静謐な病院Ⅱ ~それぞれの胸の誓い~ (前編) ◆lbhhgwAtQE
その病院はまさに静寂と喧騒と繰り返していた。
少女少年と刑事が出会った。
神父とメイドが攻めてきた。
安らぎを求めた幼い少年二人がやってきた。
少年たちは錯乱した男に襲われた。
右手を失った少年の傷と心を癒した。
魔性の女に場を乱された。
主催に反旗を翻した者達が集まった。
黒い人形の策略と騎士の猛襲により、疑心暗鬼が蔓延し、血の雨が降り注いだ。
そして、再三反旗を翻した者達の拠点になった。
しかし、今度は鎧の剣士によって襲われて……。
神父とメイドが攻めてきた。
安らぎを求めた幼い少年二人がやってきた。
少年たちは錯乱した男に襲われた。
右手を失った少年の傷と心を癒した。
魔性の女に場を乱された。
主催に反旗を翻した者達が集まった。
黒い人形の策略と騎士の猛襲により、疑心暗鬼が蔓延し、血の雨が降り注いだ。
そして、再三反旗を翻した者達の拠点になった。
しかし、今度は鎧の剣士によって襲われて……。
……そして今。剣士を退けたそこには、再び静寂が戻っていた。
◆
「あの球体は何だ? あんなの最初からあったか?」
「いいえ、あんなの見た記憶ありませんよ。それに、見たことないって言ったら、あの城みたいな建物も……」
「どうなってる!? 一体何が……」
陽が沈み始め、朱くなる気配を見せつつある北の空の向こうに見える謎の建造物と黒い半円状の球体。
レントゲン室前にいた男達の目にはそんな奇妙な二つのモノが映っていた。
「ついさっきまで見えてなかったはずなのに……。まさかとは思いますが、例の襲撃者とやらが来たのが影響してるのでは?」
ゲイナーは大人二人にそう提案するが、二人の顔には困惑の表情が浮かぶ。
「そう言われても、こっちはただの元商社勤めの運び屋だぜ? あんな奇怪な現象について一人で講釈できるはずないだろ」
「あれがホログラムではなく、現実に存在しているものなのだとしたら、俺にも何とも言えないな」
「……あー、もう! これだから大人は!」
ゲイナーが苛立ち、頭を掻き毟る。
すると、そのゲイナーの耳にこちらに向かって走ってくる足音が聞こえてくる。
それは、当然のようにロックやトグサにも聞こえているわけで、三人は同じように音のする方向を向く。
そこで彼らが見たのはこちらに近づいてくる見慣れた褐色肌の男と自称猫型ロボット、そして……
「しんのすけ君!!」
ロックが褐色肌の男の横を駆ける少年へと声を掛ける。
すると、少年のそれに応えるように速度を上げ、ロックの名を叫びながら駆け寄る。
「ほっほ~い、ロックおにいさ~~ん!!!」
自分達の仲間であり、生存者の中で最年少であろう少年が無事であることにロックは安堵の表情を浮かべる。
一方のゲイナーとトグサも突然失踪した褐色肌の男ゲインの帰還に安堵の様子だ。
「ゲイン! お前今までどこに……」
「あのですねぇ、勝手に消えてもらってはこっちとしても困るわけで…………」
そこまで口にしたところでゲインに声を掛けた二人、そしてロックは気付いてしまった。
ゲインが背負っていた金髪の少女の惨状に。
「何があった? 敵襲があったとは聞いていたが……」
「……話はフェイトに手当てしながらでいいか」
ゲインの静かな一言に対しては、何の反論もなかった。
――言い換えれば、それほど少女の容態は芳しくないように、その場にいた一同には見えたのだ。
「いいえ、あんなの見た記憶ありませんよ。それに、見たことないって言ったら、あの城みたいな建物も……」
「どうなってる!? 一体何が……」
陽が沈み始め、朱くなる気配を見せつつある北の空の向こうに見える謎の建造物と黒い半円状の球体。
レントゲン室前にいた男達の目にはそんな奇妙な二つのモノが映っていた。
「ついさっきまで見えてなかったはずなのに……。まさかとは思いますが、例の襲撃者とやらが来たのが影響してるのでは?」
ゲイナーは大人二人にそう提案するが、二人の顔には困惑の表情が浮かぶ。
「そう言われても、こっちはただの元商社勤めの運び屋だぜ? あんな奇怪な現象について一人で講釈できるはずないだろ」
「あれがホログラムではなく、現実に存在しているものなのだとしたら、俺にも何とも言えないな」
「……あー、もう! これだから大人は!」
ゲイナーが苛立ち、頭を掻き毟る。
すると、そのゲイナーの耳にこちらに向かって走ってくる足音が聞こえてくる。
それは、当然のようにロックやトグサにも聞こえているわけで、三人は同じように音のする方向を向く。
そこで彼らが見たのはこちらに近づいてくる見慣れた褐色肌の男と自称猫型ロボット、そして……
「しんのすけ君!!」
ロックが褐色肌の男の横を駆ける少年へと声を掛ける。
すると、少年のそれに応えるように速度を上げ、ロックの名を叫びながら駆け寄る。
「ほっほ~い、ロックおにいさ~~ん!!!」
自分達の仲間であり、生存者の中で最年少であろう少年が無事であることにロックは安堵の表情を浮かべる。
一方のゲイナーとトグサも突然失踪した褐色肌の男ゲインの帰還に安堵の様子だ。
「ゲイン! お前今までどこに……」
「あのですねぇ、勝手に消えてもらってはこっちとしても困るわけで…………」
そこまで口にしたところでゲインに声を掛けた二人、そしてロックは気付いてしまった。
ゲインが背負っていた金髪の少女の惨状に。
「何があった? 敵襲があったとは聞いていたが……」
「……話はフェイトに手当てしながらでいいか」
ゲインの静かな一言に対しては、何の反論もなかった。
――言い換えれば、それほど少女の容態は芳しくないように、その場にいた一同には見えたのだ。
――レントゲン室内。
フェイトの応急措置はゲインやトグサによって行われた。
彼女の傷は子供のやんちゃで済まされるレベルを疾うに越えていて、重傷箇所も複数あったが、ここが病院でありそれらを処置する為の薬品や道具が豊富にあったのが不幸中の幸いかもしれない。
彼らや、ロック、ドラえもん、しんのすけらの助力により、なんとかその処置は終わった。
「……ふぅ、これで大方は終わったか」
「骨も折れてるみたいだし、本当はちゃんと医者に診てもらって、しかるべき措置をとるべきなんだろうがな……」
包帯を至る箇所に巻かれ横たわるフェイトの姿は、痛々しくみえる。
「フェイトちゃん……しっかりするんだよ」
「そうだゾ! 気合でファイヤー、だゾ!!」
ドラえもんとしんのすけが目を閉じたままの少女を横から励ます。
後は、彼女自身の回復力に託す他なかった。
彼女の傷は子供のやんちゃで済まされるレベルを疾うに越えていて、重傷箇所も複数あったが、ここが病院でありそれらを処置する為の薬品や道具が豊富にあったのが不幸中の幸いかもしれない。
彼らや、ロック、ドラえもん、しんのすけらの助力により、なんとかその処置は終わった。
「……ふぅ、これで大方は終わったか」
「骨も折れてるみたいだし、本当はちゃんと医者に診てもらって、しかるべき措置をとるべきなんだろうがな……」
包帯を至る箇所に巻かれ横たわるフェイトの姿は、痛々しくみえる。
「フェイトちゃん……しっかりするんだよ」
「そうだゾ! 気合でファイヤー、だゾ!!」
ドラえもんとしんのすけが目を閉じたままの少女を横から励ます。
後は、彼女自身の回復力に託す他なかった。
そして、そんな少年少女を横目に、ゲインらは治療中から交わしていた情報をまとめ、今後の方針について話し合っていた。
「……さて、と。今の俺たちがすべき事は大きく分けて二つだ。まず一つは……」
そう言いつつ、ゲインが指差したのはエクソダス計画書に書かれた一文。
「……さて、と。今の俺たちがすべき事は大きく分けて二つだ。まず一つは……」
そう言いつつ、ゲインが指差したのはエクソダス計画書に書かれた一文。
――2).その発信すべき電波を特定するためにトグサがギガゾンビのCPUへと侵入(ダイブ)する。
―― ※その前提として、キョンと合流しノートPCを受け取る必要がある。
―― ※その前提として、キョンと合流しノートPCを受け取る必要がある。
「シンノスケのお陰で、ようやくこれを行うための道具が来たわけだからな。まずはこいつをしないと首輪に関しちゃ何も始まらない」
「――ということは、俺の出番ってわけだな」
トグサが顔を上げ、真剣な面持ちになる。
この作業は、首輪に用いられている電波(?)を特定する為に必要なこと。
つまり、自分の行動如何でエクソダスの進行が左右されるということだ。
そう考えると、あまりに責任の大きい仕事である。
……だが、他の九課のメンバーが皆逝ってしまった今、電脳通信やダイブが出来るのは自分しかいない。
やるしかないのだ。
「長門の遺志、キョン少年やしんのすけ少年の努力を無駄にはしない。……任せてくれ」
「何か分かり次第、僕も組み立て作業に移れるようにしとかないと、ですね」
トグサの横にいたゲイナーが技術手袋を片手に言葉を紡ぐ。
彼もまた、技術手袋による首輪の解除装置を作ることを己の使命とし、それに責任を感じていたのだ。
それを見て、ゲインはそんな使命を帯びた少年の頭をくしゃくしゃにする。
「よし、そっちは任せたぞチャンプ!」
「わ、分かりましたから、手を離してください!」
ゲイナーに言われてようやく手を彼の頭から離すと、ゲインは話を続行する。
「……まぁ、そっちの用事はそういうことで決まりだ。そして、あともう一つのやるべきことは……」
「キョン達の捜索だな?」
ゲインが言い出す前にロックが口を開いた。
「しんのすけ君の証言を基に考えると、ハルヒはあのセイバーっていう剣士に襲われてて、キョンもそこに向かってるっていう話だったな」
「あぁ。あいつらを迎えにいったレヴィとカズマって少年がその事に気付いて、そっちに救援に向かってる可能性は大きいが、
それにしても、この時間になっても戻ってこないとなると正直心配だ。それに、リンが消えたってのも気になる。
そっちの捜索もする意味でもここは一つ、おr――――」
「俺に行かせてくれないか?」
ロックは、ここで再びゲインの言葉に被せるように名乗りを挙げた。
「俺に……キョン達と凛の捜索を任せてくれないか?」
その言葉には、ゲインだけでなくトグサやゲイナーも驚いた。
何しろ、彼はこのメンバーの中では一般人に分類される人間。
ロアナプラという世界でも屈指の危険地帯に住居を構えてはいるものの、武器の扱いに関しては素人の……どちらかというと頭脳労働担当の男だったのだから。
「――ということは、俺の出番ってわけだな」
トグサが顔を上げ、真剣な面持ちになる。
この作業は、首輪に用いられている電波(?)を特定する為に必要なこと。
つまり、自分の行動如何でエクソダスの進行が左右されるということだ。
そう考えると、あまりに責任の大きい仕事である。
……だが、他の九課のメンバーが皆逝ってしまった今、電脳通信やダイブが出来るのは自分しかいない。
やるしかないのだ。
「長門の遺志、キョン少年やしんのすけ少年の努力を無駄にはしない。……任せてくれ」
「何か分かり次第、僕も組み立て作業に移れるようにしとかないと、ですね」
トグサの横にいたゲイナーが技術手袋を片手に言葉を紡ぐ。
彼もまた、技術手袋による首輪の解除装置を作ることを己の使命とし、それに責任を感じていたのだ。
それを見て、ゲインはそんな使命を帯びた少年の頭をくしゃくしゃにする。
「よし、そっちは任せたぞチャンプ!」
「わ、分かりましたから、手を離してください!」
ゲイナーに言われてようやく手を彼の頭から離すと、ゲインは話を続行する。
「……まぁ、そっちの用事はそういうことで決まりだ。そして、あともう一つのやるべきことは……」
「キョン達の捜索だな?」
ゲインが言い出す前にロックが口を開いた。
「しんのすけ君の証言を基に考えると、ハルヒはあのセイバーっていう剣士に襲われてて、キョンもそこに向かってるっていう話だったな」
「あぁ。あいつらを迎えにいったレヴィとカズマって少年がその事に気付いて、そっちに救援に向かってる可能性は大きいが、
それにしても、この時間になっても戻ってこないとなると正直心配だ。それに、リンが消えたってのも気になる。
そっちの捜索もする意味でもここは一つ、おr――――」
「俺に行かせてくれないか?」
ロックは、ここで再びゲインの言葉に被せるように名乗りを挙げた。
「俺に……キョン達と凛の捜索を任せてくれないか?」
その言葉には、ゲインだけでなくトグサやゲイナーも驚いた。
何しろ、彼はこのメンバーの中では一般人に分類される人間。
ロアナプラという世界でも屈指の危険地帯に住居を構えてはいるものの、武器の扱いに関しては素人の……どちらかというと頭脳労働担当の男だったのだから。
「ロック……お前、本気か?」
「あぁ」
「外にはまだセイバーがいるし、俺が見た半透明の巨人やらグリフィスとか言う力を暴走させた奴が潜んでるかもしれないんだぞ?」
「それでも、キョン達は俺の仲間だから。エルルゥの墓前で結束を誓った大事な仲間だからな……」
思えば、セイバーに彼らが襲われたのは、あの時、自分の判断で彼らを民家に戻らせたのが原因だったのかもしれない。
確かに、当時はそのような事を予知できるわけはなかったし、病院には危険視していた凛がいて、むしろ病院行きの方が危険であった。
だから、全て自分の責任というわけではない……のだが魅音や沙都子、果てはトウカの死を知った今、彼はせめて自ら動いて、まだ生きているであろうキョンとハルヒを探し出したかった。
――全てが手遅れになる前に。
「それに、今お前がここからまた抜けたら、病院を守る戦力が減るだろう、ゲイン?」
「それはそうかもしれないが……」
フェイトが深手を負い、凛がどこかへ消えた今、戦力になりうる人材は狙撃手のゲインと刑事のトグサのみ。
ゲイナーも銃は一応扱えるが、それでも自分の身を守るので精一杯だろう。
またいつ、例のグリフィスという狂戦士が襲ってくるやもしれない状況では、これ以上人材を割きたくないのが現実だ。
「俺は、確かに銃で人撃ったりしたことはないけど、荒事の中で死なないように立ち回ることには慣れてる。ようするに運がいいってことなんだけどさ」
ロックは決心したような面持ちになると、ゲイン達の顔を見る。
「俺だって馬鹿じゃない。無茶はしないつもりだ。……だから、頼む。行かせてくれ」
「本当にそれでいいんだな?」
そんなゲインの問いに、彼は無言で頷く。
「……分かった。なら、その仕事、ロックに任せよう」
「ゲインさん!? それ、本気でs――――」
「ただし! 成果が出なくても6時を境にして一度捜索は切り上げて、こっちに戻って来てくれ。……日が暮れてからの単独行動は冗談抜きで危険だからな」
「了解だ」
ゲイナーが何か言おうとするのを塞ぐように二人は頷きあう。
トグサも、彼らの様子を見て、止めようとはしない。
すると、ロックは立ち上がり、今度は部屋の片隅へと――元々テーブルに置いてあった道具が集められた場所へと向かった。
そして彼は、その道具の山の中から何やらステッキのようなものを取り出す。
「これがここにあるのも、因果なもんだ……」
それは、かつて行動を共にした獣耳の少女が、人を探すのに使っていた道具。
初めて出会った時、自分が彼女にその探していた人と勘違いされたのも今となっては遠い記憶……。
彼はそれを片手に部屋を出ようとドアの方へと向かう。
「あぁ」
「外にはまだセイバーがいるし、俺が見た半透明の巨人やらグリフィスとか言う力を暴走させた奴が潜んでるかもしれないんだぞ?」
「それでも、キョン達は俺の仲間だから。エルルゥの墓前で結束を誓った大事な仲間だからな……」
思えば、セイバーに彼らが襲われたのは、あの時、自分の判断で彼らを民家に戻らせたのが原因だったのかもしれない。
確かに、当時はそのような事を予知できるわけはなかったし、病院には危険視していた凛がいて、むしろ病院行きの方が危険であった。
だから、全て自分の責任というわけではない……のだが魅音や沙都子、果てはトウカの死を知った今、彼はせめて自ら動いて、まだ生きているであろうキョンとハルヒを探し出したかった。
――全てが手遅れになる前に。
「それに、今お前がここからまた抜けたら、病院を守る戦力が減るだろう、ゲイン?」
「それはそうかもしれないが……」
フェイトが深手を負い、凛がどこかへ消えた今、戦力になりうる人材は狙撃手のゲインと刑事のトグサのみ。
ゲイナーも銃は一応扱えるが、それでも自分の身を守るので精一杯だろう。
またいつ、例のグリフィスという狂戦士が襲ってくるやもしれない状況では、これ以上人材を割きたくないのが現実だ。
「俺は、確かに銃で人撃ったりしたことはないけど、荒事の中で死なないように立ち回ることには慣れてる。ようするに運がいいってことなんだけどさ」
ロックは決心したような面持ちになると、ゲイン達の顔を見る。
「俺だって馬鹿じゃない。無茶はしないつもりだ。……だから、頼む。行かせてくれ」
「本当にそれでいいんだな?」
そんなゲインの問いに、彼は無言で頷く。
「……分かった。なら、その仕事、ロックに任せよう」
「ゲインさん!? それ、本気でs――――」
「ただし! 成果が出なくても6時を境にして一度捜索は切り上げて、こっちに戻って来てくれ。……日が暮れてからの単独行動は冗談抜きで危険だからな」
「了解だ」
ゲイナーが何か言おうとするのを塞ぐように二人は頷きあう。
トグサも、彼らの様子を見て、止めようとはしない。
すると、ロックは立ち上がり、今度は部屋の片隅へと――元々テーブルに置いてあった道具が集められた場所へと向かった。
そして彼は、その道具の山の中から何やらステッキのようなものを取り出す。
「これがここにあるのも、因果なもんだ……」
それは、かつて行動を共にした獣耳の少女が、人を探すのに使っていた道具。
初めて出会った時、自分が彼女にその探していた人と勘違いされたのも今となっては遠い記憶……。
彼はそれを片手に部屋を出ようとドアの方へと向かう。
だが、そんな彼のスラックスの裾を引っ張る者がいた。
「お兄さん、ハルヒお姉さん達をお助けに行くの? だったらオラも行く!!」
彼を止めたのは、このメンバーの中で最年少の少年だった。
「しんのすけ君……。気持ちは嬉しいけど、今外に出るのは危険だ。だから――」
「やだ! オラも……オラもお姉さん達をお助けしたいんだゾ!! 魅音お姉さんやトウカお姉さん、エルルゥお姉さんにサトちゃんの分までオラも頑張りたいんだゾ!!!」
しんのすけは、真剣な眼差しでロックを見つめる。
その瞳に、確かな強さを秘めながら。
「………………」
ロックは知っている。
既に自分が隠してきた事実がゲインによって少年に明かされたことを。
しかしそれでも、少年の目にはあの混乱を治めたときと同じ強い意志が映っていた。
「ねぇ、一緒にハルヒお姉さん達をお助けしようよ。オラ……二人をモミジオロシになんか出来ないんだゾ」
「それを言うなら、『見殺しになんか出来ない』だろ?」
年相応な言葉の間違いを訂正してやりながらロックは、ゲイン達の方を見る。
「止めたいのは山々だが……この状況だと止めたほうが悪者になりそうだ」
「シンノスケがここまで意固地になってるのを無理矢理諦めさせるのは、お前が外へ出るのを諦めさせるくらい難しいだろうな」
「ちょっと! あなた達、本気でこの子まで外に出るのを――――」
「……その子は絶対に守ってくれよ。そうでないとミサエに叱られちまう」
「勿論だ。絶対に守り通してみせる」
そう言ってロックは、道具の置かれている場所から何やらマントのようなものを持ってくると、それをしんのすけに持たせる。
「あれ? これって確かヘンゼルに被せていた……」
「いざって時はそれを体から被るんだ。攻撃を弾いてくれるはずだから」
「お兄さん、ハルヒお姉さん達をお助けに行くの? だったらオラも行く!!」
彼を止めたのは、このメンバーの中で最年少の少年だった。
「しんのすけ君……。気持ちは嬉しいけど、今外に出るのは危険だ。だから――」
「やだ! オラも……オラもお姉さん達をお助けしたいんだゾ!! 魅音お姉さんやトウカお姉さん、エルルゥお姉さんにサトちゃんの分までオラも頑張りたいんだゾ!!!」
しんのすけは、真剣な眼差しでロックを見つめる。
その瞳に、確かな強さを秘めながら。
「………………」
ロックは知っている。
既に自分が隠してきた事実がゲインによって少年に明かされたことを。
しかしそれでも、少年の目にはあの混乱を治めたときと同じ強い意志が映っていた。
「ねぇ、一緒にハルヒお姉さん達をお助けしようよ。オラ……二人をモミジオロシになんか出来ないんだゾ」
「それを言うなら、『見殺しになんか出来ない』だろ?」
年相応な言葉の間違いを訂正してやりながらロックは、ゲイン達の方を見る。
「止めたいのは山々だが……この状況だと止めたほうが悪者になりそうだ」
「シンノスケがここまで意固地になってるのを無理矢理諦めさせるのは、お前が外へ出るのを諦めさせるくらい難しいだろうな」
「ちょっと! あなた達、本気でこの子まで外に出るのを――――」
「……その子は絶対に守ってくれよ。そうでないとミサエに叱られちまう」
「勿論だ。絶対に守り通してみせる」
そう言ってロックは、道具の置かれている場所から何やらマントのようなものを持ってくると、それをしんのすけに持たせる。
「あれ? これって確かヘンゼルに被せていた……」
「いざって時はそれを体から被るんだ。攻撃を弾いてくれるはずだから」
かつて自分としんのすけが対峙した時。
自分がヘンゼルの攻撃を回避するのに用いた道具をしんのすけに手渡すとは何という因果か。
――そう自虐気味に苦笑すると、ロックは今度こそ部屋を出るべくドアのノブへ手を回す。
すると。
「待ってください、ロックさん!」
またも、それを止める少年の声が。
「あなた、確か何も武器を持っていませんでしたよね?」
自分に近づいてきたゲイナーがそう尋ねてくるので、ロックは首を縦に振る。
すると、彼はロックへと一丁の自動拳銃を手渡してきた。
「これ、護身用として貸します。いざって時は――」
「でも、これは君のだろう? それに俺は銃なんて……」
「でももヘチマもありません! 子供を連れて外へ出るのに丸腰のままだなんて、僕には考えられません!!」
そんなゲイナーの剣幕にたじろぎつつも、ロックはそれを受け取る。
「……あ、ありがとう。それじゃ、行ってくるよ」
「いってきま~す!」
「絶対に戻ってきてくださいよ? 無茶はしないで下さいよ!?」
ゲイナーの小言を背に、ロックは部屋を出た。
自分がヘンゼルの攻撃を回避するのに用いた道具をしんのすけに手渡すとは何という因果か。
――そう自虐気味に苦笑すると、ロックは今度こそ部屋を出るべくドアのノブへ手を回す。
すると。
「待ってください、ロックさん!」
またも、それを止める少年の声が。
「あなた、確か何も武器を持っていませんでしたよね?」
自分に近づいてきたゲイナーがそう尋ねてくるので、ロックは首を縦に振る。
すると、彼はロックへと一丁の自動拳銃を手渡してきた。
「これ、護身用として貸します。いざって時は――」
「でも、これは君のだろう? それに俺は銃なんて……」
「でももヘチマもありません! 子供を連れて外へ出るのに丸腰のままだなんて、僕には考えられません!!」
そんなゲイナーの剣幕にたじろぎつつも、ロックはそれを受け取る。
「……あ、ありがとう。それじゃ、行ってくるよ」
「いってきま~す!」
「絶対に戻ってきてくださいよ? 無茶はしないで下さいよ!?」
ゲイナーの小言を背に、ロックは部屋を出た。
◆
そして、それからすぐ。
病院正面玄関前に出た二人は、ふとそこで立ち止まった。
「さて、と」
ロックは、持っていたステッキを地面に立てる。
「涼宮ハルヒは、どこにいる?」
探すべき対象は凛も含めて三人。
その内、最も急を要するであろうは、セイバーに襲われている最中だったというハルヒ。
考えたくない可能性も脳裏をよぎるが、そんなことを考える暇があったら捜索を行ったほうがいい。
そう考えながら手を離したステッキは…………
「お~、あっちに向かって倒れたゾ~」
「東……か」
このステッキの元の所持者と出会った当初は、この靴占いにも似た道具を眉唾物と思っていたが、今はこれだけが頼りの綱。
「……よし、行くぞ、しんのすけ君」
「ぶ、ラジャー!!」
ロックはステッキの倒れた方角を信じて、しんのすけとともに仲間捜索の第一歩を踏み出した。
病院正面玄関前に出た二人は、ふとそこで立ち止まった。
「さて、と」
ロックは、持っていたステッキを地面に立てる。
「涼宮ハルヒは、どこにいる?」
探すべき対象は凛も含めて三人。
その内、最も急を要するであろうは、セイバーに襲われている最中だったというハルヒ。
考えたくない可能性も脳裏をよぎるが、そんなことを考える暇があったら捜索を行ったほうがいい。
そう考えながら手を離したステッキは…………
「お~、あっちに向かって倒れたゾ~」
「東……か」
このステッキの元の所持者と出会った当初は、この靴占いにも似た道具を眉唾物と思っていたが、今はこれだけが頼りの綱。
「……よし、行くぞ、しんのすけ君」
「ぶ、ラジャー!!」
ロックはステッキの倒れた方角を信じて、しんのすけとともに仲間捜索の第一歩を踏み出した。
◆
「……ロックさん達、行きましたね」
「あぁ。後はもう、彼に任せるしかない。こちらにはこちらで、やるべき仕事を終わらそう」
「えぇ。分かってますよ」
ゲイナーはそう言うと、ノートパソコンを開いて電源を入れる。
そして、起動するまでの短い時間に彼はパソコンに接続していたi-podを外し、トグサに渡す。
「これ、貴方宛の何かが入ってるんですよね? 今のうちに調べておいてもらえますか?」
「そうだな。調べてみるとするよ」
トグサは、ケーブルが付いたままのi-podを手にするとそのケーブルの先端を自らの項へと接続する。
すると途端に、その音楽端末の中の情報がトグサの中に入ってくる。
無数の音楽データ、顔写真つきの名簿のようなデータ、そして…………
「あぁ。後はもう、彼に任せるしかない。こちらにはこちらで、やるべき仕事を終わらそう」
「えぇ。分かってますよ」
ゲイナーはそう言うと、ノートパソコンを開いて電源を入れる。
そして、起動するまでの短い時間に彼はパソコンに接続していたi-podを外し、トグサに渡す。
「これ、貴方宛の何かが入ってるんですよね? 今のうちに調べておいてもらえますか?」
「そうだな。調べてみるとするよ」
トグサは、ケーブルが付いたままのi-podを手にするとそのケーブルの先端を自らの項へと接続する。
すると途端に、その音楽端末の中の情報がトグサの中に入ってくる。
無数の音楽データ、顔写真つきの名簿のようなデータ、そして…………
――『製作者(U):長門有希 コメント(M):9課へ』
(これを……俺たちに残したっていうんだな、長門)
トグサは、長門の顔を思い出しながら、データを開く。
すると、まず最初に、やはり彼が元々予想していたような電脳通信の制限解除に関するプログラムを見つけた。
彼はそれを自身にインストールしながら、更にその内部のデータを確認しようとするが……
そこで彼は、想像をはるかに凌駕する情報量を持ったプログラムらしきものを見つけてしまった。
(な、何だこれは……!? 馬鹿な……!)
それは、簡単に言えば情報ネットワーク内に設置された攻性防壁を突破する為の……いわゆるハッキングの為のプログラムだった。
しかも、とびきり難解な……トグサ達の時代では理解できない硬さを持った防壁を突破する為の。
それ故に、そのプログラム自体も相当難解で複雑なものになっている。
(こんな化け物染みたプログラム……長門が作ったとでもいうのか?)
その圧倒的な情報量に気圧されながらも、トグサはプログラムを隅々まで調べる。
すると、そのプログラムを構成する文字列の最後に、何やらプログラムとは違うメモのようなものが見つかった。
彼はそのメモについて調べようとするが――――
トグサは、長門の顔を思い出しながら、データを開く。
すると、まず最初に、やはり彼が元々予想していたような電脳通信の制限解除に関するプログラムを見つけた。
彼はそれを自身にインストールしながら、更にその内部のデータを確認しようとするが……
そこで彼は、想像をはるかに凌駕する情報量を持ったプログラムらしきものを見つけてしまった。
(な、何だこれは……!? 馬鹿な……!)
それは、簡単に言えば情報ネットワーク内に設置された攻性防壁を突破する為の……いわゆるハッキングの為のプログラムだった。
しかも、とびきり難解な……トグサ達の時代では理解できない硬さを持った防壁を突破する為の。
それ故に、そのプログラム自体も相当難解で複雑なものになっている。
(こんな化け物染みたプログラム……長門が作ったとでもいうのか?)
その圧倒的な情報量に気圧されながらも、トグサはプログラムを隅々まで調べる。
すると、そのプログラムを構成する文字列の最後に、何やらプログラムとは違うメモのようなものが見つかった。
彼はそのメモについて調べようとするが――――
「ちょ、ちょっと待ってよ! まさかそんな体でどこかに行くつもりかい!?」
突如、フェイトの傍にいたはずのドラえもんが声を上げた。
トグサはプログラムを調べるのを一時中断し、声のするほうを見る。
パソコンを調べていたゲイナーも、集められた道具を点検していたゲインもトグサと同様にする。
すると、そこにはレントゲン室のドアへと這うように向かっていた上半身だけのツチダマと、ドラえもんの姿があった。
「用jを思いdしてな……外に行kねばならnくなtt」
「そんな体じゃ無茶だよ! ……だったら僕が一緒に行くよ」
ユービックは、負傷したフェイトをここへと運ぶ際に、彼女と一緒に運ばれてきた。
下手に動かれないようにという、監視の意図をもとに。
そして、そんな彼が動き出そうとしていたのだ。
ゲインは、ユービックを抱えて歩き出そうとしているドラえもんを止める。
「ちょい待った、ドラえもん。出る前にこいつに一つ訊きたいことがある」
彼はドラえもんの手に持つそれを見ながら言葉を続ける。
「……まさか何か企んでたりしてないだろうな?」
今まで主催者サイドに立っていたツチダマを見てきたゲインにとっては、やはり目の前のそれは警戒すべき存在であった。
彼は、ユービックのもとへと歩み寄ると、そう尋ねる。
「……グリフィス様のくb輪をなんtか出来るk能性持つおmえ達に、何かsるつもりはない」
「なるほどねぇ。そのグリフィスとやらを助けられる可能性のある俺達を迂闊には殺せない、ってか。……んで、その用事ってのは、俺達にも何か有益だったりするのか?」
「恐らkは……」
ゲインは思考する。
そのグリフィスを思う心は、下半身を犠牲にしてまで彼を守ろうとしたところからも想像はつく。
そしてそれ故に、例の反逆とやらの話も事実であり、このツチダマが協力者になりうる可能性も高い。
だが、その一方でそう簡単に主催者が作り出したロボットを信じきることもできない。
そこで、彼が下した決断は……
突如、フェイトの傍にいたはずのドラえもんが声を上げた。
トグサはプログラムを調べるのを一時中断し、声のするほうを見る。
パソコンを調べていたゲイナーも、集められた道具を点検していたゲインもトグサと同様にする。
すると、そこにはレントゲン室のドアへと這うように向かっていた上半身だけのツチダマと、ドラえもんの姿があった。
「用jを思いdしてな……外に行kねばならnくなtt」
「そんな体じゃ無茶だよ! ……だったら僕が一緒に行くよ」
ユービックは、負傷したフェイトをここへと運ぶ際に、彼女と一緒に運ばれてきた。
下手に動かれないようにという、監視の意図をもとに。
そして、そんな彼が動き出そうとしていたのだ。
ゲインは、ユービックを抱えて歩き出そうとしているドラえもんを止める。
「ちょい待った、ドラえもん。出る前にこいつに一つ訊きたいことがある」
彼はドラえもんの手に持つそれを見ながら言葉を続ける。
「……まさか何か企んでたりしてないだろうな?」
今まで主催者サイドに立っていたツチダマを見てきたゲインにとっては、やはり目の前のそれは警戒すべき存在であった。
彼は、ユービックのもとへと歩み寄ると、そう尋ねる。
「……グリフィス様のくb輪をなんtか出来るk能性持つおmえ達に、何かsるつもりはない」
「なるほどねぇ。そのグリフィスとやらを助けられる可能性のある俺達を迂闊には殺せない、ってか。……んで、その用事ってのは、俺達にも何か有益だったりするのか?」
「恐らkは……」
ゲインは思考する。
そのグリフィスを思う心は、下半身を犠牲にしてまで彼を守ろうとしたところからも想像はつく。
そしてそれ故に、例の反逆とやらの話も事実であり、このツチダマが協力者になりうる可能性も高い。
だが、その一方でそう簡単に主催者が作り出したロボットを信じきることもできない。
そこで、彼が下した決断は……
「分かった。なら、その用事とやらに俺も同行する。それでいいか?」
「問dい…………無い……」
「そうか。……というわけだから、ドラえもん。お前さんはここに残っても……」
だが、ドラえもんは首を横に振る。
「うぅん。僕も少し外に用事があったから……一緒に行きます」
「……そうか。なら、こっちはお前達二人に任せるか」
ゲインはそう言って、トグサとゲイナーを見ると二人は頷く。
「大丈夫だ。こっちは俺達でなんとかなるはずだ。フェイトの事も、な」
「ですけど、またあの時みたいに勝手に遠くに行かないで下さいよ?」
「お前こそ、俺がいないからってヘマするなよ?」
笑って返すゲインに、ゲイナーは怒りながら反論するが、彼はそれを流しながらドラえもんへと声を掛ける。
「そんじゃ、行くとしますか。そのツチダマとやらの用事に」
「問dい…………無い……」
「そうか。……というわけだから、ドラえもん。お前さんはここに残っても……」
だが、ドラえもんは首を横に振る。
「うぅん。僕も少し外に用事があったから……一緒に行きます」
「……そうか。なら、こっちはお前達二人に任せるか」
ゲインはそう言って、トグサとゲイナーを見ると二人は頷く。
「大丈夫だ。こっちは俺達でなんとかなるはずだ。フェイトの事も、な」
「ですけど、またあの時みたいに勝手に遠くに行かないで下さいよ?」
「お前こそ、俺がいないからってヘマするなよ?」
笑って返すゲインに、ゲイナーは怒りながら反論するが、彼はそれを流しながらドラえもんへと声を掛ける。
「そんじゃ、行くとしますか。そのツチダマとやらの用事に」
◆
レントゲン室を出た二人は、ユービックの指示する方向へと歩きはじめる。
「そこをひだr……」
「うん、分かった。左だね?」
指示されるまま廊下を曲がる。
すると、その曲がった先にあるものを見て、二人は思わず立ち止まってしまった。
「何でこんな場所にドアが……」
「これは……どこでもドアじゃないか!」
そこでようやくドラえもんは思い出す。
ここは、彼とユービックがどこでもドアを通じて、初めて出会った場所だった。
「ねぇ、ユービック。もしかして、用事って……」
「そうd……。いつまdもこれをそnままにし……ておkわけにmいか……ないt思ってn」
それは、失踪したグリフィスを探すのに使えるであろう重要なアイテム。
みすみす放置しておくには勿体無いものだった。
だが、一人そのドアの重要性を今ひとつ理解していない男がいた。
「なぁ、ドラえもん。どこでもドアっつーのは一体……」
「う、うん。どこでもドアってのはね……」
ドラえもんが、どこでもドアについての説明をすると、ゲインは納得したように頷く。
「なるほど。ってことは、首輪をどうにかしたら、こいつを使えばギガゾンビの居る場所に一気に行って奴を叩くことも……」
「そrは無rだ」
ゲインの発案をユービックはあっさりと却下する。
「あの城とsの周囲一帯nは大規模な空間歪曲制限が掛けrれていr……。だkら、ドアでの移動h不可能だ……。まぁ、プrイベートロックの拡大版t考えて……貰って構wな……い」
「プライベートロック……」
プライベートロックとは、どこでもドアでの移動を制限できる機能だ。
これを使えば、トイレや風呂場といった立ち入られては困る場所に入られずに済む。
しかし、これはドラえもんの知る範疇では個室にのみ有効な機能のはずだった。
一つの建造物とその周辺一帯などといった漠然とした範囲に有効なロックなどまだ開発が進んでいないはずなのに……。
しかし、ここで彼はとある事実を思い出す。
そう、ギガゾンビのいた時代は――
「一世紀分の技術の差……ってことか」
「sういうkとだ。……それに、お前達nはまだグリフィスsまを…………探してもらわnくてはなrないんだ。早mった…………m似はよして欲しい……」
ドラえもんとユービックがそんな会話をしていると、やや置いてけぼりを食らっていたゲインは一人、そのドアに手を掛けた。
「だが、どちらにしても、こいつが何かと使えそうな道具だってことには変わりないよな。……だったら、これは俺たちで保管しておく。いいな?」
「……あぁ」
ユービックの返事を聞くと、ゲインはそのドアを持ち上げ、デイパックへとしまった。
「そこをひだr……」
「うん、分かった。左だね?」
指示されるまま廊下を曲がる。
すると、その曲がった先にあるものを見て、二人は思わず立ち止まってしまった。
「何でこんな場所にドアが……」
「これは……どこでもドアじゃないか!」
そこでようやくドラえもんは思い出す。
ここは、彼とユービックがどこでもドアを通じて、初めて出会った場所だった。
「ねぇ、ユービック。もしかして、用事って……」
「そうd……。いつまdもこれをそnままにし……ておkわけにmいか……ないt思ってn」
それは、失踪したグリフィスを探すのに使えるであろう重要なアイテム。
みすみす放置しておくには勿体無いものだった。
だが、一人そのドアの重要性を今ひとつ理解していない男がいた。
「なぁ、ドラえもん。どこでもドアっつーのは一体……」
「う、うん。どこでもドアってのはね……」
ドラえもんが、どこでもドアについての説明をすると、ゲインは納得したように頷く。
「なるほど。ってことは、首輪をどうにかしたら、こいつを使えばギガゾンビの居る場所に一気に行って奴を叩くことも……」
「そrは無rだ」
ゲインの発案をユービックはあっさりと却下する。
「あの城とsの周囲一帯nは大規模な空間歪曲制限が掛けrれていr……。だkら、ドアでの移動h不可能だ……。まぁ、プrイベートロックの拡大版t考えて……貰って構wな……い」
「プライベートロック……」
プライベートロックとは、どこでもドアでの移動を制限できる機能だ。
これを使えば、トイレや風呂場といった立ち入られては困る場所に入られずに済む。
しかし、これはドラえもんの知る範疇では個室にのみ有効な機能のはずだった。
一つの建造物とその周辺一帯などといった漠然とした範囲に有効なロックなどまだ開発が進んでいないはずなのに……。
しかし、ここで彼はとある事実を思い出す。
そう、ギガゾンビのいた時代は――
「一世紀分の技術の差……ってことか」
「sういうkとだ。……それに、お前達nはまだグリフィスsまを…………探してもらわnくてはなrないんだ。早mった…………m似はよして欲しい……」
ドラえもんとユービックがそんな会話をしていると、やや置いてけぼりを食らっていたゲインは一人、そのドアに手を掛けた。
「だが、どちらにしても、こいつが何かと使えそうな道具だってことには変わりないよな。……だったら、これは俺たちで保管しておく。いいな?」
「……あぁ」
ユービックの返事を聞くと、ゲインはそのドアを持ち上げ、デイパックへとしまった。
どこでもドアを回収した後。
今度はドラえもんの用事を済ますべく、一行は病院の外、庭にあたる部分に来ていた。
そして、そのドラえもんの用事とは…………
今度はドラえもんの用事を済ますべく、一行は病院の外、庭にあたる部分に来ていた。
そして、そのドラえもんの用事とは…………
「のび太君……太一君…………」
今は亡き親友達の名を呟くドラえもんの足元には、まさにその親友達の眠る墓があった。
カズマから病院を出る前に、ここに墓があることを伝えられていたのだ。
それは、先程のグリフィスとの戦いで奇跡的に被害を受けなかったらしく、盛られた土の上に刺さる風神うちわもそのままだった。
「ごめんよ。僕がもっとしっかりしてれば……もっと強かったら、君達を死なせずに済んだのに……」
ドジで頭が悪く、すぐに道具に頼ろうとしていたのび太。
やんちゃで、色々と無茶な事をすぐにしようとする太一。
二人とも、どちらかといえば“手の掛かる”子供だった。
それこそ、頭を悩ましそうなほども。
……だが、それでも。
のび太には誰にも負けない優しさ、太一には誰にも負けない勇気があった。
死んでいい人間であるはずが無かった。
「君を立派な大人にするって約束だったのにね……。ヤマト君とあわせてあげる約束だったのにね……」
ドラえもんは涙を流しながら、悔しそうに呟く。
子供を守れない子守りロボットなんて、とんだお笑い種だ。
本来ならスクラップ級の失態だろう。
それは、彼自身が一番分かっているつもりだった。
今は亡き親友達の名を呟くドラえもんの足元には、まさにその親友達の眠る墓があった。
カズマから病院を出る前に、ここに墓があることを伝えられていたのだ。
それは、先程のグリフィスとの戦いで奇跡的に被害を受けなかったらしく、盛られた土の上に刺さる風神うちわもそのままだった。
「ごめんよ。僕がもっとしっかりしてれば……もっと強かったら、君達を死なせずに済んだのに……」
ドジで頭が悪く、すぐに道具に頼ろうとしていたのび太。
やんちゃで、色々と無茶な事をすぐにしようとする太一。
二人とも、どちらかといえば“手の掛かる”子供だった。
それこそ、頭を悩ましそうなほども。
……だが、それでも。
のび太には誰にも負けない優しさ、太一には誰にも負けない勇気があった。
死んでいい人間であるはずが無かった。
「君を立派な大人にするって約束だったのにね……。ヤマト君とあわせてあげる約束だったのにね……」
ドラえもんは涙を流しながら、悔しそうに呟く。
子供を守れない子守りロボットなんて、とんだお笑い種だ。
本来ならスクラップ級の失態だろう。
それは、彼自身が一番分かっているつもりだった。
――そして、だからこそ彼は決意していた。
「……僕は絶対にここにいる皆と一緒に脱出する為に頑張るよ。そしてギガゾンビに一発入れてやるんだ! それがせめてもの罪滅ぼしだから!」
トグサやゲインといった大人達は勿論、カズマやゲイナー、フェイト、果てはしんのすけまでがエクソダスの為に何か動いている。
この状況で、22世紀のロボットが仲間の死にいつまでもクヨクヨしていて何もしていないでいいのだろうか?
――答えは否だ。
だからこそ、ドラえもんは二人の墓前に来て、その迷いを断ち切ろうと思ったのだ。
「よし! 頑張るぞ~!! えい、えい、おー!」
暮れはじめた空に拳を突き上げるのは、あの時のような大勢ではなく、彼一人だけ。
だが、彼の目にはうっすらと、今はいない仲間達の拳が見えていた……。
トグサやゲインといった大人達は勿論、カズマやゲイナー、フェイト、果てはしんのすけまでがエクソダスの為に何か動いている。
この状況で、22世紀のロボットが仲間の死にいつまでもクヨクヨしていて何もしていないでいいのだろうか?
――答えは否だ。
だからこそ、ドラえもんは二人の墓前に来て、その迷いを断ち切ろうと思ったのだ。
「よし! 頑張るぞ~!! えい、えい、おー!」
暮れはじめた空に拳を突き上げるのは、あの時のような大勢ではなく、彼一人だけ。
だが、彼の目にはうっすらと、今はいない仲間達の拳が見えていた……。
ドラえもんが拳を突き上げている丁度同じ頃。
ゲインとユービックとは、少し離れた場所で彼を待っていた。
そして、ユービックは泣きながら拳を突き上げる彼を見ながらふと、コンラッドの死に際し涙を流した新しい主の事を思い出す。
部下の死を悼み、涙を流す主が素晴らしいのであれば、その死を部下の涙を以って悼まれる主もまた素晴らしいのだろう。
自分にもし涙を流す機能があるならば、グリフィスが死に際した場合は確実に号泣するに違いないのだから。
「あいつh……いい主人に…………恵mれた……みtいだn」
ユービックは、ドラえもんの姿を見て素直にそう呟く。
「主人の死n対しt、あれだけの涙をなgすとは……yほどいい主人だったに違いnい」
「いや、それは違うだろう」
だが、そんなユービックの言葉にゲインが横槍を入れる。
「……なzだ? お前nは、あの涙g嘘のもnであるようn見えるのk」
「そうじゃない。あいつとのび太っていう少年が相当な信頼関係で結ばれてるのは確かだろうよ。……だがな、それは主従関係に基づいてる訳じゃないだろうってことさ」
「……? dはどういう関kいだというのd」
「わからないのか? …………ああいうのを“友達”っていうんだよ。尤も、あいつらの場合は“親友”って言うべきかもしれないがな」
ゲインとユービックとは、少し離れた場所で彼を待っていた。
そして、ユービックは泣きながら拳を突き上げる彼を見ながらふと、コンラッドの死に際し涙を流した新しい主の事を思い出す。
部下の死を悼み、涙を流す主が素晴らしいのであれば、その死を部下の涙を以って悼まれる主もまた素晴らしいのだろう。
自分にもし涙を流す機能があるならば、グリフィスが死に際した場合は確実に号泣するに違いないのだから。
「あいつh……いい主人に…………恵mれた……みtいだn」
ユービックは、ドラえもんの姿を見て素直にそう呟く。
「主人の死n対しt、あれだけの涙をなgすとは……yほどいい主人だったに違いnい」
「いや、それは違うだろう」
だが、そんなユービックの言葉にゲインが横槍を入れる。
「……なzだ? お前nは、あの涙g嘘のもnであるようn見えるのk」
「そうじゃない。あいつとのび太っていう少年が相当な信頼関係で結ばれてるのは確かだろうよ。……だがな、それは主従関係に基づいてる訳じゃないだろうってことさ」
「……? dはどういう関kいだというのd」
「わからないのか? …………ああいうのを“友達”っていうんだよ。尤も、あいつらの場合は“親友”って言うべきかもしれないがな」
◆
i-podの中に入っていたプログラムに残されたメッセージ。
それは、このような書き出しから始まっていた。
それは、このような書き出しから始まっていた。
―― YUKI.N > このメッセージを見つけた公安九課の人間へ。
YUKI.N、つまり長門有希はプログラムの内容についてこの書き出し以降、簡潔に説明をしてくれていた。
そして、その内容を更に手短に言うならば……
(なるほど。23世紀の攻性防壁に対するハッキングプログラムか。そりゃ、馬鹿みたいに複雑になるわけだ)
レントゲン室に残り、メッセージを読み終えたトグサは、ようやくそのプログラムの意味を把握した。
ドラえもんを製作したよりも更に未来のネットワーク世界。
それがどれほど進歩しているかトグサには予想も出来なかったが、攻性防壁は自分のいる世界の数倍、いや数十倍性能が向上しているようだった。
これがそんな防壁を突破する為のプログラムだというのなら、トグサが信じられないほど複雑でも納得はいく。
(見たこともない防壁相手に、見たこともないプログラム抱えて侵入か。……こりゃ、気合入れなおさないとな)
トグサは、緊張を顔に浮かべる。
しかも、緊張する理由はそれだけではない。
長門からのメッセージには更に、こう残されていた。
そして、その内容を更に手短に言うならば……
(なるほど。23世紀の攻性防壁に対するハッキングプログラムか。そりゃ、馬鹿みたいに複雑になるわけだ)
レントゲン室に残り、メッセージを読み終えたトグサは、ようやくそのプログラムの意味を把握した。
ドラえもんを製作したよりも更に未来のネットワーク世界。
それがどれほど進歩しているかトグサには予想も出来なかったが、攻性防壁は自分のいる世界の数倍、いや数十倍性能が向上しているようだった。
これがそんな防壁を突破する為のプログラムだというのなら、トグサが信じられないほど複雑でも納得はいく。
(見たこともない防壁相手に、見たこともないプログラム抱えて侵入か。……こりゃ、気合入れなおさないとな)
トグサは、緊張を顔に浮かべる。
しかも、緊張する理由はそれだけではない。
長門からのメッセージには更に、こう残されていた。
YUKI.N > この世界の防壁は一度侵入されると、自動的にその侵入経路に対して対抗するプログラムを構築する機能を持つ。
YUKI.N > 故に、本プログラムは一回限りしか使えない。注意されたし。
YUKI.N > 故に、本プログラムは一回限りしか使えない。注意されたし。
一度限り、失敗を許されないハッキング。
そのようなことを先に言われたら、自分の世界でのハックですら身構えてしまうだろう。
……だが、尻込みをしている場合ではない。
これは、自分にしか出来ない、エクソダスの根幹に関わることなのだから。
それに……
(俺は、仮にも公安九課の人間だ。こんなことで失敗してたら少佐やバトーに笑われちまう。それにタチコマにだって……)
トグサは、i-podの内部の調査を止めると、ポケットの中に入れていたメモリチップを取り出す。
(タチコマ……お前の力、借りさせてもらうぞ)
そう頭の中で呟き、メモリチップに向けていた視線を今度はゲイナーへ向ける。
すると、彼は何やらその液晶画面を見続けたまま、何やら作業をしていた。
トグサは、何をしているのか気になり、それを背後から覗くと、そのノートパソコンに映っていたのは……。
「な、何だこれ?」
それは、まさしくゲーム画面であった。
何やら、軽快なBGMもスピーカーからも流れている。
「なぁ、もしかしてこれが……」
「そうです。ドラえもんから受け取った例の“THE DAY OF SAGITTARIUS III”ですよ」
「こりゃ、一体何のゲームなんだ?」
「見ての通り、宇宙艦隊を操って、自分の軍を勝利に導くシミュレーションゲームです」
キーボードを叩きながら、ゲイナーは説明する。
「クリア条件は単純ですが、索敵やら敵の行動予測やらそこそこ頭を使わせるみたいですね」
「……で、君はその……クリアできそうなのか?」
トグサにそう尋ねられ、ゲイナーはキーボードを叩く手を止める。
そして、トグサへと振り返る。
「僕は仮にもゲームチャンプですよ? 格闘系以外でも、ゲーム全般には慣れてるつもりです」
「そ、そうか……。それは頼もしいな……」
「このパソコンには『射手座の日を越えていけ』と残されてたんです。だったら、この“射手座の日”を越える――即ち全クリアしてみる価値はあるはずですよ」
そう言うと、ゲイナーはすぐに画面へ視線を戻し、タイピングを再開する。
「大丈夫です。コツさえ掴めば、意外と簡単ですから。全クリアまでにそう時間は掛からない筈です」
「分かった。なら、それは君に任せ――――」
妙に自身あり気なゲイナーにゲームの件を一任しようとしたその時だった。
そのようなことを先に言われたら、自分の世界でのハックですら身構えてしまうだろう。
……だが、尻込みをしている場合ではない。
これは、自分にしか出来ない、エクソダスの根幹に関わることなのだから。
それに……
(俺は、仮にも公安九課の人間だ。こんなことで失敗してたら少佐やバトーに笑われちまう。それにタチコマにだって……)
トグサは、i-podの内部の調査を止めると、ポケットの中に入れていたメモリチップを取り出す。
(タチコマ……お前の力、借りさせてもらうぞ)
そう頭の中で呟き、メモリチップに向けていた視線を今度はゲイナーへ向ける。
すると、彼は何やらその液晶画面を見続けたまま、何やら作業をしていた。
トグサは、何をしているのか気になり、それを背後から覗くと、そのノートパソコンに映っていたのは……。
「な、何だこれ?」
それは、まさしくゲーム画面であった。
何やら、軽快なBGMもスピーカーからも流れている。
「なぁ、もしかしてこれが……」
「そうです。ドラえもんから受け取った例の“THE DAY OF SAGITTARIUS III”ですよ」
「こりゃ、一体何のゲームなんだ?」
「見ての通り、宇宙艦隊を操って、自分の軍を勝利に導くシミュレーションゲームです」
キーボードを叩きながら、ゲイナーは説明する。
「クリア条件は単純ですが、索敵やら敵の行動予測やらそこそこ頭を使わせるみたいですね」
「……で、君はその……クリアできそうなのか?」
トグサにそう尋ねられ、ゲイナーはキーボードを叩く手を止める。
そして、トグサへと振り返る。
「僕は仮にもゲームチャンプですよ? 格闘系以外でも、ゲーム全般には慣れてるつもりです」
「そ、そうか……。それは頼もしいな……」
「このパソコンには『射手座の日を越えていけ』と残されてたんです。だったら、この“射手座の日”を越える――即ち全クリアしてみる価値はあるはずですよ」
そう言うと、ゲイナーはすぐに画面へ視線を戻し、タイピングを再開する。
「大丈夫です。コツさえ掴めば、意外と簡単ですから。全クリアまでにそう時間は掛からない筈です」
「分かった。なら、それは君に任せ――――」
妙に自身あり気なゲイナーにゲームの件を一任しようとしたその時だった。
「う、うぅん…………」
背後から聞こえてきたのは、まだ幼さを残す少女の声。
そして、そんな声が出せるのはこの部屋でただ一人。
「あ、あれ……私…………あぐぅっ!!」
そう、フェイトが意識を取り戻していたのだ。
そして、そんな声が出せるのはこの部屋でただ一人。
「あ、あれ……私…………あぐぅっ!!」
そう、フェイトが意識を取り戻していたのだ。
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