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働き蟻 - (2010/08/17 (火) 18:19:04) のソース

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 わたしの過去の話なんです。今、自分の罪をここであらわすことにします。
 あれは、わたしが幼稚園にいたころでした。母親がなくなってからほんの数日後のことでした。
 今はなき父親が若いじょせいの死体を我が家にかついできたんです。
 当初のわたしには死体というのがよくわかっていませんでした。母親の死体すらみせられるものじゃなかったといわれ、みたことがなかったのです。
 葬式には参加したことはあったのですが、はじめて死体をみたのは父のかついでいた死体をみるのがはじめてでした。
 虫などを殺したことのないわたしは「このひとはだぁれ」などと、息をしていないことにすらきずいてないのでした。
 「このひとはしんじゃったんだよ」と父が泣きながらいってきたのは今でもおぼえています。今おもえば、なぜにないていたのでしょうか。えっ、ああ、この紙にかいてありますね。はい、きっとこの道理なんでしょう。
 はなしがそれてしまいましたね。
 父は泣きながら「かのじょをどうすればいいだろう」と困った顔でこちらに問いかけてきたんです。わたしはひとにたいしておせっかいをする癖がありました。こういう困った顔をしたひとをみるとどうしようもない気持ちになってしまうんです。いまもそうなんです。わるいくせですよね。だれにあやまればいいのでしょうか。
 おせっかいなわたしはおもいました。男の子たちがやすみじかんにありとかくとうしていたさいに「ありはつよいんだぞ、きっとぞうなんかもたべちゃうんだ」といったはつげんをしていたんです。だから「ありに食べてもらおうよ」なんて、無責任なことをいったんです。ありがぞうをたべるのかどうかもわからないのに、人間をたべるのかどうか、ほんとうに無責任ですよね。過去の自分をせめるのはなぜかですって?そうすることで過去のじぶんに責任がいくようなきがするんです。責任はたにんにあたえるのがかんたんですからね。
 わたしが「ありに食べてもらおうよ」といったときにはゆうがたでした。あのひは父親のかえりがみょうにはやかったんです。ゆうがただったから、すぐに家を父親といっしょに家をでてありをつかえにいったんです。父親はみょうにいそいでいましたね。いそだしい父親をはじめてみたようなきがしました。
 父親はいつも、のんびりとしていた人なんです。「なんとかなるだろう」なんてむせきにんなことをいっていたんです。むせきにんなところは父親からのゆずりなのかもしれませんね。
 またはなしがそれてしまいましたね。すみません。えっ、いいんですか?いえいえ、わたしがはにおちませんからいいんです。自己満足ってたいせつなんですよ?むだなところはたしかにひつようかもしれませんけど、このことにかんしてはじぶんのすきなようにさせてください。
 はなしをもどしますね。
 ゆうがたにわたしとちちおやはおみせにいったんです。どんなおみせだったかはおぼえていないんですけ、すみません。おさないころのきおくなんであんまりおぼえてないんです。
 おみせにいって、おおきいだんぼーるをかったんです。あのときのちちおやのあせりっぷりが、なにかいやなよかんをわたしにつたえました。
 えっ、ああわかりました。てーぷがですか。なんかしゅざいっぽくていいですね。
 みずのんできます。

※

 そういえば、このインタビューはどこに掲載されるんですか?ああ、そうですか。いえいえ、反応がうすいのはその雑誌をしらないからです。こんどみかけたら買って読んでみますね。
 えーっと、どこまで話ましたっけ。お店にいったところですね。はい、わかりました。記憶はそんないよくないんです、わたし。
 プラスチックの大きい箱をを購入したわたしと父は家にかえりました。たしか移動は車でしたね。車のなかでも父親はあせっていました。女性を家に残していったのが不安だったんでしょうね。
 父親はむかしから寡黙な人でした。どんな人なのかもわからなかったわたしは父親がこんなにもあせっている父親がいるのかをおもいまいした。感情があるのかどうかもわからないような人でしたからね。最近はみていませんね。
 話をもどしますね。
 家についたころにはもう真っ暗でいした。夏だったのに日が落ちるのがはやかったんです。何時だったかはおぼえてませんね。まだ時間がわからないようなころでしたからね。
 家についてから蟻をつかまえにいくことにしました。子供って残酷ですよね、蟻はなんにも悪いことしてないのにつかまえられたり殺されたりするんですよ。子供が世界で一番残酷なのかもれませんね。けど、大人も十分残酷ですよね。おたがいに怨みあったり、罪のない木や魚を殺すんですよ。かって住んでおいて自分勝手すぎですよね。ああ、すみません。話がそれてしまいますね。まるまるカットしてくださいね。
 蟻をつかまえることになったところまでいったんですね。続きを話ます。
 蟻をつかまえるのに、場所はすぐ隣の公園にしたんです。当時の自分は団地にすんでいたんです。砂場はもう使えないような状態にまでボロボロな団地でした。砂場に蟻地獄がいましたからね。
 団地の公園で蟻を捕まえるのはよかったんですけど、袋をもってくるのを忘れて、二回も蟻を回収することになったんです。大変でしたね。
 そういえば、大変って言葉って便利ですよね。いえ、べつに意味はありません。
 袋につめた蟻を父親とわたしはプラスチックの箱にいれたんです。そしてら、父の捕まえた蟻と私のつかまえた蟻は種類がちがかったらしくて、二種類がケンカをはしめたんです。死体ですか?たしかゴミ袋にいれたまんまでしたね。わたしの地域だけかもしれませんけど、当初のゴミ袋の色は黄色でしたからね。たしかカラスにあさられないように、とかそんな理由で黄色になったんですよ。まぁ数ヶ月でカラスがゴミ袋あさりましたけどね。あの生き物は頭がいいんですよね。カラスが死体をつつくなんてことはさすがにありませんでしたけどね。
 アリをあつめているうちに気がついたんですけど、わたしと父があつめていたアリは二種類でした。片方のアリは赤、もう片方は黒。ありのもおっきいのとちいさいのがいたんです。
 赤いアリのほうを父親がつかまえていたために赤アリのほうがたくさんとれたんですけど、赤ありのほうが弱かったもので、どんなに捕まえてもわたしのつかまえた少数の黒アリにころされちゃっていたんです。そのことに気がついたことはすでに夕食時で、あたりは真っ暗でした。父親をふたりでだれもいない公園にてアリをつかまえているなんて、今かんがえればそんなことかんがえられないですよね。そんなことないって、お世辞にもなってないです、そんな。わたしが恥ずかしいじゃないですか。
 えっ、父ですか?今はなにしているんでしょうかね。わたしにもわからないんです。どっかでのたれしんでいたりしたらおもいっきり鼻でわらってやりたいですね。はい。そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか。全部嘘ですから気にはしないでください。
 どこまではなしましたっけ?ああ、夜のところですね。
 アリを統一しようっていって一緒に黒アリをつかまえることしにしたんです。そうすることによってありの数はいっきに増えましたね。袋の中はありだらけでとても気持ちが悪かったです。今でもおぼぺてるもんなんですね、今でも鮮明にそのときの画像がでてきます。あとで絵でもかいてみせましょうか?ええ、遠慮しない人間なんて人間じゃないような質問でしたね、すみません。
 ええっと、たしかそのあとに女性の死体をばらばらにしたんです。腕は腕でかためてひとつの箱にいれて、足は足、みたいなかんぜで。頭だけどこにいれようかちょっと迷ったりとかしてましたね。たぶん、足2本で一個の箱、腕2本で一個、胴体で一個、頭で一個だったとおもいます。すみません、ヒトが切られるのなんてみなれたものだったのに、このときはだめだったんです。ええ。
 えっ、、もうそんな時間ですか?それじゃあ今日はここまでですね
 次は明日ですか?いいですけど、そんなにいそがなくてもいいんじゃないんですか。いえ、べつにわたしはいそがしくもなんともないんですけど。 

※

 『続いてのニュースです。
  今日、魔肩市在住の有川堅時(二八歳)が死亡しました。
 有川さんは昨夜、インタビューの仕事をした後に家に帰宅後、死亡したとおもわれます。
 しかし、有川さんの死因は不明。
 体中に穴ができており、中から黒く、ちいさい生き物がでてきた、とのことです。
 また、発見者の隣の住人(一六歳)いわく、ゴキブリやハエなどの害虫が群がっていたとのことです。
 今後、詳細がわかりしだいまたおつたえします』


 ヒトの命なんて軽いもんだ。
 なのになんで報道するんだろう。
 朝、珈琲をすすりながらわたしたちは思う。

 人間はなんておろかなんだ。
 心から笑えてくる。
 自分の足モトに、自分たちがいる。
 ぞろぞろと、今日もえさをさがして、うごしている。

 それは黒くて、ちいさい生き物でした。