温泉イズマイン


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「歯歯歯歯歯稲稲稲稲稲♪」

俺たち三人は夜闇の中、広い道の上をゆっくり慎重に歩いていた。
クソでかいお下げの女はさっきからずっと意味不明な歌を歌っているし(聞いてみたら、「ハイセンスナンセンス」という歌らしい)、眼鏡の男はまるで人形のように沈黙したまま口を全く開こうとしない。
ただでさえ気がめいりそうな状況かつロケーションだというのにますます気がめいりそうな連中だったが、どうせ話を振ったところでまともな会話にならないのはわかっているので俺も口は開かない。
ちなみに女のほうは名前を初音ミクというらしい。男のほうはなぜか自分の名前を名乗ろうとしないので、俺とミクは仕方なく「A」と呼んでいる。

さて、俺達が向かっているのは地図で言えば北側、この島の北西端近くにある「村」と書かれたエリアである。
人集めをするにはまず人が多くいそうな場所に行くのが得策だろう。
地図の南部にはもっと広い市街地があり沢山の施設が設けられているらしいが、やや遠いのが難点だ。
そこで、俺達はまずは近くにある村へと脚を運んでみることにした。
温泉もあるようだが、ゆっくり浸かっている時間などは無いだろう。

「アブストラクトファクトリ」
今まで黙って俺の後ろを付いてくるばかりだったAが不意に囁くように言った。
「仮に物事が滑らかに進み、物資と人員が十全に揃ったとして、Mr.JAVAを初めとする企画集団をどのように打倒するか、明確な想定があるのか?」
「正直、俺もそこまで詳しくは考えてねえ。奴らのテクノロジーがどれほどのものかわからないし、具体的な行動は手探りでやっていくしかないだろう」
「4+5iで同意」
「ただ、状況によっては俺の能力が役に立つはずだ。敵がどんなシステムを使っているかにもよるんだが……」
丁度その時、最後尾を歌いながら歩いていたミクが声をあげた。
「111010111010101!!」
彼女の指差した方向を見ると、闇の中に一軒の低い建物と、その前に立つ「JAVA温泉」という看板が見えた。


「いいですかみなさん。湯船にタオルを入れてはいけませんよ」
「「はーい」」
「それと、湯船に入る前にはかけ湯をすること」
「「はーい」」
「あと、体を洗うときは……」
「ってちょっと待てやコラアアアアアアアア!!」

俺は手にしていた洗面器を床に投げつけた。
「なんでこんな時に正しい温泉の入り方のレクチャーを受けなきゃいけねえんだよ!!」
ミクが温泉に立ち寄りたいと言った時には正直あまり賛成したくは無かったが、少し休息するとか温泉で情報を探すとかならいいかと思った。
だがのんびり湯船に浸かるなど言語道断だ。
俺は手に腰を当てて仁王立ちで俺とAに高説を垂れているミクに指を突きつけて言った。
「大体、なんでお前普通に喋ってんだよ!!」
「あぶさん、早くお風呂に入りたいからってイライラしてはいけませんよ」
「早く入りたいわけじゃねえよ!! 勝手に人の名前を野球漫画のタイトルみたいに略すな!!
大体俺達の目的が何なのかわかってるのか!? こんなところで油を売ってる暇なんかない、そうだろ?」
「……110101001110101000110101」
「自分の都合が悪くなったからって二進数語法に戻るな!!」

ミクは俺の非難などどこ吹くかぜで、黄色いアヒルの人形を頭に載せたりして完全に温泉モードを整えている。
「アブ」
Aが俺の肩に手を置いた。
「ここは彼女の希望に適合する行動を取るのが最良」
「A……でも、こうしている間にも罪も無い人が命を落としているかもしれねえ。俺は……」
「情報が圧倒的に不足している状況下で、闇雲に動くのは時間の浪費だし危険も伴う」
Aは相変わらず表情の読めない顔で、しかし俺を宥めるような声で言った。

「それよりもここが『温泉』であることが重要。この殺し合いに巻き込まれた人の中には弱者も多い筈。
自分の身を防御する術を持たない人や元々精神的に脆弱な人はこのような状況下では現実逃避に走り易い。
つまり、逃避の場を求めてここに集まってくる可能性は少ないとは言えない」

「た……確かに一理あるな」
やはりこいつは頭が回る。そういう言い方をされれば、俺も納得せざるを得ないというものだ。
「つまり、温泉に浸かりながら人が集まってくるのを待つ、というわけか」
「そう」
その時、こほん、という咳払いが聞こえた。
「よくわかりましたねAさん。そう、私も最初からそれが狙いだったんです」
「うるさいよ」


その後、男湯と女湯に別れて入ろうとしたらミクが強硬に反対し始めた。
「日本人なら混浴じゃないですかぁ!!」
黄色いアヒルを頭に乗せて熱く訴えるミク。
「だから、なんなんだよそのキャラは」
大体人間でもない奴に日本人の伝統がどうとか言われたくない(俺もだけど)。
結局、ミクの熱意に加えてあまりバラバラになるのもマズイということでみんな一緒に男湯の露天風呂に入ることになった。
さらにその後、俺達の前で素っ裸になろうとしたミクを全力で止めて水着を着せようとしたが(ミクの支給品の中にあったのだ)、「銭湯で水着を着るのは邪道!!」と主張するミクとの間でさらにドタバタがあったのだが、それはまた別の話である。


さて、バスタオルを体に巻き、片手にスポンジ入りの洗面器、もう片手に黄色いアヒル、頭の上にはシャンプーハットといういで立ちのミクを当然ながら先頭にして外に続くドアを開けた。
「01101011010101」
開口一番、ミクが言った。
「誰かが先に入っている、と彼女は言っている」
「本当か?」
脱衣所には他の人たちの服は置いてなかったので、俺達が一番乗りだと踏んでいたのだ。
俺とAもミクの後ろから露天風呂の中を覗く。

いた。湯船の中に「それ」は立っていた。
自分も人間じゃないのに「それ」なんて失礼な言い方だが、なんつーかあれは……とりあえず人間じゃあないだろう。
右半身と左半身が別々の色をしている上、全裸とも全身タイツとも言いがたい格好をしている。
頭にはヘッドホンらしきものをつけているが、風呂場でそんなものをつけてどうするんだろうか。
「00101000110101010111000011010101010101」
ミクが湯船に近寄って男に話しかける。
男は俺達の姿を認めると
「ハイハイハイ、ハッハーイっほっほっほっほ」
と言いながら変なダンスを踊った。
ぽかんとする俺にAがぽつりと言った。
「温泉はあったかくて気持ちがいいです、らしい」
「通訳ありがとうよ」
ひょっとしたら、この場にはまともに喋れる奴のほうが少ないのかもしれない。
ミクはというと
「ちょっとー、湯船の中で踊らないでよ!! 他の人の迷惑になるでしょ!!」
などとズレたことを普通に言っていた。それに対して
「ハイハイハイ、ハッハーイっほっほっほっほ」
と言いながら再び踊る謎の男。
「自分はこうしないと喋れないんです、と言っている」
「ホントかよ……」
この島で三人目に出会った奴は、意思疎通という点では一番苦労しそうだった。

俺たち四人は一緒に湯船に浸かって自己紹介をした。
先にいた男の名前はウラオモテ人というらしい。
突然殺し合いなんかに巻き込まれ、途方に暮れていたところ偶然温泉を見つけて、しばらくここに隠れていようと思い入浴していたらしい。
Aの言った通りだったわけだ。脱衣所に人のいる気配が無かったのも当然で、彼は服は普段から着ないし荷物も露天風呂まで持ってきていた。
彼に俺たちの「みんなで力を合わせて首謀者たちを倒す」という計画を聞かせると無謀だと言って反対したが、俺たちと行動を共にすることには承知した。

「まっ、彼女はすでに人を殺してますけどね☆」
「ちょっ……なんで言っ……」
「お前らそれ俺にも言ってたけど持ちネタなのか?」
思いっきり胡散臭そうな顔をするウラオモテ人。無理も無い。
(ん?)
風呂の周りに目を巡らせると、ウラオモテ人のもの以外にもう一つバッグがあるのを見つけた。
誰か他にもここにいるのか?
そう思った俺の視界に飛び込んできたのは、風呂の脇で気持ちよさそうに眠る……

「……ハムスター?」

思わず手を伸ばしてその体を抱き上げた。掌の中にすっぽり納まるような小さなハムスターだ。
「野生のハムスターは極めて希少種。このような場所に生息しているとも思えないので、恐らくはこれも殺し合いの参加者か、いずれの参加者かの支給品の一部」
「0001011101010101101010101101101110101001010100」
「ハッハーイっほっほっほっほ」
「ウラオモテ人、悪いがあんたは極力会話に混ざらないでくれ」
それにしても呆れるほどすやすやと眠り込んでいる。こいつもこの場においては「弱者」なのは変わりは無い。
と、俺たちが騒がしかったせいか、俺の手の中のハムスターはゆっくりと瞼を開け、むっくりと起き上がった。
そして自分を持っている俺と、一緒に風呂に入っているウラオモテ人とAの顔を見た。そして最後にミクの顔を見た。
その瞬間、そのハムスターは何か恐ろしいものを見たような顔をして飛び上がった。
そして慌てて逃げようとしたのか、俺の手の上から飛び降りた。
「あっ―――!!」
当然下は温泉である。ハムスターの体は水音と共に湯船の底に沈んでいった。
慌てて探して引き上げたが、すでに事切れていた。
「溺死か、温泉の熱による死か。いずれにしても致し方なかった」
「ハッハーイっほっほっほっほ」
Aとウラオモテ人はそう言って慰めてくれるが、俺は酷く後悔していた。
小動物一匹とはいえ、目の前で死なせてしまった。
だが、なんでこいつは急にパニックみたいな状態になって……
いぶかしみながら、なぜか先ほどから大人しいミクを見た。見るとその顔が微かに青ざめていた。
「……どうしたんだミク? なんか様子がおかしいぞ」
ミクはびくっと肩を震わせたが、おそるおそるという感じでゆっくり口を開いた。
「実は……」
「どうしたんだ? 言ってみろ」
「温泉のお湯で体が錆びて動けない……」
「アホかああああ!! 率先して温泉に入りたいっつったのお前だろ!!」
「早く油差さないとマズイかも……」
「じゃあ悠長に浸かってないでさっさと出ろ!!」
「でもアヒルちゃんがいなくなった……」
「知るか!!」
「110101101000101011010101010101010」
「なにようるさいわねえこの冷血男、と言っている」
Aが丁寧に翻訳してくれた。
「何俺への悪口だけ二進数語法で喋ってんだてめえは!!」
「ちょっ……なんで言っ……」


その後、俺たちは動けないミクを温泉から引っ張り出してコインランドリーの乾燥機に放り込んで乾かし、キッチンにあった食用油を関節などに差してその可動性を取り戻したのだが、それはまた別の話である。
また、俺たちが風呂に入っている間に誰かによってミクの服が盗まれていたんだが、別にどうでもいいよね。



【ねてる君@とっとこハム太郎  死亡確認】

【B-2 温泉/一日目・深夜】

【アブストラクトファクトリ@Java言語で学ぶデザインパターン入門】
【状態】健康
【装備】なし
【持ち物】ディパック(基本支給品一式、不明ランダム支給品1~3)、ねてるくんの分のディパック(基本支給品一式、不明ランダム支給品1~3)

【思考】

1:なんか疲れた……。
2:主催者の打倒に向けて行動する。

【プレイヤーA@13歳のハローワーク】
【状態】健康
【装備】なし
【持ち物】ディパック(基本支給品一式、不明ランダム支給品1~3)、

【思考】
1:殺し合いを打倒するという選択が有利なのは明らか。

【初音ミク@13歳のハローワーク】
【状態】健康 バスタオル一枚
【装備】血のついたバールのようなもの@現実
【持ち物】ディパック(基本支給品一式、ビキニの水着、不明ランダム支給品1~3)、

【思考】

1:0101000111010100101
2:010011110101010110101010101010
3:1001

【ウラオモテ人@リズム天国ゴールド】
【状態】健康
【装備】なし
【持物】基本支給品、不明支給品0~3
【思考・行動】
基本:ハイハイハイ、ハッハーイっほっほっほっほ

※ねてるくんがなぜパニック状態になったのかは不明です
※ミクの服を誰が盗んだのかは不明です

13:暗い暗い思い出の淵 時系列順 15:あたし盗賊
13:暗い暗い思い出の淵 投下順 15:あたし盗賊
05:ただそれだけのために アブストラクトファクトリ [[]]
05:ただそれだけのために プレイヤーA [[]]
05:ただそれだけのために 初音ミク [[]]
GAME START ウラオモテ人 [[]]
01:オープニング ねてるくん GAME OVER