陽が昇る(前編) ◆S8pgx99zVs
「これでよし……っと」
そう言って、遠坂凛はゲイナーの顔から手を放した。
そのゲイナーの顔は新しく貼り直された真っ白な湿布で覆われている。
ゲイナーの傷は見た目ほど……というか見た目だけで言えばまさに見るに耐えないといった感じであったが、
骨や眼球に異状はなかった。それが彼の後ろで寝ている暴力的な彼女の最低限の気遣いだったのか、
それともただゲイナーの運がよかっただけなのかはわからないが……。
そう言って、遠坂凛はゲイナーの顔から手を放した。
そのゲイナーの顔は新しく貼り直された真っ白な湿布で覆われている。
ゲイナーの傷は見た目ほど……というか見た目だけで言えばまさに見るに耐えないといった感じであったが、
骨や眼球に異状はなかった。それが彼の後ろで寝ている暴力的な彼女の最低限の気遣いだったのか、
それともただゲイナーの運がよかっただけなのかはわからないが……。
遠坂凛とゲイナー、そして気絶したままベッドに横たわるレヴィ。
さらに同様に気絶したままベッドに横たわるカズマとそれを心配そうに覗き込むフェイト。
五人は、広いスペースにカウンターとベッドがずらりと並ぶ、そんな部屋にいた。
幸運にも戦火の被害を逃れられたそこは、点滴や注射、その他の簡易な処置を外来の患者に施すためのスペースであり、
まさに今の彼女達がいるにふさわしい場所だと言えただろう。
さらに同様に気絶したままベッドに横たわるカズマとそれを心配そうに覗き込むフェイト。
五人は、広いスペースにカウンターとベッドがずらりと並ぶ、そんな部屋にいた。
幸運にも戦火の被害を逃れられたそこは、点滴や注射、その他の簡易な処置を外来の患者に施すためのスペースであり、
まさに今の彼女達がいるにふさわしい場所だと言えただろう。
遠坂凛は一通りの手当てを終えてほっと一息をついた。
ベッドで横になっているカズマとレヴィ、どちらも軽くはない傷を負っていた。
……だが、今回は魔術による回復は施してはいない。
ベッドで横になっているカズマとレヴィ、どちらも軽くはない傷を負っていた。
……だが、今回は魔術による回復は施してはいない。
――セイバー。
遠坂凛が直前に出会った彼女は、間違いなくよく知った彼女であったと同時に全く知らない彼女でもあった。
士郎のサーヴァントではないセイバー――つまりは唯の英霊。それを相手にするということがどういうことか、
すでに凛はその身でもって知っている。
遂には出会うことのなかったアーチャー。彼もまた唯一人の英霊としてこの場に呼ばれたのか、
それは今となっては判別できないがおそらくそうであったのだろう。
士郎のサーヴァントではないセイバー――つまりは唯の英霊。それを相手にするということがどういうことか、
すでに凛はその身でもって知っている。
遂には出会うことのなかったアーチャー。彼もまた唯一人の英霊としてこの場に呼ばれたのか、
それは今となっては判別できないがおそらくそうであったのだろう。
主催者であるギガゾンビの采配かそれとも他の要因か、どういった因果においてそれがそうなったのかは解らないが、
確信できるのは彼女――セイバーとの和解や共闘は考えられないということ。
つまりは対決するしかないということだ。
ならば、その時までに魔力は少したりとも使うことは考えられなかった。
確信できるのは彼女――セイバーとの和解や共闘は考えられないということ。
つまりは対決するしかないということだ。
ならば、その時までに魔力は少したりとも使うことは考えられなかった。
幸いなことに、あるいは皮肉なことに怪我人を治療するための用具には事欠かない。
ベッドで寝息を立てる二人も椅子の上で思案顔のゲイナーも、
単純な外傷のみで専門的な知識のない凛とフェイトの二人にも手当ては難しいということはなかった。
ベッドで寝息を立てる二人も椅子の上で思案顔のゲイナーも、
単純な外傷のみで専門的な知識のない凛とフェイトの二人にも手当ては難しいということはなかった。
「フェイト。少しここをお願いするわ」
言いながら遠坂凛はレイジングハートを片手に出口へと向かう。
その背中に掛けられるフェイトの問いに、
「少し外の空気を……それとトグサの帰りが遅いわ。ちょっと見てくる」
そう答え、そのまま彼女は振り返ることなく部屋を出た。
言いながら遠坂凛はレイジングハートを片手に出口へと向かう。
その背中に掛けられるフェイトの問いに、
「少し外の空気を……それとトグサの帰りが遅いわ。ちょっと見てくる」
そう答え、そのまま彼女は振り返ることなく部屋を出た。
病院の広い敷地をぐるりと囲む遊歩道。それらは今や見る影もなく無残な有様を晒していた。
綺麗に刈られその頭の高さを丁寧に揃えられていた芝生は根を張っていた土ごと掘り返され、
患者の心を癒すために活けられたであろう花壇の花は、その花弁の一枚すらも残ってはいない。
気晴らしのため、またはリハビリのための歩道を覆っていた煉瓦はことごとく砕かれており、
病棟を見上げれば、窓ガラスが砕けて光を乱反射し、所々の壁には亀裂が走り大きな穴が開いている。
綺麗に刈られその頭の高さを丁寧に揃えられていた芝生は根を張っていた土ごと掘り返され、
患者の心を癒すために活けられたであろう花壇の花は、その花弁の一枚すらも残ってはいない。
気晴らしのため、またはリハビリのための歩道を覆っていた煉瓦はことごとく砕かれており、
病棟を見上げれば、窓ガラスが砕けて光を乱反射し、所々の壁には亀裂が走り大きな穴が開いている。
そして、遠坂凛が立つそこには無数の黒い羽が風に揺られ緩やかに舞っていた。
――水銀燈。
その人形に対する遠坂凛の気持ちは複雑なものだった。
自分は騙されていたのか? それは間違いのない客観的な事実だ。騙されていた。
しかし、それでも残るこの心のわだかまりはなんなのだろうか……?
しかし、それでも残るこの心のわだかまりはなんなのだろうか……?
レイジングハートを持った方とは逆側の手に抱えられた闇の書――リインフォースに遠坂凛は尋ねる。
「水銀燈は……彼女が妹達を想う気持ちは本物だった……?」
それに対しては、リインフォースは回答を持たなかったが、
『わからない。だが、あの人形にもこの戦いを経て救いたいと願う一人の者がいたようだ』
水銀燈が今わの際に残した言葉。それが何を指すのかは余人には解せないことであったが、
それでも彼女なりに背負っているものがあったであろうことはリインフォースにも察することができた。
それに対しては、リインフォースは回答を持たなかったが、
『わからない。だが、あの人形にもこの戦いを経て救いたいと願う一人の者がいたようだ』
水銀燈が今わの際に残した言葉。それが何を指すのかは余人には解せないことであったが、
それでも彼女なりに背負っているものがあったであろうことはリインフォースにも察することができた。
一際に強い風を受け病院から離れていく黒い羽達。それらを目で追いながら遠坂凛は頷く。
「レイジングハートはまた甘いと言うかも知れないけど。……私は水銀燈を赦すわ」
遠坂凛の言葉にレイジングハートから発せられる気配が剣呑なものへと変化する。
「私だけが彼女を赦せるのよ。
あなたが言いたいことも解るわ。だけど、私はまだ水銀燈の全てが嘘だったとは思えない。
だから私が代わりに彼女の罪を――想いを継ぐ。
すまないけど、レイジングハートにはまだまだ私を叱ってもらうことになるわ。
……これからもよろしくお願いね」
レイジングハートが溜息をつく。そんな気配が感じられた。呆れ果てているのだ。しかし……
遠坂凛の言葉にレイジングハートから発せられる気配が剣呑なものへと変化する。
「私だけが彼女を赦せるのよ。
あなたが言いたいことも解るわ。だけど、私はまだ水銀燈の全てが嘘だったとは思えない。
だから私が代わりに彼女の罪を――想いを継ぐ。
すまないけど、レイジングハートにはまだまだ私を叱ってもらうことになるわ。
……これからもよろしくお願いね」
レイジングハートが溜息をつく。そんな気配が感じられた。呆れ果てているのだ。しかし……
『All right. マイマスター』
レイジングハートから返ってきたのは快い返答であり。その気配もまた柔和なものへと戻っていた。
「ありがとう。レイジングハート。……じゃあ、そろそろトグサを迎えに行きましょうか?」
「ありがとう。レイジングハート。……じゃあ、そろそろトグサを迎えに行きましょうか?」
と、心機一転して足を踏み出した遠坂凛は、その時初めてその足元にあるそれに気がついた。
それは一見すると周りに散らかったコンクリートの破片と変わらなかったが……
「……腕?」
それは先の対決で劉鳳が落とした、石化の魔法に蝕まれ一つの石片と化した右腕だった。
遠坂凛は先程埋葬したばかりの劉鳳が腕を失っていたことを思い出す。
色は失われているがその腕は間違いなく劉鳳のものだろう。
……だがしかし、それが纏っている鎧状の物に関しては初めて見るものであった。
「これも……彼の言うアルター能力の一種なのかしら……? ……!」
彼の一部であるなら一緒に埋葬するのがいいだろうと、落ちているのを慎重に拾い上げる。
そして、その腕に手を触れた所で彼女はそれに気が付いた。
「まだ、力が生きている……!?」
「……腕?」
それは先の対決で劉鳳が落とした、石化の魔法に蝕まれ一つの石片と化した右腕だった。
遠坂凛は先程埋葬したばかりの劉鳳が腕を失っていたことを思い出す。
色は失われているがその腕は間違いなく劉鳳のものだろう。
……だがしかし、それが纏っている鎧状の物に関しては初めて見るものであった。
「これも……彼の言うアルター能力の一種なのかしら……? ……!」
彼の一部であるなら一緒に埋葬するのがいいだろうと、落ちているのを慎重に拾い上げる。
そして、その腕に手を触れた所で彼女はそれに気が付いた。
「まだ、力が生きている……!?」
本来、アルター能力とは発現者の意志を投影したものであるため、
その人間が死んでしまえば再び粒子へと分解され散ってしまうのが道理だ。
しかし今回はリインフォースの力によって打ち込まれたミストルティンの効果によって、
その分散するはずのアルターが発現者の死後もその形を維持していた。
もっとも、その形は残っていてもその中を流れるはずの力の流動は石化によってその動きを止めている。
それゆえに魔力探知にも反応しなかったのだが……
「これ魔力として使えないかしら? ……どう、リインフォース?」
石化しているとはいえ、内在している力は相当な量がある。対セイバーに向けて使える物はなんであろうと回収しておきたい。
だが、リンフォースの回答は彼女にとっては残念なものだった。
その人間が死んでしまえば再び粒子へと分解され散ってしまうのが道理だ。
しかし今回はリインフォースの力によって打ち込まれたミストルティンの効果によって、
その分散するはずのアルターが発現者の死後もその形を維持していた。
もっとも、その形は残っていてもその中を流れるはずの力の流動は石化によってその動きを止めている。
それゆえに魔力探知にも反応しなかったのだが……
「これ魔力として使えないかしら? ……どう、リインフォース?」
石化しているとはいえ、内在している力は相当な量がある。対セイバーに向けて使える物はなんであろうと回収しておきたい。
だが、リンフォースの回答は彼女にとっては残念なものだった。
『……石化を解呪すれば、術者を失ったそれはおそらく分散してしまうでしょう。
例えるなら魔力は水。今のそれは凍っているようなものです。
そのままでは使えないが、かといって溶かしてしまうとそれは手の平から零れ落ちていってしまいます』
その返答に遠坂凛は眉根をよせた。しかたがないと石化した劉鳳の腕を埋葬するために身体の向きを変えたが、続くリインフォースの言葉がそれを止めた。
例えるなら魔力は水。今のそれは凍っているようなものです。
そのままでは使えないが、かといって溶かしてしまうとそれは手の平から零れ落ちていってしまいます』
その返答に遠坂凛は眉根をよせた。しかたがないと石化した劉鳳の腕を埋葬するために身体の向きを変えたが、続くリインフォースの言葉がそれを止めた。
『しかし、同じアルター使いならばあるいは……』
「どういうこと……?」
『水銀燈と劉鳳の戦いを通じて、アルター使いは物質に止まらず魔力すらも分解、再構成し取り込むということが見て取れました。
ならば、その石化した腕も同じアルター使いならば直接取り込むことが出来るかもしれません』
そして、魔力を取り込んだアルターは飛躍的にその能力が向上するようだと彼女は付け加えた。
ふぅむと、遠坂凛は石化した劉鳳の腕を見る。
「どっちにしろ私には使えないってことか……。まぁ、いいわ。
だったら、あのカズマって男に渡してみましょう。あいつがこれを使いたがるかはわからないけど」
そう言うと、遠坂凛は手にした石化した腕を自身のデイバッグの中に仕舞い込んだ。
「どういうこと……?」
『水銀燈と劉鳳の戦いを通じて、アルター使いは物質に止まらず魔力すらも分解、再構成し取り込むということが見て取れました。
ならば、その石化した腕も同じアルター使いならば直接取り込むことが出来るかもしれません』
そして、魔力を取り込んだアルターは飛躍的にその能力が向上するようだと彼女は付け加えた。
ふぅむと、遠坂凛は石化した劉鳳の腕を見る。
「どっちにしろ私には使えないってことか……。まぁ、いいわ。
だったら、あのカズマって男に渡してみましょう。あいつがこれを使いたがるかはわからないけど」
そう言うと、遠坂凛は手にした石化した腕を自身のデイバッグの中に仕舞い込んだ。
(いざ実物を見てみると、なんとも奇妙だな……)
遠坂凛がいる場所とは対の位置となる病院の南西の一角。
そこで、ロアナプラで運び屋の片棒を担いでいるロックが、
22世紀の子守ロボットであるドラえもんにコンタクトを取ろうとしていた。
そこで、ロアナプラで運び屋の片棒を担いでいるロックが、
22世紀の子守ロボットであるドラえもんにコンタクトを取ろうとしていた。
スタンダードなサラリーマンスタイルを何時でも崩さないロックの視線の先には、
子供ほどの背の高さのずんぐりむっくりとした青いぬいぐるみのようなものがトボトボと歩いている。
子供ほどの背の高さのずんぐりむっくりとした青いぬいぐるみのようなものがトボトボと歩いている。
(……警戒されないといいんだが)
意を決するとロックは通りの陰から出て、ドラえもんへと近づいた。
意を決するとロックは通りの陰から出て、ドラえもんへと近づいた。
「……そうか、そんなことが」
突然現れたロックにドラえもんは最初警戒したが、ロックがいなくなったハルヒ達と一緒だったことを知るとその態度を少し和らげた。
そしてロックは彼から病院にセイバーの再襲撃があったことと、その中でのび太が命を失ったことを知る。
(これも不幸中の幸いか……?)
病院の方を振り返ればその惨状はすさまじいものだ。
レヴィ、ロベルタ、バラライカ。ロックの知る最強の女傑三人。
彼女達がそれぞれ三人ずつぐらいはいないとこんなことにはならないだろう……と彼に思わせる程に。
ハルヒやキョン、魅音達がここに残っていれば、のび太と同じ運命を辿ったであろうことは想像に難くない。
突然現れたロックにドラえもんは最初警戒したが、ロックがいなくなったハルヒ達と一緒だったことを知るとその態度を少し和らげた。
そしてロックは彼から病院にセイバーの再襲撃があったことと、その中でのび太が命を失ったことを知る。
(これも不幸中の幸いか……?)
病院の方を振り返ればその惨状はすさまじいものだ。
レヴィ、ロベルタ、バラライカ。ロックの知る最強の女傑三人。
彼女達がそれぞれ三人ずつぐらいはいないとこんなことにはならないだろう……と彼に思わせる程に。
ハルヒやキョン、魅音達がここに残っていれば、のび太と同じ運命を辿ったであろうことは想像に難くない。
「しかし、ドラえもんはずっと気絶していたのか……」
ロックの眉間に皺が寄る。遠坂凛や水銀燈が残っている病院に入る前に状況を把握したかった。
だからこそ、まずはドラえもんにコンタクトを取ったのだが……
情報としてはセラスや劉鳳が危機に陥っていたというネガティブなものしか得られなかった。
ロックの眉間に皺が寄る。遠坂凛や水銀燈が残っている病院に入る前に状況を把握したかった。
だからこそ、まずはドラえもんにコンタクトを取ったのだが……
情報としてはセラスや劉鳳が危機に陥っていたというネガティブなものしか得られなかった。
一度、キョン達の下へ戻るかそれともあえて踏み込むか……
とロックが逡巡している所に、ドラえもんを迎えに来たトグサが拳銃片手に近づいていた。
とロックが逡巡している所に、ドラえもんを迎えに来たトグサが拳銃片手に近づいていた。
互いに接近する二人がそれぞれ相手に気付いた時、先に声をかけたのはロックの方だった。
「はじめましてトグサさん。俺はラグーン商会のロックです」
ロックは同時に両手を挙げて敵意がないことを示す。
「君がレヴィの……?」
「はじめましてトグサさん。俺はラグーン商会のロックです」
ロックは同時に両手を挙げて敵意がないことを示す。
「君がレヴィの……?」
再び、ロックとトグサとの間で互いの身分を確認するやり取りが行われた。
だが、今回は先程のドラえもんとの時とは違いトグサの警戒は十分に解かれることはなかった。
だが、今回は先程のドラえもんとの時とは違いトグサの警戒は十分に解かれることはなかった。
「君の話には裏付がない。キョン君達の内の誰かとここに来るべきだったんじゃないか?」
トグサの言葉にロックは確かにそうだと思う。その点を考慮して最初は四人で来ていたのだ。
「いえ、途中までは彼らと一緒に…………」
今更だと白々しくなると解ってはいても、ロックは事情を正直に話す。
信頼を得るために何よりも必要なのは隠し事をしないということだ。これはロックがロアナプラで得た教訓でもある。
一般から見れば不思議なことだが、大物の悪党であるほど物事に対し真摯な態度を取る。
何故ならば、法という規定に縛られない彼らにとっては信頼という規定こそが唯一の確固たるものだからだ。
大きな力を振るうには秩序が必要であり、表も裏もそのベクトルが異なるというだけで必要なものは変わりはしない。
トグサの言葉にロックは確かにそうだと思う。その点を考慮して最初は四人で来ていたのだ。
「いえ、途中までは彼らと一緒に…………」
今更だと白々しくなると解ってはいても、ロックは事情を正直に話す。
信頼を得るために何よりも必要なのは隠し事をしないということだ。これはロックがロアナプラで得た教訓でもある。
一般から見れば不思議なことだが、大物の悪党であるほど物事に対し真摯な態度を取る。
何故ならば、法という規定に縛られない彼らにとっては信頼という規定こそが唯一の確固たるものだからだ。
大きな力を振るうには秩序が必要であり、表も裏もそのベクトルが異なるというだけで必要なものは変わりはしない。
しかし、やはり今の段階ではロックの話はただのご都合のようにトグサには聞こえる。
「すまないが、まだ君を信用することはできない。
だが、幸いなことに今この病院にレヴィが来ている。君がロック本人であるならば彼女に会うことで一応の保証が得られるだろう。
それに君の話が本当ならこちらからもキョン君達に迎えを送りたい」
そうしてトグサがロックを病院へ向かうよう促す。もちろんロックとしてもそれを断る理由はない。しかし、
「病院へ入る前に遠坂凛と水銀燈に関して話しておきたいことが……」
病院前の騒動で遠坂凛は集団の中に馴染んでいた。つまり彼女達の(ロックが推測した)目論見は未だ成功していると見て取れる。
ならば忠告が必要だとロックは切り出した。だが、トグサから返ってきたのは意外な答えだった。
「すまないが、まだ君を信用することはできない。
だが、幸いなことに今この病院にレヴィが来ている。君がロック本人であるならば彼女に会うことで一応の保証が得られるだろう。
それに君の話が本当ならこちらからもキョン君達に迎えを送りたい」
そうしてトグサがロックを病院へ向かうよう促す。もちろんロックとしてもそれを断る理由はない。しかし、
「病院へ入る前に遠坂凛と水銀燈に関して話しておきたいことが……」
病院前の騒動で遠坂凛は集団の中に馴染んでいた。つまり彼女達の(ロックが推測した)目論見は未だ成功していると見て取れる。
ならば忠告が必要だとロックは切り出した。だが、トグサから返ってきたのは意外な答えだった。
「ハルヒが彼女達を疑っていたのはセラスと劉鳳から聞いている。
だが、すでに水銀燈は死んでいるし、遠坂凛もただ水銀燈に騙されていたということらしい」
「……つまり、全ては水銀燈の企みで他は不幸な誤解だったというわけですか?」
先程のロックの話がトグサにとってご都合ならば、今度の話はロックにとってご都合だと言えた。
水銀燈が死んでいるというのならば、それは単なる遠坂凛の言い逃れなのではないかと思える。
もちろん、それをトグサも察したようだ。
「君が信じられないのも無理はない。その誤解は君が直接遠坂凛と会って解いてくれ。
正直俺にも確証があるわけじゃあない。だが、それよりも今は状況を整理したいんだ」
そういうと再びロックを促す。もちろんロックもトグサと気持ちは同じである。なので今度は躊躇わなかった。
だが、すでに水銀燈は死んでいるし、遠坂凛もただ水銀燈に騙されていたということらしい」
「……つまり、全ては水銀燈の企みで他は不幸な誤解だったというわけですか?」
先程のロックの話がトグサにとってご都合ならば、今度の話はロックにとってご都合だと言えた。
水銀燈が死んでいるというのならば、それは単なる遠坂凛の言い逃れなのではないかと思える。
もちろん、それをトグサも察したようだ。
「君が信じられないのも無理はない。その誤解は君が直接遠坂凛と会って解いてくれ。
正直俺にも確証があるわけじゃあない。だが、それよりも今は状況を整理したいんだ」
そういうと再びロックを促す。もちろんロックもトグサと気持ちは同じである。なので今度は躊躇わなかった。
先頭を行くトグサ。その少し後ろを歩くロック。そして二人の後ろを重い足取りで追うドラえもん。
そのドラえもんにトグサは声をかける。
「ドラえもん。おそらくは君が唯一の証言者たりえる人物だ。
つらいかもしれないが、戻ったら昨晩から今まで病院で何があったかを教えてくれ」
そのドラえもんにトグサは声をかける。
「ドラえもん。おそらくは君が唯一の証言者たりえる人物だ。
つらいかもしれないが、戻ったら昨晩から今まで病院で何があったかを教えてくれ」
だが、トグサからの声に返答はなく、ドラえもんはただ力なく頷くのみだった。
そして彼らは間もなく件の遠坂凛に出迎えられ、病院の中の例の部屋に集合した。
先程の広いスペースに今度は合わせて八人の男女が集まっている。
カウンターを机代わりに向かい合っているのは、トグサとロック、遠坂凛、ゲイナーで、
もう一人ドラえもんがカウンターの端に座っている。
カズマとレヴィは相変わらずベッドの上で意識を失ったままで、
フェイトがその脇に椅子を置いてカウンターの方を窺いながらもその様子を見守っていた。
もう一人ドラえもんがカウンターの端に座っている。
カズマとレヴィは相変わらずベッドの上で意識を失ったままで、
フェイトがその脇に椅子を置いてカウンターの方を窺いながらもその様子を見守っていた。
「で、取りあえずはどうするのかしら?」
そうやって他の発言を促したのは遠坂凛だ。
「そうだな。取りあえず考えなければならないことは多いが、まずは彼の懸案から解決しよう」
そう言ってトグサは一番新しい同行者であるロックを指す。
セイバーと一緒に姿を消したセラスや、ゲイナーとフェイトがゲインと会って得てきた情報、
さらにその他諸々の懸案事項があったが、まずはキョンやハルヒ達も含めて全員が一箇所に集まることが優先だとトグサは考えた。
そのためにも、ロックと今は此処にいないキョン達の疑惑は払拭しておかねばならない。
そうやって他の発言を促したのは遠坂凛だ。
「そうだな。取りあえず考えなければならないことは多いが、まずは彼の懸案から解決しよう」
そう言ってトグサは一番新しい同行者であるロックを指す。
セイバーと一緒に姿を消したセラスや、ゲイナーとフェイトがゲインと会って得てきた情報、
さらにその他諸々の懸案事項があったが、まずはキョンやハルヒ達も含めて全員が一箇所に集まることが優先だとトグサは考えた。
そのためにも、ロックと今は此処にいないキョン達の疑惑は払拭しておかねばならない。
「私が疑われているって話よね……」
「君みたいな女の子を疑うのは心苦しいけどね」
疑惑の対象である遠坂凛の態度は神妙だ。彼女自身、疑われるのは仕方がないと考えている。
翻って彼女を疑うロックの表情は穏やかだ。だが、これはただ彼のスタイルだというだけのことである。
表面上は紳士を装ってはいるが、その目その耳は彼女の一挙一動を逃しはしまいと澄まされている。
「君みたいな女の子を疑うのは心苦しいけどね」
疑惑の対象である遠坂凛の態度は神妙だ。彼女自身、疑われるのは仕方がないと考えている。
翻って彼女を疑うロックの表情は穏やかだ。だが、これはただ彼のスタイルだというだけのことである。
表面上は紳士を装ってはいるが、その目その耳は彼女の一挙一動を逃しはしまいと澄まされている。
「取りあえず、昨晩からここで何があったのかを整理しようと思う。
正直な所、来てみればこんなことになっていて俺も混乱しているんだ」
そう言ってトグサはカウンターの端で置物のように佇んでいるドラえもんへと視線を移す。
つられるように他の三人もドラえもんを見るが、ドラえもん自身はそれに気づくことなく俯いたままだ。
のび太の死を知った直後の激昂した様子とは打って変わって、電池が切れたかのように静かにしている。
正直な所、来てみればこんなことになっていて俺も混乱しているんだ」
そう言ってトグサはカウンターの端で置物のように佇んでいるドラえもんへと視線を移す。
つられるように他の三人もドラえもんを見るが、ドラえもん自身はそれに気づくことなく俯いたままだ。
のび太の死を知った直後の激昂した様子とは打って変わって、電池が切れたかのように静かにしている。
「……ドラえもん。あんた大丈夫?」
「えっ? あ、ハイ。ごめんなさい……えっと」
彼を気遣う遠坂凛の呼び掛けに、ドラえもんは初めて他の人間が自分を注視していることに気付いた。
「さっきも言ったが、この病院に最初からいたのはドラえもん――君だけだ。
落ち込んでいるところをすまないが、俺たちにここで何があったのかを教えてくれ」
「えっ? あ、ハイ。ごめんなさい……えっと」
彼を気遣う遠坂凛の呼び掛けに、ドラえもんは初めて他の人間が自分を注視していることに気付いた。
「さっきも言ったが、この病院に最初からいたのはドラえもん――君だけだ。
落ち込んでいるところをすまないが、俺たちにここで何があったのかを教えてくれ」
この病院で一体何があったのか? それはまさに今、ドラえもんが考えていたことだった。
とても思い出したくないことだが、トグサに促されるとドラえもんはそれを少しずつ語り始めた。
とても思い出したくないことだが、トグサに促されるとドラえもんはそれを少しずつ語り始めた。
ドラえもんがポツリポツリと病院の中からの視線で昨晩からの経緯を話し、
それに時折他の人間が自分が知る部分を加えて補完する。
そんな形で、昨晩から起きた病院での一連の騒動が手短にまとめられた。
それに時折他の人間が自分が知る部分を加えて補完する。
そんな形で、昨晩から起きた病院での一連の騒動が手短にまとめられた。
ドラえもん達。ドラえもんに加え、八神太一、野比のび太、カズマの四人が病院に到着したのは昨晩。
それも真夜中の放送よりいくらか前のことだった。
破壊と殺戮の跡が強く残る真っ暗な病院の中で彼らはそこに残された遺体を埋め、食事を取って自分達の身体を癒した。
彼らがこの病院を訪れたのは、度重なる危機と不幸によって彼ら自身が心身共に傷ついていたからだが、
運命の神はさらに彼らを過酷な境遇へと叩き落とす。
それも真夜中の放送よりいくらか前のことだった。
破壊と殺戮の跡が強く残る真っ暗な病院の中で彼らはそこに残された遺体を埋め、食事を取って自分達の身体を癒した。
彼らがこの病院を訪れたのは、度重なる危機と不幸によって彼ら自身が心身共に傷ついていたからだが、
運命の神はさらに彼らを過酷な境遇へと叩き落とす。
「……その、ドラえもん達の前に現れたという謎の変装魔は峰不二子だな。
俺の……正確にはすでに亡くなった君島の支給品だったんだが、
彼の持っていた顔写真付き名簿のデータと、直接襲われたハルヒちゃんの証言で確認は取れている」
俺の……正確にはすでに亡くなった君島の支給品だったんだが、
彼の持っていた顔写真付き名簿のデータと、直接襲われたハルヒちゃんの証言で確認は取れている」
深夜の放送直前に現れた招かざる客――峰不二子。
彼女は時を同じくしてそこへと辿りついた涼宮ハルヒを襲い、
ヤマトを人質にドラえもん達の荷物を奪って最後には、最悪なことに太一を殺害してヤマトと共に暗闇へと姿を消した。
彼女は時を同じくしてそこへと辿りついた涼宮ハルヒを襲い、
ヤマトを人質にドラえもん達の荷物を奪って最後には、最悪なことに太一を殺害してヤマトと共に暗闇へと姿を消した。
不二子を追ってカズマが去った後、彼らは涼宮ハルヒとアルルゥという新しく加わった二人の少女と
共に、薄暗い病室の中で夜に怯えながら仲間の帰りを待っていた。
そこに現れたのが偽者の遠坂凛――リインフォースの姿を纏った水銀燈であった。
共に、薄暗い病室の中で夜に怯えながら仲間の帰りを待っていた。
そこに現れたのが偽者の遠坂凛――リインフォースの姿を纏った水銀燈であった。
『残念なことですが、アルルゥという少女を殺したのは水銀燈で間違いありません。
水銀燈は彼女を言葉巧みに誘い出して殺した後、その遺体を廃棄孔へと隠蔽しました』
水銀燈は彼女を言葉巧みに誘い出して殺した後、その遺体を廃棄孔へと隠蔽しました』
アルルゥを殺害した水銀燈は彼女の不在を訴えてドラえもん達を動かそうとした。
その時、偶然にも丁度そこに現れたのがホテルから病院へと向かっていたセラス一行であった。
満身創痍であった彼女達は本性を表した水銀燈に襲われ、劉鳳を庇って剛田武が死んでしまう。
その時、偶然にも丁度そこに現れたのがホテルから病院へと向かっていたセラス一行であった。
満身創痍であった彼女達は本性を表した水銀燈に襲われ、劉鳳を庇って剛田武が死んでしまう。
「この時、水銀燈は劉鳳が持っていた真紅のローザミスティカを狙っていたのよ。
彼がそれを持っていることは私も一緒に聞いて知っていたから……」
彼がそれを持っていることは私も一緒に聞いて知っていたから……」
リインフォースの絶大な力の前に窮地へと陥っていたセラスと劉鳳を救ったのは、
途切れた魔力を追ってそこへと駆けつけた遠坂凛だった。
それが水銀燈と知らず撃退した遠坂凛はセラスや劉鳳と一緒に病院組へと合流する。
だが、彼女が入って来たことで病院内に対立が生まれた。
涼宮ハルヒが遠坂凛と何食わぬ顔で戻ってきた水銀燈から、以前襲われたことがあったからだ。
途切れた魔力を追ってそこへと駆けつけた遠坂凛だった。
それが水銀燈と知らず撃退した遠坂凛はセラスや劉鳳と一緒に病院組へと合流する。
だが、彼女が入って来たことで病院内に対立が生まれた。
涼宮ハルヒが遠坂凛と何食わぬ顔で戻ってきた水銀燈から、以前襲われたことがあったからだ。
その対立の中、さらにホテルからキョン達一行が到達する。彼らとの邂逅は穏やかなものとはいかず、
小競り合いの末ハルヒが来たばかりのキョン達を連れて病院から離れるという結果に終わる。
小競り合いの末ハルヒが来たばかりのキョン達を連れて病院から離れるという結果に終わる。
それからしばらく後、早朝の放送を挟んで病院へ不穏な訪問者が立て続けに訪れる。
一人はトグサ。誤解から遠坂凛へと向けて発砲し、病院全体を覆う戦いの火蓋を切った。
そしてもう一人はセイバー。その圧倒的な力を見境無く振るって誰も彼もを襲い、のび太を殺害した。
その激しい戦いの中でついに遠坂凛は水銀燈の企みを知ることとなり、決別を決意する。
一人はトグサ。誤解から遠坂凛へと向けて発砲し、病院全体を覆う戦いの火蓋を切った。
そしてもう一人はセイバー。その圧倒的な力を見境無く振るって誰も彼もを襲い、のび太を殺害した。
その激しい戦いの中でついに遠坂凛は水銀燈の企みを知ることとなり、決別を決意する。
「そして、劉鳳と水銀燈は相打ちに終わり、セラスとセイバーは行方不明というわけか……」
この病院で起こった一連の騒動を知りトグサは嘆息した。
聞けば、誰も彼もが最悪の目を出したような話だ。例えば、ハルヒ達が映画館に残っていれば……
自分が寄り道をせずに病院へと向かっていれば……遠坂凛達にいきなり発砲しなければ……。
誰かの行動が少し違えば、全員で力を合わせてセイバーに立ち向かう……そんな結果もあっただろう。
この病院で起こった一連の騒動を知りトグサは嘆息した。
聞けば、誰も彼もが最悪の目を出したような話だ。例えば、ハルヒ達が映画館に残っていれば……
自分が寄り道をせずに病院へと向かっていれば……遠坂凛達にいきなり発砲しなければ……。
誰かの行動が少し違えば、全員で力を合わせてセイバーに立ち向かう……そんな結果もあっただろう。
「遠坂さん……少し質問をしていいかな?」
発言の主はロックだ。そもそもは彼の遠坂凛への疑惑を払拭することが目的である。
発言の主はロックだ。そもそもは彼の遠坂凛への疑惑を払拭することが目的である。
「君は水銀燈とセイバーとの会話を聞いて、彼女が君を裏切っているということを初めて知った。
……そう言ったね。
だが、実際はどうだったんだろう? 彼女の言動は初めからかなり怪しかったはずだ。
いつでも問い詰めれば、それは露見したんじゃないかと思うんだけど、どうだい?」
ロックの疑問は至極真っ当なものだ。同行してるとはいっても遠坂凛は何度も水銀燈に単独行動を許している。
その先々でトラブルが起こっているとするのならば、これを彼女が疑わないのはおかしい。
そして、その疑問を彼女が払拭しないことも……。
「あ、怪しいとは思うこともあったわ……。けど…………」
遠坂凛の口からはうまい反論が出てこない。それもそのはず、そもそもロックの言う通りなのである。
同じことはもう一人の同行者であるレイジングハートからも繰り返し言われていたのだ。
……そう言ったね。
だが、実際はどうだったんだろう? 彼女の言動は初めからかなり怪しかったはずだ。
いつでも問い詰めれば、それは露見したんじゃないかと思うんだけど、どうだい?」
ロックの疑問は至極真っ当なものだ。同行してるとはいっても遠坂凛は何度も水銀燈に単独行動を許している。
その先々でトラブルが起こっているとするのならば、これを彼女が疑わないのはおかしい。
そして、その疑問を彼女が払拭しないことも……。
「あ、怪しいとは思うこともあったわ……。けど…………」
遠坂凛の口からはうまい反論が出てこない。それもそのはず、そもそもロックの言う通りなのである。
同じことはもう一人の同行者であるレイジングハートからも繰り返し言われていたのだ。
「直接会って、すぐにわかったよ。君がどういう人間なのかがね。
これでもここ一年でありとあらゆる悪党を見てきたんだ。人を見る目には自身がある」
自分を見るロックの目に遠坂凛は身体を強張らせる。
人のいいフェイトやカズマは証拠などがなくても自分を信じてくれた。しかし目の前の彼はどうだろうか?
これでもここ一年でありとあらゆる悪党を見てきたんだ。人を見る目には自身がある」
自分を見るロックの目に遠坂凛は身体を強張らせる。
人のいいフェイトやカズマは証拠などがなくても自分を信じてくれた。しかし目の前の彼はどうだろうか?
「つまり、君という人間は……ただのお人好しってことさ」
「え?」
目の前の男から放たれた意外な言葉に遠坂凛は目をぱちくりとさせる。
「君のその、飼い主に叱られた子犬のような態度は悪人のそれではないよ。
君が水銀燈に対して決断を先延ばしにしていたのは、彼女のことを信じたかったから。
または、彼女が心変わりするのを願った……そんなところじゃないか?」
ロックの表情は普段の温和なものへと戻っていた。だが、それがまたにわかに険を帯びる。
「君のその優柔不断のせいで死ななくてもいい人間が死んでいる。それは理解しているかい?」
その言葉に遠坂凛は神妙な表情で首肯する。黒い羽舞散るあの場所でそれを誓ったのだ。
「……償いはするわ」
それを聞くと、今度こそロックは破顔一笑した。
「その言葉が聞けて安心したよ」
そして、これからもよろしくとロックは遠坂凛へと友好の手を差し出す。
その手を取ろうと遠坂凛も手を出したが、その手はロックの手へと届く前にピタリと動きを止めた。
「え?」
目の前の男から放たれた意外な言葉に遠坂凛は目をぱちくりとさせる。
「君のその、飼い主に叱られた子犬のような態度は悪人のそれではないよ。
君が水銀燈に対して決断を先延ばしにしていたのは、彼女のことを信じたかったから。
または、彼女が心変わりするのを願った……そんなところじゃないか?」
ロックの表情は普段の温和なものへと戻っていた。だが、それがまたにわかに険を帯びる。
「君のその優柔不断のせいで死ななくてもいい人間が死んでいる。それは理解しているかい?」
その言葉に遠坂凛は神妙な表情で首肯する。黒い羽舞散るあの場所でそれを誓ったのだ。
「……償いはするわ」
それを聞くと、今度こそロックは破顔一笑した。
「その言葉が聞けて安心したよ」
そして、これからもよろしくとロックは遠坂凛へと友好の手を差し出す。
その手を取ろうと遠坂凛も手を出したが、その手はロックの手へと届く前にピタリと動きを止めた。
――何故なら、目の前にいるロックのその背後に鬼が立っていたからだ。
「ロォ~~ック……。なんだか随分と男前じゃあないか? あ~~ん?」
恐る恐る振り返ったロックの前には鬼――正確に言えば鬼の形相をしたレヴィが立っていた。
「お早う、レヴィ」
恐る恐るロックが声をかける。不機嫌なレヴィはニトロと変わらないので、その接触には細心の注意が必要とされる。
もっとも、不機嫌の理由がロックにある以上どう触っても爆発してしまうのだが……。
恐る恐るロックが声をかける。不機嫌なレヴィはニトロと変わらないので、その接触には細心の注意が必要とされる。
もっとも、不機嫌の理由がロックにある以上どう触っても爆発してしまうのだが……。
「人様が寝てる枕元で女を口説くたぁ、見せ付けてくれるじゃないか。
大体、仮にも先輩であるこのレヴィ様に対して一言も挨拶がないったぁ、一体どういう了見だ? あ?」
「い、いや、今のは別に口説いてたわけじゃあ……。それにレヴィは寝起きが悪いだろう……?」
「大体、腐ってもロアナプラの住人である手前があんなションベン臭い餓鬼相手にニヤケ面晒してたんじゃ、
同僚のあたしの面子が立たないと思わないか? え、ロック?」
「ご、誤解しないでくれレヴィ。別に他意はないんだ……」
「他意はない。……だとぅ? 安い嘘ついてんじゃねーぞ。あたしゃ、手前のあんな顔は見たこと無いぜ。
それともなんだ? ホワイト・カラーの旦那にはロワナプラの女じゃあ役不足ってか?」
「そ、そりゃあロアナプラじゃ……」
「死ね」
大体、仮にも先輩であるこのレヴィ様に対して一言も挨拶がないったぁ、一体どういう了見だ? あ?」
「い、いや、今のは別に口説いてたわけじゃあ……。それにレヴィは寝起きが悪いだろう……?」
「大体、腐ってもロアナプラの住人である手前があんなションベン臭い餓鬼相手にニヤケ面晒してたんじゃ、
同僚のあたしの面子が立たないと思わないか? え、ロック?」
「ご、誤解しないでくれレヴィ。別に他意はないんだ……」
「他意はない。……だとぅ? 安い嘘ついてんじゃねーぞ。あたしゃ、手前のあんな顔は見たこと無いぜ。
それともなんだ? ホワイト・カラーの旦那にはロワナプラの女じゃあ役不足ってか?」
「そ、そりゃあロアナプラじゃ……」
「死ね」
鉄拳一発。
顔面に制裁の刻印を押されたロックはカウンターの上を勢いよく奔ると、
端から飛び出し綺麗な放物線を描くとそのままゴミ箱へと逆様に突き刺さった。
顔面に制裁の刻印を押されたロックはカウンターの上を勢いよく奔ると、
端から飛び出し綺麗な放物線を描くとそのままゴミ箱へと逆様に突き刺さった。
あっけにとられた聴衆が一瞬の後ロックを救助に向かうと、
レヴィは先程まで寝ていたベッドに乱暴に腰掛け、すぐ傍で固まっていたフェイトをビクリと振るわせた。
レヴィは先程まで寝ていたベッドに乱暴に腰掛け、すぐ傍で固まっていたフェイトをビクリと振るわせた。
「……くだらねぇ」
遠坂凛への疑惑が一応は拭われ、その後の一悶着が落ち着いた後。
キョン達を迎えに行く者の人選が行われたが、結果それには意外な人物が選ばれることになった。
キョン達を迎えに行く者の人選が行われたが、結果それには意外な人物が選ばれることになった。
ロックが書いた地図を片手に、意気揚々と病院の玄関を潜って出てきたのはレヴィとカズマ。
集まった人間の中でも気の短さと暴力趣向においては他の追随を許さない最も危険な二人である。
集まった人間の中でも気の短さと暴力趣向においては他の追随を許さない最も危険な二人である。
理由がないわけではない。
その理由とは、もし魅音達が残った民家に襲撃があったとしたらそれは峰不二子の可能性が高いとロックが推理したからだった。
今、彼らから見て所在が不明なのはセイバー、峰不二子、ゲインの三人。
セイバーだとするならば、距離的に考えても遠坂凛やフェイトが魔力を探知できてもおかしくない。
またゲインは味方のはずだし方向が違う。なので、消去法で峰不二子の可能性が高いとなった。
そして、峰不二子はカズマにとってもレヴィにとっても因縁浅からぬ相手であり、
気兼ねなく拳と銃弾を撃ち込める数少ない相手でもあるのだ。ならば、この二人がその機会を逃すはずがない。
その理由とは、もし魅音達が残った民家に襲撃があったとしたらそれは峰不二子の可能性が高いとロックが推理したからだった。
今、彼らから見て所在が不明なのはセイバー、峰不二子、ゲインの三人。
セイバーだとするならば、距離的に考えても遠坂凛やフェイトが魔力を探知できてもおかしくない。
またゲインは味方のはずだし方向が違う。なので、消去法で峰不二子の可能性が高いとなった。
そして、峰不二子はカズマにとってもレヴィにとっても因縁浅からぬ相手であり、
気兼ねなく拳と銃弾を撃ち込める数少ない相手でもあるのだ。ならば、この二人がその機会を逃すはずがない。
「レヴィ。あくまで仕事はキョン君達の安全な移送だ。くれぐれも……」
出発する二人を見送るのは、顔面に張られた真新しいガーゼが眩しいロックだ。
彼も二人に同行することを繰り返し申し出たのだが……
「耳にタコが出来るぜロック。あたしがプロだってことは手前が一番よく知ってるだろうに……。
手前はここでおとなしくガキと女の面倒を見てな。手前にはそれがお似合いだ」
あいも変わらずレヴィは不機嫌だ。そして、それは一緒に行くカズマも同様だった。
先刻、騒がしさに軋む身体を起こし仇敵である峰不二子が近くにいると知ると、
止めるフェイトを振り切って飛び出そうとしたのだ。もっとも向かうべき場所が分からないのですぐに戻ってきたが……。
「オイ! いつまでグズグズしてんだ。置いていっちまうぞ!」
カズマの胸中にあるのは、太一とヤマトのことだ。二人とも彼の速さが足りないばかりに死なせてしまった。
なので、今度ばかりは同じ轍を踏むまいと焦っているのである。
出発する二人を見送るのは、顔面に張られた真新しいガーゼが眩しいロックだ。
彼も二人に同行することを繰り返し申し出たのだが……
「耳にタコが出来るぜロック。あたしがプロだってことは手前が一番よく知ってるだろうに……。
手前はここでおとなしくガキと女の面倒を見てな。手前にはそれがお似合いだ」
あいも変わらずレヴィは不機嫌だ。そして、それは一緒に行くカズマも同様だった。
先刻、騒がしさに軋む身体を起こし仇敵である峰不二子が近くにいると知ると、
止めるフェイトを振り切って飛び出そうとしたのだ。もっとも向かうべき場所が分からないのですぐに戻ってきたが……。
「オイ! いつまでグズグズしてんだ。置いていっちまうぞ!」
カズマの胸中にあるのは、太一とヤマトのことだ。二人とも彼の速さが足りないばかりに死なせてしまった。
なので、今度ばかりは同じ轍を踏むまいと焦っているのである。
「何かあったら病院に電話するのを忘れないでくれよ!」
玄関から足を踏み出すと、二人はロックの言葉を振り切るようにアスファルトを突っ切った。
進むにつれ狭く複雑になる路地をよどみなく駆け抜け、あっという間に病院から離れて行く。
玄関から足を踏み出すと、二人はロックの言葉を振り切るようにアスファルトを突っ切った。
進むにつれ狭く複雑になる路地をよどみなく駆け抜け、あっという間に病院から離れて行く。
「大丈夫かな。あの二人……」
二人が正しい方向へ向かっていることを確認すると、ロックは折れた鼻に手を当てながらトグサ達が待つ病院の中へと戻った。
二人が正しい方向へ向かっていることを確認すると、ロックは折れた鼻に手を当てながらトグサ達が待つ病院の中へと戻った。
ロックが戻ってくると、トグサ達は次の議題としてセイバーと一緒に姿を消したセラスをどうするかと話し合っていた。
フェイトは一刻も早く仲間を追うべきだと主張したが、逆にセイバーの実力を知っている遠坂凛は慎重に行動することを主張した。
そして、いたずらな戦力の分散をよしとしないトグサとゲイナーも遠坂凛に同調し、そこにロックも加わることで議論に決着はついた。
フェイトは一刻も早く仲間を追うべきだと主張したが、逆にセイバーの実力を知っている遠坂凛は慎重に行動することを主張した。
そして、いたずらな戦力の分散をよしとしないトグサとゲイナーも遠坂凛に同調し、そこにロックも加わることで議論に決着はついた。
(……苦労のかけっぱなしになるな)
トグサの胸中はセラスに対する申し訳なさでいっぱいだった。
この悪趣味な殺人遊戯が始まって以来、彼女に拠点の防衛や荒事を任せっぱなしになってしまっている。
二度再会した時も毎回慌ただしい戦闘の真っ最中でろくに謝罪もしていない。
再び会えたならその働きを労いたいが、遠坂凛からセイバーの実力を聞くとそれも絶望的かと思えた。
トグサの胸中はセラスに対する申し訳なさでいっぱいだった。
この悪趣味な殺人遊戯が始まって以来、彼女に拠点の防衛や荒事を任せっぱなしになってしまっている。
二度再会した時も毎回慌ただしい戦闘の真っ最中でろくに謝罪もしていない。
再び会えたならその働きを労いたいが、遠坂凛からセイバーの実力を聞くとそれも絶望的かと思えた。
「……で、セイバーが再び現れたとして俺達で迎撃できると思うか?」
トグサのその質問に遠坂凛は顎に手を当てて考える。
「……できないこともない。と思うけど」
返答は歯切れの悪いものだった。
先程の戦いでは勝負は一方的だったが、今彼女の手にはレイジングハートに加え闇の書がある。
ただし、どちらも先の戦闘で激しく消耗しているため、今の状態だと厳しいと言わざるを得ない。
これら両方が回復し、フェイトと連携すればおそらく互角以上に戦えるはずではあるが……。
トグサのその質問に遠坂凛は顎に手を当てて考える。
「……できないこともない。と思うけど」
返答は歯切れの悪いものだった。
先程の戦いでは勝負は一方的だったが、今彼女の手にはレイジングハートに加え闇の書がある。
ただし、どちらも先の戦闘で激しく消耗しているため、今の状態だと厳しいと言わざるを得ない。
これら両方が回復し、フェイトと連携すればおそらく互角以上に戦えるはずではあるが……。
『マスター。何者かがここへと接近しています』
レイジングハートの報告に遠坂凛の思考が中断される。まさかセイバーがと思ったが、
『いえ、魔力を持たない者が一人で近づいています』
その報告に、ほっと胸をなでおろす。それはここにいる全員もそうだったようだ。
レイジングハートの報告に遠坂凛の思考が中断される。まさかセイバーがと思ったが、
『いえ、魔力を持たない者が一人で近づいています』
その報告に、ほっと胸をなでおろす。それはここにいる全員もそうだったようだ。
「多分、ゲインさんだと思いますよ。そろそろ来ることだと思いますし」
フェイトとゲイナーの言葉通り、ひび割れた床板を踏んで現れたのはゲインその人だった。
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273:銃撃女ラジカルレヴィさん(後編) | ロック | 274:陽が昇る(後編) |
269:請負人Ⅲ ~決意、新たに~ | ゲイン・ビジョウ | 274:陽が昇る(後編) |
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273:銃撃女ラジカルレヴィさん(後編) | レヴィ | 274:陽が昇る(後編) |