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 先の戦争で虚無の使い手であることが判明したルイズ、その使い魔にしてガンダールヴの印を有するサイト。
 彼女達が同時に失踪したことは、大きな事件として国中を騒がせた。
 元々盤石の体勢とは言えないトリステイン王国。内憂外患のこの情勢において絶対的な信頼を置けるルイズを失ったのは、女王アンリエッタにとっては致命的とも言える痛手であった。
 現体制を崩壊させることを目的として、まずは外堀を埋める。先の戦争でこの国に勝利をもたらしたルイズを拉致――あるいは、あまり考えたくはないが殺害――することは、そのための策として極めて有効だと言わざるを得ない。
 軍を始めとした反女王派、あるいはレコン・キスタの残党。悲しいかな心当たりはいくらでもある。
 一縷の望みを託し、数少ない信頼できる部下を使って彼女達の行方を捜させてはいるものの、その行方はようとして知れなかった。彼女の学友の一部も独自に捜索を行っているようだが、こちらも成果は上がっていないらしい。

 そのような窮状の中で、それは唐突に出現した。

 巨大な化け物。
 アルビオンの軍艦よりも大きい。トリステインの王城よりも大きい。それほどの巨大さを誇る真っ黒な化け物が、王国領土の僻地に現れた。
 そして、現れただけでは済まなかった。
 それは移動を開始したのだ。ゆっくりと、だが確実に。森だろうが、集落だろうが、街だろうが、通り道にあるものを全てを押し潰し、飲み込んで。
 行き着く先は王都トリスタニア。
 そこまで侵攻を許せば、文字通りこの国は瓦解することになる。
 他国の救援、あるいは共同作戦も期待できない。それどころか、これが他国による策謀である可能性も捨てきれない。あまりに出来過ぎたタイミングなのだ。今のところはどの国も関与を否定しているが。
 取り返しの付かない事態に陥る前に大規模な討伐隊が組まれたのも、その討伐隊の指揮を女王であるアンリエッタ自身が執ることになったのも、必然のことだった。
 先の戦争と同じように女王自らが先陣に立つことで、兵達を鼓舞すると同時に軍への牽制を行える。もっとも、それはアンリエッタにとっては建前だ。苦しむ民を置いて安穏としていられるはずがなかった。
 だが、あの時とは明らかに違う点が一つ。
 ルイズが側にいない――その不安はどうしても拭えなかった。僅かでも表に出すつもりはなかったが。

「左翼、退きつつ敵の注意を引きつけてください! 正面と右翼はその隙に近付いて、少しでも敵に攻撃を!」

 ルイズ達が帰ってくる場所――このトリステイン王国を守らねばならない。今それができるのは自分だけだ。目前の化け物を見据え、アンリエッタは決意を新たにする。
 作戦は順調に進んでいた。
 圧倒的な質量を有する化け物だが、故に動きは鈍重。一方から攪乱し、他方から攻撃を加える――小高い丘の上から全体の布陣を確認しながら、それを徹底させている。
 深追いして飲み込まれさえしなければ、被害を出さずに攻撃を続けられる。まるで山のような化け物でも、いつかは倒せる。

 はず、だった。

「女王陛下! あれは!?」

 それを発見した部下の一人が声を上げる。彼が指し示す方向には、左翼の主力――グリフォン隊の姿。敵から十分に距離を取り、牽制に徹していたはずの。それが何かに貫かれ、絡め取られ、そして墜ちていく。
 黒い槍のような。
 あるいは黒い鞭のような。
 化け物の巨体から、幾多もの触手が伸びていた。
 認識が甘かった。化け物自体は素早い身動きが取れなくとも、このような攻撃手段を有していたのだ。触手の動きは速く、しかも数も多い。単に多いだけでなく、次第に数を増している。手の付けようがない。
 触手は地上の部隊にも襲いかかっているようだった。

「全軍を下がらせてください! それを確認次第、我々も――」

 それもまた、認識の甘さだった。本陣は既に敵の攻撃範囲内にあった。アンリエッタが本陣を敷いていた丘にも無数の触手が突き刺さる。
 彼女の意識は、そこで一瞬途絶えた。

「うぅ……」

 直撃していれば間違いなく命は無かった。即死こそ避けられたが、触手の攻撃によって丘が崩れてしまったようだ。周辺に味方の姿は確認できない。自分と同じように崩落に巻き込まれ、散り散りになったのだろう。
 恐らくは、各隊も迫り来る触手に対処することで手一杯のはずだ。ここには自分と――そして自分を狙う化け物の触手しかない。
 足を挫いてしまったようで、立ち上がることすらも叶わない。

(神よ、あなたは我々を見捨てられるのですか?)

 どのような恨み言も全く意味を為さない。王国があの化け物に蹂躙されようとも、それがハルケギニア全体に及ぼうとも、何もすることはできない。
 だが、アンリエッタの絶望は唐突に払われた。

   ――疾風なりし天神、今導きの下打ち掛かれ――

 天から響く声。
 アンリエッタの瞳が、遙か上空で巨大な杖を振るう何者かの姿を捉える。
 その周囲を浮遊する光球から、数え切れないほどの雷が射出される。それは化け物から伸びる触手を片っ端から撃ち抜き、焼き尽くした。なおも勢いは留まらず、幾筋もの光が化け物の身体に突き刺さる。
 化け物の奇怪な叫び声が、大気を震わした。
 アルビオンの軍艦を撃ち落としたルイズの虚無の魔法。それと同等の、あるいはそれ以上に強力な魔法だ。そうそう見られるものではない。

 空に浮かんでいた何者かが、自分の下と降りてくる。倒れる自分の前に跪くその少女を見て、思わずアンリエッタは呟いていた。

「――ルイズ?」
「あなたが、トリステイン王国のアンリエッタ女王陛下?」

 ようやっと、アンリエッタは彼女がルイズではないことに気付く。
 状況の劇的な変化に追い付けず、ただただ頷くことしかできない。

「転送が安定しなくて、大分遅れてしまいました。間に合わずに多くの犠牲を出させてしまってごめんなさい……でも、あなたが無事で本当によかった」

 何故、彼女をルイズと見間違えたのだろうか。改めて少女を見やると、年の頃こそほぼ同じといえど、その姿はルイズとは似ても似付かなかった。
 長い金髪を、三つ編みのお下げにして右側に垂らしている。その先には白いリボン。
 金属製の巨大な杖――杖というよりは武器にも見えるが、これを用いて魔法を放った以上はやはり杖なのだろう。黒い服に、黒いマント。強いて言えば、この黒いマントが魔法学院で標準的に着用されるそれを彷彿とさせたのかもしれない。

「あれは、ジュエルシードという宝石から生み出された極めて強力な魔法生物です。闇の書の影響も色濃く残っています。決してこの世界に存在してはならないロストロギア――あれを討つために、私はここにやってきました」

 少女の言葉には知らない単語が多く含まれ、アンリエッタにはその意味するところを理解できなかった。
 こちらの反応を待たず、彼女は首を振る。

「……ううん、本当はそれだけではないんです。あなたに伝えなければならないことがあります。でも、まずはあれを」

 少女は立ち上がった。未だ奇声を上げながら悶える化け物に向き直り、臆することなく対峙する。
 彼女は一人で、あの巨大な化け物と戦うつもりなのだろうか。
 普通に考えれば正気の沙汰ではない。
 だが、不思議と不安はなくなっていた。きっと彼女なら大丈夫なのだ。それが根拠のないただの勘なのか、神のお告げなのかは分からないが。

 アンリエッタは少女に問い掛ける。

「あなたの、お名前は?」

 少女は答えた。揺るぎない意志を伴って。

「私は――フェイト。フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」



   【ゼロの使い魔~閃光の魔導師~ To be continued...】

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307:私は笑顔でいます、元気です フェイト・T・ハラオウン








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