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生贄のノート」(2012/05/03 (木) 20:42:33) の最新版変更点

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&bold(){ぼくは人を恨んだことがない。} &bold(){恨んだことがないとは言わない。対象が違うだけであって、ぼくだって恨んだことはある。だけどそれは人間ではない、ただの「モノ」でしかないものしか、恨んだことがないのだ。たとえどんなことをされても、人間を恨むということはない。たとえいじめの対象がぼくであっても。しかたがないことなのだから、ああだおうだいってもなんとかなる、というレベルではないはなしなのだ。} &bold(){ぼくは教室という檻の中で、終わりのない公開処刑を受け続けている。毎日毎日、自ら檻の中へと入っては心と精神をずたぼろにしてきた。ありきたりな「死ね」という言葉。消えろとか、うざいだとか、いっつもおんなじのありきたりな言葉たち。} &bold(){けどわかるんだ。その言葉が空っぽなこと。本当は愛情や応援、親しみに満ち溢れているってこと。人間の「団体」には必ず一人、生贄が必要なんだ。仲間はずれっていう名前の生贄が。} &bold(){ぼくはその生贄となった。みんながなりたくない生贄。だからみんな、ぼくにがんばってほしいと感謝してくれている。} &bold(){ぼくはただ運が悪かっただけなんだ。みんなとおんなじように生まれて育ってきたのに、こんな生き方をしているのに理由はない。だってみんなが「きもい」ってぼくのこというけど、ぼくの顔を鏡に映しても別に不細工じゃない。むしろ平均よりも上なぐらい。人の顔に平均なんてもの自体存在していないから、こういういいかたってのもどうかとおもうけどね。じぶんでいっておいてあれだけど。} &bold(){ぼくにできることは嫌われること。ぼくにだけある才能。みんなにはない、ぼくにしかないアイデンティティ。嫌われることはぼくのアイデンティティ。} &bold(){人間に死ぬ資格がないのとおなじように、「ぼく」というモノにも死ぬ資格がない。だってぼくがいなくなったら、ぼく以外の人が生贄になっちゃうんだもの。それに、そんなことをしたらぼくの存在価値・存在理由がなくなるから。}                                ' 雨が降っていた。 空は今にも落ちてきそうなほどの鉛色をしている。いや、実際にもう落ちているのかもしれない。だって、雨というものがすでにそれを表しているではないか。 ……自分でも驚くほど気持ち悪いことを思った。なんだよ空がふるって。きもいきもいきもい……。どこのサマセット・モームだよ。 つい最近までおもしろかった情報の授業が驚くほど退屈になった。というのも新学期が始まってしまったからだ。いつもは情報室というパソコン天国なところへいくのに、新しく来た情報の教師が「授業は教室で行います」だなんて、退屈でしかたがない。なによりはなしがおもしろくない、それに加え情報の授業は六限。昼食をとったあとにくる眠気に耐えなきゃいけない、学生ならだれもが経験する、あの時間帯の授業である。横の席を見てみれば、すでにこの世界に意識はなし。瞼にマジックペンで目を書いてあげたい。 窓際の席とはいいもので、教室全体が見渡せる。大学受験のひかえている人間がそんなことしている暇があるかっていうと、ないってのが答えではあるが、こういった退屈な授業のときぐらいはゆるされるだろう。 眠くなるような声で淡々と声を発し続ける年寄の教師。生徒が寝ていてもまったくひるむことなく、ゆっくりとしたペースで授業を進めている。この学校の情報のテストは百問の選択肢問題だから、板書した内容なんて正直どーでもいい。こんな授業やるくらいなら自習したほうが得。 机の隅っこに丸めて置いた腕時計を手に取って時間を確認。授業が終わるのにあと二十分。デートだったり読書の二十分は短いというのに、なんで授業に限ってこんなに時間が流れるのが遅いんだろうか。ああ退屈。 外の雨の音がうるさい。たしか彼女から別れのメールが来たときもこんな天気だったきがする。いや、きがするだなんて、はっきりを今でも覚えている。自分から「告白だったり別れたりとかっていう大事なことってのは、きちんと相手の目を見て言うもんだよね」なんて偉そうにいってたのに、いざ自分から別れるってときはメールで済ましやがって。ちゃんと俺は告白の時におまえの目をしっかりと見て告白したってのに。 まぁ、きっとそういうところも魅力の一つだったのかな。なんだかんだいって大好きだったし。 ああ、俺ってまだ忘れられてないんだな。 今現在高校三年生。夏山繭太。あだ名は「まゆたん」。つい最近までリア充大爆発状態、でした。っつっても一年前のはなしだから最近なんていうと違和感を持たれるかもしれないが、この一年と付き合っていた間の一年はあっという間だった。そりゃ別れてばっかりの頃はつらかったけど、本を読んだり、難解な音楽を聴いたりと、現実逃避行動を繰り返し今現在にいたる。 彼女にふられたのが原因なのか、別れたあとに「すごい人として変わったね」なんて評価をまわりからもらった。自分ではあまり意識なんてしてないのが当然で、どこがどう変わったのかなんてのもわからない。唯一自覚してるのは「恥」ることがなくなった。昔は人前に出るのが苦手だったけど、今はもうどうとも思わなかったり。最近のくくりでいえば草食系から脱出した、というところだろうか。そうなると今の自分はどこに分類されるのか。そんなのどうでもいいけど。というよりもこういった風に人間を種類にわけるのはどうなんだろうか。あまり好ましくない行為のようにもおもえるが さきほどの退屈な情報の授業が終わり、担当教師が教室を出たところで教室全体が不満に満ち溢れると同時に、隣の席のお眠りさんは目もを覚ました。 「あれ、わたし寝てた?」なんて眠そうな顔をして俺にはなしかけてきた。 「もちろん」 というと「やべー、やっちまったー」と反省の色が見当たらないような声を出しながらおでこを掻いてる。こうみえても隣の席の彼女、成績優秀のクラス委員長である。首にかかるくらいの短い髪に、隠れて寝るのには向いてないような前髪。 「あんな授業展開されたら、寝ないほうが難しい」といって次の授業の準備をする。えーっと次は古典。今日は古文単語の小テストだったけっか。合格しないとあの顔の大きいが迫ってくるからやばいな。 彼女は、 「優等生君いうねー。でも君のことだから寝てないんだろう?」 「もちろん」 眠らないように先ほどコーヒーを飲んだ。授業態度だけでもしっかりしないと嫌な予感しかしない。 「ねぇ、今日放課後空いてない?」 今日の授業は伊勢物語。 「……要件は?」 助動詞チェックは終了してて、今日は本文進むか。うん、大丈夫。予習オッケイ。 なんて俺が一人、授業準備を淡々と進めてつつ、適当に返事をして油断をしていたところ、俺の耳ものに風がふいた。彼女の息だ。 「放課後に一人で図書室にきて」 そう、ささやかれた。 突然のことに驚かざるおえない。彼女を見たら、口に人差し指をあてて、いたずらっぽい顔をして教室から出て行った。 雨が騒がしかった。
&bold(){ぼくは人を恨んだことがない。} &bold(){恨んだことがないとは言わない。対象が違うだけであって、ぼくだって恨んだことはある。だけどそれは人間ではない、ただの「モノ」でしかないものしか、恨んだことがないのだ。たとえどんなことをされても、人間を恨むということはない。たとえいじめの対象がぼくであっても。しかたがないことなのだから、ああだおうだいってもなんとかなる、というレベルではないはなしなのだ。} &bold(){ぼくは教室という檻の中で、終わりのない公開処刑を受け続けている。毎日毎日、自ら檻の中へと入っては心と精神をずたぼろにしてきた。ありきたりな「死ね」という言葉。消えろとか、うざいだとか、いっつもおんなじのありきたりな言葉たち。} &bold(){けどわかるんだ。その言葉が空っぽなこと。本当は愛情や応援、親しみに満ち溢れているってこと。人間の「団体」には必ず一人、生贄が必要なんだ。仲間はずれっていう名前の生贄が。} &bold(){ぼくはその生贄となった。みんながなりたくない生贄。だからみんな、ぼくにがんばってほしいと感謝してくれている。} &bold(){ぼくはただ運が悪かっただけなんだ。みんなとおんなじように生まれて育ってきたのに、こんな生き方をしているのに理由はない。だってみんなが「きもい」ってぼくのこというけど、ぼくの顔を鏡に映しても別に不細工じゃない。むしろ平均よりも上なぐらい。人の顔に平均なんてもの自体存在していないから、こういういいかたってのもどうかとおもうけどね。じぶんでいっておいてあれだけど。} &bold(){ぼくにできることは嫌われること。ぼくにだけある才能。みんなにはない、ぼくにしかないアイデンティティ。嫌われることはぼくのアイデンティティ。} &bold(){人間に死ぬ資格がないのとおなじように、「ぼく」というモノにも死ぬ資格がない。だってぼくがいなくなったら、ぼく以外の人が生贄になっちゃうんだもの。それに、そんなことをしたらぼくの存在価値・存在理由がなくなるから。}                                ' 雨が降っていた。 空は今にも落ちてきそうなほどの鉛色をしている。いや、実際にもう落ちているのかもしれない。だって、雨というものがすでにそれを表しているではないか。 ……自分でも驚くほど気持ち悪いことを思った。なんだよ空がふるって。きもいきもいきもい……。どこのサマセット・モームだよ。 つい最近までおもしろかった情報の授業が驚くほど退屈になった。というのも新学期が始まってしまったからだ。いつもは情報室というパソコン天国なところへいくのに、新しく来た情報の教師が「授業は教室で行います」だなんて、退屈でしかたがない。なによりはなしがおもしろくない、それに加え情報の授業は六限。昼食をとったあとにくる眠気に耐えなきゃいけない、学生ならだれもが経験する、あの時間帯の授業である。横の席を見てみれば、すでにこの世界に意識はなし。瞼にマジックペンで目を書いてあげたい。 窓際の席とはいいもので、教室全体が見渡せる。大学受験のひかえている人間がそんなことしている暇があるかっていうと、ないってのが答えではあるが、こういった退屈な授業のときぐらいはゆるされるだろう。つかそういうことをやってないと息がつまってしかたがない。休憩だって必要だ。 眠くなるような声で淡々と声を発し続ける年寄の教師。生徒が寝ていてもまったくひるむことなく、ゆっくりとしたペースで授業を進めている。この学校の情報のテストは百問の選択肢問題だから、板書した内容なんて正直どーでもいい。こんな授業やるくらいなら自習したほうが得。 机の隅っこに丸めて置いた腕時計を手に取って時間を確認。授業が終わるのにあと二十分。デートだったり読書の二十分は短いというのに、なんで授業に限ってこんなに時間が流れるのが遅いんだろうか。ああ退屈。 外の雨の音がうるさい。たしか彼女から別れのメールが来たときもこんな天気だったきがする。いや、きがするだなんて、はっきりを今でも覚えている。自分から「告白だったり別れたりとかっていう大事なことってのは、きちんと相手の目を見て言うもんだよね」なんて偉そうにいってたのに、いざ自分から別れるってときはメールで済ましやがって。ちゃんと俺は告白の時におまえの目をしっかりと見て告白したってのに。 まぁ、きっとそういうところも魅力の一つだったのかな。なんだかんだいって大好きだったし。 ああ、俺ってまだ忘れられてないんだな。 今現在高校三年生。夏山繭太。あだ名は「まゆたん」。つい最近までリア充大爆発状態、でした。っつっても一年前のはなしだから最近なんていうと違和感を持たれるかもしれないが、この一年と付き合っていた間の一年はあっという間だった。そりゃ別れてばっかりの頃はつらかったけど、本を読んだり、難解な音楽を聴いたりと、現実逃避行動を繰り返し今現在にいたる。 彼女にふられたのが原因なのか、別れたあとに「すごい人として変わったね」なんて評価をまわりからもらった。自分ではあまり意識なんてしてないのが当然で、どこがどう変わったのかなんてのもわからない。唯一自覚してるのは「恥」ることがなくなった。昔は人前に出るのが苦手だったけど、今はもうどうとも思わなかったり。最近のくくりでいえば草食系から脱出した、というところだろうか。そうなると今の自分はどこに分類されるのか。そんなのどうでもいいけど。というよりもこういった風に人間を種類にわけるのはどうなんだろうか。あまり好ましくない行為のようにもおもえるが さきほどの退屈な情報の授業が終わり、担当教師が教室を出たところで教室全体が不満に満ち溢れると同時に、隣の席のお眠りさんは目を覚ましていた。 「あれ、わたし寝てた?」なんて眠そうな顔をして俺にはなしかけてきた。 「もちろん」 というと「やべー、やっちまったー」と反省の色が見当たらないような声を出しながらおでこを掻いてる。こうみえても隣の席のこちらの彼女、成績優秀のクラス委員長である。首にかかるくらいの短い髪に、隠れて寝るのには向いてないような前髪が、おでこを掻くたびにゆれる。 「あんな授業展開されたら、寝ないほうが難しい」といって次の授業の準備をする。えーっと次は古典。今日は古文単語の小テストだったけっか。合格しないとあの顔の大きいが迫ってくるからやばいな。 彼女は、 「優等生君いうねー。でも君のことだから寝てないんだろう?」 「もちろん」 眠らないように先ほどコーヒーを飲んだ。授業態度だけでもしっかりしないと嫌な予感しかしない。 「ねぇ、今日放課後空いてない?」 今日の授業は伊勢物語。 「……要件は?」 助動詞チェックは終了してて、今日は本文進むか。うん、大丈夫。予習オッケイ。 なんて俺が一人、授業準備を淡々と進めてつつ、適当に返事をして油断をしていたところ、俺の耳ものに風がふいた。彼女の息だ。 「放課後に一人で図書室にきて」 そう、ささやかれた。 突然のことに驚かざるおえない。彼女を見たら、口に人差し指をあてて、いたずらっぽい顔をして教室から出て行った。 雨が騒がしかった。

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