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心が空っぽになった、とはこのことをいうのかもしれない。
心が空っぽになった。
感情という感情がすべて、涙と息といっしょに出て行ってしまった。
きっとそれらは帰ってくることはないんだろうな、そうおもって感情をまた一つ、口から感情を吐き出した。
こうやってここでため息をつくのも、今週で何回目だろうか。ここ最近はずっとここ、窓際で同じ風景を眺めてる。
N大学医学部から歩いて一分とかからないここ、旭ハウス5階のE室の窓から見える風景を、長い間ずっと眺めている。ずっと、といっても一日中窓際にへばりついて風景をみているわけではない。ちゃんと朝食、昼食、夕食はとっている。睡眠だってとっている。ただ、一日の中で一番この風景を眺めている時間が長い、それだけのはなしである。
ここ最近はずっと雨だ。梅雨に入ったからしかたがないはなしなのではあるが、こう何日も雨がふると飽きるものがある。湿った空気がうっとおしい。
いつもは目の前にあるグラウンドでテニスが行われているのだが、雨が続いてしまっているために、いつもの掛け声は聞こえない。ただ雨の音が鳴り響いているだけである。
雨の音は悲しみの音。
雨には二つの音がある。そう元彼がいっていたからである。
ひとつは落ちるときの空気を切る音。もうひとつはなにかにぶつかって散る音。そういっていた。
それに対して雨の音は三つだとおもう、というわたしの意見を聞いた彼は怪訝そうな顔をしていたのがおもしろかった。「なんで?」なんてありきたりな質問を聞いてくるもんだから、おもしろがって答えなかったけど。
今思えば答えてあげればよかった、と後悔をする。いや、後悔することなんてたくさんありすぎて、もうどうでもいい。
あの答えは「雨がつぶされる音だよ」と、彼に伝えることはなく、彼はこの世界から消えた。
ため息が、また自然と口からでた。本当に多い。
ため息をださずにはいられない。「はぁ」と力なく息をはくと、息といっしょに、感情と、それじゃないなにかがわたしの内側から飛び出て行く。
元彼が「ため息というものはつらいときにでるのだから、きっとあの幸せが逃げるというのが嘘で、本当はつらい成分がでているのだ」なんて理由つけてため息ばっかりついていた。そのくせわたしがため息をつけば「かわいくないからやめてくれ」なんて自分勝手なことをいっていた。
そういった自分勝手でかわいいところも、彼のよさだったのかもしれない。いや、あれがあったから彼は彼として成立していたのだ。あれは彼のよさであった。
ああ、だめだ。元彼のことをひとつおもいだすと、次から次へと思いでが、涙のようにあふれ出てくる。そんなことだれも望んでなんかないのに。
デートの日もほとんどが雨であった。
雨は嫌いだな。



模試の問題は解けそうにない。
わたしはノートを閉じ、雨がやむのを待つことにした。とりあえず音楽でも聞いておこう、というわけでアジカンの曲をシャッフルで聞くことにした。「迷子犬と雨のビート」が一曲目だった。
また雨かよ。
おもしろい彼氏ではあったともう。死んじゃったけど。自分で「はやく死ぬ人間ほどすごい人間なんだよ。フジファブリックの志村さんだって急になくなっちゃっただろ。そんなかんじだよ。だから今売れてるバンドのヴォーカルは死ぬね。サカナらへんがあやしい」なんてクソ失礼なことをいっていた。死ぬことについて軽々しく口にしやがったから、顔をグーで殴ったのは爽快だった。メガネがきれいに飛ぶこと飛ぶこと。あれは良い思い出。
今わたしが勉強をしている場所、県のコンサート会場になったり展覧会がおこなわれたりするこの万能施設、六階のカフェめいた場所で彼といっしょに勉強もよくした。テスト前なんかだと「おしえてくれー」とメールがきた。学校が違うのにテスト勉強をいっしょにやるってのは、なかなか無理がったけど、いっしょにやってあげた。
そのわりには勉強にはやる気をみせることはなく「帰りたい」をよく連呼していたものであった。「呼んでおいてその態度はなんだんだきさま」と喝をいれて勉強したっけか。テストの範囲が違うもんだからわたしがならっていない場所も教えなきゃいけないとかいう意味不明なことになったことがあるからか、それが予習となり、わたしの学力はみるみるあがっていた。それなのに彼の成績は変わることなく、平均をすこしだけ下回る点数をいつもとって帰ってきていた。彼のテストが終わると、わたしはいつも彼の電話をして「何点だった」と聞くたびに、彼は申し訳なさそうに点数をいっていた。なんだかその時だけ、母親になった気分であった。
そういった子供っぽいところとかもあったが、やっぱり変な人だったとおもう。とにかく変な人。机の上にモノがあるから勉強が進まないんだとか、人間は贅沢をしすぎているーだとか。独特、っていったほうが的を得た言葉かも。