「翠星石に言いたかったことがあるんだけどさ」
そう言って、翠星石を見下ろす魅音。彼女の言葉に、翠星石は少しだけ驚いた。
自分に言っておきたいこと……一体なんだろうか。想像もつかない。
「? 何ですか?」
翠星石は魅音を見上げた。見下ろされる者と見上げられる者。その二人の視線が、見事なまでに交わる。
魅音は言った。
武は既にやる気満々、今にも走り出しそうなご様子だ。
「あ、ちょっと待って」
と、それを魅音が引き止めた。
「翠星石に言いたかったことがあるんだけどさ」
そう言って、翠星石を見下ろす魅音。彼女の言葉に、翠星石は少しだけ驚いた。
自分に言っておきたいこと……一体なんだろうか。想像もつかない。
「? 何ですか?」
翠星石は魅音を見上げた。見下ろされる者と見上げられる者。その二人の視線が、見事なまでに交わる。
魅音は言った。
「あんたの武器にさ、拳銃があったよね」
彼女はいきなり何を言い出すのか。
「もし良かったら、それ私に」
「嫌ですっ!!」
「嫌ですっ!!」
魅音が最後まで言うのを遮って、翠星石は悲鳴に近い大声を上げた。半ば反射的に出てしまった言葉だった。
他の三人は、突然翠星石が声を荒げたことに呆気に取られているようだ。
魅音は、自分が翠星石に警戒の眼差しで見られていることに気付いたのか、慌てて釈明した。
「あ、いや、別にそれで悪いことしようってわけじゃないよ? 私さ、実は銃の扱いとかちょっと得意なんだよ。
あんたのその小さい手じゃ扱うのは難しいだろうし、私もそれならいざって時に戦いやすいかなー、なーんて……」
気まずい沈黙が10秒ほど流れる。
「翠星石の物は翠星石の物です、他の誰にも渡さないです……」
沈黙の果てに、翠星石は俯きながら、それだけを搾り出すように言った。
「……あ、あはっ、そっかそっか。いや、ごめんね? 突然変なこと言っちゃって」
魅音は翠星石の気持ちを落ち着かせようとするためか、笑いながら謝る。当然、その笑顔はぎこちないものだったのだが。
「魅音ねーちゃんが戦う必要なんて無いんだぜ? 俺がみんな守ってやるんだからよ」
二人の会話の一部始終を聞いていた武が割り入ってきた。その表情には頼もしさが感じられた。
「そうなのです。武はとっても強いのですよ」
梨花も口元に可愛らしい笑みを浮かべ、会話に加わった。
「あ、あっはっは、それもそうだねぇ! じゃあ、期待してるよ武君!」
言いながら、魅音は武の肩をぽんぽん、と叩く。
「おう! まかせとけ! ……つうかよ、いい加減早く行こうぜ?」
「ああ、そうだね。行くよ、梨花ちゃん、翠星石」
魅音は二人に呼びかけてから、武と並んで歩き出した。
他の三人は、突然翠星石が声を荒げたことに呆気に取られているようだ。
魅音は、自分が翠星石に警戒の眼差しで見られていることに気付いたのか、慌てて釈明した。
「あ、いや、別にそれで悪いことしようってわけじゃないよ? 私さ、実は銃の扱いとかちょっと得意なんだよ。
あんたのその小さい手じゃ扱うのは難しいだろうし、私もそれならいざって時に戦いやすいかなー、なーんて……」
気まずい沈黙が10秒ほど流れる。
「翠星石の物は翠星石の物です、他の誰にも渡さないです……」
沈黙の果てに、翠星石は俯きながら、それだけを搾り出すように言った。
「……あ、あはっ、そっかそっか。いや、ごめんね? 突然変なこと言っちゃって」
魅音は翠星石の気持ちを落ち着かせようとするためか、笑いながら謝る。当然、その笑顔はぎこちないものだったのだが。
「魅音ねーちゃんが戦う必要なんて無いんだぜ? 俺がみんな守ってやるんだからよ」
二人の会話の一部始終を聞いていた武が割り入ってきた。その表情には頼もしさが感じられた。
「そうなのです。武はとっても強いのですよ」
梨花も口元に可愛らしい笑みを浮かべ、会話に加わった。
「あ、あっはっは、それもそうだねぇ! じゃあ、期待してるよ武君!」
言いながら、魅音は武の肩をぽんぽん、と叩く。
「おう! まかせとけ! ……つうかよ、いい加減早く行こうぜ?」
「ああ、そうだね。行くよ、梨花ちゃん、翠星石」
魅音は二人に呼びかけてから、武と並んで歩き出した。
翠星石は、突っ立ったまま動かなかった。
「翠星石? 早くしないと遅れてしまうのですよ」
二人に続いて歩き始めようとした梨花が、翠星石の方に振り向き、言った。
「分かってるです……」
二人に続いて歩き始めようとした梨花が、翠星石の方に振り向き、言った。
「分かってるです……」
今、四人はすぐ隣のエリア、E-4へと向かっている。
先頭を歩くのは勿論、武である。その理由はやはり彼の性格からか、女を守るという男としての義務感からか、それとも。
そしてその武の後ろから、魅音、梨花、そして翠星石の順に付いて行く。
先頭を歩くのは勿論、武である。その理由はやはり彼の性格からか、女を守るという男としての義務感からか、それとも。
そしてその武の後ろから、魅音、梨花、そして翠星石の順に付いて行く。
しかし最後尾の彼女、翠星石の足取りは重い。
先の一連の出来事によって、彼女は梨花と魅音に対する警戒心を更に強めざるを得なかった。
数時間前に雑貨店で朝食を摂った時から思っていたのだが、どうもこの二人は信用できない。
魅音に至っては、先程拳銃をよこせなどと言ってきた。
そういえば、雑貨店で支給品の見せ合いをした時に、彼女は自分の銃をどこか物欲しそうな目で見ていたような気がする。
彼女は今のところ一番最後に仲間になった上に、水銀燈と裏で手を結んでいる可能性もあるのだ。そんな相手に易々と銃は渡せない。
彼女が本当に自分達に危害を加えるつもりが無いのであれば、銃を手にした彼女はなかなか心強い存在となるかもしれない。
だが、銃を渡した瞬間バンバンバン、なんて危険性も拭い切れない。
その場で即射殺とまでは行かずとも、いつ裏切られたりするか分かったものではないのだ。
そして注意すべきはもう一人、梨花である。
水銀燈と組んでいるかもしれない魅音の友人であるという点もまた理由の一つだが、何が一番怪しいかと言えば、やはり彼女の言動である。
身動きできない参加者を探しに行くことを反対した梨花。
都合の悪いことでもあるのかと聞けば、僅かに表情を変化させた梨花。
そして彼女は、第二回放送前にレジャービルを探検した時、遊園地に行くことにも反対していた。
これは、一体どういうことなのだろうか。
考えられる理由は一つ。遊園地に行くにしろ、身動きできない参加者を探しに行くにしろ、それらは彼女にとって何かしら『都合が悪い』ことに違いない。
しかしその都合の悪いこととは何なのか。それがよく分からない。
知り合いに遭いたくないから? いや、その理屈はおかしい。
雑貨店で武の料理を自分が大批判していた時、彼女は偶然外を歩いていた友人の姿を見つけ、そして自分から声をかけたのだ。
知り合いに遭いたくないのならば、例えその姿を見かけても、見なかったふりをしてやり過ごすのが自然ではないか。
そもそも、知り合いに遭いたくない理由は?
いきなりこんな訳の分からない所に連れて来られたら、まずは自分と親しい人を探そうと考えるのが普通ではないのか。
……分からない。
今、自分の目の前を歩いているこの少女が何を考えているのか、全く分からない。
しかも、彼女は無口とまでは行かずとも口数は他の者と比べて少ないし、同じく表情の変化も控えめであるため、余計に分かりにくい。
雑貨店で魅音と合流した時に鏡越しに見た、梨花のあの目。
あの時は妙な恐怖心に駆られてすぐに目を逸らしてしまったのだが、今思い返せば、
あれはもしかしたら自分が何を考えているのかを探ろうとしていた目ではなかっただろうか。
そう考えると、途端に恐ろしく感じた。
先の一連の出来事によって、彼女は梨花と魅音に対する警戒心を更に強めざるを得なかった。
数時間前に雑貨店で朝食を摂った時から思っていたのだが、どうもこの二人は信用できない。
魅音に至っては、先程拳銃をよこせなどと言ってきた。
そういえば、雑貨店で支給品の見せ合いをした時に、彼女は自分の銃をどこか物欲しそうな目で見ていたような気がする。
彼女は今のところ一番最後に仲間になった上に、水銀燈と裏で手を結んでいる可能性もあるのだ。そんな相手に易々と銃は渡せない。
彼女が本当に自分達に危害を加えるつもりが無いのであれば、銃を手にした彼女はなかなか心強い存在となるかもしれない。
だが、銃を渡した瞬間バンバンバン、なんて危険性も拭い切れない。
その場で即射殺とまでは行かずとも、いつ裏切られたりするか分かったものではないのだ。
そして注意すべきはもう一人、梨花である。
水銀燈と組んでいるかもしれない魅音の友人であるという点もまた理由の一つだが、何が一番怪しいかと言えば、やはり彼女の言動である。
身動きできない参加者を探しに行くことを反対した梨花。
都合の悪いことでもあるのかと聞けば、僅かに表情を変化させた梨花。
そして彼女は、第二回放送前にレジャービルを探検した時、遊園地に行くことにも反対していた。
これは、一体どういうことなのだろうか。
考えられる理由は一つ。遊園地に行くにしろ、身動きできない参加者を探しに行くにしろ、それらは彼女にとって何かしら『都合が悪い』ことに違いない。
しかしその都合の悪いこととは何なのか。それがよく分からない。
知り合いに遭いたくないから? いや、その理屈はおかしい。
雑貨店で武の料理を自分が大批判していた時、彼女は偶然外を歩いていた友人の姿を見つけ、そして自分から声をかけたのだ。
知り合いに遭いたくないのならば、例えその姿を見かけても、見なかったふりをしてやり過ごすのが自然ではないか。
そもそも、知り合いに遭いたくない理由は?
いきなりこんな訳の分からない所に連れて来られたら、まずは自分と親しい人を探そうと考えるのが普通ではないのか。
……分からない。
今、自分の目の前を歩いているこの少女が何を考えているのか、全く分からない。
しかも、彼女は無口とまでは行かずとも口数は他の者と比べて少ないし、同じく表情の変化も控えめであるため、余計に分かりにくい。
雑貨店で魅音と合流した時に鏡越しに見た、梨花のあの目。
あの時は妙な恐怖心に駆られてすぐに目を逸らしてしまったのだが、今思い返せば、
あれはもしかしたら自分が何を考えているのかを探ろうとしていた目ではなかっただろうか。
そう考えると、途端に恐ろしく感じた。
ああ、全ては自分の誇大妄想だったらどんなに良いことか。
梨花も魅音も悪いことなんか何も考えていなくて、ただ純粋に自分を仲間として扱ってくれている。そう思いたい。
思いたいのに。
自分の身や蒼星石の身がかかっているのだと思うと、疑心を抱かずにはいられないのだ。
しかし、これではまるで……。
梨花も魅音も悪いことなんか何も考えていなくて、ただ純粋に自分を仲間として扱ってくれている。そう思いたい。
思いたいのに。
自分の身や蒼星石の身がかかっているのだと思うと、疑心を抱かずにはいられないのだ。
しかし、これではまるで……。
その時。
ギガゾンビの忌々しい笑い声が、聞こえたような気がした。
ギガゾンビの忌々しい笑い声が、聞こえたような気がした。
【E-5・西部 住宅街/1日目 日中】
【年少組 引率:魅音】
[共通]
1:E-4 → F-8の順に回って身動きのできない参加者を探す。
2:カレイドルビーと水銀燈を警戒。
[共通]
1:E-4 → F-8の順に回って身動きのできない参加者を探す。
2:カレイドルビーと水銀燈を警戒。
【剛田武@ドラえもん】
[状態]:健康
[装備]:虎竹刀@Fate/ stay night、強力うちわ「風神」@ドラえもん
[道具]:支給品一式、エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に
ジャイアンシチュー(2リットルペットボトルに入れてます)@ドラえもん
シュールストレミング一缶、缶切り
[思考・状況]
1:手遅れになる前にのび太を捜す
2:翠星石と梨花と魅音を守り抜く
3:ドラえもんを捜す
基本:誰も殺したくない
最終:ギガゾンビをギッタギタのメッタメタにしてやる
[状態]:健康
[装備]:虎竹刀@Fate/ stay night、強力うちわ「風神」@ドラえもん
[道具]:支給品一式、エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に
ジャイアンシチュー(2リットルペットボトルに入れてます)@ドラえもん
シュールストレミング一缶、缶切り
[思考・状況]
1:手遅れになる前にのび太を捜す
2:翠星石と梨花と魅音を守り抜く
3:ドラえもんを捜す
基本:誰も殺したくない
最終:ギガゾンビをギッタギタのメッタメタにしてやる
【園崎魅音@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:疲労(小)
[装備]:エスクード(炎)@魔法騎士レイアース 、ピッケル
[道具]:スルメ二枚、表記なしの缶詰二缶、レジャー用の衣服数着
[思考・状況]
1:翠星石の言動に違和感
2:武からはもっと、いずれはドラえもんからもギガゾンビや首輪について情報を聞く
3:圭一ら仲間を探して合流
4:胃腸薬ほしい
5:襲われたらとりあえず逃走
6:拳銃が欲しい(翠星石のは諦めた)
7:クーガー、まだ生きてたの
基本:バトルロワイアルの打倒。
[状態]:疲労(小)
[装備]:エスクード(炎)@魔法騎士レイアース 、ピッケル
[道具]:スルメ二枚、表記なしの缶詰二缶、レジャー用の衣服数着
[思考・状況]
1:翠星石の言動に違和感
2:武からはもっと、いずれはドラえもんからもギガゾンビや首輪について情報を聞く
3:圭一ら仲間を探して合流
4:胃腸薬ほしい
5:襲われたらとりあえず逃走
6:拳銃が欲しい(翠星石のは諦めた)
7:クーガー、まだ生きてたの
基本:バトルロワイアルの打倒。
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:スタンガン(服の影に隠しています)@ひぐらしのなく頃に
虎のストラップ@Fate/ stay night
[道具]:荷物一式三人分、ロベルタの傘@BLACK LAGOON
ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING
ビール二缶
[思考・状況]
1:できれば身動きできない参加者を探しに行きたくない
2:翠星石を警戒(自分を疑っているのではないか?)
3:猫をかぶって、魅音と剛田武と翠星石を利用する
4:三人が役に立たなくなったら、隙を見て殺す
5:ゲームに対して、若干の不安と不信あり
圭一達の『雛見沢症候群』が治療されてるかどうかの不安など
6:羽入を探す
基本:ステルスマーダーとしてゲームに乗る。チャンスさえあれば積極的に殺害
最終:ゲームに優勝し、願いを叶える
[状態]:健康
[装備]:スタンガン(服の影に隠しています)@ひぐらしのなく頃に
虎のストラップ@Fate/ stay night
[道具]:荷物一式三人分、ロベルタの傘@BLACK LAGOON
ハルコンネン(爆裂鉄鋼焼夷弾:残弾5発、劣化ウラン弾:残弾6発)@HELLSING
ビール二缶
[思考・状況]
1:できれば身動きできない参加者を探しに行きたくない
2:翠星石を警戒(自分を疑っているのではないか?)
3:猫をかぶって、魅音と剛田武と翠星石を利用する
4:三人が役に立たなくなったら、隙を見て殺す
5:ゲームに対して、若干の不安と不信あり
圭一達の『雛見沢症候群』が治療されてるかどうかの不安など
6:羽入を探す
基本:ステルスマーダーとしてゲームに乗る。チャンスさえあれば積極的に殺害
最終:ゲームに優勝し、願いを叶える
【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:中度の精神疲労 疑心暗鬼
[装備]:FNブローニングM1910(弾:7/6+1)@ルパン三世 、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ
[道具]:支給品一式、オレンジジュース二缶
[思考・状況]
1:魅音と梨花を強く警戒(水銀燈と結託しているのではないか?)
2:も、もちろんデブ人間を一応警戒するのも忘れてないですっ!
3:蒼星石を捜して鋏を届ける
4:真紅とチビ人間(桜田ジュン)も“ついでに”捜す
5:デブ人間(剛田武)の知り合いも“ついでのついでに”探してやる
6:庭師の如雨露を見つける。
基本:蒼星石と共にあることができるよう動く
[状態]:中度の精神疲労 疑心暗鬼
[装備]:FNブローニングM1910(弾:7/6+1)@ルパン三世 、庭師の鋏@ローゼンメイデンシリーズ
[道具]:支給品一式、オレンジジュース二缶
[思考・状況]
1:魅音と梨花を強く警戒(水銀燈と結託しているのではないか?)
2:も、もちろんデブ人間を一応警戒するのも忘れてないですっ!
3:蒼星石を捜して鋏を届ける
4:真紅とチビ人間(桜田ジュン)も“ついでに”捜す
5:デブ人間(剛田武)の知り合いも“ついでのついでに”探してやる
6:庭師の如雨露を見つける。
基本:蒼星石と共にあることができるよう動く
[備考]:彼女ら4人は、それぞれの知り合いの情報を共有しています
魅音の所持している缶詰の中身は不明です
4人はシュールストレミングがどんなものか知りません
魅音の所持している缶詰の中身は不明です
4人はシュールストレミングがどんなものか知りません
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152:浮かぶ姿は暗雲 | 剛田武 | 178:最期の四重奏―それぞれの誓い― |
152:浮かぶ姿は暗雲 | 園崎魅音 | 178:最期の四重奏―それぞれの誓い― |
152:浮かぶ姿は暗雲 | 古手梨花 | 178:最期の四重奏―それぞれの誓い― |
152:浮かぶ姿は暗雲 | 翠星石 | 178:最期の四重奏―それぞれの誓い― |