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It is not the end. To be continued to 『Heaven's feel』 and 『Strikers』. ◆2kGkudiwr6


[Now -Will the scar on the mind remain forever?-]


「……帰ってきたんだ」

自分の家の扉の前。
最初に私が言った言葉が、それだった。
でも、言葉に感慨なんてない。気持ちはそれこそ曇天のように沈んでいた。

「どう説明すればいいのかしらね……」

歯を噛み締める。
あの子はきっと泣くだろう。
下手すれば藤村先生やイリヤまで泣くかも……いや、確実に泣く。
その覚悟ができていないから……私は、逃げている。
最初は衛宮邸に行くつもりだったのに、いつの間にか足は自分の家に向いていた。
ほんと、私は弱い。イヤになる。
いっそ無理を言ってでも連れてくればよかった。
話相手がいれば、少しは気分が紛れただろうに。

「Abzug Bedienung Mittelstand……」

陰鬱な気分に浸りながら鍵開けの呪文を口に出した。
すぐに靴を脱ぎ捨てて、寝室を目指す。できれば当分休んで気持ちを落ち着けたい。
けれど、それはなぜか……家の中から聞こえた足音に、止められた。

「え……?」

いったいどういうことか、考える時間さえない。
誰もいないはずの、その家に。

「もう、どこ行ってたんですか! 心配しましたよ」

エプロンをつけた桜が、本当に心配そうな表情で住んでいた。

「さ、桜……!? あんたなんでここにいるのよ!」
「? 何を言ってるんですか?
 聖杯戦争が終わってから、姉さんが家で住まないかって誘ったんじゃないですか」
「あ……え、え!?」

思考が更に混乱する。
姉さん。そう呼んでくれたら、どれほど嬉しいと思っただろう。
けど、日常的に呼んでくれるほどまでには……仲良くなんてなっていない。
そんな私の混乱を少しも気遣わないで、桜はのんびりと首を傾げていた。

「時計塔から推薦状が来てましたけど、何か関係有るんですか?」
「推薦状……?」
「ええ。姉さんは聖杯戦争を優勝したんですから、当然だと思いますけど」
「なっ……!?」
「……どうしたんですか?
 姉さん、本当に何かおかしいですよ……?」

本当に心配そうな顔で、桜は私の顔を覗き込んでいる。そこに、嘘とか遊びとか冗談とかはなかった。
けれど。私はそれに背中を向けて、入ってきた扉へ走り出していた。

「姉さん!? いったいどこに――」
「ちょっと……忘れ物……」

苦しい言い訳を告げて、靴を履いて走り出す。
強化魔術さえ使った自分の全速力で、広い庭を数秒も掛けずに突っ切った。
そのまま背中を確信めいた強迫観念に押されて、私はひたすら走り続ける。
流れていく風景にも気を止めず、息が上がるのも魔力が消耗するのも気にせずに。
優等生ぶるなんてことは少しもせず、一秒も休まないで私は走り続けた。
向かう先は、衛宮邸。



[Truth -Move the future -]



そうして、やっと私は立ち止まった。
目の前には、もう見慣れた門と塀がしっかりと聳え立っている。
感慨も感じる余裕も無く、息を切らせながら武家屋敷の門を開け、中へと足を踏み出した。
手入れが行き届いていたはずの衛宮邸は、所々に雑草が生え始めていた。
かと言って廃墟というわけでもない。せいぜい二ヶ月程度放置されたくらいだろう。

……二ヶ月。聖杯戦争が終わってから、ちょうど二ヶ月だ。

「来たのね、リン」
「……!? イリヤ!」

声が発せられたのは縁側から。
そこには白い少女が、のんびりと優雅に座っていた。

「だいぶ混乱してるみたいね。
 何があったのかは知らないけど」
「ねえ、聞きたいことがあるんだけど。えっと……」

そう言ってみたはいいけれど、何を言えばいいのか分からない。
あまりにも分からないことが多すぎる。
そんな私を見て、イリヤはくすりと笑って……

「……シロウとリンに何があったのかは知らないわ。
 けれど、この世界に起きたことは知ってる」

真剣な口調で、話し始めた。

「ある事件が起きたわ。シロウとリンが、消えてしまう事件。そして帰ってきたのはリンだけ。
 けれどシロウが消えたのは、バーサーカーが死んだ後。そしてリンが消えたのは、聖杯戦争が終わった後なの。
 当然、矛盾が生じるわ。
 シロウがあのタイミングでいなくなったのに、シロウが最後までいた聖杯戦争の終わりを体験したリンは存在する。
 だから、世界からの矛盾の矯正が行われた。
 世界だって生きてるもの。矛盾は世界にとって傷みたいなもの。だから、傷を治そうと世界から力が働いたの。
 シロウ抜きで、かつ私達が行った聖杯戦争にもっとも近いような形に抑止力が歴史を作り変えた。
 だからリンはサクラを一人で助けて、仲良くなったことになって……
 家主が死んだこの家にはもう、誰も来なくなった。タイガさえ」

イリヤの最後の言葉は、少しだけ暗くて……私も知らず知らずのうちに、歯を噛み締めていた。
納得がいかない。いくはずがない。
私がやったことじゃない。私が頑張ったことじゃない。
けれど世界は何の変わりもなく流れ、それどころか私は士郎の代わりに色んな物を得てしまっている――
それでも。イリヤは顔を下げずに、明るい顔で続けていく。

「でも、安心したら?
 貴女はちゃんとセイバーに答えを教えられた。シロウと同じようにね。
 世界からのプレゼントだもの、いわば天からの贈り物。
 貰っておいた方がいいわ」
「…………」

答えはない。漏らした吐息は、少しだけ吹いた風にかき消された。
分かってる。返したって士郎が帰ってくるわけじゃない。
けれど……理解はできたって、納得できないことは、ある。

「……でも、だとしたらおかしいわよ。
 なんであんたは、両方の記憶をしっかりと持ってるわけ?」

だから、答えを受け入れなくて、そんな言葉を出した。
それが――より陰惨な答えを紡ぐものだとは知らず。

「……単純よ。矛盾を矯正するために、大聖杯が溜め込んでる魔力が少しだけ使われたの。
 だから当事者の貴女と清純な聖杯である私だけが、前の世界の記憶を保持することができた。
 あんな聖杯でも、少しは力になれたみたいね」

愕然とした。
イリヤの言っていることは、つまり。

「じゃ、つまり……あの聖杯、まだ残ってるって事!?」
「貴女の取った戦法は最善よ、リン……ま、世界が矛盾を矯正するために「取らせた」行動なんだから当たり前か。
 セイバーは私と契約させて貴女はランサーと組む。
 さすがの英雄王だって、二人がかりじゃ流石に負けの目も出てくる。
 鞘無しでセイバーが勝つには、それしかなかったでしょう。
 けれど世界が矯正したのは『あなたがいなくなるまでの』世界。
 つまり、未来のことを考慮に入れていない矯正だった」
「…………」
「記憶を探れば、思い出す……いえ、世界が思い出させるはずよ、リン」

イリヤの言葉を聞くまでもなく、脳裏に黒い光景が浮かんでくる。
薄暗い地下聖堂。そこにあったのは、聖杯の真実。
セイバーは遠い過去をおぼろげに思い出したかのような仕草の後、黒い聖杯を否定した。
凛とセイバーを片付けるように命じた言峰に、彼のサーヴァントの一人・ランサーが反旗を翻す。
自害しろという言峰の令呪。ランサー自身の槍がランサーを貫く瞬間、イリヤがセイバーに令呪を使いそれを阻止させる。
素早く凛と再契約したランサーに舌打ちし、言峰は英雄王にその場を任せて離脱した……イリヤという手土産を持ち出して。
撃ち出される宝具の雨と乖離剣。僅か二分の間に地下聖堂は崩壊し、戦場は地上へと移る。
そして、その後決着がつくまでに所要した時間は五分。
跡形も残していない言峰教会の前に膝を付くランサーとセイバー。それを英雄王が嘲笑い、慢心した瞬間。
凛の令呪が光り、ランサーにその宝具を通常以上の力で以って使わせた。
素早く英雄王は蔵に手をかけ、それに応えた鎖がランサーを束縛する。しかし、因果を逆転する槍は止まらない。
それでも自らの幸運により魔槍を回避した英雄王が見たものは……自らの鎧を斬り砕く『約束された勝利の剣』。
英雄王は最期まで愉悦の笑みを浮かべたまま消え、消耗しきったセイバーとランサーもまた凛に後を任せて消えた。

『大丈夫ですよリン。
 私もこれから、頑張っていきますから』

そう言うセイバーの笑顔が、頭に浮かんでくる。
……そして、言峰は聖杯を起動させて。そこから。

「リンはサクラの力を借りて、コトミネを倒した……圧巻だったわ。
 二人とも凄い息が合ってて、あいつを相手にさえしなかったんだもん。
 けどサクラと二人がかりでも、貴方達は聖杯を破壊できなかった……仕方ないけどね。
 だから、私を助けただけで聖杯は放置された。蓄えられた魔力を使うことなく。
 十年経てば、起こらなかったはずの第六回聖杯戦争が始まるでしょうね。いえ、もっと早いかもしれない」

イリヤの言葉に、私は俯いた。
どこまで私は間抜けなんだろう。
結局、世界だとか抑止力だとかそんな神様じみたモノに後押しされても、私は士郎のように出来なかったんだ。
しばらくして、私はゆっくりとイリヤに背を向けた。

「どうするの、リン?」
「決まってるわ。準備するの。
 きっちり優勝した後、あの聖杯を今度こそぶっ壊す。
 士郎が出来なくなっちゃったことは、私が必ず……」

風に髪をなびかせて、私はそう断言した。
だって、そうするしかない。
聖杯戦争を頑張って勝ち抜いたのはアイツだ。
私に優勝者としての栄誉なんて受け取る資格はない。私が努力して手に入れたものじゃ、ないから。
だけど、返すことなんてできない。返しようがない。
こんな方法でこんな栄誉をアイツから奪ったって、ただ腹立たしいだけなのに。
そもそも、今こうやって桜と話せているのも、私が頑張っているからじゃない。
アイツが死んで矛盾が生じた結果、それこそ棚からボタ餅のようにこんな結果が手に入っただけ。
貰える物は確かに貰う主義だけど。こんな貰い方なんて、しても嬉しくなんかない

だから――貰ったぶん、ちゃんと違うものを私の手で返さないと――

「イリヤはどうするの? なんなら私の家に……」
「……家族は一緒にいるものよ、リン。貴女とサクラが一緒になれたように」

そのか細い、どこか悟ったような声で、やっと私は気付けた。
どうして、今まで気がつかなかったんだろうとさえ思う。
彼女の様子は、まるで死期を悟った動物のようだと。

「私は、長くない。
 だからせめて……家族が過ごしてた家で最期を迎えたいかな……」

イリヤの声は、私じゃなく遠くに向けられていた。
私の喉まで上がってきた声は、言葉にならずに息として漏れる。
もし世界の矛盾矯正のために聖杯の力が使われたと言うなら。
その聖杯の器であるイリヤの体は……もう限界なんだ。

「……っ」

また、失うものが増える。
けれど、私はイリヤに挨拶をして、しっかりと歩き出した。
支えてくれる、人達がいる。支えてくれた、人達がいる。
それなのに立ち止まってしまうのは……きっと彼らに、失礼だ。

「エミヤくん、私ね――」

ちょうど衛宮邸の敷地を出たところで、またひとしきり風が吹いて。
それに釣られるように空を見上げ――彼の名を呼んで、誓いを立てた。


[Battle -The decisive-]


最後の、戦いだった。
闇の書内部空間。薄暗いそこで行われていた戦いは、
衛宮士郎と言峰綺礼の戦い、アルトリアとギルガメッシュの戦いと酷似していた。

紅の鉄騎の動きは、どこまでも機械的。
故に……彼女が撃ち出した鉄の燕には容赦も油断も傲慢もない。
同時に凛が返したのはディバインシューター。まるで贋物のような拙い魔弾は、たった一つさえ撃ち落とせない。
まるで出来損ない。精度が違う。技術は未熟。威力は劣化。魔力は遠く及ばない。

それでも――それでも、膝は折らなかった。

回避し、防ぎ、受け続け。それはいったい何度目の攻防か。
ついに十羽ほどの燕が直撃した。いや、直撃ではない。砕かれたのは夫婦剣。
体勢を崩さえ、吹き飛ばされながら、それでも赤色の防御壁に覆われた凛に傷はない。
それを飲み込もうとするかのように、三十羽にまで増えた鉄の燕が飛翔する。
刹那――燕の目前に比類なく美麗な黄金剣が立ちふさがり、爆発した。
幻想はより強い幻想の前に敗北する。壊れた幻想は燕を一つ残らず砕き、天井までも、空間までも砕きゆく。
凛は破壊の痕を見ない。天井も見ない。
爆破に続いて撃ち出され、地に突き刺さって輝く幻想だけを見た。
素早く駆け寄った凛が鞘から剣を抜き放つ。
逃すまいと、紅の鉄騎の武器が巨大化する。振り下ろされたそれを、鞘が輝きながら阻む。
否、輝くのは鞘だけではない。
魔術刻印に刻まれた「魔法」。その業を以って、凛は聖剣に魔力を集束させる。

黄金剣の名を、カリバーン。失われた騎士王の剣。
鞘の名を、アヴァロン。全て遥か遠き理想郷。
魔法の名を、スターライトブレイカー。星の名を冠する魔法。
聖剣の名を、エクスカリバー。星に鍛え上げられた神造兵器。

まばゆい星の光が、あたりを包み込む。
その光を見てやっと、凛はあの英霊の真名を知ったのだ。



[6 years after -Fate/stay night-]



「あー、肩こった」

腕を回しながら、私はそれなりに立派な感じの建物を後にする。
あれから、私はたまにミッドチルダとの間を往復しながら時計塔を卒業、一人前の魔術師として認められた。
その後は時計塔に自分の研究室を構えながら、たまにミッドチルダで研究者としての仕事をこなしている。
ミッドチルダでは私の世界の資料はそれほどないらしい。まあ、こっちの魔術師の基本は神秘を隠匿することだから当然か。
おかげで、第二魔法と異世界の転移を絡めれば研究することなんて腐るほどあった。
そして今日もまた、ちょっと色々と発表してきたところというわけだ。

「あんまり遅れるとリイン達が文句言うしね……」

風景はもうとっくに夜の闇に染まっている。
あくびをしながら、外で待っているだろう彼女達のところへ歩き出した。
だけど、待っていたのはリイン達だけじゃない。そこに、同業者がいた。

「あら、ユーノじゃない? どうしたの?」
「やあ、凛。たまたま僕も出席したからね。ついでだから一緒に帰ろうと思って」

車の前でリイン達と一緒にいたのは、女の子みたいな顔の美少年。
彼はユーノ・スクライア。無限書庫の司書長だ。
研究者として私の同業者であり、様々な本を貸してくれる協力者であり、私の世界の内容を記した本を売る商売相手でもある。
手を上げて挨拶した私に、横からリインが口を出した。

「遅かったな」
「あ、リイン。待ってた?」
「それなりに。それより凛、周囲の反応はどうだった?」

リインは未だに私をマイスターと呼ばずに凛と呼ぶ。
いつかマイスターと呼ばせてやる、というのが私のささやかな野望だったりする。

「そこそこってとこかしら。
 ま、第二魔法を絡めればなんでもウケるってわけでもないわね、当たり前だけど。
 根本的に違う部分も多いから、結構現実離れしてるところも多いし」
「謙遜するなあ。
 君の発表した理論のおかげで管理局の仕事がすごいスムーズになるって話じゃないか」
「そうなんだけどね……」

とりあえず車に乗りましょ、と告げて私は車の鍵を開けた。
皆が乗り込んだのを確認して、エンジンを掛けて走り出す。
周囲はもう夜。夜景を視界に捉えながら、私はアクセルを踏みつつ会話を続けた。

「あれは第二魔法の理論のほんの一部だけをミッドチルダの魔法に転用したものに過ぎないわ。
 私ができたのはあくまで異世界の管理だけ。まだ並行世界の管理の手前なのよ。
 ミッドチルダの技術じゃ完全に違う世界には行けても、
 この世界ととてもよく似通った、けれど少しだけ違う世界には行くことはできないでしょう?
 そういう点では私の研究はまだまだ終わってないの。大師父が私の前に現れてないのがその証拠。
 ……ま、異世界に行ける時点でじゅうぶん「魔法使い」なんだけどね。
 それより、そっちの研究はどう? 確か、ロストロギアの研究って聞いたけど」
「まずまず、ってとこかな。
 君の教えてくれた宝具って存在は非常に参考になったよ」

ユーノは魔法ではなくそういった古い遺跡とか物の研究をしているらしい。
宝具とかそういったものは、彼にとってそれこそ宝物のようだ。
とある執行者に現存する宝具を見せてもらったときは、彼はそれこそ子供みたいに大喜びだった……いや、子供だけど。
だからなんだろうか。
ここまでやたら学術的な方向だった会話は、急に日常的な方向に変わり始める。

「その時はリインフォースにも手伝ってもらったっけど、まだあの頃は小さくはなかったなぁ」
「そういえばそうねぇ」
「…………」

過去を懐かしむように笑顔で言ったユーノに釣られるようにして、思わず私も笑い出す。
フロントミラーを見れば、後ろでリインが頬を膨らませている。そのサイズは私よりずっと小さい。
そう、リインフォースは最近小さくなった。
まるで妖精みたいなサイズで周囲を飛び回るし、容姿も幼い。無愛想だけど。
その理由は魔力消費を抑えるために普段は体を小さくするようにした、とか。
なんだかんだ言って私を気遣ってくれてるみたいだ。
まあ、当然と言えば当然か。ことあるごとに彼女は、私があんまり情けなくて放っておけないから残ったのだ、とか言うんだから。

「アルフだって魔力消費を抑えるために姿を変えただろう。
 私もそれに倣っただけだ」
「でも、小さいリインとそっくりなのはどうかなぁ……」

むくれたリインに、ユーノは顔を後ろに向けながら言葉を返した。
後部座席にいた女の子は二人。
リインの脇にいるのは、小さくなったリインとそっくりで大きさの女の子。彼女もまた、デバイスだ。
リインフォースは、暴走プログラムと共に失われた魔法を時間と共に少しずつ確実に使えるようになってきた。
それはミッドチルダ式だったりベルカ式だったり守護騎士プログラムだったりバラバラだけど、着実に回復したものは増えてきてる。
けど、修復のめどが立ってないものもまた多い。融合機能もその一つ。
小さいリインことリインフォース・ツヴァイは、それを補うために作り出されたユニゾン・デバイスだ。
逆に言えば初代の方はデバイスとしてはそれほど機能できていないため、実質的には使い魔のような状態だということも意味している。
魔力消費を抑えるようにしたのは、実は本人がそれを気にしているからだったりする。

「私からすれば双子みたいで嬉しいのですよ~、お姉さま」
「お、お姉さまと言うのはやめろと言っただろう!」
「じゃあお姉ちゃん」
「なぜそうなる!?」

車の後部座席から聞こえてくるほほえましい言い争いに、思わず私もユーノも笑っていた。
二人はほとんど同じ容姿なのに性格はぜんぜん違う。
初代リインの方はぶっきらぼうなのに、リインⅡはとても素直で可愛らしい。
……まあ、感情が豊かなのはどっちも同じだ。
その証拠に、初代の方は言葉とは裏腹に頬を真っ赤に染めている始末。
そもそもⅡは妹みたいな感じで作って欲しい、なんてことを言い出したのは初代本人だったし。
私が笑っているのに気付いたのか、初代リインは私の方に矛先を向けた。

「よそ見するな、こちらを見るな! 運転中に危険だ!」
「いやあ、僕だったら運転しててもこんな光景は見逃さないよ」
「あ、やっぱりユーノもそう思う?」
「……ぐ」
「お姉ちゃん、落ち込んじゃ駄目なのですよ。そんなお姉さまもかわいいです」
「……せめて統一してくれ」
「ほんとちびリインには弱いわよね~、リインって」
「…………」

あくまめ、などと初代リインが呟いた……その瞬間だった。
突如爆音が響き、炎が舞い上がる。
思わず反応して振り向いた先にあったのは、真っ赤に炎上している空港だ。
そして鳴り響く警報と、何かの魔力反応。そして慌てて飛んでくる管理局員。
私はすぐに事態を把握した。すぐに車を停止させて、外に出る。

「ちびリイン、貴女は皆を呼んで。そっちの指揮は貴女に任せる。
 リインは単独で行動、現場の隊長の許可を取った後消火に務めて頂戴。私は中の要救助者を救出するから!」
「はいです、凛ちゃん!」
「了解した!」

命令を出しながら、素早く私は赤い宝石を取り出してバリアジャケットを纏った。
同時にリインが本来の姿……私と同じくらいの女性の姿に戻る。
二人が飛び立ったのに遅れて私も行こうとした矢先。
ユーノの声が、私を止めた。

「二人に任せて君は休んだほうがいい。さっき色々と仕事してきたばっかりじゃないか」
「これでも管理局の予備役やってるのよ、私。行かないわけにはいかないでしょう」
「……よく体が持つなあ」
「だからリインやヴォルケンリッターがいるのよ。冬木の管理は桜に任せてるしね」
「でも、君は並行世界の管理って魔法を目指してるんだろ?
 予備役は関係無いと思うんだけど……」

思わず、立ち止まる。
ユーノの言葉はもっともだろう。
二兎を追うものは一兎をも得ず。遠坂家の宿願は、寄り道をしながら得られるほど容易くはない。
……けれど。それでも、私はもう一つの方も追い求めたいんだ。
父さんから受け継いだものと同じくらい、大切なものだから。

「本当の目的はね。
 けど、死んじゃった人達から、モノを色々と貰うはめになっちゃったから」

それは、その人が頑張った結果とか。
その子が大切にしていた杖とか。
彼らが頑張って作り出した、魔法とか。

「……ムカつくのよ、そういうの。等価交換じゃないもの。
 そんな理不尽な貰い方して貰ったモノの分は、ちゃんと返さないと。
 だから……望んでいた夢も、叶えてやってもいいって思った」

自分の――遠坂家の宿願を捨てたわけじゃない。
けれど彼が求めた夢も彼女が持っていた意志も、魔法使いになるのと同じくらいに簡単に手に入るものじゃない。
それは自分の力を人を守るために使うという、強い心だったり。
――正義の味方という、夢物語だったり。

「それに、もうしばらくすれば私の街が大変なことになるから。
 次の聖杯戦争に備えて間桐の蟲爺が何かやってるみたいだし、
 桜がふわふわ浮いてる変な機械を見かけたって言ってたし。
 それまでにできるだけ実力を付けておかないと、アイツを召還した時に笑われちゃう」

あの中で気付いたのだ。聖杯戦争で私の呼べる英霊は一人しかないことに。
遠坂凛が呼ぶのは、あの赤い英霊以外に在り得ない。だって、あいつはアイツだから。
だから、今度はミスをしないでしっかりと呼んでやる。そうして……伝えたい。
ユーノは以前私から聖杯戦争について聞いているからか、私の言葉に疑問を挟む事はしなかった。
代わりに。いつの間にか、スーツからバリアジャケットに着替えていた。

「ユーノ?」
「僕も手伝うよ。
 これでもヴィータから逃げ切れた身だからね、戦力にはなれると思う。
 僕の役割は背中を守ることだって、なのはと一緒にいて分かったからね」
「……うん、頼むわ。ちびリイン達の援護、お願い」

二人の後を追うようにユーノが飛んでいくのと、。私が愛用のデバイスに魔力を逃しこんだのは、ほぼ同時。
すぐに、赤い宝石は桜色の魔杖に形を変えた。
黄金に光る先端が、周囲に煌く星の光を反射する。

「久しぶりの実戦、いけるわよね?」
『All right, my second master』
「よし――飛ばすわよ!!!」

愛杖の答えに笑みを浮かべて、私は夜空へと飛び立った。
空港で起こった事件を、解決するために。
これから私の知りうる範囲で起こっていく事件を――解決していくために。


いくら手を伸ばしても、掴めないものはある。
……それでも、届かなくても胸に残るものがある。
同じ時間にいて、同じものを見上げた。だからこそ、覚えているものがある。
今は走り続けようと思う。一人じゃなくて、みんなと一緒に。
そうすれば、彼らが目指していたものも、きっと――



[an epilogue -Starlight-]



これは、世界のほんの片隅のお話。
人間が短い生の間に紡いだ、星から見れば塵のようなお話。

――Withstood pain to create weapons. waiting for one's arrival.

数人が欠けたところで、世界には何の矛盾も起こらない。
正義の味方も魔術師も、星の少女も消えはしない。ただ一人の少女が兼任することになっただけ。
だから世界にとって、それはただその程度のお話だったけれど。

――I have no regrets.This is the only path.

少女にとっては、とても、冷たくて、大きくて――忘れても変えてもいけない、お話で。

―――My whole life was “unlimited blade works”.

だからその体はきっと……無限の思いを継いでいた。



Fin

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298:GAMEOVER(5) 遠坂凛




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