赤い実がはじけた。
そう力を込める必要はなく、簡単にそれははじけた。
それは赤い中身をぶちまけて、かすかに美しい香りをはなつ。
きれいだ。
そう、おもった。

夕日がまぶしいぜ、と隣でだれかがいいそうなくらいにまできれいな夕日だった。映画館にて、映画鑑賞と砂糖水めいた液体を飲むという苦行を終えた帰りであった。
苦行、というのも映画の内容があまりにも陳腐であったからだ。
内容はこうだ。男の子の幼馴染の女の子が思春期特有死にたがり症候群にかかって、それを男の子がああちゃらこうちゃらして、死ぬのはよくないなんていったあとには愛の告白でハッピーエンド。
唐突にエンドロールが流れ始めたときには、ついつい手に持っていたメロンソーダを飲みきって、すぐに映画会場から出てしまった。そこで流れ始めた音楽というのが、これまた女子の共感を誘いそうなうすっぺらいありきたりな歌だった。
映画の内容はわかってはいた。わかってはいたが、ここまでひどいもんだとは思わなかった。財布の中の軽さと胃の中のたぷたぷ感だけがむなしい。
家に帰ってうさばらしでもしたい気分だ。
そうおもい、家へと足を動かした。

ドアをあければ「おかえりー」という声がすることに対して、違和感はもうない。さていつからその違和感とやらは消えたのやら。
「ただいまー」と言いながら靴を脱ぐ。んー、この香は今日はカレーですかな。とおもいながら明かりのついたキッチンへと向かう。
「今日はカレーうどんです」
後ろを降りむいたパジャマにエプロン装備の彼女をおもいっきりだきしめる。「うぎゃー」「うりゃー」「きゃー」
中身のない会話とはこのようなことをいうのだろうな、などとおもって彼女から離れる。いや、そもそも会話ですらないのか。
「映画どうだったー?」
「微妙でしたな」
もとはといえばのはなしをしよう。今日は二人でデートして、最後の最後に映画館へいこうぜっやほー、という予定だったわけなのだ、彼女が急に風邪をひいてしまったが故に一人で映画見てきました、というわけである。
「風邪大丈夫?」
「大丈夫。鼻水だらだらだぜ」
それを世間一般には大丈夫とは呼ばない。
「ささ寝て待ってなさい」と彼女をキッチンから押しやって、鍋に入ってるカレー液を見る。
「なにやってくれるのー。ありがとう」と寝室から鼻声が聞こえる。
「カレーうどんは服に飛ぶから嫌だとあれほどいったのに」
「そういうとおもって、うどんを短くしてみましたー」
「わー斬新だね」
「今日はそれをお米にみたてて食べてみたいとおもいます」
じゃあお米にすればよかったのでは?
「ちなみにうどんの賞味期限が危なかったからなのだー」
「りょーかーい」
無理やりうどんを使う必要とはあったのか。貧乏大学生の身であるがゆえに必要なのではあろう、だがこんな調理のされかたをするとなると、うどんもびっくりだ。うどんに感情があるとはおもえないが。
つか風邪なのに無理させちゃったな。後悔。
最終更新:2012年07月16日 20:45