POLLUTION(前編) ◆B0yhIEaBOI
「……糞ッ!」
もう4度目にもなる定時放送を聴き終えた遠坂凛ことカレイドルビーは、無意識の内にそう呟いていた。
何度目になっても、あの仮面の男を見ると虫唾が走る。
だが、カレイドルビーが今回の放送で感じた不快感は、ただそれだけに寄るものではなかった。
「なんで……今になって死人の数が増えてるのよ!」
ここまでの死者の数は、放送毎に数えれば19人、9人、9人。それが今回の放送では14人と増加している。
人の死を無機質な数字で数えてしまう自分には嫌気が差すが、逆に言えば単純な数字の上からも事態の深刻さが窺えるのだ。
殺し合いが、収まるどころか加速している。
一体どういうことなのか?
この殺し合いの場には、私のようにこのふざけたゲームを止めようと考える者はいないのか?
それとも、それらの勢力をも上回るだけの怪物達が徘徊しているのか?
そして、真っ先にそれらの手にかかるのは、戦う力の無い少年少女達……。
先ほど出会ったばかりの少年の名が含まれていたことも、それを裏付けている。
だが……もし、あの時彼らと同行していたら、彼を救えたのかもしれないのでは?
自分の判断ミスが、またしても罪無き少年の命を奪ったのではないのか?
そんな考えが、ルビーの焦りを増幅してゆく。
行き場の無い焦燥がルビーの体を駆け巡る。
もう4度目にもなる定時放送を聴き終えた遠坂凛ことカレイドルビーは、無意識の内にそう呟いていた。
何度目になっても、あの仮面の男を見ると虫唾が走る。
だが、カレイドルビーが今回の放送で感じた不快感は、ただそれだけに寄るものではなかった。
「なんで……今になって死人の数が増えてるのよ!」
ここまでの死者の数は、放送毎に数えれば19人、9人、9人。それが今回の放送では14人と増加している。
人の死を無機質な数字で数えてしまう自分には嫌気が差すが、逆に言えば単純な数字の上からも事態の深刻さが窺えるのだ。
殺し合いが、収まるどころか加速している。
一体どういうことなのか?
この殺し合いの場には、私のようにこのふざけたゲームを止めようと考える者はいないのか?
それとも、それらの勢力をも上回るだけの怪物達が徘徊しているのか?
そして、真っ先にそれらの手にかかるのは、戦う力の無い少年少女達……。
先ほど出会ったばかりの少年の名が含まれていたことも、それを裏付けている。
だが……もし、あの時彼らと同行していたら、彼を救えたのかもしれないのでは?
自分の判断ミスが、またしても罪無き少年の命を奪ったのではないのか?
そんな考えが、ルビーの焦りを増幅してゆく。
行き場の無い焦燥がルビーの体を駆け巡る。
「Master!」
不意に、レイジングハートが自分に呼びかけた。
「ん……何? レイジングハート」
「It’s time to go. Let’s join to Ms.Suigintou.(そろそろ水銀燈嬢と合流してもいい頃では)」
「……そうね。あれから時間も経ったし、そろそろ水銀燈も落ち着いたかもしれない。とりあえず橋のところまで戻ってみましょう」
「Yes, my master.」
不意に、レイジングハートが自分に呼びかけた。
「ん……何? レイジングハート」
「It’s time to go. Let’s join to Ms.Suigintou.(そろそろ水銀燈嬢と合流してもいい頃では)」
「……そうね。あれから時間も経ったし、そろそろ水銀燈も落ち着いたかもしれない。とりあえず橋のところまで戻ってみましょう」
「Yes, my master.」
先ほどの放送で読み上げられた名前。
もう私の知る名前も数少ないけれど、その中の一人の名が確かに読み上げられた。
『高町 なのは』
レイジングハートの持ち主であり、その正式なマスター。
当初はさっさと彼女にレイジングハートを返却し、このみっともない格好からされたかったのだが、
そんな私の呑気な希望は、残酷な現実に砕かれて霧散してしまった。
放送の後も、レイジングハートは彼女ことについて何も言わない。私も、彼女のことについては何も聞かない。
ただ、先ほどからレイジングハートは私のことを、『仮マスター』ではなく『マスター』と呼んでいる。
……敢えてそれを問い質すことが、私にはまだ出来ずにいた。
もう私の知る名前も数少ないけれど、その中の一人の名が確かに読み上げられた。
『高町 なのは』
レイジングハートの持ち主であり、その正式なマスター。
当初はさっさと彼女にレイジングハートを返却し、このみっともない格好からされたかったのだが、
そんな私の呑気な希望は、残酷な現実に砕かれて霧散してしまった。
放送の後も、レイジングハートは彼女ことについて何も言わない。私も、彼女のことについては何も聞かない。
ただ、先ほどからレイジングハートは私のことを、『仮マスター』ではなく『マスター』と呼んでいる。
……敢えてそれを問い質すことが、私にはまだ出来ずにいた。
「But, my master ……」
「え?」
レイジングハートの声に遮られ、自分の思考を中断する。
相変わらず無機質で事務的な口調だが、それだけに信頼は置ける。例えこんな状況下でも。
「どうしたの? なにか言いたいことでもあるの?」
「Yes, my master. Something is wrong.(はい、マスター。何らかの異常事態が生じた可能性があります)」
「……どういうこと?」
「Ms.Suigintou has gone somewhere. No one is on the bridge.(水銀燈嬢が移動しています。現在橋の上には生存者はだれも居ません)」
「……なんですって!?」
「え?」
レイジングハートの声に遮られ、自分の思考を中断する。
相変わらず無機質で事務的な口調だが、それだけに信頼は置ける。例えこんな状況下でも。
「どうしたの? なにか言いたいことでもあるの?」
「Yes, my master. Something is wrong.(はい、マスター。何らかの異常事態が生じた可能性があります)」
「……どういうこと?」
「Ms.Suigintou has gone somewhere. No one is on the bridge.(水銀燈嬢が移動しています。現在橋の上には生存者はだれも居ません)」
「……なんですって!?」
レイジングハートによると、水銀燈は放送の後、私と合流することなく北上し、
そのままレイジングハートの索敵範囲外に消えた、ということだ。
放送前に、レイジングハートは水銀燈の『魔力の異常な変化』とやらを警告していたが……。
水銀燈の身に何かが起こったのだろうか?
そのままレイジングハートの索敵範囲外に消えた、ということだ。
放送前に、レイジングハートは水銀燈の『魔力の異常な変化』とやらを警告していたが……。
水銀燈の身に何かが起こったのだろうか?
「……まさか、敵に襲われた!?」
「I don’t think so. There’s no sign of battle.(その確率は低いと思われます。戦闘が行われた痕跡はありません)」
「じゃあ、なんで……? と、とにかく実際に橋に行って確かめるわよ! レイジングハート、索敵モード全開にしといて!」
「Yes, my master! 」
「I don’t think so. There’s no sign of battle.(その確率は低いと思われます。戦闘が行われた痕跡はありません)」
「じゃあ、なんで……? と、とにかく実際に橋に行って確かめるわよ! レイジングハート、索敵モード全開にしといて!」
「Yes, my master! 」
私が橋に着いたときには、レイジングハートが言ったとおり、水銀燈の姿は何処にも見当たらなかった。
橋の上には赤い服を着た人形の残骸が放置されたままだったし、
戦闘が起こったような痕跡も一切見つけられなかった。
唯一異なるのは――人形の残骸の傍に一枚の紙切れが置かれていた、という点だった。
ご丁寧に重石代わりに置かれた支給品のランタンが、暗い橋の上でその紙切れを照らし出している。
「これは……」
――その紙切れは、水銀燈が残した置手紙だった。
支給品のメモに書かれた、短く簡潔な手紙。
少なくとも、これを書いた時点では水銀燈は無事だったことがわかる。
「……それだけでも、十分なのかもね」
「Sorry my master, but I beg your pardon? (失礼、もう一度おっしゃっていただけますか?)」
「ううん、なんでもない。じゃあ、ちょっと移動しましょうか。この子のお墓も作ってあげたいし……」
「Master? 」
「その後で少し休憩を取るわ。レイジングハートは敵が襲ってきたり水銀燈が帰ってきたりしたらすぐ分かるように、
そのまま索敵は維持しておいて。さて、とりあえず身を隠せそうな場所を探さないと……」
「Master? What’s going on? Why don’t you follow her?(どうされたのですかマスター?何故彼女の後を追わないのですか?)」
レイジングハートが私を責める。
うん、それも尤もな意見だと思う。私だって本当は、そっちの方が適切な行動だと思っている。
でも、私は……どうしても私は……
待ってやりたい。
「私はこれからこの子を埋葬した後、この近辺で水銀燈を待つわ。それまでの間は休息に徹します。
サバイバル環境下では休める時に休んでおくのが鉄則よ。それにこう暗くちゃ敵に待ち伏せされていても対処しきれないかもしれない。
この後……そうね、夜明け前まで待って、それでも水銀燈が戻らなかったら、移動を開始する。
それでいいわね?」
「……All right, my master. 」
反論する暇も無く一気にまくし立てる私に、レイジングハートも立場上従うしかない。
でも、実は自分でも分かっていた。
私の判断は間違っている。
私の案も全くの誤りではないだろうが、本当なら水銀燈の単独行動を許すべきではない。
彼女の安全面のこともあるし、彼女自身が何かを企んでいる可能性だって無視できない。
そしてこの判断ミスから、更なる悲劇が幕を上げてしまうかもしれないのだ。
でも、どうしても……今は彼女の我侭を聞いてやりたかった。
――妹を亡くした、お姉さんの我侭を。
「もしもこれが私だったら……私はどうするんだろうな……?」
誰に言うわけでもなくそう呟くと、私は手にした水銀燈の手紙を見る。
そこには小さな字で、こう書かれていた。
橋の上には赤い服を着た人形の残骸が放置されたままだったし、
戦闘が起こったような痕跡も一切見つけられなかった。
唯一異なるのは――人形の残骸の傍に一枚の紙切れが置かれていた、という点だった。
ご丁寧に重石代わりに置かれた支給品のランタンが、暗い橋の上でその紙切れを照らし出している。
「これは……」
――その紙切れは、水銀燈が残した置手紙だった。
支給品のメモに書かれた、短く簡潔な手紙。
少なくとも、これを書いた時点では水銀燈は無事だったことがわかる。
「……それだけでも、十分なのかもね」
「Sorry my master, but I beg your pardon? (失礼、もう一度おっしゃっていただけますか?)」
「ううん、なんでもない。じゃあ、ちょっと移動しましょうか。この子のお墓も作ってあげたいし……」
「Master? 」
「その後で少し休憩を取るわ。レイジングハートは敵が襲ってきたり水銀燈が帰ってきたりしたらすぐ分かるように、
そのまま索敵は維持しておいて。さて、とりあえず身を隠せそうな場所を探さないと……」
「Master? What’s going on? Why don’t you follow her?(どうされたのですかマスター?何故彼女の後を追わないのですか?)」
レイジングハートが私を責める。
うん、それも尤もな意見だと思う。私だって本当は、そっちの方が適切な行動だと思っている。
でも、私は……どうしても私は……
待ってやりたい。
「私はこれからこの子を埋葬した後、この近辺で水銀燈を待つわ。それまでの間は休息に徹します。
サバイバル環境下では休める時に休んでおくのが鉄則よ。それにこう暗くちゃ敵に待ち伏せされていても対処しきれないかもしれない。
この後……そうね、夜明け前まで待って、それでも水銀燈が戻らなかったら、移動を開始する。
それでいいわね?」
「……All right, my master. 」
反論する暇も無く一気にまくし立てる私に、レイジングハートも立場上従うしかない。
でも、実は自分でも分かっていた。
私の判断は間違っている。
私の案も全くの誤りではないだろうが、本当なら水銀燈の単独行動を許すべきではない。
彼女の安全面のこともあるし、彼女自身が何かを企んでいる可能性だって無視できない。
そしてこの判断ミスから、更なる悲劇が幕を上げてしまうかもしれないのだ。
でも、どうしても……今は彼女の我侭を聞いてやりたかった。
――妹を亡くした、お姉さんの我侭を。
「もしもこれが私だったら……私はどうするんだろうな……?」
誰に言うわけでもなくそう呟くと、私は手にした水銀燈の手紙を見る。
そこには小さな字で、こう書かれていた。
『ルビーへ。先に謝っておきます。ごめんなさい。
私の心が落ち着くには、もう少し時間が必要です。
本当は真紅を埋めてあげたかったんだけど、どうしても私には出来ませんでした。
私の代わりに、真紅を埋めてあげて下さい。
私はもう少し歩いたら戻ります。
心配などしないでください。ごめんなさい』
私の心が落ち着くには、もう少し時間が必要です。
本当は真紅を埋めてあげたかったんだけど、どうしても私には出来ませんでした。
私の代わりに、真紅を埋めてあげて下さい。
私はもう少し歩いたら戻ります。
心配などしないでください。ごめんなさい』
★
「……なんて書いたから、暫くはあそこで大人しくお留守番してくれてるでしょうねぇ、あのお人よしさぁん」
誰に言うわけでもなく、私はそう呟いた。
私――正真正銘人間を手に入れた、ローゼンの第一ドール、水銀燈――は、独り夜の街を歩いていた。
今はまだ一日目――の最後の数分間。もうすぐ4回目の放送が流れるだろう。
他の参加者にとっては大切なその時間を前にして、私はある場所を目指して歩いていた。
そう、独りで。
誰に言うわけでもなく、私はそう呟いた。
私――正真正銘人間を手に入れた、ローゼンの第一ドール、水銀燈――は、独り夜の街を歩いていた。
今はまだ一日目――の最後の数分間。もうすぐ4回目の放送が流れるだろう。
他の参加者にとっては大切なその時間を前にして、私はある場所を目指して歩いていた。
そう、独りで。
最初は、この人間の姿から元のドールの姿に戻り、ルビーと合流するつもりだった。
でも折角だから、この姿のまま、少しだけお散歩したくなっちゃった。
だからわざわざあんな甘ったるい手紙まで書いて、お散歩の時間を捻出した。
もちろん、唯のお散歩じゃないのだけれど。
目的の場所までは歩くのには少し時間がかかったが、
一度行ったことのある場所だし、思ったよりも早く着けた。
白い建物が見えてくる。
でも折角だから、この姿のまま、少しだけお散歩したくなっちゃった。
だからわざわざあんな甘ったるい手紙まで書いて、お散歩の時間を捻出した。
もちろん、唯のお散歩じゃないのだけれど。
目的の場所までは歩くのには少し時間がかかったが、
一度行ったことのある場所だし、思ったよりも早く着けた。
白い建物が見えてくる。
「で、どうなのぉ? 貴方分かるんでしょう? あそこに誰かいるかどうか。――あの『病院』にぃ」
『…………』
「貴方、あのレイジングハートのお友達なんでしょう? なんだか雰囲気が似てるしぃ。
貴方にも分かるんじゃないのぉ?」
『…………』
「もう、無口なんだからぁ。でも、まいいわ。それもすぐに分かることだし」
『…………』
「貴方、あのレイジングハートのお友達なんでしょう? なんだか雰囲気が似てるしぃ。
貴方にも分かるんじゃないのぉ?」
『…………』
「もう、無口なんだからぁ。でも、まいいわ。それもすぐに分かることだし」
これまで得た経験から、大体の予想はついていた。
この空間内に『病院』という施設がある以上、怪我をした人間は、『病院』に集まってくる。
ルビーにしてもそうだったし、昨日の夕方も沢山の人が集まって来ていた。
だから、今だってまた別の――若しくは同じ――人が、病院に集まっている可能性はとても高いと思っていた。
この空間内に『病院』という施設がある以上、怪我をした人間は、『病院』に集まってくる。
ルビーにしてもそうだったし、昨日の夕方も沢山の人が集まって来ていた。
だから、今だってまた別の――若しくは同じ――人が、病院に集まっている可能性はとても高いと思っていた。
でも、それならば……そこに、ルビーを連れて行くメリットは薄い。
大勢の人間と一度に戦うのは、いくらなんでも分が悪い。
何せ、ここには中々手強い相手も多くいる。その中には真紅を壊した奴だっているのだ。
そしてそれと同時に、集まってくる人間の中には、それらとは正反対の人もいる。
――弱い、怪我人。強者の庇護を受ける弱虫さんたち。
ルビーはそいつらを殺さないだろうし、私が殺すのも許さないだろう。
だから私が何かをするなら、2人のよりよい関係のためにも、独りの方が都合が良い。
そして――そう、殺し合いが佳境に差し掛かっているのならば、出来る時にやっておきたいことがある。
弱虫さんの、間引き。
ルビーのように『便利な』仲間はなかなか貴重な存在だ。
だから、彼女を温存しておくためにも、少しお仕事をしておくのも悪くはない。
大勢の人間と一度に戦うのは、いくらなんでも分が悪い。
何せ、ここには中々手強い相手も多くいる。その中には真紅を壊した奴だっているのだ。
そしてそれと同時に、集まってくる人間の中には、それらとは正反対の人もいる。
――弱い、怪我人。強者の庇護を受ける弱虫さんたち。
ルビーはそいつらを殺さないだろうし、私が殺すのも許さないだろう。
だから私が何かをするなら、2人のよりよい関係のためにも、独りの方が都合が良い。
そして――そう、殺し合いが佳境に差し掛かっているのならば、出来る時にやっておきたいことがある。
弱虫さんの、間引き。
ルビーのように『便利な』仲間はなかなか貴重な存在だ。
だから、彼女を温存しておくためにも、少しお仕事をしておくのも悪くはない。
だから、独りでお散歩するのだ。病院まで。
でも、もし病院に誰も居なかったら、そのままルビーと合流するつもりだった。
病院に人が居るか居ないか。それを確かめるだけでも意味はある。
でも――残念。
「ビンゴ、ねぇ……!」
空に映し出された仮面とは“別のもの”を見ながら、私はくすりと微笑んだ。
でも、もし病院に誰も居なかったら、そのままルビーと合流するつもりだった。
病院に人が居るか居ないか。それを確かめるだけでも意味はある。
でも――残念。
「ビンゴ、ねぇ……!」
空に映し出された仮面とは“別のもの”を見ながら、私はくすりと微笑んだ。
コンコン。
放送が終わった直後の病室に、ノックの音が木霊する。返事は無い。
コンコン。
続けてドアをノックする。姿は見えなくても、ドアの向こうの驚きが気配で分かる。
コンコン。
「ごめんなさぁい。少しお邪魔しても宜しいかしらぁ? 」
返事は無いけれど、ヒソヒソと相談する声が聞こえてくる。
これ以上待っても埒が明かない。そう思った私はドアの取っ手に手をかける。
「ドア、あけるわよぉ? 開けたとたんに不意打ち、ってのは勘弁してねぇ?」
そんなことが無いことを半ば確信していた私は、そのままドアをガラリと開けた。
「こんばんわぁ。」
放送が終わった直後の病室に、ノックの音が木霊する。返事は無い。
コンコン。
続けてドアをノックする。姿は見えなくても、ドアの向こうの驚きが気配で分かる。
コンコン。
「ごめんなさぁい。少しお邪魔しても宜しいかしらぁ? 」
返事は無いけれど、ヒソヒソと相談する声が聞こえてくる。
これ以上待っても埒が明かない。そう思った私はドアの取っ手に手をかける。
「ドア、あけるわよぉ? 開けたとたんに不意打ち、ってのは勘弁してねぇ?」
そんなことが無いことを半ば確信していた私は、そのままドアをガラリと開けた。
「こんばんわぁ。」
「こん……ばんわ」
力ない挨拶が返ってくる。
部屋の中には、男の子が1人と女の子が2人、それに青い狸さんが一匹。いずれも、今までに見た顔だ。
男の子は狸さんに、女の子はもう1人の眠っている女の子にしがみついている。
怯えているのね。かわいいわぁ。
「お……おねえさん、誰!? なんで僕達がここに居るって分かったの?」
眼鏡の坊やが震える声でそう尋ねる。
どうやら私のことを随分と警戒しているようだ。まあ、普通そうでしょうね。
でも問題ない。今から『仲良く』なるのだから。
「ふふ、折角電気を消して隠れてたって、放送を窓際で見てたの、外から丸見えだったわよ?
ちょっと迂闊だったわねぇ。もし私が怖ぁい殺人鬼だったら、みんな今頃大変よぉ?」
びくりと、彼らの体が震える。
『殺人鬼』という言葉に彼らの体が強張るのがはっきりと分かった。
いけない、いけない。ちょっと脅かしすぎたかしら。
「あら、本気にしちゃったぁ? ふふ、冗談よ、冗談。私は貴方達をどうにかしたりはしないわよぉ?
ただちょっと、一緒に隠れさせて欲しいだけなのよ。私……ちょっと怖い人に追われてるの」
「えっ!?」
彼らの、私を見る目が少し変わる。私はそれを見逃さない。
「この近くで、いきなり襲われちゃったのよぉ。
それで命からがら逃げ出して来たんだけど、デイバックも落としちゃって、残ってるのはこの鞄だけ」
そう言って、私は手にした鞄を見せる。
ローゼンメイデンの鞄。ドールが安らげる唯一の場所。
もっとも今の私にはそんなに大きな意味はないのだけれど、自分に馴染んだこの鞄には愛着がある。
そして――当然だけれど、デイバックを落としたなんて、嘘。
デイバックは中身ごと、“ちゃあんと”この鞄の中に納まっている。
持ち物から素性がばれると面倒だし、一応念のため。
力ない挨拶が返ってくる。
部屋の中には、男の子が1人と女の子が2人、それに青い狸さんが一匹。いずれも、今までに見た顔だ。
男の子は狸さんに、女の子はもう1人の眠っている女の子にしがみついている。
怯えているのね。かわいいわぁ。
「お……おねえさん、誰!? なんで僕達がここに居るって分かったの?」
眼鏡の坊やが震える声でそう尋ねる。
どうやら私のことを随分と警戒しているようだ。まあ、普通そうでしょうね。
でも問題ない。今から『仲良く』なるのだから。
「ふふ、折角電気を消して隠れてたって、放送を窓際で見てたの、外から丸見えだったわよ?
ちょっと迂闊だったわねぇ。もし私が怖ぁい殺人鬼だったら、みんな今頃大変よぉ?」
びくりと、彼らの体が震える。
『殺人鬼』という言葉に彼らの体が強張るのがはっきりと分かった。
いけない、いけない。ちょっと脅かしすぎたかしら。
「あら、本気にしちゃったぁ? ふふ、冗談よ、冗談。私は貴方達をどうにかしたりはしないわよぉ?
ただちょっと、一緒に隠れさせて欲しいだけなのよ。私……ちょっと怖い人に追われてるの」
「えっ!?」
彼らの、私を見る目が少し変わる。私はそれを見逃さない。
「この近くで、いきなり襲われちゃったのよぉ。
それで命からがら逃げ出して来たんだけど、デイバックも落としちゃって、残ってるのはこの鞄だけ」
そう言って、私は手にした鞄を見せる。
ローゼンメイデンの鞄。ドールが安らげる唯一の場所。
もっとも今の私にはそんなに大きな意味はないのだけれど、自分に馴染んだこの鞄には愛着がある。
そして――当然だけれど、デイバックを落としたなんて、嘘。
デイバックは中身ごと、“ちゃあんと”この鞄の中に納まっている。
持ち物から素性がばれると面倒だし、一応念のため。
「でも……本当にお姉さんは襲われて逃げてきたの? 嘘ついて僕らを騙すつもりなんじゃないの!?
その鞄の中だって、本当は武器がぎっしり詰まってるんじゃないの!!?」
――あら……正解、よくできました。思ったよりお利口ねぇ。
私たちと一緒に居る時はてんでダメダメだったのに、頑張っちゃって。
でも、それぐらいでは私は慌てない。
「信じてくれないのぉ? 悲しいわぁ……。でも、私本当に嘘なんかついてないのよぉ?
どうすれば信じてくれるのかしらぁ……?」
「じゃあ、せめてその鞄の中身ぐらいは見せてもらえませんか?
そうすれば襲われて道具を失くした、っていうのも信じられるし……」
狸さんがそう提案した。やっぱり鞄を開けて見せないと納得してくれないみたい。
その鞄の中だって、本当は武器がぎっしり詰まってるんじゃないの!!?」
――あら……正解、よくできました。思ったよりお利口ねぇ。
私たちと一緒に居る時はてんでダメダメだったのに、頑張っちゃって。
でも、それぐらいでは私は慌てない。
「信じてくれないのぉ? 悲しいわぁ……。でも、私本当に嘘なんかついてないのよぉ?
どうすれば信じてくれるのかしらぁ……?」
「じゃあ、せめてその鞄の中身ぐらいは見せてもらえませんか?
そうすれば襲われて道具を失くした、っていうのも信じられるし……」
狸さんがそう提案した。やっぱり鞄を開けて見せないと納得してくれないみたい。
「仕方ないわねぇ……ホントは見せたくないんだけど……」
そう言いながら、私は鞄を下ろし、留め金を外す。
ゆっくりと、ひとつ、ひとつ。
みんなの視線が、私の手元に集中する。
いつからか、病室の空気が変質し始める。
肌から染み出した緊張で空気が張り詰める。
誰も一言も発さない。唾を飲み込む音さえ聞こえそうだ。
遠くで何かが鳴っている気がする。これが耳鳴りというものなのかもしれない。
そう言いながら、私は鞄を下ろし、留め金を外す。
ゆっくりと、ひとつ、ひとつ。
みんなの視線が、私の手元に集中する。
いつからか、病室の空気が変質し始める。
肌から染み出した緊張で空気が張り詰める。
誰も一言も発さない。唾を飲み込む音さえ聞こえそうだ。
遠くで何かが鳴っている気がする。これが耳鳴りというものなのかもしれない。
「開けるわよ……ほら、ご覧なさぁい……」
がちゃり。
そう呟きながら、私は鞄の口をゆっくりと開いてゆく。
ゆっくりと、ゆっくりと。
そして……彼らの目は、そこに現れた『モノ』に釘付けになった。
「「…………」」
誰も一言も発さない。何を、どう喋っていいのか理解できない、というところだろうか。
そして、その静寂を破ったのは意外にも、それまで一言も発しなかった少女だった。
がちゃり。
そう呟きながら、私は鞄の口をゆっくりと開いてゆく。
ゆっくりと、ゆっくりと。
そして……彼らの目は、そこに現れた『モノ』に釘付けになった。
「「…………」」
誰も一言も発さない。何を、どう喋っていいのか理解できない、というところだろうか。
そして、その静寂を破ったのは意外にも、それまで一言も発しなかった少女だった。
「……くんくん」
「「えっ?」」
私の顔が綻んだ。
「あらぁ? あなたもくんくん探偵のことを知ってるのぉ? 嬉しいわぁ。やっぱりくんくんは素敵よねぇ」
私の顔が綻んだ。
「あらぁ? あなたもくんくん探偵のことを知ってるのぉ? 嬉しいわぁ。やっぱりくんくんは素敵よねぇ」
鞄の中には、『くんくんのぬいぐるみ』がひとり、ちょこんと座っていたのだった。
「あの……」
眼鏡の少年と狸さんが、申し訳無さそうにおずおずと話しかけてきた。
「疑ってすみませんでした。その、僕らもいろいろあって……」
「いいわぁ、許してあげる。でも、もうレディの荷物を見せろ、なんて言っちゃ駄目よぉ?」
私がくすくすと笑うと、2人はなんだか恥ずかしそうに照れていた。
「……あら?」
気が付くと、先ほどから少女が食い入るようにくんくんを見つめている。
「あなたもくんくんの魅力の虜になっちゃったのねぇ。くんくんたら悪いひ・と!
でも、ちょっとだけならくんくんを貸してあげてもいいわよぉ? あっ、あげるんじゃないからね? 今だけよ、今・だ・け!」
くんくんを渡してあげると、少女は恥ずかしそうにくんくんを抱きしめた。もう、なんだか嫉妬しちゃうわぁ。
そんな私の表情を見て、いつしか残った2人も笑顔を覗かせる。
それまでの緊張が嘘のように、あっという間に場が和やかになった。
それもこれも、くんくんのおかげかもしれないと思うと、やっぱりくんくんは素敵だわぁ。
眼鏡の少年と狸さんが、申し訳無さそうにおずおずと話しかけてきた。
「疑ってすみませんでした。その、僕らもいろいろあって……」
「いいわぁ、許してあげる。でも、もうレディの荷物を見せろ、なんて言っちゃ駄目よぉ?」
私がくすくすと笑うと、2人はなんだか恥ずかしそうに照れていた。
「……あら?」
気が付くと、先ほどから少女が食い入るようにくんくんを見つめている。
「あなたもくんくんの魅力の虜になっちゃったのねぇ。くんくんたら悪いひ・と!
でも、ちょっとだけならくんくんを貸してあげてもいいわよぉ? あっ、あげるんじゃないからね? 今だけよ、今・だ・け!」
くんくんを渡してあげると、少女は恥ずかしそうにくんくんを抱きしめた。もう、なんだか嫉妬しちゃうわぁ。
そんな私の表情を見て、いつしか残った2人も笑顔を覗かせる。
それまでの緊張が嘘のように、あっという間に場が和やかになった。
それもこれも、くんくんのおかげかもしれないと思うと、やっぱりくんくんは素敵だわぁ。
私は、確かにデイバックも鞄の中に入れていた。
“ちゃあんと”透明マントに包んだ上で。
くんくんは、真紅の残骸のところに残されていたのを連れて来ていた。
くんくんもデイバックに入れてもよかったのだけれど、それじゃなんだかくんくんが可哀想だしね。
本当は、こんなまどろっこしいことすること無かったのかもしれないけれど、
物騒なものを持っているってばれたら、また言い訳するのも面倒くさいし。
いっそ、みんな殺しちゃえば早かったかしらぁ?
「あれ、お姉さんどうしたの? そんなに可笑しかった?」
思わずくすくすと笑い出した私のことを、不思議そうに少年が見つめていた。
いけない、いけない。思わず顔に出ちゃったわぁ。
“ちゃあんと”透明マントに包んだ上で。
くんくんは、真紅の残骸のところに残されていたのを連れて来ていた。
くんくんもデイバックに入れてもよかったのだけれど、それじゃなんだかくんくんが可哀想だしね。
本当は、こんなまどろっこしいことすること無かったのかもしれないけれど、
物騒なものを持っているってばれたら、また言い訳するのも面倒くさいし。
いっそ、みんな殺しちゃえば早かったかしらぁ?
「あれ、お姉さんどうしたの? そんなに可笑しかった?」
思わずくすくすと笑い出した私のことを、不思議そうに少年が見つめていた。
いけない、いけない。思わず顔に出ちゃったわぁ。
それから、私たちはこれまでのことを話し合った。情報交換というやつね。
私は適当に、一日中逃げ回って隠れていた、と適当にはぐらかしておいた。彼らはそれを馬鹿正直に信じているようだ。
そして、彼らの情報はというと……正直、少年と狸さんの情報は夕方に貰っていたから、あまり有難くはなかった。
それでも、この病院で起こった出来事の顛末は、聞いておいて損は無い情報ではあった。
でも、先ほどの放送で挙がった死者の話になると……さすがにみんな、暗くなってしまう。
私は翠星石が死んだってこと以外は、別に何人死んだかぐらいしか興味は無かったんだけれど、
一応悲しそうな素振りはしておいてあげる。
でも、空気を変えようとしてドラえもんに話を振ると、彼らはそのまま以前の冒険活劇の話に熱中しだす始末。
それも悪くはなかったのだけれど、今はそんな昔話よりも、私がまだ知らない情報……少女の話が聞きたかった。
「えっと……アルちゃん、だっけ? アルちゃんの話も、聞かせて欲しいなぁ?」
「……」
しかし、私が話しかけると、とたんに少女はくんくんを抱えたままそっぽを向いてしまう。
恥ずかしがっているのか、警戒されているのか……どちらにせよ、どうにも要領を得ない。
やはり、今睡眠中の彼女――涼宮ハルヒが目を覚ますのを待つべきか……
私は適当に、一日中逃げ回って隠れていた、と適当にはぐらかしておいた。彼らはそれを馬鹿正直に信じているようだ。
そして、彼らの情報はというと……正直、少年と狸さんの情報は夕方に貰っていたから、あまり有難くはなかった。
それでも、この病院で起こった出来事の顛末は、聞いておいて損は無い情報ではあった。
でも、先ほどの放送で挙がった死者の話になると……さすがにみんな、暗くなってしまう。
私は翠星石が死んだってこと以外は、別に何人死んだかぐらいしか興味は無かったんだけれど、
一応悲しそうな素振りはしておいてあげる。
でも、空気を変えようとしてドラえもんに話を振ると、彼らはそのまま以前の冒険活劇の話に熱中しだす始末。
それも悪くはなかったのだけれど、今はそんな昔話よりも、私がまだ知らない情報……少女の話が聞きたかった。
「えっと……アルちゃん、だっけ? アルちゃんの話も、聞かせて欲しいなぁ?」
「……」
しかし、私が話しかけると、とたんに少女はくんくんを抱えたままそっぽを向いてしまう。
恥ずかしがっているのか、警戒されているのか……どちらにせよ、どうにも要領を得ない。
やはり、今睡眠中の彼女――涼宮ハルヒが目を覚ますのを待つべきか……
「そういえばお姉さんってさ」
「え?」
急に眼鏡の少年が呟く。
「え?」
急に眼鏡の少年が呟く。
「どことなく、水銀燈って人形に似てるよね」
「あらそう? 」
表情は崩さない。皺ひとつも同様を見せたりはしない。
だが、流石に長く共にいた彼には感ずるところがあったのか。意外な感性の鋭さに感心する。
「その“すいぎんとう”ってお人形さんがどんなお顔なのか知らないけれど、そんなに似てるのぉ?」
「いや、顔ってより……喋り方とか、雰囲気とかが……」
「他人のそら似じゃないのぉ? でも、そのお人形さんにも、いつか会ってみたいわねぇ」
そう言いながら、話を切り上げる。
結果的に見れば、この場には嘘など付かずにドールの姿で来ても問題は無かったかもしれない。
だが、このアルちゃんやハルヒちゃんが、私の姿を覚えている可能性だってあるし、
こうやって話しているうちに、私を知る別の人物が合流してくるかもしれない。
だから、やっぱりこうして嘘を付いておいたほうが安全なことには変わりは無い。
それに……
「そういえばさっき――私が鞄を開けた時、電話が鳴ってたんじゃなかったぁ? なんだか忙しくて出れなかったけどぉ」
「ああ、そういえばさっきのび太君がトイレに行くついでに確認してくれたんだよね?
どうだった? 留守番電話なんかに何かメッセージが入ってなかった?」
「ああ、うん。確認してきたよ? 何通か留守番電話が入ってて、最後のは……
えっと、『入れ歯は英語でなんていう?』だったかな? よくわかんないや。
それに暗くてなんだかおっかなかったから……最後まで聞かずに逃げてきちゃった」
「もう、臆病者なんだから……しかたないなぁ。もう一回行って確かめなきゃ」
「い、嫌だよおっかない! あ、でもなんか若い男の人の声だったし、
もしかしたらハルヒさんの言ってた『キョン君』かもしれないよ? ハルヒさんにも聞いてみないと……」
そうやってハルヒを起こそうとした少年の手を、狸さんが止める。
「やめときなよ、ハルヒちゃんだって怪我して疲れてるんだろうし。それに……」
狸さんが目配せをした先では、アルちゃんがうつらうつらと船を漕いでいた。
「今日は……もうこのぐらいにしておこうよ。続きはまた明日にしよう」
「そうだね、ドラえもん……ああ、最後にもうひとつだけ」
そう言いながら、少年が私に向き直る。
「お姉さんの名前……まだ聞いてなかったよね。なんていうの?」
表情は崩さない。皺ひとつも同様を見せたりはしない。
だが、流石に長く共にいた彼には感ずるところがあったのか。意外な感性の鋭さに感心する。
「その“すいぎんとう”ってお人形さんがどんなお顔なのか知らないけれど、そんなに似てるのぉ?」
「いや、顔ってより……喋り方とか、雰囲気とかが……」
「他人のそら似じゃないのぉ? でも、そのお人形さんにも、いつか会ってみたいわねぇ」
そう言いながら、話を切り上げる。
結果的に見れば、この場には嘘など付かずにドールの姿で来ても問題は無かったかもしれない。
だが、このアルちゃんやハルヒちゃんが、私の姿を覚えている可能性だってあるし、
こうやって話しているうちに、私を知る別の人物が合流してくるかもしれない。
だから、やっぱりこうして嘘を付いておいたほうが安全なことには変わりは無い。
それに……
「そういえばさっき――私が鞄を開けた時、電話が鳴ってたんじゃなかったぁ? なんだか忙しくて出れなかったけどぉ」
「ああ、そういえばさっきのび太君がトイレに行くついでに確認してくれたんだよね?
どうだった? 留守番電話なんかに何かメッセージが入ってなかった?」
「ああ、うん。確認してきたよ? 何通か留守番電話が入ってて、最後のは……
えっと、『入れ歯は英語でなんていう?』だったかな? よくわかんないや。
それに暗くてなんだかおっかなかったから……最後まで聞かずに逃げてきちゃった」
「もう、臆病者なんだから……しかたないなぁ。もう一回行って確かめなきゃ」
「い、嫌だよおっかない! あ、でもなんか若い男の人の声だったし、
もしかしたらハルヒさんの言ってた『キョン君』かもしれないよ? ハルヒさんにも聞いてみないと……」
そうやってハルヒを起こそうとした少年の手を、狸さんが止める。
「やめときなよ、ハルヒちゃんだって怪我して疲れてるんだろうし。それに……」
狸さんが目配せをした先では、アルちゃんがうつらうつらと船を漕いでいた。
「今日は……もうこのぐらいにしておこうよ。続きはまた明日にしよう」
「そうだね、ドラえもん……ああ、最後にもうひとつだけ」
そう言いながら、少年が私に向き直る。
「お姉さんの名前……まだ聞いてなかったよね。なんていうの?」
一瞬、考えてしまった。
どうせこの間の抜けた子供たちなら、何を言ったって信じてしまうのだろう。
でも、そのときふと、ついさっきまで見ていた参加者名簿の、まだ呼ばれていない人物の名前を思い出した。
どうやら彼らの仲間でもないみたいだし、折角だからその人の名前を拝借することにする。
ばれても特に問題は無い。適当に誤魔化せばこの子たちも信じてくれるだろう。
どうせこの間の抜けた子供たちなら、何を言ったって信じてしまうのだろう。
でも、そのときふと、ついさっきまで見ていた参加者名簿の、まだ呼ばれていない人物の名前を思い出した。
どうやら彼らの仲間でもないみたいだし、折角だからその人の名前を拝借することにする。
ばれても特に問題は無い。適当に誤魔化せばこの子たちも信じてくれるだろう。
「ええ、私の名前は……リン。遠坂凛よ」
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225:黒き王女 | 遠坂凛 | 242:POLLUTION(後編) |
225:黒き王女 | 水銀燈 | 242:POLLUTION(後編) |
234:峰不二子の暴走Ⅱ | ドラえもん | 242:POLLUTION(後編) |
234:峰不二子の暴走Ⅱ | 野比のび太 | 242:POLLUTION(後編) |
234:峰不二子の暴走Ⅱ | 涼宮ハルヒ | 242:POLLUTION(後編) |
234:峰不二子の暴走Ⅱ | アルルゥ | 242:POLLUTION(後編) |