きらめく涙は星に -Raising Heart- ◆2kGkudiwr6
■
凛の防御は確かに破られていた。
『Divine Buster Full Burst』
但しそれは、内側から。
内側から凛が放った砲撃が、ツチダマの火線ごと飲み込んで地上で炸裂する。
凛が足を止めたのは、衝撃に耐え切れなかったからではない。砲撃を撃ちこむ為だ。
運の悪いツチダマが十数体吹き飛ばされ、その数倍のツチダマが土煙や破片などで怯む。
もっとも、直撃を受けたものより生き残ったツチダマが運がいいかと言えば……それは、否。
着弾した地点の近く、なんとか回避できたツチダマがやっと晴れた土煙の中に最初に視認したのは、
いつの間にか着地していた赤い魔導師の、影。
内側から凛が放った砲撃が、ツチダマの火線ごと飲み込んで地上で炸裂する。
凛が足を止めたのは、衝撃に耐え切れなかったからではない。砲撃を撃ちこむ為だ。
運の悪いツチダマが十数体吹き飛ばされ、その数倍のツチダマが土煙や破片などで怯む。
もっとも、直撃を受けたものより生き残ったツチダマが運がいいかと言えば……それは、否。
着弾した地点の近く、なんとか回避できたツチダマがやっと晴れた土煙の中に最初に視認したのは、
いつの間にか着地していた赤い魔導師の、影。
「Fixierung(狙え), EileSalve(一斉射撃)!」
『Divine Buster』
『Divine Buster』
反応する間もなく、詠唱が紡がれる。
左腕からガンド、右手からディバインバスターを発射したまま一回転。
機関銃と砲撃が周囲にいたツチダマを一瞬にしてなぎ払い、更に惨状は拡大した。
下手に強い自我を持ってしまったことが災いし――ツチダマは覆われた視界に悩み、混乱し、ばらばらになっていく。
ある者は立ち竦み、ある者は距離を取ろうとし、ある者は応戦しようとする。
これを正しく表現するとすれば――烏合の衆、という言葉以外にはない。
左腕からガンド、右手からディバインバスターを発射したまま一回転。
機関銃と砲撃が周囲にいたツチダマを一瞬にしてなぎ払い、更に惨状は拡大した。
下手に強い自我を持ってしまったことが災いし――ツチダマは覆われた視界に悩み、混乱し、ばらばらになっていく。
ある者は立ち竦み、ある者は距離を取ろうとし、ある者は応戦しようとする。
これを正しく表現するとすれば――烏合の衆、という言葉以外にはない。
「ど、どこに――ギガァ!?」
哀れなツチダマが、突然背後から現れた凛に粉砕された。死因は斧刃脚だ。
周囲の数体が接近に気付いたものの、この位置では味方を誤射することに気付いて立ち竦み……
一体が発勁によって吹き飛ばされ、そのまま後ろにいた仲間をなぎ倒していく。
しかし、前方を片付けたところで囲まれていることには変わりない。
後ろから隙を突こうとツチダマが飛び掛り……向き直った凛に掌をぶつけられて粉砕される。
この状態に粟を食ったのか、指揮を任されたツチダマが慌てて号令を出した。
周囲の数体が接近に気付いたものの、この位置では味方を誤射することに気付いて立ち竦み……
一体が発勁によって吹き飛ばされ、そのまま後ろにいた仲間をなぎ倒していく。
しかし、前方を片付けたところで囲まれていることには変わりない。
後ろから隙を突こうとツチダマが飛び掛り……向き直った凛に掌をぶつけられて粉砕される。
この状態に粟を食ったのか、指揮を任されたツチダマが慌てて号令を出した。
「う、撃てーッ!!!」
「馬鹿、ギガごと撃つ気――!?」
「馬鹿、ギガごと撃つ気――!?」
悲鳴は最前列にいたツチダマ達からのものだ。しかし、それが聞こえることはなかった。
火線が一気に集中され、爆発を生む。激しい閃光と鈍い破砕音が、その場にいたツチダマの感覚を一時的に麻痺させていく。
しばらくした頃には、土煙などで凛の周囲は完全に見えなくなっていた。
火線が一気に集中され、爆発を生む。激しい閃光と鈍い破砕音が、その場にいたツチダマの感覚を一時的に麻痺させていく。
しばらくした頃には、土煙などで凛の周囲は完全に見えなくなっていた。
「撃ち方ーやめーいギガー!」
「や、やったギガか?」
「ギガ……いくら魔術師と言えども、この至近距離からの弾幕では……何ィ!?」
「や、やったギガか?」
「ギガ……いくら魔術師と言えども、この至近距離からの弾幕では……何ィ!?」
号令と共に火線が途絶え……煙が晴れていくごとに、大きな球状の影が現れていく。
そうして現れたのは、赤い球状のバリアで自分を覆った凛の姿。そして、周囲に散らばるツチダマの残骸。
ただ仲間殺しをしただけという事実に、ツチダマ達が青くなる。
対する凛はといえば、攻撃も仕掛けずに悠々と手の砂を払ってレイジングハートとの会話を開始した。
そうして現れたのは、赤い球状のバリアで自分を覆った凛の姿。そして、周囲に散らばるツチダマの残骸。
ただ仲間殺しをしただけという事実に、ツチダマ達が青くなる。
対する凛はといえば、攻撃も仕掛けずに悠々と手の砂を払ってレイジングハートとの会話を開始した。
『いつの間にブレイクインパルスを習得したんですか?』
「あれは纏絲勁で起こした振動を増幅しただけ。最近の魔術師には格闘技も必須科目なのよ。
……さて」
「あれは纏絲勁で起こした振動を増幅しただけ。最近の魔術師には格闘技も必須科目なのよ。
……さて」
そのまま、のんびりと凛は周囲を一瞥する。星光の中、髪をさらりと流しながら見るその視線はただ優雅だ。
彼女はまるで自宅にいるかのようなくつろいだ笑みを浮かべて、手を招く。
それが意味することはただ一つ。
彼女はまるで自宅にいるかのようなくつろいだ笑みを浮かべて、手を招く。
それが意味することはただ一つ。
「さて……次は誰かしら?」
「な、なめられてるギガ……!」
「アパーム! アパーム! 弾! 弾持ってくるギガ! アパーーーム!」
「な、なめられてるギガ……!」
「アパーム! アパーム! 弾! 弾持ってくるギガ! アパーーーム!」
頭に血を上らせて……もっとも血はないが……ツチダマ達は攻撃を再開した。
しかし、凛は臆することなく、ただ上手くいっていることにほくそ笑むのみ。
そう。
こうやって、凛に目が向くほどいい――
しかし、凛は臆することなく、ただ上手くいっていることにほくそ笑むのみ。
そう。
こうやって、凛に目が向くほどいい――
■
「な、何が起こっているギガか!?」
「うろたえるんじゃないギガ! ツチダマはうろたえないギガ!!!」
「うろたえるんじゃないギガ! ツチダマはうろたえないギガ!!!」
指揮系統の混乱は、往々にして重大な損害を与えるものだ。
凛が巻き起こした混乱は、一時とはいえ川岸に最前列で陣取っていたツチダマの動きさえ止め……
その隙に、フェイトは体勢を立て直すことに成功した。
凛が巻き起こした混乱は、一時とはいえ川岸に最前列で陣取っていたツチダマの動きさえ止め……
その隙に、フェイトは体勢を立て直すことに成功した。
「う……げほ、ごほ」
『Sir?』
「大丈夫……まだ、やれる……ッ!?」
『Sir?』
「大丈夫……まだ、やれる……ッ!?」
しかし、呼吸を整える暇さえ彼女には与えられない。
次々に放たれてきた砲撃を、フェイトは寸前でなんとか回避した。
ツチダマが止まっても、闇の書の闇には関係ない。ただ暴れるだけだ。
そのまま、次々にフェイトへと触手がなだれ込むように襲い掛かっていく。
素早くかいくぐって数本を斬り飛ばすと同時に……ツチダマ達の射撃が再開された。
上も左右も逃げ道はない。そして前には厚い弾幕、後ろには異形の密林。完全な包囲体勢だ。
次々に放たれてきた砲撃を、フェイトは寸前でなんとか回避した。
ツチダマが止まっても、闇の書の闇には関係ない。ただ暴れるだけだ。
そのまま、次々にフェイトへと触手がなだれ込むように襲い掛かっていく。
素早くかいくぐって数本を斬り飛ばすと同時に……ツチダマ達の射撃が再開された。
上も左右も逃げ道はない。そして前には厚い弾幕、後ろには異形の密林。完全な包囲体勢だ。
「……まだ、これくらい!」
『Round Shield』
『Round Shield』
第一波とばかりに浴びせられた砲撃を、フェイトはなんとか防御した。
しかし、それが間違い。フェイトが足が止めるということ自体が負けに繋がるのは、なのはとの戦いで実証されている。
第二波、触手本体の体当たりが、フェイトを水中へと叩き落とした。
しかし、それが間違い。フェイトが足が止めるということ自体が負けに繋がるのは、なのはとの戦いで実証されている。
第二波、触手本体の体当たりが、フェイトを水中へと叩き落とした。
■
(……そろそろまずいかも、ね)
一分近くの間に数え切れないほどのツチダマを粉砕して、凛が思考したことはこれだった。
奇襲による混乱。挑発による統率の乱れ。そのどちらともが、時間と共に薄れるものだ。
そして、これは自分だけの問題ではない。
冷静に対応されることは、フェイトが今の最悪の状況から離脱する隙がなくなってくることも意味する。
奇襲による混乱。挑発による統率の乱れ。そのどちらともが、時間と共に薄れるものだ。
そして、これは自分だけの問題ではない。
冷静に対応されることは、フェイトが今の最悪の状況から離脱する隙がなくなってくることも意味する。
「Klemme(縛れ)」
『Chain bind』
『Chain bind』
屈んで空気砲の砲撃を避けた凛の左腕から、赤い魔力の鎖が伸びた。
それはいとも簡単に一体のツチダマを捕獲したが、捕獲した対象を砕くことはない。
そもそも、凛の目的は「鎖を伸ばす」ことなのだから。
それはいとも簡単に一体のツチダマを捕獲したが、捕獲した対象を砕くことはない。
そもそも、凛の目的は「鎖を伸ばす」ことなのだから。
『Load cartridge』
「Gros zwei(強化)――いっけぇえええええ!」
「ギ、ギガァァァァ!?」
「Gros zwei(強化)――いっけぇえええええ!」
「ギ、ギガァァァァ!?」
自分の腕と伸ばした鎖に凛は強化を施し――そのまま、ツチダマごと鎖を大回転させる!
カートリッジを消費してまで行われた強化の成果は絶大だ。
捕まったツチダマは質量弾としてぶつかった相手にヒビを入れ、粉砕し、
鎖は押し返す余裕さえ与えずにツチダマをなぎ倒していく。
ちょうど360°回ったところで、凛はそのまま鎖を砕いた。勢いのままに、捕まっていたツチダマは飛んでいく。
しかし……
カートリッジを消費してまで行われた強化の成果は絶大だ。
捕まったツチダマは質量弾としてぶつかった相手にヒビを入れ、粉砕し、
鎖は押し返す余裕さえ与えずにツチダマをなぎ倒していく。
ちょうど360°回ったところで、凛はそのまま鎖を砕いた。勢いのままに、捕まっていたツチダマは飛んでいく。
しかし……
「!?」
突如、凛のバランスが崩れた。受け身を取る暇もなく、凛は無様に転倒する。
衝撃よりもむしろ混乱で、その行動は一瞬とはいえ止まり……同時に、ツチダマが喝采を上げた。
衝撃よりもむしろ混乱で、その行動は一瞬とはいえ止まり……同時に、ツチダマが喝采を上げた。
「やったギガ! 転ばし屋様様ギガ!」
「喜んでいる暇があったらさっさと撃つギガ!」
「喜んでいる暇があったらさっさと撃つギガ!」
数えるのも馬鹿らしいほどの武器がたった一人の少女に向けられる。
それでも何とか凛は顔を上げ――素早く防御魔法を展開した。
しかし、覆われた視界、混乱した思考の中ツチダマという障害物付きで行われた先ほどの一斉射撃とは訳が違う。
これだけの数、明らかに凛の魔力放出量の限界を超えている。まともに受けきるのは不可能だ。
それでも何とか凛は顔を上げ――素早く防御魔法を展開した。
しかし、覆われた視界、混乱した思考の中ツチダマという障害物付きで行われた先ほどの一斉射撃とは訳が違う。
これだけの数、明らかに凛の魔力放出量の限界を超えている。まともに受けきるのは不可能だ。
『Load cartridge Circle Protection』
「無駄無駄無駄ァ! 逃がれることはできないギガッ!」
「きさまはチェスや将棋でいう『詰み(チェック・メイト)』にはまったのギ……ガァ!?」
「無駄無駄無駄ァ! 逃がれることはできないギガッ!」
「きさまはチェスや将棋でいう『詰み(チェック・メイト)』にはまったのギ……ガァ!?」
それで勝敗が確定したかどうかは、また別の話だが。
凛に対して銃弾の雨が降ってくることはなかった。
代わりに降って来たのは、瓦礫の山。その対象はツチダマ達。
所構わず次々に降ってくるその全てが、人一人よりも大きく、重い。
破片のいくらかは凛にもぶつかってきたが、全てが魔力によって生み出された障壁によって弾かれていく。
理由は単純、この瓦礫は凛を狙ったものではない。直撃でないなら、十分に防げる。
凛に対して銃弾の雨が降ってくることはなかった。
代わりに降って来たのは、瓦礫の山。その対象はツチダマ達。
所構わず次々に降ってくるその全てが、人一人よりも大きく、重い。
破片のいくらかは凛にもぶつかってきたが、全てが魔力によって生み出された障壁によって弾かれていく。
理由は単純、この瓦礫は凛を狙ったものではない。直撃でないなら、十分に防げる。
「な、何が起こったギガ!?」
「しゅ、修理兵、修理兵!」
「あ、あそこギガ! あれを見るギガ!」
「しゅ、修理兵、修理兵!」
「あ、あそこギガ! あれを見るギガ!」
再び混乱の渦に飲み込まれたツチダマ達だったが、それでもすぐに気付いた。
距離にして数百m離れ、エリアを跨いだ場所、映画館跡地。
そこにいたのは、瓦礫を拾い上げ、投擲の姿勢に入った神人の姿だ。
そう――神人ほどの大きさなら、巨大な瓦礫を持ち上げることなど容易。
そして神人の力と瓦礫の重さなら、瓦礫を投擲するだけで質量兵器としては十分すぎる威力となる。
グラーフアイゼン・ギガントフォルムで接近戦を挑めばその巨体が災いしていらぬダメージを受けかねないし、
そもそもツチダマを倒すならグラーフアイゼンを使う必要はない。ただ腕をなぎ払えばそれで済む。
隙が大きい攻撃を繰り返してもぐら叩きでオーバーキルするより、それなりの攻撃を連発する方がいい。
もちろん、神人が大きく、目立つということには変わりない。
距離にして数百m離れ、エリアを跨いだ場所、映画館跡地。
そこにいたのは、瓦礫を拾い上げ、投擲の姿勢に入った神人の姿だ。
そう――神人ほどの大きさなら、巨大な瓦礫を持ち上げることなど容易。
そして神人の力と瓦礫の重さなら、瓦礫を投擲するだけで質量兵器としては十分すぎる威力となる。
グラーフアイゼン・ギガントフォルムで接近戦を挑めばその巨体が災いしていらぬダメージを受けかねないし、
そもそもツチダマを倒すならグラーフアイゼンを使う必要はない。ただ腕をなぎ払えばそれで済む。
隙が大きい攻撃を繰り返してもぐら叩きでオーバーキルするより、それなりの攻撃を連発する方がいい。
もちろん、神人が大きく、目立つということには変わりない。
「あ、あのデカブツギガ!」
「ええい、あんなもの、火線を集中してさっさと……」
『Divine Buster』
「ええい、あんなもの、火線を集中してさっさと……」
『Divine Buster』
だが……注意を逸らしたツチダマ達を襲うのは、容赦ない凛からの砲撃だ。
フェイトへの射撃に人員をそれなりに割いたこと、そして凛や神人から受けた損害がここに来て顕著になる。
ディバインバスターは射線上のツチダマを全て飲み込み……ついに、包囲陣の一角に穴を開けた。
フェイトへの射撃に人員をそれなりに割いたこと、そして凛や神人から受けた損害がここに来て顕著になる。
ディバインバスターは射線上のツチダマを全て飲み込み……ついに、包囲陣の一角に穴を開けた。
「ご、合流させ……」
「邪魔だっての!」
「邪魔だっての!」
なんとかカバーに入ろうとしたツチダマに、凛の人差し指が突きつけられる。
その指から放たれるのは北欧の呪い。レイジングハートの補助を受けて放つガンドはそれこそ機関銃を上回る威力だ。
数体のツチダマを倒すだけならば、余計な溜めがない点で砲撃より有用と言える。
その指から放たれるのは北欧の呪い。レイジングハートの補助を受けて放つガンドはそれこそ機関銃を上回る威力だ。
数体のツチダマを倒すだけならば、余計な溜めがない点で砲撃より有用と言える。
「回り込め! なんとしても阻むギガ!」
「神人を操ってる女が姿を晒しているギガ! こいつさえ倒せばギガ達は勝てる!」
「……!? あの馬鹿!」
「神人を操ってる女が姿を晒しているギガ! こいつさえ倒せばギガ達は勝てる!」
「……!? あの馬鹿!」
混乱のさなかに聞こえた言葉に、思わず凛は毒づいた。
すぐに眼球に魔力を流して見渡してみれば、神人の後方に立っているハルヒの姿が目測できる。
しかしそれに対して考えるより先に、凛の視界の脇に闇が映った。
すぐに眼球に魔力を流して見渡してみれば、神人の後方に立っているハルヒの姿が目測できる。
しかしそれに対して考えるより先に、凛の視界の脇に闇が映った。
「まず……!」
『Round Shield』
『Round Shield』
ついに川岸にまで上ってきた無数の触手が次々に地面に叩きつけられ、地響きを上げていく。
とっさに防御した凛でさえ、魔力盾を掲げる腕が軋む。周囲のツチダマ達がどうなるか、など言うまでもない。
しかし、結果的に、この攻撃は凛にプラスとなった。
いよいよ混乱が加速したツチダマ達の動きは支離滅裂になり、敵前逃亡を開始するものまで出る始末。
その隙に凛は置き土産を撃ち込みながら素早く離脱して……ふわりと神人の後ろ、ハルヒの脇に着地した。
とっさに防御した凛でさえ、魔力盾を掲げる腕が軋む。周囲のツチダマ達がどうなるか、など言うまでもない。
しかし、結果的に、この攻撃は凛にプラスとなった。
いよいよ混乱が加速したツチダマ達の動きは支離滅裂になり、敵前逃亡を開始するものまで出る始末。
その隙に凛は置き土産を撃ち込みながら素早く離脱して……ふわりと神人の後ろ、ハルヒの脇に着地した。
「助けてくれたのは感謝するけど……なんであんた本人までこっちに来たのよ?
神人は遠隔操作できるじゃない」
「弱点を晒したほうが、注意をこっちに向けてくれると思ったの」
「……まあ、来ちゃったものはしょうがないけど」
神人は遠隔操作できるじゃない」
「弱点を晒したほうが、注意をこっちに向けてくれると思ったの」
「……まあ、来ちゃったものはしょうがないけど」
瓦礫を投げ続ける巨人の後ろで話しこむ二人の美少女というのは、ある意味かなりシュールな光景だろう。
もっとも、周辺が阿鼻叫喚のような有様となっているこの状況下では気にする者などいないが。
もっとも、周辺が阿鼻叫喚のような有様となっているこの状況下では気にする者などいないが。
「それより、フェイトはどうなったか見てない?
途中ではぐれたまま、念話にも応答しないし……」
「私も見てないわよ。あんな小さな子なんだから、ちゃんと……」
「だから焦ってるの!」
途中ではぐれたまま、念話にも応答しないし……」
「私も見てないわよ。あんな小さな子なんだから、ちゃんと……」
「だから焦ってるの!」
ガンドをツチダマ達に向けて連射しながら、凛は顔を顰めた。
見る限りでは、ツチダマ達も捕捉出来ているわけではないらしい。
それが余計に混乱を来たしているようだ。
考察の材料があるとすれば、闇の書の闇が凛のいるところまで攻撃を開始したということだ。
だが砲撃や触手の生成が激しくなってきており、本体の周辺の目視は相当難しい。
魔力探知も、生み出される魔力が多すぎて如何せん精密さを欠く。
見る限りでは、ツチダマ達も捕捉出来ているわけではないらしい。
それが余計に混乱を来たしているようだ。
考察の材料があるとすれば、闇の書の闇が凛のいるところまで攻撃を開始したということだ。
だが砲撃や触手の生成が激しくなってきており、本体の周辺の目視は相当難しい。
魔力探知も、生み出される魔力が多すぎて如何せん精密さを欠く。
「……やっぱり、近くに行って調べるしかないか。
グラーフアイゼンは?」
「瓦礫を投げるのに邪魔だから、待機状態にして私が持ってるわ」
「あれには瓦礫投げ続けさせて、グラーフアイゼンはあんたが使いなさい。
オートガードで防御魔術を行使するくらいはしてくれるしできるでしょ。それと」
グラーフアイゼンは?」
「瓦礫を投げるのに邪魔だから、待機状態にして私が持ってるわ」
「あれには瓦礫投げ続けさせて、グラーフアイゼンはあんたが使いなさい。
オートガードで防御魔術を行使するくらいはしてくれるしできるでしょ。それと」
そのまま、凛は左腕をハルヒに向けた。
同時に響くのは、レイジングハートが薬莢を排出する音。
同時に響くのは、レイジングハートが薬莢を排出する音。
「カートリッジ三発分の魔力を籠めた強化魔術よ。貴女の服にかけておいたわ。
これだけでも拳銃の銃弾くらいなら跳ね返せると思う。
幸い私と貴女が暴れまわったおかげで相手の数はかなり減ってるし、逃げ出した奴もいるくらい士気は落ちてる。
貴女一人であの土偶の攻撃を防ぎきって、かつ病院に攻め込まれないように引き付ける……できる?」
これだけでも拳銃の銃弾くらいなら跳ね返せると思う。
幸い私と貴女が暴れまわったおかげで相手の数はかなり減ってるし、逃げ出した奴もいるくらい士気は落ちてる。
貴女一人であの土偶の攻撃を防ぎきって、かつ病院に攻め込まれないように引き付ける……できる?」
その言葉に、ハルヒは唾を飲み込んだ。
ハルヒが前線に立つことを嫌っていた凛が、ハルヒに単独行動をさせるということは。
凛自身もまた、単独行動をするからに他ならない。
ハルヒが前線に立つことを嫌っていた凛が、ハルヒに単独行動をさせるということは。
凛自身もまた、単独行動をするからに他ならない。
「……助けに行くってわけね」
「ええ、これ以上議論してる暇は無い。
レイジングハート、全開で行くわよ!」
『Excellion mode. Ignition』
「ええ、これ以上議論してる暇は無い。
レイジングハート、全開で行くわよ!」
『Excellion mode. Ignition』
不屈の杖が黄金の槍と化すと同時に、凛は一気に飛び上がった。
リミッターを解除したデバイスによる飛行魔法だ、その速さは半端ではない。
もちろん、全てのツチダマが黙ってみていたわけではない。素早く反応し、迎撃を試みようとした。
だがそんな働き者に空から送られたのは、今まで以上にひときわ大きい瓦礫の山だ。
リミッターを解除したデバイスによる飛行魔法だ、その速さは半端ではない。
もちろん、全てのツチダマが黙ってみていたわけではない。素早く反応し、迎撃を試みようとした。
だがそんな働き者に空から送られたのは、今まで以上にひときわ大きい瓦礫の山だ。
「悪いけど、あんた達の相手はこっち!
相手が人間じゃないって言うなら……手加減なんかしてあげないんだから!」
相手が人間じゃないって言うなら……手加減なんかしてあげないんだから!」
それは、文字通りの天罰だろう。神が下す裁決は、大抵は天罰という表現がなされるのだから。
再び混乱の渦中に放り込まれたツチダマ達を尻目に、凛は触手を掻い潜って再び闇へと接近を図る。
だが……ツチダマ達と交戦していた間に、闇はその勢力をいよいよ増していた。
凛の目前に広がる触手の数は、今や三桁にまで達していた。
再び混乱の渦中に放り込まれたツチダマ達を尻目に、凛は触手を掻い潜って再び闇へと接近を図る。
だが……ツチダマ達と交戦していた間に、闇はその勢力をいよいよ増していた。
凛の目前に広がる触手の数は、今や三桁にまで達していた。
「レイジングハート、フェイトの魔力探知はまだできないの!?」
『回避や防御にもリソースを回さなくてはいけない上、こうも魔力を持った物体が多くては……!』
「くっ……!」
『回避や防御にもリソースを回さなくてはいけない上、こうも魔力を持った物体が多くては……!』
「くっ……!」
せめて周りを見渡そうとした凛の動きが止まる。その背中に伝わってくるのは、紛れもない魔力の反応。
いや、背中だけではない。凛の死角、その全てから威圧感が発せられている――!
いや、背中だけではない。凛の死角、その全てから威圧感が発せられている――!
「――Es ist gros(軽量), ストライクフレーム!」
『Frame open, Flash move』
『Frame open, Flash move』
十本以上の触手の突撃の寸前、とっさに行使した移動魔法が凛の体をずらした。
目標を見失った触手は勢いをそれぞれ触手同士でぶつかり合うことで相殺、数本かはそのまま追撃しようとし……
凛によってレイジングハートの先端に具現化された魔力刃に、全てが切断された。
だが、これを総攻撃というには早計すぎる。下ではツチダマがそれ以上の数の触手と交戦している上、
五十本以上の触手が凛に狙いを定めているのだから。
後退しようにも、できない。ツチダマの射撃がそれを妨害する。
目標を見失った触手は勢いをそれぞれ触手同士でぶつかり合うことで相殺、数本かはそのまま追撃しようとし……
凛によってレイジングハートの先端に具現化された魔力刃に、全てが切断された。
だが、これを総攻撃というには早計すぎる。下ではツチダマがそれ以上の数の触手と交戦している上、
五十本以上の触手が凛に狙いを定めているのだから。
後退しようにも、できない。ツチダマの射撃がそれを妨害する。
(こんな状況下に追い込まれたら、いくらあの子だって……!)
それでも、凛は諦めない。これ以上ない窮地だが、万策尽きたわけではない。
何より自分から突っ込んだ挙句先にやられる、なんて情けなさすぎる。
ツチダマが飛ばしてきた光線銃を寸前で回避しながらエリアサーチを行使、状況を確認。
白銀に彩られた砲撃を斜めの角度で防御し、受け流して川岸に陣取るツチダマに直撃させる。
次々に伸びてくる触手の一本目を下から潜り抜け、二本目はリングバインドで押さえ込み、
三本目は魔力刃によって両断。四本目は巻きつかれる寸前に腕を強化して引きちぎった所で、
更にもう三本、同時に上下から襲い掛かってくるのを視認した。
何より自分から突っ込んだ挙句先にやられる、なんて情けなさすぎる。
ツチダマが飛ばしてきた光線銃を寸前で回避しながらエリアサーチを行使、状況を確認。
白銀に彩られた砲撃を斜めの角度で防御し、受け流して川岸に陣取るツチダマに直撃させる。
次々に伸びてくる触手の一本目を下から潜り抜け、二本目はリングバインドで押さえ込み、
三本目は魔力刃によって両断。四本目は巻きつかれる寸前に腕を強化して引きちぎった所で、
更にもう三本、同時に上下から襲い掛かってくるのを視認した。
「くっ……!」
『Circle Protection』
『Circle Protection』
とっさに防御したものの、所詮は急場しのぎでしかない。
軽量魔術が災いし、障壁ごと水中へ向けて叩きつけられる。
視界が霞むような感覚を抱きながらも、本体周辺の触手が魔力を充填し始めたのを見て無理矢理姿勢を立て直した。
そのまま来るだろう追撃に備えて身構えたが、触手からの砲撃は下――水中へと行われただけ。
凛は安堵する先に疑問を抱き……そして、ふと気付いた。
軽量魔術が災いし、障壁ごと水中へ向けて叩きつけられる。
視界が霞むような感覚を抱きながらも、本体周辺の触手が魔力を充填し始めたのを見て無理矢理姿勢を立て直した。
そのまま来るだろう追撃に備えて身構えたが、触手からの砲撃は下――水中へと行われただけ。
凛は安堵する先に疑問を抱き……そして、ふと気付いた。
「……まさか!」
『Master!』
『Master!』
しかし、その考えが行動に結びつく寸前、ツチダマの空気砲が凛に直撃した。
衝撃で息が詰まったものの、足を止める余裕はとうの昔にない。
衝撃で息が詰まったものの、足を止める余裕はとうの昔にない。
「Es ist klein(重圧)……!!」
『何を!?』
「いいから、私の思うとおりに動いて!」
『何を!?』
「いいから、私の思うとおりに動いて!」
空気砲でも簡単に吹き飛ぶようにしていた凛が一転、重力を増加させて落ち始める。
そしてそのままアクセルフィンを羽ばたかせ、加速。重力も加えたまま減速の素振りも見せず、
触手を振り切って水面へと突っ込んでいく……寸前、水中から、数本の触手が飛び上がってきた。
そしてそのままアクセルフィンを羽ばたかせ、加速。重力も加えたまま減速の素振りも見せず、
触手を振り切って水面へと突っ込んでいく……寸前、水中から、数本の触手が飛び上がってきた。
「無理やり突破するわよ!」
『Protection Powered――Barrier Burst』
『Protection Powered――Barrier Burst』
それでもなお、凛は止まらない。
障壁を張りながら水中に突撃し、衝撃を軽減。未だ纏わりつく触手を爆発で吹き飛ばし、
そのまま周囲を見渡した。
障壁を張りながら水中に突撃し、衝撃を軽減。未だ纏わりつく触手を爆発で吹き飛ばし、
そのまま周囲を見渡した。
「…………!」
『あれは……フェイト!』
『あれは……フェイト!』
そうしてやっと、レイジングハートも凛の考えに気付いた。
空で見つからないなら、水の中を探せばいい。単純なものだ。
だが、事態は想像以上に悪化していた。
触手に絡め取られたまま、フェイトは動かない。ただ、撃ち込まれる砲撃に嬲られるだけ。
バリアジャケットは既にボロきれ同然、周囲の水の色は所々血の赤に染まっている。
電気系統の魔法を多く使い、機動力を重視した戦いをするフェイトにとって、水中という戦場はこれ以上なく最悪だった。
そして、魔術師全般にとっても水中というのは厄介な地形である。詠唱が、できないのだ。
詠唱による魔術の発動を基本とする凛にとって、これは致命的なことだと言っていい。
空で見つからないなら、水の中を探せばいい。単純なものだ。
だが、事態は想像以上に悪化していた。
触手に絡め取られたまま、フェイトは動かない。ただ、撃ち込まれる砲撃に嬲られるだけ。
バリアジャケットは既にボロきれ同然、周囲の水の色は所々血の赤に染まっている。
電気系統の魔法を多く使い、機動力を重視した戦いをするフェイトにとって、水中という戦場はこれ以上なく最悪だった。
そして、魔術師全般にとっても水中というのは厄介な地形である。詠唱が、できないのだ。
詠唱による魔術の発動を基本とする凛にとって、これは致命的なことだと言っていい。
「…………!」
『Active Guard』
『Active Guard』
それでも手をかざし、無詠唱で魔法を発動した。
アクティブガード、防衛対象の周囲で爆発を起こし、衝撃を伝える魔法。
本来はあくまで衝撃緩和用でありスフィアプロテクションより防御力はないが、
触手の勢いを止めること程度ならば可能なはずだと凛は踏んだ。
アクティブガード、防衛対象の周囲で爆発を起こし、衝撃を伝える魔法。
本来はあくまで衝撃緩和用でありスフィアプロテクションより防御力はないが、
触手の勢いを止めること程度ならば可能なはずだと凛は踏んだ。
(防御できなくてもいい、目くらましになれば……!)
薄暗い水中に突如光が広がる様子は、広げた当人の凛でさえ思わず一瞬眩ませるほどだ。
それでも凛は止まらない。その隙に、可能な限り接近を図る。
しかし、触手が衝撃から回復するのもまた早かった。当然だ。
何度斬られようともすぐに再生する触手にとって、この程度の衝撃は子供だましにもならない。
凛が動き出した数秒後には全ての触手が凛へ向けて蠢き出し――
フェイトを捕らえている触手は、獲物を奪還されぬべく魔法を行使した。
それでも凛は止まらない。その隙に、可能な限り接近を図る。
しかし、触手が衝撃から回復するのもまた早かった。当然だ。
何度斬られようともすぐに再生する触手にとって、この程度の衝撃は子供だましにもならない。
凛が動き出した数秒後には全ての触手が凛へ向けて蠢き出し――
フェイトを捕らえている触手は、獲物を奪還されぬべく魔法を行使した。
『あれは……』
「?」
「?」
機械であり、水中での発声が可能なレイジングハートが気付けたのは僥倖だろう。
光に包まれ出したフェイトに対する疑問を凛は視線で伝え、
レイジングハートが素早くその意を汲み取って言葉を続けていく。
もっとも、水中なので凛は喋りようがないのだが。
光に包まれ出したフェイトに対する疑問を凛は視線で伝え、
レイジングハートが素早くその意を汲み取って言葉を続けていく。
もっとも、水中なので凛は喋りようがないのだが。
『Absorption……「吸収」です。
単純に言えば、闇の書内部に対象を取り込む魔法。
以前ははやてに意識があったからこそなんとかなりましたが、
暴走状態で取り込まれればどうなるか……!』
単純に言えば、闇の書内部に対象を取り込む魔法。
以前ははやてに意識があったからこそなんとかなりましたが、
暴走状態で取り込まれればどうなるか……!』
レイジングハートが急いでまくし立てるのは、こうしている間にもフェイトが消えていくからだけではない。
前回も、レイジングハートは消えていくフェイトを見ていただけ。
故に、どんな対応をすればいいか……知識のうちにはない。
焦りがレイジングハートの中に募っていく中で……凛は、迷わずに構えを取った。
前回も、レイジングハートは消えていくフェイトを見ていただけ。
故に、どんな対応をすればいいか……知識のうちにはない。
焦りがレイジングハートの中に募っていく中で……凛は、迷わずに構えを取った。
『マスター、何を……!?』
レイジングハートの言葉は、途中で止まった。止められた。
凛の瞳は、口よりも雄弁に物を言っている。語っているのは、紛れもない決意。
それは十分すぎるほどに、伝わった。
凛の瞳は、口よりも雄弁に物を言っている。語っているのは、紛れもない決意。
それは十分すぎるほどに、伝わった。
『All right!
Excellion Buster A.C.S. drive!』
Excellion Buster A.C.S. drive!』
そして、凛は一気に加速した。
だが水中では、A.C.S.でさえ焦りを募らせるほどに遅い。
目の前で刻一刻とフェイトの姿が消えていく以上、尚更だ。
次々に進路を塞がそうと身をぶつけていく触手は、次々に凛の突撃に突き破られていく。
しかし、それでも……一つ突き破るごとにA.C.S.の速度は低下していき。
ついにその勢いは、触手に捉えられるほどにまで遅くなり、凛の頭に触手の一撃が直撃する。
意識を飛ばされかけながらも、かろうじて凛は腕を伸ばし。
だが水中では、A.C.S.でさえ焦りを募らせるほどに遅い。
目の前で刻一刻とフェイトの姿が消えていく以上、尚更だ。
次々に進路を塞がそうと身をぶつけていく触手は、次々に凛の突撃に突き破られていく。
しかし、それでも……一つ突き破るごとにA.C.S.の速度は低下していき。
ついにその勢いは、触手に捉えられるほどにまで遅くなり、凛の頭に触手の一撃が直撃する。
意識を飛ばされかけながらも、かろうじて凛は腕を伸ばし。
フェイトの姿が光となって弾ける寸前――その手は、かろうじて届いていた。
■
……私から状況説明を受けるやいなや、『彼女』は自分が犠牲になると言った。
■
「ギ、ギガァァァァァァ!?」
「触手はもう嫌ギガァァァァァァ!」
「死傷者には構うなギガ! 自分自身の離脱を優先するギガ!」
「触手はもう嫌ギガァァァァァァ!」
「死傷者には構うなギガ! 自分自身の離脱を優先するギガ!」
闇によるツチダマ達への攻撃は、いよいよ本格化していく。
次々に砲撃が川岸へと叩き込まれ、触手がツチダマ達をなぎ払っていく。
……一番近くにいる物体とは、ツチダマ達だという事を示すかのように。
次々に砲撃が川岸へと叩き込まれ、触手がツチダマ達をなぎ払っていく。
……一番近くにいる物体とは、ツチダマ達だという事を示すかのように。
「二人とも、戻ってこない……」
凛が飛んでいってから、既に数分が経過している。
そして、凛がほとんど落ちるような勢いで水中へと突入したのはハルヒも視認していた。
魔術師というのは水中でも呼吸ができるのではないかというハルヒの希望は、グラーフアイゼンの否定で露と消えた。
そして、凛がほとんど落ちるような勢いで水中へと突入したのはハルヒも視認していた。
魔術師というのは水中でも呼吸ができるのではないかというハルヒの希望は、グラーフアイゼンの否定で露と消えた。
『ツチダマと呼ばれる敵兵器が離脱を開始。一部はこちらへ向かっているようです。
開けた場所では神人は的になる上に、投げる瓦礫がなくなってきている以上は、
森林の中へ戦場を移すのが上策かと』
開けた場所では神人は的になる上に、投げる瓦礫がなくなってきている以上は、
森林の中へ戦場を移すのが上策かと』
グラーフアイゼンの声は冷静だ。
元々『彼』は冷静なタイプである。本来の持ち主とは正反対だ。
数秒経過した後にハルヒからの返答がないと判断し、丁重に二の句を告げた。
元々『彼』は冷静なタイプである。本来の持ち主とは正反対だ。
数秒経過した後にハルヒからの返答がないと判断し、丁重に二の句を告げた。
『……もう一度申し上げる必要が?』
「聞こえてるし、見えてるし、分かってるわ。
だから、私は、あいつらと戦わないと。
凛が言ってたでしょ?」
『しかし……』
「トグサさんを守るだけじゃない。
二人とも、きっと、絶対に無事に帰ってくる――無事に帰ってこなきゃ、許さない!
だから二人がちゃんと帰ってこれるように、私がここで戦って敵の数を減らさなきゃいけないのよ!」
「聞こえてるし、見えてるし、分かってるわ。
だから、私は、あいつらと戦わないと。
凛が言ってたでしょ?」
『しかし……』
「トグサさんを守るだけじゃない。
二人とも、きっと、絶対に無事に帰ってくる――無事に帰ってこなきゃ、許さない!
だから二人がちゃんと帰ってこれるように、私がここで戦って敵の数を減らさなきゃいけないのよ!」
ハルヒの声は、それこそてこでも動かないと言わんばかりだ。
しばらくして返ってきたアイゼンの声は、どこか呆れた様子だった。
もし『彼』が人間なら、肩を竦めてやれやれとでも言っていただろう。
しばらくして返ってきたアイゼンの声は、どこか呆れた様子だった。
もし『彼』が人間なら、肩を竦めてやれやれとでも言っていただろう。
『私を放さないように。
私が一種類の魔法を行使することだけに専念すれば、タイミングを合わせてオートガードを発動し、
攻撃を防ぎ続けることは可能です。
貴女がデバイスを介さずに攻撃をする、というのが条件ですが』
「構わないわ、それくらい」
私が一種類の魔法を行使することだけに専念すれば、タイミングを合わせてオートガードを発動し、
攻撃を防ぎ続けることは可能です。
貴女がデバイスを介さずに攻撃をする、というのが条件ですが』
「構わないわ、それくらい」
そう返すと同時に、しっかりとハルヒは前方を睨みつけた。
その視線の先にあるのは、暴走する闇の射程範囲からの離脱を完了し、整然と並んでいるツチダマ達の姿。
その様子に神人を警戒する様子こそあれど……ハルヒ本人を警戒する様子は無い。むしろ安心している様子さえある。
ハルヒを殺せばこれで全員終わりだ、とでも思っているのだろう。
その視線の先にあるのは、暴走する闇の射程範囲からの離脱を完了し、整然と並んでいるツチダマ達の姿。
その様子に神人を警戒する様子こそあれど……ハルヒ本人を警戒する様子は無い。むしろ安心している様子さえある。
ハルヒを殺せばこれで全員終わりだ、とでも思っているのだろう。
「せいぜい甘く見てなさい。
そうやって他の所に気を回さないほうが――こっちとしても好都合よ!」
そうやって他の所に気を回さないほうが――こっちとしても好都合よ!」
■
幻覚なんかじゃ、なかった。
なのはの脇に立っていた、女の人は……
なのはの脇に立っていた、女の人は……
■
「……ん」
凛の視界に最初に入ったもの。
それは、やたらと趣味の悪い装飾だった(少なくとも凛にはそう見えた)。
情報を集めるために、目を擦りながら周りを見渡してみる。
とりあえず、自分が寝ていたのは、それなりに豪奢なベッドのようだが……
それは、やたらと趣味の悪い装飾だった(少なくとも凛にはそう見えた)。
情報を集めるために、目を擦りながら周りを見渡してみる。
とりあえず、自分が寝ていたのは、それなりに豪奢なベッドのようだが……
「ここは……?」
「ここは、私の内部だ」
「う、うわ、リイン!?」
「ここは、私の内部だ」
「う、うわ、リイン!?」
いつのまにやら後ろに立っていた女性に、凛は素っ頓狂な声を上げていた。
正直、あまり格好良くはない。
正直、あまり格好良くはない。
「よかった、無事だったのね?」
「……他に、心配することがあると思うが。
フェイトが吸収される寸前に、お前は自分も咄嗟に転送対象にしたことは覚えているか?」
「そうだ、私あの時何とか手を掴んで、そのまま気を失って――」
『私達も一緒に「吸収」されたようですね』
「……他に、心配することがあると思うが。
フェイトが吸収される寸前に、お前は自分も咄嗟に転送対象にしたことは覚えているか?」
「そうだ、私あの時何とか手を掴んで、そのまま気を失って――」
『私達も一緒に「吸収」されたようですね』
レイジングハートの言葉に、凛はしばらく目を瞬いて。
はあ、と溜め息を吐いた。
はあ、と溜め息を吐いた。
「……状況を悪化させただけ、か」
「いや、ベストではないがベターな判断だ。
例えフェイトだけが無事に来たとしても、私はどうしようもなかった」
「? どういうこと?」
「説明は後だ。今は別にやってほしいことがある。緊急でな」
「いや、ベストではないがベターな判断だ。
例えフェイトだけが無事に来たとしても、私はどうしようもなかった」
「? どういうこと?」
「説明は後だ。今は別にやってほしいことがある。緊急でな」
そう告げて、リインフォースは歩き出した。
部屋の反対側、もう一つのベッド。
首を傾げながら歩いていった凛は、ふとある匂いを嗅ぎ取った。
それは、血と、肉が焼きただれている、匂い。
部屋の反対側、もう一つのベッド。
首を傾げながら歩いていった凛は、ふとある匂いを嗅ぎ取った。
それは、血と、肉が焼きただれている、匂い。
「フェ、フェイト!」
『…………!』
『…………!』
そうしてベッドに寝ているものを見て、凛は再び声を上げていた。上げるしかなかった。
素人目にも分かる重傷だ。触手に巻きつかれ続けたことによる打撲や裂傷に骨折、度重なる砲撃による火傷。
その一部は内臓にまで達し……心臓にまで届いていた。
だが凛とは正反対に、レイジングハートは押し黙っていた。まるで、分かっていたのかのように。
あるいは、覚悟を決めているかのように。
素人目にも分かる重傷だ。触手に巻きつかれ続けたことによる打撲や裂傷に骨折、度重なる砲撃による火傷。
その一部は内臓にまで達し……心臓にまで届いていた。
だが凛とは正反対に、レイジングハートは押し黙っていた。まるで、分かっていたのかのように。
あるいは、覚悟を決めているかのように。
「基本的に、ここでの負傷は現実世界の物が継承される。
体そのものを私の内部に転送するようなものだからな。
私がやってほしいこととは、彼女の治療……」
「助けるって言ったって、これだけの怪我、どうやって治せって言うのよ!」
「手段はある。お前が寝ている間に、レイジングハートと話し合った。
もっとも、お前はそれを受け入れないかもしれないが……」
「受け入れない……?」
体そのものを私の内部に転送するようなものだからな。
私がやってほしいこととは、彼女の治療……」
「助けるって言ったって、これだけの怪我、どうやって治せって言うのよ!」
「手段はある。お前が寝ている間に、レイジングハートと話し合った。
もっとも、お前はそれを受け入れないかもしれないが……」
「受け入れない……?」
リインフォースの顔は、どこか暗い。そして、この言葉。
凛に嫌な予感を与えるには、十分すぎて……それは、的中した。
凛に嫌な予感を与えるには、十分すぎて……それは、的中した。
『カートリッジを六発ロードした後、私自身を宝石魔術に使う宝石として使ってください。
それだけの魔力があれば、これほどの重傷でも救えます』
それだけの魔力があれば、これほどの重傷でも救えます』
自分を殺せと。
レイジングハートは、そう言った。
レイジングハートは、そう言った。
「……すまない。私にも、これしか思い浮かばなかった」
「これしかって……ふざけんじゃないわよ! 何か他に手段は……」
『ありません。これが最善の手です』
「これしかって……ふざけんじゃないわよ! 何か他に手段は……」
『ありません。これが最善の手です』
思わずリインフォースの胸倉を掴んだ凛の言葉を遮ったのは、他でもないレイジングハート自身。
その声は普段と違い……どこまでも機械的で、感情がない。
その声は普段と違い……どこまでも機械的で、感情がない。
『デバイスと人命。どちらを重視すべきかと考えれば、答えは決まっています』
「そう……そうだけど、そうだけど!!!」
「……私達は、こういうモノなのだ、凛」
『時間がありません、マスター。早く準備を』
「でも……!」
「そう……そうだけど、そうだけど!!!」
「……私達は、こういうモノなのだ、凛」
『時間がありません、マスター。早く準備を』
「でも……!」
凛の腕が、かろうじて動く。
彼女にも分かっている。このままでは一分も持たずにフェイトが死ぬことくらい。
それでも、頭の一部が、どこまでもお人よしな部分が、理性を否定しようと抗う。
レイジングハートも、それくらい分かっている。だから……『彼女』は凛を支えようと思ったのだから。
だから、優しく。落ち着いた言葉を、掛けた。
彼女にも分かっている。このままでは一分も持たずにフェイトが死ぬことくらい。
それでも、頭の一部が、どこまでもお人よしな部分が、理性を否定しようと抗う。
レイジングハートも、それくらい分かっている。だから……『彼女』は凛を支えようと思ったのだから。
だから、優しく。落ち着いた言葉を、掛けた。
『私は悲しくはありません、凛。
私は私の役割を果たし、なのはの所に還る。
だから、貴女も……泣かないで』
「…………ッ!」
私は私の役割を果たし、なのはの所に還る。
だから、貴女も……泣かないで』
「…………ッ!」
凛が伏せた顔から落ちるのは、紛れもない、涙だ。
――まるであの夜の再現だと、凛は思った。
目の前には、瀕死の人間が一人。周りには誰もいない。
手にあるのは、貴重な宝石。死んだ人間から、受け継いだ。
手にあるのは、貴重な宝石。死んだ人間から、受け継いだ。
歯を噛み締めて、それで、やっと凛は、言葉を出せた。
「……還るなんて、間違いよ。
私、治すから。絶対治して、もう一度扱き使ってやるから」
『はい。ずっと、待っています。マスターのところで』
私、治すから。絶対治して、もう一度扱き使ってやるから」
『はい。ずっと、待っています。マスターのところで』
レイジングハートが、カートリッジを全弾ロードする。
それでも足りない。人一人蘇生させるための代償だ、そんな程度で足りるはずがない。
わかっている。凛も、レイジングハートも。
わかっているから、ずっと迷って、それでも、決断した。
それでも足りない。人一人蘇生させるための代償だ、そんな程度で足りるはずがない。
わかっている。凛も、レイジングハートも。
わかっているから、ずっと迷って、それでも、決断した。
「――Auf Wiedersehen」
宝石魔術が、行使される。
デバイスをデバイス足らしめるプログラムが次々に停止していき、代わりに圧倒的なまでの魔力が膨らんでいく。
エクセリオンモードだったレイジングハートの柄が消え、刃が消え、スタンバイモードへ――ただの宝石へ戻っていく。
代わりに、明らかに致命傷だったフェイトの体は着々と回復していき――以前に斬られた目さえ治り始めた。
けれど。それは奇跡でもなんでもない。ただの等価交換だ。
一つの意志と引き換えに、一つの命を救う。こんなことが奇跡だなどと、主張するのもおこがましい。
デバイスをデバイス足らしめるプログラムが次々に停止していき、代わりに圧倒的なまでの魔力が膨らんでいく。
エクセリオンモードだったレイジングハートの柄が消え、刃が消え、スタンバイモードへ――ただの宝石へ戻っていく。
代わりに、明らかに致命傷だったフェイトの体は着々と回復していき――以前に斬られた目さえ治り始めた。
けれど。それは奇跡でもなんでもない。ただの等価交換だ。
一つの意志と引き換えに、一つの命を救う。こんなことが奇跡だなどと、主張するのもおこがましい。
そうして、ぱきん、と――音がした。
それは一瞬の出来事だった。
反応する暇も無い。フェイトのあらゆる負傷が完治すると同時に、赤い宝石に亀裂が走って。
砂より細かく割れて、風に吹かれて消えた。
まるで、最初から何も無かったかのように。とっさに掴もうとした凛の努力を、嘲笑うかのように。
反応する暇も無い。フェイトのあらゆる負傷が完治すると同時に、赤い宝石に亀裂が走って。
砂より細かく割れて、風に吹かれて消えた。
まるで、最初から何も無かったかのように。とっさに掴もうとした凛の努力を、嘲笑うかのように。
「……ああ、あ」
がくりと、凛が膝を付く。
今、この場にいる中で話ができたのはリインフォースだけだ。だから、彼女は困惑した。
それでも、しっかりと決意して、リインフォースはその肩に手を置いた。
今、この場にいる中で話ができたのはリインフォースだけだ。だから、彼女は困惑した。
それでも、しっかりと決意して、リインフォースはその肩に手を置いた。
「……レイジングハートは、フェイトが危険かもしれないと考えた時からこのことを覚悟したようだ。
だから、『彼女』はお前に、最後の贈り物をしたがっていた」
「……贈り……物?」
「魔術刻印だ」
だから、『彼女』はお前に、最後の贈り物をしたがっていた」
「……贈り……物?」
「魔術刻印だ」
そう言って、リインフォースは凛の左肩をはだけさせた。
そこには、以前よりも明らかに大きくなっている魔術刻印が確かにある。
そこには、以前よりも明らかに大きくなっている魔術刻印が確かにある。
「本来なら私がここに現れることはできない。暴走が始まってしまったとなれば尚更だ。
だがお前を吸収した瞬間、とっさに『蒐集』を利用してお前の魔術刻印に私の基本的な構造を複製して移植し、
私の管制人格とお前の魔術回路を繋げられるようにした。
それを通すことで、なんとかこうして現れることが出来ている」
「よくわかんないけど……端末を私に移植して、本体と会話できるようにしたってこと?」
「言いえて妙だな。そういうことだ。もっとも、レイジングハートにもかなり手伝ってもらったが」
だがお前を吸収した瞬間、とっさに『蒐集』を利用してお前の魔術刻印に私の基本的な構造を複製して移植し、
私の管制人格とお前の魔術回路を繋げられるようにした。
それを通すことで、なんとかこうして現れることが出来ている」
「よくわかんないけど……端末を私に移植して、本体と会話できるようにしたってこと?」
「言いえて妙だな。そういうことだ。もっとも、レイジングハートにもかなり手伝ってもらったが」
デバイスの機能の一つとして、数々の魔法を辞書として記す記録機能がある。
当然フェイトはそれをバルディッシュに任せているため、フェイト自身は頭で基本的な成り立ちを記憶しているだけだ。
だが凛のような魔術師が受け継ぐ魔術刻印は、魔力を流すだけで一定の術式を行使できる、
いわば、簡易型のストレージデバイスのような機能を持っているのである。
つまり、凛はその身自身に簡易ストレージデバイスを持っているようなものと等しい。
リインフォースは、そこに着目したというわけだ。
凛自身の魔術刻印を拡張するという形で複製を行えば、複製した魔法が劣化していくこともない。
当然フェイトはそれをバルディッシュに任せているため、フェイト自身は頭で基本的な成り立ちを記憶しているだけだ。
だが凛のような魔術師が受け継ぐ魔術刻印は、魔力を流すだけで一定の術式を行使できる、
いわば、簡易型のストレージデバイスのような機能を持っているのである。
つまり、凛はその身自身に簡易ストレージデバイスを持っているようなものと等しい。
リインフォースは、そこに着目したというわけだ。
凛自身の魔術刻印を拡張するという形で複製を行えば、複製した魔法が劣化していくこともない。
「そして、追加された魔術刻印には……レイジングハートから高町なのはが研鑽し、積み上げた魔法も含まれている。
元々、私自身も高町なのはの魔法を記録している以上、デバイスからの蒐集という無茶も容易かった。
先に言った部分と合わせても、私の記録した魔法の二十分の一以下だからな。容量という点も問題は無い」
「な……!」
「当然、そんなことをすればデバイスとしては終わる。記録していた魔法を全て奪われるのだから。
もっとも、彼女は平気だと言っていた。カートリッジのロード機能と魔力、そして宝石としての形が残っていればいいと。
どうせ死ぬ自分に、魔法の記録を残す必要はないと」
「なんでよ。なんでそんなコト……!」
「私には『彼女』の気持ちが分かる。
きっと、自分達の魔法を使いこなしてくれると……信じていたからだろう」
元々、私自身も高町なのはの魔法を記録している以上、デバイスからの蒐集という無茶も容易かった。
先に言った部分と合わせても、私の記録した魔法の二十分の一以下だからな。容量という点も問題は無い」
「な……!」
「当然、そんなことをすればデバイスとしては終わる。記録していた魔法を全て奪われるのだから。
もっとも、彼女は平気だと言っていた。カートリッジのロード機能と魔力、そして宝石としての形が残っていればいいと。
どうせ死ぬ自分に、魔法の記録を残す必要はないと」
「なんでよ。なんでそんなコト……!」
「私には『彼女』の気持ちが分かる。
きっと、自分達の魔法を使いこなしてくれると……信じていたからだろう」
リインフォースには、分かる。彼女だって、そう思ったから。
凛から返ってくる言葉はない。その瞳は、震えていて……今にも、涙が零れ落ちそうだった。
凛から返ってくる言葉はない。その瞳は、震えていて……今にも、涙が零れ落ちそうだった。
「私は……その、感情を自覚したことがないから、よく分からないのが……」
見かねたリインフォースが、ぽつりぽつりと、手探りで歩くかのように言葉を紡いでいく。
元々、リインフォースはあまり機微がある方ではない。
はやてに会うまではいつも、心の内で感情を溢れさせるだけで外には出さなかった。
はやてに出会った後も……物静かだったことは変わらない。
そもそも彼女自身……はやてを置いて旅立ったのだ。今の凛のような気持ちをさせたこそあれ、凛の気持ちは分からない。
それでも、リインフォースは、優しく凛を抱きしめた。
元々、リインフォースはあまり機微がある方ではない。
はやてに会うまではいつも、心の内で感情を溢れさせるだけで外には出さなかった。
はやてに出会った後も……物静かだったことは変わらない。
そもそも彼女自身……はやてを置いて旅立ったのだ。今の凛のような気持ちをさせたこそあれ、凛の気持ちは分からない。
それでも、リインフォースは、優しく凛を抱きしめた。
「こういう時は、我慢しないで泣いた方がいいと思う。
同じデバイスとして、『彼女』の気持ちも分かるから、私もしたから……
だから、後でいつか、笑えるようになれるように……」
「う……うううううう……っ!」
同じデバイスとして、『彼女』の気持ちも分かるから、私もしたから……
だから、後でいつか、笑えるようになれるように……」
「う……うううううう……っ!」
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