失われた時を求めて ◆k97rDX.Hc.
彼は、駅前の雑居ビルの3Fにその場所を見つけた。
人影のないカウンターの前を通り過ぎ、左右にたくさんのドアが並んだ廊下に踏み込む。
固いノブを捻ってそうしたドアの1つを押し開けると、そこはソファの並んだ小部屋になっていた。
彼は後ろ手にドアを閉めると、奥のソファに座り込んだ。
右の拳を固めて、テーブルにたたきつける。その上に載せられていた灰皿が衝撃ではねるが、
それだけだった。
彼は痛む拳を解くと、頭を抱えてうずくまった。
いつもの交差点。学校への道。他愛のないおしゃべり。
人々の集められた部屋。仮面の男。爆発音。
無人の街。誰もいないビル。この部屋にただ1人の自分。
永遠に失われた平穏な日々と今。あの惨劇の前後ですべてが変わってしまっていた。
人影のないカウンターの前を通り過ぎ、左右にたくさんのドアが並んだ廊下に踏み込む。
固いノブを捻ってそうしたドアの1つを押し開けると、そこはソファの並んだ小部屋になっていた。
彼は後ろ手にドアを閉めると、奥のソファに座り込んだ。
右の拳を固めて、テーブルにたたきつける。その上に載せられていた灰皿が衝撃ではねるが、
それだけだった。
彼は痛む拳を解くと、頭を抱えてうずくまった。
いつもの交差点。学校への道。他愛のないおしゃべり。
人々の集められた部屋。仮面の男。爆発音。
無人の街。誰もいないビル。この部屋にただ1人の自分。
永遠に失われた平穏な日々と今。あの惨劇の前後ですべてが変わってしまっていた。
だが、その前に戻るすべがあるのだとしたら……
テーブルにおいてあるリモコンをぼんやりと眺めていた彼の瞳が、決意を帯びたものへと変わる。
それを手にとってボタンを押す。すると、部屋の隅にしつらえられたモニターに光がともった。
彼はその機械を使ったことはなかったが、勘と画面を頼りにリモコンを操作する。
ある儀式の準備を整えるためだ。
彼にとっては本来、その儀式はこんなときに行うべきものではない。
だが、
喪われた友を悼むために。自らを奮い立たせ、前へと進むために。
今は、それが必要なときだった。
それを手にとってボタンを押す。すると、部屋の隅にしつらえられたモニターに光がともった。
彼はその機械を使ったことはなかったが、勘と画面を頼りにリモコンを操作する。
ある儀式の準備を整えるためだ。
彼にとっては本来、その儀式はこんなときに行うべきものではない。
だが、
喪われた友を悼むために。自らを奮い立たせ、前へと進むために。
今は、それが必要なときだった。
一心不乱に画面を見つめる彼は気づかなかった。
きちんとロックできていなかったドアが、内側へと薄く開いていることに。
きちんとロックできていなかったドアが、内側へと薄く開いていることに。
○
「まったく、これじゃしょうがねーです。」
彼女は、自分の前に立ちふさがるドアを前に、腕組みをしてため息をついた。
ドアノブは彼女が精一杯手を伸ばし、それでもぎりぎり届かない位置にある。
「ギガ……なんだか知らんですが、少しは気を利かせてもっとましな場所に飛ばしやがれです。
どれ、なにを入れたか見てやるです」
そう文句を言ってソファの上のデイパックのところまで戻ると、彼女はその中に手を突っ込んだ。
このゲームが始まってからというもの、彼女はこの部屋に閉じ込められたまま動けずにいた。
人工精霊が呼びかけにこたえない以上、彼女1人で何とかするしかない。
鼻歌を歌いながら中身をまさぐり、当たったものをつかんで勢いよく引き出した。
「じゃじゃ~ん……!?」
自分の手に握られたものを見て彼女は一驚した。
慌ててテーブルの上にそれをおくと、今度は参加者の名簿を取り出し、一心不乱に目を動かす。
時折見知った名を見かけるがそのまま作業を続け、最後に、1つの名前のところで指が止まった。
「……蒼星石」
呟いて、テーブルの上に目を落とす。
華麗な装飾が施された金色のもち手。剪定を行うためのしっかりとした刃。
それこそ、
戦いの中でローザミスティカを奪われ、ただの人形になってしまった薔薇乙女の第四ドール。
彼女の失われた半身。
ただ1人の双子の妹――蒼星石の持つ庭師の鋏に違いなかった。
それをじっと見つめる彼女の瞳に映っているのは鋏なのか、それともかつての日々の残滓なのか。
しばらくの間そうしてからソファを飛び降りる。
彼女は名簿をしまって鋏をつかむと、この場に立ちふさがる障害――部屋のドアをにらみつけた。
彼女は、自分の前に立ちふさがるドアを前に、腕組みをしてため息をついた。
ドアノブは彼女が精一杯手を伸ばし、それでもぎりぎり届かない位置にある。
「ギガ……なんだか知らんですが、少しは気を利かせてもっとましな場所に飛ばしやがれです。
どれ、なにを入れたか見てやるです」
そう文句を言ってソファの上のデイパックのところまで戻ると、彼女はその中に手を突っ込んだ。
このゲームが始まってからというもの、彼女はこの部屋に閉じ込められたまま動けずにいた。
人工精霊が呼びかけにこたえない以上、彼女1人で何とかするしかない。
鼻歌を歌いながら中身をまさぐり、当たったものをつかんで勢いよく引き出した。
「じゃじゃ~ん……!?」
自分の手に握られたものを見て彼女は一驚した。
慌ててテーブルの上にそれをおくと、今度は参加者の名簿を取り出し、一心不乱に目を動かす。
時折見知った名を見かけるがそのまま作業を続け、最後に、1つの名前のところで指が止まった。
「……蒼星石」
呟いて、テーブルの上に目を落とす。
華麗な装飾が施された金色のもち手。剪定を行うためのしっかりとした刃。
それこそ、
戦いの中でローザミスティカを奪われ、ただの人形になってしまった薔薇乙女の第四ドール。
彼女の失われた半身。
ただ1人の双子の妹――蒼星石の持つ庭師の鋏に違いなかった。
それをじっと見つめる彼女の瞳に映っているのは鋏なのか、それともかつての日々の残滓なのか。
しばらくの間そうしてからソファを飛び降りる。
彼女は名簿をしまって鋏をつかむと、この場に立ちふさがる障害――部屋のドアをにらみつけた。
○
モニターに映し出された“それ”を彼はまじまじと見つめた。
“それ”がここに存在することはありえない。少なくとも、彼がそのことを知らないはずがない。
そこまで考えて、彼はかぶりを振って頭の中から疑問を追い出した。
この儀式には“それ”がもっともふさわしい。その事実の前にすべては無意味だったからだ。
彼は震える指でリモコンのスイッチを押した。
すると、画面が切り替わり……室内に、軽妙なイントロが流れだした。
“それ”がここに存在することはありえない。少なくとも、彼がそのことを知らないはずがない。
そこまで考えて、彼はかぶりを振って頭の中から疑問を追い出した。
この儀式には“それ”がもっともふさわしい。その事実の前にすべては無意味だったからだ。
彼は震える指でリモコンのスイッチを押した。
すると、画面が切り替わり……室内に、軽妙なイントロが流れだした。
○
「この姉に会うまで無事でいるですよ。蒼星石。」
彼女は庭師の鋏――結局これでドアを開けたらしい――を右手に握り締め、廊下へと一歩踏み出した。
と、突然その表情が緩む。なにやらにやにやしながら誰にともなくしゃべり始めた。
「まあ、そのついでにチビ人間のことも探してやらんことはないです。
あくまで“ついで”ですけど……」
そこまで言ったところで、彼女は前方の一室から何かの曲が流れ出しているのに気づき、
彼女は庭師の鋏――結局これでドアを開けたらしい――を右手に握り締め、廊下へと一歩踏み出した。
と、突然その表情が緩む。なにやらにやにやしながら誰にともなくしゃべり始めた。
「まあ、そのついでにチビ人間のことも探してやらんことはないです。
あくまで“ついで”ですけど……」
そこまで言ったところで、彼女は前方の一室から何かの曲が流れ出しているのに気づき、
そして、衝撃がきた。
○
♪俺はジャイアン様だ
作詞:剛田武 作曲:剛田武
作詞:剛田武 作曲:剛田武
俺はジャイアン ガキ大将 天下無敵の男だぜ
のび太スネ夫は目じゃないよ 喧嘩スポーツ どんとこい
歌もうまいぜ まかしとけ
のび太スネ夫は目じゃないよ 喧嘩スポーツ どんとこい
歌もうまいぜ まかしとけ
「ってどこがですかぁ!! 今すぐその口閉じやがれです!!」
突然、個室のドアが勢いよく開かれた。
突きつけられた指をぽかんと見つめる剛田武――ジャイアンに向かって乱入者――翠星石は叫ぶ。
「これじゃ静かに物思いにもふけられねぇです!!
うなるなら翠星石の迷惑にならない場所でやればいいのです!!」
と、そこまで言って自分のうかつさに気づいたのか、翠星石の表情が凍りついた。
突然、個室のドアが勢いよく開かれた。
突きつけられた指をぽかんと見つめる剛田武――ジャイアンに向かって乱入者――翠星石は叫ぶ。
「これじゃ静かに物思いにもふけられねぇです!!
うなるなら翠星石の迷惑にならない場所でやればいいのです!!」
と、そこまで言って自分のうかつさに気づいたのか、翠星石の表情が凍りついた。
沈黙。
あっけにとられたままのジャイアンと固まったままの翠星石。
カラオケの伴奏だけが響く室内で、互いに見詰め合ったまま動けない。
にらみ合うことしばし。
2回ほどループして曲が終わると、今度こそ本当に静寂が訪れてジャイアンはうつむいた。
視線が外れた隙に、部屋の外へと後ずさりする翠星石を声が追いかけてくる。
「……そうだよなあ。迷惑だよなあ」
ぽつりと呟くと、ジャイアンは面を上げた。その形相が一変している。
「んなろ~!! 俺様の歌を、馬鹿にしやがって~!! ぶっ……」
カラオケの伴奏だけが響く室内で、互いに見詰め合ったまま動けない。
にらみ合うことしばし。
2回ほどループして曲が終わると、今度こそ本当に静寂が訪れてジャイアンはうつむいた。
視線が外れた隙に、部屋の外へと後ずさりする翠星石を声が追いかけてくる。
「……そうだよなあ。迷惑だよなあ」
ぽつりと呟くと、ジャイアンは面を上げた。その形相が一変している。
「んなろ~!! 俺様の歌を、馬鹿にしやがって~!! ぶっ……」
『殺して』
限界だった。
振り上げた拳を力なく下ろすと、ジャイアンはその場にがっくりとひざをついた。
振り上げた拳を力なく下ろすと、ジャイアンはその場にがっくりとひざをついた。
【E-6駅前商店街 1日目 深夜】
【剛田武@ドラえもん】
[状態]:健康だが、しずかの死にかなり動揺
[装備]:カラオケ店備え付けのマイク(店の外では使用不可)
[道具]:支給品一式(まだ中身を確かめていない)
[思考・状況]
第一行動方針:ドラえもん、のび太、スネ夫を探す。
基本行動方針:?
[状態]:健康だが、しずかの死にかなり動揺
[装備]:カラオケ店備え付けのマイク(店の外では使用不可)
[道具]:支給品一式(まだ中身を確かめていない)
[思考・状況]
第一行動方針:ドラえもん、のび太、スネ夫を探す。
基本行動方針:?
【翠星石@ローゼンメイデンシリーズ】
[状態]:若干頭がくらくら。目の前の状況にちょっと困惑
[装備]:庭師の鋏(※本来の持ち主である蒼星石以外にとっては単なる鋏)
[道具]:支給品一式(庭師の鋏以外に特殊な道具があるかは不明)
[思考・状況]
第一行動方針:とりあえず、目の前でうずくまっている人間をどうにかする
第二行動方針:蒼星石を捜して鋏をとどける
第三行動方針:チビ人間(桜田ジュン)も“ついでに”捜す
基本行動方針:蒼星石と共にあることができるよう動く
[状態]:若干頭がくらくら。目の前の状況にちょっと困惑
[装備]:庭師の鋏(※本来の持ち主である蒼星石以外にとっては単なる鋏)
[道具]:支給品一式(庭師の鋏以外に特殊な道具があるかは不明)
[思考・状況]
第一行動方針:とりあえず、目の前でうずくまっている人間をどうにかする
第二行動方針:蒼星石を捜して鋏をとどける
第三行動方針:チビ人間(桜田ジュン)も“ついでに”捜す
基本行動方針:蒼星石と共にあることができるよう動く
※本人が本調子でなかったことと防音設備のため、ジャイアンリサイタルは
ビルの外へは“あまり”響いていないようです。
ビルの外へは“あまり”響いていないようです。
時系列順で読む
Back:北方の少年と南方の娘 Next:勝利すべき黄金の剣
投下順で読む
Back:奥様は6インチの魔法少女! Next:勝利すべき黄金の剣
剛田武 | 64:彼女の死を乗り越えて |
翠星石 | 64:彼女の死を乗り越えて |